質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第三四一号

犯罪賠償金の支払確保策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年九月二十五日

牧山 ひろえ   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   犯罪賠償金の支払確保策に関する質問主意書

 殺人等の犯罪の被害者は、加害者側の資力が乏しいこと等から十分な損害賠償金を受け取れない場合が多いとされている。法務省の平成十二年の調査では、賠償金が全額支払われたケースは六・六%に過ぎない。
 こうした事情を踏まえ、平成二十年に損害賠償命令制度が導入されたが、制度導入以降、平成二十六年十二月末までに申立てのあった千五百四十五件のうち認容されたのが七百二十五件、和解が二百七十六件等と公表されており、制度としての利用は低調である。
 また、平成二十七年三月から四月に行われた犯罪被害者支援弁護士フォーラムによる調査(同制度に基づく十八件を含む二十六件に対するもの)でも、遺族への賠償金は、賠償義務を負った金額の僅か一・八%の金額しか支払われていない結果となっている。被害者側は泣き寝入りするしかない状況と言える。
 加害者は無職で支払う能力がないことも多いが、そればかりか資力がある場合にも、賠償義務を果たしていない事例が多い。刑事上の責任を果たしたとしても、民事上の賠償責任を全うしていないようでは、本当の意味で償いの責任を果たしたとはいえない。誰が遭うか分からない犯罪の被害にたまたま遭ったために生じた損害に対する賠償を支払わせるための負担を被害者側に負わせるべきではない。社会全体、すなわち国や自治体が責任をもって対応しなければならない問題と考える。
 その認識を前提に以下質問する。

一 犯罪被害者等基本法の制度趣旨に鑑みつつ、損害賠償命令制度の見直しを検討するに当たっては、政府として犯罪被害者への損害賠償金の支払いの最新状況の把握に努めるべきと考える。本年九月三日の本院内閣委員会において、政府参考人から、損害賠償命令制度が利用された事案における損害賠償金の支払の統計的、全体的な状況については把握していないとの説明があったが、その理由について明らかにされたい。

二 損害賠償命令制度については、対象犯罪が限られている、被告人以外の者(少年事件における保護者に対する請求等)に対しては利用できない、起訴事実に不満がある被害者には制度の実効性が乏しい、控訴審が行われている高等裁判所に損害賠償命令の申立てをすることができないといった点等が指摘されている。当該命令制度導入後も、同制度の利用が低調である原因について、政府としての認識と今後の対策を明らかにされたい。

三 犯罪賠償金の支払い確保策に関しては、兵庫県明石市が独自に、犯罪被害者のための立替払の新制度を創設している。すなわち、市が加害者の犯罪賠償金を立て替え、同額分の損害賠償請求権を被害者から譲り受け、その後、市として加害者から賠償金を回収するという仕組みである。
 私は、このような立替払制度を国として設けるべきではないかと考える。被害者が弁護士を通して賠償金を請求するのではなく、国が加害者の代わりに賠償を行い、その後、加害者に求償するため、差し押さえも容易となり、賠償の支払いについて即効性が期待できるからである。政府は、立替払制度について、社会連帯共助の精神から、国が給付金を支給する現行の犯罪被害給付制度と異ならないとして導入には消極的な説明をしているが、改めてこの提案に対する政府の見解とその理由を示されたい。

四 犯罪被害者が民事訴訟で損害賠償請求権の認容判決を得ても、加害者が損害賠償を支払わないこととなれば、消滅時効が進行する。これを中断させるため、再び訴訟を起こすこともあり得るが、賠償金請求にかかる裁判費用も、被害者にとって非常に重いものとなっている。この時効を中断させるための訴訟費用について、支援策が必要ではないかと考えるが、政府の見解如何。

五 犯罪被害者及び遺族の救済が遅々として進まないことから、加害者からの賠償金回収も担わせる国の専門部署が必要ではないかと考えるが、政府の見解如何。

六 犯罪被害者の損害賠償請求権に限らず、現行の強制執行制度については、財産開示制度はあるものの、同制度による開示義務に違反した場合の制裁が過料であることに加え、真実性の担保が債務者の宣誓のみであることから実効性が欠けるのではないかと思われる。こうした課題について、政府としてどのような問題点の認識を持ち、対応策を講じているか、明らかにされたい。

  右質問する。