質問主意書

第194回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

「解散は総理の専権事項です」との認識に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年九月二十八日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「解散は総理の専権事項です」との認識に関する質問主意書

 菅義偉内閣官房長官は、平成二十八年十月三日の定例記者会見において、記者からの衆議院の解散に関する質問に対し「私、前から申し上げておりますけれども、衆議院の解散というのは、申し上げるまでもなく、総理の専権事項でありますから、いずれにしろ総理がやると言えばやる、やらなければやらないと(中略)総理ご自身が一番タイミングのいいときに考えられるわけで、それ以上でもなくて、それ以下でもないと思います。」と述べ、さらに、平成二十九年九月二十日の定例記者会見においては「解散は総理の専権事項です。憲法で保障されています。それに尽きます。」と断言した(以下「菅長官答弁」という。)。
 以上を踏まえて、衆議院の解散決定権(以下「解散権」という。)に関する安倍内閣の認識を確認すべく、以下質問する。

一 従前より我が国政府は衆議院の解散について、「内閣が実質的に衆議院の解散を決定する権限を有することの法的根拠は、憲法第七条の規定である。」との認識を示しているが、現在の安倍内閣の認識もこれと何ら異なることなく同じか、明確に示されたい。現在の安倍内閣の認識がこれと異なる場合は、如何なる認識を有しているのか明確に示されたい。

二 菅長官答弁では衆議院の解散について、「申し上げるまでもなく、総理の専権事項でありますから、いずれにしろ総理がやると言えばやる、やらなければやらないと(中略)総理ご自身が一番タイミングのいいときに考えられる」及び「解散は総理の専権事項です。憲法で保障されています。」との認識が示されたが、現在の安倍内閣の認識もこれらと何ら異なることなく同じか、明確に示されたい。現在の安倍内閣の認識がこれらと異なる場合は、如何なる認識を有しているのか明確に示されたい。

三 前記一及び二に関して、衆議院の解散についての現在の安倍内閣の認識が、従前より我が国政府が示してきた認識と何ら異なることなく同じであり、かつ菅長官答弁により示された認識とも何ら異なることなく同じである場合、衆議院の解散を「申し上げるまでもなく、総理の専権事項であります」及び「解散は総理の専権事項です。憲法で保障されています。」とする菅長官答弁により示された認識と、従前より我が国政府が示してきた「内閣が実質的に衆議院の解散を決定する権限を有することの法的根拠は、憲法第七条の規定である。」との認識とが同義であるとの理解でよいか、安倍内閣の認識を明確に示されたい。

四 平成二十九年三月に衆議院憲法審査会事務局が衆議院憲法審査会に供する資料として作成した「「参政権の保障をめぐる諸問題」に関する資料」(衆憲資第九二号)の「解散権の在り方」には「解散の実質的決定権の所在」に関する様々な憲法学説が示されているが、これらの何れにも、解散権が内閣総理大臣の専権事項として憲法によって保障されているとの解釈を示しているものは存在しない。これを踏まえれば、菅長官答弁により示された「解散は総理の専権事項です。憲法で保障されています。」との認識は、我が国における様々な学説とは全く異質な極めて稀有な認識と言わざるを得ないが、当該認識は菅官房長官の私見であるのか、あるいは安倍内閣独自の見解であるのか、明確に示されたい。加えて、「専権」とは「権力をほしいままにすること」と解されるところ、内閣総理大臣がその権力をほしいままに衆議院の解散を決定できることを保障する旨明記している条項が、現行の日本国憲法に存在するのであれば、その条文とともに明確に示されたい。当該条項を明確に示すことができない場合は、菅長官答弁により示された当該認識は、憲法に対する理解を著しく欠いた誤った認識であると言わざるを得ず、加えて解散権に対する我が国の憲法学説及び国民の正確な理解を著しく混乱させるものであることから、国民に対して謝罪の上、当該発言を撤回し訂正すべきと考えるが、安倍内閣の認識如何。

五 平成二十九年六月二十二日、衆参各院の野党議員が憲法第五十三条に基づき、安倍首相に宛てて「臨時国会召集要求書」を提出した。以後三箇月以上にわたって臨時会は召集されなかったが、その具体的理由を明確かつ丁寧に説明されたい。

六 憲法第五十三条に基づき、臨時会の召集の決定について適正な手続きに則って求められたにもかかわらず、以後三箇月以上にわたって内閣が臨時会の召集を決定せず、かつ臨時会の冒頭に衆議院を解散した例は、我が国の憲政史上何例あったか、具体的かつ網羅的に全て示されたい。

七 内閣が内閣改造を行った後に、当該改造後の閣僚が一度も国会会期中の本会議及び委員会に出席し、答弁に立つことなく衆議院を解散した例は、我が国の憲政史上何例あったか、具体的かつ網羅的に全て示されたい。

八 前記四の衆憲資第九二号の六十四頁では、芦部信喜「憲法(第六版)」(岩波書店、二〇一五年)の「解散権の限界」に係る記述を引用しており、これによれば、「解散は、憲法六十九条の場合を除けば、(一)衆議院で内閣の重要案件(法律案、予算等)が否決され、または審議未了になった場合、(二)政界再編成等により内閣の性格が基本的に変わった場合、(三)総選挙の争点でなかった新しい重大な政治課題(立法、条約締結等)に対処する場合、(四)内閣が基本政策を根本的に変更する場合、(五)議員の任期満了時期が近接している場合、などに限られると解すべきであり、内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は、不当である。」との認識が示されている。平成二十九年九月二十八日現在の我が国は、前記(一)から(五)の何れかに該当する状況にあるか、明確に示されたい。我が国が前記(一)から(五)の何れかに該当する状況である場合は、その該当する項目を明示の上、その状況が如何なるものであるのか具体的かつ詳細に示されたい。

  右質問する。