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行財政機構及び行政監察に関する調査会

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行財政機構及び行政監察に関する調査報告(中間報告)(平成9年6月9日)

目次

第I 調査会の調査の経過

 参議院行財政機構及び行政監察に関する調査会は、第百三十三回国会召集日の平成七年八月四日に設置され、国民の多様なニーズへの的確な対応を目指した立法府と行政府の新たな関係を模索すべく、「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」を三年間のテーマとして鋭意調査を進めてきた。

 三年間の調査テーマは、理事会等で協議を重ねた結果、国民の多様なニーズへの的確な対応を目指した立法府と行政府の新たな関係を模索する必要があるとの観点から、「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」と決定し、鋭意調査を進めてきた。

 一年目は、主として行政監察等に視点を置いた基礎的調査を進め、現行の行政監察等の実情と問題点、行政監察と行財政改革の連携等について、政府からの説明聴取、学識経験者等からの意見聴取を行った。さらに、一年目の締めくくりとしてそれまでの調査を踏まえ、調査会委員間の自由討議により今後の調査会の方向性と課題について議論を行った。その際、国会と行政は緊張関係を持つべきであり、そのために行政を常時監視する委員会、あるいはオンブズマンを新設すべきであるとの意見が述べられる一方で、新たな機関を設置するよりも請願処理方法を改善したり、既存の常任委員会等において、政府部内監察の利用及び国政調査権の積極的な活用を図るべきであるとの意見も出された。同時に、議会による行政監視の在り方を検討するに当たっての参考として、諸外国の実態も調査すべきであるとの意見もみられた。

 そのため、二年目の調査は、まず、参議院の特定事項調査議員団として、本調査会長を始めとする五名の調査会委員が海外に派遣される機会をとらえ、平成八年七月十六日から二十九日までの十四日間、イギリス、ドイツ及びフランスの三か国において議会によるオンブズマン等行政統制についての調査を行った。

 また、既存の制度・権限の拡充・活用の在り方を検討すべきであるとの意見を踏まえ、平成八年十二月十二日に国政調査権及び請願制度について調査を行った。

 当日は、学問的な見地及び実務経験の見地から、それぞれ中央大学法学部教授清水睦氏、徳山大学学長(元参議院法制局長)浅野一郎氏、関西大学法学部教授吉田栄司氏、前参議院外務委員会調査室長辻啓明氏の四名の参考人を招き、清水参考人及び浅野参考人から国政調査権活用の現状と課題等について、吉田参考人から国民の権利としての請願権の在り方等について、辻参考人から請願審査の具体的改善策等について、それぞれ意見を聴取し、調査会委員と参考人との意見交換を行った。

 参考人からは、我が国の議院内閣制度の下では、議院における国政調査権の活用には自ずと限界があること、請願は議会に対する国民の要望・意見表明であり、苦情申立型請願の活用も考えられること等の意見が述べられた。

 このような参考人の意見、さらには一年目の調査において今後の課題として指摘された行政監察・行政相談等の実態を更に調査されたいとする指摘にこたえるために、オンブズマン的機能を果たしていると言われる総務庁の行政相談制度を取り上げ、実態を調査することとした。そのため、平成九年二月十七日から十九日までの三日間、京都府及び奈良県に委員派遣を行い、行政相談委員との意見交換を通じてその活動の状況を調査した。

 他方、本調査会の調査活動は当初は三年間で結論を出す予定で進められていたが、平成八年四月二十四日に決定された参議院制度改革検討会の検討項目の「委員会審査及び調査の充実について」のうち、「委員会及び調査会の組織の見直しについて」の中において、第二種常任委員会の見直しに当たっては、本調査会の調査結果を踏まえて検討を進める旨が述べられており、本調査会に対しては、参議院改革の一環として実効性のある報告を提出することが期待されていた。また、金融不祥事を始め、本調査会発足後に発覚した薬害エイズ問題や高級官僚の不正な利益取得事件等により、国会が行政に対して監視・監督・統制を強めるべきであるとの世論が強くなってきた。そこで、本調査会は、当面の対応策としての結論を当初の計画の三年目よりも早い時期にまとめることとし、平成九年一月二十八日にこれまでの調査を踏まえ、具体的方向性を見い出すために、調査会委員間の自由討議を行った。

 この自由討議において、一部の調査会委員からは、国会あるいは参議院の附属機関として行政監視機能を持つオンブズマン等の機関を設置することが必要であること、また、既存の常任委員会を活性化する必要性があることが指摘された。しかし、大方の調査会委員の意見は、参議院は第二院として行政に対する監視機能をより強く発揮すべきであり、そのためにも議員自らが活動し得る行政監視等のための新たな常任委員会を早期に設置すべきであるというものであった。そこで、これら自由討議の意見を整理し、今後の進め方を協議した結果、行政監視のための新たな機関の設置についての試案を作り、この試案をたたき台として議論を深めることとなった。

 新たな機関の設置についての試案は、参議院改革の一環として、参議院に期待される行政監視機能を強めるために、オンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置するというものであった。

第II 調査会の調査の概要

一 海外派遣議員の報告

 平成八年七月十六日から二十九日までの十四日間、参議院の特定事項調査議員団として、イギリス、ドイツ及びフランスの各国における議会によるオンブズマン等行政統制の調査のため、本調査会委員をメンバーとする海外派遣が行われ、その報告を同年十二月十二日の調査会において聴取した。

 派遣された調査会委員は、井上孝会長(団長)を始め、矢野哲朗、亀谷博昭、猪熊重二及び伊藤基隆各議員の五名であった。

 この訪問国を選定するに当たっては、一年目の調査活動の中で出された意見を踏まえ、(1)行政を常時監視する委員会又はオンブズマンを新設すべきであるとの意見の参考として、イギリスの下院議会コミッショナーに関する特別委員会(以下「下院議会コミッショナー特別委員会」という。)及び議会型オンブズマンである議会コミッショナーを、(2)請願審査の充実が必要であるとの意見を踏まえて、ドイツの連邦議会請願委員会を、また、(3)政府部内監察及び国政調査権の積極的活用を図るべきであるという意見との関連で、行政府型オンブズマンであるフランスのメディアトゥールをそれぞれ訪問し、実情を調査した。

1 イギリスの下院議会コミッショナー特別委員会及び議会コミッショナー
(一) 制度の概要

 議会コミッショナーは、一九六七年に議会コミッショナー法に基づいて設置され、下院議会コミッショナー特別委員会は議会コミッショナーの地位の強化を図るために同時に設けられた。議会コミッショナーは一名であり、国王が任命することになっている。議会コミッショナーは議会組織に属する公務員であり、資格要件は定められていない。任務としては、過誤行政により被害を被った者の苦情の救済、苦情の再発防止のための制度改善の調査・勧告をすることにあり、スタッフは約百八十名で、そのほとんどは各省庁からの出向者である。

(二) 苦情処理の手続と内容

 苦情の申立ては、文書により下院議員を通じて行われる間接アクセス制を採っている。議会コミッショナーの調査は、あくまでも苦情の申立てに基づき実施されるもので、職権による調査の実施は認められていない。議会コミッショナーに付託される苦情件数は、ここ五年間で年平均千件前後であり、苦情内容は、社会保障関係各種給付金の給付、国税の徴収、公共事業に伴う土地収用等の案件が過半数を占めている。苦情処理期間は平均七十週となっており、長期化している。

(三) 調査結果と下院議会コミッショナー特別委員会との関係

 過誤行政により不当な取扱いを受けていることが議会コミッショナーにおいて判明し、それがいまだに、あるいは今後とも是正されないと考えられる場合には、議会コミッショナーはその案件に対する特別報告書を上下両院に提出することができる。議会コミッショナーには、行政機関に対して勧告等を行う法律上の権限はないが、実際の運用では関係行政機関に対しその是正を求めており、各行政機関は問題があると認めれば是正策を講じている。是正されない場合には、特別委員会において、議会コミッショナーから特別報告書の内容等の説明を聴取するとともに、関係行政機関の大臣等を証人として招致し、是正策が推進されない理由等をただすことが行われている。

(四) 評価と課題

 下院議会コミッショナー特別委員長は、議会コミッショナーが設置されたことによって、議員個人の調査協力スタッフの不足を補い、議会活動の範囲を拡大させていると述べ、また、議会コミッショナーと特別委員会の関係については円滑であるとの見解を示した。また、当面の課題として挙げられている申立方法の改善に関しては、議会コミッショナーが直接アクセス制への変更を求めているのに対し、特別委員長は、まず議員が苦情を受け付け、議員の段階で解決できる案件は事前に処理することも議員活動の一環であると述べており、議会コミッショナーとは意見が異なっている。

2 ドイツの連邦議会請願委員会
(一) 制度の概要

 請願権自体は、一九四九年基本法(憲法)第十七条において何人に対しても認められていたが、請願委員会は、一九七五年の基本法改正により、連邦議会に基本法上の組織として常設されるようになったものである(第四十五C条)。現在の委員数は三十二名であり、各政党に所属議員数に応じて比例配分されている。

 委員会の所管は、連邦国家の行政機関の作為又は不作為にかかる苦情すべてに及んでいる。

 基本法第十七条は広義の請願(請願及び苦情申立て)に関するものであるが、将来の立法についての提案等の狭義の請願は、原則として管轄権を有する常任委員会に送付されている。

(二) 請願処理と委員会の権限

 国民からの請願は、請願委員会自身が随時受け付け、まず、請願委員会事務局が事前審査を行う。事務局が処理できない請願は請願委員会に付託され、特定の専門領域の処理をゆだねられた与野党各一名の請願委員が報告者として審査を担当する。報告者同士の意見が一致した場合には請願は委員会で一括採択されるが、意見が分かれた場合には個々の請願について請願委員会の審査が行われる。

 ここ五年間の請願総数は年平均二万件であるが、州管轄事項、判読不明等を理由に、三分の一が審査に至っていない。委員会は、政府に対して勧告し、また法律改正を提案する権限はあるが、請願に関する決議は政府を法的に拘束するものではない。スタッフとしては、請願委員会事務局に約八十名の職員がおり、そのうち上級公務員はいずれも司法試験合格者で、公募により採用されている。

(三) オンブズマン設置に関する法律案と連邦議会請願委員会

 ドイツでは、一九六〇年代に請願委員会とオンブズマンの併設の議論が起こり、その後、請願委員会設置に落ち着いた経緯がある。一九九六年には再び同盟?と緑の党からオンブズマン設置に関する法律案が提出されているものの、成立の見通しはないとのことであった。本調査団と面談した請願委員会の副委員長は、議会外の第三者であるオンブズマンの勧告では、直接議会における政策論議との連携が図れないので、現行の請願制度を維持することが望ましいとの見解を示している。

(四) 評価と課題

 前記の副委員長は、議会の構成員としての立場から、請願委員会の議決は法律・政策の改正・変更に直ちに反映することが可能であり、オンブズマンの勧告以上の効果があると高い評価を下し、今後も現行請願処理制度を維持すべきであるとしている。副委員長によれば請願委員会自体への改革要求はみられないとのことであったが、事務局からは、請願受理件数の増大により、処理能力を超えつつあるため、事務局体制を質・量共に改善する必要があるという指摘がなされた。

3 フランスのメディアトゥール
(一) 制度の概要

 メディアトゥールは、一九七三年のメディアトゥールに関する法律により創設され、政令で一名のメディアトゥールが任命されている。苦情処理機関として受理する案件は、国、地方公共団体等の行政運営に及び、行政裁判所による法的解決が不可能な領域にも対応できるようになっている。これらの処理を通じて行政府の業務運営の点検や過誤行政の指摘が行われる。

 権限としては、各省の大臣に協力を求め、所属職員に質問すること、行政文書の交付を求めることができる調査権がある。調査の結果、過誤行政が認められた場合には、問題となっている機関に対し、改善の勧告あるいは法令の修正を示唆する権限を持っているが、職権による調査を開始する権限はない。スタッフは事務局職員が約八十名おり、各省庁からの出向者により構成されている。

(二) 苦情処理の手続と内容

 苦情は、原則として国会議員を経由して申し立てるという間接アクセス制が採られている。苦情が国会議員を介して行政府に属するメディアトゥールに届くようにしたのは、本来立法府にある請願審査権の一部をメディアトゥールに与えた代償として考えられた措置であるとの説明であった。

 メディアトゥールに付託された苦情は、ここ数年で年平均約四万件に上っており、そのうち内容面に及ぶ調査が行われた案件は約六〇パーセント程度であり、調査に付された案件のうち約三〇パーセント強に行政府の誤りを認めて是正の勧告を行っている。行政機関は勧告に対してどのような措置を採るかを一定期間内にメディアトゥールに報告することが義務付けられている。

(三) 議会とメディアトゥールの関係

 メディアトゥールは、一九八七年の法律改正までは行政府に属する独立機関であったが、改正後は司法的な特権を持った独立性の強い機関となっており、議会と密接な関係にはない。メディアトゥールは請願審査の一部を担当していることから、調査結果を自ら関係委員会で説明することもあるが、その場合はあくまで対等の立場にあり、上下の関係にはない。

 また、メディアトゥール事務局の調査官によれば、議会とメディアトゥールに同じ趣旨の請願、苦情が付託され、結果的に食い違いが生じたとしても、いずれも法的拘束力がないので問題はないとのことであった。

(四) 評価と課題

 メディアトゥールを創設する際に、司法関係者から、行政裁判所において行政の苦情処理が行われており、新たな機関の設置は屋上屋を架すものであるとの意見が出された。しかし、現実には司法秩序と対立することなく、国民が行政府と対峙する際の補充的保障を与えることに成功していると評価されている。また、メディアトゥールは当初は過誤行政の是正を目的に設置されたが、今日では機能の変遷がみられ、行政の実態を調査することによって、行政改革や国家行政組織近代化の一助にもなっているとのことである。課題は、より高度な独立性、権威性及び衡平性を確保するため、メディアトゥールを憲法上の機関とすることであるが、いまだ実現には至っていない。

 以上が、海外派遣議員の報告の概要であるが、この報告を聴取した際、本調査団の団長として参加した井上調査会長から、調査した三か国とも国の統治機構や国民性が違っているため、それぞれ異なった苦情処理制度を採っているが、ドイツ連邦議会の請願委員会及び事務局による請願処理制度は本調査会の方針に大変参考になる旨の所感が述べられた。すなわち、苦情請願を通じての苦情処理はもとより、それに伴って議会における政策論議との連携を保った行政の監視等も行われているというドイツの例は、今後仮に行政監視機関を国会に設置するとした場合に、どのような形態のものにするのかを議論するに際して貴重な視点となるのではないかとの印象を受けたとのことであった。

二 国政調査権及び請願制度

 平成八年十二月十二日、国政調査権及び請願制度について、参考人から意見を聴取したが、その概要は次のとおりである。

中央大学法学部教授  清水 睦氏

 国政調査権は、憲法上認められている議院の権能を十分有効に行使するための手段的機能であり、国民の知る権利を踏まえ、国民に情報を提供するところに本質があるのではない。司法権の独立等の関係で行政権に対する調査が主体となる。

 議院証言法に規定されている内閣声明の制度は、国政調査権を行使する際の大きな壁となっており、改正すべきである。

 国政調査権の充実方策としては、野党である議会少数派が調査を主導できるよう配慮すること、裁判所が刑事事件絡みの調査における事実認定及び評価に拘束されないことを明定すること、秘密会を活用して内閣声明制度を克服することが挙げられる。加えて、内閣から距離を置くために参議院から大臣は出さないなど、その基盤・条件を整えることが必要である。

徳山大学学長  浅野 一郎氏

 憲法の規定する強制権を伴う国政調査権は、議会が政府をコントロールするために不可欠な手段である。制度上の改善策としては、政府が行政秘密の開示を拒否できるのは、議院証言法と国会法の規定に照らして、その公表が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす事項に限定すべきである。また、検察権の行使に政治的圧力を加える目的の調査や、起訴内容を対象とする調査等は違法・不当である。運用上の改善策としては、国政調査権は継続的・組織的・実質的に行使すべきであり、さらに、行政秘密を開示させる際には、秘密会を活用し、委員の守秘義務を明確にして、受入体制を整備することが必要である。

 国政調査権を有効に行使するためには、少数派の調査権行使を多数意思による運営原則の枠内で検討する必要があり、さらに調査が終わった後、詳細な調査報告書を出し、国民の国政監督の判断資料にすることが必要である。

関西大学法学部教授  吉田 栄司氏

 請願権の位置付けとしては、国民が国、公権力、議会に対して請い願い出る権利があるというだけの国務請求権とする見解が一般的であるが、国民の参政権の一部としての積極的な位置付けが必要である。

 憲法においては、請願権は選挙権、国家賠償請求権と並んで規定されており、この三つの権利を一体的に把握することが重要である。すなわち、請願権を日常的な公権力行使に対する国民の責任追及手段として重視すべきである。

 手続上、請願の提出に紹介議員を要していることは憲法上若干の疑問が残る。

 ドイツでは憲法上の機関として請願委員会を議会に置き、各省庁の決定についてもその変更を求める等の勧告権を持っていること、議会の休会期間中もその活動を続けていること等が注目される。

前参議院外務委員会調査室長  辻 啓明氏

 参議院改革における請願改革は、審査時期の適正化、採択請願のアフターケア、請願審査結果の紹介議員への通知の三項目に大別できる。このうち、紹介議員への通知は事務的に実施されているが、他の二項目については、不十分である。

 請願改革の今後の課題としては、請願への対応の多様化が必要である。例えば、苦情申立型請願については、国政調査の場の活用等により、中身を十分審査し、妥当なものは政府にその解決方を勧告すること、政策提案型請願については、採択又は不採択と決めるだけでなく、国会における検討資料として活用すること等が考えられる。

 また、国会自らが世論調査を行うことにより、積極的に国民の声を集めることも考えられる。さらに、国会が各地でシンポジウムを主催するなど、国会が国民とともに考えることが重要であり、そのために議院運営委員会に国民との関係改善に関する小委員会を設置し、請願の取扱いの問題を解決する方策を考えることも必要である。

 こうした参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)現在、国政調査権は有効に行使されているとは言えない。その理由としては、長期にわたる保守党の政権維持により多数派の意思が国政調査権の活性化を妨げてきたこと、内閣声明がその限界になっていること、議院独自の調査機能が不十分なことなどが挙げられる。

(2)立法調査機能を充実する方法としては、立法府自体が委員会調査室等の自前の調査スタッフを充実させるなど、その機能強化を一番重視すべきであり、国会に政府の情報を集中して管理する情報センターやシンクタンクを設置すべきであるとの提案がなされたこともある。

(3)国政調査権の行使に際して、少数派の意向に配慮することは必要であるが、少数派の意思を委員会の意思とすることは、憲法上困難である。

(4)司法権との関係では、裁判官の自由心証に影響を及ぼすおそれのあるときは、国政調査権を行使してはならない。

(5)証人尋問は証人をつるし上げることを目的として行うのではなく、証人から事実を引き出すような方法で行われるべきである。

(6)国政調査権行使に関して、資料の捜索・押収等の強制手段を講ずることは立法的には可能であると考えられる。

(7)請願審査の充実を図るには、ドイツの事例が参考になる。ドイツでは請願処理のための委員会があり、請願の審査結果については、理由を付して請願者に通知しなければならないことになっている。

(8)請願審査活性化のためには、議案に関連する請願を関係委員会の委員に紹介したり、請願の趣旨を関係委員会の国政調査の中で取り上げたり、苦情処理型請願の取扱いを工夫する等、請願処理の方法の多様化を考えるべきである。

(9)請願審査を充実させるためには、請願を専門に処理する常設の委員会を参議院に設けることが必要である。

(10)地方議会では閉会中も請願を受理しているが、審査を行うのは開会中に限られている。

(11)国政全般を分担する形で国政調査及び議案の審査を行っている常任委員会制度の下では、請願は請願専門の委員会よりも各常任委員会で審査する方が適当である。

(12)苦情処理型請願を担当する常任委員会を設置するのであれば、行政監察に関する国政調査を積極的に併せ行うものとすることも考えられる。

三 行財政機構及び行政監察に関する実情調査

 平成九年二月十七日から十九日までの三日間、京都府及び奈良県において、行財政機構及び行政監察に関する実情調査を行った。今回の委員派遣においては、全国に約五千人が配置され、国民と行政のパイプ役を果たしていると言われる行政相談委員の活動状況を中心に、両府県の行政相談委員との意見交換を行ったほか、総務庁近畿管区行政監察局、京都行政監察事務所及び奈良行政監察事務所からも行政相談業務の概要を聴取した。

 調査会委員からは両府県の行政相談委員に対して、(1)人権擁護委員等、各行政機関の各種相談委員が全国で五十万人以上いることで、縦割り行政の弊害が相談制度に現れているのではないか、(2)行政相談委員の権限不足を感じたことはないか、(3)各地方公共団体の協力は得られているのか、等について質疑がなされ、(1)相談業務の遂行に当たっては、特に問題があるとは認識していない、(2)相談業務は人間性あるいは人望で対応できるので、権限強化は不要である、(3)必要な資料提供について、市町村の協力は得られやすいが、府県の場合は非協力的な場合がみられる、等の回答があった。

 さらに、総務庁に対しては、(1)行政相談委員の意思を中央計画監察等に活用しているか、(2)行政相談委員への指導はどのような方針で行っているのか、等について質疑がなされ、(1)行政相談は、個別事項に関するものが多いため限界はあるが、細項目の一つ等に活用されている、(2)たらい回しはせずに受付だけはするように指示している、行政相談委員の職務は案件の解決ではなく、法律上認められた権限は各行政機関へ通知し、その検討結果を相談者に伝え、両者の言い分を並べることまでである、等の答弁があった。

 なお、行政相談委員からは、委員が一人しか配置されていない町村への複数の配置、行政監察事務所担当者の増員等の要望が述べられた。

 また、これまでの調査の過程において、苦情請願との関連で、行政相談委員に持ち込まれる苦情を利用することを検討してはどうかとの意見もみられたが、行政相談委員は、その地位を政党又は政治目的のために利用してはならないことが法律に規定されていることから、請願という形で政治と関わりを持つことには消極的であるということが意見交換を通じて明らかにされた。

四 調査会の具体的方向性に向けての検討

 本調査会で検討している事項は、参議院改革の一環でもあり、三年を待たずに結論をまとめるべきであるとの多数の調査会委員の意向を踏まえ、調査会として今後進むべき具体的方向性を見い出すために、平成九年一月二十八日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(1)本調査会は、現行の行財政機構及び行政監察の適否ないし当否について調査、検討する必要がある。その結論をまって新たな制度についての議論を行うべきである。

(2)行政の情報公開を進めた上で行政監視機構についての検討を行う必要がある。

(3)行政が国民の期待にこたえられず、国会も行政を十分に監視できない中で様々な問題が起きている。三年を待たずに、できるものから確実に実現していくべきである。

(4)参考人等からの意見聴取等を通じた調査会の流れは、既存制度を改革することではなく、新たな機関を設置することに向かっていた。オンブズマンであれ、行政監視委員会であれ、一刻も早く導入する必要がある。

(5)参議院の制度改革における委員会再編等の進捗状況に合わせて、行政監察の結果を委員会でフォローする方法、請願処理についての対応等の対策を進める必要がある。

(6)参議院無用論を払拭するためにも、本調査会の意見を超党派でまとめる必要がある。行政監視機関の独立性の確保が重要であり、そのためには、行政監視を目的とした第二種常任委員会を設置し、その下に監視能力を十分発揮できるようなスタッフを充実させることが不可欠である。

(7)行政監視のために第二種常任委員会を設置するのが望ましい。行政監察結果及び会計検査院の検査結果を当該委員会に報告し、必要な場合は国会から監察及び検査を求めるという形でお互いの緊張関係を高めていくべきである。

(8)現在のシステムでは厚生省汚職等の行政府における不祥事は防止できない。国政調査権や行政監視機能を強化するために、国会の附属機関としてオンブズマン制度を導入すべきである。

(9)国政調査権を院として自ら持ちながら、民間人をオンブズマンにして行政監視を任せるのは国会議員の権限放棄である。

(10)現行の行政府における内部監察制度の強化は必要である。このために、監察相手方省庁との事前協議を取りやめること、監察結果について立法府がフォローすること等が必要である。

(11)国政調査権をどこまで発動できるかは、行政の情報公開の在り方と公務員の守秘義務との整合性をどう図るかにかかっている。

(12)国政調査権の活用については、少数派の意見の重視が必要である。

 以上のような意見を踏まえ、理事懇談会で本調査会が進むべき具体的方向性の検討を行った結果、行政監視のための機関についての試案を作り、調査会委員の間で自由討議を行うこととなった。

五 「行政監視等のための機関についての試案」及びこれに対する意見の概要

 平成九年四月四日に調査会委員間の自由討議に付された試案は、参議院における行政監視等のための機関として、オンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置しようとするものである。この委員会の調査に当たっては、総務庁行政監察局が行っている行政監察等を活用しながら、委員会自らが国政調査権の積極的活用を進める。また、不適正行政に伴う国民の苦情を請願として受理し、それを手掛かりに調査も行い、併せてその有効な処理を通じてこの委員会にオンブズマン的機能を発揮させようとするものである。

 この試案に対する調査会委員間の自由討議において述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(試案の枠組みに関する意見)

(1)試案はこれまでの本調査会の討議における大方の意見に沿ったものであり、了承できる。本調査会の調査は参議院改革と密接に連携しているので、早期に結論を出すべきである。

(2)委員会の方式では国民の期待にこたえる活動はできないと思われるので、国会又は参議院の附属機関としてのオンブズマン又は行政監視院の設置を追求すべきである。

(3)行政監察局の行政監察計画や結果報告書を調査する間接監視では効果的な調査ができないので、国会が独自の行政監視を行う必要がある。

(4)現実的な第一歩としては、請願あるいは苦情のみを処理する委員会がよい。

(5)委員会方式で設置するとしても、必要であればオンブズマンや行政監視院についても、更に検討するテーマとして残しておいてよいのではないか。

(6)調査スタッフの権限強化が図られていない。

(7)参議院の制度改革と絡めるなら、既存の委員会等の活性化や請願の取扱い等の課題も検討することが必要である。

(新設される委員会の運営等に関する意見)

(1)委員会は年間を通して常時開会し、苦情請願も年間を通じて受け付けているという姿勢を示す必要がある。

(2)各会派、各議員さらには地域的にも広く国民各層から調査項目の提案を受けられるような委員会にすべきである。

(3)参議院における苦情請願の受付を国民に周知させる必要がある。

(4)参議院として苦情救済をするに当たり、行政府に対する強制手段を持たない中で、苦情請願と既存の苦情救済制度との整合性を図る等、整理すべき課題が生ずる可能性がある。

(5)委員会の提案及び勧告の実効性を担保する必要がある。

(6)調査スタッフの確保、在り方及び使い方が委員会の重要な要素になる。

(7)情報公開や公務員の守秘義務の在り方、秘密会の活用等、国政調査権活用の実効性を確保するための方策を更に検討すべきである。

(8)委員会は行政監視と併せ、政策評価についても考慮したものとする必要がある。

第III 行政監視等のための機関の設置についての調査会長案

 試案の一部を修正し、平成九年五月九日の調査会に提示され、大方の調査会委員の了承を得た調査会長案の内容及びその説明等は、次のとおりである。

1 参議院における行政監視等のための機関の設置について(案)

 オンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置する。

 新設する委員会は、参議院改革の一環として、参議院に期待される行政監視機能を向上させるためのものである。

 この設置目的を達成するため、委員会自らが積極的に国政調査権を活用する。調査に当たっては、総務庁が行う行政監察等を活用する。また、行政運営の不適切、怠慢などによって生じる苦情を内容とする請願を手掛かりとして調査を行うとともに、これらの請願の有効な処理を行う。

 こうした手段により、行政運営及び行政監察を点検し、その適正化を図る。

 具体的な所掌事項等は、以下のとおりである。

 所掌事項

(一) 行政監視のための調査

  委員会自らが積極的に国政調査権を活用することにより、行政監視に必要な調査を恒常的に行う。

(二) 「行政監察計画」等についての調査

  行政監察計画、行政監察の結果報告書・勧告、及び各省庁の内部監査に関し、調査を行う。

(三) 苦情請願の審査

  不適正行政に対する苦情を内容とする請願(苦情請願)を審査する。その際、委員会の意向を多様に反映させるために意見書を活用することにより、オンブズマン的な苦情救済の機能を発揮する。

(四) 提案、勧告等

  調査の結果、必要と認める事項について、決議の方式による提案、勧告を行うとともに、政策への反映を図る。

 調査スタッフ

 委員会が行政監視機能を十分に発揮するため、調査スタッフの充実・強化を図る。

2 参議院における行政監視等のための機関の設置について(案)に関する説明

 本調査会は、発足以来一年九か月余にわたって「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」を調査、検討してきた。その結果、多数の調査会委員の意見に沿って、参議院に「オンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置する。」ことを提案する。

 この「新設する委員会は、参議院改革の一環として、参議院に期待される行政監視機能を向上させるためのものである。」と委員会の設置目的を明確にし、「この設置目的を達成するため、委員会自らが積極的に国政調査権を活用する。調査に当たっては、総務庁が行う行政監察等を活用する。また、行政運営の不適切、怠慢などによって生じる苦情を内容とする請願を手掛かりとして調査を行うとともに、これらの請願の有効な処理を行う。」こととする。

 当委員会は、所掌事項として四項目について調査あるいは審査しようとするものである。

 所掌事項(一)の「行政監視のための調査」については、「委員会自らが積極的に国政調査権を活用することにより、行政監視に必要な調査を恒常的に行う。」こととしている。このことは、委員会を構成する委員を通じ、各会派、各議員、さらには地域的にも広く国民各層から調査項目の提案を受けるとともに、(二)、(三)に掲げる政府の行政監察の実態、苦情請願の内容の動向等も参考としつつ、時宜にかなった調査となるようにしようとするものであり、「恒常的」とは、閉会中も活動するという意味である。

 なお、国政調査権の活用については、その実効性を確保するため、例えば、公務員の守秘義務との関係、国会法第百四条による場合の強制手段の在り方、発動の際の要件の緩和等、議院全体として別途更に検討を要する課題がある。

 さらに、政府が平成九年度中に法案提出を予定している情報公開法が制定されれば、国民が行政情報を獲得する機会がより拡大され、行政情報の行政府への一極集中という事態に大きな変動が生じることも見込まれる。このことは、国会の行政情報に対するアクセスの在り方を検討する際にも、考慮に入れる必要がある。

 (四)の「「行政監察計画」等についての調査」の行政監察計画の調査は、総務庁行政監察局策定の三か年計画の「行政監察プログラム」、及び毎年度見直されている年度計画を対象としようとするものである。これは、金融・警察分野がこれまでほとんど行政監察の対象となっていないことなどから、監察対象が監察しやすい省庁や事項に偏っていないかとの疑念を持たれていること、また、計画が社会経済情勢の変化に適応しているかという懸念があることから、監察対象の選定等を調査し、その結果を計画の策定等の参考にさせようとするものである。

 なお、これはあくまでも委員会として意見を述べる程度にとどまるものであり、国会としての議決行為を行うことを想定するものではない。

 行政監察の結果報告書・勧告は、「結果報告書・勧告」によって各省庁等で行政運営等がどのように是正されたかを点検し、その適正化を図ろうとするものである。

 各省庁の内部監査は、具体的には各省庁等の行政相談と行政監査の実施要領及び運営状況の調査を行い、前記「計画」、「結果報告書・勧告」と併せて行政全体の監察・監査の状況及びその効果等を調査しようとするものである。

 (三)の「苦情請願の審査」については、行政運営上の(1)遅延、(2)不適切、(3)怠慢、(4)不注意、(5)能力不足などによって生じた「不適正行政」に対する苦情を内容とする請願を審査することとしている。苦情請願の内容は、具体的で、かつ個別性を持っていることから、その解決策は多様となることが考えられる。これらの多様性に対応するため、参議院独自の制度である、参議院規則第百七十一条による意見書を積極的に活用していくべきであると考えている。また、こうした請願により明らかにされた行政の欠陥について、適宜、委員会の調査を行うことにより、国民の声を直接委員会に反映させることも可能である。

 実際の運用に当たっては、この十年間で六件と、現在のところ極めて少ない苦情請願の受理件数を増加させるために広く国民に周知させること、行政府における苦情救済制度との関係を調整すること、会期内に処理を終えられなかった請願を次国会で引き続き処理できるようにすることが必要となろう。

 (四)の「提案、勧告等」の事項は、委員会における調査の結果、必要に応じて、決議の方式による提案、勧告を行い、かつ、これら勧告等の政策への反映状況を点検しようとするものである。これは、行政府の判断の自主性を尊重しつつ、大局的な見地から意見を述べ、参考にさせようとするものである。

 「調査スタッフ」については、機能強化のために、調査室の担当スタッフの増員など、充実・強化を図ることとする。また、運用上の必要に応じて、外部の専門家への委嘱あるいは委託調査を行うことも考えられる。

3 調査会長案に対する意見の概要

(1) 国会が国民の期待する行政監視機能を発揮するためには、国会又は参議院の附属機関としてオンブズマン又は行政監視院を設置すべきである。

(2) 調査会の委員会設置の提案は、参議院改革で検討されている委員会再編の一環としての位置付けとされたい。

4 調査会長案の立法化について

 調査会長案が大方の調査会委員の了承を得ていることにかんがみ、委員会の新設の立法化が望ましいので、適当な措置を講じられるよう取り計らわれたい。