請願

 

第161回国会 請願の要旨

新件番号 21 件名 労働組合法改悪反対に関する請願
要旨  今国会に上程されている労働組合法の改定案は、「建議」で打ち出されているように、労働委員会の審問の長期化や行政訴訟における命令の高取消率を口実に審理の迅速化と的確化が全面に押し出されて行われようとしている。しかしそれは、団結権保護や侵害された団結権の回復ではなく、労使関係の秩序回復を目的に掲げ、司法に耐え得る命令と称してJR不採用事件判決を契機として反動化する司法に労働委員会を従属させるものであり、労働者の団結権を解体するものにほかならない。
 ついては、今国会に上程されている労働組合法の改悪をせず、廃案にするとともに、法案の委員会審議において本請願者代表が意見を述べる機会を保障されたい。

   理由
一、審査計画制度による審理の的確化・迅速化に反対する。
   労組法改悪の最大の問題は、行政訴訟における高取消率を理由に審理の迅速化、的確化を図ることである。そのために導入されるのが審査計画制度である。昨年七月の「研究会報告」においては、「審査の遅延」の原因として「当事者から提出された多数の書証の整理」「多数の証人尋問」など審問が当事者主導となっていることや、「争点に係る判断に必ずしも必要と言えないような事件に至る経緯や背景事情などが詳細かつ幅広く記載されがち」としていることは、この審査計画がどのようなものになるかを明らかにしている。そもそも、労使関係とは総合的なものであり、不当労働行為意思の立証は、様々な労使関係の経緯から立証するしかない。ところがこの改悪は、労使関係に係る事実を総合的に判断して不当労働行為を認定するという労働委員会の在り方を否定し、それを背景事情のように言いなし、争点整理で切り捨て、使用者が自白した場合等、直接的に不当労働行為を立証することしか認めず、そのような場合しか救済しないということである。これは、本来の不当労働行為制度を根本的に転覆するものであり、制度の実質は全く否定されることになる。また、十分な証拠提出の権利を保障した労組法第二七条第一項にも反する。不当労働行為制度の趣旨は、団結権等の侵害を排除し、団結権保障を具体的・実質的に実現することが目的であって、裁判所のように私法上の権利義務関係によって判断するものではない。それを、私法上の権利義務関係(すなわち形式論)で判断し、労働委員会命令を取り消してきたのが、JR不採用事件判決以降の裁判所の反動化の流れである。高取消率を理由として労働委員会を、裁判所へ全面屈服させ、従属化させるのが労組法の改悪であり、労働基本権を解体するものである。
二、審問主義を否定する審査計画に反対する。
   審査計画制度の導入においては、「労働委員会は審問開始前に争点、証拠、証人数などにつき審査計画を立て、労使双方は計画に従う」ということが打ち出されている。これは、今日まで労組法及び労働委員会規則によって打ち立てられてきた審問主義を破壊するものであって、労働委員会の裁判所化を促進するものとなり、労働組合側に著しい不利益を与える。申立てから三〇日以内に審問を開始する(労委規則第三九条)、「必要があると認めたときは、当該申立てが理由があるかどうかについて審問を行わなければならない」(労組法第二七条)という規定は、裁判所と違い、事実調べの中で、事実を明らかにしていこうとするものであって、労働者の救済機関として当然の在り方である。しかし、まず争点整理をするということは、労働者に圧倒的な不利益を強いるものである。労働組合法は、労使の力関係が使用者側に傾いており、それを団結権の保障をもって対等関係に持ち込むというのが基本的な立場である。労働委員会においても、不利な関係にある労働者は、審問の中で、問題を整理し争点を明確にし、また証拠を捜し、事実を立証していくのである。それにもかかわらず、いきなり争点を整理し、証拠、証人を決めることは、有利にある使用者と不利にある労働者・労働組合の関係を、初めから固定化してしまうものであり、労働委員会制度の趣旨に根本的に反し、労働委員会の裁判所化を促進するものでしかなく、団結権の一層の侵害になるものである。
三、審査計画の強行のための公益委員の権限強化と罰則強化に反対する。
   この法案において、公益委員の審査における権限の強化が行われようとしている。刑事罰、行政罰を背景にして、審査計画を強権的な審問指揮をもって実行し、審理の迅速化、的確化を図るということにほかならない。つまり、審査計画に従わない労働者を廷吏(ていり)が暴力的に排除するという、裁判所の反動化が労働委員会に導入され、逮捕されたり、罰金が科せられるという事態が労働委員会で行われることになる。また、偽証罪の労働委員会への導入は、圧倒的に証拠を持つ使用者に対抗して行う労働組合・労 働者側の立証を決定的に制限することになる。このような、公益委員の権限強化は、十分な証拠の提出(労組法第二七条)の権利を保障した労組法の本来の趣旨を否定するものでもある。
四、和解の法制化と労使紛争処理機関化に反対する。
   「建議」では、不当労働行為審査制度は「団結権等の侵害行為によって、…労働条件について使用者と対等に交渉できる正常な労使関係秩序が損なわれている場合に、これを迅速に回復することを目的」とするとの、労組法のどこにもない目的規定が明記されている。ここでは、団結権保障よりも、労使関係秩序という価値観の転換が企図されており、改悪の行き着く先が、労働組合の不当労働行為であり、労働争議の平定とそれによる労使秩序の安定化にあると言わざるを得ない。このような法目的の転換をもって、和解が労組法の成文規定として導入されようとしている。この規定によって、労働基本権の侵害に対して原状回復の救済命令をもって労働基本権の保障をなさんとする不当労働行為制度の目的は破壊され、和解によって、労使関係秩序の回復をすることが、目的とされていくことになるのは、明らかである。それは、裁判所に従属した審問計画の暴力的な強行による労働基本権の否定によって、労働者・労働組合を正常な労使関係秩序に追い込んでいくものである。これは、労使関係秩序による原状回復主義の否定であり、このような和解制度の導入は認めることはできない。

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