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国際会議

○WTOに関する議員会議・香港会合派遣報告

 「WTOに関する議員会議・香港会合」は、2005年12月12日(月)及び15日(木)の両日、中華人民共和国香港特別行政区のハーバープラザ香港ホテルの会議室「グランド・ボールルーム」において開催された。香港会合は、IPU(列国議会同盟)及び欧州議会の共催で行われ、69か国、3つの国際議会から約400名(うち議員約300名)が参加した。
 本院からは、若林正俊議員(団長)及び主濱了議員の両名が参議院代表団として派遣された。
 なお、衆議院から、谷津義男議員(団長)、松岡利勝議員、佐藤茂樹議員及び三日月大造議員の4名が衆議院代表団として派遣された。このため、両議員団は、香港では日本国会代表団(谷津団長、松岡団長代行、若林副団長)として活動した。
 「WTOに関する議員会議」は、WTO(世界貿易機関)の透明性を強化すること、及び、国民に選出された議会に対し、政府機関にその説明責任を果たさせることを目的とし、年に1回及びWTO閣僚会議に併せ開催されることになっている。
 現在進行中のWTOのドーハ開発ラウンドに対応しながら、3回の議員会議が開催された。この一連の流れの中、香港会合は、第6回WTO閣僚会議(2005五年12月13日から18日)に並行して開催されたものである。
 この香港会合の目的は、(1)これまでの議員会議のフォローアップ(2003年2月のジュネーブ会合、同年9月のカンクン会合及び翌年11月のブリュッセル会合)、(2)多角的貿易交渉における議会の貢献についての検討、(3)他国議員との意見交換、交渉過程に関与している政府高官との交流及び市民社会の代表との対話の場の提供にあった。
 香港会合の成果として、「我々議員は、閣僚に対し、2006年末までにドーハ開発ラウンドを締結するとのコミットメントを強く確認するよう促す」ことなどを内容とする宣言が採択された。  香港会合の詳細は「WTOに関する議員会議・香港会合概要」に譲ることとし、本報告では、日本国会代表団による活動の概要を報告する。


1.香港会合の日程
○12月12日(月)
 開会式      9時38分~10時30分
 ワーキング・セッション 
          10時30分~18時14分
 (1)議事日程及びその他の組織的事項の採択
 (2)実質的テーマに関する討議
     ミレニアム開発目標の達成のための貿易の貢献
    (a)ドーハ開発アジェンダの達成
    (b)貿易政策と他の公共政策の課題との首尾一貫性
 (3)閣僚及びWTO上級職員との対話
 (4)対話型パネル討議:国際貿易分野における議会による監視の優れた事例
○12月15日(木)
 運営委員会   9時40分~12時42分
 ワーキング・セッション
         14時42分~17時40分
 (1)WTO閣僚会議における交渉に関する最新情報
 (2)国際組織、市民社会、経済界及びメディア代表との貿易及び開発に関するハイレベル対話
 (3)宣言の採択
 ワーキング・セッションの閉会
2.運営委員会の概要
(1)概要
 12月15日の運営委員会(第11回)(松岡議員及び主濱議員が出席)では、宣言案の作成、香港会合以降の日程協議等が行われた。
(2)宣言案の作成
 成果文書の「宣言」の採択は、議会の意見を第6回WTO閣僚会議の宣言に反映させることを目的としたもので、香港会合の中心議題であった。
まず、香港会合で採択する宣言のたたき台は、2005年8月、IPU事務局から運営委員会メンバーに示された。
 日本は、従来の宣言文と比較して「途上国の開発問題」に特化し過ぎているため、全体のバランスをとる必要があると判断して、(i)先進国と途上国、輸入国と輸出国など様々な国の視点のバランスを十分考慮すること、(ii)第6回WTO閣僚会議までの交渉の進捗状況を十分加味すること、(iii)農業の非貿易的関心事項への取組及びWTOの活動に対する議会人の貢献を明示するパラグラフを新設することなどを内容とする修正案を提出した。
 その後、同年11月、IPU事務局から、運営委員会メンバー提出の修正案を元に改訂された宣言草案が加盟各国に配付された。
この改訂版では、前述の日本提案の(iii)に関するパラグラフが新設されるなど改善が見られた。
 しかし、日本国会代表団は、更に改善が必要と考えられる次の3点について、その文言を宣言案に盛り込むため、修正案を提出することとした。
 (a)農業の市場アクセス改善及び輸出補助金の段階的撤廃は、最貧国等の開発に資する観点から行われるべきであること。
 (b)重要品目に対する特別な取扱いが認められるべきであること。
 (c)違法伐採の防止に十分な取組を行うべきであること。
 宣言草案に対し、日本も含め81の修正案が提出された。第11回運営委員会では、修正案すべてに検討を加えた上で、宣言案を確定した。
 なお、この宣言案には、日本の修正提案がいずれも取り入れられたほか、ドーハ開発ラウンドの成功には綿花問題の解決が不可欠とするパラグラフを新設するなどの修正が行われた。
(3)香港会合以降の日程
 議員会議に関する将来プロセスの検討と次回の議員会議の準備のために、運営委員会を2回開催すること(前者は2006年4月から6月初め、後者は8月から9月初めの間を予定)、及び、ドーハ開発ラウンドの決着に併せ、同年11月下旬に議員会議を開催することが合意された。
3.開会式及びワーキング・セッションの概要
(1)開会式 
 ピエル・フェルディナンド・カジーニIPU議長、エンリケ・バロン・クレスポ欧州議会国際貿易委員長、パスカル・ラミーWTO事務局長及び烏云其木格(ウユンチムグ)中国全人代常務委員会副委員長があいさつを行った。
 この中で、世界経済の調和ある発展のために多国間貿易体制の維持が不可欠であること、WTOの透明性と民主主義の強化のために議会人が大きな役割と責任を有していることなどが指摘された。
(2)実質的テーマ
 2つの実質的テーマごとに、事前に指名された3人の報告委員が報告を行った後、各国代表が発言し、報告者がコメントを行う形で進められた。
(a)ドーハ開発アジェンダの達成
 本セッションは、ミレニアム開発目標を達成するため、特に後発開発途上国(LDC)に焦点を当て、貿易を通じて貧しい人々のニーズに取り組むための最善の方法について討議を行うことを目的としたものであり、ウルグアイ、インド及び英連邦議会連盟(CPA)から報告が行われた。
 日本国会代表団から谷津団長が、先進国は、途上国、特にLDCに配慮し、これらの国々の市場アクセス拡大に努力することが必要であり、一方、途上国は自助努力が必要であると述べた上で、香港閣僚会議に先立ち小泉総理が発表した「開発イニシアティブ」は、LDC向けの市場アクセスを原則無税無枠化することや開発支援策として今後3年間に合計100億ドルの資金協力などを行うものであることを紹介しつつ、途上国の開発に真剣に取り組む日本の姿勢を強調する発言を行った。
(b)貿易政策と他の公共政策の課題との首尾一貫性
 本セッションは、多国間貿易政策と他の公共政策の課題(完全雇用、持続的な開発、財政、環境等)との一貫性、整合性をどのように見出すのかについて討議を行うことを目的としたものであり、日本、欧州議会及びイランから報告が行われた。
日本からは、松岡議員が代表団を代表して、「農産物貿易と環境施策との関連」を主題として、
 (イ)環境保全との関係から農産物貿易には一定の規律が必要であること、
 (ロ)農業の多面的機能を含めた非貿易的関心事項が農産物貿易ルールに適切に位置付けられる必要があること、
 (ハ)違法伐採問題に取り組むべきこと、
 (ニ)新たな農産物貿易ルールは、「途上国の開発」に資するものとする必要があること、
を主張する報告を行った。
 また、代表団から主濱議員が、国内の農業を維持し、国民の食料確保を図ることは国家の責務であるとの観点から、WTO農業交渉では、(i)上限関税の設定は行わないこと、(ii)重要品目の数は、WTO加盟各国の実情を十分勘案した適切な数とすることの2点が認められるべきであることを強く主張し、さらに、食料は国家存続に最も必要なものの1つであるとともに、国民の生活・文化と緊密な関係があることについて理解を求めた。
(3)閣僚及びWTO上級職員との対話
 本セッションは、パネリストのジョン・C・ツァン第6回WTO閣僚会議議長・香港特別行政区工商科学技術局長官、ペーター・マンデルソン欧州委員会通商担当委員、易小準(イシャオチォン)中国商務部副部長、アミーナ・チャワヒル・モハメド駐スイス・ケニア大使・WTO一般理事会議長から、ドーハ開発ラウンドの現状と将来展望について報告があった後、対話形式で進められた。
代表団から佐藤議員が、日本が既存の市場アクセスの拡大や貿易関連技術の供与等のLDC支援策と、新たに表明した「開発イニシアティブ」について説明するとともに、パネリストに対し、「開発イニシアティブ」に関する見解を求めた。
これに対し、マンデルソン委員から、全LDC諸国の原産である全農産品について無税無枠を供与することは容易でないが、実現に向けた努力の継続と、この取決めの継続によりLDCに安心感を与えることが大事であるとの回答があった。
(4)対話型パネル討議
 本セッションは、パネリストのポーキン・パラクン・タイ下院議長、ジャン・ビゼー・フランス上院議員、フェルナンド・マルガイン・ベルランガ・メキシコ上院議員、シャキール・アーメド・ユーサフ・アブドゥル・ラザック・モハメド・モーリシャス議員及びグラント・ミッチェル・カナダ上院議員から、国際貿易分野における議会による監視の優れた事例について報告があった後、対話形式で進められた。
 代表団から三日月議員が、日本には国際貿易分野における政府の活動を監視する手段として、(i)法律案・条約の審議、(ii)一般質疑等を通じた国政調査、(ⅲ)決議・請願があることと、その具体的な実施例を紹介し、今後とも、議会による政府監視能力の向上に努めていくことを表明した。
(5)ハイレベル対話
 本セッションは、パネリストのスパチャイ・パニチャパックUNCTAD事務局長、ジェレミー・ホッブス・オックスファム・インターナショナル事務局長、エスペランサ・ドゥラン国際貿易情報センター長及びダンカン・キャンベルILO政策統合部長から、各分野における貿易及び開発に関する現状について報告があった後、対話形式で進められた。
(6)宣言の採択
 宣言案は、12月15日のワーキング・セッションの最後に、ベネディクト・アンソニー・マーティンズ報告委員(南アフリカ)の趣旨説明と質疑の後、運営委員会提案のとおり採択された(別添参照)。
 宣言のパラグラフ9(農業の非貿易的関心事項への取組)に関して、カンクン会合やブリュッセル会合では大きな争点となったが、香港会合では特に反対意見はなかった。これは、日本国会代表団が主張し続けてきた「多様な農業の共存」や「農業の多面的機能」の理念について、議員会議の中で、合意形成が図れてきたものと評価できる。
 なお、採択された宣言は、翌16日、ラミーWTO事務局長に提出された。
4.二国間会談
 日本国会代表団は、香港会合の出席に加え、WTO交渉に関し、各国の議員団等と会談を行った。
(1)スイス議員団(12月13日)
 日本側からは、(i)香港閣僚会議ではG10として結束していきたいこと、(ii)FTAも含め日本とスイスの関係強化が重要であること、(iii)中国が将来食料輸入国に転じること等を見越し、日本は高品質の農産品を少し高い値段で販売する手法で輸出促進に取り組んでいること、等の発言を行った。
 スイス側からは、(i)G10の農業団体は、食料安全保障の確保、上限関税を認めないことなどを確認する宣言文を作成中であること、(ii)中国が将来輸入国に転じた場合における食料需給の議論の欠如を懸念していること、(iii)EU加盟国との価格競争にさらされており、高い農産物生産コストの引下げが課題であること、(ⅳ)スイスのチーズは、日本の農産品と同様、プレミアム食品として、価格は高いが人気を得ていること、等の発言があった。
(2)韓国議員団(12月14日、15日)
 日本側からは、(i)WTO、FTAを含めた両国の関係を深めていきたいこと、(ii)国は国民に対し食料供給の義務を有するが、日本の食料自給率に危機感を抱いていること、等の発言を行った。
 韓国側からは、(i)隣国の日韓でFTAがないのは不自然であり、早期の締結を望んでいること、(ii)韓国は食料の7割を輸入に依存しており、交渉の結果、更なる開放を懸念していること、(iii)韓国米の国際競争力強化のため、日本の高級ブランド米の育成手法を学びたいこと、等の発言があった。
(3)欧州議員団(12月14日)
 日本側からは、(i)「開発イニシアティブ」の表明など、香港閣僚会議において開発分野で一定の成果を上げることを望んでいること、(ii)交渉が一部の食料輸出国のみに利する結果とならないよう、EUと連携していきたいこと、等の発言を行った。
 欧州側からは、(i)日本の「開発イニシアティブ」提案を歓迎し、開発分野で日本と協力していきたいこと、(ii)EUは「武器以外はすべて」というLDC支援対策を実施していること、(iii)EUは香港閣僚会議では農業分野で新提案の予定はなく、輸出補助金の撤廃時期も他国が手の内を見せない状況では話し合えないこと、等の発言があった。
(4)フランス議員団(12月17日)
 日本側からは、(i)農業交渉では、各国の事情に配慮した柔軟性が重要であること、(ii)日本・G10は上限関税の設定を受け入れられないこと、(iii)重要品目の数について、日本・G10は10%から15%、一方EUは8%を主張しているが、食料輸入国の主張を理解願いたいこと、等の発言を行った。
 フランス側からは、(i)世界の農業がアメリカ化しつつあるが、日本の米やフランスの乳製品等の重要品目について過度の貿易自由化は問題であること、(ii)輸出補助金の議論の前進には輸出信用や食料援助等のフルパラレリズムが条件であること、(ⅲ)農業の前進には非農産品市場アクセスやサービスの前進が必要であること、等の発言があった。
(5)その他
 その他、ルドルフ欧州農業組織委員会(COPA)会長(12月16日)、グローサー前WTO農業交渉議長(同日)、ロドリゲス・ブラジル農務大臣(12月17日)等と会談を行った。
 本報告を終えるに当たり、カジーニIPU議長を始め香港会合を主催された関係者の御努力と御配慮に感謝の意を表するとともに、香港会合の出席及び政治経済事情調査に当たり御協力いただいた外務省、農林水産省及び経済産業省の方々の御尽力に改めて御礼を申し上げるものである。

【別添】

宣言

(2005年12月15日、コンセンサス*で採択)

1. 我々、第6回WTO閣僚会議に合わせて開催されたWTOに関する議員会議・香港会合に参集した議員は、政府間交渉の緩慢な進展に懸念をもって留意し、閣僚に対し、2006年末までにドーハ開発ラウンドを締結するとのコミットメントを強く確認するよう促す。

2. ドーハ開発アジェンダは我々全員にとって重要である。開放的で自由公正な貿易の増大は、貧困を削減し、先進国及び開発途上国双方に恩恵をもたらす。したがって、我々は、各国の元首、政府首班、閣僚、貿易交渉担当者に対しビジョンと指導力を求める我々の立場を再度強調し、多角的貿易体制に対する十分な支援を約束する。

3. 我々は、G10、G20、G33及びG90に加え綿花輸出国の開発途上国で構成されるG4などのグループを通じた開発途上国の関与増大及び効果的な参加を歓迎する。

4. 我々は、すべての重要分野、特に開発途上国、中でも後発開発途上国が最も関心を寄せている主要な開発問題の取扱いについて十分な進展が見られないことをとりわけ憂慮し、各閣僚に対し香港でこの点において実質的な進展がなされるよう促す。我々はWTO加盟国に対し、文字通り数億人の生命と生計が、多角的交渉がバランスの取れた公正かつ公平な結果を達成できるかどうかにかかっていることを片時も忘れないよう要請する。交渉の行き詰まりが長引けば、その実施が既に危うくなっているミレニアム開発目標の達成はさらに難しくなる。

5. 我々は、2006年末までに交渉を妥結しようとするコミットメントが存在し続けていることに勇気付けられ、ドーハ閣僚宣言で見込まれているように、開発途上国が優先的関心を寄せている分野においてその後速やかにその結果を実行すべきであるとの要求を支持する。開発に関わる諸問題は、ドーハラウンドの核心である。我々は、国家的緊急事態に際して医薬品を輸入する権利について先週合意に達したことを歓迎する。最近加盟した開発途上国を含む開発途上国向けの特別かつ異なる待遇に関する合意と並んで、後発開発途上国向け「開発ボックス」の創設、その輸出品への無税・無枠のアクセスを交渉の現段階において結果に盛り込むべきである。これらの措置がなければ、ドーハで合意された開発アジェンダも貿易自由化のメリットを公平に広めることはできない。

6. 農業に関して、我々は、最貧国等の開発に資する観点からも、市場アクセスの実質的な改善及びあらゆる形態の農業輸出補助金の、同時にすべての国による、WTO加盟国により2006年末までに合意された期日までの、段階的撤廃を見なければならない。先進国による農業への貿易歪曲的な国内支持の削減及び世界最貧国へのその市場開放も同様に重要である。基準(未だ合意されてはいない)に従って「センシティブ品目」や「特別品目」への特別な取扱いを認めるとともに、後発開発途上国の産品に由来する無税・無枠の市場アクセスが半永久的に供与されるべきである。我々は、長年存在している、かかる産品に対する特恵マージンの侵食の問題に取り組む適切なモダリティを確立する必要があると認識する。農産品の市場アクセスに関する協議では地理的表示の問題を考慮すべきである。

7. ドーハ開発アジェンダの成功にとって、我々は、綿花問題の解決で進展が見られることが不可欠であると考える。綿花問題は多くの開発途上国にとり生命線である。

8. 我々は、農業は先進国、開発途上国及び後発開発途上国、輸出国、輸入国のいずれにとっても重要な問題であり、貿易交渉の成功裡の妥結のための鍵であると認識する。農業は単に経済の一分野ではなく、数億人の人々の生存そのものの基盤でもある。ウルグアイ・ラウンドの「改革」へのコミットメントを達成する取組が進展するにつれ、このセクターがますますセンシティブな問題として浮上してきていることに照らし、我々は、開発途上国の多く、とりわけアフリカにおいて生産者、輸出業者及び消費者が特に輸出品として関心を寄せている様々な重要な一次産品に関して公正な結果を強く求めている点にWTO加盟国の注意を喚起する。調整コストに直面する可能性のある国々に対して、援助を保証しなければならない。

9. 継続中の交渉の各段階において、貧困削減、食料安全保障及び持続可能な生活についての開発途上国の関心事項が最優先されなければならない。各国の多様な農業が共存しうるよう、農業の非貿易的関心事項―食料安全保障、国土保全、農村地域の再生、農村の雇用などや、持続可能な林業・違法伐採・漁業の問題―にも満足のいく方法で取り組まなければならない。

10. ドーハラウンドについてバランスの取れた結果を達成するためには、非農産品市場アクセス交渉において実質的な進展がなされなければならない。温帯農産品の高関税引下げに向けて一部の競争力のある開発途上国により模索されているコミットメントには、加工熱帯産品に関するタリフ・ピークの引下げを含めるべきである。我々は、サービス、農業と非農産品の市場アクセスをめぐるコミットメントはバランスのとれたものでなければならないと確信し、同時に、長年存在している、かかる産品に対する特恵マージンの侵食の問題に取り組む適切なモダリティを確立する必要があると認識する。

11. 我々は、ドーハ宣言第9パラグラフによって認められている大規模な市場アクセスのコミットメントを実施した最近WTOに加盟した国々の特別な事情を認める。したがって、こうした事情は、ドーハラウンド交渉の結果における特定の柔軟規定を通じ効果的に措置されるべきである。

12. 我々は、新たに開発途上国同士の二国間、地域内、地域間の貿易(南南貿易)強化に取り組むよう勧告する。かかる取組は、大陸間の開かれた経済の統合及び協力の範囲を拡大し、もって厚生全般の改善をもたらす。しかし、永続的な進展は拘束力のあるコミットメントを通じてのみ達成できるのであるから、かかる貿易協定についてはWTOの多角的ルールの全般的枠組みに沿ったものにすることが重要である。

13. サービス貿易の分野では、明らかに全WTO加盟国は取組を大幅に強化する必要がある。我々は可能な限り透明性と柔軟性を与えるよう働きかけるとともに、サービス貿易は開発途上国への知識移転の重要な方法であるに違いないと信じる。同時に、公共サービスの自由化、特に国民の健康、教育、基礎的ニーズに関するサービスなどの分野においては慎重にアプローチすべきである。我々は、改善された資本集約的部門及び技術集約的部門のニーズに応え、また開発途上国の発展を促進するためには、自然人の移動(「GATSモード4」)に関するオファーを改善し実質化することが開発途上国にとって非常に重要であることに留意する。

14. 貿易円滑化の分野では、今や明らかに、貿易の効率性を改善すれば先進国、開発途上国とも恩恵を受けるとの認識が浸透してきている。したがって、具体的かつ定量可能なプログラムに達するため、この分野での交渉を加速化する一層の努力が必要である。

15. 我々は、伝統的知識及び遺伝子資源の保護や農産品の特殊性など、知的所有権の貿易関連の側面(TRIPS)に関するコミットメントを、効果的に、分別を持って、かつ早急に適用することが不可欠であると強調するとともに、閣僚に対しTRIPS協定と生物多様性条約との関係など、TRIPS関係の論点に関する作業を遂行するよう要求する。

16. 開発途上国及び後発開発途上国のニーズを考慮しながら、アンチダンピング、補助金及び相殺措置の分野における、より強固な多角的ルールに関する具体的な成果に到達すべきである。TRIPS分野における進展並びに偽造及び著作権侵害に対する行動が必要である。これらの目標の実施は、多角的貿易体制を強化する。

17. 我々は環境保護の重要性を強調し、多国間環境協定(MEAs)の下で約束されている責務と首尾一貫したWTOのルール作りと目的を求めるとともに、WTOとMEA事務局との間で定期的な情報交換を行うよう要求する。我々は環境製品やサービスに関する現在継続中の交渉の重要性を認識する。WTO加盟国の環境法制については非関税貿易障壁と見なすべきではない。自然災害の発生件数が世界的に増加しているだけに、我々は許容される補助金に関するWTO交渉が環境に有害な補助金に焦点を絞り込むよう求める。

18. 適切かつ効果的な技術援助は、開発途上国、特に後発開発途上国が相互的な権利義務をめぐる交渉における途上国側の所期目標を達成する上で有益である。技術及びノウハウの利用を強化、調整すれば、開発途上国と後発開発途上国のキャパシティ・ビルディング(能力開発)のニーズに大いに寄与し得る。ただし、技術援助及びキャパシティ・ビルディング措置を供与するというドーハ閣僚宣言におけるコミットメントについても、他のコミットメントと平等に取り扱うとともに、交渉において重要な役割を果たさなければならない。

19. 我々は、国際的な経済主体間、特にWTO、世界銀行及び国際通貨基金との間の制度的取決め及び政策について整合性を強化する必要があると改めて強調されていることに留意する。開発途上国、特に後発開発途上国の多くが直面している調整コストがさらに膨れ上がらないよう、この種の体系的、制度的な欠陥に然るべき注意を払わなければならない。我々は、経済的発展度や世界経済への統合度の異なる様々な国々が、国際的な資本移動、貿易、ルール作りへの参加型関与を強めることを支持する。我々は、世界的流行病と闘うためのファンドに資金提供するために、航空券課税の創設を含め、開発途上国に対する追加的な財政支援を供与するための様々なイニシアティブを認める。

20. 我々は、WTOを真の国際機関とする重要性を強調する。それゆえ我々は、現在加盟交渉中である国々への支持を表明するとともに、現在行われているすべての加盟交渉に早期に結論が出るよう要求する。

21. 我々は、一部のWTO加盟国が貿易自由化の自国経済への影響評価を行っていることに留意する。我々は、WTOに対し、貿易政策に関する検討の不可欠な一部として定期的に、かかる評価、特に、異なるかつ一層有利な待遇が、開発途上国における貧困根絶、雇用、社会的権利の享受及び環境保護の見通しに与える影響に関する評価を行うよう求める。

22. 貿易自由化の拡大により生じる機会及び課題については、現在行われている多角的交渉と並行して、GATT/WTO体制の適切な改革を通じても取り組むべきである。WTOの制度的強化には、開放性、透明性、アカウンタビリティを強化することや、全WTO加盟国が意思決定プロセスに十分に関与できるようにすることなどが含まれる。どのような組織改革が可能かについての論争的争いにより、多角的交渉がなかなか進展しない根本的原因から注意が逸れたり、そもそもドーハ開発アジェンダと一貫性を持つべきである二国間や地域間の貿易協定を求める声が強まったりすることがあってはならない。

23. 我々は、世界貿易、貿易自由化、WTOの活動及びミレニアム開発目標の実現に向けたドーハ開発アジェンダの貢献について国民へより良い情報が開示されるよう要請する。

24. 我々は、既存の委員会に貿易問題を割り当て、必要であれば、国会、地域的及び世界的な議会機構内にWTOに関する特別委員会を設置することを主張する。これらの委員会は、多角的貿易での議会及び議会人のキャパシティ・ビルディングを含む、多角的貿易における進展を監視し、議会による監督を行うことができる。

25. 我々は、貿易政策が執行機関の専管事項であった時代は終わったという我々の立場を再度強調する。我々は議員として、WTOの活動を監督し、貿易自由化プロセスにおける公正さを促進する上で従来よりはるかに大きな役割を果たしていく決意である。さらに我々は、開発のための多角的貿易体制の潜在的可能性について国民の意識を強める最良の立場に置かれている。この点を念頭に置き、我々は、第6回WTO閣僚会議に参加する政府に対して、その成果文書に以下のパラグラフを追加するよう要求する。「WTOの透明性は、議会をその活動に密接に関与させることによって強化されるべきである。」
我々は、第6回WTO閣僚会議が、この宣言を考慮にいれるよう求める。


* 宣言の採択後、オーストラリア議員団は一部、特に地理的表示の部分に関し、留保を表明した。