質問主意書

第181回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

法曹養成制度検討会議に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年十月二十九日

平山 誠   


       参議院議長 平田 健二 殿



   法曹養成制度検討会議に関する質問主意書

 第百八十回国会(常会)において、裁判所法の一部を改正する法律案が、政府提案に対し、修正を加え可決成立した(以下「本改正法」という。)。かかる法案審議においては、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律及び裁判所法について、「学識経験を有する者等により構成される合議制の組織の意見等を踏まえつつ、一年以内に法曹養成制度について検討を加えて一定の結論を得た上、速やかに必要な措置を行う」、「法曹養成制度の検討においては、司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ、検討が行われるべきである」との規定を追加する修正がなされた。
 また、衆議院法務委員会の附帯決議において、合議制の組織における検討に当たり、「我が国の司法を支える法曹の使命の重要性や公共性に鑑み、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成するために、法曹に多様かつ有意な人材を確保するという観点から、法曹を目指す者の経済的・時間的な負担を十分考慮し、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにすること」、「司法修習生に対する経済的支援については、司法修習生の修習専念義務の在り方等多様な観点から検討し、必要に応じて適切な措置を講じること」について「特段の配慮」が求められている。
 かかる修正部分及び附帯決議は、法曹養成制度が、国の基本構造たる三権の一翼である司法の担い手であり国民の権利の守り手である法律家をいかに育てるかという国の根幹をなす問題であるにもかかわらず、司法修習費用の給費制が廃止され貸与制が導入されたことによる弊害が大きいことに鑑みて、国会の大勢的意見として施されたものであると理解している。すなわち、昨年(平成二十三年)五月に設置された「法曹の養成に関するフォーラム」(以下「フォーラム」という。)の議論により、貸与制移行が決まり、現実に貸与制が実施されてはいるものの、現に司法修習をしている新六十五期司法修習生の置かれている社会人とは言えない経済的状況、それに伴う司法修習制度への危機感、司法サービスの受益者たる国民のための司法に対する危機感、今後法曹を目指そうとする大学生及び法科大学院生の進路への不安等が相まって、貸与制の見直しを求める国民の声、運動の後押しもあり、これに国会が応えた結果である。
 しかしながら、内閣に設置された閣僚会議の下に置かれた「法曹養成制度検討会議」は、有識者十七名のうち十三名がフォーラムの構成員であり、フォーラム構成員の有識者全員が新組織の構成員として再任されたことになる。このような結果について、有力な当事者団体であるビギナーズ・ネット(二〇一〇年の結成以降、司法修習生の給費制を存続・復活するために活動している団体である。)は、「『法曹養成制度検討会議』の委員構成に抗議し、適正な人選を求めるとともに、同会議の慎重かつ適切な議論により早期の給費制復活を求めるビギナーズ・ネット声明」(平成二十四年八月二十四日付け)を発表している。本改正法の修正経緯を踏まえて考えるならば、彼らの声明は至極的を射ている。
 右の点を踏まえ、以下質問する。

一 フォーラムの検討結果に関し、わずか六時間三十分程度の議論で、昭和二十二年から脈々と続いてきた給費制を廃止し、貸与制に移行したことについて、政府の見解を示されたい。
 フォーラムが右記結論を得るために依拠した「司法修習終了者等の経済的な状況に関する調査」集計結果(弁護士の過去五年間の経験年数別収入の平均値が五年目で二千万円になるというもの)について、アンケートの回収率が十三・四パーセントであったことにつき、政府の見解を示されたい。
 これからの法曹養成を考える際に、弁護士業界の就職難や現在の収入状況を参考にするのではなく、これまでの弁護士の、しかも「過払いバブル」の「恩恵」を受けての高収入に浴していた弁護士の収入を参考にすること自体について、政府の見解を示されたい。
 フォーラムの検討手続について、現状として当事者である司法修習生や法科大学院生、大学生が奨学金や貸与金による借金といった経済的事情を抱えているにもかかわらず、そのような当事者の意見も聞かず、傍聴さえも許さなかったことが適切だったのか、政府の認識を示されたい。

二 政府は、本改正法の法案審議における国会の問題意識について、共有しているか。
 市民のための法律家が未来に負の遺産をのこして法律家としての人生のスタートを切ることの法曹界、国民への影響について、政府の見解を示されたい。
 すなわち、①給費を受けられないことを理由とする司法修習断念者の発生、②法曹志願者の激減、③格差の司法制度への浸食及びそれに伴う国民の不利益等を理解しているか。

三 今回の「法曹養成制度検討会議」は、有識者十七名のうち十三名がフォーラムの構成員であり、フォーラム構成員の有識者全員が新組織の構成員として再任されたことになるが、これでは当事者の声を適切に反映しうる人選が行われたと言えないと考えるが、いかがか。
 より幅広い分野から検討会議の委員の適切な人選を行うべきであると考えるが、いかがか。

四 政府は、一定の者の利害が関係する事項の審議において、議論を公開し、当事者を立ち会わせ、その意見を聞くことが民主主義の観点から要請されるとの考えに立脚するか。
 また、法曹養成制度検討会議についても、当事者の声を反映しうる立場の者を組織の構成員にすること、審議を公開し誰でも傍聴可能とすること、検討においては当事者等からのヒアリングを行い十分な議論を行うことが、民主主義の観点から至極当然のことと思えるが、いかがか。
 同じ認識であるならば、右記各内容を実現する用意があるか。
 同じ認識でないならば、その理由は何か。

五 衆議院法務委員会の審議(平成二十四年六月八日)において、「法曹フォーラムのメンバーの方は、多くが貸与制論者で、何か非常にバランスを失しているような感じがいたしますので、私は、合議制の組織というのであれば、例えば当事者であるビギナーズ・ネットの方もメンバーに入れてしまう、こういうことも思い切ってやるべきじゃないかと思うんですけれども、この点についてはどうお考えでしょうか。」との城内委員の質問に対し、修正案提案者である黒岩委員は、「新たな合議制につきましては、従前の検討体制よりもちろん強力なものにする、新たに整備するとなっております。きょうも議論がありましたけれども、当然、法科大学院や法曹関係者以外の多様な意見も反映されるというふうに整備してくださいと私ども修正案の提案者として盛り込んでおりますので、この点につきましてちゃんと受けとめて、本当にさまざまな幅広い検討がなされる、そういう合議体を政府におきましてつくっていただく、このことを要請している次第でございます。」と答弁している。
 政府は修正案提案者からの多様な意見を反映するべきであるとの要請について、いかなる検討をしたのか、その詳細を示されたい。

六 前述のとおり、本改正法においては、「法曹養成制度の検討においては、司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ、検討が行われるべきである」ことが要請されている。しかし、法曹養成制度検討会議の検討予定によると、「司法修習生に対する適切な経済的支援」を実質的に議論しうると思われる回は、第七回目「司法修習について」しか見当たらない。
 「司法修習生に対する適切な経済的支援」の内容等を議論するのは第七回目のみとの理解でよいか。

七 法曹養成制度検討会議の検討において、「司法修習生に対する適切な経済的支援」について「特段の配慮」を求めた附帯決議について、政府の認識を明らかにされたい。
 前記六の検討予定で、「司法修習生に対する適切な経済的支援」を実質的に議論する回が第七回目「司法修習について」のみであるならば、そのような予定で「特段の配慮」ができるのか、政府の見解を示されたい。

八 法曹養成制度検討会議の「司法修習生に対する適切な経済的支援」についての「特段の配慮」はいかなる内容になるのか。
 どのような資料に基づき、どのような手続で、どのような審議を行う見込みか、政府の方針を示されたい。

  右質問する。