質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二八号

無保険の子どもと雇用の流動化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月十二日

谷 博之   


       参議院議長 江田 五月 殿



   無保険の子どもと雇用の流動化に関する質問主意書

 二〇〇八年九月十五日時点で国民健康保険の被保険者資格証明書を交付されている、つまり「無保険」の世帯数が全国に三十三万七百四十二世帯あり、そのうち子どものいる世帯数が一万八千二百四十世帯、それらの世帯に属する中学生以下の子ども(以下、「資格証明書を交付されている無保険の子ども」という。)は三万二千九百三人いることが厚生労働省の調査でわかった。
 保険料を滞納しているのは親であり、子どもに罪はない。しかし保険証がないと医療費は全額自己負担となり、必要な診療も抑制せざるを得ず、結果として子どもの健康にしわ寄せがいく。右記三万二千九百三人に対しては、立法府の責任で何とか当面の救済策をまとめつつあるが、以下に述べるように、資格証明書さえ持っていない無保険の子どもの数はもっと多いのではないかと考える。
 一方、この度の米国発の金融危機による国内経済の急激な悪化に伴い、雇用契約を更新されなかったり、契約途中で打ち切られたりする、いわゆる「派遣切り」などで失業した又はする非正規労働者数は、厚生労働省によれば、十月以降、来年三月までの実施予定も含め、全国で三万人といわれ、そのうち派遣労働者が六十五・八パーセントと最も多く、都道府県別では自動車関連のメーカーが集まる愛知・岐阜・栃木・長野・広島が飛び抜けているとされる。このような雇用不安、そして雇用の流動化で無保険の子どもは今後さらに増えていくと懸念するので、以下、質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合であっても、質問項目ごとに答弁されたい。

一 総務省の二〇〇七年度就業構造基本調査によると、全国に派遣労働者は百六十万七千五百人いる。他方、二月に私が出した質問主意書に対する福田総理からの答弁書(内閣参質一六九第四一号)では、派遣労働者が健康保険に加入している割合について、八十五・一パーセントと回答している。この二つの数字を掛け合わせると、約二十四万人もの派遣労働者が無保険者である可能性があると考えられるのではないか。

二 偽装請負の横行などで急増している請負労働者の実態は、派遣労働者以上に明らかでないが、その人数は派遣労働者と同数以上との関係業界からの意見がある。健康保険加入割合も派遣労働者と同程度と仮定すると、派遣・請負労働者合わせて五十万人以上の無保険者が存在する可能性があるのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 二〇〇七年十二月二十八日に厚生労働省が発表した「労働者派遣事業の平成十八年度事業報告の集計結果について」によれば、南関東・北関東・甲信ブロックの派遣労働者は百二十五・七万人であり全国の派遣労働者数の四十六・八パーセントを占めている。一方、冒頭の厚生労働省の調査によると資格証明書を交付されている無保険の子どもの数は、都道府県別で見るとワースト一位が神奈川県の四千三百八十六人、二位が千葉県の三千三百二十一人、そして三位が栃木県の二千六百五十二人となり、この三県で全体の三十一パーセントを占め、宇都宮市には資格証明書を交付されている無保険の子どもが四百一人もいる。派遣労働者の増加とこれら無保険の子どもの発生数にはある程度の因果関係があるのではないかと考えるが、いかがか。

四 国民健康保険においては、政府管掌健康保険や組合健保などの加入者や、その被扶養者でない限り、国民全てに加入義務があるとのことだが、各自治体及び国は、各世帯が政府管掌健康保険や組合健保に加入しているかしていないかの情報を持っていない以上、国民健康保険への加入義務がありながら届出を出していない世帯を把握していないと考えるが、いかがか。

五 派遣・請負労働者の中には、夫や親と同居して被扶養者である主婦や若者もいると思われるが、一方で家族を扶養している者もいると思われる。つまり派遣・請負労働で生計を立てながら、勤務先が社会保険に加入せず、かつ居住地の市町村に国民健康保険の届出を行っていない世帯には、今回の調査でわかった三万二千九百三人以外にも、資格証明書さえ持っていない無保険の子どもが相当数いる可能性があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 若者の間にフリーターやニート、派遣や請負といった非正規労働者が増え、雇用の流動化が進んでいることを考えると、今後、それらの若者同士が結婚して世帯を構成し、子育てをしていくということになれば、将来、無保険の子どもがさらに増える危険性があると考えるが、いかがか。

七 これまで厚生労働省は、国民健康保険料の滞納世帯数や、短期保険証や資格証明書の交付世帯数についてのみ毎年調査を行っており、そのうちの子どものいる世帯数や子どもの数などは、全く調査してこなかったとのことである。今後は右記四及び五で述べた実態も踏まえ、資格証明書さえ持っていない無保険の子どもの数も含めて、全国に無保険の子どもがどのくらいいるのか、調査方法に知恵を絞って毎年継続調査を行うべきではないか。

八 「親に罪はあっても子に罪はない」との立場にたてば、親が国民健康保険加入の届出をせず、資格証明書さえ持っていない無保険の子どもについても、何らかの救済策が必要ではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

九 右記一の答弁書では、雇用保険、健康保険、厚生年金保険への派遣労働者並びに請負労働者それぞれの加入割合に関する私の質問に対して、「派遣労働者及び請負労働者の健康保険への加入義務の要否について、関係法令に基づき、当該労働者の雇用契約及び就労実態に応じて判断した上で改めて算出しなければならず、新たに調査することは作業が膨大なものとなることから、お答えすることは困難である」旨回答しているが、困難であろうと国は今、派遣労働者の雇用保険、健康保険、厚生年金保険への加入状況について、早急に実態を把握するべきではないか。

十 栃木県では約四割もの零細派遣事業者が社会保険に加入していないと聞いている。二〇〇四年六月三十日以来、社会保険庁は政府管掌健康保険の適用事業所の調査において、労働者派遣業を重点的調査対象とするよう、毎年各社会保険事務所に指示しているが、実際どれだけの派遣事業者に調査に入ったかは報告を求めていないため、把握していないとのことである。これでは本当に本庁の指示に沿った仕事を各社会保険事務所が行っているのか、本庁は評価できないことになるが、これでいいと考えているのか。

十一 政策評価の観点からも、各社会保険事務所が毎年毎月何社の派遣事業者に調査に入り、何人の派遣労働者に政府管掌健康保険を適用し被保険者としたのか、本庁に報告を上げさせるべきではないか。

十二 そして加入義務のある労働者が社会保険に加入するよう、零細派遣事業者を厳しく指導するべきではないか。

十三 一方、派遣事業だけでなく、一九七五年から雇用保険加入義務が課され、一九八九年から健康保険・厚生年金加入義務が課された五人未満の事業所では、労働者の社会保険料の事業所負担分が大きな重荷となっているのも事実である。そこで五人未満の事業所は、政府管掌健康保険や厚生年金加入を原則としつつも、どうしても経営収支上困難な場合は、当該労働者との合意の下、当該労働者の国民健康保険料及び国民年金保険料を事業所の責任で支払うしくみを選択できるようにするべきではないか。

十四 自治体の国民健康保険の財政事情としては、最近都市部を中心に収納率が落ちており、滞納分を自治体の一般会計から法定外に支出しているところが多い。その総額はいくらと政府は把握しているか。

十五 国民健康保険は国が定めた制度であるからして、自治体にばかり多大な負担を押し付けてはならない。これ以上無保険の子どもたちを増やさぬためにも、国庫負担を医療費総額の三十三・九パーセントから四十五パーセントに戻すなどして、国民健康保険料を引き下げるとともに、低所得者に対する保険料減免規定をさらに拡充する必要があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。