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国際関係

重要事項調査

重要事項調査議員団(第四班)報告書

       団長  参議院議員   陣内 孝雄
            同        柏村 武昭
            同        伊達 忠一
            同        谷  博之
            同        福山 哲郎
            同        渕上 貞雄
        同行
             環境委員会調査室首席調査員    濱坂 豊澄
             法制局参事                川口  啓

一、はじめに

 本議員団は、アジア・大洋州における環境問題に関する実情調査のため、平成十六年九月二日から十二日までの十一日間、フィジー諸島共和国、ニュージーランド及びオーストラリアの三か国を訪問した。

 日程は、次のとおりである。

 九月二日(木)
  東京発(機中泊)
 九月三日(金)
  フィジー諸島共和国ナンディ着(二泊)
  ・環境大臣との懇談
 九月四日(土)
  ・ビチレブ島南部海岸珊瑚礁視察
  ・ヤンドゥア村視察
 九月五日(日)
  ナンディ発、オークランド着(二泊)
 九月六日(月)
  ・国際郵便配送所視察
  ・オークランド動物園視察
 九月七日(火)
  オークランド発、ウェリントン着(二泊)
  ・カロリ・ワイルドライフ・サンクチュアリ
   視察
 九月八日(水)
  ・環境省気候変動事務局及び外務貿易省の幹
   部との懇談
  ・気候変動に関する閣僚委員会議長との懇談
  ・自然保護大臣との懇談
 九月九日(木)
  ・農林省バイオセキュリティ局の幹部との懇
   談
  ウェリントン発、シドニー経由キャンベラ着
  (一泊)
 九月十日(金)
  ・連邦環境遺産省副次官との懇談
  キャンベラ発、シドニー着(二泊)
 九月十一日(土)
  ・ブルーマウンテン国立公園視察
 九月十二日(日)
  シドニー発、東京着

 本議員団に与えられた調査テーマは、アジア・大洋州地域における環境問題であるが、(1)地球環境問題への取組の現状と課題(2)自然環境の保全と観光開発の現状と課題を重要調査項目として調査を行った。

 議員団は出発に先立ち、外務省及び環境省から訪問国の政治、経済等の一般事情及び調査項目の概要説明を聴取した。また、各訪問国においては在外公館職員から説明を聴取し、資料の収集にも努めた。

 以下、フィジー諸島共和国、ニュージーランド及びオーストラリアにおける調査の概要を報告する。

二、フィジー諸島共和国(フィジー)

1.地球温暖化問題への取組

 フィジー諸島共和国は、南太平洋の中央部にある、約三百三十の島々からなる島国である。総面積は四国とほぼ同じ一万八千三百平方キロである。首都スバはビチレブ島にある。フィジーは近年、地球温暖化の影響で、海面上昇や気候変動による被害を受けていると伝えられている。そこで、議員団は、スバにある地方政府・住宅・環境省を訪ね、地球温暖化問題への取組や海面上昇による影響等についてランギンギア環境大臣から説明を受け懇談を行った。その要旨は次の通りである。

(温室効果ガス削減への取組)

 フィジーは、一九九二年に気候変動に関する国際連合枠組条約に署名し、一九九三年同条約を批准した。そして、一九九七年に世界で最初に京都議定書を批准した。フィジーは、地球温暖化(温室効果ガス)が農業、水資源、健康及び沿岸・海洋生態系に及ぼす影響に関する調査、研究を行っている。そして、現在、気候変動政策を起草中であり、二○○五年に政府部内の承認を得る予定である。また、京都議定書の発効を実効的にするため、指定政府機関(DNA)は、国内において再生可能エネルギープロジェクトに投資したい投資家の提案に対して査定及び評価を行っている。このようなプロジェクトは、実際にフィジーの二酸化炭素の排出を減らすとともに、ディーゼル燃料の消費を減少させることとなるからである。そして、エネルギープロジェクトにおける執行機関であるエネルギー省は、再生可能エネルギーシステムの確立のため、インフラの開発、整備を行い、再生可能エネルギー会社(RESCO)の設立に努めている。このように、フィジーは、再生可能エネルギー資源の開発を促進している。

 一方、政策立案者に対するプレゼンテーションだけでなく、環境週間など特別の機会をとらえ学校や地域において国民の意識を向上させる取組も行っている。さらに、気候変動及び地球温暖化問題に関する意識向上のための教材が開発されている。

(海面上昇の影響)

 フィジーでは、十年前にオーストラリア政府の支援による、海水位及び気候モニタリングプロジェクトを立ち上げた。現在もフィジーを始め太平洋の島国における海水位の上昇の監視を行っている。しかしながら、海水位が現実にフィジーにおいて上昇しているかどうかを判断するにはデータが不十分である。フィジーにおけるいわゆる海面上昇による被害も、人間が沿岸に与える影響が原因で引き起こされている。森林伐採、インフラの開発、マングローブ林の開墾が、沿岸の自然環境の安定及び漁業に有害な影響を与えてきた。

(京都議定書への対応)

 フィジーは、京都議定書が発効すれば全面的に支援する。その理由は、以下のとおりである。(1)議定書の発効によってすべての先進国に温室効果ガス削減の観点から、京都議定書の目標を達成させることになる。そして、大気中の温室効果ガスがコントロールされれば気候変動の影響が減少する可能性がある。(2)フィジーは京都議定書の発効とともに国内でクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトを行うより良い立場にある。このことは、国の持続可能な発展の目標達成に資するからである。

 以上の説明を受けた後、意見交換を行った。派遣議員からは、気温上昇の影響と水資源開発への取組等の質問がなされた。

2.ヤンドゥア村視察

 ヤンドゥア村は、ビチレブ島の南部にあり、海に直面した人口約四百六十人、八十家族が住んでいる村である。ヤンドゥア村の住民は、漁業、サトウキビ栽培の他、近隣のリゾート・ホテル等で働いて生計を立てている。

 議員団は、入村の儀式を受けた後、村内を視察した。村は、波打ち際から数メートルのところにあり、海岸とは防波壁で区切られていた。防波壁は、丸い石を垂直に積み上げたものであり、高さは、二メートル足らず、所々欠損している箇所が見られた。村民によれば、昔は海岸線が六十メートルほど沖合にあったという。また、村は海岸浸食の影響を受けており、満潮時に高い波が来ると防波壁が崩され、高潮や台風の時期には海水が村の中まで入り込んでくる。村の懸案事項は、この防波壁の修理であるという。

 高波に流された家の跡地に案内されたが、今は、政府が建ててくれたというプレハブの家が建っていた。現在、村においては、我が国のNGOであるオイスカ(OISCA)と協力してマングローブ林の植林事業を行っている。

3.珊瑚礁視察

 海水温の上昇で珊瑚礁にも影響が出ているということで、ビチレブ島南部のコーラルコーストを視察した。コーラルコーストは、環礁に囲まれた穏やかな海岸が広がる、美しい土地である。

 フィジーでは二○○○年に海水温度が三十度近くまで上昇し(上昇の原因は諸説あり、特定されていない)、その結果、多くの地域で珊瑚の白化現象が起こり、コーラルコーストの珊瑚も大きな被害を受けた。

 珊瑚はサンゴ虫と褐虫藻が共生する形で形成されている。しかし、海水温の上昇や水位の変化等で褐虫藻がいなくなるとサンゴの白化現象が起こり珊瑚は死んでしまう。

 議員団が視察した一帯は、枝珊瑚やテーブル珊瑚が見られたが、一見、岩のような珊瑚が多く見られた。実はこれが珊瑚の死骸であるという。しかし、死んだ珊瑚の上に新しい珊瑚が育っている状況も見られた。

三、ニュージーランド(NZ)

1.地球温暖化問題への取組

 NZは、基本的に農業国である。予想される地球温暖化が農業生産に大きな影響を与えるとの危機感がある。このため、NZの各研究機関では、気候変動による農業部門、自然生態系、人の健康等への影響予測を行い、政府は温暖化防止の対策に取り組んでいる。

 そこで、議員団は、NZの温暖化防止対策への取組の現状について、外務貿易省を訪れ、環境省気候変動事務局のジュリー・ローレンス事務局長とアラン・クック外務貿易省環境部長から説明を受けた。また、ピート・ホジソン気候変動に関する閣僚委員会議長とも懇談を行った。以下はその要旨である。

(温暖化対策の現状)

 NZ政府は二○○二年十二月に京都議定書を批准している。議定書上の温室効果ガス削減目標は、一九九○年比○%である。

 NZの気候変動政策は、ホジソン・エネルギー大臣主導による閣僚グループ(経済開発大臣、外務貿易大臣、運輸大臣、環境大臣等)により立案されるが、その閣僚グループへの助言を行うのは十省庁一部局の官僚からなる閣僚顧問団である。その事務局とも言うべき気候変動事務局は、二○○三年二月に設立され、環境省の中に置かれている。役割としては、政府内の調整、各種報告書の作成、二酸化炭素の検査等を行っている。

 温室効果ガスの排出の現状として、特徴的なのは、NZでは農業分野からの排出が約五○%を占め、その三○%は家畜のげっぷであるメタンである。なお、エネルギー部門からの排出は約四三%である。

 温室効果ガス削減に向けた取組として、まず、(1)炭素税(温室効果ガス排出賦課金)の導入が上げられる。NZ政府が二○○七年から導入を決めたもので、温室効果ガス排出に関して、二酸化炭素換算で一トン当たり二五NZ$(日本円で約千八百円)を上限に賦課する制度である。その方法の詳細はまだ決まっていないが、農業分野については免除するが、企業・産業界とは話合いを進めているという。次に、(2)排出削減プロジェクトとして、政府は再生可能エネルギーや省エネ等のプロジェクトに対し温室効果ガスの削減量に応じて炭素クレジットを与える仕組みを導入した。これは、京都議定書の第一約束期間(二○○八年~二○一二年)に適用され、排出削減に応じた炭素クレジットが企業等へ毎年配分されるもので、議定書が発効すれば国際間取引も可能となる。二○○三年に第一回の募集を行い十五のプロジェクト(風力発電施設、水力発電施設等)に、四百万トンのクレジットが与えられた。このうち風力発電プロジェクトで獲得されたクレジットがオランダの国有企業に売却された例(NZで最初の排出権取引契約)がある。第二回目の募集は二○○四年八月~十月の期間で実施(六百万トンの配分枠)され同年十二月に最終結果が公表される予定である。(3)温暖化防止に関する合意書(Negotiated Greenhouse Agreements:NGAs)として、政府は、企業が行う生産活動等において温室効果ガス削減対策を実施することにより、産業界における国際競争力が低下すると認められる企業に対し炭素税の全額又は一部を免除する仕組みを導入した。これまで、十二社が申請して一社が認可された。残りの社は予備審査等の段階にあるという。これらの企業はいずれも電力の大口ユーザーで、日系企業が出資している工場も含まれている。また、政府は、NGAsは、大企業に偏った対策であるので、中小企業向け対策として効率的な排出削減技術の売却などを考えている。(4)その他、植林による森林吸収源クレジットの管理、気候変動に関する国民の意識・啓発プログラムの重要性、地方政府と中央政府との連携等について説明がなされた。

 派遣議員からは、炭素税の使用目的、農業分野における温室効果ガス削減政策措置、原子力発電導入構想の有無、NZにおけるJI(共同実施)の可能性等について質問がなされた。

(気候変動閣僚委員会議長との懇談)

 ピート・ホジソン気候変動に関する閣僚委員会議長との懇談では、温暖化問題に関する日本の役割や、炭素税の導入、環境と経済の関係などが話題になった。議長は、「最近、日本を訪れ川口外務大臣や小池環境大臣と会い、話し合った。気候変動問題に対する考え方は、日本とNZとは同じ考えである。この問題に関して、日本にはリーダーになってもらいたい。日本は世界第二の経済大国であるし、開発が進む中国にも近いからである。また、京都議定書には重大な関心を持ってきた、日本は気候変動問題でリーダーシップを発揮している。NZは小さい国であるが、これまで流し網問題や、気候変動でリーダーシップを取ってきた南半球で唯一の国だ。炭素税の導入については二○○七年以降実施することを決めている。税の導入はどこでもいやがるが、収入は経済開発につなげてゆくつもりだ。環境と経済の両立が重要だと考えている」等の発言がなされた。

2.生物多様性の保全

 NZは、日本の四分の三程度の国土面積を持つ島国である。八千万年以上も他の大陸と隔離していたためNZ固有の動植物が多い。しかし、人間の入植が進み、鳥、ほ乳類、植物、昆虫等の外来種が持ち込まれたことにより、NZの生物多様性は大きく影響を受けてきた。過去七百年から八百年の間で多くの種が絶滅し、現在でも約一千種の動物、植物、菌類が絶滅の危機にある。

 このような状況から政府は、二○○○年に「NZ生物多様性戦略(NZBS)」を策定し、全国的な生物多様性保全のための取組方針を明確にした。そして、自然保護省、環境省、農林省等関係政府機関は、連携をとりつつ、生物多様性を守り、外来種の脅威を管理するための活動を行っている。具体的には、農林省による空港・港湾における水際検疫、また、自然保護省が管轄する十三カ所の国立公園や保護区における外来動植物の管理(駆除・監視)などがある。

 議員団は、首都ウェリントンでカーター自然保護大臣や農林省幹部と会い、NZの生物多様性保全への取組や外来種対策について説明を受け、懇談を行った。

(自然保護大臣との懇談)

 カーター自然保護大臣との懇談では、自然保護省は国土の三分の一の地域を管理している。NZは、日本と似ており特殊な生態系をもっていることから、外来種問題への取組も積極的に行っている。バイオセキュリティ(生物安全保障)のためには、各国の職員と交流を行うことが良いと考えている。将来の関係を結ぶことができ、技術交換もできるからである。最近では、イタリアと六か月間の職員交流を行った。今、有害な外来種で問題になっているのは、コイである。繁殖が激しく、大きなものでは一メートルにもなる。黄、黒、紫、金などカラフルなコイがいる。植生を荒らすので駆除している。コイは外来種問題の好例である。一九七○年代に持ち込まれた観賞魚の子孫であるが、外国に売るため大型のものを輸出する経済的利点があるので人々は増やそうとする。環境と経済の問題であるが厳しい規制が必要と考えている。サケやマスは導入種であるが、環境にインパクトは与えていない。コイの他グッピィーやナマズも問題になっており、感電死させ河川から駆除している。こうした問題の国民への啓もうは、教育制度を通して行っている等の説明があった。

(外来種対策)

 議員団は、農林省バイオセキュリティ局トムソン部長等から外来種対策の実情について説明を受けた。

 NZにおけるバイオセキュリティは、(1)有害動植物の駆除、(2)人の健康に対する配慮(3)生態系保全の三つのプロジェクトからなっている。そのため、環境省、自然保護省、農林省、漁業省、厚生省等の関係機関があるが、農林省がバイオセキュリティの中心的役割を果たしている。そして、農林省のバイオセキュリティ局が実質的な中枢機関である。一九九三年に制定された生物安全保障法が基本法となるもので、これは農林省の管轄である。

 外来種対策の手順は、外来種の導入前は、リスク分析、リスクアセスメントなどを行いそのための基準を作成する。導入後は、監視と駆除を行う。導入前の手配としては、動植物の検査を行うが、特にアリ、ダニなどの防除のために検疫を行う。その基準は農林省が作る。一般的には事前に書類審査を行いそして国際基準に基づいて預かり、観察を行う。その際、リスクがあるものと判断する基準は(1)微生物(2)生態系に害を及ぼす虞のあるもの(3)人の健康に害を与えるかどうかである。農林省の許容範囲は、リスクを最小限に止めることで、すべての外来種を禁止することではない。外来種であることが確認された場合は、侵入種に対する方針を決め、分布範囲(調査範囲)を確定し、専門家グループを含めて相談し戦略を練る。その結果、駆除するか封じ込めるかその他の管理行為を行う。

 近年の事例としてファイアー・アーントの駆除の例がある。このアリは、南米原産のアリで園芸や農業にも悪影響を与えると考えられた。二○○一年三月にアリの巣がオークランド空港の構内で発見された。巣はすぐに処置された。このケースでは、発見の連絡を受け、外来種と認定し、アメリカ人、オーストラリア人等を含むグループで対応策を検討し、ほかに分布しているか調査範囲を順次広げながら調査した。その間、空港、港湾等にパンフレットを配付し、監視を続けたが他に同種のアリが見つからなかったことから、リスクは回避できたと判断し、二○○三年八月に監視体制を解除した。この対策のため、政府は約百十万NZ$(約七千九百二十万円)の費用を使った。また、オークランド近郊で発見された有害な蛾のため、殺虫剤の空中散布等多額の費用を掛け駆除を行い成功したが、賛否両論の議論が沸騰したという。

 派遣議員からは、駆除の判断基準と手続、アリの侵入経路、ポッサムの駆除に対する国民感情等について質問がなされた。なお、今後、日本の外来種対策は、どうすればよいかとの質問には、「NZにもたくさんの外来種が入ってきている。これ以上入れないことが大事である」との回答があった。

3.国際郵便配送所視察

 議員団は、検疫犬の活動する現場を視察するため、オークランド空港に隣接した国際郵便配送所を訪れた。ここでは、農林省が外部からの病害虫、家畜疾病等の侵入を防止する観点から、すべての国際郵便物を検査している。農林省のスタッフは約二十人で交替制で勤務している。なお、オークランドでは年間五千五百万通の国際郵便物がこのセンターに持ち込まれており、そのうち小包は五百万個である。

 検査は、ベルトコンベア・ラインに載った大小様々の郵便物をまずX線透視機(三台)で検査し、色の違いで中身を識別する。その後、検疫犬が臭いで嗅ぎ分け、リスク品を発見するとコンベアの上に飛び乗り知らせる。検疫犬は、ラブラドール犬(空港の検疫犬はビーグル犬であった)で、六頭いるとのことである。また、長く続けると嗅覚が衰えるので仕事は三十分おきだという。こうして選別された郵便物は、別の部屋で開封され専門の分析官によって目視検査が行われる。その結果、熱処理、焼却処分、発送国へ送り返すなどの処置がなされる。農林省の担当官によるとクリスマス時期は、検査で摘発される数が多く、乳製品や植物の種、人形の中の生きた亀、サソリ等も発見されている。また、生きたハチを万年筆の中に入れて、不正に持ち込もうとした例もあったという。

4.オークランド動物園・野生生物保護センター視察

 オークランド動物園は、NZ最大の動物園で、一九二二年に開園した。ゾウやキリンといったおなじみの動物のほかに、NZの国鳥に指定されている羽のない鳥キーウィ、二億年前の恐竜の生き残りとも言われるトゥアタラといったNZ固有の動物を含む百五十種の様々な動物が見られる。オークランド動物園は、動物の保護にも力を入れている。そのための保護基金を二○○○年に設立し、これまでも、スマトラトラやマレーグマ、オランウータン等の保護活動の支援を行っている。

 議員団が訪れた、動物園内の野生動物保護センターでは、自然保護省と共同してキーウィの孵化を行い、自然に帰す取組を行っている。キーウィは野生においては、生後一年以内に雛の九五%が死んでいるという。これは、卵や雛がイタチ、ポッサム、犬、ネコ、ネズミの餌となっているからである。センターでは、野生にあるキーウィの卵を動物園に持ってきて飼育し、まず天敵のいない島に放し飼いを行い、十分自らを守れるくらいに大きくなってから生まれた場所に帰している。その際には、マイクロチップを埋め込みその後の動静を監視する。このプロジェクトは一九九六年から行われているという。議員団が訪れた日は、丁度百十一羽目のキーウィが生まれた直後であった。また、ここではトゥアタラの飼育も行っている。議員団が見たトゥアタラは、緑褐色で全長七十センチメートル程度で、トカゲに似た姿であった。生後九年くらいだという。トゥアタラは、成長が遅く五十年で成長し百五十年は生きるという。三年から五年の間、保護センターで飼育し、その後、天敵のいない島に放される。これらの他、当センターでは、NZフクロウ、カカ(オウムの一種)、ウェタ(大型のバッタ科の昆虫)、海鳥等の保護も行っており、これらの活動においては、自然保護省と緊密に協力している。

 そのほか、議員団は、ウェリントンにおいては、保護地域の周囲を柵で囲み天敵を排除して、NZ固有の動植物を集めて保護管理しているカロリ・ワイルドライフ・サンクチュアリを訪れた。

四、オーストラリア

1.自然環境の保全と観光開発

 オーストラリアは、ユニークな生態系の多様性に恵まれた大陸である。カカドゥ国立公園を始めとする国立公園のほか、各州政府が管理する多くの公園・自然保護地域がある。こうした豊かな自然環境そのものが、オーストラリアでは、重要な観光資源として認識されている。このため、連邦政府及び各州政府では「自然」を戦略的に活用した観光開発のみならず、その観光資源の維持のため自然環境の保護に積極的に取り組んでいる。

 議員団は、キャンベラの環境遺産省においてオーストラリアの自然環境の保全と観光開発の両立への取組についてティニー環境遺産省副次官をはじめ担当者から説明を受けた。以下はその要旨である。

(持続可能な観光政策)

 オーストラリアの自然保護を含む環境保全対策は、基本的には各州政府が中心となって行っている。連邦政府(環境遺産省)は、国際条約に基づく義務の履行、全国的・総合的な環境保全対策の推進、連邦管轄の国立公園の管理等に関する行政を担当している。一九九九年にはそれまでに制定された環境法令を整理再編し、包括的な法体系として「環境保護・生物多様性保全法」が制定された。この法律により、世界遺産、世界的に貴重な湿地帯、指定された移動性の種や絶滅危惧生物種、国際保護渡り鳥等への対策を含む、全国的な環境問題に対して連邦政府が果たすべき役割を規定した。その中には開発業者に対する直接の許認可権限も含まれている。

 オーストラリアを訪れる観光客は、年間約五百万人である。その経済効果は、約三百二十億A$(約二兆六千五百万円)、GDPの四・五%に相当し、五十五万人の雇用創出効果がある。観光客の五一%は自然観光である。

 連邦政府は、重要な観光資源を持続することが重要と考えており、自然遺産や国立公園等の文化的価値をも考慮しながら自然環境保護を精力的に行っている。観光開発においては、自然保護と地域振興、特に先住民(アボリジニー)のことを考えて行っている。厳しい管理のもと運営許可を与えており、管理の行き届いた観光開発は、地域経済にも大きな利益を与えるという。持続可能な観光政策は、経済と環境のバランスを取ることだと考えている。また、人材育成のための教育、訓練にも力を入れている。

(観光資源保護への取組)

 オーストラリアでは、カカドゥ国立公園、ウルル・カタジュタ(エアーズロック)国立公園、グレートバリアリーフ(GBR)、ブルーマウンテンズ、タスマニア原生地域等十六の地域をユネスコの世界遺産に登録し、その保護に努めている。特に、カカドゥ、ウルル・カタジュタの二つについては、連邦政府も力を入れており、文化と自然の複合遺産として登録している。オーストラリアの国立公園の大部分は州が管理している。しかし、この二つの国立公園は連邦政府の特別の部署が先住民と共同して管理している。また、世界最大の珊瑚礁、GBRについては、環境遺産省に専門の部署としてGBR海洋公園局を設置し珊瑚礁群の保護を行っている。ここでは、GBRの海洋環境を守りかつ人々の利用を計るため、保全地域、科学調査地域、海洋公園地域など数種類の地域指定(ゾーニング)を行い、それぞれの地域に則した規制行為を細かく定めている。

 GBRでの観光収入は、年間約四十三億A$(約三千六百億円)で、四万八千人の雇用を創出している。GBRの目的は、ウォッチング、フィッシング、シッピング、リゾート等広範囲であり、年間百八十万人が訪れる。観光客からは、一人四百円の利用税を徴収している。この利用税は地域の向上のために使われる。GBRでの管理上の問題は、船やホテルから排出される汚水による汚染であり、生態系に影響が出ているという。

 また、オーストラリア独特の遺産や連邦政府保有地での歴史的建造物等について、連邦政府は独自の遺産リスト(約三百四十か所)を、整備し、遺産への影響を与えないことを確認した上で開発当事者への許可を行っている。

2.ブルーマウンテン国立公園視察

 議員団は、観光と自然保護の現場を視察するため、ブルーマウンテン国立公園を訪れた。ブルーマウンテン国立公園は、シドニーから西へ七十キロメートル、世界遺産に登録されているグレーター・ブルー・マウンテンズ地域内にある。グレーター・ブルー・マウンテンズは、海抜千~千三百メートルの砂岩台地で百三万ヘクタールに及ぶ面積がある。ブルーマウンテン国立公園の面積は、約二十七万ヘクタール(佐賀県よりやや広い面積)、年間三百万以上の人が訪れるという。展望台からは、切り立った砂岩の断崖と広大な渓谷を覆うユーカリの樹海が見渡せた。この地域には九十二種類のユーカリが自生しており、ユーカリから発生する油分の粒子に陽光が当たり、ブルーの霞が発生するところからブルーマウンテンの名が付けられたという。

 この地域には、多様性に富んだユーカリ等の植物の他、コトドリ、ポッサム、ワラビー等四百種類に及ぶ動物も生息している。しかし、近年、ブッシュテールド・ロック・ワラビー等四十種類の動物については、その姿を見るのは稀になったという。

 議員団が、視察した場所の案内パンフレットには次のようなことが書いてあった。

「美しい環境を保つために 

・谷底のレインフォーレストに入る前にトイレをご利用ください。谷底にはトイレはありません。

・自然保護のため、遊歩道から外れてレインフォーレストに足を踏み入れないでください。

・ゴミは総て崖上まで持ち帰り、ゴミ箱に捨てて下さい。

・レインフォーレスト内は禁煙です。

・野鳥や動物に餌を与えないで下さい。」

五、おわりに

 以上、調査箇所における調査の概要を記してきたが、最後に、今回の調査に当たって現地でお世話になった在外公館の方々をはじめ、調査に協力していただいた方々に、改めて感謝申し上げたい。