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国際関係

重要事項調査

重要事項調査議員団(第四班)報告書

       団長 参議院議員   関谷  勝嗣
           同         舛添  要一
           同         浅尾 慶一郎
           同         喜納  昌吉
           同         吉川  春子
           同         近藤  正道
       同行 
           憲法調査会事務局   
           首席調査員    田村  公伸
           参事        有安  洋樹

  本議員団は、平成十七年十一月十二日から二十一日まで、スイス連邦、ベルギー王国(欧州連合本部)及びフランス共和国の三か国を訪問し、各国の議会、政府関係機関、国際機関等を訪れて、国民投票制度を中心とする各国の憲法事情及び政治経済事情並びに欧州連合等の動向について調査を実施した。

 その概要は以下のとおりである。

一、主要調査項目及び会談日程

[スイス連邦]
・スイスの国民投票制度及びその運用状況
・最近の憲法改正について
・スイス議会における二院制の意義・特徴
・スイスの連邦制・地方分権
十一月十四日(月)スイス連邦国民議会
         (政治制度委員会)
         スイス連邦内閣府
十一月十五日(火)バーゼル都市州議会

[ベルギー王国(欧州連合本部)]
・欧州憲法条約の制定経緯及び内容
・フランス、オランダにおける欧州憲法条約国民投票の否決に対する欧州連合(EU)の考え方及び今後の対応について
十一月十六日(水)欧州委員会事務総局
         欧州委員会対外総局

[フランス共和国]
・フランスの国民投票制度及びその運用状況
・最近の憲法改正について
・フランス議会における二院制の意義・特徴
・フランスの地方分権について
・フランス憲法院の機能、特に国民投票手続の合憲性審査及び監視
十一月十七日(木)フランス議会上院
         (法務委員会)
十一月十八日(金)フランス憲法院
         フランス内務省

二、調査内容

(一)スイス連邦

1 スイス連邦憲法と国民投票制度

 スイスは、一八一五年のウィーン会議にて永世中立国として承認されて以来、平和的かつ安定した民主主義国家として発展してきた。

 特に、州・地方自治体レベルにおいてはもちろん、連邦レベルにおいても、レファレンダム(国民投票制度)及びイニシアティブ(国民発案制度)の両制度を取り入れて運用し、世界でも直接民主制を最も高いレベルで実現している国家として知られている。これらの直接民主制度は、古く共同体の住民集会(ランツゲマインデ)に淵源を持つと言われ、十九世紀前半には近代的な形で整えられ、百二十五年間続いた一八七四年憲法を現代的に全面改正した現行スイス連邦憲法(一九九九年制定)においても、踏襲されている。

 憲法規定においては、レファレンダムには、義務的に行うべきもの(連邦憲法の改正と集団安全保障のための組織又は超国家的共同体への加盟)と任意に行うもの(連邦法律や条約等で有権者五万人の署名又は八つの州から要求があった場合)との二種類が憲法で定められており、また、イニシアティブについては、有権者十万人以上の署名があれば、連邦憲法改正の提案を行うことができると定められている。なお、イニシアティブの対象は、連邦レベルでは、憲法改正に限られ、法律は含まれていない。

2 スイス連邦国民議会(政治制度委員会)

 十一月十四日午前、まず、スイス連邦国民議会を訪問し、政治制度委員会のH・ヴァイエネス委員長、G・フィスター委員、L・マーデル連邦法務庁国務及び行政法局長らと会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 スイス議会の特徴として、議員の兼職を認め(ミニッツ・システム)、議員は本職を持ちながら国のために一定時間を提供していることが挙げられる。また、スイス政治制度の本質的要素として、主要な団体間のコンセンサスが重視され、主な政党は政権に入り、議会は多くの利益団体を網羅している。そのため政権の交替はあまり起こらない。

 国民投票制度について、その権利はスイス市民権の非常に重要な内容とされており、また、スイスの立法プロセスの一部として組み込まれている。そのため、国民に受け入れられないような案だと議会は通っても国民投票で否決されかねないので、政府と議会が緊密に協力しなければならない。ただ、政府が出した案で否決されたとしても、政府が退陣したり議会が解散したりするわけではない。国民投票は連邦レベルで原則的に年間四回のスケジュールで行われ、他に州や地方自治体レベルのものがあり、スイス国民は一年間に二十~三十回もの、投票を行っている。ただ、投票が頻繁にあるからといって、投票疲れがあるとまで言えず、投票率は上昇傾向にある(約五十%)。

 二院制を採っていることも相まって、一つの法等を通すのに時間がかかることは確かであるが、国民が自ら合意したという点で納得性が得られやすいし、民意の裏付けがあるという点で正当性は高い。十万ないし五万の署名という要件は、長い歴史の中でこの数字に落ち着いたもので、比較的少ないと思われるかもしれないが、利益団体の濫用を防ぐ意味はある。国民投票案件の内容を国民によく理解してもらう必要があり、政府の立場に反する見解については、運動組織として、民間の団体が中心となって「委員会」が作られる。

3 スイス連邦内閣府

 午後、連邦内閣府のH・ヴィル政治的権利担当課長と会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 まず、スイスの立法過程について、国会を通過した後に国民投票が控えているため、常に、国民投票で多数を取れるかを念頭に置いて、法律案の交渉が行われ、行政府も、こういったことを念頭において法律案を作らなければならない。スイスでは、主要政党すべてが政権入りしており、議会における政党比率をどのように反映させるかという点に関して、長く「魔法の公式」と呼ばれるものが続いてきたが、それは国民投票があるが故である。

 国民投票は、スイスでは、定期的に(年に四回)、実施され、平均すれば、一回の国民投票で、三ないし四の議案が投票に付される。

 国民への国民投票に関する情報提供について、有権者には、何が国民投票の議題になっているかを国民に知らせるための小冊子が配布される。小冊子では、赤いページに、議案が条文とともに記載され、白いページには、政府の立場からの記述が掲載される。なお、その見解の後に、政府見解に反対する見解が掲載される。反対意見は、政府が書くのではなく、「委員会」が作られ、その「委員会」が文言を作成し、それがそのまま掲載される。さらに、反対意見に対する政府側からの反論が掲載される。これに加え、国民投票の案件を政治的に中立な立場から記述した解説も掲載されている。

 国民投票運動としては、当該国民投票に主体的に関わる個人又は政党を含む団体が自ら行う広告や啓蒙活動があるが、これには二種類の活動がある。自ら行う運動、例えば、立て看板を設置するなどの運動と、マスメディアを通して行う啓蒙活動等である。前者については、他の法律に反しない限り、国民投票運動であるという理由での特別の規制はない。後者のマスメディアを通しての宣伝の問題について、スイスでは、新聞や週刊誌といった紙媒体のメディアを使った広告や啓蒙活動と、テレビやラジオといった放送を通じた活動は区別して考えられている。すなわち、紙媒体を用いた活動に対しては、国民投票であるという理由での特別の規制はないが、テレビ、ラジオを通じた広告は、全面的に禁止されており、一切認められていない。これは、スイスの特殊な事情によるもので、スイスでは、ごく小規模の例外的な民間放送局はあるものの、ほぼ完全に国営放送が独占的な支配権を持っており、国営放送が、国民投票においてどちらかの陣営に肩入れした広告をスポットで流すことは、現在認められていない。一方、紙媒体による活動については、紙媒体は基本的にすべて民間によって運営されているからである。投票用紙には、○×やチェックといった記号ではなく、賛成か反対かを書く。投票用紙は二つに折って留めることができるようになっており、これは、投票の秘密を守るための工夫である。

 また、投票全体のうち、郵便投票は八十%に達する。郵便投票用の封筒は、二重になっており、小さい封筒に三種類の投票用紙を入れ、有権者が自ら封をし、また、自らが投票権を有する正当な有権者であることを示す資格証明書にサインをして、これらを大きい封筒に入れ、郵便で送り返すというシステムにして、投票の秘密を守るようになっている。選挙管理委員会は、大きな封筒を開き、証明書とサインを確認し、小さな封筒は投票箱に入れられ、投票用紙は、投票日当日に、他の投票とともに開封される。なお、投票用紙と啓蒙用の小冊子は、投票日の四週間前までに各有権者に配布され、これらが届いた時点から、希望する有権者は、郵便による投票が可能となる。郵便投票は、投票日の四日前までに出されなければならない。

 国に大きな変革が求められる時、直接民主制の一つの手法として、賢い政治家がイニシアティブ(十万人の署名を集めることで可能)を上手に活用すれば、大きな変革も可能であると思う。もし大きな変革ができないとすれば、我々の政治制度が保守的なのではなく、スイス国民が保守的なのであるからだと考える。

 国民を二分した国民投票の例として、まず、一九三六年の国民投票(ヨーロッパに戦争が迫ってくる中で、経済を統制経済にしなければこの危機を乗り越えられないのではないかという趣旨から提起された国民投票、結果は否決)が挙げられる。近時、大きく分かれた例としては、一九九二年の国民投票(スイスが欧州経済共同市場に参入するかどうかが問われ、結果は僅差で否決)、二〇〇二年の二つの国民投票(スイスの国連加盟をめぐって行われ、僅差で可決)(難民が庇護を求める権利の申請基準を厳しくするもの、僅差で否決)が挙げられると思う。

4 バーゼル都市州議会

 翌十五日は、スイスにおける連邦制及び地方分権の実態を調査するため、バーゼル都市州議会を訪問し、B・マツォッティ議長、A・ブルクハルト副議長らと会談した。バーゼル都市州は、スイス北部ライン川沿いに位置し、独仏国境と接していることもあって、古くから交通の要衝として栄えてきた地域である。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 州と連邦との関係について、スイスには二十六の州があるが、どの州でも、例えば、バーゼル人であることとスイス人であることについて、それぞれ同じように帰属意識を持っていると言える。また、連邦、州、そして約三千の地方自治体の三者は、予算もそれぞれ約三分の一ずつを担っており、行政の内容として、連邦は安全保障、コミュニケーション、交通、教育、インフラを、州は保健、教育、文化、治安、連邦からの委託業務を、自治体はインフラ、州からの委託等を担っている。政治的権限から見ると、約九十%は州政府の所管であると言える。州と連邦が摩擦を起こす可能性は常にある。ただ、連邦法は州法に優越するので、新しく定めたバーゼル都市州憲法も連邦憲法に合わないところがないように注意した。

 国民投票制度について、最後は有権者が決めることがスイスの長い伝統である。このシステムの欠点は、決定に時間がかかり、ダイナミズムに欠ける点である。バーゼル都市州においては、州民四千人(新州憲法では三千人)の署名により憲法・法律改正、財政、土地利用計画についてのイニシアティブが可能、また、レファレンダムは、二千人の署名により可能であるとなっている。

(二)ベルギー王国(欧州連合(EU)本部)

1 欧州憲法条約

 欧州連合(EU)には、現在、二十五か国が加盟しており、更なる拡大も見込まれている。

 欧州憲法条約は、EUのこのような拡大に伴い、より効率的・機能的にすることが必要との認識から、ローマ条約以降のEU諸条約を集大成し、閣僚理事会の表決において人口比を反映(特定多数決の場合)させ、さらに、欧州理事会(EU首脳会議)常任議長及びEU外務大臣ポストの新設、欧州委員会委員の削減等を内容としている。

 同条約については、ドイツ、イタリア等十三か国が既に批准しているが、フランス、オランダでは、政府の意に反して国民投票で批准が否決された。この否決の波紋は大きく、デンマーク、イギリス等五か国も相次いで、国民投票の延期を決めた。このため本年六月の欧州理事会で、二〇〇六年十一月までの批准期間を当分の間延期することを決定した。フランス、オランダでの否決は、議会では圧倒的な多数で採択されたのに、国民投票では否決されたという意味で、代議制の危機も象徴していると言われている。

2 欧州委員会事務総局

 十五日午後、ブリュッセルに移動し、翌十六日に、欧州連合(EU)本部を訪問した。

 十六日午前はまず、欧州委員会事務総局を訪問し、P・スタンカネリ欧州憲法条約担当法律顧問と会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 欧州憲法条約を考えるとき、EUは、国家でも連邦でもなく、また、国連のような国際機関でもない、いわば加盟国に政策などを促す組織であるという位置付けを確認することが必要である。EUは、国際条約によって加盟国との関係が規律され権限を付与されるのであり、欧州憲法条約もEUに権限を付与する形で書かれている。

 EUには、(1)欧州委員会、(2)欧州議会、(3)閣僚理事会、(4)欧州裁判所、の四つの機関がある。(1)は、法・規則を制定する際に、政策提言を行い、また執行を行う。つまり、プロセスの最初と最後を担う。(2)は、意思決定機関である。議員は直接選挙(五年ごと)で選ばれる。(3)は、もう一つの意思決定機関である。各国の閣僚で構成され、様々な決定を行うが、ここでの特徴は特別多数決制度を採ることで、少数の反対国があっても、特別多数があれば決定できる。(4)は、各国の最高裁判所に代わるものではなく、EUの組織やEU法に限って司法判断を行う。また、EUの執行機関の法解釈も行う。このように、EUでは、完全な分権体制を採っている。

 欧州憲法条約制定の背景には、大きく(1)EUの政策効果を高めること、(2)EUの民主主義次元での機能を強化すること、(3)既存の複雑な条約を簡明にすることの三つの理由がある。(1)について、これまで、対外政策、安全保障、移民・難民対策は不十分であり、能力も限られていたため、十分に推進できなかった。(2)について、今までも、民主主義的な意思決定システムは存在したが、例えば、加盟各国の議会や地方自治体との関係など、まだまだ改善の余地があった。EUの新たな政策決定に、EU市民の声をもっと反映する必要がある。(3)について、今まで、十五の条約が締結されてきたが、これらは必ずしも整合性が取れておらず、また、全体を理解するのに容易ではない。欧州憲法条約は、四百四十四か条の条文と三十六の議定書で構成されており、これまでの条約を統括している。

 同条約は二〇〇四年十月に署名されてから直ちに批准プロセスが始まり、これまで十三の国が批准したが、フランス、オランダにおけるEU憲法条約国民投票の否決によって、事実上、中断しており、今後の対応のため、EU市民社会を巻き込んで議論を推進した後、報告書をまとめることになっている。なお、フランスにおける否決については、フランス政府への不信、経済・雇用の不安、市民レベルでEUへの理解が足りないという三つの要因があったと思う。

 同条約の修正は、法的には当然あり得るが、政治的には、長い期間をかけ、妥協を重ねてようやく合意に達したという経緯及びEU加盟各国の持つ多様性から困難だろう。確かに同条約は膨大で、市民がそのすべてを理解するのはもちろん難しいが、その基本的アイデアは理解できると思う。批准方法は各国に委ねられているが、これからEU意識が高まっていくことを期待したい。

3 欧州政策センター

 続いて、昼食を挟み、欧州政策センター(シンクタンク)のG・デュラン政治アナリストと懇談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 欧州憲法条約は、ニース条約後、今後の様々な危機に対応していくには制度的に不十分という意識がEU指導部に生じたことから構想され、最終的には、憲法条約を締結することで合意された。

 これまでも、EUと市民のギャップをどう埋めるかは最大の問題であったため、同条約はEUと市民とを近づけることを目指したのであるが、それがフランス、オランダの国民投票で否決された結果になったことは皮肉である。

 このギャップは、EUの機能が十分理解されず、また、EUが市民のパートナーと考えられていないことから生じていると考えられる。その原因については、EU、各国政府、メディア、それぞれに責任があるが、特に、欧州を統合したいという強いリーダーシップが各国首脳に欠如していた点が挙げられよう。

 欧州の地理的範囲及びその妥当な規模について、このまま拡大を続けていけば、EUの目的や求心力が薄まるおそれがある。グローバル化に対応するにはある程度の大きさが必要となるが、三十五か国まで拡大するのが妥当かは問題であり、また、トルコの加盟には「欧州」というアイデンティティの問題もあろう。

 欧州統合は、第二次大戦後、平和を確立することから始まったが、EUの父ジャン・モネの「欧州統合は世界を統合する最初のステップ」という言葉にあるように、さらに先があるのである。EUはこれまで多くの危機を乗り越えてきたし、欧州憲法条約の批准では停滞したかに見えるが、今後も乗り越えていくことは可能だと思う。

4 欧州委員会対外総局

 同日午後、欧州委員会対外総局を訪問し、E・ランダブル対外総局長と会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 欧州憲法条約は、様々な主権国家をEUの下で効率的に調整する仕組みを作ろうとするものであり、現在の案は、長い議論を経てできた最良の妥協案と言えるものである。

 フランス、オランダでの否決は、このプロセスを遅らせるものであり、代替案も考えていく必要が生じよう。今後は、両国市民への働き掛けはもちろんだが、これには限度があるため、新しい提案をいつするかがポイントだと思う。

 欧州憲法条約は、(1)EUの価値と原則、(2)EUの機関と分権の仕組み、(3)EUの政策、の三つから構成されているが、反対は(3)に集中しており、私見では、(1)(2)はそのまま、(3)は切り離すことを考慮すべしと考える。すなわち、グローバル化への危惧、ナショナリスティックな傾向の高まり、統合の疲労感等の時代背景があり、「憲法」の趣旨に徹し、政策は別に扱うべきである。また、新しい提案を出すタイミングも重要で、二〇〇七年五月のフランス大統領選が終わるまでは難しいので、その後に代替案を出すのがよいのではないか。なお、同条約の批准がなくても、ニース条約等これまでの条約があるので、EU統合のプロセスまで凍結されるわけではない。

 一部のEU市民はEU拡大に懐疑的だが、五億の人が一つの共同体に入ることは、グローバル化への適応のため必要で、もし分断されるなら、社会コストも増大するし、今の生活水準を維持するのも困難になろう。

(三)フランス共和国

1 フランス憲法と国民投票制度

 フランスの現行憲法(第五共和制憲法、一九五八年制定)は、「国の主権は人民に属し、人民はその代表者を通じて及び国民投票(レファレンダム)により、主権を行使する」(第三条第一項)と定め、単に代表者を選挙するだけでなく、問題によっては、直接に国民の意思を表明して主権を行使できることを定めている。このような制度は「半直接民主制」と呼ばれる。歴史的にもフランスはその代表国的存在であり、また、イタリア、スペイン等現代憲法の多くが採用している。今年五月のフランスでの欧州憲法条約批准に関する国民投票の否決は、国民の代表である政府・議会と国民の意思が乖離することを如実に示すとともに、同条約を、事実上、凍結に追い込むなど、国民投票の結果の大きさを示す例となっている。

 また、フランスでは、比較的頻繁に憲法改正が行われており、二〇〇三年も地方分権を中心とする大きな改正が行われた。

2 フランス議会上院

 翌十七日午前、パリに移動し、午後、フランス上院を訪れ、法務委員会J・イエスト委員長と会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 今日の二院制には、第一院は国民の代表、第二院は地域の代表であるとの考え方があり、フランスもこれによっている。すなわち、間接選挙制を採用し、地方(県や市町村)の代表として選出される。また、このような選出方法から、上院の構成は下院とは異なっており、政党からより自立していると言えるし、実際、政党よりも人物本位で選ばれることが多い。なお、法案も地方自治体関連は上院先議(二〇〇三年憲法改正)である。

 上院の役割は「賢人」の役割を果たすことである。危機的状況にあって下院が過熱して一気に通そうとする場合でも、上院は距離を置いて冷静に見ることができるのである。

 議員の兼職は、今はある程度制限されているが、地方自治体の長や議員とは兼ねることができ、私もパリ東部のセーヌ・エ・マルヌ県にある村の村長であり、県議会の議員でもある。

 両院の意見が対立する複雑な法案では、両院協議会を設置して審議する。両院協議会は、上院・下院各七名の議員で構成し(各院とも会派比例で選出)、できるだけ多数決は避け、受け入れ可能な解決策を目指す(審議は非公開)。合意に達すれば、それが法律となり、結論に達しないときは、最終的に下院が決する。なお、組織法の場合は、これと異なり、上院・下院とも総員の過半数を得なければならないし、また、憲法改正については、両院協議会はない。

 地方分権について、フランスに多くの小規模な地方自治体(コミューン)が存在するのは、中世以来、教会の教区を基に存在してきたという歴史的伝統によるものであり、現在、全国に約三万五千のコミューンがある。これら小さなコミューンにも議会があり、地方議員の数は合わせて約五十万人にもなり、これだけ多くの人々が草の根から民主主義を支えていると言える。

 各コミューンは、基本的に、文書事務等の他、小学校レベルの学校の建設、道路の管理などの責任を負っているが、大した予算はなく、そのため、近隣のコミューンと共同して実施することもある。また、法律レベルにおいても、このような協力関係を持つことが推奨されている。

3 フランス憲法院

 翌十八日午前は、フランスの憲法裁判所である憲法院を訪問し、J・プザン委員(裁判官)と会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 憲法裁判について、フランスでは、伝統的に、法律は人民の代表が作るものであり、これを審査する必要はないと考えられていたため、裁判所が合憲性あるいは違憲性について審査するという伝統はなかった。しかし、第五共和制憲法(一九五八年)で、憲法院が設置され憲法適合性の審査が始まり、憲法の変化に応じて発展してきた。憲法院は、(1)法律の合憲性審査、(2)選挙(下院選挙、上院選挙、大統領選、国民投票)に関する審査、(3)法律と命令の調整、の三つの機能を持っている。

 審査は事前審査という形をとり、法律が議会で採択された後、大統領によって公布される前に審査を行う。この審査は、大統領、首相、上院又は下院議長、六十名以上の下院議員又は上院議員の要請によって開始されるが、多くの場合、審査の要請は野党側の下院議員又は上院議員から出される。審査の対象には立法手続が正しい形で行われているかも含まれる。

 憲法院が違憲であるとして差戻した例で有名なものは、ミッテラン政権下での、民間の大手製造業国有化法案であり、その後、憲法院の判断を織り込んだ新しい内容の法案が再提出され、これに対しては合憲の判断を下した。

 憲法改正について、フランスでは、第五共和制憲法が制定されてから十八回改正された。

 改正手続には、一般に、(1)大統領のイニシアティブにより政府が提案し国民投票に付す(憲法第八十九条)、(2)コングレ(両院合同会議)で五分の三以上の多数により採択する(憲法第八十九条)という方法の他、(3)憲法第十一条の国民投票に付すという改正方法がある。

 国民投票については、このルールを定める国民投票デクレ(命令)が政府から出されるが、憲法院は、このチェックを行うとともに、国民投票がデクレに従い公正さが確保されて行われるように監視を行う。また、この監視のために「代理人」を任命して各投票所に配置し、何か問題があれば憲法院に文書報告させるようにしている。そして、手続の瑕疵があれば、投票の無効を判断することもあり得る。

 なお、欧州憲法条約批准については、大統領が憲法第十一条の規定に基づいて、国民投票にかけた。

4 フランス内務省

 引き続いて午後は、フランス内務省を訪問し、国民投票担当課のW・リツク氏及びN・レルネル氏と会談した。

 その説明の概要及び議員団からの質問への回答は次のとおりである。

 国民投票には、法案等(公権力の組織に関する法律、経済・社会政策に関する法律、諸制度の運営に影響を及ぼす条約の批准)を国民投票に掛ける憲法第十一条の場合と、憲法改正に関する憲法第八十九条の場合との二つの種類があるが、どちらの場合でも、準備は同じである。

 国民投票手続についての法律はなく、国民投票が行われるたびにデクレが制定されてルールが作られる。政府は投票のルールを定めたデクレと投票運動に関するデクレの二つを出すのが基本である。なお、通常の選挙については選挙法があるが、これは国民投票には適用できない。ただ、投票ルールを定めるデクレは、内容的には、選挙法に準拠しているのが通常である。このようにデクレを国民投票のたびに作るのは、単に歴史的なものであり、憲法院は、国民投票に関する法律を作ったらどうかと言っているにもかかわらず法律が作られないのは、結局、国民投票を実際に行うときには作ろうとしても間に合わないし、行わないときには作る機運がないためである。もっともデクレには柔軟性を確保できるというメリットがある。

 投票用紙には、賛成又は反対の欄にチェックを付けるようになっており、このように非常に単純明快な形式で国民に問う形になっている。なお、郵便投票は、不正が余りに多かったため七十年代に廃止されたが、入院中の人や身体障害者などについては、代理人投票が可能である。

 国から認定された政党には、国民投票運動のための助成金が出される(上限八十万ユーロ、約一億千二百万円)。認定の条件は、議会において一定数以上の議席を有するか、直近の欧州議会選挙における一定以上の得票があること(五%以上)だが、認定ルールは毎回必ずしも同じではない。

 欧州憲法条約の際の認定団体のうち、賛成派が七割を占めたため、不公平という批判は多くあったが、世論調査等を見ると、そういった批判が反対派の割合を押し上げたという側面があった。

 通常の選挙キャンペーンとしては、ポスター、テレビ、ラジオ、チラシなどがあるが、これに競合する新たな方法、例えば、インターネット、携帯電話のショートメッセージや、政府から財政援助を受けずに、自分でお金を払ってテレビでコメントをするといった新たな手法が登場した。

 国民投票に掛ける場合、一般国民に対して、国民投票の内容の情報提供が必要であり、欧州憲法条約の国民投票に際しては、政府は、憲法院の同意を得て、有権者に対してEU憲法条約条文を掲載したリーフレットと、それに対する政府の立場を説明した説明書を送付した。これには、何故政府が賛成するのかを記載しているが、これについては政府のプロパガンダで中立性を欠くとの批判が多かった。なお、これ以外の準備については通常の投票と同じである。

 欧州憲法条約の国民投票に関しては、どのように政府の公正性を確保するか、また、有権者に対する情報提供をどのように行うかという二つの大きな課題が残った。

三、終わりに

 今回の調査においては、数多くの要職にある方々と親しく意見を交換することができた。多忙の中、快く会談に応じていただいた方々、また仲介の労をお取りいただいた在外公館等の関係者の方々に改めて感謝の意を表したい。