質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第一一二号

実験動物の獣医学的ケアの必要性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年五月二十二日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   実験動物の獣医学的ケアの必要性に関する質問主意書

 国家戦略特区における獣医学部新設に関しては、「「日本再興戦略」改訂二〇一五」において示されたいわゆる「石破四条件」において「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかに」なることが条件のひとつとされた。また、平成二十九年六月一日の参議院内閣委員会において山本内閣府特命担当大臣(地方創生)は「具体的には、近年の創薬プロセスでは、基礎研究から人を対象とした臨床研究の間の研究、いわゆるトランスレーショナル研究で、実験動物を用いた臨床研究など獣医師の知見を活用した研究が重視されてきております。」との答弁を行っている。しかし、同答弁にいう「獣医師の知見」とは具体的に何を指すのかについて、政府の認識に欠落があるのではないか。
 実験動物には獣医学的ケアが必要であり、それを担保するための動物実験における獣医師の役割を明確にするということは、EU、アメリカ、オーストラリア、韓国等諸外国では法律もしくは指針等で行われており、国際実験動物ケア評価認証協会(AAALACインターナショナル)による国際的な動物実験施設の認証制度においても非常に重要視されている。
 また、日本の動物実験施設には獣医師がいない場合も多いと考えられる。静岡県では例年、県の動物愛護管理推進計画に基づき実験動物取扱施設に対する立入調査及び指導を行っているが、平成二十八年度の記録によれば、獣医師が実験動物管理者となっているのは五十一施設中九施設のみであり、残りの施設では主に技術者等が実験動物管理者の職務に当たっている。
 「動物の愛護及び管理に関する法律」においては、実験動物の苦痛の軽減がうたわれているが、実験動物の苦痛を軽減するための具体的な方法や獣医学的ケアを行う獣医師の役割については明確に規定されておらず、動物実験施設には必ずしも獣医師が配置されていない。このような状況でどうやって実験動物の苦痛の軽減の実効性を担保するのか。また、実験動物に対する獣医学的ケアを担保する法令上の定めすらない日本のライフサイエンス研究が、国際水準を満たすと今後もみなされ得るのか。
 以上から、加計学園の獣医学部新設に関しては、実験動物にできる限り苦痛を与えずに扱うための管理獣医師の役割の重要性が国際的に高まっていることについての認識が欠けたまま、動物実験における獣医師の役割を法令上明確にすることなく、獣医学部新設のみを進める形で議論が進められたと考える。獣医学部新設を最優先課題とするのではなく、まずは実験動物の獣医学的ケアに関する基本的な施策に取り組むべきではなかったのかとの観点から、以下、質問する。

一 動物実験においては、麻酔・鎮痛剤等の使用や、動物の苦痛度から判断される実験の人道的エンドポイントの設定や指示、術後の適切な体調管理等、実験動物の福祉に関し獣医師の診断・技術を必要とする場面が多々存在する。前記山本大臣の答弁における「獣医師の知見」という言葉には、実験動物の福祉に関する獣医師の知見が必要だという認識は含まれていたか否か。

二 国際獣疫事務局(OIE)の陸生動物衛生規約第七・八章における獣医学的ケアに関する規定では、「獣医師の助言及びケアは、いつでも受けられるようにすべきである。」とされているが、この規定は日本のどの法律の条文に反映されているのか。

三 国家戦略特区において獣医学部新設を認めるに当たって、実験動物の福祉を獣医師が担うということに関する国際的要請の動向や、これに対応する各国の制度及び日本の法令の対応状況についての調査・検討等は行ったのか。

四 国家戦略特区において獣医学部新設を認めるに当たって、日本に動物実験を実施している施設は何か所あり、そのうち実験動物の福祉を担う目的で管理獣医師を配置している施設は何か所あるか把握していたか。また、現時点における施設数をそれぞれ示されたい。

五 国家戦略特区において獣医学部新設を認めるに当たって、日本の動物実験施設における、実験動物の福祉を担う目的での管理獣医師の配置に関する動向の調査は行ったのか。行っていた場合、管理獣医師の配置は増加傾向にあるか、減少傾向にあるか。また、管理獣医師の需給はどのように予測していたか。

六 前記三から五までの調査・検討等を一つでも行っていない場合、いわゆる「石破四条件」のうちの「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかに」なることという条件を満たしていなかったと考えるべきではないか。既に加計学園の獣医学部は開設されているが、今からでも実験動物の獣医学的ケアについて法律上明確に位置づけるとともに、日本の動物実験施設での獣医学的ケアに関する実態調査を行うべきではないかと考えるがいかがか。

  右質問する。