質問主意書

第163回国会(特別会)

質問主意書


質問第一三号

雇用促進住宅の廃止・譲渡に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年十月二十六日

小林 美恵子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   雇用促進住宅の廃止・譲渡に関する質問主意書

 雇用促進住宅は、もともと炭坑離職者の就労支援を目的に一九六五年ごろに国が設置した住宅であり、現在は独立行政法人雇用・能力開発機構(以下「機構」という。)が運営し、公共職業安定所長が認める者が利用できる住宅である。その貸与要件には、「公共職業安定所の紹介等で就職することに伴い住居を移転する」「転勤等により住居の移転を余儀なくされ、住宅に困窮している」「その他職業の安定を図るために住宅の確保を図ることが必要である」ことが挙げられている。
 現在、全国に一五三一か所一四万一五二二戸に約三五万人が入居する雇用促進住宅については、機構から委託を受けて財団法人雇用振興協会(以下「協会」という。)が運営管理を行っている。しかし、二〇〇一年一二月一九日に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画において「移転就職者用宿舎は現に入居者がいることを踏まえた早期廃止のための方策を検討し、できるだけ早期に廃止する。」とされ、三〇年間で全住宅を売却するなどの処理方針のもとで、各地では事実上の住民追い出しなどの問題が生じている。
 私は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とする憲法第二五条の立場に立脚し、借地借家法第二八条の「建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件」の中で保障されている居住権を、政府がすべての国民に保障すべきと考えており、政府に対し、全力を挙げて雇用促進住宅の三五万人住民の生活を保障するよう求めるものである。
 以上の観点から、以下質問する。

一 全国の雇用促進住宅の物件ごとに所在地、物件概要、入居実態、入居者の年齢構成状況、入居者世帯の収入階層状況など具体的な現状及び整理合理化計画の全容を明らかにされたい。さらに、耐震診断、耐震補強工事の計画についても、物件ごとにその全容を明らかにされたい。

二 一九九九年三月一二日に衆議院労働委員会で日本共産党の大森猛議員の質疑に対し政府が答えた雇用促進住宅入居者の居住権の保障について、その後、政府はそれをどのように具体化しているのか。また、同年三月二三日に参議院労働・社会政策委員会で日本共産党の市田忠義議員の質疑に政府が答えた雇用促進住宅入居者の諸権利を保障する方針についても、その後、政府はそれをどのように具体化しているのか。

三 これまでに雇用促進住宅を廃止した事例があれば、それらの物件ごとに具体的経緯を説明されたい。

四 大阪府八尾市の雇用促進住宅の一つである別宮団地では、本年五月に住民説明会が開かれ、住宅から追い出されることへの住民の不安が広がっている。当該住宅の住民からは、「解体するのでなく、耐震補強して存続させてほしい。耐震調査した人は、あと二〇年はもつと言っていたのに、結果通知では八棟中七棟が補強してももたないとされているが、なぜ耐震補強しても地震に耐えられないのか、詳しく説明してほしい。」「突然、住宅を廃止するから出て行け、と言われるのでは、死刑を言い渡されたようなものだ。六〇歳から八〇歳ぐらいの人間が転居させられてバラバラになったら、認知症になってしまう。移転するなら、集団で移転できるような住宅を用意してほしい。」「政府のやり方は、納得できない。ここの住宅は、一九六八年にできたもので比較的新しいのに、なぜここを全廃するのか。高い値段で売れそうだから廃止するのではないのか。通知書には、責任者の名前も書いてない。地上げ屋と同じではないのか。」などと訴えている。また、同市内の青山団地と老原団地でも、一棟ずつ壊すことになっており、住民は今後どうすればいいのかと思い悩んでいる。

1 これらの大阪府八尾市における雇用促進住宅に関し、整理合理化計画及び耐震補強工事計画の具体的状況並びにこの件における住民説明会の経緯について、詳細に説明されたい。さらに、この件における住民要望の具体的内容とその住民要望に対する政府、機構及び協会の具体的対応方針についても説明されたい。
2 別宮団地は二〇〇八年三月末に全廃という方針と聞いているが、政府の方針を明らかにされたい。また、別宮団地について、協会大阪支所業務第二課の担当者は住民に対し「居住権の侵害はしない。二〇〇八年三月以降になっても住民を追い出すことはしない。」と回答しているが、政府もこの回答を住民に確約するのか。
3 住民を転出させるにあたり、機構は二〇万円の移転補償を行うということだが、これでは家を借りるための敷金にもならない。もっと額を増やしてほしいと住民は求めているが政府の対応方針はいかがか。

五 全国の雇用促進住宅は、炭坑離職者などのために国が建てた住宅であり、居住者は高齢化している。民間住宅は、高齢者をなかなか受け入れてくれず、出て行けといわれても居住者には出て行く先がない。月額二万一〇〇〇円(共益費を含む)のような安い家賃の住宅は公営住宅以外にないのにもかかわらず、公営住宅は競争率が高くて入れない。政府は雇用促進住宅を追い出される居住者の救済策として、どのような対応方針で臨むのか、明らかにされたい。

  右質問する。