質問主意書

第213回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一三第一二一号
  令和六年五月七日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員塩村あやか君提出画像生成AIの適正使用及びそれに伴う著作権制度の整備等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員塩村あやか君提出画像生成AIの適正使用及びそれに伴う著作権制度の整備等に関する質問に対する答弁書

一について

 文化審議会著作権分科会法制度小委員会が令和六年三月に取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(以下「小委員会の考え方」という。)において、「引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくこととする」とされていることを踏まえ、御指摘の「著作権侵害等に関する具体的な事例の蓄積のほか、AI技術の発展、諸外国における検討状況の進展等」についての情報の把握や収集に努めており、必要に応じて小委員会の考え方の見直し等の必要な検討を行うこととしているが、現時点において、御指摘の「今後の検討に関する具体的な見通し」を述べることは困難である。

二について

 お尋ねについては、個別具体的な事案に応じて裁判所において判断されるものであることから、政府として一概にお答えすることは困難である。なお、小委員会の考え方において、「特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみからなる作品群」が、「創作的表現が共通する作品群となっている場合」に、「意図的に、当該創作的表現の全部又は一部を生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合は、享受目的が併存すると考えられる」との考え方が示されており、このような場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第三十条の四の規定は適用されないと考えられる。

三について

 御指摘の「特定のクリエイターの著作物を無断で画像生成AIに直接的に取り込み、改変し、異なる著作物であるかのように公開すること」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねについては、個別具体的な事案に応じて裁判所において判断されるものであることから、政府として一概にお答えすることは困難である。なお、小委員会の考え方において、「生成AIに対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為は、生成AIによる情報解析に用いる目的の他、入力した著作物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法第三十条の四は適用されないと考えられる」との考え方が示されているところである。

四について

 御指摘の「享受目的の有無を厳格に切り分け」ること及び「著作権者による同意を要するオプトイン方式を採ること」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、一についてで述べたとおり、「著作権侵害等に関する具体的な事例の蓄積のほか、AI技術の発展、諸外国における検討状況の進展等」についての情報の把握や収集に努めており、必要に応じて小委員会の考え方の見直し等の必要な検討を行うこととしている。

五について

 御指摘の「画像生成AIにより既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得し得る生成物が出力される場合には、著作権者等の利益は明確に害される。その場合には、クリエイターへの適切な対価還元が必要」の意味するところが必ずしも明らかではないが、小委員会の考え方において、「著作権者等への対価還元という観点からは、法第三十条の四の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる」との考え方が示されているところである。なお、著作権侵害が認められる場合に、著作権を侵害した者に対し講じ得る措置については、小委員会の考え方において、「享受目的が併存する、又はただし書に該当する等の理由で法第三十条の四が適用されず、他の権利制限規定も適用されない場合、権利者からの許諾が得られない限り、AI学習のための複製は著作権侵害となる。この場合、AI学習のための複製を行った者が受け得る措置としては、損害賠償請求(民法第七百九条)、差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求(法第百十二条第一項)、侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(同条第二項))、刑事罰(法第百十九条)等が規定されている」及び「生成AIによる生成物についても、その生成・利用段階において、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、当該既存の著作物の著作権者は、生成物の生成行為や利用行為が、既存の著作物の著作権侵害に当たるとして、当該行為の差止請求や損害賠償請求を請求し得る」との考え方が示されているところである。

六から八までについて

 御指摘の「人権侵害や安全保障を含む幅広い観点からのリスク」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「画像生成AIによる生成物については、AI生成物である旨を明示することを法的に義務付ける」ことを含めた「画像生成AI」に関する法整備については、令和六年四月十八日の衆議院本会議において、岸田内閣総理大臣が「生成AIについては、規律と利用促進のどちらかに偏るのではなく、両者を一体的に進めることが重要であり、これまでも、日本が主導してきた広島AIプロセスなどを通じ議論を進め、昨年には初の国際的な枠組みである包括的政策枠組みに合意をいたしました。今後も、国際的な動向等を踏まえつつ、・・・国内法の整備が必要かどうかも含め、AI戦略会議等においてしっかりと議論を行ってまいります」と述べたとおりである。