請願

 

第164回国会 請願の要旨

新件番号 1468 件名 助産所と自宅における出産の安全性の確保と支援に関する請願
要旨  現在の日本において、出産数の低下による少子化問題が大きく取り上げられているが、その一方で、助産所や自宅での出産を希望する女性が増えている。このような出産をサポートするのが開業助産師であるが、助産所を開設する場合には、異常時に備えて嘱託医を定めなければならない。現行の法律では、嘱託医は産科専門でなくてもよいことになっている。しかし、昨年、厚生労働省が行った「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」において、嘱託医制度は時代にそぐわないという意見があったにもかかわらず、嘱託医は産科医師とする必要があるとされた。これは、以下の点で問題である。(一)助産所を開業する場合、産科医に依頼しても嘱託医を断られる場合が多い。また、日本産婦人科医会が嘱託に応じた医師に圧力を掛けたという話も聞こえる。このような状況で、嘱託医を産科医に限定した場合、引き受ける産科医がいなければ、助産師は開業できない。現在でも自宅出産を取扱う出張開業助産師は極端に少なく、将来、助産所が消滅することにもなりかねず、自宅や助産所で出産したい女性のニーズにこたえることができなくなる。(二)助産師が嘱託医に協力を要請した際に、多忙や不在を理由に診てもらえず、軽症の場合でも周産期センターなどの高度医療機関に搬送せざるを得ない状況が多くなっている。嘱託医制度そのものが、実情に合わせて見直す時期にきている。(三)重症あるいは緊急の場合、自宅や助産所から嘱託医に送っても、更に周産期センターに搬送が必要な場合があり、搬送先を探すこと、搬送先までに時間が掛かり、その間により重症化する可能性がある。自宅出産の場合、施設からの搬送でないという理由で、搬送システムにさえ組み込まれていない。自宅や助産所で出産する母児の命を守るためには、嘱託医制度そのものを廃止し、診療所・病院・周産期センター、特に地域の基幹病院に直接紹介・搬送できる連携医療システムの確立が必要である。診療所や病院から高次の医療機関に搬送した場合、送った側にも、受け入れた側にも診療報酬の手続が取られるが、助産所や自宅から受け入れた場合は、診療報酬化されていない。自宅や助産所からの搬送も診療報酬化することが必要である。現在、自宅や助産所での出産の異常時や緊急時のバックアップは、心もとない状況である。これを解決する方法の一つとして、搬送までに、助産師がある程度の処置を行える必要があるが、現在の法律では、緊急時にできる医療行為について、具体的な内容を明文化したものはない。海外の助産師は、平素から会陰切開や縫合等、あるいは必要な薬剤の使用が可能であり、緊急処置などもできる。母児の命を守るためには、日本の助産師にもこれらの業務ができるようにすることが必要不可欠である。日本の助産師は、正常出産でも産婦人科医の立会いを余儀なくされているが、これらができれば、正常分娩(ぶんべん)は助産師に任せることができ、産婦人科医不足の解決の一助にもなる。助産師の業務を拡大し、正常出産での産婦人科医立会いがなくても済むようにすることで、産婦人科医を過重労働から救うことにもなる。助産所が消滅するということ自体も、別の意味で問題である。日本における研究結果でも、助産所での出産は医療処置が少なく、WHO勧告の実施率も高く(根拠・証拠に基づいた技術の適用)、妊産婦の満足度が高い。世界一八か国で行われた出産に関する科学的な研究の結果では、出産の安全性は、器械や薬を多用することではなく、助産師が妊婦と妊娠初期から出産までかかわり、深い信頼関係を築くことで高まると言われている。この結果からも自宅や助産所での出産を、尊重すべきであり、むしろ拡大していく方向が望ましい。出産の多様化が進んでいる現在、自宅や助産所で出産を希望する女性の権利が尊重されるべきであり、不利益を被らないような配慮が必要である。同時に、安全性が最低限確保されなければならない。また、少子化という現状を考えると、女性が納得し、満足する出産のために、国は全力を挙げて取り組むことが責務である。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、嘱託医制度を廃止し、現状に合った助産所や自宅出産との連携医療システム(診療所・病院・周産期センター・地域の基幹病院との連携)を法制化すること。
二、自宅や助産所における出産において、異常時や緊急時には、連携医療機関が母児をスムーズに受け入れるように受入れシステム(助産所や自宅からの搬送受付の診療報酬化など)を法制化すること。
三、会陰切開や会陰縫合等、緊急時に必要な処置、必要な薬剤の使用等、日本の助産師が先進国並みの助産業務ができるように法律を改正すること。
四、自宅や助産所で出産したいという女性のニーズにこたえるために、助産所 を存続すること。

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