平成16年度重要事項調査議員団(第一班)報告書:参議院
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国際関係

重要事項調査

重要事項調査議員団(第一班)報告書

      団長  参議院議員  田村 公平
           同        常田 享詳
           同        舛添 要一
           同        齋藤  勁
           同        若林 秀樹
           同        高野 博師
       同行
            外交防衛委員会調査室首席調査員  矢嶋 定則
            参事                     木下 博文

 本議員団は、有事・緊急事態対処体制、民間防衛制度等に関する実情調査のため、平成十六年七月十三日から二十四日までの十二日間、次の日程によりシンガポール共和国、スイス連邦、ドイツ連邦共和国及びフランス共和国を訪問した。


 七月十三日(火)東京発シンガポール着
   十四日(水)
    国防省訪問
    民間防衛隊本部訪問
    集合住宅付属シェルター視察
   十五日(木)
    有事代替滑走路視察
    シンガポール発(機中泊)
   十六日(金)ベルン着
    連邦市民保護庁訪問
   十七日(土)
    トゥーン市地下緊急医療施設視察
    トゥーン市民間防衛隊訪問
   十八日(日)ベルン発ボン着
   十九日(月)
    連邦内務省(国民保護災害援助庁、技術援助庁)訪問
    民間防衛関連施設視察 
   二十日(火) 
    ノルトライン・ヴェストファーレン州内務省訪問
    危機対策中央指揮所視察
    ボン発パリ着
   二十一日(水)
    内務省危機管理センター訪問
   二十二日(木)パリ発リヨン着
    ローヌアルプ地域圏議会訪問
    統合軍民活動グループ訪問
   二十三日(金)リヨン発パリ着
          パリ発(機中泊)
   二十四日(土)東京着



 武力攻撃事態対処法、国民保護法等の緊急事態対処法制の整備を受けて、緊急事態対処体制、民間防衛制度の具体化が緊要な課題となっている。

 今回の派遣では、第百五十九回国会の参議院イラク・事態対処特別委員会での国民保護関連法案の審議を踏まえ、訪問各国における緊急事態対処体制、民間防衛制度等について実情を調査した。以下、訪問先における説明・質疑応答を中心に調査の概要を報告する。

一 シンガポール共和国

 シンガポールでは、有事・大災害等の非常事態に際して大統領が非常事態宣言を発し、市民保護のため、国家非常事態システムが内務省、国防省その他関係省庁により組織される。内務省の傘下にある民間防衛隊は、市民保護、消防等の責務を担っている。

1 シンガポール国防省

 アン国防政策部長等から、国軍の概要、テロ対策等について次のような説明を聴取した。

 「シンガポールでは、国家安全保障事務局が国防省、内務省等関係省庁と調整し、国家に対する脅威に対処している。九・一一米国同時多発テロ以降、シンガポールに対する脅威について改めて検討した。シンガポールの国民の多くは、平和で安定してきたことから脅威を感じておらず、すべて国にお任せという考え方で過ごしている。生物化学テロ、放射線によるテロ、サイバーテロ等に対処するため、シンガポールでもテロが起こり得ることを国民に教育している。重要なことは諜報活動である。最近のジェマ・イスラミヤ関係者の逮捕は、インドネシア、タイ等との協力の成果である。総合的な出入国管理の実施、空港・石油備蓄基地等を対象とした国軍・警察の共同パトロール、戦略的物資の管理等を始め重要インフラの保護に努めている。生物化学テロ、放射線によるテロに対する防御能力を高めるよう努力している。民間企業と協力し、オフィスの安全の確保を促している。多民族国家なので、社会的な調和、団結心の涵養が重要である。テロ等に対し強靱な反発力を国民が持つことが必要である。テロ等の脅威に対し、政府、国軍、民間防衛隊、警察、消防、国民が協力して対応し得る準備に努めている。」

 派遣議員から天然痘のような伝染病菌による生物テロ対策について質問がなされた。これに対し、「シンガポールは先年SARS(重症急性呼吸器症候群)を経験した。SARS感染者の追跡について保健省では対応し得なかったことから、国軍が対応するなど、保健省、国防省、内務省が共同してSARSに対処した。出入国管理の厳格化、港・空港での体温測定等の検査も重要であった。天然痘には予防接種があるが、SARSにはない。病気ごとに対策を確立する必要がある。SARSに対処した経験は、生物化学テロ対策に役立つものと思われる。」旨の回答があった。

2 セドリック・フー国防担当国務相との会談

 まず、田村団長から「アジアの一員である日本として、有事法制の先進国であるシンガポールから有事・緊急事態対処体制、民間防衛制度について学びたい。」旨訪問の趣旨を述べた。

 国務相からは「シンガポールと日本は米国の安全保障の下、戦略的に共通の利益を有している。テロ、大量破壊兵器の拡散は死活的に重要な問題である。多数の船舶が航行しているマラッカ海峡における安全航行、テロ・海賊対策は重要な課題である。コンテナについて安全対策を講ずる必要がある。シンガポールは、スイス、スウェーデンに二十年前からトータルディフェンスの考え方を学んでいる。その理由は、大規模な正規軍を保有していないこと、心理面の防衛が重要であることが挙げられる。トータルディフェンスは、国軍の存在、外交の展開、民間防衛、経済的基盤、多民族国家としての地域社会の調和、心理的基盤の強靭性という要素から成っている。人種間の誤解と不信の除去が重要である。」旨の発言がなされた。

 派遣議員からの「シンガポールに対する脅威に係る認識、他国との安全保障上の枠組み」についての質問に、国務相から「シンガポールは恒久的な敵もいないし、恒久的な友人もいない。シンガポールは特定国との同盟はないが、共同訓練は米国、フランス、オーストラリア、ニュージーランド等と実施している。」旨回答がなされた。また、国務相から、自衛隊艦船・航空機の寄港に対するシンガポールの支援の継続について言及があり、田村団長から、シンガポールの支援に対する謝辞と今後の更なる支援について発言がなされた。

3 民間防衛隊本部

 ジェームス・タン民間防衛隊コミッショナーの議員団の訪問を歓迎する挨拶、「危機における国家の備え」と題するビデオの上映に続いて、民間防衛隊の概要について次のような説明があった。

 「非常事態に際し市民保護のため、国家非常事態システムが内務省等により組織される。内務省の下にある民間防衛隊は、市民保護、消防を担当する。民間防衛隊は、正規職員約二千名及び二年間の兵役による職員(約三千名から三千五百名)、予備役の要員約六万名、技術要員約五百名のほか、ボランティアにより構成される。民間防衛隊の予算は、年間約一億五千万シンガポールドル(約百五億円)である。民間防衛隊は、市民の避難誘導、人命救助、消防、シェルターの安全確保、汚染物質の除去等を任務としている。テロへの脅威に対処できる体制の確立に努めている。民間防衛隊コミッショナーは、非常事態に際して、民間防衛隊ボランティアの招集、企業等による役務、車両・重機の提供等、人的物的両面にわたり民間資源を動員する権限を有する。これらは、国家警察等の関係省庁に配属される。動員については、民間企業と事前に合意がなされ、公正な補償が実施されることになっている。」

 派遣議員からの「非常事態におけるマスメディアの協力」についての質問に、「マスメディアの協力について法的な定めはないし、協力しないこともプレスの自由であるが、協力的に対応されることを信じている。」旨の回答が、「ボランティアの民間防衛隊員の役割」についての質問に、「医師、化学技術者等ボランティアの専門分野を活かし活躍してもらえるよう配慮している。」旨の回答が、また、「訓練の状況」についての質問に、「脅威に対処するため、コミュニティの一体化を図るべく訓練を実施している。高層ビルでは年二回訓練を行っている。」旨の回答がなされた。

 民間防衛隊本部では、地下のコントロールセンター及び非常事態の際における移動プレスセンターとなる特殊車両を視察した。

4 シンガポール国会議員との昼食会

 シンガポール国会のオン・チッチョン外交・防衛委員長(シンガポール・日本友好議員連盟会長)を始め四名の議員を招いて昼食会を開催した。

 まず、田村団長から「シンガポールの有事に備えるシステムを学びたい。今後とも日本とシンガポールとの関係の強化に尽力していきたい。」旨の挨拶がなされ、これに対しオン委員長からは「日本とシンガポールの関係は香り高く温かなものである。」旨の挨拶がなされ、自衛隊のイラク派遣について発言がなされた。

 このほか、ブキ・パンジャン地区にある集合住宅付属のシェルター及び有事の際における代替滑走路リム・チューカン道路を視察した。

二 スイス連邦

 スイスの民間防衛は、災害、非常事態、武力紛争からの住民の保護を目的とし、これらの事態からの復旧に寄与するとともに、人道的目的にも貢献することとされている。民間防衛は、連邦市民保護庁、各州の担当部署、地方自治体の民間防衛事務局及び民間防衛隊により担われている。

1 連邦市民保護庁

 連邦市民保護庁のヴィドマー次長、バルマー危機管理・国際関係課長から、市民保護システムについて次のような説明を聴取した。

 「連邦市民保護庁は、一九六三年に設置され、九八年以降、防衛・住民保護・スポーツ省の下で、市民保護に関する計画、教育・訓練、シェルターの整備、資材供給、文化財保護等に関する企画・推進を担当し、州、地方自治体による執行を監督している。州の市民保護担当部署は、連邦の定めた諸規則の執行に責任を有する。地方自治体は、連邦及び州の定めた諸措置の具体化に責任を負っている。地方自治体は、民間防衛隊を組織し、民間防衛隊は、緊急事態に際し、住民のシェルターへの避難誘導、救助等を実施する。市民保護は、警察、消防、医療衛生関係機関、技術関係機関、民間防衛隊の協力により実施される。国民の九五%を収容できるシェルターが整備済みであり、旧型のシェルターを含めると一○○%程度に達する。スイス国民の男性は兵役、市民保護役務のいずれかに就く義務を有する。女性は志願である。二○○四年から新たな『市民防衛法』が施行されている。これは、民間防衛についての警察、消防、医療衛生関係機関等の協力の強化、武力紛争及び全国的な規制・訓練・調査研究に関する連邦の管轄の明確化、災害及び緊急事態に関する州の管轄の確認、訓練・動員期間の短縮による負担の軽減等を内容としている。」

 派遣議員からの「兵役と市民保護役務との選択可能性」についての質問に、「現在、選択はできないが、今後選択制を認めるべきかについていろいろ意見が出ている。」旨の回答が、「民間防衛政策に対する冷戦終結、九・一一テロの影響」についての質問に、「冷戦終結後、第二次大戦型の武力衝突が欧州で発生する可能性は低いとの認識の下で平時の市民保護に重点を移す『リフォーム九五』を策定した。他方、九・一一テロ発生以前よりテロは想定されていたことから、九・一一テロ以降も大きな政策の変化はない。」旨の回答が、また、「生物化学テロに関連した罹患者の対策に係る国際的連携」についての質問に、「EU、米国との連携に努めている。」旨の回答がなされた。

2 トゥーン市地下緊急医療施設

 議員団は、ベルン市近郊のトゥーン市を訪問し、まず、シュトラウプハール・トゥーン市緊急時医療施設管理所長(トゥーン市政府建設大臣)から次のような説明を受けた後、地下施設を視察した。

 「当病院は、トゥーン市及び近郊の約八万人を対象とするほか、災害時の救助体制について他の三か所の病院に指令を出す役割を担っている。当施設は、戦時を想定し軍の病院に近い性格の施設として、通常の病院が所在するその地下に建設された。施設は地下約十五メートルに設置され、全体の規模は、約百メートルかける約五十メートルであり、そのうち緊急時医療施設は約七十メートルかける約五十メートルで、他の避難施設の部分は民間防衛隊の管理下にある。医療施設の部分については、地上にある病院が地下に降りてきたものと理解して構わない。施設には、二手術室、排気装置、除染装置、自家発電装置、飲料水タンク等を備えている。約三百名の患者を収容することができ、これに対応する医師・看護師等約百名がともに十日間自活できる医薬品・食料等の物資を備蓄している。非常時の医療は、手術して助かる可能性のある負傷者を優先して治療する方針である。水タンクの飲料水は定期的に入れ替えているが、キューバ危機、湾岸戦争の際には新しい飲料水を準備した。厨房は小規模なので、二十四時間稼動し交代で食事することになっている。」

 派遣議員からの「災害時における緊急医療施設と民間病院との連携」についての質問に、「診療費の体系が異なるので、公立病院とのみ連携している。」旨の回答が、「日本の地下鉄サリン事件のような場合の対応策」についての質問に、「化学災害等の場合、専門家による原因の究明に基づき対応する必要があるが、事故現場に一般人、救助関係者が参集し二次災害を惹起する懸念が大きい。警察・消防による事故内容の把握、事故現場の封鎖の上、専門家による分析に基づく対応を図る必要がある。講習会を開催して、事故発生の場合には、警察・消防のほか医療機関にも通報すること、事故現場にみだりに参集しないことの注意喚起に努めている。」旨の回答が、また、「ABCテロ発生の場合の医薬品の準備」についての質問に、「テロ対応関連の医薬品としては、第一次的な対応に要するものを準備している。生物テロに対応するための医薬品は、備蓄施設で受領することになる。テロ対応関連の医薬品は、基本的に国家が管理している。」旨の回答がなされた。

3 トゥーン市民間防衛隊

 ジークフリート・トゥーン住民保護指揮所長から市民保護について次のような説明を受けた後、地下緊急医療施設と連結している民間防衛隊管理下の地下避難施設を視察した。

 「トゥーン市は、人口約四万一千人、スイスで十一番目の都市である。トゥーン市民間防衛隊は、約六百名の隊員から組織され、指揮関係三名及び技術関係二名が常勤職員である。民間防衛隊の事務局は市役所・町村役場にある。災害に際しては、まず消防隊が出動するが、災害の規模に応じて、警察、消防、医療衛生関係機関、技術関係機関、民間防衛隊の五者が共同して対処する。防災の指揮は市町村長が執り、消防、民間防衛隊の代表が補佐する。五者の間では、災害対策の企画、救助隊の調整、マスコミへの対応等について協議する。民間防衛隊は、情報判断、通信、放射線事案の対処等、市町村長の指揮に関し支援するとともに、警察・消防に対する支援、被災民の保護、災害の復旧等を任務とする。災害に際して、緊急の場合にはサイレンを鳴らして住民に危急を知らせる。洪水によりトゥーン湖が次第に増水するような比較的時間的な余裕のある場合には、ビラを配布して周知することもある。平時には、民間防衛隊はスポーツ大会の支援、老人介護施設に対する支援、家庭用シェルターの避難口の点検、災害に備えた土嚢作り等のいろいろな活動を実施している。住民保護は、さまざまな要素・機能から成り立っており、民間防衛隊は、長期的視野に立った活動を行っている。」

 派遣議員からの「民間防衛隊の出動要件」についての質問に、「市町村議会か、市町村長が出動を判断するが、大体は市町村議会の判断による。」旨の回答が、「民間防衛隊の日常活動」についての質問に、「年間、三日から七日間程度訓練があり、訓練を兼ねて老人介護施設に対する支援を実施している。スポーツ大会の支援に際して食事を提供したりするが、当然対価を受ける。」旨の回答が、また、「シェルターの整備」についての質問に、「スイスは核シェルターも含めシェルターの整備に努めてきた。各国の民間防衛関連施設を視察した経験によれば、フィンランドのものが優れていると思う。」旨の回答がなされた。

4 トゥーン消防署

 ヨスト・トゥーン消防署長から「スイスの消防隊はベルン市のような大都市を除き、ボランティアで組織されている。トゥーン市では機材管理関係の四名の常勤職員がいるほか、三十四名のボランティアで対応している。救急隊・救急車については、消防隊とは別個に設けられている。」旨の説明を受けた後、消防署を視察した。 

 このほか、議員団は、トゥーン市政府閣僚と懇談するとともに、市議会議場を視察した。

三 ドイツ連邦共和国

 ドイツでは、住民が自らを守る自己防護が市民保護の基礎であり、行政機関による措置は、これを補完するものと位置付けられている。民間防衛については、連邦政府(内務省)は法制・計画を担当するが、執行は州の権能であり、州、地方自治体が市民保護の実務を担当している。また、赤十字社等のボランティア救援組織が、救助活動等において重要な役割を担っている。

1 連邦国民保護災害援助庁

 議員団は、ボン市のドイツ連邦内務省を訪問し、アッツバッハ連邦国民保護災害援助庁副長官、ウェーバー担当官から民間防衛について次のような説明を聴取した。

 「連邦国民保護災害援助庁(BBK)は、連邦内務省の外局であり、二○○四年五月より新たに発足したものである。BBKは、危機管理・災害救助局、緊急事態計画・国際関係局、重要インフラ保護局、災害医療局、市民保護研究・ABC攻撃保護局、市民保護訓練局及び災害防御・技術・施設援助局の七局から成る。BBKは、広域にわたる緊急事態発生時における連邦、州、地方自治体、民間の協力体制の構築、災害研究、住民への警報と情報提供等を任務とする。基本法では、防衛事態、緊迫事態については、連邦政府の管轄であり、その他の事態については、州の管轄である。他方、ベルリンの壁崩壊以来、国際情勢の変化を踏まえ、連邦政府と州政府が協議し、基本法に規定されている以上の分野で連邦と州とが共同して市民保護に対処する必要があるとの認識が形成された。さらに、九・一一米国同時多発テロ以降、複数の州が大きな被害を受けた場合、従来の体制では不十分ではないか、連邦と州との役割分担の掛け橋となる官庁が必要ではないかとの認識が共通のものとなったことから、連邦と州との協議に基づき現在の体制が構築されたものである。」

 派遣議員からの「冷戦後の国民保護災害援助庁の存在意義」についての質問に、「国民保護災害援助庁は、今日の危機状況を踏まえて設置されたものであり、国民の脅威についての感覚に合致しており、設置について国民は価値を認めている。」旨の回答が、「EUにおける市民保護施策の統一」についての質問に、「EUで統一した施策は形成されていないが、災害時の相互援助等、各国の連携は強化されてきている。」旨の回答が、また、「救助活動等の経費負担」についての質問に、「連邦政府の委託により州が救助活動を行う場合、連邦政府が経費を負担するが、その大枠は法律で規定されている。ABC兵器に対する防護等の経費は連邦政府の負担である。」旨の回答がなされた。

2 技術援助庁

 マティース副長官、ノイトウィック課長、ラックナー担当官から、次のような説明を聴取した。

 「技術援助庁(THW)は、非常事態における復旧・救助活動を行う連邦レベルの実施機関であり、本部はボンに所在し、十六の各州に州支部がある。全国で六十六の事務所、各地域ごとに六百六十五の支部がある。援助専門家の養成、国際援助要員の訓練を実施する援助要員訓練施設が二か所ある。国内外に援助物資備蓄センターを二か所設置している。ボランティアの救助隊員は、約七万五千名である。正規職員は全体の一・二%程度であり、活動の大部分はボランティアに依存している。近年は、外国における災害復旧活動、人道支援活動も実施している。」

 派遣議員からの「ボランティア隊員の参加資格、訓練、女性隊員の比率」についての質問に、「ボランティア隊員の参加資格は十歳以上である。十歳から十七歳までの参加者は青少年部隊を構成するが、単独では活動できない。最高年齢についての制限はない。隊員は百二十時間の基礎訓練コースを履修し、その上に専門コースがある。女性隊員は五%から八%程度である。」旨の回答が、「ボランティアの増減傾向」についての質問に、「ドイツでは兵役忌避者は、社会奉仕事業に従事しなければならないが、技術援助庁のボランティアに六年間参加すると兵役を免除される。このような事情によるボランティア隊員が七○%から八○%を占めている。他方、最近の災害援助の実例を踏まえると、市民の自発的な参加は増加の傾向にあると思う。」旨の回答が、また、「訓練等への参加と休暇との関係、出動に係る手当」についての質問に、「訓練等は、夜間あるいは週末に実施されるので休暇の必要はない。ボランティア隊員の災害出動時の欠勤手当については、企業の請求により技術援助庁から支払われる。他方、企業はボランティアの出動要請を拒否できないことが法律で定められている。ボランティアの開業医等には、出動手当を実際に支払うが、大企業の場合、慈善行為との考えに基づき社員の欠勤手当を請求することはまずない。」旨の回答がなされた。

3 ノルトライン・ヴェストファーレン州内務省

 議員団は、ノルトライン・ヴェストファーレン州の州都デュッセルドルフ市を訪れ、民間防衛を所管する州内務省を訪問した。

 ベーレンス内務相からは、「テロ、大惨事という新しい局面に遭遇している。予想がつかない大惨事が起こり得る。自然災害、大惨事に取り組む必要がある。当州でもこのような状況に対応し装備を整えている。ドイツは連邦制、分権制であり、地方自治体の役割が重要である。州、連邦政府は、地方自治体を支援し、補完する役割を担っており、地方自治体との協力・調整、情報の共有が重要である。また、欧州諸国間における協力体制の構築が大切である。先般ライン川の大洪水に際して、オランダと国境を接している当州は、ボランティアをオランダに派遣した。関係国が協力体制を組むことが必要であり、そのための協議が重要である。」との発言がなされた。

 州内務省のデューレン局長、フェイ部長からは、民間防衛、市民保護に係る州の役割について次のような説明を聴取した。

 「市民保護に関する州の役割は明瞭であり、州の担当部署は、法律の規定事項を実施する。大災害における市民保護は州の役割であるが、防衛事態における市民保護は連邦の役割であり、その場合、連邦政府は州の救助組織に任務を付与できる。連邦国民保護災害援助庁と州の担当部門とは、競合する部分があり、業務のレベル向上について競争意識がある。他方、技術援助庁について州の立場からすれば、経費面の理由から、技術援助庁は州の側に属しているものとも考えている。連邦政府は、技術援助庁に一億三千五百万ユーロを支出しているが、災害援助について連邦政府は、すべての州に対し総額四千五百万ユーロを支出しているに過ぎない。これに対し、当州だけで消防、災害援助に七億八千五百万ユーロを支出しているからである。州はその任務について消防隊・民間救助組織に委託している。各郡において統合化された緊急救助体制が構築されており、災害時には、管理センターから消防隊・民間救助組織に通報する。郡の救助隊は最大三十名程度までの被災者の災害が対象であり、それ以上の場合には、近隣自治体の救助隊に援助を要請することになる。」

 派遣議員からの「災害対応の第一義的責任」についての質問に、「災害地の市町村が第一義的責任を負うが、州内務大臣も共同責任を負担し、事態の深刻化に伴い州内務大臣の責任となる。洪水の場合におけるダムの開放などは、州の責任である。」旨の回答が、「各州の装備の整合性」についての質問に、「装備については、各州間で連携できるようにしている。旧東独地域とは技術的な相違があることから、装備の改善に努めている。」旨の回答が、「市民保護についての経費負担」についての質問に、「市町村における市民保護の経費については、市町村が大部分を負担し、州が一部を負担する。」旨の回答が、「災害援助についての技術援助庁との関係」についての質問に、「市町村、州により災害援助の対応ができない場合に、技術援助庁に出動を要請する。技術援助庁に対しては、地域の状況に応じて連邦政府が出動を発令する。」旨の回答が、また、「高齢者の救助体制」についての質問に、「災害の場合、相当数の高齢者は自力で避難している。二○%から三○%程度の高齢者については救助を必要とするが、救助隊員等が対応している。」旨の回答がなされた。

 以上のほか、ボン市内の民間防衛関連施設(地下鉄に併設されたシェルター)及びデュッセルドルフ市の危機対策中央指揮所を視察した。

四 フランス共和国

 フランスの民間防衛は、有事のみならず、災害、事故等も含め広く市民を保護するとの概念で把握されている。内務相が民間防衛の最高責任を負い、内務省に民間防衛・市民安全局が設置され、民間防衛に係る企画立案、関係機関との調整、各種の活動、教育訓練を所管している。全国七つの防衛管区に対応した管区長官、各県地方長官、市町村長が各レベルでの民間防衛を担当している。

1 内務省危機管理センター(COGIC)

 議員団は、パリ郊外のアニエール市所在の内務省危機管理センターを訪問し、ロピス次長から、危機管理体制、民間防衛について次のような説明を受けた後、施設を視察した。

 「危機管理センターは、内務省民間防衛・市民安全局に設置されており、重大災害等の場合において、情報を一元化するとともに、関係機関・団体間の調整を任務としている。関係機関・団体には、国家警察、国家憲兵隊、陸海空軍、消防、国鉄、気象庁、赤十字社、外務省等が含まれている。オペレーションルームは二十四時間体制で、不測の事態に備えている。災害等の危機管理体制については、国のレベルでは、内務省民間防衛・市民安全局が調整に当たる。その下のレベルでは、全国七つの防衛管区に対応した各管区の長官が管区内の調整を行う。管区の所在地には、管区ごとのオペレーションセンターが設置されている。県レベルでは各県地方長官が、市町村レベルでは市町村長が、それぞれ民間防衛の責任者となっている。消防、救急隊は、民間防衛を担う実動部隊の一つとして位置付けられている。全国で、職業消防士が約三万三千五百名、ボランティアで臨時に消防救急業務に就く消防団員が約二十一万六千五百名いる。さらに、パリ、マルセイユには、軍に所属する消防組織が置かれており、パリには約七千八百名、マルセイユには約千五百名が所在している。民間防衛・市民安全局は、国レベルの実動部隊として、軍に所属する市民安全訓練・介入部隊三隊(合計約千五百名)を指揮することができ、全国各地に投入が可能である。また、合計約六十機の航空機、ヘリコプターを保有している。」

 派遣議員からの「航空機墜落事故等の場合における救助の調整」についての質問に、「救助の調整は県レベルで対応する。危機管理センターは内務省を通じて、公共の秩序、安全に関わる事項、横断的な救助活動の調整について担当する。」旨の回答が、「ボランティアの年齢、訓練状況、隊員の手当」についての質問に、「十六歳から六十歳までボランティアに参加できる。消火活動、人命救助等の基本的な訓練があり、追加的訓練としてノウハウの維持、専門訓練等がある。ボランティアの消防隊員は、出動ごとに報酬を受ける。」旨の回答が、また、「災害救助に係る経費」についての質問に、「市町村レベルにおける救助活動に係る経費ついては、市町村で負担する。移動を伴う補強体制を組んで救助活動が実施された場合、激甚災害に指定された場合には国レベルで負担する。」旨の回答がなされた。

2 統合軍民活動グループ(GIACM)  

 議員団はリヨン市を訪れ、同市に所在するフランス軍の統合軍民活動グループを訪問し、フローデル司令官から次の説明を聴取した。

 「統合軍民活動グループは、二○○一年に新編され、二○○三年七月に編成を完結し、民生支援活動、人道支援活動の実施、一般部隊に対する指導等を任務としている。グループは百四十四名の人員で編成され、陸軍が七○%、海空軍その他各一○%で構成されている。軍民活動の目的は、軍事行動を展開している地域における危険性の低下、現地の住民感情の緩和等を図り、平和の回復を容易にすることである。具体的な任務は、緊急人道援助、復旧復興支援、民間救援組織の活動のための環境整備等である。軍民活動は、九○年代にバルカン半島での経験によりその重要性について認識が高まった。現在では、軍民活動を伴うことなくして、軍事行動の遂行は困難であると認識されている。当グループは、NATO、欧州諸国とのインターオペラビリティ(相互互換性)を図っている。事態に応じて二日から十五日以内に展開が可能なように即応態勢を整えている。当グループからの人員以外に、一般部隊、予備役からも招集し展開する。二○○四年七月現在、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アフガニスタン、アフリカ諸国等で活動中である。」

 派遣議員からの「部隊の状況」についての質問に、「部隊の恒常的な要員の四○%から五○%が国連の平和維持活動等に派遣されている。二○%から三○%が教育訓練あるいは出動後の休暇中であり、残余が日常的業務、即時出動可能人員である。」旨の回答が、「軍民活動に係る予算」についての質問に、「海外に出動する場合、統合参謀本部により数十万ユーロ単位の経費を支出することになる。ケースに応じて、EU、国連の基金からの拠出を受けることもある。一部のプロジェクトについては、地方自治体から支援を受けるものもある。」旨の回答が、「派遣に係る事前の検討」についての質問に、「効果的な対応を図るため、緊張状態にあるような地域について、あらかじめ情勢を検討しており、カントリーブックと呼ばれるものを作成している。これには、当該国の危機的状況、経済社会情勢、NGO・国際機関の存在等について記載している。第二段階の準備として、国際赤十字、国連難民高等弁務官事務所等から情報の入手に努めている。」旨の回答が、また、「日仏協力の場合におけるシステムの整合性」についての質問に、「平時でも、国連、NATOのシステムとフランスのシステムには相互互換性がある。アフガニスタンでは、フランス、米国、英国、トルコが共同して任務に就いており問題はないと承知している。」旨の回答がなされた。

3 上院議員主催昼食会

 リヨン市において議員団は、ベッソン上院議員(仏日友好議員連盟メンバー)の主催による昼食会に招かれた。席上、ベッソン上院議員から「知的で勤勉な日本国民、文化・伝統と経済力のある日本に敬意を表する。欧州統合が進む過程で、日仏関係を一層強化していきたい。」旨の挨拶がなされ、これに対し田村団長から「日本が普通の国になるべく民間防衛を調査するために訪問した。関係者の配慮に深く感謝したい。たいへんすばらしい日仏の交流ができた。」旨謝辞を述べた。同席のリヨン方面総監バリエ陸軍中将からは「フランスでは、軍による民間への協力・支援について考えており、国内外で軍事的要素を持った民生協力を実施している。」旨の発言がなされた。

 このほか、議員団は、リヨン市所在のローヌアルプ地域圏議会を訪問し、マルティネ同議会事務局長から、フランスの地方自治制度及びローヌアルプ地域圏に関する説明を聴取した。

五 終わりに

 当議員団に対し、訪問先の方々には、国家の存立、社会の安全、住民の保護という崇高な職責に携わる気概と誇りを持って、緊急事態対処体制、民間防衛制度について懇切に説明され、質疑に対し丁寧に応じて頂いた。厚く感謝申し上げる。

 訪問国では、緊急事態対処に係る国民の理解・協力の増進、住民の主体性・参加に配慮した対処体制の整備、総合的なテロ対策の確立等の諸施策について政府民間を挙げた取組が進められていることを銘記したい。

 最後に、今回の派遣に関して多大なご協力を頂いた内閣官房、防衛庁、総務省消防庁、外務省の方々、関係在外公館の各位に感謝申し上げ、報告を終わる。