国際関係

外国議会との交流

大韓民国国会の招待による同国公式訪問参議院副議長一行報告書

           団長 参議院副議長 角田 義一
               参議院議員   片山 虎之助
               同         輿石   東
               同         木庭 健太郎
           同行 警務部長    橋本  雅史
               副議長秘書   櫻井  敏雄
               参事        中内  康夫
               警護官      林田  隆史

一、はじめに

 本議員団は、大韓民国国会の招待により同国を公式訪問し、両国国会議員の交流を通じて両国の友好のきずなを深め、相互の理解と親善関係を一層緊密にする目的をもって派遣されたものである。

 日韓関係は、一昨年のサッカー・ワールドカップの共同開催及び「日韓国民交流年」記念行事を通じて、友好の機運が醸成され、最近の日本における韓国ブームなどともあいまって、かつてない良好な状況にあると言える。

 また、来年は日韓国交正常化四十周年という記念すべき年(「日韓友情年二〇〇五」)に当たり、日韓両国の交流が更に活発化しつつある中での今回の本議員団の訪問は、両国間の理解と友好を一層深める上でも、時宜にかなうものとなった。

二、本議員団の日程

本議員団は、九月八日に日本を出発し、十一日に帰国した。その日程は以下のとおりである。

   九月 八日(水) 東京発
              ソウル着
              金元基国会議長表敬訪問
              金徳圭国会副議長表敬訪問
              国立顕忠院訪問(献花)
              金徳圭国会副議長主催晩餐会

       九日(木) 李富榮ウリ党議長表敬訪問
              金徳龍ハンナラ党院内代表表敬訪問
              西大門刑務所歴史館及び安重根義士記念館視察
              李海賛国務総理表敬訪問
              角田副議長主催答礼晩餐会

       十日(金) 戦争記念館視察
              文喜相韓日議員連盟会長主催午餐会
              高野駐韓国大使主催晩餐会
  
      十一日(土) ソウル発
              東京着

三、大韓民国国会の概要

大韓民国国会は一院制を採用している。議員の任期は四年(解散なし)であり、定数二九九名のうち、二四三名は地方区(小選挙区)から、五六名は全国区(基本的に地方区の得票数に応じて各党に比例配分)から選出される。選挙権は二〇歳以上、被選挙権は二五歳以上である。

 本年四月に実施された国会議員総選挙では、大統領を支持する与党ウリ党が過半数を制し大躍進することとなった。総選挙後の国会の構成は、ウリ党一五一、ハンナラ党一二一、民主労働党一〇、民主党九、自民連四、その他四となっている。

四、大韓民国要人との会談要旨

○金元基国会議長表敬訪問

 まず、金元基国会議長から、角田副議長一行の訪問を心から歓迎する。韓国では本年四月の国会議員総選挙の結果、初当選議員が全議員の六割以上にのぼり、政治構造は著しく変化した。国会は生まれ変わり、名実ともに独立した立法府となった。そのような変化を踏まえ、今後は国会として議員外交に積極的に取り組むべきであると考えている。その際、最も重視すべき相手国は日本であり、韓日両国の議員が交流を深め、懸案について政治家同士の積極的な話合いが行われることを期待する旨発言があった。

 これに対し、角田副議長から、今般、大韓民国国会の招待を得て、貴国を公式訪問できたことは大変光栄である。日本の国会は二院制を採用しており、法律案を成立させるためには衆議院だけでなく参議院でも過半数の賛成を得る必要があるため、参議院は非常に重要な役割を果たしている。本議員団は、副議長である私とともに自由民主党、民主党、公明党の三党の参議院幹事長によって構成されており、今回の訪問を契機に参議院と大韓民国国会との交流がより深まることを期待する旨発言があった。

 次に、片山議員から、韓国は情報通信(IT)の先進国である。総務大臣在任中に韓国の大臣と会談し、日韓が協力してアジア全体のITのレベルアップに取り組んでいくことを申し合わせた。一番近い隣国である韓国とは様々な形で協力関係を構築していきたい。そのためには政府間の話合いだけでは不十分であり、議員間の緊密な交流、話合いが必要である旨発言があった。

 続いて、輿石議員から、韓国は「近くて遠い国」と言われているが、「近くて近い国」にしていきたい。日韓共通の動きとして、政治の世界も世代交代が進み、若い人々の時代になっている。気に懸かるのは、若い人々の間に国や家族を大事に思う風潮が薄れつつあることだ。教育問題に力を入れて、そうした点を改めていくことが両国ともに必要ではないかと考えている旨発言があった。

 続いて、木庭議員から、韓国では植民地時代の歴史の清算について国会で議論していると聞いているが、その状況を御説明いただきたい。また、対北朝鮮政策について、現在の韓国の立場をお教え願いたい旨質問があった。

 これに対し、金議長は、過去の歴史の清算は、これまで十分に行われてこなかった。植民地時代に日本に協力していた人たちが、独立後も国の中心で活動していたことについて、多くの国民はわだかまりを持っている。対外的な話ではなく、韓国国民のアイデンティティーの問題として議論されており、特定の個人を処罰することを目的にするものではない。また、対北朝鮮政策については、核問題を含め、対話を通じて平和的解決を望むということで国民的コンセンサスがある旨説明した。

○金徳圭国会副議長表敬訪問

 金徳圭国会副議長から、韓国には「遠い親族より近くの隣人」という言葉がある。遠い親族は余り会うこともないが、隣人であれば頻繁に交流し対話を重ねるので、相互の信頼関係が構築される。同様に韓日間も議員の相互交流を頻繁に行い、対話を重ね、信頼関係を一層構築すべきであると考える。韓国では本年四月の国会議員総選挙の結果、これまで韓日議員外交に尽力してきた多くの議員が政界から去った。新たな韓日議員連盟の構成員を中心に、昔のように活発な議員交流が行われるようになることを期待する旨発言があった。

 これに対し、角田副議長から、日韓の文化交流は非常に活発化してきているが、これを一過性のもので終わらせないようにしなければならない。また、交流を深めていく際に大事なことは、日韓の若者が共通の正しい歴史認識を持つことである。韓国では、日本による朝鮮半島統治時代の歴史の清算が問題になっていると承知しているが、日本にとっても重い問題として受け止める必要があると考えている旨発言があった。

 これを受けて、金副議長は、韓国から日本を見ると「近くても遠い国」というのが実感であった。歴史の不幸でつらい問題が日韓の足かせになっている。過去を清算し、新たな韓日関係構築へつなげていきたい旨述べた。

 次に、片山議員から、日韓・韓日議員連盟間の交流をはじめとして、様々な形で議員交流を相互に活発化させたい。その際には、余り政党の枠にとらわれず、超党派で議員団を派遣することが重要であると考える。また、韓国の地方都市と友好姉妹関係を結んでいる日本の自治体は多い。そうした関係も含め、様々なレベルで交流を深めていくことが日韓両国のために非常によいことである旨の発言があった。

 続いて、輿石議員から、映画やドラマ、ワールドカップ等のスポーツ交流を通じて、日韓両国の若者の間では互いの国に対する親近感が増している。政治家同士もそうした関係を構築すべきであり、そのためにも議員交流を活発化させていくべきである旨の発言があった。

 続いて、木庭議員から、日韓の議員交流において、サッカーの試合や囲碁大会等も行われている。このような様々な形を通して友好関係が結ばれることを期待している旨の発言があった。

 最後に、輿石議員から、金副議長におかれては、新しい議員が多いので国会運営の面で多大な御苦労があるのではないかとの質問があった。

 これに対し、金副議長から、韓国国会の歴史は長くはないが、紆余曲折を経てきた。韓国成立以来、長らく軍事独裁を経験し、民主化闘争を経て今に至った。この民主化の過程で活躍してきた人々が今の国会には多いが、彼らも意見がまちまちで、十分な意見集約が難しい。そのために様々な問題が生じるが、韓国の民主主義の成熟と新たな国会運営の定着のためには経験せざるを得ないものと理解している旨発言があった。

○李富榮ウリ党議長表敬訪問

 冒頭、李富榮ウリ党議長から、角田副議長一行の今回の訪問が、二十一世紀の新しい韓日関係を強化させていく契機になることを期待する旨発言があり、それを受けて、角田副議長から、二十一世紀の新しい日韓関係を構築するためには、両国国民間で正しい歴史認識が共有される必要がある。来年は日韓国交正常化四十周年、貴国が独立して六十周年という記念すべき年である。その年の春に日韓歴史共同研究の結果が発表されると聞いており、その成果を期待している旨発言があった。

 これに対し、李議長から、日本が名実ともに、アジアのみならず世界における主要国家としての役割を果たしていることに敬意を表する。日本に対しては世界的レベルに見合った精神的役割を求めたい。ドイツの徹底した戦争犯罪に対する反省や賠償努力と日本の対応を比較すると、ヨーロッパにおけるドイツとアジアにおける日本には違いがある。十九世紀末から二十世紀にかけて朝鮮半島は日本の植民地となり、侵略され、その結果、南北に分かれることとなった。我が民族には、現在もなお日本に対する不信感や被害者意識が根強く存在する。現在の朝鮮半島は、南北和解ムードの中にあり、南北が交流や協力を進める中、日本にはそれを後押しする形での支援をお願いしたい。そのことによって、我々の日本に対する不信感や被害者意識が薄まり、新しい韓日関係を築く上での土台にもなる旨発言があった。

 これに対し、角田副議長から、御指摘いただいた点は、個人的にも常日ごろから問題意識を持っていた点である。本日の午後、西大門刑務所歴史館を訪問することとなっているが、戦前、私の父は弁護士として、西大門刑務所にいた独立運動家を弁護するため訪韓したこともあった。父はその後、治安維持法違反で捕まり、刑務所にも入った。私はそのような父の下で教育を受けたので、貴国の歴史は深刻に受け止めてきた。ドイツのワイツゼッカー元大統領の「歴史に目を瞑る者は未来に盲目となる」との言葉が思い出される。また、盧武絃大統領は昨年六月に訪日された際、国会で演説を行い、「過去をあるがままに直視し、率直な自己反省によって相手を理解した上で、両国の未来に向けて新たな協力の道を示すべきである」旨述べられた。私も同じ思いである。北東アジアの平和を確立するために日本の役割は重要である。北朝鮮の核開発について、日本は唯一の被爆国として決して許すことのできない問題である。日韓両国が様々な困難を共に克服し、六者会合を成功させ、将来の安全保障の枠組みへと発展させることが重要である旨発言があった。

 続いて輿石議員から、日本は、安全かつ安心できる国を目指し、戦争をしないことを理念としている。それは今後も変わらないので信頼いただきたい旨、木庭議員から、日韓両国の国民がお互いを知ろうとする気持ちを持つことが重要である。各界各層の人々が実際に現地を訪れ、歴史にも触れるような形で交流を行うことが大事である旨、それぞれ発言があった。

○金徳龍ハンナラ党院内代表表敬訪問

 金徳龍ハンナラ党院内代表から、日中間にも様々な懸案があると思うが、現在、韓国と中国の間でも歴史問題による葛藤が続いている。しかし、北東アジアの共同繁栄のためには韓日中三国が協力していくことが必要である。現在、それぞれ二国間では議員間の交流組織があるが、今後は、韓日中三国の議員間で北東アジアにおける共同繁栄を実現させるための戦略について協議するための機構を作るべきである旨発言があり、また、他の韓国側出席議員からは、現在、韓国が直面している北朝鮮核問題や朝鮮半島統一問題、経済問題を解決するためには、まず理念を同じくする日本との緊密な関係を強化することが必要である。角田副議長におかれては、韓日議員交流のため更なる支援をお願いしたい旨発言があった。

 これを受けて、角田副議長から、北東アジアにおける日韓のパートナーシップを未来に向かったものにしていくことが必要であるが、その前提として両国国民の歴史認識を共有することが重要である。現在、韓国では植民地時代の歴史の清算の問題が議論されていると承知しているが、日本が過去に植民地支配したことの歴史的重みが、現在もなお韓国社会に影響を与えていると思うと心が痛む。日本国内には、この問題が日韓関係に微妙な影響を与えないか心配する見方もあるが、我々は、それを乗り越え、未来志向の日韓関係を構築する責任がある。そのような観点から、今後も議員間の交流を進めていきたく、参議院としても努力していきたい旨発言があった。

 その他、日韓の出席議員間で、「失われた十年」を克服した日本経済の現状、清国と大韓帝国の領土問題対処のため一九〇九年に日清間で結ばれた間島協約の有効性、大衆文化研究等を中心とした日韓の議員交流活性化の必要性、日本における政権交代の可能性等について意見交換が行われた。

○李海賛国務総理表敬訪問

 まず、李海賛国務総理から、来年は韓日国交正常化四十周年、終戦六十周年を迎える重要な年であり、韓日関係の未来志向的な発展のために準備していかなければならない旨発言があった。

 これに対し、角田副議長から、最近、日本では韓国文化が人気を得ているが、これは革命的とも言える現象である。現在は日韓間を一日一万人が往来する時代であり、日韓は一日経済圏とも言われている。日韓の良好な関係は先人たちの努力の結果であり、このような状況を二十一世紀において真の関係に発展させるためにも歴史的な共通認識を基礎としなければならない旨発言があった。

 これを受けて、李国務総理は、「前世不忘 後生之師」という言葉がある。過去は忘れてはならないが、過去が未来に向かっての足かせになってもいけない。今後、北東アジアの平和のために韓日中で未来志向的な関係を発展させるべきである旨述べた。

 また、李国務総理から、在日韓国人の地方参政権付与の問題について言及があり、角田副議長は、本件は日韓の歴史的関係や在日韓国人の立場を日本国民がよく理解した上で、国民の合意を得て解決すべき問題である旨述べた。

 最後に、北朝鮮問題について、角田副議長から、北東アジアの平和のために北朝鮮の核問題について六者会合を通じて必ず解決しなければならない。さらに日本には拉致問題があり、これも必ず解決しなければならない旨の発言があり、これに対し、李国務総理は、六者会合を成功に導き、日朝国交正常化が早期に実現することを期待する。北朝鮮が核を廃棄し、開放政策を採ることで経済を発展させることがアジアの平和につながる旨述べた。

五、その他の日程について

 八日には金徳圭国会副議長主催晩餐会、九日には角田副議長主催答礼晩餐会、十日には文喜相韓日議員連盟会長主催午餐会がそれぞれ催され、本議員団と韓国側国会議員との間で率直かつ真摯な意見交換が行われた。

 また、九日には国立墓地である顕忠院を訪問し、殉国烈士及び護国英霊を奉る顕忠塔に献花を行ったほか、十日には西大門刑務所歴史館及び安重根義士記念館、十一日には戦争博物館をそれぞれ視察した。

六、おわりに

本議員団は、大韓民国国会の周到な準備と誠意ある接伴により、有意義に要人との会談等を行うことができた。今回の訪問が日韓の友好関係を一層促進することにつながるものと確信する。末尾ながら、金元基国会議長、金徳圭国会副議長をはじめとする大韓民国国会の温かい御配慮に深く感謝申し上げる。

 また、高野大使をはじめとする在大韓民国日本国大使館の行き届いたサポートについても、ここに特記し、厚くお礼申し上げる。