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国際問題に関する調査会

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国際問題に関する調査報告(中間報告)(平成18年6月2日)

目次

一 調査の経過

 国際問題に関する調査会は、第161回国会の平成16年10月12日、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため設置された。本調査会は、3年間にわたる調査活動のテーマを「多極化時代における新たな日本外交」と決定し、調査項目として、「日本のアジア外交」、「日本の対米外交」、「日本の対EU外交等」及び「国際社会の責任ある一員としての日本の対応」について、調査を進めることとした。

 第1年目は、「日本のアジア外交」について、(1)日中外交の回顧と今後の課題、(2)東アジアにおける不安定要因の除去、(3)東アジア共同体構築に向けての課題について、幅広くかつ重点的に調査を行った。また、「日本のアジア外交」との関連において、「日本の対米外交」では「21世紀における日米関係」、「日本の対EU外交等」では「拡大するEUの現状と今後の方向」についてそれぞれ調査を行った。

 第162回国会の平成17年7月20日、第1年目の調査を取りまとめた調査報告書(中間報告)を議長に提出した。

 第2年目は、「多極化時代における新たな日本外交」のテーマの下、「日本のアジア外交」のうち、(1)日中外交の回顧と今後の課題、(2)東アジアにおける経済戦略と東アジア共同体構築への対応について調査を行うこととした。また、「日本の対米外交」のうち、(1)今後の日米同盟の在り方、(2)北東アジアをめぐる日米関係について、さらに、「国際社会の責任ある一員としての日本の対応」のうち、(1)人間の安全保障の重要性、(2)多様化し拡散する脅威への国際社会の対応について、それぞれ調査を行うこととした。

 なお、第163回国会閉会後、EUの統合と拡大等に関する実情調査等のため、本院から、本調査会の委員を中心とする議員団がチェコ共和国及びベルギー王国に派遣されたので、派遣議員からその報告を聴取した。

 第2年目の具体的調査活動は、次のとおりである。

○平成17年7月20日(水)
「多極化時代における新たな日本外交」のうち、日本のアジア外交について対中外交を中心に、委員間の意見交換を行った。
○平成17年10月26日(水)
「日中外交の回顧と今後の課題」について、朱建栄(東洋学園大学人文学部教授)、天児慧(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成18年2月8日(水)
海外派遣議員から報告を聴取した。
「今後の日米同盟の在り方」について、坂元一哉(大阪大学大学院法学研究科教授)、岡崎久彦(NPO法人岡崎研究所理事長・所長)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成18年2月15日(水)
「北東アジアをめぐる日米関係」について、伊奈久喜(日本経済新聞論説委員)、藤原帰一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成18年2月22日(水)
「東アジアにおける経済戦略と東アジア共同体構築への対応」について、小川英治(一橋大学大学院商学研究科教授)、津上俊哉(東亜キャピタル株式会社代表取締役社長)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成18年3月1日(水)
「人間の安全保障の重要性」(環境問題、貧困、感染症等への取組)について、稲田十一(専修大学経済学部教授)、松下和夫(京都大学大学院地球環境学堂教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成18年4月5日(水)
「多様化し拡散する脅威への国際社会の対応」(国際テロ、麻薬、組織犯罪、大量破壊兵器の拡散などへの対応)について、納家政嗣(一橋大学大学院法学研究科教授)、 福島安紀子(総合研究開発機構主席研究員)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成18年4月19日(水)
「多極化時代における新たな日本外交」のうち、日本のアジア外交、対米外交等を中心に、各会派からの意見表明及び委員間の意見交換を行った。

二 日本のアジア外交

 現在の日中の外交関係は、1978年の日中平和友好条約締結以来、最悪の状況にあり政冷経熱の時代と言われている。中国では靖国問題、歴史認識などで反日感情が高揚し、これに関連して主要都市では過激な反日デモが起きた。他方、我が国では嫌中感情が高まったと言われている。日中両国は、様々な問題を抱えているが、それらを平和的に解決し、両国関係を一層発展させることが、日中双方の大きな課題となっている。

 また、東アジアは、1997年の通貨危機により一時期失速したものの、それ以降、持続的な経済成長を遂げている。この地域では、域内での貿易・投資が活発化し、域内諸国間でFTA、EPA交渉も進められるなど、事実上の経済統合が進んでいる。2005年12月、クアラルンプールに我が国を始め16か国の政府首脳が参集し、初の東アジア首脳会議が開催された。現在、同首脳会議及びASEANプラス3を中心に、東アジア共同体構築に向けた動きが進展している。

 調査会においては、反日デモの背景、靖国問題、歴史認識、今後の日中外交、中国の将来、東アジア共同体構築の意義と必要性、その在り方等について活発な議論が展開された。

1 日中外交の回顧と今後の課題

(一)反日デモ・反日教育
(2005年4月の反日デモ)

 委員から、日中は共に大切な国だと認識していても、中国側には反日の姿勢があり、反日教育も非常に強いものがあることから、現状では真の日中雪解けという状況は望めないとの意見、反日デモについて、欧米のメディアとアジア諸国の見方は若干異なったが、これは先の戦争等の受け止め方に差があるからであり、アジア諸国の受け止め方も十分念頭に置かなくてはならないとの意見、反日デモの原因を単純に中国側に求めることはできないが、中国側の責任については、日本は主張すべきところは明確に主張すべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、反日デモの発生後、中国政府は各大学の学生に対し、愛国的な情熱で行動したかもしれないが、一部の悪意ある人に利用され、悪い結果をもたらした、そして中国のイメージダウンを招いてしまったとして徹底した教育を行った、また、小泉総理の靖国参拝はあり得ると想定し、インターネットでの反日デモの呼び掛けを禁止するなど、様々な分野で抑制していたことを見落としてはならないとの見解が示された。

(反日デモの背景)

 委員から、反日デモは、国内の不満を外に向けるために当局が仕掛けたものであり、抗日教育をやめなければいつでも再燃することは明らかであるとの意見、権力闘争、三農問題などにより経済格差が拡大し、成長のメリットが周辺にまで届いていないことなど、非常にうっくつした現実が潜在しているとの意見、反日デモは、若者の欲求不満、反政府という姿勢に基づいた部分もあると思われるとの意見、経済が豊かになり、様々な権利を主張する人々が出てきて、それが抗争という形で表れ、ナショナリズムの台頭に結び付いたと理解すべきであるとの意見が述べられた。

(反日教育)

 委員から、中国は隣国で、歴史的に我が国とは深いつながりがあり、今後も友好的かつ平和的な関係を維持していかなければならないが、中国の反日教育に対しては抗議すべきであり、抗議してこなかったことが異議を唱えることのできない状況をつくり出したのではないかとの意見、南京などの抗日記念館は、平和の大切さを訴えるよりも抗日分子の製造機関になっているのではないか、広島の原爆資料館は飽くまで反核兵器であり反米ではない、この違いを中国に説明し自粛するよう活動すべきであるとの意見、中国共産党の原点は抗日運動であるから反日教育をやめられないという事情もあり、今となっては日本は平和的な国家になったと簡単には言えないので、基本的にはその前提に立ってこの問題を考えていかなければならないとの意見が述べられた。

(二)靖国問題、歴史認識、歴史教育
(公式参拝の是非)

 委員から、公式参拝をやめろとの中国の主張は主権侵害であり、中国の言うとおりにやめれば、次に教科書の問題、教科書の問題で譲歩すれば最終的には台湾問題を出してくることは明白であるので、参拝は続けるべきであるとの意見、A級戦犯と言われる人々は昭和28年から30年までに、全国から3,000万人もの署名を集めているという事実があり、また、昭和28年に援護法が全会一致で成立したことから、国内的にはいわゆる犯罪人の扱いではないことになるとの意見、昭和54年から60年まで、歴代総理としては大平総理、鈴木総理、中曽根総理の参拝があったが、その間、中国は一度も異論を唱えていなかったにもかかわらず、60年の中曽根総理の参拝後にA級戦犯を合祀している靖国神社に参拝するのは認められないと言い出したという事実を想起すべきであるとの意見が述べられた。

  これに対し、委員から、中国が参拝中止を主張する理由は、A級戦犯が靖国神社に祭られているということ、時の総理大臣が参拝することにあり、中国としては日本政府に抗議する以外にない、公式参拝をやめれば中国の主張も徐々に小さくなっていくはずであるとの意見、靖国問題の第一の原因は、政権政党が日中間の問題として結論を出してこなかったことであり、第二に、日中両国の政治家も戦争を知らない若い世代が中心になってきたことから、意思の疎通がうまくいかなくなったことではないかとの意見、靖国問題は、政権政党である自民党と内閣が立場を明確にしない限り、いつまでも尾を引くのではないかとの意見が述べられた。

 参考人から、胡錦濤政権はA級戦犯のことで日本が何か譲歩すれば、B級、C級と次の歴史カードを切ってくることはあり得ないと思われ、中国も江沢民時代に靖国参拝を政治問題化して首脳交流をしないという前例を作ったことを内心では若干後悔しているかもしれず、もう少しお互いの努力が必要ではないかとの見解が示された。

(靖国問題をめぐる認識の相違)

 委員から、靖国参拝問題については、自民党の中でもA級戦犯14人が合祀されている問題を非常に重視する方も多いが、東京裁判で裁かれ処刑された人々は戦死したのと同じであるという意味で1978年に祭られたとのことであり、判断の難しい問題であるとの意見、中曽根総理の公式参拝のときになぜ中国が外交上の問題にしたのか、なぜ同総理が参拝を取りやめたのかが非常に重要なポイントであるとの意見、靖国問題については、その淵源をたどると国家神道であるから、政治的に利用されるという宿命を靖国神社そのものが持っており、新しい戦没者墓苑ができる、あるいは総理大臣が替われば解決してしまう問題かもしれないとの意見、昨年秋の小泉総理の靖国参拝に関しては中国国民は静かではあったが、靖国参拝そのものは中国国民のナショナリズムを相当高揚させたとの意見が述べられた。

 また、委員から、日本国民には死後ある程度罪が許されるという感覚があるが、外国では死後の世界まで責任を負わなければならないと考え、その違いが靖国問題として表れてきたのではないかとの意見、残虐な殺人犯であっても処刑された後には仏として祭られるという日本的な考え方を中国に説明していく必要があるとの意見、中国の高齢者で戦争を体験した人には根の深い問題であるが、若い人の間にはA級戦犯の墓である靖国神社に総理が参拝しているとの勘違いもあり、彼らが正しい情報の下に反日行動をしているのか少々疑問であるとの意見が述べられた。

(歴史認識)

 委員から、歴史認識は対中外交を考える上で避けられない問題であり、日本人自身が明確に総括をしてこなかったことが関係悪化の原因であり、日本人自身がどう考えるかということが問われているとの意見、米国から見ても疑問のある遊就館問題も含めて、歴史問題は感情的にならずに一つ一つ冷静にとらえて議論していくことが必要であるとの意見、歴史認識以前の問題として、他人の痛みを想像できる力が必要であり、このことが中国との関係では重要になっているとの意見、かつて多くの中国国民が日本の兵隊によって殺されたという事実があり、中国政府が懸命に国民を説得して、そのことを言わせないようにしたという大きな努力があったことを忘れてならないとの意見が述べられた。

(歴史教育・歴史研究)

 委員から、日本としては歴史教育の見直しが当然必要であり、また、そのために歴史認識について深く研究すべきであり、それが対中外交の基本の一つになり得るとの意見、歴史教育に関する共同研究を行うべきであり、お互いに異なる認識であっても、お互いの立場を理解し合えればそれでよいとの意見、日本と韓国との間の第1期歴史共同研究の最終報告書に倣い、日中で意見が一致しなくてもお互いの歴史観を述べ合い、相違が分かるようにすべきであるとの意見が述べられた。

(外交との関連)

 委員から、靖国問題や歴史認識問題で国論が二分するのは外交上非常に良くないことであり、第二次世界大戦の問題についての日本の考え方を明確にすべきであるとの意見、中国は靖国問題、歴史認識問題を外交の一つの手段として使っているが、靖国問題は我が国の内政問題であるので、外交手段として使われることは誠に遺憾であるとの意見、靖国問題、歴史問題に関し、日中友好の美名の下に、我が国の立場を主張してこなかったことが今日の日中関係を悪化させている一つの原因であるとの意見、昨年夏、小泉総理の靖国参拝をめぐる国会答弁を理由に、呉儀副首相が総理との会談をキャンセルして帰国したことから、中国政府は小泉政権との間で関係を改善するのは難しいと見ているのではないか、また、これまでの関係に戻すことは時間が掛かるのではないかとの意見が述べられた。

(三)今後の日中外交の在り方
(日中関係の現状)

 委員から、中国が日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに強く反対するのは、東アジアで唯一の核保有国、常任理事国であるという立場を堅持し、東アジアあるいはアジア全体を見渡した中で、中国が国際社会の様々な方向性を決めることができるようにしておくという戦略を持っているからであるとの意見、中国は、日本をたたかないと東アジア共同体、東アジアの覇権という意味で、アジアでリーダーシップが取れないと考えており、日本は友好親善という美名の下ではなく、毅然たる態度で外交交渉に臨まなければ将来取り返しの付かないことになるとの意見、米国の対中包囲網もあることから、中国が日中関係を壊すのは得策ではないと考えていること、日中関係が良好であることが、中国と米国のどちらにもプラスになることは共に理解できるとの意見、ハードパワー、ソフトパワーの観点から、日本は中国に対してまだ優位にあり、特に農業、エネルギー効率向上、環境対策等の技術は世界で最も優れており、中国の抱えている難題を救える能力があることから、余裕を持って中国に対応すべきであるとの意見、中国は、過去17年連続で2けた台の伸びで軍事費を増強してきており、軍備状況の情報開示を求めていかなければならないが、他方、日本の安全保障を考えた場合、中国の脅威に対応していくという状況の下でもシビリアンコントロールが十二分に発揮されなければならないとの意見が述べられた。

 参考人から、中国の目指している外交戦略は発展途上国の代表として自国の影響力を増していくというものに加え、日本との争いになるので言葉には出さないが、アジアにおけるリーダーシップも隠されており、現実には六者協議、上海協力機構での中央アジア諸国との連携そしてASEANとの連携という形でアジアにおける中国のイニシアチブは間違いなく増えているとの見解、政治家が中国を脅威と呼ぶことは信頼できないと公言することである、しかし、現実の脅威である側面が中国にあることは否定できず、対策を講ずべきであるが、中国を交渉相手としないとする態度、インドと連携して封じ込めるという方策は現実性を欠いているとの見解が示された。

(日本側の課題)

 委員から、国内問題と国際問題が表裏一体であるから、国内を治め切れなければ外国との話合いはできないのであり、国民に対して外交における損得を今日まで明確に示してこなかったことが、日中関係において粗雑な形で表れてきたとの意見、1億2,000万人のリーダーと13億人のリーダー、また先進国と途上国とでは物の考え方が違うのであり、中国を日本の尺度で見るべきではないとの意見、日中友好関係は大事にしていかなければならないが、中国は一党独裁の国であり、一党独裁というのは自国が利することしか言わないので、民主主義国家である日本は毅然とした態度で臨むべきであるとの意見、中国は国土も広大で人口も多く、民族的にも多様であり、中国の国家目標がどこにあるか把握しにくいので、国家戦略を組み立てる上で、中国専門の研究所を創設すべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、これからの日中関係は、日米同盟と併存し、あるいは日米同盟と相乗的なプラスの効果を持つような「戦略的なパートナー」というフレームワークをどのようにつくっていくかが重要であり、そのためには対話が不可欠であるとの見解が示された。

 また、参考人から、日本がすべての分野においてリーダーシップを争う必要はなく、日中ASEANがそれぞれ得意分野でリーダーシップを発揮すればよいのであり、そうした組合せができれば調和が取れていくのではないかとの見解、相互誤解を解くところから始めるというのは確かに重要であるが、最初から相手を見る視点が違っているのであり、第一に、列強日本と被侵略国、弱小国としての中国という歴史的体験の違いと、そこから来る一種のゆがんだ被害者意識の存在、第二に、世界でも有数の平等が実現された先進国日本と途上国の典型的特徴である不平等が存在する中国との発展段階の違い、第三に、大言壮語する大陸民族と謙虚で几帳面な日本人との言動の違いを念頭に置かなければならないとの見解が示された。

(今後の具体的方策)

 委員から、アジアの平和、安定をつくり上げる上で日中間の相互誤解を解消させるべきであり、そのためには、民間同士の信頼感の醸成が極めて重要であるとの意見、中国も日本を無視した経済発展は考えられないのであり、日本が重要であると認識してもらうために、日中の中学生、高校生の交流、中国の20代から30代の若者を日本に招くなど、お互いの国を理解させるための様々な方法を考えていかなければならないとの意見、フランスとドイツが実施したように青少年の交流も行うべきであり、中国の共青団の政治組織である全青連という組織が、昨年、日本の大学院生1,000人を中国に派遣してほしい旨のオファーを出したとのことから、中国も日本との関係を修復したいという考えが芽生えているのではないかとの意見、アジア太平洋地域において強い影響力を持つ日米中の協調関係を探るため、日米中の学者、ジャーナリスト、民間人で様々な問題についてフォーラム的なものを行うことを提言したいとの意見、中国は小さな政府、大きな社会を標榜しているので、NPOあるいはNGOなどの市民レベルの様々なアクターが日中間のパートナーシップの形成に少なからず貢献し得る時代に入っているとの意見、日中両国がウイン・ウインという形であるために日中で何ができるかを考えれば、例えば地球温暖化問題などの複雑な地球規模の非伝統的脅威への対応が主体になっていくとの意見、靖国問題、歴史認識の問題とは切り離して、財務対話という形で日本の財務省と中国の財務部との間のパイプはつながっており、日本としてもこのパイプは確実につなげて折衝をしていく必要があるとの意見が述べられた。

(対中ODA)

 委員から、中国の多くの人々が日本のODAのことを全く知らないという状況であり、日本として正確な情報を中国の国民に伝える努力が不足していたのではないかとの意見、環境など目的の明確な対中ODAは残すべきであり、限定したODAでも日中の経済関係はかなり深く結び付くとの意見、携帯電話、コンピューターのOSなど、中国は将来的な市場として巨大であるので、今の時点であれば、中国に対して技術、ソフト、資金面での供与が可能であり、新しい戦略的な投資の一環としてODAが必要であるとの意見が述べられた。

(四)中国の政治・経済
(中間層の拡大)

 委員から、中国に経済力がつくと5億人の中間層が誕生すると言われるが、経済活動を通して民主化プロセスが進展していけば、共産党一党独裁体制もいずれ東欧諸国のように崩壊するのではないかとの意見、中国における中間層は、中長期的には民の力として無視できないのであり、一党独裁の中国にもNGOが存在し、NPOがこれから作られることから中国が変わり始めているとの意見、中国における中間層の拡大という流れがある中で、例えば、環境保全、再生可能エネルギー、あるいは国連の持続可能な開発のための教育の10年など地球環境問題に関し、NPOあるいはNGOとのパートナーシップの形成は、相互誤解の解消と相互理解の促進という意味では極めて重要なアプローチであるとの意見が述べられた。

 参考人から、2015年、20年の段階で、中間層が4億から5億人、中流意識の持ち主を含めて7、8億から10億人になれば一党支配は維持できず、その場合、共産党と運命を共にする人は恐らく党内でも余りいないと思われ、東欧のように別の勢力によって崩されるよりも、党内でそれぞれの利益集団を代弁する形で二つ、三つに分かれる可能性が大きいとの見解、経済発展の中で中間層が市民社会を形成し民主化プロセスをつくり出していくのが経済と政治の相互作用による体制移行の基本的なモデルであるが、中国の場合、まだ初歩的段階にあること、そして貧困層が大量に存在することから、そこに至るまでにはかなり長い時間を要するとの見解が示された。

(中国の将来)

 委員から、中国の高い経済成長率に関しては、統計や税体系の不備、不良債権の存在、輸出に占める外資系企業の比率の高さ、環境問題、三農問題などから、冷静な目で見るべきであるとの意見、中国が今後2、30年の間に現在の勢いを持たず、経済的困難を抱えた単なる大きな国になる可能性もあるとの意見、中国経済はバブル崩壊寸前であり、元の切上げまでが限界という説まであり危険性が高い、そして一党独裁がいつまで続くか不透明なので経済上のリスクマネジメントが必要であるとの意見、著名な学者が社会主義市場経済が崩壊することを前提に考えるべきであると述べており、崩壊すれば中国共産党がどのように変わっていくかということに冷静な目を向けておくべきであるとの意見、中華人民共和国は共産党を盾にして古い中国の儒教を打破したが、最近では儒教思想が復活し、いずれ資本主義システムにならざるを得ないのではないかとの意見、他方、BRICsレポートによれば、2041年には中国は米国を抜いて世界一のGNPを誇る国になり、米国が2位、インドが3位、日本が4位となっており、中国は少なくとも20年、30年のうちにはサミット参加国になるとの意見が述べられた。

 参考人から、中国人はイデオロギーと心中する民族ではないので、マルクス主義などは便宜的に使うものであり、社会主義市場経済も看板に過ぎず、経済発展と国民が豊かになることを最も重視しているとの見解、共産党体制が市場経済の進行で現実に対応できなくなったため、民主化を取り入れざるを得なくなり、近い将来、村レベルと同様に郷鎮レベルでも首長の直接選挙を取り入れる状況になるとの見解が示された。

 また、参考人から、市場化が進行していけば当然利益の多元化、多様化を生み、様々な利益集団が形成されていき、階層の分化、価値観の多様化も生み出すという現状の中でどのような枠組みをつくるかという段階にまで来たが、当面、漸進的な政治改革を選択し、一党制の大きなアンブレラの下で多様化を取り込んでいき、そのアンブレラが維持できなくなったときに多党化に進むとの見解が示された。

(固定相場制)

 委員から、中国は国際経済に組み込まれているので固定相場制は早晩維持できなくなることを十分理解しているが、国内産業の保護という見地から政策的に固定相場制が採られているとの意見、中国が固定相場制を維持するためにドル買いを続けることは早晩行き詰まることから、ある時期に突然介入を放棄するような形でハードランディングされると中国経済のバブル崩壊を招くおそれもあり、大きな影響を受ける日本としては早めに中国に対しブレーキを掛けていくことを要請していかなければならないとの意見、中国経済の安定成長が日本経済に非常に重要であり、日本経済が米国、中国という二つのエンジンで活性化され維持されているという面もあるので、中国に対して人民元の変動幅拡大をより強く主張していかなければならないとの意見が述べられた。

(五)日米中の関係

 委員から、対中政策は、中国、インド、韓国、北朝鮮そして米国の5か国との関係としてとらえなければならないのであり、日本の安全保障、経済その他から考えて米国が最重要であることは間違いないが、どうすれば米国に対して日本がバーゲニングパワーを持つことができるかを考えたときに、日米中の関係をどのようにもっていくかが重要になるとの意見、米国の国益について伝統的に見た場合、日本はパワーポリティックスという現実を踏まえてアジア外交を考えなければならないとの意見、米中は互いにスーパーパワーとして牽制し合っているのではないか、そのはざまで日本が今後どのような対中政策を講じていくかが極めて重要であるとの意見が述べられた。

 また、委員から、中国は米国に強く関心を寄せているが、最近の情報によれば、米国が中国から投資を引き揚げており、米国内に工場を引き返す際に税率を非常に低く設定して優遇する政策も取っているとの指摘がなされた。

 参考人から、中国の対米観について、中国エリート層は米国と対決すべきではないと考えており、鄧小平もこれを中国の対米外交の基本としていたのであり、今後も基本的には米国からの圧力を回避しながら米国との共通利益を増やしていくという方向で進むとの見解が示された。

2 東アジアにおける経済戦略と東アジア共同体構築への対応

(一)東アジア共同体構築の意義と必要性

 委員から、政治体制、経済、宗教、主導する国という四つの点から見て、東アジア共同体には弱点がある、また台湾海峡や北朝鮮など、域内の重要な安全保障問題は米国を抜きにしては語れず、日本の安全も米国あってのものではないかとの意見、中国の意思は一体どこにあるのか、日本、中国、韓国が東アジアの平和と経済の発展を共同で進めていこうという価値観を共有できるのか心配であり、共同体を今のままで推進することには疑問を感じるとの意見、東アジア共同体構想は大変重要ではあるが、日本は東シナ海や竹島などの喫緊の課題にどのように対処すべきかという現実の問題があるとの意見、現在、東アジア共同体構想は経済分野での協力が先行しているが、どこかで安全保障問題が絡んでくると、共同体構築は難しくなってくるのではないかとの意見が述べられた。

 また、委員から、既にAPECが存在するが、経済、環境、安全保障、食料など様々な問題もあるので、分野別に議論するためには共同体はあってもよいのではないかとの意見、東アジア共同体には政治的に差し迫った必然性は感じないが、日中を中心として生じる大きな経済問題を乗り越えることによって、東アジアが互いに運命共同体となる必然性が出てくることは理解できるとの意見、日本が共同体構想に躊躇する理由はなく、積極的にこの構築に取り組み、日本外交の幅を広げ、この地域の平和と繁栄に寄与すべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、東アジア共同体は、東アジア全域の機構とするには制約はあるが、ASEANファミリーの協議を東アジアに拡大してきたという程度の意味はある、その限られた役割でも国連に期待するよりは共同体に期待した方が各国にとって有利になるとの見解、今一番立ち後れている金融、証券という観点から見れば、民間企業にとってアジア共同体ができるのは望ましいとの見解、中国が存在感を示しているからといって、東アジア共同体構想を日本が拒否すべきものではない、それが構想段階であっても、東アジア諸国がビジョンとして共有するために意見交換する場を持つことは、日本にとって極めて重要であるとの見解が示された。 

(二)東アジア共同体の在り方
(共同体に対する基本的考え方)

 委員から、欧州と東アジアでは状況が大きく異なるが、欧州の統合における動きは、東アジアの経済統合を進めていく上で大いに参考になるとの意見、東アジア共同体構築への障害を一つ一つ克服していく過程にも将来の共同体の結び付きを強くする要因が生まれるとの意見、東アジア共同体に参加しようとする各国がすべて納得できるルールとビジョンを明確に示すこと、その共同体意識を醸成していく強い意思を持つこと、そしてこれらの方法を見付けることが共同体構築で重要な要素となるとの意見が述べられた。

 参考人から、欧州と東アジアの状況は異なるが、多段階方式による欧州統合のプロセスと経験は、東アジア共同体へのアプローチの戦略として参考になるとの見解が示された。

(共同体の望ましい姿)

 委員から、アジア各国の政治・経済体制は非常に多様で、また文化、宗教も多様であり、このように多様性に富む東アジアでは、各国がビジョンと価値を共有することは容易ではなく、民主主義や平和、人権という共通の価値に基づく共同体を目指すのは現実的ではない、まず、貿易やエネルギー、金融、経済協力といった地域の発展に必要な機能を中心とした経済共同体を目指すべきであるとの意見、アジアに拠点を置く企業は為替リスクを抱えており、共通通貨ができれば、企業にとって好ましいのではないかとの意見、APECが存在するので、当面は米国を入れない共同体が望ましいのではないかとの意見が述べられた。

 また、委員から、東アジア共同体形成の基本的な要因として、いかに不戦の制度化を実現していくかが重要であるとの意見、現存のFTA、EPA、PPP(官民パートナーシップ)は経済面に重点が置かれており、環境破壊やエネルギーなど環境保全への取組が弱いのではないか、環境共同体的なところから取り組んでいくことが重要であるとの意見が述べられた。

 参考人から、日中両国にとり、米国との貿易量の大きさからして、米国を除いた閉鎖的な共同体はあり得ないのであり、それ故、非常に緩やかで開放的な共同体を目指すべきであって、日本がそのメッセージを米国に積極的に送るべきであるとの見解、将来的にアジアで集団的な安全保障体制をつくろうとする場合、東アジア共同体が米国抜きで本当にできるのか疑問であり、経済で東アジアがまとまって、安全保障では米国を入れた体制にしても構わないとの見解が示された。

(北東アジア共同体)

 委員から、六者協議を発展させる形で、北東アジア共同体を構想するのであれば、米国も当然加わらざるを得ないのではないかとの意見が述べられた。

 参考人から、北東アジアの国だけ集まった場合には日本の影響力は小さく、ASEANが入っていることで相対的に日本の影響力は高まるのであり、北東アジアに限定するよりはASEAN中心の協議体を拡大していく方が日本として有利であるとの見解、東アジアの統合は、経済の実態から自然であるが、北東アジアだけを切り離すことは、経済の観点から見れば疑問であり、また、米国を含めなければ安全保障でも意味がないとの見解が示された。

(FTA・EPA等共同体構築のための方途)

 FTAについて、委員から、政府のFTA戦略には全体の脈絡がないので、省庁横断的なものは国会の場で国益のための議論を行うことが必要であり、政治的なチャンネルの下で日中貿易を考えるべきであるとの意見が述べられた。

 共同体構築のための方途について、委員から、現在、経済共同体を目指した連携が進んでいるが、FTAやEPAを幾ら重層的に結んでも、それが共同体につながるとは限らないとの意見、東アジア共同体は、97年に通貨危機があったために志向されてきたことから、通貨金融協力を更に進めることが今後の共同体の基礎を固めていくことになる、また、それは円の国際化とドルリスクの回避という点でも日本の国益に沿うことになるとの意見、政府は地球環境問題を共通の脅威としてとらえ、環境科学的成果を東アジア共同体の形成に向けた共有情報とし、さらには共通利益にかかわるものとして戦略的に位置付けることが重要であり、そのためには東アジア共同研究枠組みをつくり上げることが重要であるとの意見が述べられた。

 参考人から、アジアで価値観を同じくし、同じビジョンを共有する共同体を構築するには相当の時間が掛かるので、むしろ実践的な分野で利害を共有できるところから協力していくことが重要であるとの見解、東アジアでの協力を積み重ねていくプロセスでは、それぞれの目的にかなったメンバーが協力をしていくところから始めていくべきであるとの見解が示された。

 また、参考人から、東アジア全体で効率的で強い経済をつくっていくことを日本から提案していくことが必要であるとの見解、共同体づくりのためには、域内リーダーたる日中両国民間の相互理解、相互信頼及び和解が重要であり、そのためにはFTAという大きな目標より観光ビザの緩和措置などを積み上げ、また政治問題とならない方法で物事を進めていくことが重要であるとの見解が示された。

三 日本の対米外交

 日米両国は、自由や民主主義、市場経済など、多くの価値観を共有し、政治、外交・安全保障、経済を始め、幅広い分野で相互依存関係にある中で、各種の対話や協力関係を強化することにより、全般的に良好な関係となっている。

 また、我が国の位置する北東アジア地域には、朝鮮半島問題、中台問題などの不安定要因が存在しており、この地域への米国の関与が重要であるとの認識の下、我が国は対米関係を外交の基軸としつつ、日米安全保障条約に基づく協力を行っている。

 一方、米国は、2001年のQDR(4年毎の米国防計画の見直し)に基づき、世界規模での米軍再編を進めている。この一環として、日米間でも在日米軍基地の見直し、自衛隊と在日米軍との役割分担等について協議が進められ、2005年10月29日に「日米同盟:未来のための変革と再編」、2006年5月1日には「共同発表」及び「再編実施のための日米のロードマップ」が、それぞれ日米安全保障協議委員会(2プラス2)において合意された。

 このような中、小泉総理は、日米関係が良好であるからこそ、中国、韓国、ASEAN等を始め各国との良い関係が維持されてきているとの見方を示すなど、対米関係重視の姿勢を鮮明にしている。

 調査会においては、日米関係に対する基本認識、対米認識強化の必要性、日米同盟とアジア、日米同盟と東アジア共同体等について、幅広い議論が展開された。

1 今後の日米同盟の在り方

(一)日米関係に対する基本認識
(日米同盟の意義)

 委員から、日米同盟は、我が国を取り巻く東アジアの平和と安定の確保、経済の繁栄、地域の発展を目指していくために不可欠なものであると同時に、中国から見れば覇権追求への大きな障壁になっているとの意見、米国との関係では、同国の安全保障戦略上、日本は必要不可欠であるという立場をうまく活用すべきであるとの意見、日米同盟は、米軍再編の中で、情報の共有化のほか作戦の統合にまで進みつつあり、ここ数年間で大きく変化しているが、同盟では必ずしも100%利害が一致するわけではなく、利害が一致しない場合、同盟強化は巻き込まれの懸念を伴うとの意見が述べられた。また、ソ連崩壊後の米国の戦略が見えない中で、日本は同盟で米国にどこまで付いていくのかとの懸念が表明された。

 参考人から、同盟においては巻き込まれる可能性もあるが、日本国民の長期的な安全と繁栄の維持という大局的見地に立てば、日米同盟が極めて重要となるとの見解、日米同盟を前提とした60年間の歴史は、巻き込まれ論がそれほど心配するものではなかったことを示しているとの見解、QDRで、同盟国が米国の国力にとって最も重要な資源の一つと確認されたのは、テロ戦争等での日本の協力への高い評価が背景にあり、アジア太平洋地域で日本が大きな役割を担うことを米国は希望しているとの前提で、日本は米側に対応すべきであるとの見解、日米同盟は、冷戦中、ソ連を仮想敵国としたが、今の東アジアの平和と安定を打破しようとする動きがあれば、これに対する抑止力は必要であり、この場合は仮想敵国ということではない、日米同盟は、具体的に台湾海峡や朝鮮半島などで問題が生じないような前提を作るものであり、東アジア全体の抑止力でもあるとの見解が示された。

(米軍再編問題への対応)

 委員から、米軍再編に関連した沖縄の米軍基地負担の軽減について、国民として沖縄の過重な負担は理解するものの、我が自治体への移転には反対という傾向があるが、日本国の安全保障という観点からすれば、応分に負担をするのが重要なのではないかとの意見が述べられた。

 参考人から、米軍再編問題は、米軍の軍事戦略の変化と結び付けて議論しなければ全く意味がない、米国政府からの要求には、新たな軍事戦略によるものと既得権としての軍事基地を維持しようとするものとの両方が混在しているが、新たな戦略の下での日本の役割を考える方が日本にとって合理的であり、地上兵力の大きな常駐が、日本の安全にとって必要なのかを議論する余地があるとの見解が示された。

(集団的自衛権)

 委員から、米国での政権交代により日本への態度が大きく変わる可能性も念頭に置けば、日米の揺るぎない信頼感の醸成が必要であり、そのためにも米軍再編問題を我が国がまとめ、集団的自衛権の問題を解決していくことが今後の日米同盟にとって不可欠であるとの意見、米国は範囲が日本周辺に限定されない、グローバルな集団的自衛権の行使を日本に望んでいるのではないかとの意見、集団的自衛権行使で東アジアの戦略的安定性が確保できるとの見方は、伝統的な安全保障の側面が強いが、今日では非伝統的な安全保障を加味、拡大しなければならず、環境外交がこれからは重要になるとの意見が述べられた。

 参考人から、米国は、日本が集団的自衛権を行使して、英国と同様に常に連携するパートナーとなることを希望しているとの見解、日本は東南アジアに多額の援助を行ったが、集団的自衛権行使を認めて、安全保障の面で信頼できる国にならなければ、日本の東南アジア外交は実効性を持たないとの見解、近代戦の時代において、沖縄から約2,000キロのグアムは日本周辺と考えてよく、集団的自衛権の限定的行使を認めれば、ガイドラインの延長でグアムまでのシーレーン共同防衛も可能になるとの見解、集団的自衛権はどの場所でも行使できるが、国際紛争を解決するための戦争と見られることのないよう、日本は政策判断として、憲法ではなく他の法律で規定することで、日本の領域、領海、公海とその上空に限って行使することが望ましいとの見解が示された。

(日米経済関係)

 委員から、現在、日米経済関係は平穏であるが、原油価格の動向、金利の上昇、米国の双子の赤字など、幾つかのリスクを内包しており、日本への影響が懸念されるとの意見、日本は日米経済関係が平穏な今こそ、適切な金融政策により景気回復基調を確かなものにし、率先して構造改革、財政再建に取り組んでいく好機であり、それがまた日米の良好な経済関係につながっていくとの意見が述べられた。

(二)対米認識強化の必要性
(米国の外交・軍事戦略)

 委員から、米国は、経済力、若さ、軍事力、ソフトパワーなど、多くの面で突出した国力を持っており、日本も交渉技術の向上とネットワークづくりにより国力の差を補っていかなければ、米国の外交政策に影響を与えることは難しいとの意見、米国の外交戦略には、ハミルトニアン、ジェファソニアン、ウィルソニアン、ジャクソニアンの四つの歴史的な潮流があり、外交政策が国際情勢によって常に変化する国であるとの意見、米国が主導するグローバル化は、エンドレス戦争論といった軍事的な戦略と表裏一体であるとの見方もあり、日本は米国の戦略をよく研究する必要があるとの意見、イランやパレスチナでイスラム原理主義的な政権が成立し、イランは比較的ロシアとの関係が良いなど、中東において米国の影響力が及ぶ地域が減っているのではないかとの意見が述べられた。

 参考人から、米国の軍事戦略は過渡期にある、テロ重視は一時的であり、やがて、米中関係が最重要となれば、従来のパワーポリティクスの考えに戻るとの見解、米国は、今後とも、人間の自由を阻害するような勢力が出てくれば、これに対する抑止力を備えていく、その手段としては必然的に軍事力の行使も含むとの見解、米国がイラク問題の解決に成功するか否かが、サウジアラビアの民主化、パレスチナのテロ、イランの核開発など、中東のすべての問題に影響を及ぼすとの見解が示された。

(対米関係強化のための方策)

 委員から、米国の外交政策は国際情勢によって変わり、それに対応するためには、議員や官僚の間で更なる米国研究と米国の要人たちとのネットワークづくりが不可欠ではないかとの意見、米国の将来性ある人物とパイプをつくることが重要であり、長期的視野が不可欠な外交を担うべき参議院は、超党派で米国に一定期間、ネットワークづくりのために議員を派遣してはどうかとの意見が述べられた。

2 北東アジアをめぐる日米関係

(一)日米同盟とアジア
(日米同盟とアジア外交とのバランス)

 委員から、小泉総理は、日米関係が良好であるほど中韓、アジア諸国とも良好な関係になれるとの見解を述べたが、対米重視が行き過ぎると、アジア諸国に対米外交で対日外交は代替できるとの誤解を与えかねないとの意見、日本は、日中、日韓の課題を解決し、アジア経済のためのFTAや更なる経済統合の中核となり、成長するアジアの利益を代表して米国に主張できるようになるべきであるとの意見、日本外交には、米国重視、アジア重視という二つの基本方針があり、その中でどのように長期的、戦略的に外交を行っていくべきかを考えることが日本の国益にとって最も重要なことであるとの意見が述べられた。

 参考人から、日米同盟がないと東アジア諸国が日本を脅威と見てしまうおそれがあるとの見解、アジアの国際関係は、多くの独立変数がある多次元方程式だが、その解に占める割合が著しく高い日米同盟が安定すれば、あとの変数は変わっても問題はない、日米同盟の安定は、中国による揺さぶりを無意味にすることから、日中間の問題をなくし、日中友好関係へと導くとの見解が示された。

(朝鮮半島情勢への対応)

 委員から、韓国において、米国から自立しようとする動きや巻き込まれの恐怖が広がっているとの意見、日本だけによる経済制裁は意味がないとしても、拉致問題も含めた日本の対北朝鮮外交は、戦略、戦術で欠けている面があるのではないかとの意見、ミサイル防衛により、日米安保は新しい局面を迎えたが、これは北朝鮮のミサイルからの防衛であり導入は当然という多数意見の中で、国内で深く議論をされなかったとの意見、北朝鮮が核弾頭を搭載する中長距離弾道ミサイルを保有すれば、それは我が国の安全に重大な脅威であり、北朝鮮の核問題を早期解決しなければならないが、六者協議を見ても、引き延ばすことだけが北朝鮮の戦略と思われ、中国や米国などと協力しながら、拉致問題も含め、問題解決に全力で取り組むべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、米韓関係の現状は最悪であり、韓国内で利害計算を超えた同胞・統一意識の高揚により、米軍に頼らない平和を実現するという議論が広がっている、南北統一への期待により、韓国が国際関係における合理的な行動よりも、国内の期待に合わせたような政策に向かってしまうことは、日本にとって有利ではないとの見解、北朝鮮は核兵器の保有を目的に核開発を行っており、この廃棄を楽観的に考えることは難しく、北朝鮮危機の膠着という状態を考えざるを得ない、これを打開するかぎは中国が握るが、日中関係が悪化しているときに中国と共同で北朝鮮に対する様々な政策行動を考えることは大変難しいとの見解、北朝鮮は中国と比較すれば、ミサイル防衛を配備する必要はないとさえ言える程度の兵力であるとの見解、北朝鮮の存続が核兵器開発に懸かっているため、これをやめることはないだろうが、ミサイルを発射してしまえば体制保証の意味がなくなることを北朝鮮は理解しており、核開発を取引材料にしている、北朝鮮に対しては、圧力と交渉による危機管理を続ける以外に方法はなく、米朝枠組み合意で分かるように、合意にはほとんど意味がない、また、中国が同調する可能性がない以上、日本が経済制裁を実施しても効果がないとの見解が示された。

(台頭する中国への対応)

 委員から、日米安保条約は、仮想敵国の存在を前提に締結した軍事同盟であるが、ソ連崩壊後の仮想敵国が中国であるならば、日中平和友好条約の存在から、中国側からは認め難いのではないかとの意見、中国経済の成長、軍事力増強が顕著である中、我が国の対応には長期的な戦略はおろか、短期的な戦術もないのではないかとの意見が述べられた。

 参考人から、中国の軍事的増強には、将来的に対応しなければならないが、中国を敵だと言う必要はないとの見解、中国は台湾問題も軍事解決ができるような状況にはなく、これを受けて日本としては、平和的解決が唯一の選択であると言える状況に持っていくため、独自の力や日米同盟を考えなければならないとの見解、米国のQDRでは、中国は軍事的に米国の競争相手となる潜在能力が最も高く、対抗策を取らなければ、将来米国の軍事的優位が失われかねないと指摘しており、米国は中国を楽観しているわけではないとの見解、中国を想定してミサイル防衛システムを配備することに意味があるが、結果的には、中国国内で軍の役割を大きくしてしまうことが問題であるとの見解が示された。

(二)日米同盟と東アジア共同体
(日米同盟と東アジア共同体とのバランス)

 委員から、日本は東アジア共同体構築を進める前に米国の懸念を取り除いておく必要がある、米国の懸念の源は、一国若しくは複数国による東アジア地域の支配を認めないという米国の国益にあり、日本は東アジア共同体構築を進めるときに、必ずこの米国の第一順位の国益を念頭に置いて微妙なバランスを見失わないようにする必要があるとの意見が述べられた。

 参考人から、日本の外交戦略としては、平和で自由で民主主義的で、法の支配の下で暮らせる世界の実現に向けた努力が最も必要であり、その実現の前提に日米同盟がある、また、日米同盟と東アジア共同体は二律背反ではなく、共同体は日米同盟という大きな基盤の上に乗った問題であるとの見解、東アジア・サミットの開催が発表された当時、米国は中国中心の東アジア共同体ができることを懸念していたが、インド、オーストラリア、ニュージーランドの参加が決まった頃から、中国中心ではないという印象を持つようになったものの、日本は東アジアだけでのグループづくりについて、米国が一定の懸念を持っていることを十分に考慮しなければならないとの見解が示された。

(米国とアジアとの経済関係)

 委員から、ASEAN諸国は米国との関係が強いが、米国の通貨金融政策に懐疑的な国がアジア通貨危機の際に被害を受けたという印象を持っているとの意見、アジア諸国が米国に輸出をしてドルを稼ぎ、そのドルで米国債を買い、米国は戻ったドルで景気対策、軍事費拡大などを行うというドル還流システムは米国にとっては極めて都合の良いサイクルであるとの意見、米国債を持っているアジア諸国は、米国の放漫経営が永久に続くわけではなく、いつかドルが下がるのではないかとの不安を抱えつつ、買わないと下がるため買わざるを得ないというジレンマからいつか脱却したいと考えているとの意見、米国が一番避けたいのは、東アジア共同体で経済協力が進み、通貨などでドル体制から脱却あるいは一定の距離を置くことであるとの意見が述べられた。

四 国際社会の責任ある一員としての日本の対応

 国際社会は、途上国の開発や地球環境の保全、大量破壊兵器不拡散、テロの防止・根絶など複雑で困難な課題に直面し続けている。自然災害、感染症、人種や民族の違いへの不寛容に起因する紛争と犯罪、移民の増加に由来する摩擦の増大も見られる。

 グローバル化により生ずるこれら諸課題の解決に国際社会が懸命に努力している中で、世界第2の経済大国であり、国際社会で大きな役割を担う我が国も引き続きこれらの解決へ尽力する必要がある。そのために、まず、国際社会が人間一人一人に焦点を当て、国、国際機関、NGO、市民社会が協力して個々の人々や社会の能力強化を図る必要があり、これは人間の安全保障を推進することでもある。また、我が国は多様化し、拡散する脅威に対する国際社会の対応に関係諸国とともに主導的役割を果たすことが引き続き期待されている。

 調査会においては、人間の安全保障、環境問題、核兵器不拡散、国際テロ防止、貧困への取組、我が国の国際貢献の在り方等について、様々な観点から議論が展開された。

1 人間の安全保障の重要性

(一)人間の安全保障

 委員から、人間の安全保障という言葉が初めて使用されてから10年以上経過し、最近では多方面で用いられている結果、概念があいまいとなってきている、人間の安全保障の考え方を今後とも国際機関による開発の重要な概念としてその存在意義を維持し拡大するために、具体的な内容を持つ実務的概念にする必要があるとの意見、人間の安全保障のためにコミュニティ開発、ガバナンス、エンパワーメントが必要であり、日本の場合、この分野では資金面よりも、いかに人材とノウハウで相手国に受け入れられ、向上に役立つような援助ができるかが焦点となるが、この分野を担っているJICAの体制だけでは非常に心もとないとの意見、選挙区で人間の安全保障に関する話をしても景気の悪さを指摘され、そこまでの余裕がないのが率直な姿であり、世論などの意識を喚起する意味でも人間の安全保障原則のような考え方を国連憲章の中に掲げるべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、人間の安全保障をより国際社会で使用される用語とするためにはその内容を具体化する必要があり、日本が人間の安全保障の観点からコミュニティ開発、エンパワーメントなどを重視し、今後もこの分野での支援を継続していく姿勢を示すことが重要であるとの見解が示された。

(二)環境問題への取組
(自然と人間との関係、人間の意識)

 委員から、人間が自然を破壊して利用してきたこと、産業革命後急速に地球の気温が上昇したことを見れば、結局は人間の営為によって環境問題が発生している、自然環境の保全において何か人間が手を加えれば自然を守ることができるという考え方を改めなければならないとの意見、地球温暖化防止のために、これまでの主体と客体というデカルト的な二元的価値観ではなく、両者が紙の表裏のような関係にあると見る一元的価値観への大転換が必要であるとの意見、国連の持続可能な開発のための教育の10年によって、持続性を重視する人々を多数育成することがこれからの地球環境にとって非常に重要であるとの意見、地球温暖化問題は人類共通の大きな脅威であり、増大しつつある非伝統的脅威であるとともに、人間の安全保障を正面から脅かす問題であるととらえることができるとの意見が述べられた。

(国際的枠組み、環境外交)

 環境に関する国際的枠組みについて、委員から、米国は自由な企業活動と技術開発を重視した独自の手法を取っており、また、多くの主要な多国間環境条約を批准していないなど、多くの環境対策分野で欧州連合(EU)との方向性の乖離が特に顕著になっているとの意見、環境保全と安全保障がリンクするような戦略的フレームワークの構築に十分注意を払う必要があるとの意見が述べられた。

 環境外交について、委員から、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)を日本の手法で方向付けるよう検討する必要があるとの意見、日本は環境技術、環境ビジネス、環境教育、環境文化など得意な分野を効果的に伸ばして環境立国を目指すべきであるとの意見が述べられた。

(京都議定書、クリーン開発メカニズム)

 委員から、京都議定書の目標を達成するためには、近い将来、排出量が先進国を追い越す途上国のCO削減努力を進める観点から、同議定書が採用したメカニズムの一つであるクリーン開発メカニズム(CDM)の推進が特に重要であるとの意見、省エネルギー関係プロジェクトに対する国連CDM理事会による認証の簡素化を至急行うことにより、CDMの実効性を高めるべきであるとの意見、縦割りの中で産業分野等に実際に力を持っているのは環境省よりも経済産業省と財務省である、この構図の中ではCDMの市場化による積極的利用と国内向けキャップ(温室効果ガスの排出枠)の速やかな具体化が必要であるとの意見、京都議定書目標達成においては市場経済の積極的な活用と市場を通じた資金の流れを環境に振り向ける作業、すなわち環境金融に目を向ける必要があるとの意見が述べられた。

 参考人から、国連CDM理事会の手続簡素化は必要である、CDMはともすると排出削減クレジットをより効率的に獲得する方向に向かいがちであるので、本来の目的から逸脱しないように、原点である途上国の持続可能な開発に寄与するプロジェクトをできるだけ多数開発する必要がある、また、環境に適合した資金の流れの構築が必要であるとの見解が示された。

(環境税)

 委員から、2005年末の税制改正の際、京都議定書目標の達成のため、環境省は4,000億円弱の環境税構想を示し、経済産業省は環境税がなくとも可能であるとした例を挙げ、環境税の意義が問われた。また、森林環境税などを各自治体が創設している動きへの評価及び道路特定財源の一般財源化とその一部を環境対策財源として利用する方策の適否が問われた。

 これに対し、参考人から、環境税なしで京都議定書目標達成に取り組む場合、個別セクター、企業に温室効果ガスの排出量を割り当てざるを得ず、統制経済的になってしまう、むしろ、企業等が技術を選べる形態で目標達成への取組が行われる必要があり、この観点から環境税の創設が望まれるとの見解、地域で解決できる環境問題は地域で解決することが望ましいが、そのためには財源確保が必要となる、この観点から森林環境税あるいは地方環境税などの創設は歓迎すべきものであるとの見解、必要でない道路の建設を抑制する意味で道路特定財源を廃止して一般財源化することは望ましい、この税収を環境対策に用いることで税収効果はあるが、環境、地球温暖化に与える影響を抑制するインセンティブ効果については別途考える必要があるとの見解が示された。

(環境金融)

 委員から、民間の国際金融機関はまず赤道原則に署名した上で、融資行動を起こすべきではないかとの意見、赤道原則の直接金融版と考えられる責任投資原則は今後幅広い活用が期待され、環境金融にとっても極めて重要な動きであるとの意見、環境金融の拡大に着目する必要があり、オランダに倣い、日本においても政府と民間金融機関との間で政策協定を結び、環境金融の拡大に向けた条件整備を進めるとともに、途上国にも環境金融の新たな流れを起こすべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、赤道原則の形で民間金融機関等が融資する際に環境への基準を構築することは重要であるとの見解、責任投資原則はまだ拘束力を持たないが、事実上一つの基準として投資家も評価し、年金原資もその原則に沿った形で利用されることになれば大きな役割を果たすことができるとの見解が示された。

2 多様化し拡散する脅威への国際社会の対応

(一)核兵器不拡散

 委員から、米国はインドやイスラエルなどに対しては核兵器保有を黙認しており、イランや北朝鮮にはその保有を認めない政策を貫いている、このような対応は結局イランや北朝鮮に付け入るすきを与え、当該国が持った者が勝ちとの判断をすることを否定できない、また、米国の基準によって核兵器の保有、非保有が決められるという状況は、かえって反米的な国に核開発の動機を与えかねないなど、核不拡散条約(NPT)体制の実効性について疑問を持たざるを得ないとの意見が述べられた。

 参考人から、NPTが成立した時期と現在では時代背景が全く異なるので、その実効性の低下は避けられないとの見解、インドは、構想中の兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約への加盟の可能性、包括的核実験禁止条約発効への動きの際に考えられる加盟の可能性などによって、長期的には事実上核兵器保有国としての責任を果たす国となる可能性があるとの見解が示された。

(二)非伝統的脅威、国際テロ防止、平和を勝ち取る戦略
(非伝統的脅威)

 委員から、先進国においても最近欧州社会で見られる移民の暴動やストライキなどのように新たな脅威が大きな問題となっているとの意見、東アジア各国を脅かす様々な非伝統的脅威に対処するため、日本はイニシアチブを取るべきであり、ソフトパワー、例えば、教育や文化などソフト面での働き掛けが可能との意見が述べられた。

 参考人から、欧州社会での新たな脅威は、多文化主義に基づく寛容な社会構築への政策指向が強い国々における移民の二世、三世等の子孫が就職や上級学校で感ずる目に見えない差別による遠隔地ナショナリズムを究極の原因とするが、この新たな脅威の解決は簡単ではないとの見解が示された。

(国際テロ防止)

 委員から、テロの成功率は低く、過剰に怖がるだけではテロリストを利するだけであり、議論は冷静に行うべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、大規模なテロは国境措置の徹底化で確実に先細りになるとして、過剰に心配する必要はないとの見解、JICAが現在実施している警察、司法面での専門家の派遣、交番の設置のノウハウなどの提供はテロ対策として非常に効果が大きいとの見解が示された。

(平和を勝ち取る戦略)

 委員から、日本は平和を勝ち取る戦略として、既存の日米同盟に加えて、東アジアの地域安全保障の枠組み構築のためにイニシアチブを取る必要がある、また、そのためには、文化、芸術など日本の持つソフトパワーを十分に発揮することも必要であり、社会、歴史、文化、芸術、生活スタイルなど様々な日本の生の情報を発信することが重要となるとともに、この発信は東アジアで存在感を失いつつある日本を再アピールする効果も持つとの意見が述べられた。

(三)貧困への取組、日本の国際貢献

 委員から、本来国家が行うべき社会保障施策を途上国ではテロリストが実施しているケースがあるという問題について、これら諸国に対し日本のODAを活用して経済の均衡的な発展を目指すことにより貧困を撲滅し、民主主義的教育を行っていくなど、ソフトパワーをもって長期的視野でアプローチしていく必要があるとの意見、日本は今後も国際貢献を進めるに当たって、独裁政権下で圧政に苦しめられている国民に多様な形でできる限りの貢献をすべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、貧困問題の解決には当該国の統治の確立が不可欠であるが、伝統的な人間関係が強い社会を民主化しようとする場合、民主化に伴う人間相互のきずなの破壊によって社会自体が破壊され、結果として内戦が惹起されるケースが非常に多いとの見解が示された。

五 今後の外交課題

 今日の国際社会では、軍事面で米国の圧倒的な優位が見られる一方、経済面では相互依存の進展を背景に、EUや東アジア地域の影響の高まりのほか、ブラジル、ロシア、インドなどの諸国も存在感を示すなど、多極化傾向を見せている。

 このような中、内政と外交の関連性が強まっており、外交政策の有効性を高めるため、ソフトパワーの活用や相手国に対する正しい理解が必要となっている。また、開発、平和と安全、法の支配や弱者の保護といった国際社会の抱える今日的課題に国際連合が有効に対処するための国連改革が議論されているが、その一環である安保理の見直しで、我が国は常任理事国入りを目指した外交活動を行っている。

 調査会においては、我が国外交の在り方、国連と日本外交、議員外交の重要性と本調査会の役割などについて幅広い議論が展開された。

(一)我が国外交の在り方
(基本的な外交理念)

 委員から、日本の外交戦略を考える場合、経済的な発展が一つのかぎとなるが、その先に国際平和や国際環境等において我が国は何をなすべきかという視点が欠けているとの意見、日本が全方位外交を行うためには、米国、中国にとって欠かすことができない国家になることが必要であるにもかかわらず、日本がいなくなった方が米中にとってメリットがあるというような関係を助長する外交経済戦略を取ってきているように見えるとの意見、外交における原則の適用と力の役割を考慮したカナダのバランス感覚は、拡大ASEANの中で日本がイニシアチブを取る際の参考になるのではないかとの意見、日本が繁栄し、国民の生命と財産を守ることが国益と考えれば、国際協調によって平和的な国際情勢を実現することが日本の国益に資するとの意見が述べられた。

 参考人から、米中に対し日本の存在感を示すには、現在の経済力の維持は最低限の必要条件であり、その上で政治的場面での日本の役割を向上させていくことが必要である、それには国連安保理における英仏両国の対応が参考になるとの見解、日本の軍事力は米国とセットで動くため、これを外交に使うことはできず、経済外交が重要となるが、援助外交は既に限界に来ており、通商政策へ軸足を移していく必要がある、また、日本が行おうとする政策を相手国に積極的に示していく必要があるとの見解が示された。

(ソフトパワー)

 委員から、ソフトパワーは自国が望むものを他国も望むものにする力であり、無理やり従わせるものではなく、味方にする力であると言われており、日本は、政府、企業、NPO、個人、あらゆるレベルでこのようなソフトパワーを使った国際貢献が可能であるとの意見、ソフトパワーは、国家レベルから個人レベルまで重層的になっている国際関係の中で、相手国の世論形成や、対象国の印象を良くするのに効果的であり、外交政策の一環として積極的に取り組むべきであるとの意見が述べられた。

 参考人から、文化交流や日本語教育はソフトパワーの領域であり、韓流ブームが日韓関係を下支えする機能を持ったように、中国に対しても同様な動きが生じるよう、これらを積み上げていく必要があるとの見解、ソフトパワーには国際会議における議題提示能力とフォーラム機能という二つの意味があるが、日本はこれらの能力が弱く、これらを高めることで外交のイニシアチブを発揮できるほか、一般的にはソフトパワーと理解される文化外交も、社会間の接触に伴う相互の偏見除去という効果はあるとの見解が示された。

(対外研究の推進)

 委員から、韓国のソウル大学は日本研究センターを創設し、一番大きなパートナーとして日本をどのように見るか研究を始めており、日本も国益の視点、戦略的な観点から大学などに中国、韓国、米国に関する研究所を創設すべきであるとの意見が述べられた。

(二)国連と日本外交
(国連改革への取組)

 委員から、国連を基軸とした外交は日本にとって不可欠であるが、そのためには国連を実効性ある意思決定が実際にできる組織に改革し、機能させる必要があるとの意見、人間の安全保障政策として、平和と安心、安全に対するすべての脅威が生じにくい世界の構築を目指すため、国連の新たな地域拠点としてアジア太平洋本部を東京若しくは沖縄に設置することを提案したいとの意見が述べられた。

 参考人から、国連改革は必要であるが、非効率と指摘される事務局の機能強化を短期間に実現することは困難であり、また、常任理事国に反目が見られる安保理の機能回復を期待することも難しいとの見解、国連アジア太平洋本部のような国際機関を日本に誘致することは、意思決定に日本の意向が反映される観点から極めて重要で意味があるが、グローバルな課題を扱うのであれば、その対象をアジア太平洋地域に限る機関が実現可能なのかについては検討を要するとの見解が示された。

(安保理常任理事国入り問題)

 委員から、国際平和を維持するための活動には非軍事的なものもあり、まず何を行いたいのかを十分に検討した上で、国連安保理常任理事国になる必要があるのかを考えるのが順序であるとの意見、日本等の常任理事国入りのための国連改革提案に対し、東南アジア諸国が一国も共同提案国にならなかったことは問題であり、日本の外交を転換する必要があるとの意見が述べられた。

 参考人から、安保理決議にはある種の正統性があるが、その正統性の形成に日本が除外されており、これは日本の利益だけではなく、国連があるべき正統性を代表できるようにするという観点から、日本として見直しを主張する時期に来ているとの見解、常任理事国入りすれば国際社会におけるステータスになるが、むしろ日本が国連を国際社会の中でどう位置付けるかが重要になり、その中で日本が国連をより充実させるという観点が必要であるとの見解、国連が国際社会の中で非常に重要な役割を担うために、日本は常任理事国となり積極的に役割を担うというメッセージを強く打ち出すことが重要であるとの見解、中国の国連外交における第一の関心は、日本が常任理事国になるか否かより米国という唯一の超大国をいかに牽制するかにある、その延長で考えれば、米国に対して異論を述べるドイツやインドなどを入れる方が中国にとっては優先的に考慮する事項の一つであるとの見解が示された。

 一方、参考人から、東南アジア諸国が日本の常任理事国入りを支持しないのは中国の圧力が原因と思われ、これに打ち勝つためには、集団的自衛権の行使を認める必要があるとの見解が示された。

(三)議員外交の重要性と本調査会の役割
(議員外交の重要性)

 委員から、外交の継続性を維持する観点から、議会の果たす役割は極めて大きい、議会自身が総意として外交方針、あるいは長期的、戦略的な対応ないし考え方を官邸に伝えていくという役割を持たなければ、議会が外交に十分にコミットしていることにならず、議会の外交における権能を再考する時期に来ているとの意見、議員交流が重要であるが、より効果的、長期的視野に立った議員交流を行うためには、リーダー候補生の交流が非常に重要であるとの意見が述べられた。

 参考人から、中国でも議員交流が開放に向かい始めており、日中間の場合、様々な問題を細分化して討論し解決していくという対応が必要であるが、中国には進んで日本に呼び掛ける意識はまだないので、日本側から提案し中国をそのようなネットワークに加えていくというアプローチが重要であるとの見解、中国との議員交流においては、全人代を窓口にして、外交政策、安全保障政策、経済問題、環境問題などの具体的な政策課題に関連する重要な機関、組織を訪問し、将来影響力を持ちそうな人材と交流していくことが重要であるとの見解が示された。

(外交交渉における国会議員の役割)

 委員から、国際的な局長級会議や次官級会議では、大統領制の国の参加者はポリティカルアポインティーであって、政治的な判断ができるが、議院内閣制の日本では、外務省を始めとする官僚組織のトップが、そのような他国の参加者との議論の中で我が国の主体性を発揮するのは極めて難しいとの意見、副大臣・政務官制度は、大臣が国際会議に出席している場合、副大臣等が国内対応を引き受け、委員会での答弁等も行うという制度であったが、実態がそうでないとすれば、反対に副大臣等が国際会議、協議の場に出席し、政治家としての判断をその場で行うということが必要であるとの意見が述べられた。

(本調査会の役割)

 委員から、本調査会としても、現実的な議員外交の推進のために、外交面における政府と議員との役割分担がどうあるべきかについての議論を行うべきであるとの意見、本調査会の成果を国政に反映させる方策について考えていかなければならず、政府、党が主張しにくい場合でも、議会は国民の代表であり、本調査会として、見識を示していくべきであるとの意見、日中FTAについては全く進展していないが、国会の場、特に本調査会において貿易と外交に関与していける仕組みをつくるべきであるとの意見が述べられた。

六 提言

1 歴史問題の共同研究の必要性

 現在の日中の外交関係は、1978年の日中平和友好条約締結以来、最悪の状況にある。その要因の一つに歴史問題が挙げられる。昨年、日本と韓国との間の第1期歴史共同研究最終報告書が発表された。そこでは、古代、中近世、近現代に分けて日韓両国の歴史認識の違いが示されており、意見の一致をみるには至っていないが、学問共同体を形成しつつ立場の違いを知ることが相互理解への第一歩であるとの認識を共有できた意義は大きい。中国との間でも、歴史共同研究について事務レベルでの議論が重ねられている。我が国は、安定した日中関係の維持が日中双方、ひいては東アジア全体の平和と安定そして発展につながるとの視点に立ち、日中間の歴史共同研究を着実に実施できるよう一層努めるべきである。

2 東アジア共同体の構築に向けた取組強化及び関係省庁間の連携・協力の強化

 東アジアでは、近年事実上の経済統合が進む中で、各国間におけるFTA・EPA交渉の進展、ASEAN諸国を中心とする経済・環境・社会を始めとした様々な分野での地域協力、2005年末における初の東アジア首脳会議の開催など、共同体の構築に向けた動きが進展している。東アジアにおいて先進的役割を担っている我が国は、同地域における共同体構築に向け、その利点及び問題点の双方を十分に勘案しつつ、ASEAN諸国、中国及び韓国など関係各国との十分かつ緊密な連携・協力の下で、その取組を強化すべきである。その際には、共同体形成にとって大きな共通課題となるエネルギー及び環境に関する枠組みについても十分対応すべきである。また、政府は、国益を踏まえた明確な戦略の下で、FTA・EPA交渉等の政策を実施することが不可欠であるとの認識に立ち、関係省庁の政策を調整し、一層の連携・協力を図るべきである。

3 人間の安全保障に関する国連機関の我が国への設置

 我が国は、これまで人間の安全保障の視点を重視した外交を推進しており、国連の場においては、人間の安全保障概念の整理、普及及びその実践のために努力を行ってきている。我が国には世界的な研究機関である国連大学本部が置かれており、そこでは人間の安全保障にとって重要なテーマである平和とガバナンス及び環境と持続可能な開発にかかわる諸問題についての研究活動が行われ、我が国もその活動を支援している。我が国は、同大学本部のこれまでの優れた研究成果を国連の人間の安全保障のための諸活動にいかすとともに、人間の安全保障への取組を一層強化するため、我が国に人間の安全保障に関する国連機関を設置するよう努力すべきである。

4 外交政策研究所(仮称)の創設

 国家間の相互依存、内政と外交の一体化が進んだ今日の国際社会において、我が国の国益向上に資する外交戦略を構築するためには、対象国の実情や行動決定原理等を正確に理解する必要がある。我が国では、大学において国際政治学、外交史等の学術的研究が行われているほか、一部シンクタンクが外交政策や外交戦略に関する研究を行っているが、十分な体制とは言えない。我が国は、米国、中国、韓国など、我が国と密接な政治的、経済的関係を有する国を中心に、戦略的外交を展開するために不可欠な知見を獲得するため、実証的な研究を行う外交政策研究所(仮称)を創設すべきである。

5 ソフトパワー活用による外交力強化の必要性

 国際関係の主体が、国家のほか、国際機構、企業、NGOなど重層化している今日、その国の持つ価値観や文化の魅力で相手を惹きつけるソフトパワーの活用は、我が国の外交力を高める上で重要である。留学生受入れなど教育面での国際協力や文化交流は、このようなソフトパワーを生み出すものであり、我が国の外交力を相手側から補うものであることから、政府は民間団体等の行うこれら事業を積極的に支援すべきである。また、学者、ジャーナリスト、NGO等が参加する国際的なフォーラムには、相互理解の促進などソフトパワーとしての効果もあるため、政府は外交上の意義を踏まえた適切な議題を設定した上で、主導的にフォーラムを開催すべきである。

6 環境ODA・環境協力の一層の充実

 開発途上諸国の中には大気汚染、砂漠化、水質汚濁、森林破壊、海洋汚染などの環境問題によって、深刻な被害が生じている国が多い。我が国は環境問題について有する高度な技術、ノウハウをいかしてこれらの諸国に対する環境ODA・環境協力の拡大、充実を図ってきた。今後は、砂漠化や森林破壊など自然環境の変化に対応した支援や環境シミュレーションなどの分野での貢献も行うべきである。その際、環境ODA・環境協力が十分な効果を発揮するために、途上国が真に必要とする受入れ可能な対策を選ぶ必要がある。これらを踏まえ、我が国は環境ODA・環境協力が一層充実するよう措置を講ずるとともに、途上国の環境保全のため、人材育成にも一層努力すべきである。

あとがき

 今日、世界では唯一の超大国である米国が世界の政治、経済及び安全保障の分野において主要な役割を果たす一方、EUの統合・深化・拡大、東アジアの目覚ましい経済発展、インドやブラジルの順調な経済成長、ロシアの復調など、多極化に向けた動きが進んでいる。

 また、東アジアにおいては、分断国家の存在のほか、大量破壊兵器の拡散、軍事力の増強傾向などの伝統的な脅威に加え、テロや地球環境問題を始めとする非伝統的な脅威が存在するなど、地域情勢は依然として不安定・不透明である。他方で、中国を始めとする各国の持続的な経済成長、域内各国間のFTA、EPA交渉の進展、ASEANなどの枠組み等を通じた様々な分野における地域協力の進展などに見られるように、我が国を取り巻く国際環境は大きく変化を遂げつつある。

  こうした世界及び東アジアの情勢にかんがみ、今期の国際問題に関する調査会は、3年間にわたる調査活動のテーマを「多極化時代における新たな日本外交」と定め、1年目は「日本のアジア外交」について重点的に調査を行うとともに、我が国のアジア外交との関連において、日米関係及びEU情勢についても調査を行った。

 2年目においては、「日本のアジア外交」のうち、日中外交の回顧と今後の課題及び東アジアにおける経済戦略と東アジア共同体構築への対応について、引き続き調査を行うとともに、「日本の対米外交」及び「国際社会の責任ある一員としての日本の対応」についても鋭意調査を行った。

 調査会においては、今後、我が国は米国及び急速に台頭しつつある中国に対し、どのような考えの下にいかなる外交を展開すべきなのか、また東アジア共同体構築にいかに対応すべきか、さらに国際社会の一員として、その発展のためどのような対応をすべきかについて、様々な意見が述べられた。

 3年目においては、2年間の調査を踏まえ、多極化時代における我が国外交の在り方について、更に調査を進めていく予定である。

 最後に、本報告に掲げた「提言」については、関係各方面において十分な検討の上、諸施策に反映されるよう要望する。



(参考一)

海外派遣議員の報告(平成18年2月8日)

 昨年12月10日から16日までの7日間、EUの統合と拡大等に関する実情調査並びにチェコ共和国及びベルギー王国の政治経済事情等視察のため、市川一朗君、南野知惠子君、直嶋正行君、前田武志君、澤雄二君、そして私、西田吉宏の6名が参議院から派遣をされました。

 我が国は、米国、EUに次ぐ極となり得る東アジアを念頭に共同体構築に向けた検討や議論を重ねてきております。このような観点から、2度の世界大戦を通じて欧州各国が戦い、対立している状況に終止符を打つべく、共同体の創設を目指し、半世紀を掛けて現在のEUをつくり上げてきた経験と様々な課題や変化を調査することは、本調査会等における東アジア共同体構想に関する議論の一助となり、さらに我が国の東アジアにおける外交を展開していく上で参考になり得るものと考えます。

 このような視点から、EUの執行機関である欧州委員会本部並びにEUの原加盟国であるベルギー及び新規加盟国で著しい発展を遂げているチェコを訪問し、EUの現状と課題等について積極的な意見交換を行ってまいりました。

 現行EUを創設しようとした一義的目的は、欧州各国の平和と安定と自由であり、特に国民にとってこれらは重要であって、その観点から、EUは周辺国とも安定と友好の関係を維持していこうとしているとの説明がなされました。また、EU域内人口は4億5,000万人に達しているが、これらの人々の歴史、文化、言語、宗教等は異なっているが、うまく融合している、世界には様々な経済圏、文化圏があり、種々の対立やテロの問題も出ているが、民主国家を標榜するEUの融合は一つのモデルになるのではないかとの意見が共通の価値観を有しているあかしとして印象に残りました。

 現在、25か国に統合、拡大をしたEUは、世界の一極を占める米国に追い付く努力をしており、EU政策のキーワードを経済成長と雇用創出に置いておりますが、一昨年5月に新規に加盟した10か国も欧州への復帰を果たすとともに、EU加盟による経済活性化を期待している面がうかがえました。

 EUは、統合、拡大、深化、すなわち深まりを遂げる一方、欧州憲法条約の批准延期、中期財政予算をめぐる大国間同士の確執、拡大への疑問などの問題も惹起されておりますが、ベルギーの欧州担当国務大臣は、各国の国民に対してEUのアプローチを理解してもらう努力を重ね、EUは何を目指していくべきか、欧州とは何かを議論していきたい、また、EU域内の経済強化をしていく上で拡大が良い結果を生んでおり、経済発展は小国だけが利益を受けているばかりでなく、大国の国々にも利益になっている、結果として大国も小国も平等であることを忘れてはならないと説明しておられました。欧州委員会の高官もこれらの課題を乗り越える意思を表明しておりましたが、拡大にはイスラム国家であり、人口も多いトルコとの交渉が難しい問題であるとの認識も示されました。

 チェコの第一外務次官との意見交換では、政府外交レベルでは話せないテーマ、事項を議会外交、議員外交で協議できるという意味で、議会レベルでの外交を歓迎したい、また、日本、チェコ両国の結び付きを深めていきたいとの考えが表明されました。特に、日本のチェコへの投資はドイツに次いで多く、日本に対する期待が大きいと感じました。これに関連しますが、チェコでは158社の日系企業が進出をしており、派遣団一行も自動車の合弁会社を視察をし、我が国企業の欧州における雇用と経済発展に寄与している実情を確認できました。

 最後に、今回のEUの拡大と統合等の実情調査において、EUの課題の一つになっている少子高齢化問題がありますが、EUではチェコを含め出生率が低く、少子化、これに伴う高齢化が経済成長との関連で問題となっております。欧州委員会の経済・財務担当高官は、EU圏の総人口は減っていく傾向にあり、その結果、労働人口も高齢化していくだろう、年金の問題を考えると高齢者と女性の雇用率は高まると予測をしているとのことでありました。雇用政策面では、若年労働者の雇用創出を考えると同時に、退職年齢の延長も念頭に入れていかねばならないとのことであります。また、チェコの財務担当高官は、社会保障政策面で子供のいる世帯の女性に対する年金の優遇、義務付けられている私的年金への税の補助等の措置を実施ないしは検討しているとのことでございました。

 以上が今回の調査概要報告でありますが、EU拡大・深化について課題があっても乗り越えるという欧州委員会事務局幹部の信念がうかがえると同時に、ASEANを中心として我が国も検討している東アジア共同体との相違性も認識でき、今後の議論に参考となる示唆が多くあったと考えております。

 簡単ではありますが、これで私の報告を終わらせていただきたいと思います。

(参考二)

参考人意見陳述要旨

「日中外交の回顧と今後の課題」(平成17年10月26日)
○朱 建栄 参考人(東洋学園大学人文学部教授)

 日中間は非対等の関係が長年続いたが、今初めて両雄並立という時代になった。双方とも対等な関係に対しどのように対応すればいいのか、相手の将来の行方がどうなっていくのかという懸念もあり、日中双方の見方が揺れている。日中間では経済的・人的・文化的交流が進んではいるものの、相互理解が不十分であり、利益の衝突も生じている。このことが日中間で多くの問題点をつくり出している。

 昨年4月の反日デモは共産党によって起こされたものではなく、その背後には経済の改革・開放政策によって中国社会が地殻変動を起こし、国民意識の変化が生じていることがある。市場経済化によって、中国の政治、経済、国民意識は大きな影響を受けざるを得ない状況になった。経済発展によって国民の所得は増え、経済構造が変化したが、他方で貧富の格差や地域格差などが生じている。中国では中間層が5億人近くに達していることが、現在の中国社会の変動、対外政策及び中国政治の今後を左右する一番の要素になっている。

 ナショナリズムの高まりによって、中国人の批判の目が日本に向けられているが、靖国問題の本質は理解されていない。また、情報化時代の到来やインターネットの普及がナショナリズムの表現を多様化させており、共産党の統制が有効に機能しなくなっている。このような状況において、中国政府も従来になかった民意の上昇にある程度対応せざるを得なくなっている。

 外交面では、これまで中国は多国間の枠組みに非常に警戒的だったが、最近は多国間の枠組みを重視する方向に急速にシフトしている。また、地域及び世界の共通利益を強調するようになった。さらに、今までは大国との関係重視だったのに対し、ここ数年、東アジア重視に変わってきている。この背景には、中国が外部との協調をより重視せざるを得なくなったこと及び冷戦以後唯一の超大国になった米国への警戒感の裏返しであることの二つがある。

 胡錦濤主席は、外交的に対日関係の改善に取り組もうとしている。そのため、江沢民時代と異なり、日中関係拡大の中で歴史問題を乗り越えていくという出口論的アプローチを取り、また、日本と長期にわたる戦略関係を持つことを重視している。

 日中双方にとって、日中関係は重要であることを再認識すべきである。また、今後様々な交流の拡大、特に議員交流を拡大していくことが重要である。中国のGDPは日本の3分の1にすぎず、日本は中国に追い抜かれるということに受動的な対策を考えるのではなく、中国を変えていくというような能動的、主導的な対応で、日本の国益やアジアの平和を考えていく必要がある。

○天児 慧 参考人(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)

 日本の現在の外交戦略課題が見えていない。例えば、日本は国連安保理常任理事国入りを外交課題にするなら、なぜアジアとの関係を重視しないのかという疑問が出てくる。日米同盟は日本にとり非常に重要ではあるが、それだけですべて順調にいくと本当に考えていいのだろうか。米国の論理によって米国がG4案に反対したことを、うまくいかない事実として言える。日本が国際的なプレゼンスを減少していき、あるいは米国にとって日本の利用価値が弱まった時、米国は日本をどう見るのかを考える必要がある。

 日本では中国に対する感情的反発論が非常に目立ってきている。中国の専門家でない人の中国批判本が多数出ており、そのことが外交オプションを狭めているという問題がある。日中間では「政冷」が言われているが、経済にも影響が出る可能性がある。日本は中国市場でのチャンスがしばしば欧米との競争において不利になってくるだろう。また、現在の胡錦濤政権は、日本との関係において重要議題に関しては話に乗ってこない。このことは、新たな段階の日中協力の枠組みをどうつくるかという機会を失わせていくことになる。

 アジアにおける日本のプレゼンスは、アジアの諸問題を日中で話し合い、日本の対中影響力を示すことによってアピールすることができるが、それができない。ASEAN自身も中国のプレゼンスに対する不安があり、日本にもプレゼンスを示してほしいと思っているが、日中対話がない中で、中国とASEANとの関係あるいは中韓の関係が進んでいけば、ASEANの日本に対する失望感が出てくる。韓国は最近中国に傾斜しており、歴史問題においてこのままでは日韓間で信頼関係を持てないという意識が非常に強くなっている。日中韓の外交課題、外交協力の動きが消極的になっていることによって、日本は東アジア共同体構築のイニシアチブを失っていると言わざるを得ない。

 中国は、この先世界第三位の経済大国になり、軍事力も強化され、国際社会でも積極的な役割を果たしていくだろう。また、大枠で台湾を取り込み、香港と合わせた強大な中華圏を形成する動きも出るだろう。

 日朝国交正常化交渉でも歴史問題は重要な問題になってくる。日本が歴史問題で明確な対応をしない限り、問題の解決は難しい。さらに、現在進行している中韓連携に北朝鮮が加わると、日本は立ち往生の状況に陥る。

 日本は部分的な国益論ではなく総合的国益論の発想を持つ必要があり、また、アジアにおけるパワーの移行が進んでいるという前提に立って、外交戦略を組み立てる必要がある。さらに、中国への経済援助外交を見直し、多極間協力をつくっていくなど強化していくことが、日本のプレゼンスを高めることになる。

 国際社会における日本のプレゼンス低下にならぬよう、また、中国に差を付けられぬよう、今こそ冷静沈着で柔軟な外交判断が日本のリーダーに求められている。

「今後の日米同盟の在り方」(平成18年2月8日)
○坂元 一哉 参考人(大阪大学大学院法学研究科教授)

 日米同盟は、日本の基地を貸与して安全保障を得ることを基本としており、互いを守るという通常の意味での同盟関係の側面が弱い。抑止は見えにくく、負担は目に付きやすいため、このバランスを図る作業が双方に不満を生じやすいので、互いを守るという形を強化していく必要がある。その観点で米軍再編を見ると、グアムが日米同盟の将来に果たす役割は大きく、また、世界規模の米軍即応展開を支える戦略展開拠点の一つと位置付けられる島で、これまで以上の戦略的意味を持つようになる。

 昨年10月の米軍再編と日米同盟に関する中間報告では、沖縄駐留の第三海兵機動展開部隊司令部のグアム移転及びグアムにおける日米共同訓練の強化がうたわれている。前者について、米国側には移転した海兵隊が日米同盟の目的に即して移動をする場合、日本側から輸送などの後方支援協力を得られるとの期待があり、それができれば、日米が互いを守るという形の協力を増加することになる。後者は、自衛隊と米軍が協力して日米同盟の有事対応能力を高め、東アジアの軍事バランスを日米両国に有利なまま維持するのに役立つ。

 冷戦後の地域紛争やテロとの戦いで相互性を求めるなら、日本国の施政の下にある領域を超えた場所での防衛協力が必要になる。新ガイドライン等は、日米同盟を基地の貸与をして安全保障を得るだけの関係から脱却させようとした努力の結果であり、米国は高く評価している。

 中間報告にあるグアムの位置付けが同盟強化に重要な役割を果たすのは間違いないが、その延長線上で日本は何ができるかを考えれば、一つは、グアムに訓練目的で基地施設を使用させてもらうことである。このような状況が実現すれば、海兵隊移転への資金援助も訓練施設の事実上の利用料とみなせる。もう一つは、日米協力でグアムと沖縄の間の公海上のシーレーン防衛を行うことである。これは事実上、グアムの共同防衛につながる。政府が、集団的自衛権について、持っているが行使できないとの憲法解釈を取り続けているため、正面切ってグアム防衛に協力するとは言えないが、近年、限定的には集団的自衛権の行使を認めるべきという議論が強まりつつある。

 現在の憲法でも集団的自衛権は行使できるので、地域を限定した範囲で集団的自衛権を行使するための法律を制定し、その法律の範囲内でも武力行使には慎重な政策を取る。その前提で、日本の領土、領海、領空、公海とその上空で集団的自衛権の行使ができればよい。

 米国との良好な関係が重要で、日米同盟は互いを守るという方向で更に強化しなければならない。そのためにグアムがこれから大事なポイントになるし、また、集団的自衛権は限定的でもよいから行使できるようにするべきである。

 米国は政治、軍事、経済その他で他を寄せ付けない力を持っているが、全能ではない。米国は世界の多くの問題に関与するため、力が分散され、ますます同盟国、友好国の協力が必要である。そこに日本外交にとっての大きな安心とチャンスを見いだすことになる。

○岡崎 久彦 参考人(NPO法人岡崎研究所理事長・所長)

 日本は日米同盟だけができて、それ以外の国とは何もできないようになっている。この構造を変えない限り日本の孤立は避けられない。自ら選んで孤立している、例えば、中国が南沙群島まで進出していた1988年、タイの総理大臣が南シナ海での共同演習を公式に当時の防衛庁長官に対して打診したが、断らざるを得なかった。その後、タイは非公式に同じ問題を提起してきたが、これにも日本は反応せず、日本が頼りにならないと見たタイは、その後、概ね中国の政策に追従するようになっている。

 日本が過去約20年間に、集団的自衛権行使の問題でどれだけの好機を逸しているか。80年代、仮に日本がマラッカ海峡のパトロールに海上自衛隊を出していれば、東南アジアは賛成し、ソ連の脅威を受けていた中国も賛成しており、日本の東南アジアにおける地歩は確立していた。日本は戦後、東南アジアに大量の資金と技術援助を注いできたにもかかわらず、日本の常任理事国入りについて、一か国の支持も得ていない理由は、それらの国が中国の脅威を感じつつも、日本が集団的自衛権を行使できないので、それらの国にとって安全保障上意味がないためである。

 洋上パトロールを今実施しようとすれば、中国は反対、東南アジア諸国は内心は日本に来てほしいが黙っている。しかし、日本が米国と一緒になって強行すればどの国も反対できない。これを実施すれば、今からでも日本は東南アジアにおける自分の力を回復できる。

 集団的自衛権は自然権としてあるが、行使は許されないという判断を政府はずっと続けている。それが日本の外交、国民の繁栄にとってどれだけの害を及ぼしているか。集団的自衛権の行使で様々な問題が解決し、日本外交の展望が開けてくる。

 中国の軍事力は、長期的に見れば相当な脅威である。東シナ海の平和は、中国のようなアグレッシブだが力のない国の存在と日本のような平和主義、専守防衛という方針を取っている力を持つ国の存在とでバランスが取れる。しかし、現在の中国のビヘービアと力を行使しない日本との関係で力のバランスが崩れると相当難しい状況になる。中国が軍の近代化を始めて約10年が経過し、相当な力になっており、極東のバランスはいつか崩れるだろう。

 日本の軍事力は朝鮮半島、台湾海峡の軍事バランスの中でゼロに計算されているが、日本が集団的自衛権を理論的に行使できると決まれば、日本の戦力を全部計算できることになり、東アジアの戦略環境は一変し、非常に安定する。平和であっても東アジアが安定しない限り、中国は、日米間を分断できるという期待を持って外交を行うため、いつまでも問題が起こる。

 日米同盟さえ維持していれば、安全と繁栄に資するため、現在の生活水準を概ね保証できる。米国の利益となる日米同盟を米英同盟と同じようにすれば、米国の国際国家戦略は理想型になる。このような外交を行っていけば、日米同盟は万全である。

「北東アジアをめぐる日米関係」(平成18年2月15日)
○伊奈 久喜 参考人(日本経済新聞論説委員)

 世界は政局状態にある。すなわち、冷戦構造が崩れ、新しい秩序においてプレーヤーが自分の立ち位置を探し求める動きが、この15年ぐらいにあったと考える。例示するなら、第一に、米国がスーパーパワーからハイパースーパーパワーになったこと。第二に、通貨ユーロが使用される状況になってヨーロッパのアイデンティティーが強くなり、米国に対する対抗意識のようなものも強くなっていること。第三に、中国が成長し、経済的、政治的、軍事的にも大きな存在になってきたこと。ロシアが世界一の原油国になって自信を深めてきていることや、インドの台頭も注目される。また、ASEANも自信を付け、東アジアを自分たちで管理していきたいという気持ちがある。このような政局状態の中での日本の位置について、米ジャーナリストは米国と日豪英の3国との関係を同じレベルに並べていたが、小泉政権は、その位置でいいと判断したのであろう。

 北東アジアにおける安全保障上の懸念として、すぐに想起されるのが北朝鮮と台湾だが、北朝鮮問題はなかなか動かないであろう。中韓が望む現状維持にならざるを得ないかもしれない。日本は今後、あめとむちのうち、むちの部分なしには事態が動かないと判断し、その部分を見せていくであろう。次に台湾は危機的かについてだが、米中関係について言えば、相互依存による共存か同盟強化による脅威への対抗かで、米国の対中観が揺れている。仮に、台湾海峡で異変が起これば、米中関係はうまくはいかないだろう。他方、相互依存を強めている米中経済の摩擦が感情的なものにつながっていく可能性もある。

 一方、日米の経済摩擦は、80年代のようなことにはならないだろうが、米国の自動車産業が不振で、自動車問題が非常に米国人にとってセンシティブとの指摘もあり、若干の注意が必要だ。また、牛肉問題は日本にとってセンシティブな問題だが、これにより米国の自由貿易主義者を敵にしてしまうことが起こると少なからず問題になる。

 今の日中関係は、近隣国であり、大国であり、経済的相互依存が深く、かつ共通の敵を持たないという四条件の下にある。この条件下で政治的に良好な関係を持った二国間関係の例があるかとの問題提起について、米英、独仏、中ロ、米加と比較検討されるが、納得できる説明を聞いたことがない。その意味で日中関係は難しい関係が続くと思われ、一刀両断にこうすればよいという解決策はないであろう。

 日米関係の観点で、米国政府は、短期的には日中関係の現状を好ましくないと思っているが、長期的にどのように考えているかは別問題である。靖国問題は日米関係にもある程度大きな議論の要素になっている。

 東アジアをEUのような共同体にする作業はほとんど不可能ではないか。経済に限るということを暗黙のうちに考えているのなら、米国も問題にしないであろう。

 このような政局状態の中で、単に日本は自立すればいいという議論は、一見もっともらしいが、難しく、そう単純ではないと考える。

○藤原 帰一 参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 外交政策の選択について大きな課題が二点ある。安全保障で重要である対米外交と経済で重要だが不安定要素のあるアジア外交とをどう結び付けるかという問題及び核を保有しない国家が安全保障においてどのような選択肢を持つかという問題である。核を持たない国の抑止は、核保有国が他国のために核兵器で守るということに意味があるのかという問題が生まれるため、相手に付け入られるすきがある不安定なものになる。

 同盟を考えるときに、大国との同盟は巻き込まれの恐怖と置き去りの恐怖を念頭に置いておく必要がある。さらに核保有に関連して述べると、米国の核の傘を日本が使うやり方は、日本が単独で行動できないという非常に有利な条件を米国に与え、他方、日本の単独核武装は、日米関係に大変な不安定をつくる。だとすれば、日本は米国の核の傘で自国を守るという戦略を続け、地域の外交でこの不安定を補っていくという選択が生まれることになる。

 北朝鮮の危機であるが、同国の核保有という問題だけではなくて、核拡散の危機を招く。つまり、新たな核保有国が生まれた場合、核の傘は不安定なため、核を持たない国は自分で核を持とうという誘惑が生じる。ここにおける政策目標の設定において政権打倒と抑止・均衡とが考えられるが、北朝鮮政権打倒の戦争はコストが掛かり無理とすれば、抑止と均衡という戦略に戻る。米軍の核抑止力で北朝鮮は抑止されてきた現実を踏まえる必要があるし、北朝鮮との交渉は抑止という脅し抜きに考えられない。経済制裁は、実効性を考えなければ紛争の長期化しか招かない。さらに言えば、米国にとって北朝鮮問題は地域問題にすぎず、優先順位は低い。日米のみでの対応は問題の長期化と膠着しか招かないし、中国と韓国を巻き込むことなしに打開できないことを覚悟する必要がある。

 中国問題は、軍事大国で厳しい政治闘争が行われているという不安定の懸念材料がある。中国は異常な被害意識、妄想を抱いてきた国家で、非現実的な判断に基づき軍事力の増強を続けてきた。人民解放軍は敵の脅威を過大に伝えることでしか自分の存在を確保することができない。中国指導部の一番の問題は軍改革に手を着けていないことである。

 他方、中国は経済大国に向かっており、経済外交に目を向けるのは当然である。米国を多国間貿易協議の中で抑え込むため、東南アジア外交重視へ急転回した。インドも中国の重要なパートナーと変わった。経済大国という期待で、アジア各国も中国を向いた。我々が目を向けるべき問題は、軍事的に中国に対して劣勢に立っているという議論以前に、経済外交において中国に圧倒的に後れを取ってしまったことである。

 台湾問題を除いた領土紛争について中国の大規模な軍事攻勢を今恐れなければいけないという状態にはない。台湾については、中国側には日米が支援することになる軍事手段が取れないジレンマがある。このようなことから中国は軍事的に大きな脅威だが、外交というオプションがなくなった相手ではない。

 問題は、中国が防御だと考えている軍事戦略の根拠を壊すことで、ここでも抑止と外交の組合せが前提になる。ここでの問題は、我が国の兵力増強が封じ込め効果を持つということは誤りで、中国を封じ込めることができるのは米国以外にないということである。

 安全保障だけ考えれば対米関係強化が必要だが、これがアジア外交で有利な結果を生むと考えるのは間違っており、二国間協力強化と並びアジア外交を広げることが必要になってくる。

「東アジアにおける経済戦略と東アジア共同体構築への対応」(平成18年2月22日)
○小川 英治 参考人(一橋大学大学院商学研究科教授)

 東アジアにおける通貨協力や東アジア共同体の中での通貨の在り方に関して大きな問題になった契機は1997年のアジア通貨危機である。当時アジアのほとんどの国がドルペッグ制を取っていた。東アジアの国々は米国以外の国とも貿易をしており、域内貿易も盛んになっている。また、東アジアに生産ネットワークができ上がりつつある。こうしたことからドルに固定するのは間違いであることがアジア通貨危機の教訓である。

 現在、東アジアの通貨当局間で政策対話が始まっているが、このほか、各国国内のGDPやインフレといった経済変数について相互に監視することも行われている。

 現在FTA、EPAが十分に締結されていないが、将来ほぼすべての東アジアの国との間でFTA、EPAが締結されると関税がゼロになっていく。そのとき貿易面において障害になるのは為替リスクあるいは為替交換の取引費用である。東アジアでは現在、変動為替相場制度、管理フロート制、ドルペッグ制、カレンシーボード制などの為替相場制度が採用されている。中国は去年7月21日、通貨バスケットを参照しながら為替政策を行うことを発表し、マレーシアもこれに追随したが、中国の実態は90%以上ドルにウェイトを置いた為替政策を行っているため、大きな変化は見られない。その意味で中国はドルペッグ制の弊害をまだ抱えている。

 現在、米国の経常収支赤字が非常に大きくなっている。もし将来ドル安が起きると、それに連動しているアジアの通貨が上下し、各国間で協調の失敗が起こる可能性がある。また、東アジアにおける様々な為替制度の採用が域内の為替レートの不安定性を呼び、域内の生産ネットワークに不安定要素を及ぼすという可能性がある。

 現在通貨危機に対処するためにチェンマイ・イニシアチブがあり、これに加えて、通貨危機予防のためのサーベイランスも行われているが、為替相場の問題は十分に議論されていない。AMUあるいはアジア開発銀行のいうACUといった東アジアの共通通貨単位が、このチェンマイ・イニシアチブの発展した形としてサーベイランスの中で議論されていくことを希望している。またそれは将来、ユーロのようなアジア共通通貨に発展していく可能性も秘めている。

 アジアで自国通貨が安定し、国際通貨として通用している国、また主導権の取れる国は日本しかなく、円を中心にアジアの共通通貨をつくっていくことが必要である。これは、アジアにおける将来の通貨危機発生防止や経済発展を考えていくのに寄与する。そのためには、技術面、政策面のノウハウが進んでいる日本が主導権を持って、中国、韓国あるいはASEAN諸国と協力しながら通貨協調あるいは通貨政策のコーディネーションをしていく必要がある。

○津上 俊哉 参考人(東亜キャピタル株式会社代表取締役社長)

 中国は高い経済成長率を続けており、2005年に中国が発表した経済センサスによれば、中国のGDPは日本の半分に達しようとしている。今後、日本は10年くらいでGDPで中国と肩を並べられるかもしれず、人民元の為替レートの上昇が速ければ10年も掛からないかもしれない。

 2004年、中国は米国を抜いて日本の最大の貿易相手になった。中国からの輸入が大きいだけではなく、日本の輸出先としても急激に大きくなっている。この2、3年の間に中国は日本の最大の輸出先になる可能性が高い。昔の日中貿易は、原材料を中国から輸入して日本が製品を輸出するという典型的な垂直分業の輸出構造であったが、最近は日本から中国へも、また中国から日本へもお互いに資本財あるいは製品を往き来させることが伸びており、水平分業型の貿易構造に急速に変わっている。これは日本の多くの日系企業が現地に進出して国境をまたいだ親子間取引をしているという意味で、日中経済が更に深く有機的に結び付き始めたことの表れである。

 今日、もはや中国は一番コストの安い生産国ではないが、マーケットとしての側面を考慮すれば、もう中国の時代ではないと言うのは大きな誤りである。今の日本の外需はアメリカと中国によって支えられており、ほかのインド、ブラジル、ロシア、あるいはベトナムを含めた国への輸出総額は対中輸出額の20分の1以下である。マーケットとしての中国は極めて重要であり、中国からどれくらい受益できるかが日本経済の盛衰を左右すると言える。しかし、アジアの経済統合が進んでいる中で日中のFTAはあまり論じられていない。現在は日中がFTAを議論するような状況になく、また日中FTAが実現すればメリットも特大だが、弱い産業が受ける痛みというデメリットも特大である。他方、事実上の日中経済統合が急激な勢いで進んでいるが、日本はそこから十分にメリットを得ておらず、日本が自分でそのメリットを享受しようとしていないし、享受しようとする気になってない部分もある。また、日中間では人の移動が大きな問題として残っているが、今の出入国管理制度は、日中の現状から見て非常に合わないものになってきている。

 日中の経済関係がウイン・ウイン型に発展していく上での課題は、双方の通貨が今よりももっと安定することであり、通貨協調も今後行っていく必要がある。日中関係では政治が良好な関係でなくても、経済関係が後退するということは考えにくく、趨勢としてこの関係は更に進展するだろう。

 今後の日中双方に望まれることは、日本は中国に対する古い固定観念を捨てて、新しい現実に適応した中国との付き合い方を学ぶべきであり、また、中国も世界からどういう目で見られているかを考え、大国としての度量ある振る舞いをするようにしないといけないだろう。

「人間の安全保障の重要性」(平成18年3月1日)
○稲田 十一 参考人(専修大学経済学部教授)

 人間の安全保障という言葉は日本では平和構築の概念と関連して用いられている。国連も人間の安全保障基金を創設し、日本も資金提供をしている。他方、国際的に見ると欧米や世界銀行では人間の安全保障というよりも脆弱国家という言葉が頻用されている。2005年春のOECDの開発援助委員会(DAC)で用語統一の必要性が指摘され、脆弱国家をキーワードに経験交換、効果的支援の在り方を模索することになった。支援の具体的対象を見ると、各国、各国際機関ともコミュニティー開発、行政能力・民主的政治制度の改善、意思決定能力・実施能力の強化、住民のエンパワーメントなどほぼ共通化している。

 開発と紛争の減少、平和との関係について様々な議論がある中で、一般的認識として開発は平和につながるとするが、実証されているとは思えない。2002年、世界銀行は組織的に調査を実施し、同調査は資源のあるところに紛争が頻発するとの結論を出したが、実務的には現実の途上国の紛争要因は極めて複雑である。援助機関は、紛争要因を構造的要因、引き金要因、継続要因というような分類をし、援助を進める上で配慮している。世界銀行を始め、日本、イギリス、米国、ドイツなどの諸国の援助機関の援助マニュアルなどにその具体的配慮が見られる。

 多くの支援国、支援機関は、被支援国の予算の使用・配分について深く関与しない傾向にあったが、1990年代初めの湾岸戦争を契機として見直す動きがあり、開発途上国の貧困削減などのための予算の使用・配分に関与する流れが定着してきた。効果的支援のために相手国の公共財政の管理が重要であるとの視点に立つものである。

 平和構築・復興支援においては開発・復興の分野だけでなく、治安・安全保障部門改革、民主的政治体制整備の三分野を同時に進めていく必要がある。日本の支援の中心は開発復興支援となっているが、治安・安全確保、民主的政治体制づくりへの貢献も求められている。後二者におけるODAを使った支援に際しては、日本政府は経験が浅く、そのスタンスに揺れがある。

 紛争関連地域で開発や貧困削減事業を進めている例は幾つもあり、今後重点を置いて進めるべきである。日本のODAによる紛争地域の支援に当たって、無償と技術協力と円借款の連携は、極めて重要であり、今後、改善が期待される分野である。また、平和構築や開発復興で大きな役割を果たしている世界銀行グループ等との連携が重要である。現在の日本の援助体制では、このようなところの連携は弱く、今後大きく改善していく必要があると考える。

○松下 和夫 参考人(京都大学大学院地球環境学堂教授)

 環境の安全保障という言葉は、米国の識者が1989年の専門誌上で、環境破壊が直接に紛争と結び付く、熱帯林の破壊・砂漠化・水資源の不足など環境破壊が地域紛争の原因となっている、よって環境を安全保障の重要な要素として付加すべきと主張して世界的注目を集めた。この主張とほぼ軌を一にしてオゾン層破壊、地球温暖化の問題が国際政治の重要課題として出てきた。人間の安全保障を考える上で、環境の安全保障が重要な一環となっており、外交上、国際政治上のテーマにもなっている。

 人間の安全保障の確保のために日本は環境の安全保障をどう推進すべきかについては、第一に、狭い意味での国益でなく、人類益、地球益の立場で非常に高い理念を掲げて環境を軸とした戦略的外交を展開する必要がある。環境面で言えば、国際環境協力体制の枠組みづくりへ積極的に関与すべきであり、例えば我が国でできたルールを国際的ルールにしていくことが求められるが、この面ではEUが主導となっており、現在の日本は後れをとっている。第二に、環境協力が地域の平和確保と安定に寄与するとの考え方が必要である。環境面での協力は、地域全体の安全と福祉に寄与し、やり方によってはプラスサムやウイン・ウインの結果を生む。第三に、東アジア環境共同体の考え方で外交を進める必要がある。東アジアでの有害廃棄物の不法な移動の取締り、循環資源の活用、東アジア循環共同体など日本が主唱している構想もあり、東アジアでのクリーンエネルギー利用の拡大などにも日本はイニシアチブを取る必要がある。第四に、開発途上国は気候変動、森林破壊などの環境の変化に脆弱であるので、これら諸国への協力、支援を強化する必要がある。また、海面上昇、気候変動などに対応した農業の支援、環境変動への適応策などの整備にODAの供与を考えていくべきである。コンピューターを用いた地球観測、シミュレーションなどの分野の支援も非常に期待されている。第五に、国際的貢献のためには国内における進んだ技術、システム、制度の存在が前提となる。そのため、非常に優れた技術を持ち、取組を行っている個々の企業や自治体を支援できるシステムや政策、仕組みを構築する必要がある。

 脱温暖化社会に向けた長期目標を明らかにして、ビジョンを作り、温暖化対策への公共投資、民間投資、技術開発等を推進していく、そして、環境面で努力する企業、自治体、NPOが報われる体制を構築する必要がある。また、これら国内的努力で成功を蓄積した上で国際的枠組みへの我が国の貢献が必要であり、また、脱温暖化社会へ移行するため、国連を中心とした多国間の取組を中心として世界的枠組みの中で進めていくべきである。

「多様化し拡散する脅威への国際社会の対応」(平成18年4月5日)
○納家 政嗣 参考人(一橋大学大学院法学研究科教授)

 非国家アクターが惹起する多様化した脅威が現在の国際関係において非常に重要な問題となっている。その行動の特徴は国家のように合理的な行動をしないこととルールのすき間をついてくることである。多様化した脅威の中で国際テロ、麻薬、組織犯罪、大量破壊兵器の拡散の四つのすべてが関連していることが大きな問題となっているが、主として国際テロと大量破壊兵器の拡散について触れたい。

 国際テロの広がりの大本は、ソ連が侵攻したアフガニスタンの戦争以降にある。ソ連が介入したアフガニスタン戦争とその後の内戦時代を通じ、35か国から2万5,000人のゲリラ戦士がアフガンに集合し、この集合の離散が現在のテロ・ネットワークをつくるのに多大に貢献した。1991年の湾岸戦争が米軍のサウジアラビア駐留を招き、原理主義教育を受けた人たちがこれに反発した。ゲリラ戦士が目標を内戦から反米に転換したのはこの反発が原因である。反米テロの最終的帰結が9・11事件である。同事件は米国によるアフガニスタンのタリバン掃討を契機とし、その後の朝鮮半島から中東等に至る不安定の弧をにらんだ米国の対テロ戦略体制を整えていったことにつながった。

 テロリストの広がりの背景として、イスラムと近代化という複雑な問題がある。市場経済化で貧富の格差が広がっており、テロリストは、これら貧困層への福祉活動等を行い、民衆の中にテロリストでない形で浸透し、同時にテロリスト育成も行っている。また、産油国の富裕層の寄附の一部はテロリストへ流れ、これを原資にして企業活動をしたり、麻薬等の犯罪行為に手を染めている。結果として、それぞれの国の行政や福祉の活動の不十分なすき間を埋める形で浸透し、テロリストの活動が広がっている。

 冷戦後の大量破壊兵器、中でも核の拡散は国際社会の標準に適合しない国々による駆け引き材料として所持したいとの願望が背景にある。国際原子力機関の報告によれば、パキスタン原爆の父カーンによる核情報コネクションは20数か国にネットワークがあるが、それは氷山の一角であるとされる。大量破壊兵器のやみの世界とテロリストの裏の世界は重なり合っている部分がかなりある。米国はこれを最大の脅威と認識しており、この重なりは否定し難いところに来ている。

 非国家を主体とする脅威発生の背景に二点指摘される。一点目は、多数の植民地から独立した諸国が東南アジア諸国を除き国内統治の未熟性を克服できず、冷戦後の絶望的社会がテロリストを英雄視する風潮を世界に生み出したこと。二点目は、統治未熟国家に対する米国の対応がある。従来と異なり90年代後半以降は民主化を掲げて武力行使により解決する手法が米国の主流となった。しかし、米国は一時の勝利を得ても、進攻した国の後始末ができず、かえって新しい脅威を惹起している。結論としては、多様化した脅威の除去のためには個々の国の統治、治安を確保し、機能させることが最も重要である。

○福島 安紀子 参考人(総合研究開発機構主席研究員)

 21世紀における日本外交、脅威への日本の対応と戦略について四点述べたい。

 第一に、日本にとっての潜在的脅威とは何かである。現在、伝統的脅威と非伝統的脅威の両方に直面しているという複雑な安全保障環境にあることが最大の課題であり、これに関する有効な対策を持つ必要がある。

 第二に、この脅威に対してあるべき対応と戦略である。伝統的脅威たる戦争に対しては国としての防衛力と日米同盟による抑止が必要であり、また、その脅威の低減を外交に担わせる必要がある。非伝統的脅威に対しては地域安全保障あるいは国際安全保障の枠組みを考えていかなければならない。

 第三に、日本外交が持つべき対応と戦略である。第二次大戦後の日本外交は対米関係と対アジア関係の二大変数を持つ方程式を解く努力をしてきたが、アジアにおける日本の相対的なステータスの変化に対応する必要がある。また、アジアに対するバイとマルチの相関関係とバランシングを考える必要がある。バイでは日本の学者を中心とするアジア各国向け世論調査(アジアバロメーター、2003年開始)は日中間及び日韓間の信頼回復の必要性を示唆している。この世論調査を見ると、アジアの中でバイに対するマルチの巧妙なバランシングが必要であるとしている。日中、日韓あるいは3か国間の歴史問題は、謝罪ではなく、中国との和解、韓国との和解が重要であり、その解決には勇気と努力が必要である。その意味で、日本は自国の防衛と地域の安定、国際平和のための軍事力を持ち、経済力、技術力、情報力、文化力を総合したソフトパワーとして志を同じくする国々と連立して問題に取り組む必要がある。マルチでは台湾問題や北朝鮮問題の解決後、アジアで何をできるか考えるべきである。例えば、東アジア共同体構想の実現にはまず非伝統的脅威への対処面で機能的協力を積み重ねる作業が必要で、アジアのピースキーパーの役割を果たすことにも通ずる。これは米国にとっても有益であると言える。また、日本は、日本らしい謙虚さを保持しつつ、必要なときにははっきりと自分の考えを明言してマルチを推進し、バイとのバランスを取っていくべきである。

 第四に、21世紀における新たな日本外交に対し三項目提言したい。まず、日本は魅力あるソフトパワーを目指すべきである。次にすき間外交の推進である。つまり軍備管理、不拡散における日本のこれまでの大きな努力を主張し、日本らしい不拡散に向けた努力をしていくべきであり、また、中央アジア等の地域における協力も行っていくべきである。最後に海洋アジア協力の推進である。不安定の弧にある東アジアの海を競争の海ではなく、豊穣の海、協力の海にしていく発想が必要である。