質問主意書

第150回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二二号

内閣参質一五〇第二二号

  平成十三年一月三十日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員櫻井充君提出代用心膜使用症例における遅発性皮下膿症及び縦隔炎の発生に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員櫻井充君提出代用心膜使用症例における遅発性皮下膿症及び縦隔炎の発生に関する質問に対する答弁書

一について

 厚生省がシェルハイ社製代用心膜シェルハイノーリアクトパッチ(以下「本製品」という。)の使用症例において遅発性皮下膿症又は縦隔炎が発生したとの情報を入手したのは、医療機関から医療用具安全性情報報告を受けた平成十一年十月二十五日が最初である。これ以前にヨストラジャパン株式会社から本製品の使用による不具合の発生について報告があったことは確認できない。

二について

 本製品の使用状況及び遅発性皮下膿症又は縦隔炎の発生の有無については、厚生省の指示により、本製品の唯一の輸入販売業者であるヨストラジャパン株式会社が、同社の販売記録等に基づき、販売先である医療機関を対象として調査を実施したものである。その結果、同社から厚生省に対して、調査した百四十八医療機関中百三十七医療機関において本製品が使用されていたとの報告が平成十二年三月三十一日に行われ、本製品を代用心膜として使用した患者の中で発生した遅発性皮下膿症又は縦隔炎に関する六十五件目の症例報告が同年十一月六日に行われ、その後も同年十二月三十一日までの間に三例の症例報告が行われている。

三について

 厚生省は、平成十二年九月二十七日に医薬品・医療用具等安全性情報を発行し、本製品の使用症例における遅発性皮下膿症又は縦隔炎の発生について広く医療関係者に情報提供した。
 なお、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第七十七条の三第一項は、医療用具の輸入販売業者に対して、その輸入する医療用具に関して、有効性及び安全性に関する事項その他医療用具の適正な使用のために必要な情報を収集し、検討するとともに、医療機関等に対して情報提供するよう努めることを義務付けており、厚生省は、当該医薬品・医療用具等安全性情報の発行に先立って、ヨストラジャパン株式会社に対して別表のような指示を行ったところである。

四について

 厚生省はヨストラジャパン株式会社に対して再三にわたり本製品に係る不具合症例の調査を指示したところであり、同社からの報告により、平成十二年十二月三十一日の時点で六十八症例を把握している。
 医療用具の不具合等に係る症例については、薬事法第七十七条の四の二の規定に基づき、その製造業者、輸入販売業者等が医療用具を使用した医療機関から情報を収集し、確認された症例ごとに、厚生労働省に報告することとされている。当該製造業者、輸入販売業者等が倒産等の理由により存在しなくなり、かつ、当該医療用具が原因と考えられる死亡等の重篤な症例が発生した場合には、製造業者、輸入販売業者等に代わって厚生労働省が直接調査するものである。
 なお、厚生労働省が個々の症例ごとに医師の診断の是非を判断することは困難である。

五について

 本製品の使用患者における遅発性皮下膿症又は縦隔炎の発生については、複数の検査機関における試験検査結果等の情報を総合的に勘案するとともに、専門家の意見を聴取し、その原因を検討してきたところであるが、各々の症例報告から得られる情報が少ないこともあり、現在においても原因は特定できていない。
 このような中で、厚生省はヨストラジャパン株式会社に対して、同社から二十二例の遅発性の無菌性皮下膿症及び縦隔炎の症例報告を受けた平成十一年十二月二十一日に、原因が特定されていないものの、本製品を代用心膜として使用した患者の中に遅発性皮下膿症又は縦隔炎が発生した症例が報告されていること及び本製品を代用心膜として使用しないことを医療機関に情報提供するよう指示するとともに、同社から在庫品に抗酸菌が検出された旨の報告を受けた平成十二年二月十七日には、直ちに本製品を回収するよう指示したところである。

六について

 本製品に関して米国食品医薬品局(以下「FDA」という。)を含む海外の規制当局に情報提供及び調査を要請したのは、平成十二年二月十八日が最初である。その後も国際会議等の機会を利用して繰り返し情報提供等の要請を行ったが、FDAから情報提供等がなかったため、同年六月三十日付けの文書により情報提供及び調査を要請したところ、同年七月下旬にFDAから、照会内容には企業秘密に該当する部分があるため、情報提供の前提として、厚生省に守秘宣誓のための誓約書への署名を求める旨の返信があった。これを受けて、同年八月十四日に誓約書に署名してFDAに再度照会を行ったが、現在までのところ、照会内容に対応した本製品に関する回答は得られていない。
 また、本製品の製造に関する情報等については、薬事法上副作用等の報告が義務付けられている本製品の輸入販売業者であるヨストラジャパン株式会社に対して報告を求めているところであり、薬事法が適用されない製造元のシェルハイ社に対する調査は行っていない。

七について

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第六条第七項に規定する「新感染症」とは、「人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」とされているが、本製品を使用した患者の中に発生した遅発性皮下膿症及び縦隔炎は、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるものではないこと等から、新感染症には該当しない。
 また、お尋ねの「このような未知の菌は国が直接管理すべき」の趣旨が定かではないが、仮に抗酸菌のように自然界に広く存在する病原体を国が直接封じ込めを行うべきであるということであれば、物理的に困難である。

八について

 結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)の対象となるのは、抗酸菌のうち結核菌群を病原体とする疾病のみである。本製品を使用した患者の中に発生した遅発性皮下膿症又は縦隔炎は、現段階では結核菌群を病原体とする疾病であるとは確認されておらず、同法の対象とはならない。

九について

 医薬品及び医療用具に関する規制は薬事法に基づき行われている。医薬品及び医療用具の安全性の確保及び副作用等による被害の防止については、当該製品を製造し、輸入し、又は販売する製造業者、輸入販売業者、販売業者等が第一次的な義務を負うべきものであり、厚生労働省は、製造業者、輸入販売業者、販売業者等の対応を踏まえつつ、安全確保等の観点から必要な処分、指導等を行うこととなる。
 厚生労働省においては、医療機関からの医療用具安全性情報報告やヨストラジャパン株式会社からの調査報告を受けた段階で直ちに同社に対して指導を行う等、迅速な対応を行ってきたと考えている。

別表