質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第一五号

連邦海外腐敗行為防止法の適用例に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年一月二十三日

熊谷 裕人


       参議院議長 山東 昭子 殿



   連邦海外腐敗行為防止法の適用例に関する質問主意書

 連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)は、米国の連邦法であり、二つの主要な規定を有することで知られている。第一は外国公務員、外国の政党、もしくは、政治職の候補者(以下「外国公務員等」という。)に対する賄賂の支払を禁止する規定(賄賂禁止規定)であり、第二は証券取引法に基づく会計の透明性を要求する規定(経理規定)である。
 賄賂禁止規定では、米国の上場企業、国内企業、又はいかなる者であっても、不正に、外国公務員等に対して、外国公務員等がその義務に反する行為をするように影響を与える目的で、又は、取引を獲得し、もしくは維持するために、いかなる有価物であってもその支払をし、もしくはその申し出をするために、州際通商における手段を利用することを禁止している。
 また、前述のような違法な支払や申し出を実現するための行為を、米国の上場企業や国内企業が米国外で行ったり、米国の上場企業でも国内企業でもない者(米国に上場していない外国企業や外国個人)が米国内で行うことも禁じられている。また、外国公務員等に直接賄賂を支払うことは勿論、第三者(仲介者、エージェント等)を通じて間接的に支払うことも禁じられている。
 米国の司法省(DOJ)や証券取引委員会(SEC)は、米国内で「会合」を開いたり、米国の銀行の口座を経由して「送金」したり、米国人や米国企業(ニューヨーク証券取引所等で上場している日本企業を含む)と「共謀」をしたりしているといった事由をとらえて米国連邦法の管轄権を主張し、FCPAの「域外適用」を押し進めてきた。これらの摘発は二〇〇七年頃から激化している。
 この流れは、G・W・ブッシュ政権(共和党)にはじまり、続くオバマ政権(民主党)でも受け継がれ、トランプ政権(共和党)でもFCPAの域外適用による摘発件数は高止まりしたままで、FCPAによる摘発動向は政権が民主党か共和党かは直接の関係はないと指摘されている。
 加えて、他国に対する通商政策で「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ政権では、このFCPAの恣意的運用がなされる懸念があるとの指摘もあり、日本の企業にFCPAの適用がなされると、企業活動に大きな影響を及ぼす懸念がある。
 SECやDOJは、賄賂の受取人の肩書きを考慮してFCPAを運用しているわけではなく、FCPAに規定する「外国公務員等」について、ほぼ無制限といってよいほど広範囲の者が「外国公務員等」に該当するとの見解をとっている。また、FCPAによる罰金額上位の企業には外国企業が多く、アメリカ連邦政府により狙い撃ちされているという懸念を持たざるを得ない。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 過去五年のFCPAによる日本企業もしくはその子会社の摘発例は何件か。また、年度毎の罰金の総額はどの程度か。政府の把握しているところをそれぞれ示されたい。

二 トランプ政権になり、日本企業もしくはその子会社に対するFCPAの適用事案は増加したと考えているのか。政府の見解如何。

三 日本の市場に上場する米国企業もしくはその日本国内の子会社が第三国の公務員に対して贈賄等を行った場合、贈賄等を行った者を日本の現行の法令で処罰できるのか。できるとすれば、その法令と条文を示されたい。

四 FCPAに規定する「外国公務員等」について、ほぼ無制限といってよいほど広範囲の者が「外国公務員等」に該当するとの見解があり、また、第三者(仲介者、エージェント等)を通じて間接的に報酬を支払うことも禁じられているため、処罰の対象範囲が極めて広範囲になるとの指摘がある。経済産業省の知的財産政策室が過去に行った委託調査では、日本企業は、「FCPAに関する認識が希薄」との報告がなされている。日本企業もしくはその子会社の経済活動を萎縮させる懸念があるため、FCPAの適用範囲について明確な基準を得る必要があると思われる。このため、日米政府の関係当局はFCPAの運用について協議すべきではないか。政府の見解如何。

五 FCPAに基づく摘発対象になり、罰金を科せられた場合、その金額は莫大になる傾向が認められ、企業の利益に壊滅的な打撃を与えるとの指摘がある。グローバルに展開する日本企業の担当者の多くは日本政府の取り組みは不十分だと指摘しており、結局のところ自ら企業防衛を行うほかないと考えていると承知しているが、日本企業もしくはその子会社に対して、日本政府としてFCPAについての啓蒙活動をどのように行い、日本企業もしくはその子会社のコンプライアンスの向上、企業利益の保護にどのようにあたっているのか。現時点での政府の取り組み如何。

  右質問する。