質問主意書

第151回国会(常会)

答弁書


答弁書第四〇号

内閣参質一五一第四〇号

  平成十三年七月二十三日

内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員齋藤勁君提出日米地位協定の改定に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員齋藤勁君提出日米地位協定の改定に関する質問に対する答弁書

一及び二の6について

 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三十五年条約第七号。以下「日米地位協定」という。)第二十五条第一項に基づき設置される合同委員会(以下「合同委員会」という。)における平成七年十月二十五日の刑事裁判手続に関する合意では、起訴前における合衆国軍隊(以下「米軍」という。)の構成員又は軍属たる被疑者の身柄の引渡しについて、「合衆国は、殺人又は強姦という凶悪な犯罪の特定の場合に日本国が行うことがある被疑者の起訴前の拘禁の移転についてのいかなる要請に対しても好意的考慮を払う。合衆国は、日本国が考慮されるべきと信ずるその他の特定の場合について同国が合同委員会において提示することがある特別の見解を十分に考慮する。」とされている。この合意に基づいて起訴前の身柄の引渡しが行われた例が既に二件ある。
 さらに、合同委員会においては、右合意にいう「その他の特定の場合」の内容を明確化することを目的とした協議を開催することについて意見が一致し、本年五月十五日以降、合同委員会の下にある刑事裁判手続に関する特別専門家委員会において協議が開始されたところであるが、その経過と内容については、これらを公にすればアメリカ合衆国(以下「米国」という。)政府との信頼関係が損なわれるおそれがあることから答弁を差し控えたい。

二の1について

 お尋ねの「基地の提供に係る取決め」が何を指すかは必ずしも定かではないが、日米地位協定第二条第三項の規定により、米国は、米軍が使用を認められている同条第一項にいう施設及び区域(以下「施設及び区域」という。)がこの協定の目的のため必要でなくなったときは、いつでも、我が国に返還しなければならず、また、施設及び区域の必要性をこの返還を目的として絶えず検討することとされている。また、政府は、施設及び区域の提供、返還及び共同使用について米国と協議するに際して、地方公共団体等からの要望を勘案してきているところである。

二の2について

 一般国際法上、駐留を認められた外国の軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、我が国に駐留する米軍についても、同様である。しかしながら、同時に、外国軍隊が接受国の法令を尊重しなくてはならないことは当該軍隊を派遣している国の一般国際法上の義務であると考えられ、米国もこの尊重義務を負っていることから、我が国としては、米軍による施設及び区域の使用について我が国の法令を適用させる特別の取決めを設けることとはしていない。
 また、地方公共団体による施設及び区域への立入りについては、平成八年十二月二日の施設及び区域への立入許可手続についての合同委員会合意に定められている所要の手続に従って実施されている。この手続においては、米軍は、地域社会と友好関係を維持する必要性を認識し、地方公共団体の職員によるものも含め、立入りが、軍の運用を妨げることなく、部隊防護を危うくすることなく、かつ施設及び区域の運営を妨げることなく行われる限りにおいて、立入申請に対してすべての妥当な考慮を払うこととされている。

二の3について

 米軍は、米国国防省の策定した基準に沿って、我が国の国内法上の基準と米国の国内法上の基準のうち、より厳格なものを選択するとの基本的な考え方の下に環境管理基準を作成し、これに基づき、厳格な環境管理行動をとっているものと承知している。政府は、これまでも合同委員会の枠組み等を活用して、当該環境管理基準の見直しの際に、我が国の国内法上の基準との関係で問題が生じないよう、必要に応じ米国政府と協議することとしてきた。さらに、平成十二年九月の日米安全保障協議委員会において策定された「環境原則に関する共同発表(以下「共同発表」という。)」において、政府及び米国政府(以下「日米両政府」という。)は、環境管理基準を見直し、二年ごとに更新するための協力を強化することとされている。
 また、環境汚染への対応については、共同発表において、日米両政府は、施設及び区域に隣接する地域社会における環境汚染によるあらゆる危険について協議することとされ、米国政府は、我が国に駐留する米軍を原因とし、人の健康への明らかになっている、差し迫った、実質的脅威となる汚染について直ちに浄化に取り組むとの政策を再確認しているところである。

二の4について

 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号。以下「日米安保条約」という。)は、我が国の安全並びに極東の平和及び安全の維持に寄与するため、米軍の我が国への駐留を認めている。
 米軍が、日米地位協定第五条に基づき我が国の飛行場又は港に出入りすることは、平素から米軍の円滑かつ効果的な活動を確保し、もって日米安保条約の目的を達成するために極めて重要であると考えている。したがって、緊急時以外の民間空港等の使用を禁止することは適切でないと考える。
 また、一般的に、米軍が飛行訓練を通じてパイロットの技能の維持及び向上を図ることは、即応態勢という軍隊の機能を維持する上で不可欠の要素であり、日米安保条約の目的達成のために極めて重要である。さらに、米軍が飛行訓練を含め軍隊としての機能に属する諸活動を一般的に行うことは、我が国が米軍の我が国への駐留を認めていることの当然の前提であると解され、政府は従来からこのように答弁してきているところである。
 一方、米軍は全く自由に飛行訓練等を行ってよいわけではなく、我が国の公共の安全に妥当な考慮を払って活動すべきものであることはいうまでもない。政府としても、従来から、日米合同委員会等の場を通じ、米国側に対し、安全確保に万全を期するよう申入れを行ってきている。米軍も、この点には十分に留意しており、我が国法令を尊重し、安全面に最大限の配慮を払うとともに、地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう努めている旨を明らかにしている。

二の5について

 お尋ねの「航空、航行及び道路交通に関する日本国の法令」の範囲は必ずしも定かではないが、日米地位協定第五条に関する合意議事録4に基づき、船舶、航空機等の通行主体の通行行為自体を通行秩序の維持の観点に立って規制する法令の規定は米軍にも適用されることとされている。

二の7について

 公務執行中の米軍の構成員又は被用者が我が国において政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権は、日米地位協定第十八条第五項に基づき、関係国内法令に従って適切に処理されている。
 我が国内における不法の作為又は不作為で公務執行中に行われたものでないものから生ずる米軍の構成員又は被用者に対する請求権については、同条第六項に基づき、適切に処理されており、特に、平成八年十二月二日に発表された沖縄に関する特別行動委員会の最終報告において、日米地位協定の運用改善として、米国政府による前払制度の積極的活用並びに政府による無利子融資制度の創設及び確定判決額と米国支払額の差額を埋めるための見舞金の支給が盛り込まれ、これらの措置が日米両政府により採られているところである。

二の8について

 政府としては、個々の施設及び区域の返還や使用の在り方等について、地方公共団体からの要望も勘案しつつ、合同委員会の枠組みを通じ米国と協議してきているところである。また、合同委員会における合意事項は、米国の同意が得られる場合には、その全文又は概要を公表してきている。

三について

 政府としては、日米地位協定については、その時々の問題について運用の改善により機敏に対応していくことが合理的であるとの考えの下、運用の改善に努力しているところであり、これが十分効果的でない場合には、我が国のみで決定し得ることではないが、日米地位協定の改正も視野に入れていくことになると考えている。