質問主意書

第164回国会(常会)

答弁書


答弁書第七一号

内閣参質一六四第七一号
  平成十八年六月二十日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員谷博之君提出シベリア抑留及び旧ソ連邦による漁船だ捕・抑留に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷博之君提出シベリア抑留及び旧ソ連邦による漁船だ捕・抑留に関する質問に対する答弁書

一について

 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言(昭和三十一年条約第二十号。以下「日ソ共同宣言」という。)第一項及び第六項を合わせ読めば、日ソ共同宣言第一項にいう日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦(以下「ソ連邦」という。)との間の戦争状態は、千九百四十五年八月九日に始まり、千九百五十六年十二月十二日に終了したものと解される。
 千九百二十九年の俘虜ノ待遇ニ関スル条約については、当時、日本及びソ連邦のいずれも締結しておらず、両国間にはこの条約の適用はなかった。千九百七年の陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(明治四十五年条約第四号)については、両国とも締約国であったが、同条約第二条のいわゆる「総加入条項」により交戦国がすべて同条約の当事者である時に限って適用されることとされていた。

二について

 お尋ねの「基本的権利」の意味が必ずしも明らかではないが、国際法上、一般に、いわゆる外交的保護権とは、自国民が外国による国際法違反の行為によって損害を被った場合、本国が被害者である自国民について生じた損害に関し、救済が与えられるように必要な措置をとるよう相手国に要求することができるという国家としての国際法上の権利を意味すると承知しており、国際法上の要件を満たす場合には、特段の事情がない限り、国家はこの権利を有すると承知している。

三について

 お尋ねについては、当時の資料が保存されていないため、水産庁としてお答えすることは困難である。

四について

 お尋ねについては、個別具体の事例に即して判断すべきものであり、外務省として一概にお答えすることは困難である。

五、七、八、十及び十一から十六までについて

 ソ連邦によるだ捕の事例に関する口上書(以下「口上書」という。)は、個別具体的なだ捕の事例に関して請求権を留保する旨を記載したものだけでなく、複数の事例に関して包括的な形で請求権を留保する旨を記載したものもあること等から、口上書の内容等に関するお尋ねについて一概にお答えすることは困難である。
 また、日ソ共同宣言第六項は、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」と規定しているところ、同項により我が国が放棄した請求権は、国家自身の請求権を除けばいわゆる外交的保護権を意味し、口上書及び昭和五十年三月二十八日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会における当時の水産庁長官の答弁において言及された我が国が留保した請求権についても、基本的に同じ意味である。
 だ捕に係る請求権が同項にいう「千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じた」ものに該当する場合には、我が国は同項の規定によりその請求権を放棄している。この場合を除き、一般には、ソ連邦による我が国漁船のだ捕に関して、ソ連邦において被害者である我が国国民に対して司法上の救済が不当に否定されるなど、国際法上の要件を満たす場合には、我が国がソ連邦に対し口上書をもって明示的に請求権を留保しているか否かにかかわらず、いわゆる外交的保護権を行使し得ると考える。

六について

 御指摘の特別給付金の交付は、ソ連邦にだ捕・抑留された漁船の船主、乗組員等のうち、北方四島の周辺において、千九百四十六年から千九百七十四年にかけてソ連邦により不当にだ捕・抑留された漁船の船主、乗組員等の漁業経営及び生計の苦境を救済するために行ったものである。

九について

 いわゆるシベリア抑留者に関しては、独立行政法人平和祈念事業特別基金等に関する法律(昭和六十三年法律第六十六号)に基づき、いわゆるシベリア抑留者の先の大戦における戦争犠牲による労苦について、慰労金の支給、慰労品の贈呈等の慰藉事業を実施してきているところであり、一方、ソ連邦にだ捕・抑留された漁船の乗組員等に対する特別給付金の交付については、六についてで述べたとおりである。このように、いわゆるシベリア抑留者に対する慰藉事業とソ連邦にだ捕された漁船の乗組員等に対する特別給付金の交付はその目的等が異なること、また、いわゆるシベリア抑留者の問題とソ連邦にだ捕・抑留された漁船の乗組員等の問題については、それぞれの経緯等も異なるなど、単純に比較するのは適当でないことから、「憲法第十四条に反しており不公平」であるとの御指摘は当たらない。

十七について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかでないが、一般に、私人は国際法上の主体ではないことから、私人が外国に対して訴えを提起する場合には、国際法ではなく国内法によることとなる。

十八について

 御指摘の共同要請書の内容については、関係省庁から小泉内閣総理大臣に対ししかるべく報告されている。

十九について

 いわゆるシベリア抑留に関し、日ソ共同宣言第六項は、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。」と規定しているところ、これについて、国に法的な補償の責任はないというのが従来からの政府の見解であり、また、平成九年三月十三日の最高裁判所第一小法廷の判決等も同様の判断を示していると承知している。

二十について

 韓国政府の国内における施策について、見解を述べることは差し控えたい。また、韓国側より、累次にわたり、厚生年金名簿及び供託書副本に係る協力につき要請があり、これに対しては、現在、どのような協力が可能であるか協議しているところである。

二十一及び二十二について

 御指摘の「戦後処理問題に関する政府・党合意」(昭和六十一年十二月二十九日政府・自由民主党)は、いわゆる戦後処理問題に関する行政を執行していく上で政府と与党が合意を行ったものである。したがって、立法府及び国民に対して拘束力を持つものではない。
 一般に、政府・与党合意について、新たな合意を必要とする事由が生じた場合には、新たに合意を行うこともあり得るものと考えている。

二十三について

 政府としては、御指摘の法案に係る立法府の結論を踏まえ、適切に対処してまいりたい。

二十四について

 平和祈念展示資料館(以下「資料館」という。)の平成十六年度の入館者数は約五万四千人であり、独立行政法人平和祈念事業特別基金(以下「基金」という。)の事務所及び資料館の平成十六年度の賃借料は約一億六千六百万円である。また、平成十六年度の常勤役員二人及び官庁からの出向者十七人の年間の人件費の総額は約一億七千七百万円である。なお、平成十七年一月以降、常勤役員のうち一人は民間から登用しており、平成十七年四月以降、官庁からの出向者は十五人となっている。

二十五について

 資料館は、いわゆる恩給欠格者、戦後強制抑留者及び引揚者の労苦について国民の理解を深めることを、昭和館は、戦没者遺児を始めとする戦没者遺族の経験した戦中・戦後の国民生活上の労苦に係る歴史的資料及び歴史的情報を収集し、保存することにより、後世代にその労苦を知る機会を提供することを、しょうけい館は、戦傷病者が戦地で体験した労苦並びに戦傷病者及びその妻が体験した戦中・戦後の労苦を後世代に伝えることをそれぞれ目的としており、それぞれの施設の設置の目的は異なっているところである。

二十六について

 御指摘の式典については、現時点において実施する計画はないが、基金において、これまでいわゆるシベリア抑留者の方々の労苦について国民の理解を深めるための各種事業を実施してきているところである。