質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一六九号

「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書における具体的事例及び集団的自衛権行使の必要性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年六月二十日

藤末 健三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書における具体的事例及び集団的自衛権行使の必要性に関する質問主意書

 安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(以下「安保法制懇」という。)が提出した報告書及び安倍総理の記者会見では、集団的自衛権行使が必要だとされる幾つかの事例が示されている。それらの事例に関して、以下質問する。

一 平成二十六年五月十五日に提出された安保法制懇の報告書の「Ⅰ 2 我が国を取り巻く安全保障環境の変化」では、技術の進歩と脅威やリスクの性質の変化、国家間のパワーバランスの変化、日米関係の深化と拡大などが指摘されている。このような環境変化の中では、集団的自衛権の行使容認といった法制度の整備よりも、現行の法体系に基づく防衛体制の脆弱性の解消をまず議論すべきではないか。現実の防衛体制の問題を総合的に検討し、その検討の結果に基づき法的な整備の在り方を議論すべきである。そもそも集団的自衛権の行使容認ありきで、個別の部分的な具体例を示して議論すべきことではないと考えるが、政府の見解を示されたい。

二 安倍総理が五月十五日の記者会見でパネルを使って説明した「邦人輸送中の米艦防護」について、小野寺防衛大臣は翌十六日の記者会見で「一般的には、公海上の外国船舶に邦人が乗っている場合も含めて、在外邦人に対する攻撃が自衛権発動の三要件のうち、第一要件を満たすとは考えられておりません。したがって、個別的自衛権の行使による対処はできないというのが今までの政府の考え方です。」と述べている。しかし、日本国民を保護・輸送している艦艇への攻撃は、日本国民に対する攻撃であり、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される急迫、不正の事態」と解釈することは可能ではないか。その上で、邦人輸送作業の防護は、個別的自衛権の行使として説明できるのではないか。そのような解釈を政府はとらないのか。

三 そもそも邦人が他国から退避する際に、護衛能力を有する日本の艦艇がありながら、米国の艦艇が邦人を運ぶという状況を想定する意味があるのか。集団的自衛権の行使を正当化するために現実から離れた事例を示しているのではないか。

四 安保法制懇の報告書の「Ⅰ 3 我が国として採るべき具体的行動の事例」の「事例3 我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡等)における機雷の除去」については、集団的自衛権の行使でないと対応できないのか、慎重に考えるべきではないか。ホルムズ海峡が機雷で封鎖され、我が国のエネルギー供給の大半を占める湾岸諸国からの輸入が途絶えることになった場合、日本に向かうタンカーの保護を目的として機雷の除去を行うことは、結果として他国のタンカーを保護することになったとしても、個別的自衛権の発動として説明できるのではないか。

五 「事例5 我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず徘徊を継続する場合の対応」について、潜水艦は隠密行動をすることが任務であり、通常、我が国領海内で発見された時点でその任務は終わっており、領海外に退去することになるとの安全保障の専門家の指摘がある。外国潜水艦が我が国領海内で発見されても退去要求に応じず、徘徊を続けるといった事例はどれ程の蓋然性があるのか。また、我が国領海内に潜没航行する外国潜水艦への対応について、現行法で具体的にどのような問題があると政府は認識しているのか。

六 平成二十年六月に提出された安保法制懇の最初の報告書では、「米国に向かうかもしれないミサイルの迎撃」について、集団的自衛権の行使によらざるを得ないとの提言がなされている。この点に関して、ミサイルが発射された時点で米国を攻撃するミサイルかどうかを判断することはできるのか。また、ミサイルが発射された時点で我が国への攻撃の可能性が少しでもあると判断されるものは個別的自衛権の行使としての迎撃が可能ではないか。加えて、米国を攻撃しようとする国が、日本に駐留する米軍を攻撃しないでいきなり本国だけを攻撃するというシナリオに現実性があると政府は考えているのか。在日米軍に対する攻撃については日本に対する攻撃と同等とみなし、個別的自衛権で対応することができるのではないか。

七 憲法第九条第一項は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定している。ここにある「国際紛争」を日本政府は「国家又は国家に準ずる組織の間での争い」と定義し、日本が当事者かどうかにかかわらず、武力を用いた国際紛争の解決は憲法上認められないとしてきたが、安保法制懇の報告書は、国連安保理の決議を根拠に各国が協力して制裁を加える集団安全保障には全面的に参加すべきだと提言している。一方、安倍総理は五月十五日の記者会見において「個別的か、集団的かを問わず、自衛のための武力の行使は禁じられていない、また、国連の集団安全保障措置への参加といった国際法上、合法な活動には憲法上の制約はないとするものです。しかし、これはこれまでの政府の憲法解釈とは論理的に整合しない。私は憲法がこうした活動の全てを許しているとは考えません。」と発言しているが、これは今までの政府解釈を変えないと表明していると考えてよいか。今後の検討によっては、武力行使を目的として我が国が国連の集団安全保障措置に参加することもあり得るのか、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。