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少子高齢社会に関する調査会

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少子高齢社会に関する調査報告(中間報告)(平成18年6月7日)



第一 調査会の調査の経過

 参議院少子高齢社会に関する調査会は、少子高齢社会に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため、第百六十一回国会(臨時会)の平成十六年十月十二日に設置された。

 本調査会における調査テーマについては、調査会設置後の理事懇談会において協議を重ねた結果、「少子高齢社会への対応の在り方について」とすることとした。

 この調査テーマの下、調査の一年目においては、少子高齢社会への対応の在り方について幅広い議論を行いつつ、「少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件」を当面の調査事項として取り上げて調査を行い、平成十七年七月八日に中間報告を取りまとめ、議長に提出した。

 調査の二年目においては、理事懇談会において協議を行った結果、「少子高齢社会の課題と対策に関する件」を調査事項として取り上げ、調査を行うこととした。

 第百六十三回国会(特別会)においては、平成十七年十月十九日、団塊世代対策等少子高齢社会の課題に関する件について、林田内閣府副大臣、塩谷文部科学副大臣及び西厚生労働副大臣から説明を聴いた後、質疑を行った。

 また、平成十七年十月二十六日、少子高齢社会の課題と対策に関する件(団塊世代の諸課題)について、作家・元経済企画庁長官堺屋太一氏、株式会社博報堂生活総合研究所エグゼクティブフェロー・東京経済大学コミュニケーション学部教授関沢英彦氏及び株式会社大和総研資本市場調査部主任研究員鈴木準氏を参考人として招き、意見を聴いた後、質疑を行った。

 第百六十四回国会(常会)においては、平成十八年二月八日、少子高齢社会の課題と対策に関する件(少子化対策の取組状況)について、山口内閣府副大臣、馳文部科学副大臣及び中野厚生労働副大臣から説明を聴いた後、質疑を行った。

 また、平成十八年二月十五日、人口減少社会の経済財政問題について、エコノミスト香西泰氏、法政大学社会学部教授小峰隆夫氏及び株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員伊藤さゆり氏を、二月二十二日には、企業の取組について、社団法人経済同友会代表幹事・日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長北城恪太郎氏、株式会社エトワール海渡取締役人事部長有賀俊文氏及び日本労働組合総連合会副事務局長逢見直人氏を、三月一日には、地域における取組について、奈良県知事柿本善也氏、江戸川区長多田正見氏及び新潟市にいつ子育て支援センター育ちの森館長椎谷照美氏を参考人として招き、それぞれ意見を聴いた後、質疑を行った。

 さらに、平成十八年四月五日、女性の健康・不妊治療等について、性と健康を考える女性専門家の会会長・主婦会館クリニックからだと心の診察室産婦人科医堀口雅子氏、社会福祉法人賛育会賛育会病院院長鴨下重彦氏、社団法人日本助産師会会長・天使大学学長兼大学院助産研究科長近藤潤子氏及び株式会社科学技術文明研究所所長米本昌平氏を参考人として招き、意見を聴いた後、質疑を行った。

 平成十八年四月十二日には、子育てへの経済的支援について、早稲田大学大学院会計研究科客員教授(専任)品川芳宣氏、株式会社野村総合研究所研究理事中村実氏及び東洋大学経済学部教授白石真澄氏を参考人として招き、意見を聴いた後、質疑を行った。

 このような団塊世代対策等少子高齢社会の課題についての政府からの説明聴取並びに少子高齢社会の課題と対策についての参考人からの意見及び政府からの説明聴取を踏まえ、平成十八年五月十日、中間報告の取りまとめに向けて調査会委員間の自由討議を行った。この自由討議においては、出生率低下の背景にある長時間労働等の働き方の見直しの必要性、産科医不足への対処の必要性、少子化対策として所得税制を見直す必要性、少子化対策における「子育ち」の視点の重要性、地方公共団体が地域の実情に応じた少子化対策を実施するための地方分権の必要性等が指摘された。

 以上のような議論を踏まえ、理事懇談会で協議を行った結果、少子高齢社会への対応の在り方についての当面する課題について意見を集約し、「結婚・家庭形成に向けての環境整備」を始めとする五つの柱から成る十七項目の提言を取りまとめた。

 さらに、平成十七年十一月二十七日から十二月六日までの十日間、本調査会委員を主なメンバーとする参議院の重要事項調査議員団が、ノルウェー、フランス及びドイツにおける少子高齢社会に関する実情調査のため、海外へ派遣され、その報告を十八年二月八日の調査会において聴取した。

  このほか、平成十八年二月十六日及び十七日の二日間、少子高齢社会に関する実情調査のため、静岡県に委員派遣を行った。

 なお、平成十八年二月八日の調査会において、調査に先立ち、猪口内閣府特命担当大臣(少子化)より、「少子化の流れを変えるため、国民や地方の声を聴きつつ、政府一体となって対応策を考えていきたい」旨の発言があった。

第二 調査会の調査の概要

一 団塊世代対策等少子高齢社会の課題に関する件

 団塊世代対策等少子高齢社会の課題に関する件について、平成十七年十月十九日、林田内閣府副大臣、塩谷文部科学副大臣及び西厚生労働副大臣から説明を聴取し、質疑を行った。その概要は次のとおりである。

内閣府

 少子高齢化の進展は、我が国の人口構造にひずみを生じさせ、二十一世紀の国民生活に深刻な影響をもたらしかねない大きな問題である。

 少子化対策については、平成十六年に決定した少子化社会対策大綱及びその具体的実施計画である子ども・子育て応援プランに基づき、子どもの誕生前から成長、自立に至るまで切れ目のない子育て支援を行うため、待機児童ゼロ作戦、育児時間を確保するための働き方の見直し、地域の子育て支援、若者の就労支援等の施策を着実に実施していく。また、早急に関係閣僚と有識者による委員会を立ち上げ、今後の少子化対策の在り方について検討を進めていく。さらに、仕事と家庭・子育ての両立のための官民一体となった国民的な運動に取り組んでいく。

 高齢社会対策については、高齢社会対策基本法に基づく高齢社会対策の基本的かつ総合的な指針として、平成十三年十二月に新たな高齢社会対策大綱を閣議決定した。大綱は、旧来の画一的な高齢者像にとらわれることなく施策の展開を図ること等を政府の基本姿勢とし、高齢期の自立を支援する施策等について横断的に取り組むとともに、就業・所得、健康・福祉等の各分野における基本的施策を示している。横断的に取り組む課題についての内閣府の政策研究等の一つとして、十六年度においては、高齢者の社会参加に関する調査及び分析を実施した。また、十八年度中には同大綱を見直すこととしている。

 なお、経済財政諮問会議では、将来の人口減少や少子高齢化の下で、構造改革の先にある二〇三〇年の経済社会の姿を描いた日本二十一世紀ビジョンを平成十七年四月に公表した。

文部科学省

 高齢社会対策については、高齢社会対策大綱に基づき、主に以下の取組を行っている。生涯学習の推進体制と基盤の整備については、地方公共団体における推進体制の整備、生涯学習フェスティバル等を通じた普及・啓発等により、生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される生涯学習社会の形成に努めている。学校における多様な学習機会の確保については、大学における社会人特別選抜の実施や夜間大学院設置等による社会人の受入促進、公開講座の実施等に取り組むとともに、専修学校社会人新キャリアアップ教育推進事業の経費を平成十八年度概算要求に計上している。このほか、多様な学習機会の提供、高齢者の社会参加活動の促進、NPO等の活動基盤の整備を行っている。

 少子化社会対策については、子ども・子育て応援プランを踏まえ、主に以下の取組を行っている。第一に、若者の自立とたくましい子どもの育ちの支援については、若者の就労支援の充実、奨学金事業の充実、体験活動を通じた豊かな人間性の育成、子どもの学びの支援を行っている。第二に、生命の大切さ、家庭の役割等についての理解の促進については、保育体験を含む子育て理解等に関する教育等を推進している。第三に、子育ての新たな支え合いと連帯の構築については、就学前の児童の教育・保育の充実として、幼稚園就園奨励費補助等を行うとともに、就学前の教育・保育を一体としてとらえた一貫した総合施設の平成十八年度からの本格実施に向けて検討を進めている。あわせて、家庭教育手帳の作成・配布等による家庭教育支援の充実、児童虐待防止対策の推進、子どもの健康の支援、子どもの安全の確保に努めている。

厚生労働省

 我が国の社会保障給付費は、制度の充実と高齢化の進行により、一九七〇年度の三・五兆円から二〇〇五年度予算ベースで八十九兆円に急増し、国民所得比では五・八%から二三・八%に伸びている。負担も増加しており、現在の国民負担率は欧州よりは低いものの、将来にわたり持続可能で安心な社会保障制度とするため、制度全般の改革を進めている。

 二〇〇七年以降は団塊世代が六十歳を超え、今後は労働力人口が減少していくことが見込まれている。経済社会の活力を維持していくためには、意欲と能力のある限り年齢にかかわらず働き続けることができる社会の実現を図る必要があり、年金支給開始年齢となる六十五歳までの雇用確保、中高年齢者の再就職促進、多様な就業・社会参加の促進による高齢者雇用対策を進めている。団塊世代の退職に伴う技能継承問題及び若者のものづくり技能離れは、我が国の国際競争力を支えるものづくり技能、現場力の喪失を招くおそれがある。技能継承・現場力強化の取組に対する支援については、総合的な情報提供・相談援助、人材確保への財政的な支援等を行うとともに、技能の振興については、ものづくり技能の重要性についての国民の意識喚起、若者等に対する工場、訓練施設等の開放促進、ものづくり技能競技大会の実施、顕彰等の施策を推進していく。

 少子化対策については、平成十六年十二月に子ども・子育て応援プランを策定し、若年者試行雇用の活用、一般事業主行動計画の実施に対する支援、待機児童ゼロ作戦、児童虐待対策等、少子化社会対策大綱に掲げる四つの重点課題に沿って、従来より幅広い施策について五年間の目標を掲げ、その実現に努めている。

 このような政府からの説明を踏まえ質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 団塊世代のとらえ方については、昭和二十二年生まれからの三年間とするのが一般的であるが、もう少し幅広いとらえ方も考えられる。

(2) 生産年齢人口の定義を見直すなど年齢に対する考え方を転換するとともに、年齢差別禁止法の制定等により、高齢期にだれもが働くことのできる社会の構築に向けた取組が必要である。

(3) 高齢者雇用を進めるに当たっては、高齢者の健康状態等に応じた弾力的な勤務体系や賃金体系のモデルを提示していくことが必要である。

(4) 改正高年齢者雇用安定法により、六十五歳までの雇用確保が求められるが、労使協定により継続雇用制度の対象となる労働者に係る基準を定めたときには、希望者全員を対象としない制度も可能であり、また経過的措置として就業規則等に当該基準を定めることも可能としている。

(5) 高齢女性の視点からの雇用、住宅等の対策が重要であり、とりわけ再就職の障害となる採用上限年齢を撤廃する必要がある。

(6) NPO等を活用することによって、高齢者の持つ技術や勤労観等を若者に伝承するための支援体制を整備することが重要である。

(7) 高齢者の社会参加及び介護予防の観点からも高齢者の学習機会の確保は重要であり、インターネット等による通信教育を充実させることにより、どのような高齢者にも等しく学習する機会を確保することが必要である。

(8) 生涯学習の機能として高等学校の活用が重要であることから、単位制・通信制等により高等学校の多様化を進めていく必要がある。

(9) 生涯学習や体験学習、さらには子育て等により就業を中断した女性の再就職支援等を進めるためには、専門的な知識を持つキャリア・カウンセラーが必要である。

(10) 地域子ども教室推進事業や里親制度等の子育て支援に高齢者の能力を積極的に活用していくことが必要である。

(11) 少子化対策を講じているにもかかわらず出生率は低下し続けていることから、教育、就労支援等による若者の自立支援、家庭を重視できる働き方の見直し、子育て支援施策の一層の充実が必要である。

(12) 先進諸国においては、女性の労働力率の高い国の方が合計特殊出生率も高いという関係にあると指摘されていることから、我が国においても子育て支援施策を充実させることにより、女性の労働力率を高めていく必要がある。

(13) 待機児童の解消は徐々に進んでいるが、今後も保育所の創設及び増改築を行うため、次世代育成支援対策施設整備交付金の拡充に努める必要がある。

(14) 就学前の教育・保育を一体としてとらえた一貫した総合施設については、モデル事業の成果を検証した上で子どもにとって望ましい制度を実現するという視点に立ち、新たなプログラムをつくるなど既存の予算を効率的に運用していく必要がある。

(15) 社会全体で子育てに取り組むという子育ての社会化を進める前に、子育てに第一義的に責任を持つのは家庭であり、親であるという意識を高めていく必要がある。

(16) 児童虐待防止法の改正により、相談業務に関し市町村の担う役割が明確化されたことからも、学校、病院等、地域の関係機関の連携を一層強化するとともに、関係職員が迅速に対応できるための研修を充実させることが必要である。

(17) 子どもの健康の支援として食育の推進を図る上では、学校給食に使用される食品の安全性を十分に確保することが重要である。

(18) 子どもの健康の支援として、食育の推進のみならず、学校における運動部活動の充実等により、子どもの体力向上に対する更なる支援を行うことが必要である。

(19) 子どもの安全の確保のための取組である地域ぐるみの学校安全体制整備推進事業については、その効果を検証するとともに、対象をより幅広い年齢層に拡大していく必要がある。

(20) 将来推計人口については、データを基に機械的に推計するのみでなく、経済指標、外国人労働者の活用、男女共同参画の進展等を反映させた推計を行うことが必要である。


二 少子高齢社会の課題と対策に関する件

1 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 少子高齢社会の課題と対策に関する件について、平成十七年十月二十六日、十八年二月十五日、二月二十二日、三月一日、四月五日及び四月十二日にそれぞれ参考人から意見を聴取し、意見交換を行った。その概要は次のとおりである。

(平成十七年十月二十六日)
作家・元経済企画庁長官  堺屋 太一 氏

 現在の財政、年金、雇用慣行、教育、国土政策は、科学技術の発達、生産力の拡大、人口の爆発的増加を特徴とした近代工業社会及びピラミッド型の人口構造を前提として構築されてきた。しかし、二〇一〇年の日本の人口構造は、六十歳前後と三十歳代後半に大きな膨らみがある二段傘の形となることが想定される。

 戦後の日本は官僚主導型業界協調体制、日本式経営、職縁社会・核家族の三つを土台とする規格大量生産型の近代工業社会を構築し、六十歳定年制が普及してきたが、教育平均年限が五年以上、平均寿命が十五年以上伸びたことから、年齢観を変え、七十歳まで働くことを選べる社会を構築していく必要がある。

 定年は終身雇用から離脱し、自由なる労働者として市場に参入する門出である。高齢者は年金兼業型の賃金構造、子育て及び職縁的支出の減少により、労働力としての価格競争力を持つことが期待できることから、定年後は自由な労働競争の中で、個人の体力、意欲や経済的必要に合った多様な勤労形態が求められる。そのためには、多様な勤務形態を推進するための諸法令の整備、多様な勤務形態を活用する対人技術の開発、歩いて暮らせるまちづくりの実現及び高齢者対応の産業機器の開発普及活動が必要である。

 長期的対策としての移民の受入れについては、移民が日本の技術と習慣を母国に持ち帰ることによって、その国に日本の産業、技術及び文化が根付くという利点があることから、労働移民の規律ある導入とその同化教育について早期に検討していく必要がある。

 人口減少に対しては世界各国であらゆる対策が講じられているが、効果は極めて限定的である。近代工業社会では教育、就業、結婚、出産の順序を守るという社会的概念が構築されており、教育年限の延長により出産年齢が上昇している。あらゆる国で女性の初婚、初産年齢と合計特殊出生率は高い相関関係にあることから、教育期と出産期の順序を問わないよう社会的概念を変更し、大学における託児所の設置、親が二十四歳になるまでの奨学金の支給、育児資金の拠出等により、若年出産を奨励していくことが必要である。

 これからの日本は高齢者が自由なる労働者として登場することにより、ローコストな社会となり、大いに繁栄する可能性がある。今後は労働力の移動を妨げることなく、年齢観、近代工業社会的な人生観を変えていくことが求められる。

株式会社博報堂生活総合研究所エグゼクティブフェロー・東京経済大学コミュニケーション学部教授  関沢 英彦 氏

 人が消費するときに求められる条件として、まず欲しいものがあるのかということが挙げられる。従来は女性の方が消費意欲が強かったが、今後は退職後の男性の消費の拡大にも期待できる。また、買うお金があることも必要である。家計調査等からの分析によると、六十歳代前半の勤労世帯と年金収入のみの無職世帯では可処分所得に差が生じてくる。さらに、買う時間があることが重要である。我が国ではサービス消費の比率が高まっているが、消費には時間が必要であり、結果として女性の消費比率が高まっている。しかし、第一線の職場からの引退により、男性にもゆとりが生じてくることから、様々な消費の可能性が出てくると考えられる。

 団塊世代の引退で期待される市場として「四つのトラ」がある。第一に、トラベルである。世論調査では男性、女性共に国内旅行、海外旅行の需要が高く、旅行会社も多様な旅行を提供しており、現在の海外旅行市場では五十歳以上が全体の約三分の一を占めている。第二に、ドライブである。団塊世代はモータリゼーションの第一期生であり、自動車等には若者以上の関心を持っている。第三に、トライである。インターネット、健康関連商品、学習、趣味、留学、投資の分野への挑戦が増加しつつある。第四に、ドラマである。外食、おしゃれ、リフォーム、AV機器、国内外への移住による消費の拡大が期待される。

 現在の我が国の平均寿命は八十二歳余である。人生を「三万日の大冒険」としてとらえると、子ども・青年前期の七千五百日を第一ステージ、青年後期から中高年前期までの一万五千日を第二ステージ、中高年の中期・後期の七千五百日を第三ステージとして考えることができる。第三ステージにおいて元気よく生きていくためには、健康に加えて、人との付き合いがあることが重要である。人との付き合いがある人は消費、ボランティア等も活発である。

 また、女性の方が長寿であることから、高齢化社会は介護者・被介護者も含め、おばあちゃん社会である。女性の社会として、消費、社会構成について考えていくことも重要である。

株式会社大和総研資本市場調査部主任研究員  鈴木 準 氏

 団塊世代は人口構成上、労働力としても突出した影響力を持っており、平成十三年時点での五十歳代前半層は労働力人口で一三%、賃金総額では一六%を占めている。その要因として、年功賃金カーブが健在であること、それ以前の世代と比較して高学歴化していること及び勤続年数が長いことが挙げられる。しかし、内閣府の試算によると、団塊世代等の退職により、十六年からの十年間で六%程度の人件費負担の構造的減少が見込まれる。

 五十歳以上の従業員の割合が高い業種ほど雇用過剰感が強く、年功賃金を伸ばす形での雇用延長は難しい。団塊世代の存在を背景とする雇用過剰感が今後も継続した場合、企業利益を圧迫し、設備投資抑制要因となる。また、若年雇用抑制との因果関係も示唆される。

 定年引上げの課題として七割以上の企業が給与体系の見直しを挙げており、近年の希望退職募集の効果にも人件費の減少が挙げられる。定年後制度の運用状況をみると、七割以上の企業が再雇用、勤務延長等の制度を既に採用しているが、希望者全員に継続雇用制度を適用している企業は約二割であり、運用は限定的である。今後は高齢者の労働需要が拡大しない可能性も考えられる。

 労働力減少や高齢化の懸念への対応には、失業者等現在でも使われていない労働力の活用が重要である。特に、若年層の雇用の厳しさと婚姻率との関係が指摘でき、婚姻率の低下は出生率の低下にもつながることから、若年雇用対策は少子化対策でもある。また、これまでの我が国の生活水準の向上は人口及び労働力の増加ではなく、生産性の向上の度合いによるものが最も重要であると考えるため、人口の増減を過大に評価すべきではない。

 年金改革の一環として改正された高年齢者雇用安定法への企業の対応としては、解雇が厳しく制限されている我が国では定年制の廃止や定年の引上げは考えにくく、継続雇用制度で対応することが予想される。企業に対して一律的・強制的に高齢者雇用を義務付けることは避けるべきである。

 技能承継の問題については特定の世代に限った話ではない。必要であるならば、企業は法律で義務付けられるまでもなく雇用継続により対応すると考えられる。

 活力ある高齢化社会の実現は可能である。勤労意欲の高い団塊世代には、個人のライフスタイルに合った多様な働き方の提供が必要である。また、これからの高齢者は、生涯にわたり自動車に乗り続け、ITを使いこなすなど、従来の高齢者と異なるイメージでみる必要がある。起業等の活躍も期待されることから、高齢者を無理に企業に張り付けるのではなく、アクティブな高齢者の自由な発想と選択に委ねることが求められる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 従来の生産年齢人口の概念を見直し、六十五歳からは年金を受け取りつつ七十歳まで働くことを選べる社会への転換を目指す必要がある。

(2) 七十歳まで働くことのできる社会の実現のためには、受給開始年齢を遅らせることが有利に作用するような年金制度の構築が必要である。

(3) 年金受給者の労働市場への参入により、労働市場の適切なすみ分けが起き、ローコスト社会になるという利点も考えられるが、現役世代の公正労働基準に対してマイナスの影響を与えないよう配慮する必要がある。

(4) 労働力の固定化による社会の高コスト化、都市化の進展による退職者の孤独化、食生活の変容による寿命の低下、企業への一律的・強制的な雇用延長による若年者の雇用環境の悪化等、高齢社会における最悪のシナリオを避けるための取組が必要である。

(5) 団塊世代を含めた退職者の生活基盤を改善するためには、雇用の継続のみならず、医療、介護の負担等への不安を払拭していく必要がある。

(6) 団塊世代の議論は男性のみを想定していることから、女性の暮らし、収入、生き方等については、男性とは異なる政策的対応が必要である。

(7) 団塊ジュニア世代は、失業者・ニートの増加、未婚化・晩婚化の進展による出生率の低下、未婚であることによる高い可処分所得、結婚、出産、住宅の取得等による消費の増加等、社会に対して大きな影響を及ぼしていくことが予想される。

(8) 企業の労働力として若年労働力を確保するためには、短期的には求職と求人を調和させる仕組みを構築するとともに、長期的には中学校、高等学校からの職業意識の涵養が必要である。

(9) 大学における託児所の設置や育児者に対する奨学金等により、教育期間の終了を待たずに出産できる環境を整備するとともに、子どもを持つ新成人を成人式で表彰するなど、若年出産を奨励する意識付けを行っていく必要がある。

(10) 育児については、男性の家事・育児参加、家族が時間を共有できる長期休暇制度の推進等により家族の機能を重視するとともに、社会的育児の概念を取り入れた体制の整備も必要である。

(11) 自助・互助・公助のバランスの中で、文化、育児、介護等の互助プログラムを支援していくような寄附税制が必要である。

(12) 人口減少下において移民を一定の条件で受け入れるに際しては、移民供給国に日本移住のための教育機関を設置するとともに、移民が帰国した後に日本の文化、技術を広めることへの支援策を講じることも必要である。

(平成十八年二月十五日)
エコノミスト  香西 泰 氏

 少子高齢化・人口減少が経済に与える影響として、マクロの成長に対してはマイナスの影響を与える。その原因として、まず労働力が減少する。少子化により労働力供給は減少し、全体としての成長が鈍くなる。貯蓄も減少する。引退後の高齢期は生活のため貯蓄を取り崩す必要があり、高度成長期と比較して我が国の貯蓄率は低下している。また、資本は利益率の高いところに投資されるが、人口減少社会は資本と労働の比率において労働の比率が小さくなることから、利潤率が余り上がらず、資本が海外に流出することが考えられる。さらに、人口減少に伴う需要不足が失業を生み、需要面にもマイナスの影響を及ぼすことも考えられる。一人当たりの成長に対しては、ペストの流行による人口減少の後に経済が活性化したという歴史から、楽観的な議論が多い。しかし、疫病による人口減少では高齢者が減少し、一人当たりの食糧生産が増加したが、我が国が直面しているのは少子高齢化による人口減少であり、余り楽観することはできない。貯蓄の減少による投資の低下は避けられず、資本・労働比率の上昇も期待できないこと、また古い資本は生産性が高くないことから、一人当たりの経済成長を高めるためには生産性を向上させることが必要である。

 今後の我が国の人口については、第三次ベビーブームが到来しないことが予想され、今後出生率が回復しても母親となる女性人口の減少により、出生数はかなり少なくなる。また、不安定な就業の増加は結婚や出産に影響を与えることが懸念されるが、失業率の上昇を抑制するという効果ももたらした。アメリカでは、晩婚でも子どもを生んでいること、経済状況の改善が将来の期待所得を高めていることにより、育児のための大きな財政負担をせずに、二以上の合計特殊出生率を維持している。スウェーデンやフランスでは、育児保険、児童手当等の政府の取組により出生率を回復したが、ドイツでは高い児童手当水準にもかかわらず出生率は低下しており、制度の導入に当たってはその効果についても検討する必要がある。

 日本二十一世紀ビジョンを取りまとめるに際しての調査では、現役世代の負担が増える中での財政、社会保障制度及び経済発展に対する不安から、二〇三〇年の我が国については悲観的な見通しが多かった。世代間共助では支える側の負担が過重になった場合、公平性が損なわれ、活力も低下することから、問題の解決を先送りすることなく、相続税や年金課税の見直しにより、世代内共助を強めていく必要がある。

  先進国で人口が減少しない国はなくなりつつある。社会を明るくしていくためには、お金だけでなく時間を持つという少子高齢社会の利点をいかしつつ、急速な少子高齢化・人口減少に歯止めを掛けていくことが望ましい。

法政大学社会学部教授  小峰 隆夫 氏

 我が国の経済、社会の根本的問題には総合国力の低下及び雇用等における従来型システムの環境との不適合があり、その結果として、出生率の低下、低水準の対内直接投資等の現象が現れていることから、少子化を止めるためには、少子化対策に加え、経済力を回復するなど、安心して子どもを持つことのできる経済、社会を構築することが重要である。我が国は合計特殊出生率が低いだけではなく、主要国の中でも低下の幅が大きいことから、何らかの特殊要因があると考えられる。

 総合国力は市民生活向上力、経済価値創造力及び国際社会対応力に分けられる。人口と総合国力の関係について考えると、購買力平価ベースでみた場合、我が国の一人当たりの国民所得はまだ低いことから、今後は人口規模に影響される経済規模を問うのではなく、一人一人の生活の質、所得の質を問うべきである。

 人口減少への対応については、人口減少に伴う悪影響を防ぐこと及び人口減少そのものに歯止めを掛けることの二つを並行して行っていく必要がある。人口減少に伴う悪影響を防ぐためには、女性や高齢者の労働力率の引上げ等による労働力人口の減少への対応、海外からの投資の促進等による貯蓄率の低下への対応、時代の変化に合わせた制度改革による経済全体の効率化が必要であるとされている。しかし、労働力人口減少への対応を心配する前に、働きたくても働く場がない人に働く場を提供することがまず必要である。人口減少の原因としては、出産・子育てに係る女性の機会費用が大きいこと、労働時間が長く男性の家事への参画が少ないため女性の負担が重くなることが挙げられることから、雇用慣行の見直しが必要である。

 総合国力という観点からの少子化への対応としては、将来に明るい展望を描くことのできる健全なマクロ経済の実現とともに、多様な働き方のできる雇用システム、ワーク・ライフ・バランス、再挑戦できる雇用及び教育システム並びに男女間及び正社員・パートタイマー間の賃金格差の是正による働く人の立場に立った質の高い雇用の実現が必要である。

株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員  伊藤 さゆり 氏

 EUでは経済停滞と大量失業、社会保障負担増大への対応、経済統合の深化への対応及び少子高齢化に対応した制度の見直しという労働市場における加盟国の共通課題に対応するため、一九九七年以降、共通雇用政策を採用している。二〇〇〇年以降はEUの成長と雇用のための十か年計画であるリスボン戦略を推進しており、生産年齢人口、女性及び高齢者のそれぞれの就業率向上を目標に掲げ、就業者を増やすことにより、経済成長の成果を共有することを目標の一つとしているところに特徴がある。

 EUでは労働市場改革の結果、就業形態の多様化及びサービス業の雇用拡大により就業率は上昇しているが、日米と比較して就業率は依然として低いことから、更なる努力が求められている。域内においては社会保障制度・資格制度の不統一及び言語・文化の障壁による労働市場分断の結果としての伝統的構造の残存に加え、所得水準・経済成長率の格差及び具体的雇用政策の相違により、就業率及びその改善状況に格差が生じている。特に、伝統的な性役割分担が残り、男女間の就業率の格差が大きい国では、生産年齢人口の就業率も低い。また、ワークシェアリングの浸透度にも格差が生じており、浸透度の高い国でも、正社員とパートタイマーの処遇の均等化の徹底による自発的パートタイム化の促進や規制の少ない労働市場の形成等その進め方は多様である。

 少子高齢化への対応としては、女性の就業率の上昇と出生率の向上を同時に実現する必要がある。EU諸国においては、育児休業制度、育児に対する経済支援及び保育サービスの充実等の包括的支援による家族政策の推進により実現する方策やワークシェアリングの推進による労働の選択肢の拡大、企業による両立支援への積極的取組により実現する方策が採られている。また、高齢者の就業促進という点では、受給開始年齢の選択を可能にする年金制度改革、早期退職年金制度・失業保険の見直しによる早期退職慣行是正のほか、積極的雇用政策が行われている。

 ワークシェアリングの推進は、労働者にはライフスタイル、価値観、体力等に応じた就業形態の選択肢の多様化という意義が、企業には優秀な人材の確保及び定着率・就業意欲の向上を通じた競争力強化という意義があるが、我が国に導入する場合には、就業形態の選択に伴う不利益の発生、女性への育児・家事負担の集中という問題、企業の競争力強化の効果に対する不安も根強いという問題もある。ワークシェアリングの意義を高めるためには、就業形態の選択によって不利益が生じない制度環境の整備、制度間のバランス確保のための関連制度の一体的な見直し、職場環境改善への指導・インセンティブの拡充が必要であり、仕事と家庭を両立できる制度の整備、高齢者の高い就業意欲をいかした継続雇用制度の定着が求められる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 我が国の出生率低下の特殊要因と考えられる日本型雇用慣行は、男性の正社員に有利な制度設計となっており、女性の参画が進む社会に適合するよう変えていく必要がある。

(2) 国際競争力を高めつつ、ワーク・ライフ・バランスを実現するためには、長時間労働の是正、均等待遇を実現した上でのワークシェアリング、短時間正社員制度、在宅勤務制度により労働者の選択肢を多様化することが必要である。

(3) 欧州において育児等による就業中断の機会費用が小さいのは、同一労働同一賃金の原則が徹底されているからであり、我が国においても正社員とパートタイマー間の賃金格差を是正していく必要がある。

(4) 我が国において仕事と家庭の両立を推進するためには、育児休業の取得等により不利益を被らない制度の実効性の確保及び保育サービスの充実が必要であり、企業には就業者の権利行使を積極的に推進する姿勢が求められる。また、企業がワークシェアリングの利点を追求できるような環境整備も必要である。

(5) 社会保障給付費における高齢者関係給付費と児童・家族関係給付費を望ましい比率とするためには、育児を社会化するという観点から育児保険を創設し、その財源は高齢者関係給付費を抑制していくことで確保することが考えられる。

(6) 企業における子育て支援は、法律等により規制するのではなく、自主的に推進されることが望ましいため、子育て支援に積極的な企業が評価される社会にしていくことが必要である。

(7) 企業内保育所の整備は、労働力不足と景気低迷からの脱却という促進要因も加わり、優秀な人材を確保するための投資として今後拡充していくことが考えられる。

(8) 子育ての外注化や仕事と家庭の両立支援が人間力養成に与える影響が懸念されるため、親が幼年期に子育てに集中できる環境整備が必要である。

(9) 若年層の雇用対策としては、職業訓練等の積極的雇用政策を実施するとともに、将来的に若年失業の長期化を防ぐため、高等学校からの中途退学を防ぐ取組を地域レベルで行うことや人生設計を専門のキャリア・デザイナーが指導する仕組みをつくることが必要である。

(10) 高齢者就業は労働力人口減少に伴い促進されると考えられるが、年金と仕事のバランスを自ら選択し、個人の体力、能力及び意欲に応じた働き方ができるようにすることが必要である。

(平成十八年二月二十二日)
社団法人経済同友会代表幹事・日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長  北城 恪太郎 氏

 平成十六年に経済同友会「人口減少社会を考える委員会」が行ったアンケート調査によると、未婚者より既婚者の方が、また子どもの数が多い人ほど生活満足度が高いことから、長期的には結婚し子どもを持つことが満足につながるという価値観を社会に伝えていく必要がある。また、同調査によると、家族観は一九六〇年代生まれ以降多様化しており、特に家事・育児の男女平等、男性の育児休暇の取得の意識については世代を追うごとに進展している。さらに、結婚しない理由についての質問では、結婚により失うコストを指摘する声が多いことから、結婚することの価値を若い世代に伝えていく必要がある。

 今後の少子化対策の方向性については、同調査では、若年層ほど、子どもの数が多いほど経済的負担が大きいことから、児童手当、乳幼児に対する医療費補助等の経済的支援の拡充が求められる。また、保育料が安価になること、保育所不足の緩和、保育所のサービス時間拡大等を求める声が強いことから、規制を緩和し、民間のノウハウをいかした低価格で多様な保育サービスを提供することが必要である。そのため、バウチャーのような保育券を支給し、利用者が多様で安価な保育サービスを自由に選択できるような体制づくりが求められる。さらに、女性よりも男性の方がもう一人の子を望む意見が多いことから、女性に掛かる負荷を軽減する必要があり、そのためには職場環境、子育て環境を整備することが求められる。

 日本アイ・ビー・エムでは、ワーク・ライフ・バランスを促進しており、女性が育児、介護を行いながらキャリアを追求できるよう、多様な勤務形態を取ることのできる体制を整えている。具体的には、時間的制約の軽減策として、フレックスタイム制度、短時間勤務制度等を設けている。空間的制約の軽減策としては、インターネット等を利用したe-ワーク制度により在宅勤務等を可能にしている。

 女性がキャリアを追求できる職場をつくることにより、経済的にも子育てが可能となる。また、子育て期間中に十分な勤務ができなくても、それ以降は能力主義、成果主義により、女性が活躍できる会社をつくることで少子化問題に対処している。

株式会社エトワール海渡取締役人事部長  有賀 俊文 氏

 エトワール海渡は、明治三十五年に創業された卸売業の会社である。社員約九百名のうち七割弱が女性であり、社員構成は約三十年前から変わっていない。平成十四年度には厚生労働省のファミリー・フレンドリー企業表彰において、東京都の労働局長賞を受賞しており、受賞の要因の一つとして社内保育所「エトワール保育園」を持っていることが考えられる。

 エトワール保育園は、優秀な女性社員が結婚、出産に伴い退職することを防ぐため、昭和五十二年に設立された。エトワール保育園の定員は十八名であり、保育士六名、調理師一名の体制で運営されている。保育の対象は、十か月児から三歳までである。対象を三歳までとする理由としては、六歳までとすると定員数に対して一学年当たり三名しか預かることができず不公平になること、四歳以降は地元の保育所に通い、地域でコミュニケーションをとることが小学校入学の際に望ましいことが挙げられる。近年は一学年六名以上の申込みがあり、その場合は抽選としている。抽選に漏れた場合は、民間の保育所に入らなければならないこともあり、その場合の保育料負担等が課題となっている。

 また、従業員のうち常に十五名から二十名程度が出産休暇、育児休業を取得しているが、当社では出産後に職場復帰することが当たり前の姿となっている。

 さらに、勤務時間短縮制度を採用しており、コアタイムを十時から十六時に設定し、その前後は三十分単位で子どもの養育の状況に応じて勤務できる制度としている。全社員のうち本制度を利用している社員は八%弱であるが、育児休業や勤務時間短縮制度の利用者とフルタイム勤務の社員との公平性をいかに確保するかが今後の課題である。

 仕事と子育てを両立するためには、国や地方公共団体の経済的支援、会社、家族の理解と育児休業等から復帰する社員の意気込みが必要である。

日本労働組合総連合会副事務局長  逢見 直人 氏

 連合の出産・子育て支援に関する基本的考え方は、結婚や出産は当事者の選択であり、国や行政が介入すべきではないことを基本に、子の養育の責任は第一義的には保護者にあり、保護者が安心して生み育てられる条件や、子どもが健やかに育つ環境を整備することが社会の責任であるというものである。

 だれもが安心して子どもを生み育てられる環境を築いていくためには、出産・子育てに係る経済的負担の軽減、雇用不安と所得格差の解消、ワーク・ライフ・バランスの促進及び国民的運動の展開が必要である。

 出産・子育てに係る経済的負担の軽減については、かねてより、妊娠中・出産後の健康診査費用も含めた出産に係る費用は、健康保険で賄うべきであると提言しているが、少なくとも出産育児一時金は四十万円程度にまで引き上げる必要がある。また、子育て世帯にとって大きな負担となっている保育料の保護者負担を現行の半額程度に引き下げることが求められる。

 雇用不安の解消と所得格差の是正については、均等な雇用機会が確保される労働市場への見直し、非典型労働者と正社員との間の合理性のない格差の是正とともに、企業は安定した雇用機会を若年層を中心に広く提供することにより、仕事を通じた若者の自己実現や社会参画を支援する必要がある。

 ワーク・ライフ・バランスの促進については、男性の長時間労働の是正が必要である。連合は、労働組合が次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定に積極的に関与するための「手引」を作成し、行動計画の労働協約化に向けて取り組んできた。また、行動計画の策定は、従業員三百人以下の企業については現在努力義務となっているが、中小企業や労働組合がない企業こそ行動計画により次世代育成支援を推進すべきであり、三百人以下の企業に対する指導も強化していく必要がある。

 このほか、国民的運動の展開として、平成十八年度に設置が予定されている少子化対策に係る「官民運動連携会議」には、省庁ごとの縦割りの施策を検証し、全国の子育て支援に関する情報を収集・発信するなど実効性のある役割を発揮していくことが求められる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 週六十時間以上働く男性雇用者の割合が増加している背景には、正社員が少なくなってきている中で三十歳代を中心とした働き盛りの世代にしわ寄せが来ていることが考えられ、そのことが子育て世代にとっての負担になっている。

(2) 多様な働き方を選択できる社会を構築するためには、成果に対する均等待遇原則の確立、働き方による税制・社会保険制度上の差別の撤廃が重要である。

(3) 若年層の安定した雇用の確保は少子化対策としても重要であり、固定的な日本の労働慣行を成果に応じて処遇できる形にすることにより、若年層に限らず高齢者の雇用も推進することが可能となる。また、若者に対しては、正社員として働くことの重要性を教育や家庭の中で伝えていく必要がある。

(4) 働き方の見直しや育児休業の取得促進のためには企業経営者の理解が不可欠であり、社員に十分配慮した企業が成功しているというインセンティブを与えることが求められる。そのためには、子育て支援の取組に優れている企業の表彰・ランキング等により、消費者・求職者等に取組の情報が開示されることが必要である。

(5) 仕事と子育ての両立のためには、職場の意識改革とともに、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の策定、周知、策定後のフォローアップの各段階において従業員が関与していくことが必要である。

(6) 男性の育児休業取得率を向上させるためには、職場の意識改革により育児休業を取得しやすい雰囲気を醸成していくとともに、労使協議により次世代育成支援行動計画の中に男性の育児休業取得率向上を盛り込むことが求められる。

(7) 中小企業における仕事と子育ての両立のためには、地域の特性に合った子育て支援サービスの提供、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定のための情報提供等の支援が必要である。

(8) 派遣社員は育児休業の取得が実際は困難であるなど正社員と格差があることから、派遣社員が安心して出産・育児ができる環境の整備が必要である。

(9) 企業内保育所と地域の保育所のいずれを希望するかは、保護者の通勤時間によるところが大きいが、無料の企業内保育所を利用できる従業員と地域の保育所を利用する従業員との費用負担の公平性の確保が今後の課題である。

(10) 厳しい財政状況の下で保護者のニーズに合った保育サービスを柔軟に提供するためには、民間事業者が競争に参加できる条件を整備し、官による民間保育所の適切な管理を行った上で、バウチャーにより保護者が自由に保育所を選択できる制度が求められる。

(11) 子どもを持ちたい人がその希望を実現できるためには、保育サービスの拡充、育児手当の充実等の経済的支援、企業経営者に対する啓蒙活動等、様々な施策を組み合わせていくとともに、社会保障給付費における高齢者関係給付費と児童・家族関係給付費とのバランスを検討していく必要がある。

(12) ニート、フリーター対策や、幼保一元化等の少子化対策における関係府省の縦割り行政の弊害を解消するためには、子育て支援等のためのプログラムを政府が統一的に提供する必要がある。

(13) 外国人労働者については、多民族国家としての価値観、社会保障制度等が整備されていない社会状況の下では、その受入れに当たっては知的分野を中心に検討すべきであり、人口減少の対応策として考えることは避けるべきである。

(平成十八年三月一日)
奈良県知事  柿本 善也 氏

 奈良県では、「ストップ少子化」として、地域でできることを主眼に対策に取り組んでいる。結婚や子育てに夢や希望が持てる社会の実現という基本理念の下、平成十三年に少子化対策の実施計画として「結婚ワクワクこどもすくすくプラン」を、十七年には次世代育成支援行動計画として「新 結婚ワクワクこどもすくすくプラン」を策定した。

 奈良県の少子化対策の最大の特色は、晩婚化・非婚化対策としての結婚支援施策及び子育ての不安をなくすための子育て支援施策を車の両輪とし、それぞれの啓発事業及び具体的支援事業に取り組んでいることである。結婚支援施策については、啓発事業として「プロポーズの言葉百選」の全国募集等を、具体的支援事業として若者に出会いの機会を提供する「なら結婚応援団」事業を行っているほか、県庁独身職員の交流の場である「シングルクラブ」を設置している。子育て支援施策については、啓発事業として父親の子育て参加の促進のための「新米パパの子育て読本」の作成等を、具体的支援事業として子育て支援のネットワーク形成等の中核機関となる「奈良県子育て家庭サポートセンター」の設置、子育てを応援する企業・店舗・NPO等を募り、地域における子育て支援の輪を広げる取組を行う「なら子育て応援団」事業、高校生と子育て中の親子の触れ合いの場を提供する「次代の親育成モデルルーム」の開設等を行っている。

 国に対しては、(1)児童手当の大幅拡充及び国庫負担における国の責任の明確化、乳幼児医療費の自己負担割合の引下げ、(2)正常分娩の医療保険適用化と出産育児一時金の調整、(3)子育て支援企業への優遇税制の創設、(4)育児休業給付の大幅増額及び育児休業期間の延長、(5)結婚情報サービス業の選別及び育成、(6)次世代育成支援対策ソフト交付金の交付要件の緩和及び対象事業の弾力化を提言する。

 少子化対策には、地域の努力とともに、根幹的な問題については国が主導的な政策を講じていくことが求められる。

江戸川区長  多田 正見 氏

 江戸川区は、東京区部で長い間出生率が最も高く、子どもの数も最も多い区であるが、少子化対策として特別に施策を講じているのでなく、あらゆる世代に住みやすい魅力的なまちづくりを長年進めてきた結果であると考えている。毎年約三万七千人転入する人口のうち九〇%以上を四十歳代までが占めており、多くの若い人が江戸川区に移り住んでいる。その要因として、都心に近く利便性が高いこと、東京区部で公園面積が最も広く、都会の中では比較的自然が豊富なことによる子育て上の環境面の良さが挙げられる。また、子ども会活動、スポーツ等も活発である。

 子育て支援の取組としては、まず保育ママ制度が挙げられる。〇歳児は両親のスキンシップで育ててほしいとの区の考え方が原点にあることから、公立保育所では〇歳児保育は行わず、その代わりの施策として保育ママ制度を実施しており、現在九〇数%の親が家庭で養育している。三十八年間の歴史がある保育ママ制度は地域の理解も得ており、制度を利用する親も保育ママから様々な育児経験を学べるなどの利点がある。このほか、保育所利用者と家庭育児者との格差是正のための区独自の乳児養育手当の支給、公立との均衡を図るための私立幼稚園等保護者負担軽減、乳幼児医療費助成、学校給食費保護者負担軽減を実施してきている。

 子どもの健全育成への取組としては、学校を開放し地域ボランティアの協力の下に多面的な人間関係の中で子どもが様々なバランス感覚を養うための「すくすくスクール」、中高生の活動拠点としての共育プラザ、中学二年生を対象とした五日間連続の職場体験事業等を実施している。

 子育て支援については、これまで家庭に対する支援を中心に考えられてきたが、区としては、子どもに直接影響の及ぶ施策を展開することがより重要であると考えている。そのためには地域の人の協力が不可欠であり、地域が一体となって子育てに対して気持ちを共有し、努力していくことが必要である。

新潟市にいつ子育て支援センター育ちの森館長  椎谷 照美 氏

 自らの育児経験を基に専業主婦の間で子育て応援・企画グループを立ち上げ、情報誌の作成、ラジオ番組の企画・放送、行政との共催や後援を受けての活動等を行ってきた。平成十四年にNPO法人となり、旧新津市より委託を受けて新潟市にいつ子育て支援センター育ちの森の管理運営を行っている。子どもの遊び場、親の息抜きの場として利用者は年々増加し、父親の利用も増えている。また、各種セミナーの開催、一時保育、父親と子どもが集まる「パパサロン」の開設、中越地震被災地への支援活動等を行っており、育児に対する孤立、負担を感じている母親が癒やされる場づくりが今後の課題である。

 地域の子育ての環境は、各地の状況により異なるため、地方自治体トップのブロック会合等により、各地域の意見を吸い上げていくことが求められる。また、地域では子育てサークルをつくるなど子育て支援の輪を広げていく必要がある。

 働きながら子育てをする女性の抱える悩みとして、出産により退職を余儀なくされる事例もあり、結婚・妊娠・出産をマイナスととらえる社会風土が「第二子は生めない」と考える大きな要因となっている。また、男性が自分の選んだ道を進み仕事に没頭できるのに対し、女性は結婚、出産、夫の単身赴任等に際し仕事を続けるか、子どもを生むかについて選択しなければならず、子どもを生まない選択をする女性もいる。少子化対策には、働きながら子育てをする女性に対する企業の協力が不可欠であり、そのためには育児休業中の代替要員の確保に対する補助等、企業への支援が必要である。

 次世代育成においては、他者との豊かなかかわりを持ちながら子どもを育てていくことの楽しさを感じてもらうためにも、子どもに様々な世代と触れ合う体験を与えることが有効である。また、子どもが地域に出て社会貢献を経験する場をつくり出すことが必要である。

 子どもの明るい未来のため、子どもや妊婦にやさしく、子育てしやすいまちづくりが望まれる。そのためには、行政、NPO、企業及び地域社会がそれぞれ実行可能なことを見極めつつ、進めていくことが求められる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 子育て支援には地域の実情に即した取組が必要であり、そのためには地方公共団体間の財政格差に配慮した地方分権の推進が求められる。

(2) 地方公共団体における子育て支援においては、行政が様々な仕組みを考え、地域がそれに快く応じてくれる地域性をつくり上げていくことが重要であり、地域のみならず企業等の役割もまた重要である。

(3) 企業の子育て支援への協力を促進するためには、地方公共団体が業務を発注する際に、子育て支援の取組に優れている企業を積極的に評価していくことも考えられる。

(4) 子育て支援においては、行政やNPO等の多様な主体がそれぞれの長所をいかしつつ対等な立場で協働することが重要であり、NPOに対しては人件費等の助成金を充実させる必要がある。

(5) 子育て支援センターの運営に当たっては、利用者のニーズを適切に把握し、求められる支援に柔軟に対応していくとともに、父親の参加を促すためにも活動の中に父親の持つ得意分野をいかしていくことが求められる。

(6) 〇歳から三歳の低年齢児の保育需要に対応するため、保育所の認証制度の活用を図るとともに、保育所の認可基準の弾力化も検討することが必要である。

(7) 就学前の教育・保育を一体としてとらえた一貫した総合施設については、少子化により施設が遊休化した場合の効率的な活用策としては有用であるが、その際には幼稚園と保育所の予算の仕組みを変えることが求められる。

(8) 学校開放事業の普及のためには、地域の住民、団体及び学校の協力が求められる。

(9) 子どもに係る施設については、子どもにとって安全で安心できる居場所であること、施設の職員にとって専門性を持って子どもと系統的にかかわることができることが重要である。

(10) 少子化対策には第三子以降の出産を促すことが実践的であり、児童手当制度における第三子以降への支給金額の増額、育児休業制度の充実等の対策を複合的に講じるとともに、地域の見守り等安心して子どもを生むことができる環境づくりが必要である。

(11) 三位一体改革に伴い児童手当の国庫負担が三分の二から三分の一に引き下げられることは、地方公共団体の財政に大きなかせとなる懸念があることから、児童手当については国が基幹的制度として維持する責任がある。

(12) 次世代育成支援対策ソフト交付金については、地域の創意工夫がいかせるよう交付要件の緩和や対象事業の弾力化が求められる。

(13) 災害時の避難所においては、乳幼児のためのおむつ、ミルク等の備蓄、授乳スペースの確保等、乳幼児に配慮した対応が必要である。

(14) 高齢者が退職後も社会に貢献し続けることができるよう、高齢者が自らの持つ能力を認識できるための支援を行い、社会活動への誘因を与えることが必要である。

(平成十八年四月五日)
性と健康を考える女性専門家の会会長・主婦会館クリニックからだと心の診察室産婦人科医  堀口 雅子 氏

 産婦人科の領域からみた少子化の原因としては、妊娠・出産の時期が遅くなってきたこと、性感染症と不妊の関係や労働過重とセックスレス・不妊の関係が指摘されている。セックスレスと不妊の関係について、緊急の調査・研究を行うとともに、労働条件の改善、雇用者の意識改革が求められる。

 女性は健康のバロメーターとして月経がある。月経不順、無月経及び月経困難症は、放置すると自らの健康を損なうだけでなく、不妊、少子化の原因となることから、早期に受診して加療する必要がある。その際、経口避妊薬を保険の対象とすることが求められる。また、不妊治療のための休暇制度、不妊治療への保険適用が求められる。

 結婚に適齢期はないが、妊娠には適齢期がある。生むことの選択が自由になるなど女性の生き方が複雑になったことが高齢妊娠・出産につながっている。高齢妊娠・出産の問題点としては、三十五歳過ぎからの卵巣機能の低下、不妊の原因となる子宮筋腫・子宮内膜症の合併率の上昇、全身疾患・合併症妊娠の可能性の増加等により、妊娠率の低下、流早産率の増加、ダウン症等の胎児異常の発生率の増加等につながることが挙げられる。これらの対策として、高齢妊娠・出産・育児についての健康教育、医学的対応及び社会的支援が求められる。

 性交開始年齢の低下とパートナー数の増加により性感染症患者は急増しているが、現代の若者やその母親は性感染症とその予防法を知らない。性感染症は不妊の原因となり、流産、早産、母子感染も引き起こすことから、性感染症が妊娠・出産時に次世代に影響するということを学習する必要がある。

社会福祉法人賛育会賛育会病院院長  鴨下 重彦 氏

 少子化対策という言葉は、子どもの立場ではなく大人からみて子どもを増やそうとする視点であり、違和感を持つ。出生率の向上のみを目標としたこれまでの少子化対策は効果が上がっておらず、むしろ次の世代をいかに健全に育成するかという視点が重要である。

 子どもは三歳までは常時家庭で母親の手で育てないとその後の成長に悪影響を及ぼす。近年の少年非行の背景には家庭機能の低下の問題がある。

 小児科医及び産科医の不足が指摘されているが、過去十年間に小児科医は微増しており、ワークフォースの低下が問題となっている。産科医は数そのものの減少に加え、お産を取り扱う医師が極端に減少している。当直、救急、がんを避ける医師が増えており、医師の卒前教育に問題があると考える。医師の実働数、労働時間が少なくなっていることも医師不足の背景にある。また、小児科医は地域分布に大きな差がある。小児科・産科共通の対策としては、勤務条件を改善し多様な勤務形態をつくること、女性医師への支援、大学病院内における母子センターの設立、初期臨床研修における両科重視のカリキュラム等が必要である。また、小児科については小児精神保健医療を担う人材育成等、産科については訴訟対策としての無過失補償制度の導入等が求められる。

 生殖補助医療について、日本医師会は保険収載をした場合、年間十万の出生数の増加を予測しているが、産科医が正常のお産より利益の多い生殖補助医療を選択し、産科医療をゆがめる可能性が考えられる。また、倫理的検討、社会的合意、法的制度、子どもの福祉を守る体制等が不十分な段階で、技術と臨床応用が先行し過ぎていると危惧している。厚生科学審議会が提起した、生まれてくる子の福祉を優先する、人を専ら生殖の手段として扱ってはならない、安全性に十分配慮する、優生思想を排除する、商業主義を排除する、人間の尊厳を守る、という六条件はもっともであると考える。

社団法人日本助産師会会長・天使大学学長兼大学院助産研究科長  近藤 潤子 氏

 女性は妊娠を無事経過し、満足できる出産を経験することで自尊感情が深まる。産むことから感じられる満足感が第二子以降の出産への動機付けになっていくと考える。その中で助産師は、正常である範囲において、妊娠から育児まで女性と新生児に必要な心身のケアを行っていく。実際には妊娠の診断、妊娠の正常な経過の点検、正常で自然なお産が円滑に進むためのケア、新生児が母体外生活に適応するための援助、異常の予防・早期発見、異常が起きた際の医療との速やかな連携が含まれる。そのためには、妊産婦と助産師の間に信頼関係をつくり上げることが重要である。

 助産師活動の課題としては、助産師業務の範囲の明確化が必要であり、日本助産師会では「助産所業務ガイドライン」を作成し、事故の防止、医療との連携に努めている。また、全出産数百十九万のうち六割が正常産で終わるといわれており、正常産は助産師が受け持つべきであるが、助産所での出産は一%程度である。家庭的雰囲気等女性が望む環境で助産師によって出産が行われるようにするためには、助産所の数が不足しており、各市区町村に助産師が活動する母子健康センターを開設し、助産師活動の拠点とすることが必要である。さらに、医療機関内の産科棟や外来の閉鎖が続いているが、医師主導で運用されていた機関の中で、助産師が正常な妊産婦、新生児のケアを自律して引き受ける準備ができていないことから、地域で行われるよう助産師の新しい役割に備えた研修会を実施する必要がある。このほか、助産師能力の更なる向上、混合病棟化への対策等が必要である。

 平成十三年の人工妊娠中絶実施件数は三十四万件余であり、経済的理由によるものが相当数含まれていると考えられる。また、届出のない人工妊娠中絶もこれと同数以上あるといわれている。産むことができない事例の中には、相応の保護措置があれば産めるケースも相当数あると考えられるため、妊娠中・出産の保護施策、出産後の養育費補助、里親及び養子縁組の活用等による対策が必要である。

 子どもの性成熟年齢の低下により助産師会への性教育の依頼が増加しており、助産師の教育訓練を行うことにより対応していくことが求められる。

 年間六十万件の正常産に対応するためには、三万四千人程度の助産師の確保とともに、妊娠期の管理等についての助産師教育の見直し、助産師養成のための実習施設の確保等が必要である。

株式会社科学技術文明研究所所長  米本 昌平 氏

 生命倫理に関する政策の型は、ヨーロッパ型、自己責任・自己決定のアメリカ型、政策が不明確な日本型とそれ以外の非先進地域の三プラス一極化がかなり明確になってきている。

 ヨーロッパでは、一九七八年の世界初の体外受精児誕生を機に、八〇年代に技術の社会的評価に関する包括レポート(テクノロジー・アセスメント・レポート)を積み上げ、九〇年代に生殖技術規制法が成立している。立法の特徴として、キリスト教教義を世俗規範化したものを法制化したこと、体外に存在するヒト受精卵を法的保護の対象としたことが挙げられる。オーストリアはカトリックの教えの世俗化の部分を立法化し、スイスは生殖技術法関連について憲法条項に規定している。イギリスは生殖技術及び精子・卵子の扱いについて独立の行政官庁を設置して対応している。ドイツでは胚保護法を制定し、体外で発生した受精卵そのものを法的保護の対象としている。

 アメリカでは、一九七〇年代以来の人工妊娠中絶の自由化論争の中で国論が二分され、連邦全体として生殖技術の規制に関する公的な協議の場が設定できず、具体的な生殖技術について実質的な規制がない。不妊治療は、事実上、医療費を負担できる高所得者へのサービス・メニューとなっている。ヒト受精卵の研究については、公的助成は行われておらず、民間の研究費で行われている。

 我が国では、生殖技術法制定の論理的必然性はあるが、欧米に比べ哲学的、宗教的必然性が弱い。第三者の精子による人工授精、死後の受精等の具体的課題があるが、一つの法律で網を掛けることは難しい。当面、包括的テクノロジー・アセスメントについて立法府の所管の中で委託調査を行い、運営委員会を置き、報告書を積み上げていく必要がある。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 口腔内が性感染症の感染経路ともなることから、性感染症の検出技術の向上を図るとともに、産婦人科医のみならず、口腔外科医も常に問題意識を持って診察に当たることが望まれる。

(2) 労働過重の影響としては、セックスレス及び性機能の低下が考えられる。性機能の低下については、女性は月経により卵巣機能不全が診断可能であるが、男性の診断には唾液によるホルモン減少度の検査という方法があり、そのための予算等検査体制の整備が今後の課題となる。

(3) 男女の労働の同一化が進められているが、不妊につながりかねない労働条件を適用することには慎重な検討が求められる。

(4) 満足のいくお産を増やし、出産時の選択肢を広げるためには助産所の増設が必要であるが、資金面で難しいことから、助産師によるセクションの医療機関内への設置、母子健康センターの設立を進めていくことが求められる。

(5) 正常産は助産師ができるだけ担当することが望ましいという考え方があり、病院出産が主流となる中で、医師と助産師がより協力することが求められる。そのためにも、助産師によって提供されるべきケアを明確にしていく必要がある。

(6) 生殖補助医療については、体外受精を行う病院と出産を引き受ける病院が異なる場合には、出産を引き受ける病院が体外受精に付随する出産時のリスクを負うことになるという問題があるため、学会等による対応が必要であり、法的規制を行うことも考えられる。

(7) 体外受精への保険適用については、成功率が低いことと不妊を病気として扱うことの問題があり、安全性・確実性の向上、法律的な議論が求められる。あわせて、不妊治療で生まれた子どもの育ちへの影響について調査することが求められる。

(8) 我が国ではヒト受精卵の扱いについての議論は未整理であり、中絶論争を整理し直した上で、体外に出ているヒト受精卵をどの程度の保護対象とするのかについて議論する必要がある。

(9) 中絶される生命を生かすためには、里親及び養子縁組制度の活用が必要であり、深い親子関係は血のつながりがなくても早い段階から共に暮らすことにより築くことができる。

(10) 性教育については年齢相応の教育が求められがちであるが、幼い子どもに事実を教えれば子どもは素直に学んでいくことができると思われる。そのためには、教える側が子どもの立場に立って教育することが必要であり、そのためのスキルの向上が求められる。

(11) 子どもの性教育を開始する時期については様々な議論があるが、生命の大切さを伝えつつ、子どもの求める知識に合わせて教育していくことも考えられる。その際には、助産師の能力を活用していくことが求められる。

(12) 性に関する出版物等が子どもの性の早熟化、性犯罪を助長していることが指摘されていることから、出版業界等の自主規制を促すとともに、性犯罪を防止するためには、他者を思いやる心を持てるよう子どものコミュニケーションスキルを高めていくような取組が求められる。

(13) 性差医療とは、男女の性差により病気等の違いが生じるため、性差に着目した医療を行うことで病気の治療を行うことであり、診療に当たる医師の性別に着目したものではないことを認識する必要がある。

(14) 小児科の医師不足対策として平成十八年度に診療報酬が加算されたが、医療面のみならず財政面で子どもに広く支出していくことが少子化対策として重要である。

(15) 一戸当たりの住宅面積と出生数は相関関係にあると考えられることから、子育てへの経済的支援の一つとして家賃補助が求められる。

(平成十八年四月十二日)
早稲田大学大学院会計研究科客員教授(専任)  品川 芳宣 氏

 過去に人口政策として所得税制を採用した例は、昭和十五年の我が国における配偶者の所得控除制度の創設、第二次世界大戦後のフランスにおけるN分N乗方式の採用の二例が挙げられる。少子化対策として現在議論されている所得税制上の選択肢としては、所得控除の拡充、所得控除から税額控除への振替、課税単位の見直し及び独身者への課税強化の四つが考えられる。

 現時点で採るべき方法としては、課税単位については個人単位課税方式を改め、N分N乗方式の導入による家族単位課税方式とすることが重要である。我が国においては、所得税の最低税率一〇%の適用者が約八割を占めていることから、N分N乗方式を採用しても実効性に乏しいという意見もあるが、税率の刻みを工夫することで十分活用できる。また、現在でも専業主婦は四〇%以上存在するため、専業主婦が家庭において安心して子どもを生み育てる環境を整えることも必要であることから、夫婦単位課税である二分二乗方式の導入も考えられる。配偶者控除や扶養控除等については、税制の簡素化の観点や女性の社会進出を妨げるという理由から廃止すべきとの意見があるが、女性の様々な生き方を保障する制度とすることが必要である。所得控除から税額控除に振り替えるべきという意見については、所得控除のマイナス面だけでなく、両者の長所、短所を検討していく必要がある。所得税制ではなく社会保障としての児童手当で対応すべきとの議論については、児童手当と税制上の措置を併用する方式は諸外国でも行われており、所得税制上の見直しが必要ないということにはならない。自らの所得で子どもを育てるという目的にかなうことからも、むしろ所得税制上の政策を重視すべきである。

 少子化の要因は複合的であるが、基本的には個人の価値が過度に重視され、家族、社会、国家等の共同社会の中で個人が生きるということが軽視されていることに由来すると考える。その危惧を排除するためには税制上様々な措置が採り得ると考えている。

株式会社野村総合研究所研究理事  中村 実 氏

 出生数は女性の平均初婚年齢と既婚女性の出生数で決まる。既婚女性へのアンケート調査によると、過去三十年間平均出生数は二・二と安定しており、少子化の主因は晩婚化・未婚化にあるといえる。

 少子化の問題点は公的年金や国民医療費において高齢者を支える現役世代の負担が重くなることである。社会保障制度を維持するために少子化対策は必要であり、子育てへの経済支援とは、主に若年層が無理なく結婚できる社会経済環境を整備することである。具体的には、若年層の労働環境の整備、女性の育児と仕事の両立支援、税制上の優遇、出産費用の補助、教育問題等である。

 労働環境の整備については、長期不況により非正規雇用者が増加したこと、非正規雇用者の賃金が正規雇用者に比べ低いことから、同一労働同一賃金の原則により正規雇用者と非正規雇用者の賃金格差の是正を図る必要がある。未婚女性が結婚相手の男性に求める収入と実際の収入にギャップが生じている。また、非正規雇用者比率の上昇は、社会保険料未納率の上昇を招き、社会保障制度の歳入欠陥を生じさせるとともに、セーフティネットから漏れる若者を急増させている。

 育児と仕事の両立支援については、待機児童の解消、学童保育の拡充により、出産・育児に伴う女性の機会費用を縮小することが求められる。特に、低コストの保育所供給は最大の経済援助である。

 税制上の優遇措置としては、独身者より既婚者を優遇する必要があり、配偶者控除を夫婦いずれか所得の多い方から控除できる結婚控除に変更することが求められる。また、高所得者層ほど減税効果の大きい扶養控除を廃止し、児童手当の直接交付とすることが望ましい。

 出産に係る費用の補助については、育児休業中の所得保障を六割程度にまで引き上げ、不妊治療も医療保険の対象とすべきである。また、女性が若いときに自らの卵子を凍結し、結婚後にその卵子を利用するセルフバンク制度を一般にも認めることが求められる。

 教育問題については、経済の国際化に伴い、企業は従業員の能力、賃金を比較した上で最適工場立地を行うことから、国内に仕事を残し、国力を維持するためには国民の高い能力が必要であり、そのためには理工系高等教育の強化が求められる。また、子どもを持つことの不安の第一に教育費負担の重さが挙げられていることから、教育費負担が少なく専門性が身に付く職業教育専門学校を増設する必要がある。

東洋大学経済学部教授  白石 真澄 氏

 爆発的な人口回復が望めない今日では、少子化対策は少子社会を前提に各種制度を組み替えていくことが求められるとともに、様々な理由により子どもを持つことが阻害されているのであれば、それを社会として支援していく必要がある。子育て世代には総合的かつ多様なニーズに応じた支援が必要であり、その一つとして安心して子どもを育てることのできる良質な住環境が挙げられる。

 各種調査によると、子育て世代が求める政策の一位は経済的支援であり、住環境については低位に位置しているが、これは住環境に対するニーズがないということではなく、関心の中心が教育費に向けられてしまうからであると考える。

 住宅の床面積と合計特殊出生率の関係をみると、住宅面積が狭い地域ほど出生率は低く、都市部ほど住宅コストが高いことから、子どもを持つ上で住宅に関する理由が阻害要因になっていると考えられる。

 子育て世代の住宅の現状と課題として、都市部では国が定める誘導居住水準を満たしていない住宅が多く、騒音や公共スペースの汚損の問題等で子どもの育てにくさを感じる世代が多くなっている。また、高齢者の単身夫婦のみの世帯が広い住宅に住んでいる反面、狭小な住宅に住んでいる子育て層が多いことから、世帯人数と住宅のミスマッチ解消のための政策が求められる。さらに、子どもの年齢によって住宅の中で重視する要素は異なってくることから、子育ての各段階に応じて住み替えが可能となるような環境を整備していく必要があるが、収入の減少により住宅ローンの返済額の実収入に占める割合が上昇しているのが現状である。

 団塊世代の子どもが出産適齢期に差し掛かっている今後五年間が少子化対策には重要であり、住宅を子育ての安心インフラと明確に位置付ける必要がある。そのためには、住生活基本法案において子育てを支援する住宅の理念を明確化するとともに、具体的な行動計画と目標数値を設定し、各行政主体の責任範囲を明確化し、予算を確保することが必要である。公営住宅の所得制限の緩和、都市再生機構の賃貸住宅の当選倍率拡大、中古住宅市場の整備等の施策が求められる。

 このほか、保育に関しては、待機児童解消のため、保育バウチャー制度により保育所の競争条件を同一化した上で、保育所と利用者が直接契約をする制度の導入が求められる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 少子化対策として所得税制を改正するに際しては、結婚・出産にインセンティブを与えるため、家族の多い世帯を優遇するN分N乗方式又は夫婦間の多様な生き方を保障する二分二乗方式が望ましい。

(2) N分N乗方式の導入は逆進性についての懸念があるが、低所得者に対しては税率構造を見直すとともに、社会保障による各種手当と併用することで対処が可能である。また、N分N乗方式の導入は結果として独身者への課税強化にもつながる。

(3) N分N乗方式は家族数を多くすることへの誘因効果を持つと同時に、三世代同居家族に適用することによって介護の社会的コストを引き下げる効果が期待できる。

(4) 税制上の措置よりも直接手当を支給する方が子育てに対するインセンティブを与え、また税制の簡素化にもつながると考えられることから、扶養控除等を廃止し、手当に移行していくことが必要である。

(5) 扶養控除等の各種所得控除の廃止は、特に子育て世代にとっての税負担増となり、少子化対策に逆行する可能性があるため、税制上の各種控除は存続を図るべきである。

(6) 低所得者に対する子育て支援税制については、所得が一定の水準に達しない者に対して、所得に応じて税を還付し、労働へのインセンティブを付与するアメリカのEITC(勤労所得税額控除)のような制度の導入を検討していく必要がある。

(7) 社会保障における相互扶助の観点から、資産課税としての相続税の課税強化が考えられる。

(8) 企業が育児支援に取り組むためのインセンティブとして、育児施設の建設や育児休業の取得に対して法人税の減税を行うことを検討することが求められる。

(9) 子育て世代向けの住宅政策については、賃貸住宅政策として公営住宅の容積率拡大による戸数の増加や管理運営面の民間委託等によるコストの削減、持家政策として定期借地権の活用が必要であるとともに、子育て世代向け住宅としての性能面での基準を満たした住宅供給事業者には低利融資を行うなど、良質な住宅供給を進めていくことが求められる。

(10) 様々なライフスタイルに合わせた良質な賃貸住宅を供給するための住宅政策を推進するためには、賃貸住宅に住み続けることが損になるという仕組みを見直し、賃貸住宅の有利性を高めるよう礼金等の商慣行を見直していく必要がある。

(11) 子育てにおいては住宅の広さに加えて通勤時間の長さも重要であり、住宅を都心に大量供給していくとともに、既に遠隔地に在る住宅をいかすため、短時間勤務や時差出勤等を活用することにより対応していくことが求められる。

(12) 少子高齢化に対応したまちづくりとして、駅、公共建築物等のあらゆる施設を子育て世代のニーズに合うよう見直していくとともに、職住近接の中で男女共に仕事と家庭・育児の両立を実現できる環境整備を推進していく必要がある。

(13) 保育バウチャー制度は、認可保育所と認可外保育施設の競争条件を同一にし、保育事業への参入を促進する。その結果、保育所数が増加し、保育所を自由に選択できるようになり、サービス競争により質が向上するなどが期待できる。

(14) 少子化が進展する下で我が国の国力を高めるためには教育の充実が不可欠であることから、安定的な教育体制を整えていくことが求められる。そのためには、高等学校までの教育費を全額国庫負担とし、GDPに占める教育費支出の割合を高めていくとともに、小・中・高等学校の一貫教育を導入し、子どもを受験ストレスから解放することが必要である。

(15) 少子化対策には子どもに対する社会保障給付の充実のみならず、家事・育児参加等に対する男性の価値観の転換が重要であり、そのためには、まず政策決定の場にいる者の意識改革が求められる。

(16) 結婚や子育てに価値を見いだし、多様な生き方を認めていくためには、人生の各段階において自己の能力、働き方に見合った便益が得られるような社会の構築が必要であり、社会全体として子育てを応援していくというメッセージを国民により強く発していくことが求められる。

(17) 既婚女性の平均子ども数は、過去三十年間ほとんど変化していないが、晩婚の女性の持つ子ども数は減少傾向にあるといわれており、晩婚化が更に進行した場合は、出生率が更に低下する可能性があることから、結婚や不妊に対する社会的支援が必要である。

(18) 加齢に伴い不妊の可能性が高まることを避けるため、卵子のセルフバンクを認めることは、自らの将来に対して自己決定ができるという観点から合理性があると考える。

(19) 我が国における人口の適正規模を考えるに当たっては、その前提として少子化を克服すべきか少子化を所与のものとするかについてのコンセンサスを得ることが必要であり、食糧安全保障の視点、福祉国家維持のための世代間扶養の在り方、国土における人口配置の在り方等を勘案していく必要がある。


2 政府からの説明聴取及び主な質疑

 少子高齢社会の課題と対策に関する件について、平成十八年二月八日、山口内閣府副大臣、馳文部科学副大臣及び中野厚生労働副大臣から説明を聴取し、質疑を行った。その概要は次のとおりである。

内閣府

 厚生労働省の推計によれば、平成十七年は明治三十一年の統計開始以来初めて死亡数が出生数を上回る人口の自然減となった。また、国勢調査の速報値においても平成十七年の総人口は十六年より減少しており、我が国の人口は減少局面に入りつつあると考えられる。

 第二次ベビーブーム世代が三十代であるのも今後五年程度の期間と考えられ、今や少子化対策は時間との闘いの局面に入った。子どもを安心して生み、子育ての喜びを実感できる社会を実現し、少子化の流れを変えていくことは現下の喫緊の課題である。少子化の急速な進行は、経済成長の鈍化、税や社会保障における負担の増大、地域社会の活力低下等、社会や経済、地域の持続可能性を基盤から揺るがしかねない大きな問題となっている。

 政府は、平成十六年に決定した少子化社会対策大綱及びその具体的実施計画である子ども・子育て応援プランに基づき、子どもの誕生前から成長、自立に至るまで切れ目のない子育て支援を行うため、待機児童ゼロ作戦、育児時間を確保するための働き方の見直し、地域の子育て支援、若者の就労支援等の施策を着実に実施していくとともに、仕事と家庭・子育ての両立のための官民一体となった国民的な運動に取り組んでいく。

 今後の少子化対策の在り方については、平成十七年十月から少子化社会対策会議の下に少子化社会対策推進会議を開催し、地域や家庭の多様な子育て支援、働き方にかかわる施策、児童手当等の経済的支援策等、子ども・子育て応援プランの課題を中心に検討を進めており、十八年六月をめどに議論の取りまとめを行うこととしている。

文部科学省

 少子化の進行は、社会や経済の活力低下とともに、子どもの教育面へも大きな影響を及ぼす重要な課題であり、子ども・子育て応援プラン等を踏まえ、主に以下のような取組を行っている。

 若者の自立とたくましい子どもの育ちの支援については、若者の就労支援の充実として児童生徒の勤労観・職業観を育成するキャリア教育の推進等、奨学金事業の充実、体験活動を通じた豊かな人間性の育成として地域子ども教室推進事業等、子どもの学びの支援として学力向上アクションプランの推進による確かな学力の向上に努めているほか、学校評価の実践的研究等を実施するための経費を新たに平成十八年度予算案に計上している。

 生命の大切さ、家庭の役割等についての理解の促進については、学校教育において子育て理解等に関する教育を推進し、特に将来親となる世代が幼い子どもとの触れ合い体験等を通じて子どもや家庭を知り、子どもと共に育つ機会を提供するため、保育体験活動等を推進している。

 子育ての新たな支え合いと連帯の構築については、就学前の児童の教育・保育の充実として、就園奨励事業を実施する地方公共団体や預かり保育等を実施する私立幼稚園に対する補助を行っているほか、幼児教育力総合化推進事業の実施に必要な経費を新たに計上している。なお、就学前の子どもに関する教育及び保育並びに子育て支援事業の総合的な提供を行う幼稚園、保育所等の認定制度を設け、平成十八年度から本格実施することとしている。家庭教育支援の充実としては、家庭教育手帳の作成・配布、家庭教育に関する学習機会の提供等に取り組んでいるほか、子どもの生活リズム向上のための先進的な実践活動等の調査研究を実施するために必要な経費を新たに計上している。また、児童虐待防止対策として学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究の実施、子どもの健康の支援として学校における食育の推進のほか、子どもの安全の確保として学校安全ボランティア(スクールガード)の養成、地域学校安全指導員による学校巡回指導等により、効果的な安全体制の整備に努めている。

厚生労働省

 政府は、平成十六年に子ども・子育て応援プランを作成して以降、次世代育成支援対策推進法、育児・介護休業法、児童福祉法及び時短促進法の制度改正を講じてきており、厚生労働省は、十八年度において以下の施策を推進していく。

 第一に、すべての家庭に支援が行き届くような地域における子育て支援対策や多様な保育サービスの充実として、つどいの広場事業等を対象とした次世代育成支援対策交付金の充実、放課後児童クラブの拡充、待機児童解消に向けた保育所の受入児童数の拡大、延長保育等多様な保育サービスの充実のほか、就学前の子どもに関する教育及び保育並びに子育て支援事業の総合的な提供を行う幼稚園、保育所等の認定制度を設け、本格実施することとしている。

 第二に、男女共に子育てしながら安心して働くことのできる雇用環境の整備として、育児休業取得者等が初めて出た中小企業事業主に対する助成金の創設、子育てする女性に対する再就職・再就業支援の充実等とともに、労働時間等の設定改善に向けた取組の推進等を新たに行っていく。

 第三に、すべての子どもの命を大切にするための児童虐待防止対策や小児科・産科医療の確保として、児童相談所における虐待を行った親に対する支援の強化、小児救急医療体制の整備、女性医師バンクの設立、不妊治療への支援の充実のほか、母子家庭等の自立支援対策を推進していく。

 第四に、若者が家庭を築き、子どもを育てていくことができるよう、経済的自立を促すための若者の就労支援の充実として、フリーター二十五万人常用雇用化プランの推進により実践的な能力開発を行うとともに、ニート等若者の働く意欲や能力を高めるための総合的な取組によりその職業的自立を図っていく。

 また、経済的支援の拡充として、児童手当の拡充、出産育児一時金の引上げ、乳幼児に対する自己負担軽減措置の拡大を図っていく。

 なお、これらの施策を実現するため、第百六十四回国会においては、既に提出した児童手当の支給対象年齢の引上げ等を内容とする関係法案に加え、出産育児一時金の引上げ、乳幼児に対する自己負担軽減対象者の拡大等の内容を含む医療制度改革関係法案、男女雇用機会均等法改正案、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律案を提出する予定である。

 このような政府からの説明を踏まえ質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 少子化を克服するためには若者の正規雇用の拡充及び収入の安定化が重要であり、平成十八年六月の少子化社会対策推進会議において取りまとめられる報告の中に位置付けていくことが必要である。

(2) 若者の就労支援対策には社会全体で取り組むことが必要であり、ハローワーク、学校、企業が地域レベルで連携し、キャリア教育、就労支援の充実を図っていくことが重要である。

(3) 若者の就労支援の充実としての文部科学省の委託事業である「フリーター・ニートになる前に受けたい授業」全国キャラバンを積極的に推進していくことが必要である。

(4) 理想の子ども数を持たない理由の一つに挙げられる教育費負担の重さを解消するためには、教員の資質向上等により公立の教育に対する満足感を高めるとともに、公立と私立の格差の解消に努めていくことが必要である。また、日本学生支援機構等を通じた経済的支援の拡充も求められる。

(5) 中小企業子育て支援助成金制度(仮称)については、一時的な助成にとどまることなく、必要な支援が継続して行われることが求められる。

(6) 保育所に係る予算と比較して少ない育児休業等働き方への支援に係る予算を拡充するなど、子育て支援に係る予算配分を抜本的に見直す必要がある。

(7) 女性の出産・育児後の再就職等の障害となっている採用上限年齢を撤廃する必要がある。

(8) 家族の一員としての役割を果たし家族を築くことの重要性を学ぶこと、生活に必要な知識、技能及び能力を育てることについて、学校教育の中で取り組んでいく必要がある。

(9) 待機児童解消のための方策としては、緊急避難措置としての保育所定員の弾力化ではなく、現在の定員を前提とした保育所整備予算の拡充により、対応していくことが求められる。

(10) 待機児童の多い都市部に保育所整備予算が重点的に配分されてきた結果、地方における保育所整備が遅れてきたことから、必要な予算を十分に確保していく必要がある。

(11) 幼稚園、家庭、地域社会が連携して幼児の教育・保育に取り組んでいくためには、NPO等の持つ子育ての知恵を活用することが必要であり、またその成果を全国に広めていくことが求められる。

(12) 就学前の教育・保育を一体としてとらえた一貫した総合施設のモデル事業の結果については、評価委員会の議論を踏まえ、本格実施に向けて、教育・保育の内容、職員の配置及び資格の基準、施設整備基準等についてのガイドラインの作成にいかしていく必要がある。

(13) 就学前の教育・保育を一体としてとらえた一貫した総合施設の設置に当たっては、既存の幼稚園、保育所の施設を利用することにより、ハード面でなくソフト面の予算を充実させていく必要がある。

(14) 子ども待機スペース交流活動推進事業及び放課後児童クラブ事業については、省庁間の連携を緊密にし、予算の有効活用を図ることが求められる。

(15) 子育て支援の中核を担うのは地域であることから、地方の工夫や取組がいかされるよう、一般財源化を含めて補助金の在り方を見直していく必要がある。

(16) 子育て支援には市町村等の果たす役割が重要であり、先進的な事例を広めていくなどにより、市町村間にある取組状況の差を埋めていく必要がある。

(17) 仕事と家庭の両立支援等のための施策が進められているが、まず家庭において家族が子どもをどう支えていくのかを考えることが重要である。

(18) 児童虐待対策については、育児不安を抱える家庭に対する育児支援家庭訪問事業、児童相談所において親支援を強化する家族療法事業、心理療法担当職員のすべての一時保護所への配置等のための経費が平成十八年度予算案に新たに計上されているが、一時保護所や児童養護施設に係る予算及び人員の更なる拡充が必要である。

(19) 子どもの安全確保対策としてのスクールガードの配置についての地域間格差が指摘されていることから、その実態調査に努めるとともに、その配置基準を作成することが求められる。

(20) 嫡出子と非嫡出子の差別が法律上に残っており、そのことが社会の偏見を助長している面があることから、子どもにやさしい社会をつくるという少子化対策の視点からも、速やかに解決することが求められる。

3 調査会委員間の自由討議

 政府からの説明及び参考人からの意見聴取を踏まえ、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、中間報告の取りまとめに向け、平成十八年五月十日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は次のとおりである。

(1) これまでの少子化対策は子どもを生み育てる人に対する支援が中心であったが、結婚、出産をためらっている女性に対しては、短時間労働の制度化、ファミリー・フレンドリー企業表彰に当たっての時間外労働や年次有給休暇の取得率の考慮、結婚控除や子育て控除の創設等の対策が求められる。

(2) 結婚し、出産をすることは人間としての自然発生的な感情から生まれてくるものであり、そのためには、仕事と家庭を両立させながら自己実現を可能とするためのワーク・ライフ・バランスの実現、地域での子育て支援のためのネットワークの形成が必要である。

(3) 少子化対策は家族支援の観点から子育てしやすい社会の形成に努めるべきであり、そのためには同一労働同一賃金や成果主義の導入、不妊治療休暇を含めた企業の不妊治療への支援、就業の有無を問わずに子どもを預けることのできる制度が求められる。そのための財源としては、まず特別会計の無駄の徹底的な洗い直しを行う必要がある。

(4) 少子化が長期にわたり続いている根本原因は、大企業中心主義の政治がつくり出した社会のゆがみにあり、従来の施策の抜本的見直しが必要である。出生率の向上を実現した先進諸国においては雇用政策、経済的負担の軽減等、家族政策、男女平等政策の総合的視点から社会の在り方を変える取組がなされており、我が国は真摯にその経験に学ぶ必要がある。

(5) 出生率低下の最大の原因とされている晩婚化・非婚化の背景にある長時間労働等の働き方の見直しのため、「仕事と生活の調和推進基本法(仮称)」の制定を推進するとともに、一般事業主行動計画の公表の義務付け、育児休業制度の給付水準の引上げや分割取得等柔軟性の高い制度への改革、時間外労働の割増賃金率の引上げ等が必要である。

(6) 当面必要な少子化対策としては、長時間労働の是正による家庭生活との両立、若者の安定した仕事の確保、男女の働く権利と子育てをする権利の保障、各種子育て支援の実施が挙げられる。

(7) 若者の不安定雇用が少子化につながっていることから、一定年数雇用を継続した場合の正規雇用への移行の義務付け、就業体験学習等の取組を初等教育で位置付けるなどによるキャリア教育の在り方の抜本的な見直しが求められる。

(8) 労働時間数や雇用形態等、労働形態が多様化しており、労働時間数と年収の区分に対応して組み立てられている社会保障制度・税制について整理していく必要がある。

(9) 少子化対策としての住宅政策、都市政策の在り方については、子どもの視点や子育ての支援から再検討を進める必要がある。また、新婚家庭の家賃補助制度の創設等により、若者の家族形成を支援する施策が求められる。

(10) 少子化対策は、国家プロジェクトとして取り組むべき問題であり、女性が第二子まで出産し、三歳まで育児に専念できるための支援及び高等学校までの義務教育化の実施に取り組むべきである。このような対策を目的とした税負担増であれば、国民的合意を形成することは可能である。

(11) 児童手当については、支給対象年齢を十八歳まで引き上げ、給付水準を倍増させるとともに、所得制限を撤廃していくことが求められる。

(12) 妊娠・出産にかかわる保健医療サービスについては、出産育児一時金制度の拡大による更なる負担軽減の観点から、当面は受領委任払い制度の創設により窓口負担を軽減するとともに、保険適用に向け早急に検討を進める必要がある。また、妊産婦健診にかかわる公費助成の拡大、不妊治療に対する助成限度額の倍増等が求められる。

(13) 少子化対策に逆行する産婦人科医不足に対処するための体制整備が求められる。

(14) 今後出産を望む若い世代に対して、子育て経験者等による相談体制や経験を伝える仕組みをつくっていくことが求められる。

(15) 現在の少子化対策には「子育ち」という思想が欠けており、子ども自身が自ら考え自ら行動するという子育ちの能力に着目した施策を行う必要がある。具体的には、子どもの社会性の涵養、体力低下対策、食育と生活習慣病対策、体験活動の実施、情報文化環境の保護、思春期保健対策、安全の確保等が必要であり、施策の実施に当たっては何より大人自身の意識改革が求められる。

(16) 子育て世帯が求める支援策は地域によって多様であるため、少子化対策を全国一律に進めるのでなく、実施主体である地方公共団体が地域の実情に応じた施策を講じることができるよう、地方への権限及び財源の移譲を積極的に進めていく必要がある。

(17) 少子化対策への取組を困難なものにしている理由の一つに厳しい財政事情があることから、限られた予算であることを前提に、政策効果の高い施策を選択し、優先して予算を配分していく必要がある。

(18) 少子化対策を推進するための財源確保については、育児保険制度の創設を正式に検討課題として取り上げるとともに、次善の策として年金、医療、雇用等の各保険制度からの支援強化を検討すべきであるが、保険料で賄うことが困難な場合は税制改革の検討も求められる。

(19) 税制における少子化対策としては、所得税におけるN分N乗方式の導入、相続税の課税強化、消費税率引上げによる税収の一部の子育て支援のための財源化が求められる。

(20) 少子化対策の財源として所得税の各種控除の見直しが議論されているが、控除の廃止は低所得者に過大な負担を強いることから、財源の負担を含め企業の社会的な役割を求めることが重要である。

三 海外派遣議員の報告

 平成十七年十一月二十七日から十二月六日までの十日間、本調査会委員を主なメンバーとする参議院の重要事項調査議員団が、ノルウェー、フランス及びドイツにおける少子高齢社会に関する実情調査のため、海外へ派遣された。派遣議員は清水嘉与子会長(団長)を始め、中島啓雄、山谷えり子、羽田雄一郎、柳澤光美及び小林美恵子各議員の六名であり、その報告を十八年二月八日の調査会において聴取した。その概要は次のとおりである。

1 ノルウェー

 国会の家族・文化委員会副委員長との懇談では、パパ・クォータ制に基づいて父親に義務付けられている五週間の育児休業取得期間を今後四年間で十週間まで延ばしていきたい、男性の育児休業取得率は九〇%に達している、事実婚であっても法律婚と同様の育児休業等の権利を認めているなどの見解が示された。

 児童家族省からは、二〇〇五年十月に発足した新政権においては、特に男女共同参画の推進により出生率を高める政策を採っていく予定である、男女が平等で同じ価値で労働することが子どもを生むことの安心感にもつながり、ひいては企業の国際競争力を高めることになる、公的、民間を問わず保育施設への国からの助成は公平である、保育施設運営費の八〇%は国及び地方からの助成であり、両親の負担は二〇%を超えないという上限があるなどの見解が示された。

 子どもオンブッドは、一九八一年に世界で最初に設置されており、子どもは社会が持つ重要な資産の一つであるとの認識の下、子どもに関する文書や情報をすべて入手・閲覧できる権利を持ち、必要な提言を行うことにより、子どもの福祉向上に努めている。オンブッドは公募で選ばれ、国王が任命し、任期は四年である。

 造影剤を製造しているGEヘルスケアは育児支援を積極的に進めており、男女を問わず全従業員がその能力を発揮できるよう就業環境の整備に努めており、育児休業取得に伴う国民保険からの手当と給与の差額を補填している。

 マリダルス・バイエン保育園はサーゲネ区にあり、同区で保育を必要としている子どもは全員入園しており、また入園基準として心身に障害を持つ子どもが最優先される。

2 フランス

 フランス家族問題全国連合は、家族政策に関してフランスの家族を代表する権限を持つ唯一の団体であり、年一回開催することが法律で義務付けられている全国家族会議にも参加している。同連合からは、家族問題全国連合と全国家族会議という存在は他国も活用できるのではないか、保育予算と家族関係給付費はGDPの三%を占めている、第一子からの家族手当支給の代わりに乳幼児迎え入れ手当を導入し、託児所や保育ママ等の保育費用を補助しているなどの見解が示された。

 家族問題省庁間連絡会議は、家族問題担当大臣の下にある行政組織であり、家族政策の柱は保育政策と子どものいる家族に対する税の優遇である、保育施設については特に企業への協力を促しており、企業内託児所等の投資に対して五十万ユーロを上限としてタックスクレジット制度を設けている、父親の育児休業取得率は二%にすぎないが、これは休業中の家族給付と休業前の給与の差が大きいためである、女性が三年も休業すると復職しにくいことから、三年間の育児休業制度と併行して家族給付を高くし、育児休業は一年間という新たな提案を行っているなどの見解が示された。

 企業内託児所を持つクレディ・リヨネ銀行は、独自の家族政策として六歳までの子どもを持つ従業員に一日当たり五・一五ユーロの補助金の支給や子どもの保育施設等への送迎のためのフレックスタイム制度を導入している。

 メゾンベルト(緑の家)は、一九七九年に児童心理学者のドルト氏により設立され、子どもの精神的障害の発生予防と子ども及び親の社会化のため、三歳までの子どもとその親等を対象とした保育関係施設である。現在フランスには同様の施設が約百か所存在している。

3 ドイツ

 バイエルン州労働社会省からは、今日、少子化を国民が真剣に受け止めるようになってきており、同州の子育て支援策は、経済的支援、保育事業の拡大、両親に対する子育てのための教育、さらには地域家族連合のプロジェクトである、二〇〇七年には子育てのため父親又は母親が休業する場合に一年間に限り、従前の所得の約七〇%を支給する父母手当を連邦政府が導入する予定であるとの見解が示された。

 ミュンヘン・シュバービング病院は、母子共にリスクの高い出産を避けるとともに、人工妊娠中絶の実施件数を減らすことを目的としたプロジェクトとして、「ベビーネスト(赤ちゃんポスト)の設置」と「匿名出産」を実施している。自分の赤ちゃんを何らかの理由で育てることができない場合に託すベビーネストは、二〇〇二年二月に立ち上げられたものの、これまで預けられた赤ちゃんはいない。匿名出産した者はこれまで八名であったが、ここで匿名出産が認められていることがベビーネストの利用件数ゼロにつながっていると考えられている。

 家族のための地域連合イニシアティブは、地域で家族にやさしい社会づくりを行うため、二〇〇四年から全国で始められ、現在二百十四の地域連合がつくられている。訪問したキルヒゼーオン市の地域連合は、二〇〇五年一月に立ち上げられ、市民のニーズ把握に基づいて新たな保育施設を造るとのことである。

 訪問した三か国のうち、ノルウェー及びフランスの合計特殊出生率は、それぞれ一・八一、一・九一と先進諸国の中でも高い水準にある一方、ドイツは一・三四と低い水準にある。しかし、これまで育児休業制度や保育サービスが立ち後れていたドイツにおいても、家族政策や仕事と家庭の両立に向けての努力が進められており、既に仕事と家庭の両立が進んでいるノルウェー及びフランスにおいても、男女共同参画や家族政策の推進に更に力を入れていることがうかがえたところであり、出生率低下が進む我が国にとって参考とすべき点は多かったと考えている。

四 派遣委員の報告

 平成十八年二月十六日及び十七日の二日間、静岡県において、少子高齢社会に関する実情調査を行い、その報告を三月一日に聴取した。その概要は次のとおりである。

 静岡県では、「しずおか次世代育成プラン」に基づき、仕事と家庭との両立の推進等、少子化の流れを変える施策とともに、「富国有徳」の理念の下、新たな産業と雇用の創出等に取り組んでいる。また、「ふじのくに高齢者プラン」を策定し、自立支援の充実、予防の重視等の基本理念に基づく諸施策を進めている。派遣委員からは、地域子育て支援センター運営の民間への委託状況、子育て支援に係る財政上の国への要望、若年層の雇用不安への対策、外国人労働者への対応等について質疑が行われた。

 浜松市では、「浜松市次世代育成支援行動計画」を策定し、地域社会における子育て支援、子育て支援をする生活環境の整備等とともに、「はままつ友愛の高齢者プラン」に基づき、健康増進・保健予防事業の推進、介護サービスの充実等に取り組んでいる。派遣委員からは、市町村合併の出生率への影響、保育所の待機児童数とその解消見込み等について質疑が行われた。

 また、厚生労働省等が主催する「高年齢者雇用開発コンテスト」において優秀賞を受賞した、やまと興業株式会社を視察し、高齢者を一日四時間の「ゆとりタイム勤務」の形で再雇用し、通常の八時間勤務と組み合わせるワークシェアリングの実施状況等について説明を聴取した。

 さらに、浜松市立萩丘小学校内にある、外国人児童の実情に合わせた多様な教育機会を提供するための外国人児童学習サポート教室「カナリーニョ教室」の視察を行った。派遣委員からは、不就学外国人児童減少に向けた取組と国への要望、外国人児童の教育に係る費用負担、高等学校への進学を希望する外国人児童への対応等について質疑が行われた。

 このほか、ファミリー・フレンドリー企業表彰において厚生労働大臣努力賞を受賞するなど、仕事と家庭の両立支援に積極的に取り組んでいるヤマハ株式会社の視察を行った。派遣委員からは、女性管理職の登用状況、男性の育児休業取得についての労働組合の取組、同社の両立支援制度の非正規雇用社員への適用の有無等について質疑が行われた。

 長泉町では、近年合計特殊出生率が上昇しており、「長泉町次世代育成支援地域行動計画」を策定し、「働きながら子育てできるまち」等の五つの基本方針に沿った諸施策に取り組んでいる。派遣委員からは、保育所の待機児童解消を実現した取組内容、保育士数の確保と人件費等について質疑が行われた。

 また、子育て支援センター「みかんちゃん」の視察を行い、保育士や保護者と意見交換を行った。

 さらに、静岡県のがん対策の中核を担う高度がん専門医療機関である県立静岡がんセンターを視察し、がん治療の最前線における患者本位の医療体制について説明を聴取した。

第三 少子高齢社会への対応の在り方についての提言

 平成十七年の我が国の合計特殊出生率は一・二五と十五年、十六年の一・二九を大幅に下回り、過去最低を記録し、人口減少も政府の予想を上回る速さで進んでいる。少子化の流れを変えるため政府において様々な対応策が採られているものの、合計特殊出生率はその低下傾向に歯止めが掛かっていない。

 もとより、結婚、出産、夫婦間の子ども数は当事者間の自由な意思と選択に基づくものであるが、結婚、出産、子育てを阻害する要因を早急に除去し、社会として支援していくことが現在求められている政策的対応といえる。これまでの少子化対策の中心は子育てをする親の視点に立ったものであったが、今後はその対策の更なる充実に加え、子育ち、結婚・家庭形成の視点をも強く意識したものであることが求められる。また、地域が独自の取組や特性をいかせるよう地方分権を積極的に進めていくことも必要である。こうしたことで、急速な少子化の進行による税・社会保障における負担増、労働力人口減少を始めとする経済成長への悪影響、さらには地域社会の衰退による地域活力の低下等の懸念は払拭されると考えられる。

 本調査会は、少子高齢社会への対応の在り方についての調査テーマの下、二年目においては、団塊世代の諸課題、人口減少社会への対応、企業及び地域における子育て支援の取組、女性の健康、経済的支援等、主に少子高齢社会の課題と対策について広範な議論を行い、その課題の把握に努めてきた。

 このような取組を経て、本調査会として当面する課題について、次のとおり提言する。

 政府はもとより企業におかれてもその趣旨を理解され、これらの実現に努められるよう要請する。とりわけ政府においては、平成十九年度において講ずべき少子化対策に反映させていくことを強く期待するものである。

一 結婚・家庭形成に向けての環境整備

1 若者が将来に明るい展望を持つことができるよう安定的経済成長の実現に努めるとともに、若者の安定した雇用機会の確保、正規・非正規雇用者間の賃金格差の是正及び多様な働き方や再挑戦を可能とするシステムの確立に努めていく必要がある。

2 家庭を築くことや子どもを育てることの重要性、喜びについて、地域や学校での体験活動等を通じて、早い時期から意識の啓発を行っていく必要がある。

3 見合い婚・職域婚の減少、諸外国と比較して依然として長い労働時間等により、若い男女の出会いの機会の減少が指摘されている。そのため、国、地方公共団体はもとより、企業も社会的責務として、長時間労働の是正等男女の出会いの機会が確保できるような環境整備に努める必要がある。

二 男女の健康と出産

1 晩婚化に伴う高齢での妊娠・出産は、医学的に妊娠率の低下、流早産率の増加、胎児異常発生率の上昇等が懸念されることから、妊娠・出産適齢期についての健康教育を早い時期から推進するとともに、産みたいと思いながらも人工妊娠中絶を余儀なくされる若い世代に対して、出産・子育てできる経済的・社会的環境の整備が求められる。

2 妊娠・出産を望みながら、不妊により希望を実現できない者への支援として、不妊治療についての公費助成の拡充を図るとともに、企業における不妊治療者への配慮が求められる。また、不妊治療等で生まれた超未熟児の育ちについての調査が求められる。

3 男女を問わず働き過ぎによる生殖機能低下等が懸念されることから、就業状態と不妊の関係についての総合的な調査の実施が必要である。

4 安全で女性が望む環境での出産は、第二子以降の出産への動機付けになることから、助産師の確保等出産体制の整備を図る必要がある。また、現下の課題である小児科医及び産科医不足に対応するため、フレックスタイム制、時間帯交代主治医制等多様な勤務形態による医師の勤務条件の整備、女性医師に対する子育てとの両立支援等を実施すべきである。

三 子育てのための環境整備

1 保育の質を確保しつつ待機児童の解消の取組を進めるとともに、保育ママ等の利用や家庭内で自ら保育している者に対して、子育ての形態による不公平解消のための対策が求められる。また、放課後児童対策の更なる充実を推進すべきである。
 なお、就学前の教育・保育を一体としてとらえた一貫した総合施設として認定こども園を設置するための法案が提出されているが、子どもの健やかな育ちのためにどのような教育・保育や施設が望ましいのかについて、〇歳児保育の在り方を含め、今後とも十分検討していくことが必要である。

2 働く女性が、結婚や出産、子育てのために退職を余儀なくされることを防止し、女性の持つ能力を発揮するためには、育児休業取得後の職場復帰の支援やいったん退職した女性への再就職支援が求められる。そのためには、企業経営者の次世代育成に対する意識啓発に努めるとともに、採用上限年齢撤廃に向けた指導の強化及び再就職支援のための職業訓練の一層の推進が求められる。

3 仕事と生活の調和の推進に努めるとともに、育児休業については、その取得をより一層支援するため、育児休業制度を分割取得や短時間利用等が可能となるよう柔軟性の高い制度とする必要がある。また、男性の育児休業取得にインセンティブを与えるため、休業期間の一部を父親に割り当てる「育児休業父親割当制度(仮称)」の導入についても前向きに検討すべきであり、そのためには育児休業期間中の所得保障の在り方を検討し、休業前所得との格差縮小を図る必要がある。

4 児童手当については、その支給目的である家庭における生活の安定、児童の健全育成及び資質の向上に照らし、現行の支給基準や支給内容について、税制や育児保険制度等その財源も含めた検討が必要である。その際には、子育て世代にとって大きな負担となっている教育費の支出を視野に入れた検討が求められる。

5 住宅の広さが子ども数に与える影響が大きいことから、子育ての各段階で住み替えが可能となる良質な賃貸住宅の供給、家賃負担の軽減等を通じ、若年層が良質な居住環境を確保できるよう、特恵的な住宅政策を実施する必要がある。また、親の通勤時間が子育てに対する負担に影響を与えることから、企業においても長時間労働の是正とともに、フレックスタイム制度や在宅勤務制度等の働き方の見直しの一層の推進が求められる。

6 少子化は国の基本にかかわる重要な課題であり、少子化対策として税制面からの対応も必要であることから、所得税における配偶者控除、扶養控除等の在り方や課税単位等について多角的な検討が求められる。

四 子どもの健やかな育ちの確保

1 子どもを対象とする犯罪が子どもの健やかな育ちを脅かしていることから、地域全体の連携により、危険箇所の確認と周知、見回り、改善計画の策定等体系的な対応を行っていく必要がある。また、子どもを交通事故から守るため、生活道路等の交通量の制限、道路の改良等についても前向きに検討していくべきである。

2 人口減少等により地域社会の崩壊が懸念されていることから、地域を守り育てるという視点を少子化対策に取り入れ、新たな地域コミュニティを形成していくことが求められる。そのためには、子育て中の親の相談・支援、子どもに経験を伝えていく取組に、団塊世代を始めとする地域の人の持つ能力を積極的に活用していくことが求められる。

3 すべての子どもの健やかな育ちを確保するという観点から、いかなる養育環境にある子どもであっても法律的、社会的に差別、不利益を受けることのないような取組を進めていくことが求められる。

五 地方分権による少子化対策の推進

 子育て支援について国の果たす役割は重要であるが、その中核を担うのは地域であり、子育て世代が求める支援は地域により多様であることから、地域の工夫や取組がいかされるよう、財源の移譲を含めた少子化対策の地方分権を積極的に進めていくことが求められる。



○参議院少子高齢社会に関する調査会委員(平成十八年六月七日現在)

会長 清水 嘉与子(自由民主党) 理事 荻原  健司(自由民主党)
理事 岸   宏一(自由民主党) 理事 中原   爽(自由民主党)
理事 円  より子(民主党・新緑風会) 理事 森  ゆうこ(民主党・新緑風会)
理事 鰐淵  洋子(公明党)  
狩野   安(自由民主党) 川口  順子(自由民主党)
後藤  博子(自由民主党) 坂本 由紀子(自由民主党)
関口  昌一(自由民主党) 田浦   直(自由民主党)
中村  博彦(自由民主党) 朝日  俊弘(民主党・新緑風会)
加藤  敏幸(民主党・新緑風会) 下田  敦子(民主党・新緑風会)
羽田 雄一郎(民主党・新緑風会) 林  久美子(民主党・新緑風会)
松下  新平(民主党・新緑風会) 蓮    舫(民主党・新緑風会)
山本  香苗(公明党) 山本   保(公明党)
小林 美恵子(日本共産党) 荒井  広幸(国民新党・新党日本の会)


(参考)

主な活動経過

 (一年目)

第百六十一回国会  
平成十六年十月十二日 少子高齢社会に関する調査会設置
十一月十日 調査テーマを「少子高齢社会への対応の在り方について」と決定

「少子高齢社会への対応の在り方について」参考人国立社会保障・人口問題研究所所長阿藤誠氏、政策研究大学院大学教授松谷明彦氏及び株式会社大和総研チーフエコノミスト原田泰氏から意見聴取、質疑
十一月十七日 「少子高齢社会への対応の在り方について」林田内閣府副大臣、衛藤厚生労働副大臣、蓮実国土交通副大臣及び下村文部科学大臣政務官から説明聴取、質疑
十一月二十四日 「少子高齢社会への対応の在り方について」調査会委員間の自由討議
第百六十二回国会  
平成十七年二月九日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件(子ども・子育て応援プラン)について、林田内閣府副大臣、衛藤厚生労働副大臣及び塩谷文部科学副大臣から説明聴取、質疑
二月十六日  「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、参考人お茶の水女子大学名誉教授袖井孝子氏、東京学芸大学教育学部教授山田昌弘氏及び国立成育医療センター名誉総長松尾宣武氏から意見聴取、質疑
二月十七日

    ~二月十八日
少子高齢社会に関する実情調査のため、大阪府及び兵庫県に委員派遣
二月二十三日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、参考人慶應義塾大学商学部教授樋口美雄氏、全国商工会議所女性会連合会副会長・横浜商工会議所女性会会長秋山桂子氏及びNPO法人びーのびーの理事長奥山千鶴子氏から意見聴取、質疑
三月二日  「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、参考人白梅学園短期大学学長無藤隆氏、教育評論家・法政大学キャリアデザイン学部教授尾木直樹氏及び山口大学教育学部専任講師田中理絵氏から意見聴取、質疑
四月六日  「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、参考人社団法人日本経済研究センター理事長八代尚宏氏、神奈川大学経済学部教授森泉陽子氏及び株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門上席主任研究員篠原二三夫氏から意見聴取、質疑
四月二十日  「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、参考人早稲田大学法学部教授宮島洋氏、上智大学法学部教授堀勝洋氏及び国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官大日康史氏から意見聴取、質疑
五月十一日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、参考人赤枝六本木診療所院長赤枝恒雄氏、NPO法人円ブリオ基金センター理事長遠藤順子氏及び社団法人日本家族計画協会常務理事・クリニック所長北村邦夫氏から意見聴取、質疑
五月十三日 少子高齢社会に関する実情調査のため、東京都において視察
五月十八日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子化の要因及び社会・経済への影響に関する件について、調査会委員間の自由討議
七月八日 少子高齢社会に関する調査報告書(中間報告)を議長に提出することを決定

 (二年目)

第百六十三回国会  
平成十七年十月十九日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、団塊世代対策等少子高齢社会の課題に関する件について、林田内閣府副大臣、塩谷文部科学副大臣及び西厚生労働副大臣から説明聴取、質疑
十月二十六日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件(団塊世代の諸課題)について、参考人作家・元経済企画庁長官堺屋太一氏、株式会社博報堂生活総合研究所エグゼクティブフェロー・東京経済大学コミュニケーション学部教授関沢英彦氏及び株式会社大和総研資本市場調査部主任研究員鈴木準氏から意見聴取、質疑
第百六十三回国会閉会後  
平成十七年十一月二十七日

~十二月六日
参議院の重要事項調査議員団が少子高齢社会に関する実情調査のため、ノルウェー、フランス及びドイツに海外派遣
第百六十四回国会  
平成十八年二月八日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件(少子化対策の取組状況)について、山口内閣府副大臣、馳文部科学副大臣及び中野厚生労働副大臣から説明聴取、質疑
二月十五日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、参考人エコノミスト香西泰氏、法政大学社会学部教授小峰隆夫氏及び株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員伊藤さゆり氏から意見聴取、質疑
二月十六日

~二月十七日
少子高齢社会に関する実情調査のため、静岡県に委員派遣
二月二十二日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、参考人社団法人経済同友会代表幹事・日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役会長北城恪太郎氏、株式会社エトワール海渡取締役人事部長有賀俊文氏及び日本労働組合総連合会副事務局長逢見直人氏から意見聴取、質疑
三月一日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、参考人奈良県知事柿本善也氏、江戸川区長多田正見氏及び新潟市にいつ子育て支援センター育ちの森館長椎谷照美氏から意見聴取、質疑
四月五日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、参考人性と健康を考える女性専門家の会会長・主婦会館クリニックからだと心の診察室産婦人科医堀口雅子氏、社会福祉法人賛育会賛育会病院院長鴨下重彦氏、社団法人日本助産師会会長・天使大学学長兼大学院助産研究科長近藤潤子氏及び株式会社科学技術文明研究所所長米本昌平氏から意見聴取、質疑
四月十二日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、参考人早稲田大学大学院会計研究科客員教授(専任)品川芳宣氏、株式会社野村総合研究所研究理事中村実氏及び東洋大学経済学部教授白石真澄氏から意見聴取、質疑
五月十日 「少子高齢社会への対応の在り方について」のうち、少子高齢社会の課題と対策に関する件について、調査会委員間の自由討議
六月七日 少子高齢社会に関する調査報告書(中間報告)を議長に提出することを決定