質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第五四号

障害者欠格条項に関する政府の姿勢に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十二月六日

浜田 聡


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   障害者欠格条項に関する政府の姿勢に関する質問主意書

 令和四年(二〇二二年)十一月十五日、名古屋高等裁判所にて、令和三年(ネ)第八三三号・同四年(ネ)第一八二号事件(判例集未登載)についての判決が言い渡された。

 同判決は、原審・岐阜地方裁判所・令和三年十月一日判決(平成三十年(ワ)第九号、判例時報二五三〇号六十三頁)の控訴審判決である。

 すなわち、原審は、被保佐人であることを警備員の欠格事由と定める警備業法(令和元年法律第三十七号による改正前のもの)第十四条、第三条一号は、同規定の制定当初から、憲法第二十二条第一項(職業選択の自由)、第十四条第一項(法の下の平等)に反する状態であったと判断した上で、遅くとも平成二十九年(二〇一七年)三月二十日までに前記各規定を改廃しなかった国会の立法不作為は国家賠償法第一条第一項の適用上違法であるとし、十万円の国家賠償請求を認容したものである。

 そして、控訴審は、同様に成年後見制度利用者の就業を認めていなかった平成二十九年(二〇一七年)当時の警備業法の「欠格条項」について、憲法の職業選択の自由(第二十二条第一項)と法の下の平等(第十四条第一項)に違反するとして、認容する国家賠償請求を五十万円に増額した。

 なお、同控訴審判決は、左記のとおり、その違憲判断に至る理由の中で、障害者権利条約に何度も言及し、その重要性を認めている。

 「障害者権利条約においても、前文で、締約国の認識として、「障害者の多様性を認め」(ⅰ)とされ、締約国は、「障害者に関する定型化された観念、偏見及び有害な慣行」と戦うことのための即時の、効果的なかつ適当な措置をとることを約束する(八条一項(b))などとされているのである。」

 「平成二十六年一月に障害者権利条約を批准しても、(中略)本件規定をそのままにして放置していたのである。(中略)障害者権利条約を批准したことにより、障害者に対する差別となる既存の法律・規則等を修正し、又は廃止するための全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止する等の措置をとることなどが求められていたのである(障害者権利条約は、憲法十三条、十四条、二十二条一項等の規定の趣旨とも軌を一にするものであるところ、これを批准しても、これによって求められている措置が国政において実施されなければ、国際的に条約に加わったという形だけのものになってしまうのである。)から、本件規定を改廃しなかった立法不作為の違法性は大きいと言わざるを得ない。」

 また、憲法第九十八条第二項「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」の下、日本は批准した条約に関して、特別な条約実施法を制定せずとも、国内法的効力を有するという仕組みを採用している。

 そのため、批准済みの国際人権法を遵守する義務があるということは、当該条約の公権的解釈を示す国際機関の示す解釈を、政府は尊重する義務があると考えるべきである。

 一方で、令和四年八月には、スイス・ジュネーブの国連本部にて二日間、日本が障害者権利条約の締約国となってから初めての審査(建設的対話)が開催され、同年九月九日には、国連障害者権利委員会が日本に対する左記の総括所見(Concluding observations on the initial report of Japan)を公表した。左記は原文を当方で和訳したものである。

 「委員会は懸念する。

 一般原則と義務(一~四条)の部分で(中略)

 (c)「意思無能力」「精神錯乱」「心神喪失」などの蔑称や、「心身の障害」を理由とする欠格条項などの差別的な法的制限。」

 「General principles and obligations (arts. 1―4)

 The Committee is concerned about:(中略)

 (c)Derogatory terminology, such as “mentally incompetent”, “mental derangement” and “insanity”, as well as discriminatory legal restrictions, such as disqualifying clauses, based on “physical or mental disorder”;」

 「委員会は勧告する。(中略)

 (c)国内法及び条例において、「心身の障害」に基づく軽蔑的な表現及び欠格条項などの法的制限を廃止すること。」

 「The Committee recommends that the State party:(中略)

 (c)Abolish derogatory language and legal restrictions, such as disqualifying clauses, based on “physical or mental disorder”, in its national and municipal legislation;」

 右を踏まえて、以下質問する。

一 名古屋高等裁判所の控訴審判決に対し、国は、上告又は上告受理申立てをしたのか。

二 国連障害者権利委員会の公表した総括所見の内容に対し、法的拘束力は無いとしても、政府は、従うつもりはあるのか。従うつもりがあるとすれば、法改正予定の具体的な時期及び内容を示されたい。

 なお、本質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、転送から七日以内での答弁は求めない。国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内には答弁されたい。

  右質問する。