質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第二五七号

今般東京電力が許可された電気料金に係る査定方針に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年九月六日

福島 みずほ   


       参議院議長 平田 健二 殿



   今般東京電力が許可された電気料金に係る査定方針に関する質問主意書

 経済産業省は、本年七月二十五日、東京電力から申請されていた電気料金の値上げを許可した。東京電力の家庭用電気料金の対象となる顧客の多くは、今回の福島原発事故による放射性物質の影響を受けるとともに、東京電力は地域独占企業であるため、福島原発事故後も、東京電力以外から電力供給を受けることが事実上できない状況にある。このような中で、更に福島原発事故のため電気料金が引き上げられるのであれば、その根拠となる計算には、消費者保護の観点から、消費者が納得する相当な根拠がなければならない。しかしながら、今回許可された電気料金に係る査定方針を確認すると、不明確な点が多くある。
 よって、以下、政府の見解等を質問する。

一 事業報酬について

1 レートベース方式は、現在でも、電力会社の事業報酬算定方法として妥当と言えるか。その理由を示されたい。
2 事業報酬率は、自己資本報酬率と他人資本報酬率を三十パーセント対七十パーセントで加重平均した率とされている。今回の電力料金算定において、その自己資本報酬率は、東京電力の実質値を用いているのか。用いていないのであれば、その理由を示されたい。
3 東京電力の自己資本報酬率の実質値はいくらか。
4 東京電力は、自己資本報酬率が三十パーセントを大きく下回っているという情報がある。実質値が低いにもかかわらず、なぜ、事業報酬率の算定の計算式上は、自己資本報酬率のウエイトを三十パーセントとすることができるのか、理由を示されたい。
5 事業報酬率の計算における自己資本比率に関し、平成七年第三十回料金制度部会資料では、「自己資本比率が一定以下になった場合、信用力の低下による借入金利の上昇を招きかねず、経営の健全性を損なう恐れがある。したがって、適正な自己資本比率は、十社の実績平均値ではなく、一般電気事業の特性に応じた適正な自己資本比率を算定することが必要となる。」とされ、適正な自己資本比率を三十パーセントとしている。しかし、契約の健全性を維持するために、電気事業者に対して高い自己資本比率を維持させることが必要なのであれば、電力事業者に高い自己資本比率を維持するインセンティブが働くルールを設定しなければならない。すなわち、実際の自己資本報酬率が三十パーセント未満であるのならば、事業報酬率を減らすという運用をすべきである。現状のように、実際には三十パーセントを大きく下回る自己資本比率しか実現できていない場合であっても、三十パーセントの自己資本があることとして、実質よりも多額の事業報酬の計上を認める計算式では、電力会社に高い自己資本比率を維持するインセンティブは働かず、あるべき高い自己資本比率の維持という政策目的に逆行し、消費者の理解も得られないと考えるが、いかがか。従来どおりの運用を継続すべきというのであれば、その理由を示されたい。
6 経済産業省も東京電力も、「東電原発事故による資本欠損等の特殊事情を勘案すべきではなく、どの電力会社でも共通のルールで平時の原則通り査定すべき」という主張を繰り返してきた。しかしながら、東京電力は、事実、福島原発事故を引き起こし、事業リスクが上昇しているにもかかわらず、なぜ平時の原則どおりに査定すべきなのか、その理由を示されたい。
7 自己資本報酬率を算出するための計算式に用いられるβ値は、電気事業の事業経営リスク、一般的には市場全体の株式価格が一パーセント上昇するときの電気事業の株式の平均上昇率を示す。今回の東京電力電気料金算定の際には、このβ値は、どのような計算によって導かれたものだったのか。
8 今回の東京電力の電気料金算定に用いられたβ値はいくつか。
9 経済産業省や東京電力が主張するように、電力料金の査定にあたっては、東京電力が引き起こした原発事故による特殊性を排し、どの電力会社にも適用可能な平時のルールで計算するのであれば、全国の十の電力会社における、原発事故直前までの十分に長い期間のβ値の平均値が用いられるべきである。十電力会社の事故前七年間のβ値の平均は、経産省の示している資料によれば、〇・四四であるとされているが、今回の東京電力の電気料金算定においては、この数値で計算されているということでよいか。
10 今回の東京電力の電気料金算定に用いられたβ値は、前記9で指摘した平時のルールではなく、直近一年間、つまり福島原発事故が起きた後、一年の平均値を使っていると思われるが、これは事実か。事実であれば、なぜβ値のみ、「平時ではないルール」が用いられたのか、今回に限り直近一年間の値が用いられた理由を含め、その理由を示されたい。
11 今回、東京電力が電気料金算定に用いたβ値を他の電力会社で適用することはまかりならないと考える。他の電力会社に適用しないということでよいか。適用するということであれば、その理由を示されたい。
12 東京電力のみに高いβ値の設定を許すことは、東京電力に有利な例外を認めるというダブルスタンダードだと考えるが、いかがか。見解を示されたい。
13 東京電力は、原子力損害賠償支援機構法に基づいて公的資金を投入されている企業であるから、当面配当は行わず、また、事業報酬から得た利益について人件費への流入を行わず、最大限特別負担金に充てるということを確保すべく、厳格なチェックを行うことが確認されている。しかしながら、東京電力は、今もって特別負担金の拠出計画を国民に示していない。東京電力は、特別負担金の拠出計画を毎年国民に示すべきと考えるがいかがか。示すべきではないなら、その理由も示されたい。
14 前記13について、示すべきであるなら、いつまでに示すべきか。

二 随意契約について

1 東京電力に求められた競争入札の導入比率は、五年間で六十パーセントの水準であった。しかし、この水準は甘いと言わざるを得ない。即時に全委託費・修繕費ベースで六十パーセントの競争入札、三年以内に九十パーセント以上の競争入札を確約させた上で、今回の申請ベースから更に十パーセント程度の削減見込額しか原価への組入れを認めるべきではないことを東京電力に求めるべきと考えるが、いかがか。
2 電力料金は総括原価方式で算出される。この総括原価方式は、本質的にコスト削減のインセンティブが生じ得ない仕組みなので、予めコストの削減を織り込んだ原価設定にしない限り、厳しいコスト削減は決して進まない。現在の東京電力は厳しいコスト削減を行うべきであるにもかかわらず、経済産業省が前記1のようなコスト削減を東京電力に求めないならば、その理由を示されたい。

三 原子力発電による購入電力及び販売電力の確認について

1 今回の電気料金算定においては、日本原電から原子力発電電力の購入費として、一千億円超が計上されている。現在、我が国においては、大飯原子力発電所を除いて、他のすべての原子力発電所は運転を停止している。よって、受電しないにもかかわらず、なぜ一千億円以上の原子力発電電力を購入する費用を計上できるのか、その理由を示されたい。
2 前記1で示した日本原電からの購入電力料を消費者に費用転嫁できる合理性があるかどうかを判断するために、日本原電と東京電力の間の契約書又は契約内容を全面的に公開することが不可欠であると考えるが、いかがか。公開する必要がないというのであれば、その理由も示されたい。
3 日本原電と東京電力の間の契約事項に照らして、費用負担を削減する交渉余地はどの程度認められると考えられるか、示されたい。
4 消費者保護の観点から、根拠情報の開示なくして、電気料金等の公共料金への費用の計上はあり得ない。今後、電気料金を含む公共料金の算定に際しては、料金に算定されるものについては、すべて根拠情報を開示することを原則とし、根拠資料が開示されない費用項目については、料金算定を認めないというルールを明確化するべきと考えるが、いかがか。開示する必要がないというのであれば、その理由を示されたい。

  右質問する。