質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第一八八号

内閣参質一八九第一八八号
  平成二十七年七月七日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員山本太郎君提出漢方医学と漢方薬を日本と世界に全面展開することに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員山本太郎君提出漢方医学と漢方薬を日本と世界に全面展開することに関する質問に対する答弁書

一の1について

 本年六月に北京において開催された国際標準化機構(以下「ISO」という。)の伝統医学についての専門委員会(TC249)(以下「専門委員会」という。)において、専門委員会の名称が伝統中医学(TCM、Traditional Chinese Medicine)に決定されたことは事実である。
 お尋ねの決定に至る経緯としては、まず、専門委員会の開催に先立ち、専門委員会の名称について特に関係が深い日中韓で事前協議したものの合意に至らず、専門委員会の場において他国も含めた意見を求めることとなったものである。その後、専門委員会においては、我が国が提案した案も含め、各国から提案された八案について、参加した十二か国が投票を行い、当該投票における上位の二案で再度投票を行ったところ、専門委員会の正式名称を伝統中医学とすることについて決議されたと承知しているが、我が国は決選投票を棄権している。なお、投票は無記名投票であるため、各国の詳細な行動については、把握していない。

一の2及び3について

 東洋伝統医学の正式名称が伝統中医学に決定されたことについては、当該決定についてはあくまで専門委員会の名称について決定されたものであり、現時点で我が国の医療の内容に特段の影響があるとは考えていない。なお、お尋ねの「韓国の韓医学」への影響については、政府として把握しておらず、お答えすることは困難である。
 また、御指摘の「中国の標準化国家戦略」及び「東洋伝統医学の国際標準化」の意味するところが必ずしも明らかでないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、政府としては、漢方医学及び漢方薬についてもその活用を図ることは重要であると考えており、産業界及び学会の専門家や政府関係者等で構成する日本東洋医学サミット会議における日本から提案する国際標準案の作成、他国からの提案に対する対応及びISOの国際会議への出席等に対して必要な財政的支援を行っているところである。

一の4について

 お尋ねの世界保健機関(以下「WHO」という。)の疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)については、現在、第十一回の修正版(以下「ICD―11」という。)の作成に向けた作業が進められているが、ICD―11において初めて伝統医学の分類項目が加えられ、ここに我が国の漢方医学分野も取り入れられることとなっている。
 我が国は、伝統医学を実践する主要国の一つであり、厚生労働省は、ICD―11を作成するためWHOに設置された伝統医学分野の専門部会等に担当者を派遣し、我が国の漢方医学の考え方が反映できるよう当該専門部会の共同議長である国内の専門家を支援してきたところである。また、我が国におけるWHO国際統計分類協力センターは、ICD―11作成に向けた検証や準備作業において、分類項目の提案、翻訳等の協力をしてきたところであり、こうした支援について引き続き取り組んでまいりたい。

一の5について

 御指摘の「北里大学東洋医学総合研究所と富士通グループによる、ICTを用いた漢方医学の取組」については、二者が協働して、漢方医が経験的・感覚的に実施している腹部触診に係る診断を客観化するための国際標準案を提案したものであるが、現在、専門委員会の了承は得られていないものと承知している。また、当該提案について、現時点で政府としての評価及び支援方針を決定しているものではない。

二の1について

 御指摘の「西洋医学と漢方医学を車の両輪として位置付けること」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である。

二の2について

 お尋ねの「漢方薬を活用すること」が「医療の質を高めつつ、医療費の抑制にもつながる」かについては、治療等の内容が個別の状況により様々であるため、一概にお答えすることは困難である。

二の3について

 御指摘の麻黄湯については、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「法」という。)第十四条第一項の規定に基づき、「インフルエンザ(初期のもの)」が効能又は効果として承認されている製品があるが、「インフルエンザの初期の諸症状」に対する麻黄湯の有効性を、タミフル、リレンザ、イナビル及びラピアクタの有効性と比較した評価は、当該承認に係る審査の過程では行われておらず、お尋ねについてお答えすることは困難である。
 また、麻黄湯は、インフルエンザの予防の効能について同項の規定に基づく承認を受けていないため、予防投与の対象とすることはできない。
 さらに、麻黄湯については、平成二十四年十二月二十一日の第五回新型インフルエンザ等対策有識者会議医療・公衆衛生に関する分科会において、効能がインフルエンザの初期に限られており、全てのインフルエンザ患者に適応できない等の意見が有識者委員からあったことを踏まえ、備蓄の対象としないこととしたところである。

二の4について

 お尋ねについて、大建中湯については「腸閉塞予防」が、抑肝散及び釣藤散については「認知症」が、それぞれ法第十四条第一項の規定に基づき効能又は効果として承認されている製品はないため、有効性の評価についてお答えすることは困難である。また、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散及び加味逍遙散については「更年期障害」が、芍薬甘草湯については「こむらがえり」が、それぞれ同項の規定に基づき効能又は効果として承認されている製品があり、それぞれについて有効性があると判断している。

二の5について

 現行薬価基準制度における新薬の価格設定については、昭和五十七年九月の中央社会保険医療協議会の答申に基づき、類似薬効比較方式を原則とし、比較対照薬を選定できないものは原価計算方式により算定することとしているところであり、御指摘の「そもそも漢方薬の薬価の算定基準は、西洋薬の算定基準とは切り離して、コストプラス適正利潤を基準として算定」することについては考えていない。

三の1及び4について

 漢方について、御指摘の「政府の成長戦略としてのクールジャパン戦略」等に位置付けることについては、現時点では考えていない。また、御指摘の「日本再興戦略に資する漢方を通じた国家戦略特区」の提言があったことについては承知しているが、現時点で政府として特段の対応は行っていない。

三の2について

 政府としては、中山間地域における薬用作物の栽培は重要であると認識しており、「日本再興戦略 改訂二〇一四」(平成二十六年六月二十四日閣議決定)及び「日本再興戦略 改訂二○一五」(平成二十七年六月三十日閣議決定)において、薬用作物の生産振興を図ることとされているところである。

三の3について

 森林内において、薬用作物であるキハダやクロモジを生産している森林組合もあり、地域の森林に対する知見を有する森林組合の活動がこうした薬用作物の生産の推進に重要な役割を果たしているものと考えている。
 また、平成二十七年度予算においては、森林・林業再生基盤づくり交付金及び森林・山村多面的機能発揮対策交付金において、森林組合等が行う薬用作物の生産に必要な薬草、樹木等の植栽、保育等を支援の対象としており、政府としては、引き続き、地域の実情に応じた森林内での薬用作物の生産の推進を図っていく考えである。

三の5について

 お尋ねの「高品質の評価(等級判断なども含めて)」及び「生薬の等級判断も含めた高品質の評価」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。なお、先の答弁書(平成二十七年六月十九日内閣参質一八九第一六〇号)五についてでお答えしたとおり、性状に関する基準や異物、残留農薬、重金属、ヒ素等の純度試験に関する基準等については、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いた上で、日本薬局方(平成二十三年厚生労働省告示第六十五号)において生薬ごとに定めている。これらの基準については、最新の科学的な知見を踏まえたものとなるよう、五年に一度は全面改正するとともに、必要に応じて随時改正しているところである。

四の1について

 漢方については、厚生労働省において、その内容に応じて所管部局が適切に対応しており、御指摘の「漢方推進室」の設置については考えていない。

四の2について

 文部科学省においては、医学部及び修業年限が六年の薬学部における教育内容のガイドラインとして、それぞれ「医学教育モデル・コア・カリキュラム」及び「薬学教育モデル・コアカリキュラム」を作成し、身に付けておくべき能力として、漢方薬の特徴や使用の現状について概説できること等を盛り込んでいる。同省としては、関係大学に対して、これらを踏まえた適切な教育の実施を求めてまいりたい。

四の3について

 お尋ねの「日本の漢方薬メーカーが自ら国内で生薬栽培を行っている事例」の件数については、把握していない。
 薬用作物の生産振興に当たっては、生産者と漢方薬メーカーとの情報交換が重要であることから、平成二十四年度から、農林水産省と厚生労働省との共催により薬用作物に関する情報交換会を開催し、薬用作物をめぐる状況や生産拡大に向けた課題等について、情報共有を図っているところである。
 また、お尋ねの「強い農業づくり政策」については、その意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
 農林水産省においては、平成二十七年度予算において、薬用作物等地域特産作物産地確立支援事業により薬用作物の栽培技術の実証に対して支援を行う等の施策を講ずることにより、薬用作物の国内栽培の推進に取り組んでいるところであり、引き続き、薬用作物の生産振興を図ってまいりたい。

四の4について

 御指摘の「日本の漢方医学・漢方薬の産業化、ICT化、輸出戦略、他業種有力企業の参入等」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である。

四の5について

 御指摘の漢方医学及び漢方薬については、内閣官房及び内閣府の関係部局において、それぞれの立場から、必要に応じて、関係省庁とも連携及び協力してまいりたい。
 また、御指摘の「地域活性化伝道師」については、薬用植物などの知見を有する者として七名が登録されており、平成二十四年度から平成二十六年度までの過去三年間に、薬用植物の栽培などについての現地指導などを目的に二地域に「地域活性化伝道師」を派遣した。今後とも、地方公共団体等からの依頼や要望等を踏まえ、適切に対応してまいりたい。