質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第二〇三号

若者のセックスを真剣に考えることに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年七月十九日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   若者のセックスを真剣に考えることに関する質問主意書

 近年の子どもたちの性を取り巻く環境は深刻な事態となっている。望まずとも暴力的・性差別的なポルノ情報にさらされたり、逆に性的商品として消費されたりする例が後を絶たない。
 厚生労働省資料によれば、二〇一六年度には、一日平均四十人の未成年が人工妊娠中絶をしたとされる。全体として人工妊娠中絶数は減っているものの、十五歳で六百十九件、十四歳以下でも二百二十件の中絶があり、その数はほぼ横ばいのままである。さらには児童虐待死で最も多いのは生まれたその日、という現実があり、加害者となる母親の多くは妊婦検診未受診、母子手帳未交付の状態で、ゼロ日目の死亡については全て医療機関以外の自宅等での出産である。他方、文部科学省によれば、公立高校において、妊娠した高校生が通学や休学を希望したにも関わらず学校側が退学を勧めるという、教育を受ける権利の侵害とも受け取れるケースが二〇一五年度から二〇一六年度の間に三十二件も確認された。さらには梅毒感染が二十代で拡大しているなど、若者は性を通じて様々な形で社会の中で周縁化され、脆弱化させられ、望まない妊娠や性感染症など、時に命に関わる危機にまでさらされている。
 性教育をはじめとする子どもや若者の性を取り巻く環境を考えれば、若者に「自己責任」を求めるのではなく、政府には、若者の自己決定、健康、未来を守るため、施策を講じる責任があると考える。
 以上の観点から、以下、質問する。

一 現在、中学校の保健体育の学習指導要領は、「妊娠の経過は取り扱わない」という、いわゆる「はどめ規定」によって「性交」を教えてはならないものと「解釈」されている。その結果、教師自身も性教育の実施に躊躇し、例えばエイズの主な感染経路が性的接触であるとは教えられても、そもそも性的接触が何か、そのリスクや意味を充分に伝えられていない。一方、朝日新聞の二〇一八年五月の調査によれば、「セックス(性交)」という言葉自体を知る時期の九割は中学生以下、そして情報源の九十三・六パーセントが友人やメディアなどとの結果が出ており、子どもたちは自分を守るための正しい知識や術を得る機会がなく、自分の望む、望まないに関わらず玉石混淆の性的情報に晒されていることが伺える。更に、二〇一八年五月十一日放送のテレビ番組「スッキリ」の調査によれば、「中学三年生に性交・避妊について詳しく授業するのはありなし」との質問に、四万人近い回答者のうち約九割が「あり」としており、多くの保護者たちも近年は性教育の実施を望んでいる。このように、現行の学習指導要領と、若者の直面する現実や保護者の希望との間に乖離があり、他教科では「はどめ規定」の見直しが進んでいるにも関わらず、中学校の保健体育の学習指導要領においてはいまだ「はどめ規定」が存在するのはなぜか、教育現場を不当に萎縮させないためにも「はどめ規定」を撤廃すべきではないか。

二 アジア諸国を含め多くの国で、UNESCOをはじめとする国連機関によって作成された「International technical guidance on sexuality education」(以下「ガイダンス」という。)を国の性教育プログラムに組み込んでいる。ガイダンス策定に当たっては世界中の研究結果が集められその効果が検証されたが、その結果、ガイダンスに沿った性教育は、性交開始年齢やコンドーム使用率を上昇させ望まない妊娠やリスクの高い性行為を減らすことが証明されている。日本でも、医師らの努力で積極的に性教育を行った富山市、秋田県では、それぞれ九年間、七年間で十代の人工妊娠中絶数が約三分の一まで減少した事例が報告されており、性教育の有用性は明らかである。政府はガイダンスの我が国における有用性についてどのように受け止めており、また、今後和訳して活用するつもりがあるか、民間によるガイダンスの和訳版の活用も含めて見解を明らかにされたい。

三 二〇一一年の日本性教育協会の調査によれば、若者の性に関する情報源としてインターネットが多く挙げられているが、インターネット上では、企業広告や個人による断片的で虚偽が混じるような情報が乱立している状態で、全ての子どもたちが安心して頼れる、科学的証拠に基づいた性に関する包括的内容を扱うウェブコンテンツは皆無である。学校でも正しい情報を得られない中、不確かな情報に囲まれ不安や悩みを抱え、正しい判断をできない状況に追い込まれる子どもたちは少なくない。性に関する包括的な内容を扱うウェブコンテンツを、政府が主導し民間と連携することによって整備し、子どもたちや若者の健康・権利を守るべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 現在日本において認可されている女性主体の避妊法は低用量ピルとIUDのみであるが、世界では様々なニーズにあわせた避妊法が開発されており、WHOの必須医薬品モデルリストにはこの二種類以外に避妊インプラント、避妊注射、避妊ダイアフラム、避妊リングが掲載されている。これらはいずれも、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pmda)が承認審査をする際に比較検討の対象国としている米英独仏の四カ国では認可されており、保険適用や補助金で無料化されている国も少なくない。イギリスではNHSによって、年齢に関係なく殆どの避妊具が無料であり、ドイツでは二十歳以下は保険適用されている上に、低所得者向けに無料トライアルもはじまっており、フランスでは十五歳から十八歳はピル、インプラント、避妊手術が無料、フィンランドでは三十五の自治体で無料化され、中絶が二割も減ったという研究結果が出ている。
 他方、日本では低用量ピルが未産婦にも認可されたほぼ唯一の方法だが、その価格は一カ月分で二千から三千円と米英独仏四カ国と比べて高額である。緊急避妊薬のOTC化が否決され続け、高額であることと相まって緊急避妊薬のアクセスが阻害されているとの指摘がある日本においては、事前の避妊手段の多様化と低廉化、アクセシビリティの向上が、望まない妊娠を減らし、女性のキャリアやライフプランを応援するために重要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 現在、第二次犯罪被害者等基本計画等の流れを受け性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが全国に配置されていることは、被害者救済のための大きな一歩である。しかし、同センターの配置は各都道府県に一カ所と、若者にとって極めて遠い場所であるとともに、性教育が不十分な若者は、そもそも性暴力が何かをきちんと学んでおらず、性暴力を受けていたとしてもそれを認知できない子どもたちや、何らかの生きづらさによって心身が傷つきながらも無防備な性行為を止められない若者には、同センターへのアクセスは困難である。
 他方、東京都の人口より少ないスウェーデン全土には、ungdomsmottagningという施設が二五〇カ所以上も置かれており、中学校の社会科見学でも訪問先に組み込まれている。そこでは、助産師、看護師、カウンセラー、セクソロジスト等が常駐し、必要であればソーシャルワーカーなどとも連携する。性感染症チェック、避妊具、人間関係等の悩み等も含めたカウンセリング等を無料・安価で提供し、若者が性暴力や望まない妊娠などに直面する前から、性に関しても安心して相談できる、性に悩む若者にとって非常に敷居が低い施設となっている。
 ガイダンスにおいて指摘されているが、若者にとって、特に性に関する悩みを安心して話せるのは、無料ないし金額が安く、プライバシーが守られ、専門家に相談できる、若者に寄り添う場である。
 また、妊娠に関する相談を受けつける一般社団法人「にんしんSOS東京」の伝える現状では、誰にも言えないまま中絶可能期間を過ぎてから訪れるケースも多い一方、生理が遅れている、避妊に失敗したかもしれないという、妊娠したかまだ不明という時点での相談も多いという。以上を総合して考えれば、性に関して、それがたとえ命に関わることだとしても声を上げにくい社会だからこそなお一層、「性暴力」に限定することなく、大きな問題を抱えてしまう前の段階から、若者の幅広い悩みやニーズに対して安心して専門家に頼れる場所を設置し、幅広い若者に手をさしのべていくことが必要ではないか。同センターに、若者の健康支援の観点からの機能を追加することについて、LINEやYoutubeで相談窓口を開くなど、若者にとって同センターの敷居を低くする方策の検討も含め、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。