質問主意書

第5回国会(特別会)

答弁書


答弁書第三十二号

内閣参甲第三五号
  昭和二十四年三月二十九日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員小林勝馬君提出結核特効薬としてのストレプトマシンの効果についての質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員小林勝馬君提出結核特効薬としてのストレプトマイシンの効果についての質問に対する答弁書

一、日本においては薬物が輸入されていないため系統的、組織的の成績は出ていないが、今後ストレプトマイシンについて「ストレプトマイシン研究協議会」を設立し、予防衛生研究所長を会長とし、臨床並びに製造研究を組織的に推進する意向であるが、米国における一九四四年以来、一九四八年に至る臨床実験の成績を総括すると次のようである。

1(イ) 粟粒結核症の場合治療終了後六―十二箇月生存しているものは半数以上で、結核性脳膜炎では四分の一である。
(ロ) 肺結核の新鮮な滲出性のものに対しては、数週間で臨床的及びX線上に良好な結果を見るが、続けて一般のサナトリウム療法を必要とする。
(ハ) 喉頭結核及び結核性気管支炎の八五%において有効であるが、肺の原発巣は好転しない。
(ニ) 普通の慢性肺結核症(通称「肺病」)に対しては、ストレプトマイシンはあまり反応しないようである。
(ホ) 前記以外の結核症については、最終的の結論が出ていない。

2 中毒作用として前庭機能障碍、即ち平衡失調、眩暈、悪心、頭痛等が主で、そのうち眩暈は一日一瓦であつても二〇%に、一・八瓦ならば九二%に出現し、これは恢復しない。

3 ストレプトマイシンに抵抗性を有する。即ち普通量のストレプトマイシンでは、全然反応せず、千倍量、一万倍量にも耐える結核菌株が出現し、その抵抗性は永続するもののようである。

4 使用量は中毒作用及び菌の抵抗性を考慮して初期の一日量二―三―五瓦から漸次減らして現在は成人に対し一日一瓦六週間以上は投与しない程度になり一層減量する傾向にある。
 これを要するにストレプトマイシンはある種の結核症には著効を奏するが全部の結核症の特効薬としての地位は確立されていない。

二、従来輸入されたストレプトマイシンがないので配給実績はない、なお、三月下旬輸入された二〇〇キログラム(五、〇〇〇人分)のストレプトマイシンの配分については、ストレプトマイシン研究協議会の建議に基いて研究用は国立病院、国立療養所、大学、研究所に、臨床用は国立病院、国立療養所、医療機関及び一般に割当てられる予定である。

三、従来ストレプトマイシンを生産する菌株の分離については予防衛生研究所、大学研究室その他ペニシリン製造会社研究室等で行われてきたが抽出されたストレプトマイシンの量は極めて少くすべて実験室的研究にとどまつていた。かかる実状下に昨年九月連合軍最高司令部よりアメリカで分離された菌株を日本側に分与する旨の好意的申し出があり同年十二月九日米国ラツヂヤース大学で分離された菌株が予防衛生研究所に手交された。厚生省においてはこれを抗菌性物質に関して相当の研究実績をもつ希望者に分与して国内生産の促進を図ることとした。現在における分与先は別紙の通りである。
 ストレプトマイシンの製造を企図している工場は明治製菓株式会社、萬有製薬株式会社等数社があるが関係方面の意向もあり今後の研究にまつて優秀なる技術施設を有するものに製造許可を与え工業的生産を図りたい。なお工業化は多額の資金を必要とするので外資導入等検討をすすめ関係方面と連絡中である。大量生産は別としてもペニシリンタンク転用による国産品の出現は今年秋頃の予定である。
 既に我国ではペニシリンの製造に成果をあげたすぐれた技術があり、原料資材についても国内資源を利用し得且つ製造会社の熱意も高いので資金面の難関を打破し積極的に生産の奨励を図り国民の要望に沿いたいと考えている。

別紙(昭二四、三、二六現在)

一、研究者としては

1 九州大学医学部      戸田忠雄
2 名古屋大学理学部     久保秀雄
3 大阪大学微生物科学研究所 大谷象平
4 厚生省衛生試験所     八田貞義

二、製造業者としては

1 萬有製薬株式会社
2 明治乳業株式会社
3 武田薬品工業株式会社
4 東洋醸造株式会社
5 協和産業株式会社
6 株式会社科学研究所
7 立川医薬品工業株式会社