平成18年度重要事項調査議員団(第二班)報告書:参議院
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国際関係

重要事項調査

重要事項調査議員団(第二班)報告書

       団長 参議院議員   岩城 光英
           同         大野つや子
           同         朝日 俊弘
           同         柳田  稔
           同         福本 潤一
           同         仁比 聡平
       同行 農林水産委員会調査室首席調査員   畠山  肇
           参議院参事     村田 和彦

 本調査団は、去る七月二十八日から八月七日まで、カナダ及びアメリカ合衆国における農業、教育、環境に関する実情調査並びに政治経済事情調査等のため、両国を訪れた。
 まず調査団はカナダに入国し、バンクーバー市内のブリティッシュ・コロンビア大学を訪問、カナダの大学教育、海外留学生の受入れ態勢等の説明を受けた。また同市内で、専門家からカナダの森林・林業政策、木材貿易の説明を受けたほか、ウィスラー近郊の森林地帯で森林伐採、造林、環境保全の視察を、さらにウィスラー市において市長より二〇一〇年に開催予定の冬季オリンピックに向けた同市の環境保全対策、観光政策などの説明を受けた。
 次にトロントを訪れ、近郊のゲルフ市においてカーギルカナダ食肉センターを訪問し、カナダにおけるBSE対策や牛肉輸出態勢などの説明を、またバーリントン市のカナダ内水面センターでは、オンタリオ湖など五大湖の水質の監視、水質保全のための諸研究、実験施設の見学と説明を受けた。
 次にアメリカに入国し、シカゴ市の北、ミルウォーキー市公立学校事務局にて、初・中等教育における教育バウチャー制度等に関する説明を受けた。その後、シカゴ近郊の大豆・とうもろこし農場を訪問し、大豆、とうもろこしの生産、需要動向、遺伝子組換作物への対応、バイオエタノール用とうもろこしの生産、需要動向等について説明を受けた。また、近隣のバイオエタノール製造工場を訪問し、バイオエタノールの生産、需要動向、連邦・州政府による税制、財政支援策などの説明を受けた。また、シカゴ市内においてシカゴ商品取引所(CBOT)を訪問し、取引所を取り巻く状況等の説明を受けた後、シカゴ近郊の肉牛の肥育農場にて飼料、トレーサビリティなどのBSE対策や日本向け牛肉輸出プログラムに関する説明を受けた。
 次に、ワシントンDCにて連邦農務省を訪問し、担当者と日米の農産物貿易、日本向け牛肉輸出プログラムへの対応などについて意見交換した。
 次に、ニューヨーク市にてNPO法人ジャパンソサエティーの関係者と日米の経済、文化交流の現状、日本食文化の浸透状況などについて意見交換をしたほか、市内のリカーショップLandmark Wine & Sakeにて日本酒の販売状況などの説明を受けた。
 以下、訪問順に概要を報告する。

○ブリティッシュ・コロンビア大学

我が国では、近年、国立大学の独立行政法人化や大学院大学への組織変更等に見られるように、高等教育に関する制度改革が行われているが、このような高等教育の充実・強化は世界的な傾向となっている。そこで海外の高等教育の実情を調査するため、新渡戸稲造の庭園などを有し、日本とゆかりの深いブリティッシュ・コロンビア大学を訪問し、同大学のアジア研究学部のクラフター博士、マックガバリー博士らから同大学の概要、教育システムの特徴、留学、特に邦人留学生の受入れ状況などについて説明を受けたほか、質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(大学側)本学は、一九一五年に創立され、バンクーバー以外にもオカナガンなどに合計四つのキャンパスを持っており、すべてを含めると五万人の人間が関係している。運営予算は十二・五億カナダドル、研究予算は四億カナダドルである。留学生だけでなく聴講生も含めると、海外からも五千人が本学で学んでいる。日本からも二百八十三人の留学生が在籍している。本学の特徴はアジアとのつながりが深く、その研究、交流が非常に盛んなことだ。特に、日本の研究や交流については、新渡戸稲造博士が一九三三年にここで講演して以来、非常に活発になった。日本の大学との共同研究については、ここ十年ほど立命館大学、東京大学、上智大学などと連携・交流が盛んになっている。また、本学は、カナダ政府と連携してカナダの研究を行っている海外の大学への研究費補助などの支援活動も行っており、日本でも日本研究を行う本学のような海外研究機関、研究者への支援などがなされれば有意義だと思う。
(調査団)貴学は州立大学ということだが、カナダ国政府、州政府とどのような関係にあるか。
(大学側)カナダには八十九大学あるが、すべては州、国から運営について指図を受けず独立した運営をしており、その意味では本学は州立大学とはいえない。しかし、財政面では運営費の数パーセントは州からの支援が含まれているため、州の監督を受けている。国からは特定の研究費補助や大学への寄付金についての免税措置がある。州や国に対しては、共同研究のための出張旅費や発表のための会場費用などが大学の基本財産から支出できるよう規制緩和を望む。
(調査団)日本では最近、産学連携が進んでいるが、カナダではそのような動きはあるのか。
(大学側)カナダでもそうした活動は盛んで、本学でも企業との連携を進めるオフィスがある。しかし、こうした企業からの支援を受けている教授や研究者に対してはアルバイトだと批判する声もある。
(調査団)留学生に対する貴学の支援にはどのようなものがあるか。
(大学側)博士課程の学生には生活費を含め援助するというのが本学の特徴であり、海外からの博士課程への留学生はこの支援を利用できる。
 この後、アジア研究部のノスコー博士から、総勢七百人の学生を有する北米最大の日本語学科について説明を受けたほか、関連教育施設を見学した。

○ブリティッシュ・コロンビア州の森林・林業視察

 ブリティッシュ・コロンビア州(以下、「BC州」という。)は、バンクーバーを中心に水産業や観光で有名な地域であるが、林業も盛んでアメリカをはじめ、我が国にも大量の木材を輸出している。一方で、森林の九〇%以上を保有する州政府は、伐採跡地の植林など森林資源の保全に努めているほか、景観の保全や森林リクレーション施設整備にも力を入れている。そこで、同州におけるこうした森林の多面的、持続的利用の実情を調査することとした。
 まず、バンクーバー市内にて、カナダの森林・林業に詳しい国際貿易コンサルタントのパウルス氏からカナダ、BC州の森林、林業の実態について説明を受けたほか、質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(パウルス)カナダの木材輸出は、最大の世界シェアを誇っており、世界全体の輸出の一五%を占めている。最近は丸太でなくツー・バイ・フォーなどの加工材輸出が九六%を占めている。輸出先はアメリカ、日本がほとんどである。
 BC州の森林・林業政策は、二〇〇一年、経済重視のキャンベル自由党政権に変わってから、大幅に変化した。特に大きな変化は、従来は伐採の計画量の達成を義務付けていた州有林の伐採権に関する規制を緩和し、伐採の生産調整を企業が自由に行えるようにしたことである。これにより、生産過剰による木材価格の下落を防ぎ、過剰輸出がもたらしていたアメリカとの貿易摩擦も改善することとなった。
 最近の木材生産の特徴は、米マツと呼ばれるダグラスファーが少なくなり、沿岸部では米ツガ、ヘムロック、内陸部ではロッジポールパインという赤松に似た木材が主要な伐採樹種となっていることと、次第に内陸に伐採の中心地が移ってきていることである。
(調査団)ニュージーランドのラジアータパインなどと、カナダ材とで輸出の競合が生じているか。
(パウルス)ラジアータパインは成長が早く資源も豊富だが、カナダ材は八十年以上の硬くて稠密な木材が中心であり競合しないので、カナダ材の需要がそれに影響されることはない。
(調査団)アメリカとの木材貿易摩擦は解決したのか。
(パウルス)アメリカとは北米自由貿易協定NAFTAがあるにもかかわらず、カナダからの輸入木材に高関税をかけていることが問題となっている。しかし、非関税枠の設定などで妥協が成立するのではないかと期待されており、木材貿易摩擦が両国間に深刻な問題を引き起こすことは無い。
 そのほか、ウィスラー近郊において、元カナダ自然保護省の職員で、現在、地元の森林・林業インストラクターを務めているマクローリン氏の案内により周辺地の森林、伐採地の視察を行った。

○ウィスラービレッジ(市街)

 次にウィスラー市庁舎を訪問し、市長のメラメッド氏より市政概要、オリンピックに向けた市の取組、観光開発と環境保全の在り方等について説明を受けるとともに質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(メラメッド)ウィスラーは新しい町で、初めて道路が建設されたのは一九四五年のことである。それまではフィッシングなどのためのロッジがある程度であった。一九六五年にスキー場開発計画が持ち上がったが、実際にリゾート宿泊施設が建設されたのは一九八〇年であり、一番古い宿泊施設でもわずか築二十六年である。中心部のウィスラービレッジは、都市廃棄物などのゴミの埋立地に建設されている。オリンピック開催に当たっては、新たなホテル建設はしないなど自然環境や社会環境に悪影響を与えないことを計画目標とした。そのため、例えば近郊にオリンピック村の建設を予定しているが、オリンピック後は若い地元住民用の住宅にする予定である。
(調査団)街はゴミの埋立地の上に立っているとのことだが、増え続けるゴミをどう処理しているのか。
(メラメッド)リゾート地として生じる膨大なゴミの多くをアメリカのゴミ処理業者に委託してアメリカに送っているが、ゴミのリサイクルシステムの開発などに力を入れ、現在の四〇%から将来は一〇〇%リサイクルを目指している。
(調査団)近郊の森林はBC州の所有林だが、市に移管するよう要求していると聞いている。これは本当か。
(メラメッド)現在州有林となっている周辺の森林を有効活用するため、市に譲渡してもらえるよう、もともとの所有権を主張する原住民やリゾート関連企業、一般市民等とも連携してBC州と交渉を行っている。

○カナダ内水面センター

 近年、都市化や工業化に伴う海洋汚染、湖沼汚染などの水質汚染が深刻な問題となってきている。
アメリカとカナダにまたがる五大湖の水質汚染も深刻である。五大湖周辺は、鉄鉱石、石炭など天然資源が豊富な地域であったため、古くから工業化が進み汚染が深刻化してきた。近年は、工業化に加え、周辺人口の増加による生活廃水や農薬の流出などによる汚染が新たな課題となってきている。
 そこで、一九七〇年代にアメリカとカナダで五大湖の水質保全協定が締結され、化学的、物理的、生物的状況の回復とその維持を図るため、双方が施設整備等に努めることが合意された。同センターは、この協定を受け一九六七年に設立された施設で、カナダ政府環境省が所管しており、トロントの南西ハミルトン市内のオンタリオ湖に面した五ヘクタールの敷地に実験棟、管理棟など六つの施設を擁し、水質モニタリング、下水浄化システムの開発などを行っている。
 視察においては、これら各種の監視、分析、システム開発の現場を見学したほか、現場担当者から説明を受けた。それによれば、これら監視、分析、システム開発等で得られた知見や成果は、国、周辺自治体の水質保全行政、企業の新商品開発のために大いに活用されているとのことであった。

○カーギルカナダ食肉センター

 BSE牛が一九八六年にイギリスで初めて確認されて以来、世界各地で確認が相次ぎ、我が国では二〇〇一年九月に、また北米地域ではカナダで二〇〇三年五月、アメリカで二〇〇三年十二月に確認されている。そこで我が国は、カナダ、アメリカ産牛肉については、BSE牛の確認以来、輸入を直ちに停止してきたところであるが、その後、約二年経過した昨年十二月、カナダ、アメリカ政府の策定した日本向け牛肉輸出プログラムに基づき、特定危険部位を除去するなど適切な処理システムを講じていると政府から認定された施設が出荷した二〇ヶ月齢以下の牛肉については輸出を認めることとなった。
 このうちアメリカ産牛肉については、今年一月に同プログラムで禁止されている背骨が混入していることが判明したため、再度輸入が停止された(去る七月二十八日、再開。)が、カナダ産牛肉については、今までのところ同プログラムに違反した事実は確認されていないため、順調に輸入が続いている。
 調査団は、同プログラムの遵守状況を調査するため、トロント市近郊のゲルフ市にてカーギルカナダ食肉センターを訪問し、同センター長のアラン氏等から説明を受けたほか質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(アラン)本センターは一日に千八百頭の牛を処理しており、そのうち一〇%が日本向けである。牛肉のほか豚肉、鶏肉も扱っている。牛は、半径二百キロ以内のケベック、オンタリオ両州から受け入れたものである。本センターの日本向けの輸出は昨年十二月十二日の再開決定同日に認められた。
 安全性には万全を期しており、日本向け牛肉について、輸出プログラムの遵守、すなわち、二〇ヶ月齢以下の牛に限ること、特定危険部位は完全に除去することを明記したマニュアルを策定し、それに沿ってきちんと処理することを徹底している。具体的には、処理作業として皮剥ぎ前に二〇ヶ月以内の日本向けの牛であることを示すJマークを付け、作業上の注意を促したり、特定危険部位の除去については、背骨の除去の際、飛び散らないよう特別の除去装置を使うなどしており、これらの作業記録を保存している。月齢検査の一環として牛の歯の検査などのトレーニングも行っている。
 また、輸出プログラム以外にも、BSE対策として脳神経症状を示す牛の受入れ拒否やそうした症状の牛を発見した場合の法律上の報告義務も果たしている。
(調査団)日本向けと他の国向けとが区別できるようラインや工程を分離しているのか。
(アラン)特にラインや工程の区別はしていない。しかし、本センターは製品仕分けシステム(ソーティング)を厳格に行っており、このシステムを使って日本向け牛肉製品を製造している。その意味で当社の品質管理は高いレベルであるから心配無い。なお、枝肉にした後は、格付において日本向けのマークをつけているし、保管も「日本向け」として区別して保管している。
(調査団)アメリカ産牛肉の輸出再開条件として、検査官の抜き打ち検査と日本側検査官の同行が認められたが、カナダでも日本側とこのような合意がなされたとしても同処理場では差し障りはないか。
(アラン)差し障りはない。現在でも、常時十八人の検査官が我が社の複数処理場に常駐して、日本、アメリカ、香港向けの牛肉をチェックしているほか、国の委託を受けた地区担当の獣医師による安全性や処理状況の抜き打ち視察を受けており、そのような合意がなされても対応に問題は無い。
(調査団)アメリカが日本向け輸出を再開するとカナダにはどのような影響があるか。
(アラン)アメリカの再開によって影響が多少はあると思うが、既にカナダ牛を好む日本の顧客もいるので心配していない。
なお、同センターで当初予定していた解体現場の見学は作業時間の関係等の理由で行うことはできなかった。

○ミルウォーキー市教育委員会

 近年、アメリカ、ニュージーランドなど諸外国において、教育バウチャー制度の導入事例が見られるようになってきている。我が国でも、政府の「骨太の方針二〇〇五」で検討事項とされ、現在規制改革・民間開放推進会議でその在り方が議論されている。また、文部科学省でも、二〇〇五年の秋に「教育バウチャーに関する研究会」が立ち上げられ議論されている。
 しかし、教育バウチャーの具体的な内容や目的については様々な考えや仕組みがあり、諸外国の事例も一様ではない。
 そこで、調査団は、海外での様々な事例の中でも特に有名なアメリカのミルウォーキーで導入された低所得者向けのバウチャー制度を調査するため、ミルウォーキー市公立学校事務局を訪れ、教育長のアンドレコポウロス氏、事務局員のジャクソン氏等から同制度の運用状況や効果、少人数学級の実施状況等について説明を受けたほか質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(事務局側)一九九〇年にウィスコンシン州が提唱したバウチャー制度を受けて、ミルウォーキーでは「ペアレント・チョイス・プログラム」と呼んでいるプログラムを実施している。当時、ミルウォーキーではパブリックスクールが低所得者層に必要とされる十分な教育水準を満たしていなかったため、比較的水準の高いプライベートスクールも選択できるようにとの趣旨から導入されたものである。
 こうした経緯もあってパブリックスクールも幼稚園教育課程を含む八年制を採用するところが増えたり、教師や教育カリキュラムの質を向上させたりするなどの改善がなされた。しかし、パブリックスクールの地域独占が残っていることもありバウチャーが十分機能しているとはまだ言えない。また、少人数学級の推進という点では、教師と生徒のつながりを強化するため二十五人制を敷いているが、一学級の人数より教師と生徒の関係強化をどうするかの方が重要である。
(調査団)ミルウォーキーでは低所得者がどの程度の割合を占めているのか。
(事務局側)連邦政府による昼食券給付条件家庭収入によると一・二万ドル以下を低所得者と呼んでいるが、これを基準とすればミルウォーキーでは七五%が対象である。
(調査団)パブリックスクールの地域独占により教育バウチャーが十分効果を上げていないというのは具体的にどういう意味か。
(事務局側)質の良い学校に行かせたくても自宅から遠い、スクールバスが無くて危ないなどの理由から、依然近くの学校に行かざるを得ないという現実的な課題が解決されていないという意味だ。

○シュレーダー農場(大豆、とうもろこし農場)

 アメリカのとうもろこしの生産量は世界シェアの四〇%、大豆は三八%を占めるが、近年、バイオエタノールに対する需要の急増、除草剤や防虫剤に耐性のある遺伝子組替え(GMO)大豆やとうもろこしの作付けの急増など、生産事情が大きく変化している。
 そこで、シカゴ南西部にある中堅の大豆、とうもろこし生産農家、シュレーダー農場を訪問し、代表のシュレーダー氏の案内により場内を見学したほか、同氏からの説明聴取、質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(シュレーダー)同農場ではGMOと非GMOのとうもろこし、大豆を作付け、生産しているが、GMOと非GMOが混ざらないよう、それを証明するIPハンドリングというシステムのマニュアルに基づいて生産、収穫、保管している。非GMO作物の生産は年々低下しているが、それは非GMO作物が収穫量も低い上、市場が日本向けなどに限られているため、売れ残ることがあって市場が不安定だからだ。非GMO作物については、商社などバイヤーによる事前買付け契約や契約栽培を望む。
(調査団)WTO交渉で中心課題となっているアメリカの農業補助金は必要か、今の水準で十分か。
(シュレーダー)売上げは一エーカー当たり三百ドルだが経営コストは二百ドルかかり、差引き手取りは百ドルにしかならない。連邦政府の農業補助金は一エーカー当たり二十ドルほどだが、これがないと経営が成り立たない。
(調査団)バイオエタノール用とうもろこしの作付けのメリットは何か。
(シュレーダー)買い取ってくれるエタノール製造会社が事前に今年度産の買取価格を提示してくれるので安心して作付けできる点と、最近の原油価格の上昇に伴い、その買取価格も十分コストをカバーできる点である。

○アベンティン社バイオエタノール製造工場

 前記のように、近年、石油価格の上昇や地球温暖化問題への関心の高まりに伴い、輸送燃料用バイオエタノールが注目されている。欧米やブラジルではバイオエタノールを混合させたガソリンを燃料とする自動車が急増しており、我が国も沖縄などで燃料用エタノール生産の試験事業が始まっている。このような中、アメリカは圧倒的な生産量を誇るとうもろこしを原料とするバイオエタノールのガソリンへの混合が進められており、現在E10と呼ばれる混合比率のガソリンが主に普及している。
 そこで、シカゴ郊外のアベンティン社エタノール工場を訪問し、建設中の新製造プラントを見学したほか、同社最高経営責任者のミュラー氏から同工場等についての説明を聴取し、質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(ミュラー)アベンティン社は本工場のようなエタノール製造事業だけでなく、これらを使った食品や飲料などの製造・流通・供給も併せて行うバリューチェーンを展開している。建設中の新プラントは、いわゆるドライミルによるエタノール製造である。生産したエタノールは、アルコール飲料、医薬用など様々な用途に用いられているが、自動車など輸送燃料用としての需要が急増している。エタノールの供給先はシェブロン、テキサコなどの石油会社などであり一九八五年ころからの顧客である。輸送燃料用エタノールは、石油依存からの脱却というだけでなく、各州で使用規制が強まっているMTBEの代替エネルギーとしても需要が高まってきている。
(調査団)エタノール車の普及状況はどの程度か。
(ミュラー)全米では三〇%程度普及しているが、中西部では六〇%程度普及している。
(調査団)連邦政府、州などの支援措置にはどのようなものがあるか。
(ミュラー)連邦レベルでは補助金はないが、混合ガソリンに対するガソリン税の軽減措置のほか、混合ガソリン精製業者には一ブッシェル当たり五十一セントの税額控除が講じられている。州レベルでは中小アルコール製造業者への補助金を交付している州政府もある。
(調査団)バイオエタノールは他の競合燃料に対するコスト競争力はあるのか。
(ミュラー)今までは石油や、また競合燃料であるMTBEに対し価格競争力がなかったが、最近の原油高によって競争できるようになってきた。

○シカゴ商品取引所(CBOT)

 シカゴ商品取引所では大豆、麦、とうもろこしなど農産物のほか、ダウ・ジョーンズの株式指数先物、十年・三十年国債先物など広く先物取引市場が開設されている。このうち国債先物取引は日本の金融機関が最大のシェアを誇る会員となっている。「場立ち」で有名なシカゴ・ボードであるが、国債先物取引では「場立ち」を廃止、大部分の取引が電算化・システム化されており、来年からは商品取引も電算化、システム化されることとなっている。なお同所は、昨年十二月、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場しており、また来年には株式先物市場などを開設しているシカゴ先物取引所(CME)との合併が予定されている。
 関係者の案内により同所の立会い現場などを見学したほか、上級副社長のレイ氏から説明を受けたほか質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(レイ)来年からは商品取引も国債取引同様「場立ち」から電子化に移行し、昼夜取引ができるようにする予定である。また、多くの日本企業が商品先物取引、国債先物取引の会員になっており、同所において日本は重要な地位を占めている。
(調査団)他の商品取引所に比べて同所の特徴は何か。
(レイ)ミネアポリス、カンサスシティーなど他の商品取引所との比較では、同所がアメリカで最大であるほか、他の取引所のコンピューターシステムを保管、サポートしているのが特徴である。
(調査団)シカゴ商品取引所及び商品取引の課題は何か。
(レイ)課題は電子化に伴うシステムリスクが増大している点であり、そのために世界的観点からリスク対応のための協議、協力が必要になってきている。
(調査団)商品取引は今後、地球温暖化やWTOの行方に大きな影響を受けると思うがどう考えるか。
(レイ)地球温暖化問題は政府間の妥協や条約は難しくても、企業の排出権取引市場の創設・整備やバイオエタノール取引市場の整備など、市場が一定の役割を果たすことができる。WTOについては合意に至らなかったのは残念であるが、これを契機にFTAなどの二国間協定が促進されるだろう。

○ファンク牧場

 アメリカではBSE牛が二〇〇三年十二月に初めて確認されて以来、現在までに三頭が確認されている。
 前記のように、今年一月から続けられてきたアメリカ産牛肉の再度の輸入停止措置が、去る七月二十八日に解除されたところであるが、アメリカ産牛肉の安全対策等の実情を調査するため、シカゴ南西部に位置するファンク牧場を訪問した。
 同牧場は子牛を肥育出荷する肥育牛牧場であり、牧場主のクーンズ氏は全米肉牛生産者協会会長を務めたこともあるなど、生産者としてだけでなくBSE対策や牛肉の輸出事情にも精通する人物である。同氏に牧場の案内と説明を受けたほか、関連事項について質疑を行った。
 概要は以下のとおりである。
(クーンズ)案内中の牛は、この春に生まれ、セリ市場から購入したアンガス牛である。同牧場では肥育期間はおよそ百八十日で、年二回回転させるため、二千頭を出荷することが可能である。飼料はとうもろこしのほかアルファルファなどを自家生産しているほか、バイオエタノールの絞りかす、飼料会社提供のたん白成分を含む栄養サプリメントを与えている。
 本牧場のトレーサビリティへの対応としては、耳票による固体識別はしているので、生産農家まではわかるかもしれないが、誕生日までは分からない。生まれた農家の台帳に記載されていれば分かるだろうが、生産農家は小規模なものが多いので、そこまでチェックしている農家は一〇%ぐらいだろうと思う。二〇〇七年に全家畜のトレーサビリティが義務付けられるが、生年月日までは義務ではなく、生産農家のコストの面で簡単ではないと思う。生年月日のトレーサビリティを可能とするにはICタグが必要で、一頭当たり三から七ドルのコストを生産者に負担させると言われている。しかし、本牧場の出荷先の一つであるカンザス州のクリークストーン・ファームはICタグによるトレーサビリティが可能な牛は高く買ってくれるため、私も生年月日まで分かる牛を売ってくれる者がいたら買いたいと思っている。生年月日まで分かる牛の需要は今後高まると思う。
(調査団)BSEは肉骨粉が原因といわれているためアメリカでも牛の餌としての使用が禁止されているが、同牧場では使用しているか。
(クーンズ)以前は使っていたが、禁止になってからは使っていない。そうしたものが混入しないよう同牧場でも厳重にチェックしている。例えば、飼料として与えているたん白サプリメントについては、製造元の飼料会社にその分析と証明を求めている。他の牧場もBSEの原因として肉骨粉が指摘されている中、危険を冒して使っているところは無いと思う。
(調査団)アメリカ産牛肉の輸入再開について、日本の消費者の多くは心配している、どうすればこの問題を解決できると思うか。
(クーンズ)消費者に安心してもらえるにはトレーサビリティ、餌の安全性の確保が必要であり、関係業界全体で取り組むべきと思うが、完全を期すには時間がかかる。一方で各国がアメリカに求める牛肉輸出プログラムにも問題がある。それは各国で条件にばらつきがあるため輸出する我々としては非常に紛らわしいからで、今後国際的に適正な条件に統一していくべきだ。
 なお、同牧場の視察に際し、地元ラジオ局のスタッフから岩城団長への取材があった。

○アメリカ農務省

 連邦農務省の訪問に際しては、当初、タープストラ農務省副次官と日本向け牛肉輸出再開問題のほかWTO交渉、バイオエタノール振興対策など幅広い分野について意見交換することを予定していた。しかし、日本向け牛肉輸出再開問題に関連して、事前に予定していたシカゴ近郊の食肉処理場への訪問が相手側の都合により実現できなかったことを踏まえ、本調査団としては団長から特にこの点に的を絞り、遺憾の意を表することとした。
 概要は以下のとおりである。
(岩城団長)
 当面の日米間の農業問題にはWTOなど他にもいろいろあるが、我が国にとっての最大の関心事は牛肉の輸入再開であると考える。
 今までいろいろ曲折があったが、ようやくアメリカからの輸入再開が決まった。しかし日本の消費者にはまだ不安を持っている者も多い。政府間で輸入再開を決めても、アメリカ産牛肉を食べるか否かは消費者の選択にかかっている。それを踏まえ、国民を代表する本調査団はアメリカの食肉処理場を視察することとし、幾つかの処理場に受入れを願ったが、結局受け入れてもらえる処理場は無かったのは極めて遺憾である。関係者の誠実な対応が日本の消費者の信頼、納得を得ることにつながるので、農務省も善処願いたい。
(タープストラ)日本はアメリカにとって農産物輸出マーケットとして極めて重要な国であり、将来とも日米の良好な関係を維持していきたい。また日米の政策に関与する者は食品の安全性という点で共通の認識を有しており、その安全性の確保はWTOなど国際的な場で、科学的な観点から行われることが必要だ。
 我々は、日本の牛肉輸入再開に大変喜んでいる。食肉業界は安全であると消費者に認めてもらうことが必要であり、そのために農務省も安全性を確保するための基準、規制を設けている。しかし、輸出基準は各国によって違うため、アメリカの国内基準に二重、三重の基準を追加しなければならなくなっているので、今後は、現在のような各国ばらばらな基準ではなく、日本などとも協力して科学的な基準を国際的に構築していけるよう努めたい。
 食肉処理場の視察が受け入れられなかったことは残念だ。過去、各国からいろいろな見学、訪問があり、それについてマスコミが歪曲的に報道した例もあったため、企業が敏感になり、受け入れなかったのではないかと推察する。残念ながら農務省は企業に対し調査団の視察を受け入れろと要求する権限がない。しかし、処理場以外については牧場など視察できたと聞いているので、今回の調査団の視察は有意義な視察であると思う。
(岩城団長)
 農務省は権限が無いので業界への対応が難しいことは分かるが、日本の消費者が食べなければ日米間で牛肉輸入再開を決定しても効果がない。食の安全、安心について厳格さ・正確さを求める日本人の国民性もあり、こうした点を理解しないと消費してもらえないことを申し上げたい。

○ジャパンソサエティー

 ジャパンソサエティーは、日本の思想、芸術、科学、産業等に対する米国人の理解を促進するため、アドレナリンの合成法の発明などで世界的に有名な高峰譲吉を始め日米の財界、学界指導者等によって一九〇七年に創立された会員制のNPO法人である。第二次世界大戦により一時活動を休止していたが、ロックフェラー三世の尽力により一九五二年活動が再開され、今日に至っている。日米企業の代表者、教育従事者等三十五名からなる理事会で運営されており、現在個人会員二千八百名、法人会員二百社を擁している。
 主な活動としては、法人会員向けに日米間のビジネス、政策情報の提供、講演会、パネルディスカッションの開催などを行っているほか、日本の伝統工芸、古典芸能、現代美術、現代劇の開催など政治、経済問題から日本の文化紹介まで幅広い活動を行っている。調査団は、ニューヨークにてジャパンソサエティーのウッド理事長代行と最近の日米間の文化、経済交流の動向、アメリカにおける日本食ブームの実情などについて意見交換した。
 ウッド氏によれば、最近はゲーム、キャラクターグッズ、アニメのほか寿司、懐石料理、日本酒など日本の食文化もアメリカの日常的な生活に浸透しており、今後ますます日本文化の優れた点はアメリカに浸透、吸収されていくであろうとのことであった。

○Landmark Wine & Sake

 このように、アメリカにおける日本食文化の浸透、定着の一例として近年、急速に普及しているといわれている日本酒の普及状況を見聞するためニューヨーク市内のリカーショップ「LandmarkWine & Sake」を見学、販売員から日本酒の売行き、評判などについて説明を受けた。
 それによると、今や日本酒はジャパニーズワインでなく、sakeとして通用している。同ショップでは約百五十種類の銘柄を扱っているが、日本酒を購入する顧客のうち日本人は二割に過ぎず、八割はアメリカ人である。最近はフルーティな吟醸酒が売れているとのことであった。
 以上が調査の概要であるが、グローバリゼーションが進む中で、カナダ、アメリカにおける農業、林業、教育の分野でも海外との依存関係や競争関係が一層強まってきていることが感じられた。同時に、牛肉の輸入再開問題で象徴されるように、食品安全、環境などの面で消費者や住民の意識が高まり、それに由来するグローバルな問題も生じてきていることも強く印象付けられた。国や自治体はそうした問題点への適切な対応が求められてきているといえよう。今回の調査で得られた多くの知見を今後の国政に大いに生かしていく所存である。


 最後に、調査を行うに際し快く訪問を受け入れていただいた視察先の方々、視察日程中、終始御協力を頂いた現地在外公館員を始め関係者の方々に対し、この紙面をお借りして感謝の意を表する次第である。