質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第一三二号

奄美大島における大型クルーズ船寄港地開発による社会環境への影響に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年六月十二日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   奄美大島における大型クルーズ船寄港地開発による社会環境への影響に関する質問主意書

 琉球列島は、島嶼生態系として世界的に貴重な保全すべき地域である。しかし先般、政府が世界自然遺産に推薦した「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島県、沖縄県)を、国際自然保護連合(IUCN)が「登録延期」と勧告したことからも明らかなように、生態系を保全するための具体的な施策が行き届いているとは言い難い。よって、以下質問する。

一 国土交通省港湾局は二〇一七年八月、島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査(以下「本調査」という。)の結果を発表した。これは南西諸島のうち奄美大島と徳之島をモデルケースとして調査を行い、寄港地開発の候補地の評価等を行ったものだが、本調査はいつ計画され、いつからいつまで実施されたのか。

二 本調査におけるモデルケースとして、奄美大島と徳之島を選んだ理由及び経緯を明らかにされたい。

三 本調査の実施について、産業界、地元自治体または国内外の客船やツアーを企画・運営する企業からの要望、関与があったのであれば、その事実を明らかにされたい。

四 本調査の結果を受けて、政府、地元自治体、産業界では、奄美大島での大型クルーズ船の寄港地開発に向け、それぞれどのような取り組みを行っているのか。今後のスケジュールや手続きも含めて明らかにされたい。また、誰が当該寄港地の開発主体となることを想定しているのか。

五 本調査の結果の公表に先立ち、アメリカに本社を置くロイヤル・カリビアン・クルーズ社(RCL)が奄美大島の龍郷町にある芦徳集落に寄港施設の建設を計画し(以下「本計画」という。)、二〇一六年六月に複数回行われた同町主催の町民意見交換会で本計画を説明したことをもって、客船ターミナル施設や陸上リゾートの建設を強引に進めようとしたとの情報があるが、以上に関する事実関係について政府の把握するところを明らかにされたい。

六 本計画に対し、自然保護団体、漁協、産業界などから大きな反対運動が起こり、地元紙でも大きく取り上げられた。町としても断念したことで、本計画は頓挫したが、政府として本計画が地元の反対により頓挫した事実をどのように受け止めているか。

七 奄美大島の瀬戸内町にある西古見集落は住民が四十名ほどの小さな集落だが、本調査の結果の公表にともない、住民の間で深刻な混乱が起こっていることについて、政府の見解を明らかにされたい。また、奄美大島の自然環境の環境収容力(Carrying capacity)を上回る観光客が同島の自然環境に与える影響を政府はどのように分析しているのか明らかにされたい。

八 瀬戸内町は、大型クルーズ船寄港地誘致について同町内の集落での説明会の後、賛成署名を取りまとめ、鹿児島県に対し誘致実現に向けた支援を求める要望書を提出しているが、以上について政府は事実関係を把握しているか。その後、地元漁協が署名を撤回するなどしたことを受け、同町が正式に同県への要望書を撤回しているが、この事実を政府はどう受けとめているのか。

九 本調査は、風光明媚な小集落の暮らしや住民感情にしこりを残す結果となり、地元紙でも経緯が大きく報じられている。本計画が頓挫したことを含め、奄美大島内に大型クルーズ船寄港地を誘致することに拒否反応が起こっていることについて、政府の見解を明らかにされたい。

十 国際的な自然保護団体であるWWFジャパンが作成した南西諸島生物多様性優先保全地域地図(BPAマップ)において、本調査における奄美大島の寄港地開発の候補地のうち既存港湾を除くほとんどの地点が生物多様性優先保全地域または重要地域に含まれていることについて、政府の見解を明らかにされたい。

十一 二十万トンを超える大型クルーズ船が奄美大島に寄港した場合、その乗客数を想定すると、急峻な地形による陸上交通インフラの制約、飲食店や物産・観光施設などにおける資源流通や廃棄物管理の許容量上の制約から、奄美大島の寄港地周辺の地域社会や文化、生活環境への深刻な悪影響を及ぼすことが懸念されるが、政府の見解を明らかにされたい。

十二 森林や夜行性の在来希少種の保全を考慮した、観光事業者によるルール作りや自主規制が不備であったことなどが、奄美大島等の世界自然遺産への登録が延期された理由のひとつであったと考えられる。観光事業者によるルール作りや自主規制が不備のまま奄美大島における大型クルーズ船の寄港地開発を進めることは、地域の生態系に不可逆的な悪影響を与えると懸念するが、政府の見解を明らかにされたい。

十三 外来生物により生態系が脅かされている奄美大島における大型クルーズ船の寄港地開発事業は、自然保護団体や関係学会だけでなく、島の住民からも大きな反対が予想されるのではないか。

十四 南西諸島における大型クルーズ船の寄港地については、環境や社会面でのキャパシティを科学的に評価した上で、那覇港など既存の港湾施設を活用するべきであり、南西諸島の自然資源の保全と利用の観点から大型クルーズ船の寄港地開発は新たに行うべきではないと思料するが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。