質問主意書

第213回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一三第一一九号
  令和六年五月七日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員塩村あやか君提出フリーランスで芸能に従事するクリエイターの保護に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員塩村あやか君提出フリーランスで芸能に従事するクリエイターの保護に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 御指摘の「フリーランス保護新法の成立後においても」の趣旨が必ずしも明らかではなく、また、御指摘のような「ケース」については個別具体的には把握していないが、「フリーランス」の実態については、例えば、内閣官房、公正取引委員会、厚生労働省及び中小企業庁が令和四年八月に実施した「令和四年度フリーランス実態調査」(「本業又は副業において自身で事業等を営んでおり、同居の家族を除き従業員を雇用していない個人事業主」を対象とした調査)によれば、「発注者との取引の中で、次のようなあなたが納得できない行為を受けたことがありますか」との質問に対し、「あらかじめ定めた報酬を減額された」と回答した割合は八・五パーセント、「市価などと比較して著しく低い報酬を不当に定められた」と回答した割合は三・八パーセント、「発注者が指定する物(備品、原材料等)、サービス(有料セミナー、研修等)を強制的に購入・利用(受講)させられた」と回答した割合は一・四パーセントとなっており、また、公正取引委員会及び厚生労働省が令和五年九月に実施した「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査」(「特定の企業や団体、組織に専従しておらず、業務委託により自らの技能を提供することにより社会的に独立した事業者」で、「主な取引先が企業又は自営業主(従業員あり)である」及び「従業員を雇用していない」者を対象とした調査)によれば、「主な取引先」から「取引条件等が一方的に変更された、あらかじめ定めた報酬を減額された、市価などと比較して著しく低い報酬を不当に定められた等」の「納得できない行為を受けた経験の有無」を問う質問に対し、当該経験が「ある」と回答した割合は十八・四パーセントとなっているものと承知している。

三について

 お尋ねの「附帯決議では(中略)とされているが、政府は現時点において具体的にどのような対策を行っているのか」の趣旨が必ずしも明らかではないが、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者に該当するか否かの具体的な事案における判断は、契約の形態にかかわらず、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素も勘案して総合的に行われるものであるところ、労働基準監督署において、個別の事案に応じ、当該労働者に該当するか否かを判断し、これに該当する場合には、事業主に対して、労働基準関係法令の遵守について適切に指導等を行っているところである。

 御指摘の「フリーランス」については、当該労働者に該当するか否かの判断基準について、令和三年三月に内閣官房、公正取引委員会、厚生労働省及び中小企業庁において「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定し、「「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の策定について」(令和三年三月二十六日付け基発〇三二六第一二号・雇均発〇三二六第三号厚生労働省労働基準局長及び雇用環境・均等局長連名通知)により、都道府県労働局を通じて労働基準監督署に示すとともに、事業者に対して周知しているところであり、特に、当該労働者に該当するか否かの判断に困難が伴うことの多い貨物軽自動車運送事業の自動車運転者については、令和五年十二月に同省において「労働基準法上の労働者に該当すると判断された事例(貨物軽自動車運送事業の自動車運転者)」(令和五年十二月十五日付け基監発一二一五第一号厚生労働省労働基準局監督課長通知別添)を作成し、同通知により、都道府県労働局を通じて労働基準監督署に示すとともに、当該事業の事業者に対しても周知しているところである。

四について

 御指摘の「懸念」に関しては、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が令和六年三月十五日に取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(以下「小委員会の考え方」という。)において、「生成AIと著作権の関係に関する懸念の解消を求めるニーズに応えるため、・・・関係する当事者が、生成AIとの関係における著作物等の利用に関する法的リスクを自ら把握し、また、生成AIとの関係で著作権等の権利の実現を自ら図るうえで参照されるべきものとして」考え方が示され、当該考え方については、「著作権制度に関する基本的な考え方とともに、広く国民に対して周知し啓発を図ることが必要」とされており、現在文化庁において、これに基づく周知及び啓発に取り組んでいるところである。

 さらに、小委員会の考え方においては、「今後も、特に以下のような点を含め、引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくこととする。①AIの開発や利用によって生じた著作権侵害の事例・被疑事例 ②AI及び関連技術の発展状況 ③諸外国におけるAIと著作権に関する検討状況」、「上記のうち、AIの開発や利用によって生じた著作権侵害の事例・被疑事例については、このような個別事案の集積がされることにより、今後、これに基づいたより精緻な法解釈の検討が可能となるものであることから、文化庁において設けられる各種の相談窓口等を通じて、積極的な事案の集積に努めることが期待される」及び「今後、著作者人格権や著作隣接権とAIとの関係(俳優・声優等の声を含んだ実演・レコード等の利用とAIとの関係等を含む)において検討すべき点の有無やその内容に関する検討を含め、様々な技術の動向や、諸外国の著作権制度との調和、他の知的財産法制における議論の動向なども見据えつつ、議論を継続していくことが必要である」とされており、文化庁においては、これに基づき、当該議論にも資する「事案の集積」に努めているところであり、引き続き、必要な対応を行ってまいりたい。