請願

 

第168回国会 請願の要旨

新件番号 1259 件名 水制度改革に関する請願
要旨  我が国の水制度は、縦割り制度の下で閉塞(へいそく)状況にあり、近い将来、水環境は危機に陥り、水資源問題は深刻になり、防災面でも安全性が損なわれるおそれがある。その理由は、(一)我が国の水制度は、昭和三二年一月に断行された水道行政三分割に端を発し、それ以降各種の施設整備には威力を発揮したが、現在では完全に行き詰まり、悪影響を及ぼす存在となっている。(二)次なる五○年を展望すると、人口減少と経済成長率の停滞あるいは経済規模の縮小時代になることは明白であり、整備した施設の更新期となる。正に水制度は転換期を迎えている。(三)地球温暖化が加速し、気候変動によって異常な洪水と渇水が頻発する。また、微量有害化学物質による水質汚染が激化し、野生生物のみならず、人間の生命にも危害が及ぶおそれがある。このように現行制度は、既に我が国の実情に合わなくなっている。未来の世代に豊かで清らかな生命の水を引き継ぐため、持続可能な地球環境保全時代に適応する水制度改革を求める。
 ついては、次の措置を採られたい。

一、水管理の憲法・水管理基本法(仮称)を制定し、縦割り制度を改めること。
   現行水制度は、完全な縦割り制度になっている。事業法的性格の法律が四○以上あるが、これら諸法の基本的な考え方を統一する基本法が存在しない。水は、生命の水である。縦割り制度で水循環サイクルを寸断することは、人間が自らの手で自らの生命を危機に陥れることにほかならない。現行水制度は、この意味からすると悪に与(くみ)するものとなる。可及的速やかに水管理の憲法「水管理基本法(仮称)」を制定するべきである。水管理基本法には、「国民は、清浄な水の恩恵と凶暴な水の力から守られる安全を享受する基本的権利を持つこと」、「水資源(地下水を含む)は、国民の共有財産(コモンズ)であり、公水であること」、「河川流域をベースにした水循環サイクルの確保」、「有害微量化学物質のリスクの排除義務の明確化」などの規定を明記するべきである。
二、政府及び地方自治体は、健全な水循環サイクルの持続可能性を保障するため、水管理の公共性を確保する義務を持つこと。
   政府及び地方自治体は、あらゆる形態の水(表流水、地下水、湖沼水や海水など)は、国民の共有財産(公水)であるという水管理基本法(仮称)の規定を受けて、水管理の公共性を常に確保し、健全な水循環サイクルの持続を国民に保証する責任を担うべきである。例えば今後、地球温暖化の進行によって、異常な洪水と渇水とが頻発するおそれがあり、さらに無差別テロのような形で水循環サイクルが破壊されるようなことも考慮しないわけにはいかない。有害微量化学物質は、水循環サイクルの過程で食物連鎖と生物濃縮という自然のプロセスを通して未来の世代を含む不特定多数の人々の生命を危機に陥れる。これらの諸事態に対する危機管理を万全に遂行できる制度的対応を構築するべきである。
三、現行の縦割り行政を廃し、水行政を統括する水管理庁(仮称)を創設するとともに、水に関連する研究機関を統合し、地球的規模で水問題を研究する体制を構築し、併せて研究者・技術者の養成に努めること。
   現行水行政部門は、国土交通省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、総務省などに分散しているが、これらを統合した水管理庁(仮称)を創設し、水資源の水量・水質管理行政の一元化、上・下水道行政及び関連行政の一元化、流域管理行政と河道管理行政の一元化などを推進するべきである。一元化体制の構築に当たっては、研究機関や技術者養成機関を含めることは言うまでもない。なお、道州制の導入に当たっては、各道州政府において、水行政が統一されるように制度的・組織的な措置を講じるべきである。
四、水管理の税源確保と非常時対応のための基金制度の創設を進めること。
   水管理の財源対策として次の措置を講じるべきである。(一)各都道府県の水源涵養(かんよう)機能をベースに消費税の一定割合、例えば十分の一を水源保全の目的税として配分すること。(二)水環境資源を消費する企業活動に対して水環境管理税(仮称)を賦課する制度を創設すること。(三)地震災害、異常な洪水や渇水などの災害などに備えて非常時用の施設、設備及び備品を常備することを目的とした非常時コストを使用料や料金に含め、基金として積み立てる制度の構築を推進すること。
五、水管理は、河川流域圏を基本に行うとともに、上・下水道事業の統合を推進し、広域的事業展開を可能にする制度を創設すること。また、道州制は、水の完全需給が可能なようにその境界を決め、道州内の河川流域間の水の相互融通に努めるべきこと。
   水は循環資源であるから、水管理は基礎的自治体の行政境界を越えた河川流域圏をベースに行われる べきである。さらに、高度浄水、高度下水処理、再生水の再利用、有害化学物質の監視などは、河川流域圏ベースで行うことが適当である。上・下水道事業は、個別の行政境界を越えた広域的な事業展開を可能とする特別措置法を制定し、合理化・効率化を図るべきである。このような法制の整備によって、簡易水道事業や農山漁村の集落排水事業のような小規模事業を上・下水道事業の広域化と併せて統合し、サービス水準の向上と事業の効率化が可能になる。事業の広域化に当たっては、電気事業やガス事業などの先行例から、その長所を学ぶべきである。
六、政府及び地方自治体は、上・下水道事業を民営化する場合、公共性を確保する制度及び組織の創設を図ること。また、政府は、上・下水道事業の公的事業体が海外支援事業に進出できるように制度的財政的措置を講ずるべきこと。
   上・下水道事業は、独占事業であるから、一たび民営化されると、国民は不利益を被る可能性がある。そこで、国民の利益を擁護するために不可欠な制度的組織的な措置として、例えば「上・下水道事業の公共性を維持するための特別措置法(仮称)」の制定を図るとともに、事業の情報公開や監査の透明化を強化するために必要な制度を創設すべきである。このような対応を欠いたなし崩し的な民営化は、国民にとって憂慮すべき事態をもたらすであろう。完全民営化を断行したイギリスが水道事業規制庁(オフワット)を設置し、公共性の確保に努めた事実は、貴重な教訓となる。上・下水道事業の海外支援事業の中でも、事業の経営や制度などにわたる広範なマネジメントに関する援助は、公的事業体が直接当たることが望ましい。このため、公的事業体がこのような支援活動を積極的に実施できるように所要の制度的措置を講じるべきである。
七、施設の管理更新の時代に転換することに対応して、維持管理及び改築更新の諸制度を整備すること。
   現行水制度は、基本的に建設時代に制度化されたものであり、維持管理及び改築更新に関する諸制度は、極めて未熟と言わざるを得ない。事業の執行体制は、一般に管理段階に入ると大幅に縮小され、事業運営は民間企業に全面委託してしまい、事業目的に沿った健全な運営が危ぶまれることもしばしばである。本来の事業目的は、管理段階になって初めて達成されるのであり、現行では建設のための建設であって、本末転倒のそしりを免れない。社会資本のアセット・アセスメントなどを進め、社会資本の財産価値をフルに引き出す国家的プログラムを提示するなど、管理時代に適応した制度の拡充・整備を期すべきである。

一覧に戻る