質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇〇号

消費税再増税延期に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十一月二十日

藤末 健三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   消費税再増税延期に関する質問主意書

 安倍総理は、去る十一月十八日の記者会見で、年内の衆議院解散とともに、消費税再増税を延期する旨の発表を行った。
 最近の経済指標悪化で強まっている消費税の増税先送り論の根拠の一つには、消費税の再増税が行われた平成九年に起こった激しいデフレ・スパイラルの連想があると思われるが、それは、当時約百兆円に及ぶ不良債権が日本の金融システムに蓄積する中で、アジア通貨危機などをきっかけに発生したもので、消費税が原因ではなかった。現在は、当時とは状況が大きく異なり、システミック・クライシスが起きる可能性はほぼゼロである。システミック・クライシスが起きなければ、経済が成長軌道から逸れてデフレ・スパイラルに陥ることはなく、一時的に落ち込んでも、数か月から二年ほどで成長軌道に戻るはずである。具体的には、円安が継続することによって、一から二年の時間が経てば、海外生産をしていた企業が国内に戻り、外需が増え、投資が増え、実質賃金が上昇するという正のスパイラルが起きる。金融システムのシステミック・クライシスが起きない限り、経済の「腰折れ」などという現象は起きないと考える。
 現下の経済状況に鑑みれば、今般の消費税再増税の先送りについては、「経済対策」ではなく、安倍総理が「年内に解散をしたい」理由付けのために考えた、自分のポストを維持したいがための「政治対策・選挙対策」と受け取らざるを得ない。現在、我々が経験している消費税の増税による「痛み」(消費や生産の低迷)は、そもそも覚悟していたはずのものである。この経済悪化の「痛み」は、将来世代の負担を軽減するために我々が支払おうと決めたコストであった。消費再増税の延期については、既定の政策が実施できなくなることによる悪影響が懸念されるところである。
 こうした観点から、以下質問する。

一 消費税再増税の延期は、円安、政策執行のための財源不足などを引き起こし、地方経済にマイナスに働くのではないか。

二 現在の経済情勢に関する認識「大胆な金融緩和」は、安倍内閣の「第一の矢」であり、平成二十五年一月の「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」においても示されているとおり、日本銀行は政府との強い連携の下に緩和策を進めており、政府においても、経済情勢に関する日本銀行の認識等を十分把握しつつ政策の展開を進めていると承知している。そこで、以下の点に関する日本銀行の認識について、政府が承知しているところを明らかにされたい。

1 日本銀行の追加緩和によって株価が上がり、失業率も完全雇用とも言えるほど低い状況で、消費税再増税を延期することを「GDPの四半期速報」で決めることは合理的でないと考えるが、統計等から、日本銀行は現状の経済状況をどのように見ているのか。
2 黒田東彦日本銀行総裁(以下「黒田総裁」という。)は、本年十一月十二日の衆議院財務金融委員会で、追加緩和について「二〇一五年に予定される消費税率の十パーセントへの引上げを前提に実施した」と述べたが、今回の消費税増税延期は日本銀行の政策へ影響を及ぼすのか。
3 本年九月の黒田総裁の記者会見でも「消費増税をしない結果として経済が混乱したら日本銀行として打つ手はない」と表明しているが、この見解についてどう捉えているか。
4 「財政再建の道筋が描けていなければ」金融市場は日本政府を信頼せず、国債にますます資金が回らなくなり、国債金利の上昇を招く可能性について、どのように見ているのか。

三 消費税増税延期による社会保障の拡充への影響

1 消費税再増税を延期した場合、消費税二パーセント(年間約四から五兆円)の財源を失うため、自由民主党、公明党及び民主党が合意した「社会保障・税一体改革に関する確認書(社会保障部分)」にある社会保障の充実が実施されない可能性が高まるのではないか。
2 待機児童解消などの子ども・子育て支援、低所得の年金生活者への支援、低所得者に対する社会保険料の負担軽減措置、医療・介護のサービス体制強化などの社会保障政策が実現されなくなるのではないか。
3 特に介護・医療・子育てなどについては、地方に予算が回る比率が高く、また、予算の大枠を人件費が占めるため、地域経済への貢献が大きいと考えているが、このような政策が実現できなくなれば地方経済にマイナスになるのではないか。

四 消費税増税延期による成長戦略や地域経済への影響

1 アベノミクスの看板でもある「法人税率引下げ」は実現できるのか。平成二十七年度から法人実効税率を引き下げる閣議決定を行ったが、想定されていた消費税二パーセント分の税収が消費再増税延期によってなくなる中で、どのように実現するのか。
2 円が金融市場からの信頼を失った場合、一層の円安により、今でも経営を圧迫している原料高や燃料高が一層進み、価格に転嫁できない中小企業はますます苦しくなり、地域経済に大きなマイナスになるのではないか。

  右質問する。