国際関係

外国議会との交流

中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会の招待による
同国公式訪問参議院副議長一行報告書

                   団長 参議院副議長 角田 義一
                       参議院議員   尾辻 秀久
                       同         千葉 景子
                       同         白浜 一良
                    同行 記録部長    鈴木 朝雄
                       副議長秘書   櫻井 敏雄
                       文教科学委員会 
                       調査室調査員  有薗 裕章
                       警護官       林田 隆史

一、はじめに

 本議員団は、中華人民共和国全国人民代表大会(全人代)常務委員会の招待により同国を公式訪問したものである。

 本議員団の主な訪中目的は、一つには政治的に困難な状況にある両国関係を改善するため、あらゆる面で相互理解と意思疎通を一層促進できるよう議会として貢献すること、もう一つは参議院と全人代との間の恒常的議会間交流メカニズム構築を正式に提案することであった。

二、日程

本議員団は、十一月十四日に日本を出発し、十八日に帰国した。その日程は次のとおりである。

     十一月十四日(月) 東京発 北京着(二泊)
           戴秉国国務院外交部副部長・中国共産党中央外事弁公室主任と会談
           路甬祥全人代常務委員会副委員長と会談
           同副委員長主催歓迎晩餐会

    十五日(火) 北京発 天津着
           羅雲「中国保衛世界平和協会天津市分会」元副会長訪問
           周恩来・鄧頴超記念館訪問
           房鳳友天津市人民代表大会常務委員会主任・同市党委員会副書記と会談
           天津ミツミ電機有限公司訪問
           天津発 北京着
           「未来をひらく歴史」中国側執筆者と懇談
           日本留学同学会代表と懇談

    十六日(水) 中国人民抗日戦争記念館訪問(献花)
           呉邦国全人代常務委員会委員長と会談
           記者会見
           北京発 瀋陽着 (一泊)
           李克強遼寧省党委員会書記・遼寧省人民代表大会常務委員会主任と会談
           同書記・主任主催歓迎晩餐会

    十七日(木) 九・一八歴史博物館訪問(献花)
           瀋陽熱電廠(火力発電所)訪問
           李中魯瀋陽市人民代表大会常務委員会副主任と会談
           瀋陽発 大連着 (一泊)
           李永金大連市人民代表大会常務委員会主任と会談
           同主任主催歓迎晩餐会
           夏徳仁大連市長と会談

    一八日(金) 大連経済技術開発区管理委員会訪問
           東芝大連有限公司訪問
           大連発 東京着

三、中華人民共和国議会制度の概要

中華人民共和国の立法機関は、一院制の「全国人民代表大会」であり、同国憲法では、最高国家権力機関と規定されている。代表の任期は五年で解散はない。

 全人代代表は、全国の各省・自治区・直轄市人民代表大会、中国人民解放軍人民代表大会等三十五の選挙母体から間接選挙により選出される。代表数は選挙法により三千名を超えてはならないと規定されており、現在の第十期全人代代表数は二千九百八十五名である。

 全人代会議は、毎年一回全人代の常設機関である常務委員会によって十日から十五日間の会期で召集され、重要人事、憲法改正案、政府活動報告、予算、決算、基本法等の審議を行う。

 全人代常務委員会は、全人代閉会期間に憲法及び法律に定められた立法活動等を行う常設機関である。常務委員会構成員は全人代会議で選出され、現在の全人代常務委員会は呉邦国委員長(国会議長に相当)以下、副委員長十五名、委員百五十九名で構成されている。

四、要人との会談要旨

○戴秉国国務院外交部副部長・中国共産党中央外事弁公室主任との会談

 一行は、十一月十四日午後、最初に国務院外交部で戴秉国外交部副部長との会談に臨んだ。

 初めに同副部長は、一行の訪中を歓迎する旨述べ、中国の対日政策は、「歴史を鑑とし、未来に向かう」ことであり、平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展を目指して努力していること、中国にとって、中日友好は極めて重要な政策であり、新中国成立以来、歴代指導者は両国友好関係の発展を重視してきたこと等について述べた。また、近年、日本の対中政策に消極的な変化を感じているが、その一つとして指導者の靖国神社参拝が挙げられ、これは単に日本の国内問題ではなく、本質的に先の戦争にいかに対処するのか、第二次世界大戦に対する国際的な処理の結果にいかに対応するのかにかかわることである旨発言した。さらに、両国間のこうした状況を克服し、友好関係を一層発展する方策について角田副議長の考えをお聞きしたい旨同副部長は述べた。

 これに対し、角田副議長は、現在、日中の政治的な関係は困難な時期にあると認識しているが、これまでの日中友好関係は、国交回復以前から多くの人々の血のにじむような努力の上に成り立っていることを忘れてはならないこと、日中関係の基本理念は、日中共同声明、日中平和友好条約及び日中共同宣言の三つの文書に集約され、これらに尽きていること、我が国の歴代の総理大臣は、節目ごとに先の戦争に対する真摯な反省とおわびを表明してきたが、これは日本国民の気持ちでもあり、戦後六十年間世界平和のため貢献してきたこと、また、両国関係の打開策については、両国間の経済、文化等の様々なパイプを活かして友好の本流を大きくすることが、遠回りに見えても実は一番の近道なのだと思う旨を述べた。

 さらに、戴秉国副部長は、中国の発展を脅威ではなくチャンスと捉えて欲しい旨述べ、角田副議長は、小泉総理も中国の発展をチャンスである旨強調していると披露するとともに我が国の国民は中国と共に発展し、世界平和に貢献したいと願っている旨発言した。

○ 路甬祥全人代常務委員会副委員長との会談

 会談は、十一月十四日夕刻、人民大会堂において行われた。まず、角田副議長から、今次訪問の二つの目的について説明した。

 これに対し路甬祥副委員長は、参議院と全人代との恒常的な議会間交流システムの構築提案に対し、呉邦国委員長から正式に回答があるとしながらも、両国がより多くのチャンネルで接触することができ、より深く相互理解を進めることができる機会になるとし、賛意を表明した。また、両国間の対話と相互理解の増進に関連しては、中日両国関係が政治的に困難な局面にあることを憂慮するとともに小泉総理の靖国神社参拝に言及し、第二次大戦後、日本は平和憲法の下で平和発展の道を歩み、経済の発展と国民生活のレベル向上を達成したが、それに加え歴史に対する反省を言葉だけでなく行動で示せば、隣国などから政治的信頼も得られ、より良い協力発展の未来が拓かれるのではないかとの考えが示された。

 また、同副委員長は、経済関係にも触れ、友好の基礎は民間にあるとしつつ、両国貿易関係や観光業にも政治的な関係の影響が出かねないとの懸念を表明し、だからこそ両国人民各階層の協力を拡大し、その基礎を強固にして健全かつ包括的に両国関係を発展させる必要がある旨述べた。

 これに対し、角田副議長は、日中国交回復前に訪日し、天津市と群馬県の地方交流の道を拓いた羅雲「中国保衛世界平和協会天津市分会」元副会長と今回再会する予定であることに触れ、現在の両国関係が幾多の先賢の努力により成し遂げられた原点を忘れず、日中共同声明等の三文書で定められた路線を歩んでいけば日中関係の未来は明るいと考える旨の発言をした。また、歴代の日本の総理が節目ごとに声明を出し、先の日本の侵略戦争と植民地支配に対する深い反省とおわびを表明しているが、これは単に政府の見解であるだけではなく、国民の率直な心情を表したものであり、戦後六十年間平和憲法の下で世界平和を願い、日中関係を発展させるため、国民各層が懸命に努力してきたことを御理解いただきたい旨述べた。

○呉邦国全人代常務委員会委員長との会談

 会談は、十一月十六日午前、人民大会堂において行われた。角田副議長より、去る九月にニューヨークでの世界議長会議で呉邦国委員長と会談した扇千景参議院議長からのあいさつを伝えるとともに、今回の訪中招待に謝意を表して今次訪問の二つの目的に言及し、議会間交流について次のように述べた。既に全人代と衆議院との間で議会間交流の道が拓かれているが、我が国は二院制であり、今次訪問に先立ち参議院各会派の幹部とも相談し、扇議長の命を受けて、正式に参議院と貴全人代との議会間交流システムの構築を提案したい。

 これに対し、呉邦国委員長は、議会間交流について、今次副議長訪中に際し、扇議長を始め各会派の先生方が参議院と全人代との交流メカニズム構築のために努力されたことを積極的に評価し、我々は賛成する、また来年の双方の都合のよい時期に扇議長が訪中されることを歓迎する、若手議員の訪中も歓迎する旨の発言があった。

 また、同委員長は、両国関係について、以下の三点を強調したいとして次のように述べた。第一に、現在の中日関係は多くの先達などの努力により苦労して手に入れたものであり、良好な両国関係は確実に両国に利益をもたらし、世界と地域の安定に大きく貢献してきた。それは両国の相互利益に合致し、両国の人々の共通の願いに合致する。第二に、両国の関係が現時点では特殊で困難な時期にあるが、このような状態に至った原因は、小泉総理の靖国神社参拝である。靖国神社には十四人のA級戦犯がまつられており、そのうち十三人は中国でも大きな罪を犯した。だから日本の指導者の靖国神社参拝は中国人民の心を著しく傷つけた。歴史を振り返り、両国が子々孫々までの友好関係を保っていくことを希望しており、両国首脳の相互訪問が途絶えたままであることを望んでいない。第三に、我々は中日関係を最も重要な二国間関係の一つと位置付けており、両国の政治家は歴史的な大所高所に立って、両国の友好関係を促進することを希望する。

 また、同委員長は、中国の発展は世界や日本にとって脅威ではなくチャンスである、中国の発展は歴史の流れであるが、貧困撲滅など解決すべき問題を多く抱えており、その解決にはまず経済の発展が重要で、そのためには安定した国際環境が必要である、中国の発展は世界と切り離せないことを我々はよく承知しており、中日両国は、隣人パートナーとして協力し合い、ウィン・ウィンの関係で共に発展することを望む旨発言した。

 これに対し、角田副議長は、次のように述べた。早速、参議院と全人代との正式な定期交流メカニズムの構築に賛同いただき、心から感謝する。帰国後扇議長始め各会派に伝える。扇議長への改めての訪中招待についても感謝し、また、若手議員の訪中も実現できるよう努力したい。日中関係の基本は日中共同声明など三つの文書にすべて盛り込まれており、日本側も誠意をもって対応してきた。かつて周恩来総理は日中共同声明を発するに際し、先の戦争は日本の一部軍国主義者が起こしたものであり、中国人民は筆舌に尽くしがたい苦痛を被ったが、日本人民もまた犠牲者であるとの観点から、対日賠償放棄に関し十年の歳月をかけ中国国内の説得に当たられたことを、我々は忘れてはならない。本年五月に日中韓三か国の学者が歴史の副読本を共同で出版したが、今後、アジア各国の中で新たな歴史観を作っていくことが重要と考える。日本は新憲法の下で、戦後六十年間平和を強く願ってきた。厳しい時期であるが、共に努力を重ねれば日中関係は間違いなく平和の大道を歩んで行くと思う。また、六か国協議における中国の努力に敬意と謝意を表するとともに、この枠組みは将来的に北東アジアの安全保障システムへと発展する可能性を秘めており、その実現のために日中関係を相互に信頼できる関係にすることが双方の利益に合致する旨を述べた。

○ 房鳳友天津市人民代表大会常務委員会主任との会談

 十一月十五日、本議員団は、天津市を日帰りで訪問した。まず、羅雲「中国保衛世界平和協会天津市分会」元副会長を自宅に訪問した後、天津市迎賓館において房鳳友主任との会談に臨んだ。会談では同主任より、角田副議長とは路甬祥副委員長と共に本年四月の訪日時に会って以来、七か月ぶりの再会であること、本日の羅雲女史と角田副議長の感動的な再会を嬉しく思う旨の発言があった。また、現在、天津市「浜海地区」開発が深セン、上海に次ぐ国家プロジェクトとして取り組まれており、科学技術中心の開発区として建設するには、日系企業の投資が引き続き必要であり、今後とも協力を希望する旨が述べられた。

 角田副議長は、天津市経済開発区へ多くの日本企業が進出すること等で天津市が発展することは、両国の友好関係が深まることにも寄与するものであり、我々政治家はそのための諸環境を整えていく努力をしていくべきである旨を述べた。

○ 李克強遼寧省党委員会書記・遼寧省人民代表大会常務委員会主任との会談

 十一月十六日、本議員団は、遼寧省瀋陽市を訪問し、同日夕刻、友誼賓館内で会談した。同書記・主任は遼寧省の実情及び日本との関係について詳細に説明するとともに、遼寧省は計画経済と国営重工業の中心地であったため、南方の開発に比べて出遅れているが、中国は現在国家政策として東北振興政策を実施しており、遼寧省を新たな産業基地、経済成長地域の一つとしたいと考えていること、日本は遼寧省と距離的に近く、同じ東北アジア経済圏に位置し、昨年の遼寧省の貿易額の三分の一は日本との貿易が占めており、人的交流も盛んになっていること、遼寧省にとって日本は最も重要な協力パートナーである旨が述べられた。

 これに対し角田副議長から、今までも日本と遼寧省との経済関係は非常に深いものがあったが、今後より一層発展させ、共通の利益を拡大するためにも、日本と中国の友好関係を本当に信頼のおける協力関係にしていくことが、我々政治家の任務である旨述べ、遼寧省の発展を日本の桜前線に例え、北の桜は最も美しく咲く、と期待を述べた。

○ 李中魯瀋陽市人民代表大会常務委員会副主任との会談

 本議員団は、十一月十七日、瀋陽市のケンピンスキー・ホテルにて李中魯副主任と会談した。同副主任からは、瀋陽市の経済発展の実情について詳細な説明があり、同日午前中に視察した「瀋陽熱電廠」に関連して、同火力発電所は環境保全、空気浄化のため、日本からの先進技術をODAで供与していただいたプロジェクトであること、現在瀋陽市は環境保護強調都市に指定されているが、市全体の緑化、環境改善事業には日本の援助によるところが大変大きく、心から感謝している旨述べた。また、瀋陽市への進出企業数も日本が最大であり、今後とも日本との友好交流が更に発展することを希望する旨述べた。

 これに対し、角田副議長より、同日訪問した「九・一八歴史博物館」に触れ、不戦の誓いは我が国の国是である旨述べるとともに、瀋陽市の環境問題解決に我が国からのODAが貢献していることは喜ばしいことである旨述べた。

○李永金大連市人民代表大会常務委員会主任との会談

 本議員団は、十一月十七日午後、瀋陽市から瀋大高速道路を利用して大連市に到着した。夕刻、市内ホテルにて李永金主任との会談を行った。同主任からは大連市の現状について詳細な説明があり、特に日本との関係が深い大連市は中日友好のシンボル的存在であるとの発言もあった。また、国交正常化二十周年を記念して建設した中日合弁大連工業団地の運営も順調で日本の代表的な大企業の多くが投資をしており、市の年間貿易額の四0パーセントは日本との貿易が占めている。日本の七つの都市との間に週六十便の直行便が運航されていることなどが紹介された。角田副議長は、日本と遼寧省及び大連市との関係の一層の促進に心掛けたい旨を述べた。

○ 夏徳仁大連市長との会談

 本議員団は、十一月十七日夜、夏徳仁大連市長と会談した。初めに同市長から、日本は大連市にとって最大のパートナーであり、貿易のみならず人的交流も盛んであることなどの説明があった。これに対し、角田副議長から、日本の中小企業は、非常に優れた技術力を有しており、中小企業が安心して大連に投資できるよう、専門の相談窓口等を設けていただきたい旨述べたところ、大連市の「外商投資サービスセンター」で対応することを検討したい旨の発言があった。

五、その他の日程について

 一行は、天津市において「周恩来・鄧頴超記念館」を訪問した。また、北京において、今年展示内容を一新した「中国人民抗日戦争記念館」を、また瀋陽市において「九・一八歴史博物館」を訪問し、それぞれ献花した。

 本年五月、日中韓三か国で同時発売された「未来をひらく歴史」の中国側執筆者である中国社会科学院近代史研究所所長等と懇談した。

 また、現在大学の教授や研究者等として、中国国内の第一線で活躍している日本留学同学会代表者十名と懇談した。

 天津市と大連市では、日本の進出企業を視察した。

六、おわりに

本議員団は、中国全人代常務委員会の周到な準備と誠意ある接遇により、全人代及び政府の要人並びに地方政府等の要人と有意義な会談を行い、所期の目的を十分に達成することができた。特に、参議院と全人代との正式な定期交流メカニズム構築に積極的な同意が得られたことは大きな成果であった。

 最後に、呉邦国委員長、我々一行に同行していただいた王雲龍全人代常務委員会中日友好小組主席を始めとする多くの関係者の温かい御配慮、在中国日本大使館等在外公館関係者各位の御協力について、厚くお礼申し上げる。