質問主意書

第163回国会(特別会)

質問主意書


質問第七号

放射性廃棄物のクリアランス制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年十月三日

近藤 正道   


       参議院議長 扇 千景 殿



   放射性廃棄物のクリアランス制度に関する質問主意書

 第一六二回国会において、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)が改正され、原子力施設の廃棄物のうち放射能濃度が一定の基準を超えないものを放射性廃棄物として扱わないこととするクリアランス制度が導入されることになった。しかしながら、国会における法案審議の際には十分な時間が取れなかったことからさまざまな疑問点を残しており、制度の実施を前になお国民の間には不安の声が多くある。
 そこで、このクリアランス制度に関して、以下質問する。

一、平成一六年一二月の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会廃棄物安全小委員会報告書「原子力施設におけるクリアランス制度の整備について」における一一〇万キロワット級原子炉の廃止に伴う廃棄物の試算によると、明らかに放射性廃棄物でない廃棄物が九〇パーセント以上を占め、クリアランス制度適用対象の廃棄物は数パーセントに過ぎない。それでもあえて、クリアランス制度を導入しようとするのはなぜか。

二、クリアランスによる人の健康への影響について、本年三月三〇日の衆議院経済産業委員会においては、武田良太委員の質疑に対して「影響のないレベル」という答弁が行われている。従来の説明は「影響は無視できるレベル」である。「影響はない」とまで言うのは誤りと考えるが、どうか。

三、クリアランスレベルの検討を行った原子力安全委員会は、昨年末の意見募集で寄せられた意見への回答の中で「年間一〇マイクロシーベルトは、国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)の考え方に基づき、線量に起因するリスクが無視できるほど小さいレベル(一〇のマイナス六乗のオーダー)で、自然界からの年間平均線量(約二・四ミリシーベルト(世界平均))の数%のレベルであることからバックグラウンドの変動に対して無視できるくらい小さい線量」と説明している。一〇のマイナス六乗が「影響が無視できるレベル」というのは、政府の見解であるのか。

四、クリアランスレベルは、IAEAの安全指針の値を用いることが予定されている。しかし、IAEAの指針は、広島・長崎の放射線被曝再評価など最新の研究成果を反映していないのではないかと考えられる。最新の結果では、被爆者のガン死亡の増加が認められ、その結果、被曝によるガン・白血病死の発生確率が、それまでに考えられていたより一〇倍も高くなっていたことが分かっている。
 これらを考慮すれば、クリアランスレベル値は一〇分の一以下に下げなければならないのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

五、クリアランスレベルの設定の経過を見ても、たとえばトリチウムについてIAEAの以前の技術文書では廃棄物一グラム当たり一〇〇〇ベクレルから一〇〇〇〇ベクレルのクリアランスレベルが推奨されていたが、原子力安全委員会の専門部会の中間報告では七ベクレルとされた。それが、報告書では二〇〇ベクレルとなり、昨年には再評価されて六〇ベクレルと変わり、さらに最終的にはIAEAの新たな安全指針を取り入れて現在は一〇〇ベクレルとされている。〇・〇一ミリシーベルトという目安の値が自然放射線より二ケタ低いとしても、その〇・〇一ミリシーベルトを超えないよう算出して設定されるクリアランスレベルが四ケタも変わっていて信用できるのか。

六、大量のクリアランスされた廃棄物を扱う作業者の被曝や、再利用されて赤ちゃんがしゃぶるようなものに使われたり病室の壁になったりして、本当に「影響は無視できる」と言えるのか。

七、国は二段階でチェックするとされているが、測定・判断方法が事業者による多分に恣意的な選択にゆだねられており、国は認可するだけである。また、測定や判断も国が自ら行うのでなく追認するのみとなっている。測定・判断の信頼性はあるのか。

八、二で示した質疑においては、クリアランス制度を円滑に動かすために経済産業省と環境省の密接な連携が必要であり、環境省も地方公共団体や産業廃棄物処理業者に対するマニュアル作成等により周知徹底すると答弁しているが、クリアランスされた物が廃棄物ではなくリサイクルにまわされる場合は、環境大臣に監視などの法的権限はない。リサイクルされる場合、環境大臣に何ができるのか具体的に示されたい。

九、クリアランス制度により生ずる廃コンクリートの再使用の需要はあるのか。処分される場合、各都道府県にある最終処分場の容量に与えるインパクトをどう考えるか。

十、経済産業省が今回の原子炉等規制法改正法案の国会提出の際に報道提供した説明資料には「制度が定着するまでの間、事業者が自主的に搬出ルートを把握・業界内で再生利用」と示されているが、改正法自体に規定はない。「制度が社会に定着するまでの間」とされているが、判断するのはだれか。原子力事業者が勝手に判断するのか。
 また、その判断根拠については、パブリックコメント意見への回答で「制度化後の実績」と説明されているが、原子力事業者が率先利用しても閉じたルートであり、社会への定着とは直接リンクしない。これでは、いつ率先利用が解除され、市中に原発廃材リサイクル品が出回るか明らかでない。判断根拠を具体的に示されたい。

十一、クリアランス制度において外国原子力船も対象とされているが、クリアランス制度の適用が可能かどうか、原発や試験研究炉のように検討会を設けて検討したのか。
 また、外国原子力船といっても、実態上は米軍の原子力艦船しかありえない。米軍の廃棄物を処分するのは、日米地位協定の覚書で定められた従来の方針を変更するということか。また、軍事上の機密が優先され、検認が十分に行われるとはとうてい思えないが、いかがか。

十二、以上指摘した観点などを総合的に勘案すると、クリアランス制度の導入については施行を見合わせ、再検討する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。