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国際問題に関する調査会

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国際問題に関する調査報告(中間報告)(平成17年7月20日)

目 次

一 調査の経過

1 調査会活動テーマの設定

 国際問題に関する調査会は、第161回国会の平成16年10月12日、国際問題に関し長期的かつ総合的な調査を行うため設置された。本調査会は、3年間にわたる調査活動のテーマを「多極化時代における新たな日本外交」と決定し、調査項目として、「日本のアジア外交」、「日本の対米外交」、「日本の対EU外交等」及び「国際社会の責任ある一員としての日本の対応」について、調査を進めることとした。

2 第1年目の調査

 「多極化時代における新たな日本外交」のテーマの下、第1年目は、「日本のアジア外交」について、(1)日中外交の回顧と今後の課題、(2)東アジアにおける不安定要因の除去、(3)東アジア共同体構築に向けての課題について、幅広くかつ重点的に調査を行うこととした。また、「日本のアジア外交」との関連において、「日本の対米外交」では「21世紀における日米関係」、「日本の対EU外交等」では「拡大するEUの現状と今後の方向」についてそれぞれ調査を行うこととした。

 第1年目の具体的調査活動は、次のとおりである。

○平成16年11月24日(水)
「日中外交の回顧と今後の課題」について、毛里和子(早稲田大学政治経済学部教授)、莫邦富(ジャーナリスト、作家)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年2月9日(水)
「日中外交の回顧と今後の課題」について、国分良成(慶應義塾大学法学部教授、同大学東アジア研究所所長)、孔健(ジャーナリスト)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年2月16日(水)
「日中外交の回顧と今後の課題」について、高原明生(立教大学法学部教授)、若林正丈(東京大学大学院総合文化研究科教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年2月21日(月)
「東アジアにおける不安定要因の除去」について、小此木政夫(慶應義塾大学法学部教授)、高木誠一郎(青山学院大学国際政治経済学部教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年2月23日(水)
「21世紀における日米関係」について、五百旗頭真(神戸大学大学院法学研究科教授)、船橋洋一(朝日新聞社コラムニスト、同編集委員)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年2月28日(月)
「拡大するEUの現状と今後の方向」について、羽場久シ尾子(法政大学社会学部教授)、渡邊啓貴(東京外国語大学外国語学部教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年3月2日(水)
「東アジア共同体構築に向けての課題」について、山影進(東京大学大学院総合文化研究科教授)、朴一(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年4月6日(水)
「東アジア共同体構築に向けての課題」について、白石隆(政策研究大学院大学教授)、田中直毅(21世紀政策研究所理事長)の両参考人から意見を聴取し、質疑を行った。
○平成17年4月18日(月)
「日本のアジア外交」を中心に各会派からの意見表明及び委員間の意見交換を行った。

二 日本のアジア外交

1 日中外交の回顧と今後の課題

 我が国は、1978年の日中平和友好条約締結以来、近隣の大国である中国との外交を進めているが、アジア太平洋地域の安定と繁栄の確保のため、中国が国際社会においてより一層建設的なパートナーとしての役割を果たすことを期待し、二国間・多国間対話と協力関係の推進及び改革・開放政策を支援している。中国は、我が国の最大の貿易相手国として、経済面でも緊密なパートナーであるが、他方で、両国には歴史問題を始め、種々の複雑な問題が存在する。それらを平和的に解決し、両国関係を発展させることが、我が国外交の大きな課題となっている。

 調査会においては、現代中国情勢、中国外交、日中外交の現状と課題等について、様々な観点から議論が展開された。

(一)中国内政の現状
(中国政治の現状)

 中国政治で基本的な特徴は、中国共産党が権力をほぼ排他的に独占している状況が50年続いており、重要事項は最終的には国会に当たる全国人民代表大会で決まるが、実質的には中国共産党がほぼ決定を握っていることであるとの見解、胡錦濤政権はそれほど磐石ではなく、まだ党内には様々な勢力があり、同時に中国の政治そのものが極めて多元化しているとの見解が示された。

 近年、共産党の統治能力が落ちてきているとの見解、国内では失業問題が深刻化しているほか、政府関係者あるいは党関係者の汚職や腐敗が多発しているとの見解が示された。

(中国経済の現状)

 中国経済について、高度成長が20年続いており、改革・開放政策が加速された1992年を境に外国からの投資が非常に増え、現在もこの趨勢は続いているとの見解、中国のマクロ経済は非常な速度で成長しつつあり、昨年は9%以上の高成長であったが、中国当局はこのように速い速度で成長したいと必ずしも思っているわけではなく、どちらかといえば経済の過熱を心配しており、マクロコントロールがうまく利かなかった結果としてこういう速度になっている面もあるとの見解が示された。

 また、中国の対外開放政策あるいは改革政策が残している課題について、次の見解が示された。(1)農村、農民、農業の問題といういわゆる三農問題が長期的に見て中国経済のネックになるであろう。(2)中国が7、8%の経済成長をこれから20年近く維持していくためには、基本的にエネルギーでどのような道が開けるかに懸かっており、エネルギー問題がボトルネックになる可能性がある。(3)中国自身が19世紀の世界、20世紀の世界及び21世紀の世界という三つの世界を持っており、中国が非常に不適切なほど大きいことによって、成長が長期に続くけれども、問題も予想を超えて大きく、これがいつ爆発するかだれも予測できない状況である。

 また、中国の高度成長は政治の安定とも関連しており、成長の速度を落とすと政治不安になるので、中国政府は経済成長を優先させるのではないかとの見解、格差などの問題も大きく予測を超え、共産党はそれにうまく対応できないままでいるとの見解が示された。

 さらに、中国は一国二制度を取っているが、それによって所得格差が拡大し、いずれは行き詰まる可能性があるとの見方、中国政府は人口移動を厳しく抑制しているため、都市に不満が集中するという状況ではないものの、農村で状況が深刻化し、不満が蓄積しているとの見方、経済成長に伴い貧富の格差が生じる中で、国内の多くの民族の不満が中国政治に影響を与えるおそれがあるとの見方が示された。

(中国社会の現状)

 中国では市場化が進む一方で、社会主義の倫理体系に代わる新しい市場の倫理ができておらず、治安も悪いとの見解、中国の社会が多様性に富み、大きく変化しつつある一方で、社会保障制度の整備が進んでいないなどセーフティーネットの欠如が社会不安を呼び、宗教や準宗教を信仰する人が増えたり、環境破壊、水不足、大気汚染などの経済成長のひずみが社会の至るところに顕著に現れているとの見解、日本で考えられるような市民社会の誕生を中国に期待することは無理であり、中国が成熟した市民社会になるためにはかなりの時間を要するとの見解が示された。

 また、中国社会の今後について、中国当局は、宗教的な教えを求める民衆の広がりを極めて悩ましい問題であるととらえているが、他方でこのことは中国の市民社会化において極めて重要な局面を有するとの見解、市民の力は、中国の体制を構成する非常に重要な要素であり、中国政府がそれをどのように動かすかが極めて重要であるとの見解が示された。

(二)中国内政の課題
(格差問題)

 中国では近年富裕層が非常に増えており、格差が問題になっているが、特に大きな問題は都市・農村間格差で、収入の統計で見ると3.2対1であるが、実際にはおよそ5倍から6倍の格差があり、都市の富裕層と農村の貧しい層を比べた場合、何十倍もの開きがあるとの見解、沿海地方と内陸、都市と農村、あるいは同じ都市の中でも所得の格差が徐々に開いているとの見解が示された。

 また、沿岸部と内陸及び都市と農村の格差、一国二制度、公害といった問題について、中国が共産党一党政権であることからマネジメントしやすく、非常に危機的と言える状況にはないのではないかとの見方が示される一方、資源エネルギー問題や環境問題に加えて、賃金格差や社会格差の問題が今後大きくなれば、現在の共産党一党体制の崩壊につながることもあるのではないかとの見方、中国共産党も一党体制から複数政党制になることを考えているのではないかとの見方、胡錦濤政権が公正な分配を実現できる制度を構築していくかどうかが中国の内政問題の大きなポイントであるとの見方が示された。

(環境問題)

 中国の環境問題が経済成長を阻害することが起きれば、環境問題は大きな課題になり得るとの見解、深刻なのは水不足の問題であり、北京では3分の2の水を地下からくみ上げたことが5年前にあり、陥没事故も起き始めているとの見解が示された。

 また、北京で水不足が続いていることから、今後中国が発展できるかどうかは、水利用に関する計画の有無に懸かっており、これがない限り、中国の発展は難しいのではないかとの見解、中国が深刻な環境問題に直面していることから、中国政府はNGOの活動や市民的な活動を無視できないのではないかとの見解が示された。

 中国ではCO排出量は増大しており、省エネルギー政策に加えて、京都議定書におけるクリーン開発メカニズム(CDM)の効果的使用やポスト京都議定書、すなわち2013年以降にどのような枠組みを構築していくかが重要であるとの意見、中国は発展途上国ではあるが、CO排出量削減の義務を負わなければならないし、国際協調路線を取らざるを得ないとの意見、京都議定書の発効は、環境・エネルギー問題を抱える中国にとっても京都メカニズムを利用して海外からの投資を呼び寄せるというメリットがあるとの意見、発展途上国の排出量削減のため、ポスト京都議定書の新しい枠組み作りに中国を引き入れていくことは、中国をより一層国際社会に引き込む良いチャンスではないかとの意見が述べられた。

 また、地球環境問題の解決は、テロ、麻薬、海賊、大量破壊兵器の拡散などのいわゆる非伝統的な脅威への対処と並んで、国際社会における共通利益のために重要であり、そのために一つの枠組みを作っていくことが、中国の行動を規制することにもなるとの見解が示された。

(人口問題)

 中国にとり基本的な懸念材料が人口であり、現在、毎年1,000万人ずつ人口が増えると予測され、このことが社会に重くのし掛かっているとの見解、他方、中国は1980年から一人っ子政策を実施し、90年代後半からは徐々に緩和したが、その結果、人口の少子高齢化という大問題が迫っており、年金の資金が足りないという問題があるとの見解が示された。これに関して、中国において少子高齢化が今後25年以上進めば、かなり経済成長に影響が出るのではないかとの見解が示された。

(三)中国の外交と日中外交の現状
(中国外交の現状)

 元々、中国は国境を接するネイバーとグローバルという関係しかなく、リージョナルという関係がほとんどなかったが、20世紀末から中国はアジアという地域で物事を考えていくように変わってきたとの見解、中国政権にとり外交よりも内政の方が圧倒的に重要であるが、国際関係がうまくいかないと内政も安定しないので、中国は国際社会との協調を取らざるを得ないとの見解、中国は日本が米国一辺倒でアジアの1か国ではないと考えていることから、日本と交渉するよりも米国と先に話し合えば、日本がそれに従うと見ているとの見解、21世紀においては日本が非常に苦しい状況に陥っていることとは対照的に、中国は発言力を増してきているとの見解、今後中国が世界の枠組みに着実に入っていくかどうかがかぎとなるとの見解が示された。

 また、中国の活発な外交により経済進出が激しくなるにつれて様々な摩擦が生じるが、領土領海問題、資源開発問題、大陸棚をめぐる諸問題は、多国間レジームで処理する以外にないとの見解が示された。

 さらに、中国の安全保障観について、中国は、軍事同盟条約に依拠した体制によって国の安全保障を全面的に維持することはできず、信頼醸成や多国間安保のメカニズムに依拠しなければならないという新しい安全保障観を持っており、ASEANやARFに接近するのもこの安全保障観によるとの見解が示された。

 加えて、中国は日米同盟が「瓶のふた」として日本を抑止する機能を持つ限り、これを肯定しているとの見方、中国は日米防衛協力の進展を警戒するものの、米中関係が良好であれば問題にしていないとの見方、中国は非常にはっきりした軍事力強化の政策を取っており、今の調子で軍事力の拡充・強化が行われると、日米防衛協力とぶつかる面があるとの見方が示された。

(日中関係の現状認識)

 日中経済関係について、昨年はEU、米国に次ぎ第3位の貿易相手国になったものの、これまで日本はずっと中国の第1位の貿易相手国であり、日中間の貿易は数十%の伸び率を示していることから、日中間の経済関係が熱いことは事実であるとの見解、近年日中の経済関係が深まってきてはいるが、個々に見ると、中国において日本企業や日本製品の存在感は急速に下がっており、欧米に後れを取っているとの見方が示された。

 日本における今の中国像について、中国が経済的にも軍事的にも台頭し、日本を凌駕しているという脅威感、あるいは中国の政治はよく分からず不透明であることや中国人の犯罪が増加しているという恐怖感など様々なイメージが重なっているが、これは日中間の接触が増大し、相互依存が拡大していることが背景にあるとの見解、内閣府の外交に関する世論調査を見ると、基本的には約5割の人が中国に親しみを持ち、かつ5割の人が対中関係を良好と認識しているが、この数字は極めて健全なものではないかとの見解が示された。

 中国人の日本観について、中国における対日イメージに関する調査は90年代に入って散発的にあるだけであるが、中国が社会的に多元化し、インターネットを通じて中国人の日本に対する国民感情が表れるようになったが、日本に対する理解は非常に浅いとの見解、中国国内では反日感情が高まっている部分もあれば、逆に親日感情が広まっている部分もあり、中国当局が見ているインターネットの情報が正しく中国人の対日感情を映し出しているわけではないとの見解が示された。

 日中関係について、経済の側面や文化的な側面の交流があるが、今は非常にぎくしゃくしたものになってきており、当分改善しないのではないかという見方が世界では強くなってきているとの見解、日中関係の行方については楽観視できないし、これから20年間はますます悪くなっていくので、平和共存のために何をすればよいのかという問題がまずあるとの見解、中国政治が多元化しているため、胡錦濤政権が安易に発言できないという現実があり、同政権が日本と良好な関係を持ちたいと思っても、それを強調し過ぎるとかえって国内において問題を起こすという状況があるとの見解が示された。これに対し、両国関係は今は悪いと言われているが、毎年の内閣府の世論調査を見る限り、日本人の対中感情が悪化している事実はなく、日中関係が悪化の一途をたどっているわけではないとの見解、中国では日本の科学技術に対する評価は高いので、反日感情を持つ者の中にも複雑な心理構造があるとの見解、中国は1チャンネルの時代から多チャンネルの時代になっており、中国共産党、人民日報、中国官僚の発言だけを見て、これが中国の意思表示であると理解するのは誤りであるとの見解が示された。

 また、日中関係を語る場合に見落としがちなのは、中国が日本と異なり共産主義国家であるということであるとの見解、日本と中国との関係は同種同文で余りにも親しいためにどこか取り違えているところがあり、お互いに外国という意識が不足しているのではないかとの見解、日本はこれまで中国から様々なことを学び、中国に親近感を感じているが、近年両国関係は難しくなっているとの見解、日中間には様々な問題があるが、現在の中国の日本批判は非常に穏やかで、20数年前に比べればそれほど大きな摩擦はなく、それだけ日中間の交流が深まり、良い形になってきているのではないかとの見解が示された。

(日中関係悪化の要因)

 近年、日中関係が悪化しているのは、両国関係が非常に複雑であり、それぞれの国の内政と密接に結び付いている結果であるとの見解、今は関係が非常に悪いが、その背景には、両国関係が転換期を迎えつつある中で、新しい形の関係が見付からないという構造的な問題があるとの見解、中国社会が開放的になってきたことが、中国の対日世論や反日感情が赤裸々に出てくる原因であるとの見解が示された。

 また、95年の戦後50年のころから中国共産党の指導力が弱まったことなどにより愛国キャンペーンが始まり、そのキャンペーンが抗日に、また抗日が反日に結び付いていったが、そのことについて中国自身も困っている部分があるとの見解、中国人の対日感情悪化は中国政府による抗日・愛国教育の結果であるとの意見が述べられた。これに対し、中国人の反日感情が抗日・愛国教育の産物であるとの見方は誤りであり、中国で反日運動に走っているのは、むしろ8,000万人ものインターネット世代の若者たちであるとの意見、中国の若者が反日感情を持つ原因の一つに、日本のソフトパワーや魅力が落ちていることがあるのではないかとの意見が述べられた。

 さらに、日本人の間に大きな度量を持って中国を見ることのできる余裕が徐々に減ってきているのではないかとの意見、今後、日本が中国とどのように付き合うのかを固めなければならないが、短期間にはなかなかできないのではないかとの意見が述べられた。

(中国の反日運動)

 本年4月に北京や上海などで起きた反日運動について、その発信源がどうであれ、中国政府がこれを歓迎又は容認するような態度を取り続けたことを見過ごすわけにはいかないとの意見、中国には情報の流通源が政府統制下の言論機関とインターネットしかないことが、反日運動を大きくした原因であるとの意見、反日運動の根底には、日本との間で国交を正常化した共産党の政策決定に対する不信感や批判が中国国民の間にあるとの意見、反日デモの底流には、中国の高度成長の大きなひずみがあり、中国国民の貧富の差に対する怒りのはけ口がこうした形で表れたのではないかとの意見、反日運動は決して中国人の持つ愛国心から起きたものではなく、中国の現政権が、国内で政権に対して不満に思っている人たちの目を外に向けさせるために、それを利用しているのではないかとの意見が述べられた。

 また、反日デモに対する日本の対応について、日本は中国に謝罪と補償を明確に要求すべきであり、今後の日中友好関係のためにもしっかりと日本側の主張を伝えるべきであるとの意見が述べられる一方、日本が安全確保での中国側の責任を指摘することは当然であるが、今回の事態の背景に、日本において歴史教科書問題など侵略戦争を肯定、美化する動きがあったことを直視する必要があるとの意見が述べられた。

(四)日中外交の課題と今後の在り方
 (1)歴史問題
(歴史問題の現状)

 歴史問題について、日本側からすれば、1995年に村山総理が国会で反省し謝罪することで、一応、戦後50年で済んだことになっており、法律的には72年の賠償請求放棄によって終わっているということが基本的な考え方で日本国民の多くや中国政府も一応そう考えてはいるものの、中国国民の方はそうではなく、このずれが今後非常に深刻になる可能性があるとの見解、靖国問題をめぐって中国内部でも議論があり、そのために外交部が苦しい状況に置かれ、インターネットでたたかれるという現実があるとの見解が示された。

 歴史問題に対する中国市民の反応は、日本で考えられているよりもはるかに敏感であることを念頭に置く必要があるとの意見、さきの日中戦争は、言葉や条約だけで処理できるようなものではなく、後世に残された我々が絶えず考えなければならないものであり、4代にわたってそれを背負うものであるとの意見が述べられた。

 首相の靖国神社参拝問題について、戦没者追悼という我が国の内政問題であり、外国からとやかく言われる筋合いのものではないとの意見、靖国問題は中国政府にとり外交カードにすぎず、この問題で日本が譲歩すれば、次の問題を持ち出すのではないかという不安があるとの意見が述べられた。これに対し、内政問題と外交問題は非常に絡み合っており、中国などかつて歴史的にかかわった国から日本に対し異議が申し立てられた場合、日本は、これを内政問題であると突っぱねることはできないのではないかとの意見、80年代は日本のメディアのほとんどが首相の靖国参拝に批判的であったが、最近はこれを批判するメディアが減っており、このことを見て中国人が日本の軍国主義化を懸念していることから、靖国問題の解決には時間が掛かるとの意見が述べられた。

 また、中国が抗日教育をしているために、歴史認識、特に靖国問題等で日本に物を言わないと中国国民が納得しないのではないかという同国政府の配慮があるとの見解が示された。

 さらに、中国側の見方について、中国は戦争責任をA級戦犯のみに限定することにより、日本国民全体に免罪符を与えたが、もし首相の靖国神社参拝によってだれも戦争責任を負わないのであれば、日本全体が全戦争責任を負うしかないと見てしまうことになるとの意見が述べられた。

(歴史問題解決のための取組)

 両国関係の政治的な障害が首相の靖国神社参拝であり、この問題が解決できれば、日中外交も前進するとの見解、日中間の歴史問題は両国関係発展の大きな障害となっており、この問題が国内政治問題化しているために、解決の可能性はますます難しくなっているが、これによって日中関係が悪化することは中国側にも経済その他の面でデメリットがあるとの見解、日中間で歴史認識という言葉の意味が同じであるかは疑問であり、もし異なるとすれば、歴史問題という言葉を使って日中間で議論することはできないのではないかと懸念されることから、中国との付き合い方を考え直さなくてはならないとの見解、歴史問題は、日中間の経済相互依存や国民外交を考えることによって解消できるのではないかとの見解が示された。

 また、靖国問題解決のためには、中国が問題にしているA級戦犯合祀をやめて分祀すべきであるとの見解、日本国民すべてが首相の靖国神社参拝や歴史教科書を肯定してはおらず、国民の多数は戦争を二度と繰り返したくないという平和の思いを持っており、問題解決のためには、両国国民の連帯が求められているとの見解が示された。

 さらに、中国の若者に経済大国となった日本の現状を見せるべきであるとの意見、日本の子供たちに戦争の歴史を教えるべきであり、また中国の子供たちにも戦後の日本のことを教えるべきであるとの意見、日中韓相互の友好を深めるためには、まず未来志向を強く堅持しつつ、日中韓などとの歴史認識の共同研究を進める必要があるとの意見、日本と中韓両国との歴史認識の違いの克服のため、歴史教科書の交換、歴史学者や歴史教員による議論及び青少年交流プログラムの作成といった、戦後ドイツとフランスが取った政策に学ぶべきであるとの意見、日中間で共通の歴史教科書を作ることはほとんど不可能であり、むしろ戦後のアジアの国際関係や朝鮮戦争について共同で考え、議論すべきではないかとの意見、歴史問題克服のためには、例えばアジア大学といった非政府組織を作り、そこを拠点に国際交流や教育を行うといったことをしなければならないとの意見が述べられた。

 加えて、歴史問題解決のため、国際司法裁判所のような国際機関を利用してはどうかとの意見が述べられる一方、日中間の歴史問題は、第三者の手にゆだねるのではなく、日中間できちんと決着すべきものであるとの意見が述べられた。

(2)対中ODA

 日本の対中ODAについて、中国では分配がうまくいっていないため、今後、日本は対中ODAを漸減しつつもそれを維持すべきであり、対中外交として、各国の中で最後に対中ODAを停止することを宣言してはどうかとの意見、日本が中国に対してODA援助に感謝しろという声は全く逆効果を起こしており、一般の中国人は感謝するくらいならODAは必要ないという認識であり、ハッピーエンドのODA卒業の仕方を考えるべきであるとの意見、対中ODAをより効果的なものにするためには、それを中国全土ではなく、日本と関係の深い東北地方に集中させることもアイデアであるとの意見が述べられた。一方、中国では所得格差、農村と都市の間及び都市の中での格差が深刻であるが、その中で生まれた貧困問題に対しては、中国自身が手当てすべきであり、日本がODAで手当てすべきではないのではないかとの意見、日本が中国にODAを供与するよりも、中国が税と行政の近代化を学ぶ方が重要であり、日本も多くの知識、経験を中国に提供できるのではないかとの意見も述べられた。

 また、中国はODAを援助ではなくビジネスととらえているのではないかとの見方が示される一方、中国でのODA調査の経験を踏まえ、中国人は、日本のODAに対して感謝しているのではないかとの見方が示された。

 さらに、対中エネルギー協力について、エネルギー需要が高まる中、日中がエネルギーをめぐって協力関係を組み立てていく以外になく、中国の非効率なエネルギー利用にかんがみ、日本が環境面での技術協力を行うことにより、中国のみならず世界のエネルギーの有効利用につながるとの見解が示された。

(3)今後の日中外交の在り方
(対中外交の基本姿勢)

 日本の対中外交の基本姿勢として、日本が今のような大国である中国の姿を見るのは初めてであり、21世紀の今は日中が対等であるということを再認識することが重要であるとの見解、日中両国はそれぞれの生活思想が異なるので、日本は、中国の考え方や思想を慎重に考える必要があるとの見解が示された。

 また、日中の競争的な関係は必ずしも悪いことではなく、問題はいかに建設的に競争するかであり、お互いがより良いアイデアを出し合ったり、より世界に貢献する度合いを高め合うことを積極的に進めるべきであり、互いに節度と理性を持った上で様々な分野において積極的に競争していくべきであるとの見解、近年、日中の相互補完関係がますます強まっていることにかんがみ、日中間で共通利益の拡大を認識することが重要であるとの見解が示された。

 元来、近い国々との関係は非常に難しく、日本は、中国あるいは韓国とある程度の緊張を前提とした戦略的な外交を展開していく必要があるとの意見、今後の日中関係に関し、日本の外交にとって高度で、かつかなり専門的なコミュニケーション技術を取り入れた対中外交戦略を樹立する必要があるとの意見、日本は中国に対し、人権問題、軍事力増強への牽制を絶えずし続ける必要があるとの意見が述べられた。

 また、日中の相互依存関係の深まりにかんがみ、今後日本が中国とどのように向き合うかを考える場合、国民外交がかなり重要になるとの見解、対中外交においては、中国の官僚だけを見るのではなく、中国の国民に向けて積極的に働き掛けなければ、日中関係は政冷経熱どころか、政冷経冷になる可能性もあるとの見解が示された。

(日中相互理解促進のための方途)

 日中相互理解の促進に関し、両国が困難な状況を乗り越えて、相互理解を着実に進めていくことが重要であるとの意見、日中両国は必ずしも文化を共有しておらず、これから国民レベルで交流していく上においても、双方の気質にはギャップがあることを考えるべきではないかとの意見、日中間で交流促進を検討するための組織を作ったとしても、政治的に影響力のある人物が委員に選ばれない限り、日中間の問題解決に寄与しないのではないかとの意見、日中間で議員交流を含め、様々な交流のパイプや人的ネットワークを作る必要があるとの意見、中国から日本に招待する場合、親日家よりもむしろ日本批判をしている人を招いて、日本人と意見交換を行う必要があるとの意見、中国はあらゆる面で大きいことから、日本が理解することは簡単ではないので、中国研究のための基盤を作っていく必要があるとの意見が述べられた。

 また、日中関係におけるメディアの果たす役割の重要性にかんがみ、メディアが自発的に報道の誤りを正すようオンブズマン制度を作るべきであるとの意見、両国民間の相互理解と相互尊重を促進するため、インターネットなどでそれぞれの国についての生の情報を増やすべきであるとの意見、中国では今の日本の姿が知られておらず、より一層日本のことが理解されるよう、広報を推進する必要があるとの意見、日中間で理解を促進し、関係を構築するためには、サブカルチャーを媒介とすることも必要であるとの意見が述べられた。

 さらに、日中関係改善のためには、ASEAN諸国がどのように今日の友好関係を築いたかを日中両国が学ぶ必要があるとの意見、日中間には後ろ向きの話題が多いので、アジア連合を作るといった未来型の話題に両国が一緒になって取り組む必要があるとの意見が述べられた。

2 東アジアにおける不安定要因の除去

 東アジアは、1997年のアジア通貨危機から脱却し、近年では順調な経済発展を遂げている。現在では、ASEANプラス3の枠組みを基礎とした地域協力が進展している。

 しかしながら、東アジアには、地域の不安定要因が依然として存在している。とりわけ、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの開発・拡散は、重要かつ喫緊の課題となっている。北朝鮮は、2003年以降、核抑止力を確保する決意を表明し、本年2月には、核兵器の保有を公式に宣言しているが、このことは、日本を含む東アジアの平和と安定に直接的かつ深刻な脅威を及ぼし、また、国際社会全体にも大きな懸念をもたらしている。

 北朝鮮の核問題の解決を目指す六か国協議については、2004年後半から停滞状態となり、具体的な成果を収めるには至っていない。六か国協議では、北朝鮮を含む全参加国が、最終的な目標を朝鮮半島の非核化とすることでは一致しているが、非核化の内容とそれに対する北朝鮮への見返りをめぐっては、関係国間に違いがある。加えて、北朝鮮は2004年8月以降、協議への出席を拒否し、参加の無期限中断を表明するまでに至っている。かかる停滞状況が長引けば、北朝鮮の核・ミサイル能力が増大することが懸念される。

 我が国の対北朝鮮政策については、2002年の日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、北東アジア地域の平和と安定に資する形で日朝国交正常化を実現するとの方針の下、外交努力を傾注しているが、いまだこれら諸懸案は解決していない。

 また、台湾海峡をめぐる軍事情勢については、その不透明性が一層増している。中国は核・ミサイル戦力、海・空軍力の近代化を進めているほか、台湾への武力行使と米軍の介入阻止を念頭に置いた訓練も強化している。他方、台湾も中国に対抗して軍事力の拡充・強化を図っており、中台間の軍事バランスの行方はますます不透明になりつつある。

 我が国は、これら諸課題の解決に向けて継続的かつ粘り強い外交を進展させていくことが不可欠である。

 調査会においては、今後の対北朝鮮政策の在り方、北朝鮮に対する制裁実施の是非、中台関係の現状等について、幅広い議論が展開された。

(一)北朝鮮を取り巻く諸問題
(北朝鮮問題のグローバル化)

 北朝鮮問題で最近の最も大きな変化はグローバル化であるが、その理由は、第一に、北朝鮮が生き残りのために核兵器やミサイルといった大量破壊兵器の開発に着手したこと、第二に、2001年9月の同時多発テロ以後、特に米国は国際テロとの戦いに戦略の中心を置くようになったことであり、このような視点から見ると、ならず者国家が大量破壊兵器を開発し、イランもイラクも北朝鮮も同じであるということになり、中東の問題と北朝鮮の問題とが区別が付かなくなってきたとの見方が示された。

 また、北朝鮮の問題がグローバル化されたことは事実であるが、例えば(1)朝鮮半島に石油は存在しない、(2)多大な米兵の犠牲が予想される、(3)全面的な戦争になればミサイルが日本に向かって飛来するなどの問題があるため、地政的に見た場合に中東と朝鮮半島とは相当に違った条件の下に置かれているとの見方が示された。

(北朝鮮の核開発問題と六か国協議)

 北朝鮮の核問題をめぐって朝鮮半島に緊張が続く限り、東アジアの安定と平和はもたらされることはなく、日韓にとって厄介な隣国である北朝鮮といかに付き合い、どのようにこの国をソフトランディングさせていくかは、東アジアの平和と繁栄をもたらすために避けて通れないテーマであるとの見方、北朝鮮が生き残るために核兵器を開発しているのであるとすれば、北朝鮮の核開発をやめさせることは非常に難しく、生き残りを保障するような手だてがない限り、彼らは納得しないであろうとの見方が示された。

 また、六か国協議について、米国は、イラクで戦端が開かれている間は二正面で作戦ができないため、米国国内で強硬派と穏健派の妥協が成立した結果であるとの見方、北朝鮮は、4年たてばブッシュ政権から民主党政権に変わることを想定し、六か国協議を引き延ばしていこうとするのではないかとの見方、六か国協議において米国は中国に大きな期待を掛けているように思えるが、中国がどこまでこたえられるかに関しては疑問を持っているとの見方が示された。

 北朝鮮を除く5か国で会談を開催することについては、北朝鮮への対応を具体的に決めること以上に、中国や韓国に対する協力要請や北朝鮮に対する圧力など、5か国の関係を調整するという意味で非常に重要であるとの意見が述べられた。

 六か国協議をこの地域の安全保障メカニズムにするという考え方について、そのような考え方が中国にあることは事実であり、六か国協議には米国も日本も韓国も入っているため、この地域の安全保障を追求する一つのメカニズムとして成長することになれば、非常に歓迎すべきことであるとの意見、六か国協議が北東アジアにおける緩やかな安全保障メカニズムになっていくことを期待しているとの意見が述べられた。

(北朝鮮問題に対する中国のスタンス)

 中国は北朝鮮に対し、基本的には中国的な開放路線に転換し、対外的には協調路線を取ることを望んでいると考えられ、また、朝鮮半島で有事が起こった場合、中国も経済的に大きな打撃を受けることも想定しているのではないかと考えられることから、中国が北朝鮮にどのように働き掛けるかがかぎであるとの指摘がなされた。

 中国にとって難しいのは、北朝鮮を崩壊させず、しかし圧力を掛けながらその政策を変えていきたいと考えていることであるとの意見、米国から譲歩を引き出し、あるいは米国を引き寄せる一つのてことして朝鮮半島問題を使おうという考えは当然中国にあるとの意見が述べられた。

 中国は朝鮮半島の非核化を追求しているが、時間の流れは我々よりずっと緩やかであり、何年掛かってもとにかく平和的に解決する方が優先と考え、エネルギー支援や食糧援助を停止するといった劇薬はなかなか使わず、周囲の環境を整え、漢方薬のように徐々に相手を変えていくやり方でこれまで対応してきたとの見方、中国にとっては、北朝鮮の政治体制が不安定化し、中国に大量の難民がなだれ込んできたり、あるいは北朝鮮が韓国に吸収合併されるといった状況を防止することの方が、北朝鮮の核兵器保有を防止することよりも優先順位が高いとの見方が示された。

 北朝鮮の体制崩壊は中国にとってはかなり厄介な問題であり、中国が北朝鮮という社会主義国が存続し、開放された国になることを望んでいるのであれば、我々が北朝鮮に対する中国の圧力を期待することはかなり無理であるかもしれないとの意見が述べられた。

(二)今後の我が国の対北朝鮮政策
(対北朝鮮政策に関する認識)

 北朝鮮は、日本にとり非常に厄介な存在になっていることは事実であり、対話と圧力をもって政府としても様々な努力をしているが、北朝鮮の側から見たとき、日本は大変に扱いやすい国になっているのではないかとの指摘、対話と圧力とは言っても、対話の場で十分な妥協を引き出すだけのあめを日本が持っているわけでもなく、また、圧力といっても米国のような強い圧力が掛けられるわけでもなく、結局、日本としては米国の力に頼らざるを得ないとの指摘がなされる一方、日本は北朝鮮にあめだけ与えてむちは振るっていないとの議論があるが、そうではなく、我々は、冷戦中も冷戦後も、関係を正常化しないという大きなむちを振るってきたとの意見が述べられた。

 また、北朝鮮からすると、くみしやすい日本であれば、国際的な政治情勢を緩和するためにも、日本を味方に引き付けておくという選択はあるわけであり、日本人の拉致問題について、拉致被害者を誠意を持って返したり、あるいは調査を行うといったことで日本に対してなぜ良い印象を作ろうとしないのかが疑問であるとの指摘がなされたのに対し、60年あるいは100年というタームで見れば、北朝鮮は、(1)日本は植民地支配の経験があり、朝鮮戦争の際は米国の側に付いて兵たん基地の役割を果たした、(2)戦後は韓国との関係を正常化し、経済協力を行ってきた、(3)そのために韓国は経済的に発展し、自分たちは劣勢に立たされてしまったということから、日本を宿敵として見ているとの見方が示された。

(対北朝鮮政策の在り方)

 我が国の対北朝鮮政策について、中国や韓国の協力をいかにかち取るかが外交的に重要なポイントではないかとの意見、日本との関係正常化は北朝鮮にとり生き残りのための大変重要なカードであると考えられるとの意見、2002年9月の日朝平壌宣言は東北アジアの平和と安定に寄与する協定として忘れるべきではなく、現在、日朝間に必要なのはこの平壌宣言を死文化させない努力であるとの意見が述べられた。

 また、北朝鮮の改革・開放措置をできるだけ促進し、長い目でコントロールすることが重要であり、平和的かつ段階的に体制を変えていくことが必要であるとの意見、韓国単独で北朝鮮の改革・開放を進めていくのは限界があるため、日本が拉致問題を克服しながら、北朝鮮を改革・開放して、西側世界の仲間入りをさせるような努力も必要であるとの意見、台湾は中国と政治対立を超えて活発な経済交流を行い、韓国も北朝鮮と政治対立やイデオロギーを超えて活発な経済交流をしており、例えば日朝間でも政治の問題を切り離し、北朝鮮の経済の問題を議論すべきであるとの意見が述べられた。

 これに対し、北朝鮮の経済について、最悪の時期は過ぎているが、今後5年、10年という長いタームで見た場合、北朝鮮の現在の体制は崩壊の過程に入っているのではないかとの見方が示された。

(対北朝鮮政策と日米関係)

 9・11あるいはイラクをめぐって日米間にはかつてないほどの信頼関係が生まれており、日米の関係を対北朝鮮問題の解決においてどのようにてことして使っていくかが我々にとって重要なことであるとの意見、日本と米国は必ずしも対北朝鮮政策について同じ環境を共有しておらず、米国は少し長期的にこの問題を見ているのではないかとの意見、米国がむちの役割で日本があめの役割という分担が機能した部分もあるとの指摘があるが、米国にむちの役割を期待するのは既に限界に来ているとも考えられ、拉致という日本固有の問題が国民的に非常に大きな課題になっていることを考えると、日本がむちの役割を果たし、米国に補完的な役割を果たしてもらうなど、正に主体性を問われているのが現在の状況であるとの意見が述べられた。

 また、北朝鮮への対処は米国政府にとっても重要な問題であり、ブッシュ政権以降の最大の争点は北朝鮮との直接交渉であるが、ブッシュ政権はクリントン政権の枠組み合意に関して当初から批判的であり、また、9月11日のテロ事件以後、事実上悪の枢軸の一員となったことで交渉が不可能になったとの見方、米国国内では、体制転覆か体制改革かといった議論があるが、どのように変革していくか、それもできるだけ早く行うことが重要であり、体制が変革されない限り核問題や拉致問題はなかなか解決しないという指摘は正しいとの見方が示された。

(三)北朝鮮への経済制裁

 経済制裁が100%の目的を達成できないにしても、国としての威信を示す必要もあるとの意見、日本では政府が対話を、議会や党がもう一方のカードである圧力を主張することは、ある意味では対話と圧力のバランスという役割分担を担っているとの意見、日本が米国に比べて穏健な制裁手段を北朝鮮に迫ることは決して強硬策ではなく、非常に妥当な交渉の方法であるとの意見が述べられた。

 これに対して、経済制裁の対象である北朝鮮が日本をどのように見ているかは十分に認識しておかなければならないとの意見、核問題に関して北朝鮮が六か国協議に参加しない、あるいは参加しても問題が一向に解決されないのであれば、やはり制裁は必要であるが、いわゆる拉致問題に関して経済制裁をすべきであるという議論は技術的にかなり難しい部分があり、積極的には賛成していないとの意見、周辺国が六か国協議を始めようと取り組んでいるときに日本が制裁を始めてよいものか、最も重要な中国や韓国との関係も、結局そこで破綻した場合肝心なときにどうするかといったことが考えられるため、経済制裁というカードは重要な局面で使うべきであるとの意見、日本と北朝鮮が一対一で向かい合うことが我々にとって賢明なのかどうかという問題もあり、単独で今直ちに制裁を行うことに関しては消極的であるとの意見が述べられた。

 また、圧力よりも対話、経済制裁よりも援助こそが金正日政権を最終的に動かすカードになるとの意見、経済制裁のポーズは日本国民の怒りを北朝鮮に伝達するには有効なカードかもしれないが、核や拉致の問題を解決に向かわせるとは到底思えないため、六か国協議に北朝鮮を参加させ、核凍結・廃棄に向けた粘り強い交渉をしながら拉致問題を解決していくという忍耐強い姿勢が日本の政治に求められているとの意見、日本はこれまで対話と圧力という二つの両輪で来たが、対話が止まって圧力だけになるときが非常に怖いとの意見が述べられた。

(四)中台関係

 台湾海峡の状況については、台湾において中国が武力行使をすることになれば、現在既に十分な軍事力を備えているため、それによるこの地域の不安定化は当然懸念されるとの見方、中国の軍事力の増強とともに台湾に対する軍事的圧力が強まる一方、経済交流が盛んになり、冷戦期には存在しなかった経済的・社会的なつながりによって相互利益が発生するという非常に複雑な状況が生じ、これまで存在してきた台湾海峡レジームの前提が揺らいでいるため、注意すべき状況になってきているとの見方が示された。

 米国の台湾問題に対する基本的な姿勢には、中国の武力行使と台湾の挑発的な行動を同時に抑えようという戦略的あいまい性があるとの指摘、米国は基本的に中国に対して警戒心を捨てていないが、台湾側に完全に寄っているわけではなく、台湾関係法で基本的に台湾の防衛にコミットしつつも、台湾が独立に向けて突っ走ることは米国の対中政策を邪魔する要因であるとして、台湾に対するいら立ちがしばしば米国の指導者から表明されているとの指摘がなされた。

 本年2月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同声明において、「台湾海峡をめぐる問題の対話を通じた平和的解決を促す」として触れられたが、少し唐突ではないかという気がしており、現在の日中関係の置かれている状況を考えると、果たして本当に台湾海峡についての日米共同コミットメントを宣言する必要があったのかどうか、疑問に感じているとの意見が述べられた。これに対し、最近の中国は、台湾を無理に力で抑えようとすると逆効果であるため、米国と日本を使って独立させないようにするという手法を取っているが、絶対に力をもって現状を変えないということをアジア太平洋のドクトリンにすべきとの観点からすると、日米が平和的解決をうたった2プラス2は正しいとの意見、台湾に対してはあいまい戦略はもう効かなくなってきているため、今回の2プラス2を評価しているとの意見が述べられた。

 また、台湾問題の解決について、中台双方がナショナリズムを言い立てるという状況では解決はあり得ず、中国大陸と台湾がそれぞれ共存共栄できる政治的枠組みを求めることしかあり得ないとの意見、台湾では、中国の存在感、すなわち外交的・軍事的な圧力と経済的・社会的な吸引力を前にして、自らの経済発展と民主化による自信と、中国からの圧力に対する孤立感、焦燥感とが混在しているため、隣国あるいは周囲の国家としては、過度の孤立感を抱かせないような対応が必要であるとの意見、日本としては、現在、台湾海峡の平和を維持している現状維持レジームを積極的に壊していく理由がないため、日米安保を通じて米国の現状維持政策を助けていくという基本的なスタンスを変化させる必要はないとの意見が述べられた。

3 東アジア共同体構築に向けての課題

 1997年、ASEAN首脳と日中韓3か国首脳との対話が実現し「東アジア協力に関する共同声明」が発表された。2003年10月、バリでの首脳会議においてASEAN10か国首脳は、2020年までに安全保障共同体、経済共同体、社会文化共同体を三本柱とするASEAN共同体を創設する合意を採択した。

 2002年1月、我が国は、東アジア・コミュニティ構想を提唱し、翌2003年12月、東京での日・ASEAN首脳会議において、東アジア共同体構築を目指す「日・ASEAN東京宣言」を採択署名した。現在、ASEANプラス3を中心に東アジア共同体構想の具体化が進行している。

 調査会においては、東アジア共同体の在り方、中国・韓国・ASEANとの関係、米国との関係などの議論が展開された。

(一)東アジア共同体の性格
(東アジア共同体へのアプローチ)

 東アジア共同体構築は、政策の手段であって目的ではなく、目的は、あくまで東アジアが安定し繁栄した地域となり、同時に日本が安定し繁栄するということであり、この両者がつながっていて切り離せないものであるという判断の上に東アジア共同体構想は据えられているとの見解が示された。

 また、東アジア共同体において目指すべきものは、第一に、この地域、各国の経済の発展、そしてそれに伴ってこの地域を最終的に安定させることであり、そのため、まず地域での経済連携を進めていくことが重要であるとの意見、また、経済連携構想においては、日本とアジアとの農業協業構想や外国人労働者の受入れが課題となり、これらを解決するためには、関係諸国の国民の目線で東アジア共同体をとらえるべきであるとの意見が述べられた。

 さらに、マハティール前マレーシア首相による東アジア経済協議体(EAEC)の提唱の際には、日本は明確な姿勢を取れなかったが、今回は、東アジア共同体を日本も一緒になって、あるいはある意味で先頭に立って育て上げてアジアの地域主義をしっかり固めていくべきであるとの意見が述べられた。

(基盤としての経済共同体)

 東アジアは今後約20年間世界の成長センターとなり、この東アジアから様々な形で活力を得ることによって日本の繁栄と安定を維持することができるとの観点から、東アジアでは経済共同体構築が今後5年間の最重要課題であるとの意見、東アジアにおける地域統合の基本的特徴は、マーケット主導型の地域統合であり、政府が先頭に立って政府の共通の政策として地域統合を進めていることではなく、企業がミクロの決定として企業展開を行い、それが事実上の経済統合を進めているということであり、したがって、現にマーケット主導で進んでいる地域統合をどのように推進していくか、そのためにマーケットフレンドリーな制度をどのように整備していくかが重要な課題であるとの意見、共同体の構築には経済、政治、安全保障という段階があるが、まずは経済共同体の構築を進めていくという点では、大体の共通認識があるのではないかとの意見が述べられた。

 これに関連して、自動車産業、電気機械産業を始め、日本の産業は、中国、韓国と分業が進展し、経済的には一体化しており、今重要なことは、投資資金の回収、知的所有権の保護、通貨の安定の確保であり、東アジア共同体という形よりも、こうした分野の協力を進めることが重要であるとの意見が述べられた。

(政治共同体・安全保障共同体への拡大)

 グローバリゼーションの流れの中で、日本が一国で経済、政治、安全保障面で長期的な戦略を進めていく時期は過ぎつつあり、周辺の地域とともに一つの大きな経済圏、安全保障圏を作っていくことは避けられないとの意見、東アジア共同体は、21世紀の日本とアジアの政治、経済、アジア全体の発展を考える上で不可欠であり、その際、日中の政治的、経済的連携が不可欠であるとの意見、東アジアに多様なメカニズムが重層的に存在すべきであるとの見地から、東アジア共同体は経済を中心に、環境、安全保障などを含めて、様々な問題を協議し政策調整していく場とすべきであるとの意見、グローバルな世界の平和の安定とその安定の一つの足場としてのアジア地域の平和の安定とがあるが、グローバルには日米同盟を基軸としながら、地域としては、東アジア共同体を形成しながら地域の安定を図っていくことが望ましいとの意見などが述べられた。

 一方、EUにおいてはドイツとフランスとの間に共通の政治共同体指向が存在したが、欧州と異なり東アジアでは政治共同体への意思が長く存在しておらず、現在も存在しているか疑問であり、当面この地域では経済共同体がふさわしいとの意見、東アジア共同体に安全保障まで含めると、米国への対応、日米同盟との両立などの問題があるので、政治共同体ではなくまずは経済共同体としての連携にとどめるべきであるとの意見、日本と中国及び韓国との間の相互信頼をどのように作っていくかという問題について日本の国論の相当程度の合意がないと政治共同体は難しいので、取りあえず経済共同体が適切であるとの意見、経済共同体を超えた共同体となると、各国間の民主化の進展度合いがある程度同じレベルになってくること、各国民の価値観の共有ができてくることが前提になるのではないかとの意見などが述べられた。

(東アジアの多様性と共同体)

 EUにおける状況と比較すると、東アジアでは、思想的、文化的多様性が極めて高いとの意見、東アジアにおいては、宗教的にばらつきがあること、貧富の差が激しいこと、中国の国家目標が不明確であることから、東アジア共同体構想には非常に強い懸念があるとの意見、東アジア共同体を中国とともに作り上げていくにしても、最大のネックは中国が共産主義国家であることであり、自由のない中で共同体が作れるのか、今の中国政権の中で共同体構想ができるのかは微妙であるとの意見が述べられた。

 これに対し、多様性が統合を阻むものではなく、共同体は一つのプロジェクトであり、これが合意されれば、時間は掛かるが共同体は実現できるし、東アジアは20年前に比較すれば、日本人と同様の生活水準、生活スタイルを持った中産階級が増えており、これらを踏まえて今後プロジェクトとしてどういう交流を進めていくかが重要になるとの見解、差違よりも協力できる点、共通の点を挙げていく姿勢が重要であり、例えば、対中問題、対米問題をしっかりと位置付けながら積極的に共同体の提案をしていくべきであるとの見解、日本と中国及び韓国との歴史認識の違いの問題についても、EUの中でドイツとフランスが融和した状況に学ぶべきであり、この問題も克服できるとの見解が示された。

 なお、東アジアに共同体を作らないと日本国民の不戦の決意が明らかではなくなるのではないかとの意見もあるが、日本国民にとり不戦の決意は明確であるので、そのために早急に共同体を作る必要性はなく、長い時間を掛けて近隣諸国との問題点を一つ一つほぐしながら進めればよいとの見解が示された。

(二)東アジア共同体の構成メンバー
(インド、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、北朝鮮)

 ASEANプラス3を東アジア共同体のコアとして、オーストラリア、ニュージーランド、南アジア、西アジアへと枠を広げていくのが適切であるとの見解、ASEANの構想する地域連携構想は複数あり、中でもインド、オーストラリア、ニュージーランドとの関係が緊密化しているとの見解が示された。

 台湾と北朝鮮を東アジア共同体に組み込むことを念頭に置いて作業を進めるべきであるとの見解、台湾が東アジア共同体の構成メンバーとなることは、台湾と日本だけでなく、中国にとっても利益をもたらすとの見解が示された。一方、台湾では日本ほど熱のこもった東アジア共同体論議を見掛けないとの見方が示された。

 また、2005年12月に予定されている東アジア・サミットについて、ASEANはASEANプラス1(インド)、ASEANプラス2(オーストラリア、ニュージーランド)、ASEANプラス3と選択の幅を広く考えており、これらの枠組みが既に存在することから、東京で議論しているよりも実際は進んでいる点を理解すべきであるとの見解が示された。

 さらに、東アジア・コミュニティを考える場合、欧州において冷戦構造の終息や環境保全に市民社会の力が大きく影響を及ぼしたことから、行動主体(アクター)を主権国家だけに限定しないことが重要であり、アクターには国家、NGO、市民、企業などを含めることが可能であり、特に、市民主体のネットワークの連携をいかに強靱にしていくかが重要になるとの意見が述べられた。

(中国)

 中国が世界最大の消費国また生産国になり得ることから、中国の動静が東アジア共同体構築に大きな影響を及ぼすとの見解、現在、中国は、東アジア共同体の創設を政策的に研究するため、東アジア・シンクタンク・ネットワークという民間レベルのネットワーク構築作業を精力的に進めているとの見解、東アジア共同体のリーダーシップについて日本と中国のどちらが取るかは重要ではなく、現に東アジアにおいてマーケット主導で進行している地域統合を制度的に補うために、関税、人の移動、企業活動の円滑化などにかかわるマーケットフレンドリーな諸制度を作り上げていくことが重要であり、日本はそのためにリーダーシップを取るべきであるとの見解、中国について最も重要なことは、中国が将来責任あるパートナーとしてどのように東アジア共同体に入ってくるかということであり、我々が作り上げる共同体の様々な規範、規則を中国も受け入れて、それを守るのがポイントであるとの見解が示された。

(ASEAN)

 ASEANは、東アジア共同体の構築に当たって、中国とASEANだけでできた場合、ASEANにとって非常に怖い共同体となることを恐れており、日本が構成メンバーとなることを強く望んでいるとの見解、日本は、ASEANが加盟国間の相互不信を抱えながらも紛争を一定の範囲に抑えてきたというこれまでの外交努力の知恵を学び、中国、韓国など近隣諸国との関係改善を図ることが望ましいとの見解、ASEANは対中政策でも対日経済連携でも一枚岩ではなく、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールの島嶼諸国は中国への警戒心が強く、その分、対日期待が大きいことから、日本はASEANに対してきめ細かく対応すべきであるとの見解が示された。

(APEC、ARFなどとの関係)

 米国は東アジア共同体が自国を排除するものであるとの懸念を持っているので、この地域の経済を中心に環境問題など様々な問題を協議し、政策協調をする場として、東アジア共同体をAPEC、ARFなど既存の組織と併存させることにより、多様なメカニズムを重層的に作っていくべきであるとの見解、APECの存在によって東アジア諸国だけの独走が避けられるのは利点であり、APECを強化、再構築して東アジア共同体と連携するのが適切であるとの見解が示された。

 また、APECあるいはARFの中に東アジア共同体ができるとすれば、APECよりも濃密な経済連携あるいはFTAを実現しないと意味がなく、アジア太平洋における唯一の安全保障対話の場であるARFで行われている信頼醸成を目指す動きよりも迅速かつ高度な安全保障協力スキームを組まなくてはならないとの見解が示された。

(三)中国、韓国とのFTA
(中国とのFTA)

 現在のEPA、FTA交渉には日本の国益だけでなく、多少の犠牲を払っても全体として良い方向にという発想が入ってきていると思うが、中国との間では、こうした相互利益の観点の導入を期待することはまだ難しいのではないかとの見解、日中FTAは急ぐべきでなく、東アジア共同体と並行して日中FTAを検討することの政治的影響、外交的意味合いを熟考すべきであるとの見解、日中FTAの必要性について、日本企業は中国との商事協力に当たっては、知的所有権や契約の法的扱いなどについて既に十分詰めて交渉していることから、その上さらに政府によるFTAがなぜ必要であるのか疑問であるとの見解が示された。

 これに関連して、香港、マカオと台湾との間のFTAについて、台湾には積極、消極の両論があるが、積極論はFTAによって台湾と日本とのFTA交渉への弾みを付けるような作用を見込めるというものであり、消極論はFTAによる中国に対する経済的依存性の増大を恐れているというものであるとの見解が示された。

(韓国とのFTA)

 日韓FTAについて、日韓が共同して質の高い経済共同体のための制度を構築し、それを既定事実として中国に向かうのが効果的であるとの理由から、日中FTAを優先し、しかも質の高いものを目指すべきであるとの見解、東アジアの安定と繁栄という大きな見地に立って、日本の韓国水産物の受入れ姿勢を大幅に改善し、日韓FTA交渉を大きく前進させ、これを実現すれば、将来、中国やASEANを巻き込んだ東アジアの自由貿易の軸になるとの見解が示された。

 一方、韓国は現政権下で多くの国々とFTA交渉を行っており、特にASEANだけではなく、NAFTAの国々、例えば米国、カナダ、メキシコとも活発にFTA締結に向けて動いているとの見解、米韓FTAが日韓FTAよりも先に締結される雰囲気であるとの見解、日韓FTA交渉が停滞しているため、韓国政府は、人的資源などを他国とのFTA交渉に充当したとの見解が示された。

(四)東アジア共同体と米国
(米国との関係)

 東アジアにおいて経済統合が進展しているが、米国との良好な関係なしに発展できる国はなく、米国マーケットへの依存は変わっていないのであり、米国なしでは完結しないとの見解、安全保障の問題も含めて、米国から完全に脱却した東アジア共同体を創設するのは「夢物語」であるとの見解が示された。

 また、ASEANプラス3を中心に築き上げていこうとする東アジア共同体構想に対する米国の見方は様々であり定まっておらず、反対論もあるとの見解、東アジア共同体構想が対米ブロック形成であると米国が警戒する可能性があることから、そうではないことを米国政府と知識人とに筋道立てて説明する必要があるとの見解が示された。

(東アジア共同体と日米同盟)

 東アジア共同体と日米同盟は決して矛盾するコンセプトではなく、共存していかなければならないという意味でも、我が国が今後東アジア共同体の形成に当たって大きな役割を果たしていくべきであるとの見解、東アジア共同体と日米同盟は共存し得るものであり、日米にとってメリットのあるものであるので、このメリットを強靱な論理攻勢で米国に語り掛けていく戦略対話が不可欠であるとの見解、同時に、アジア諸国に対し、日本は、日米同盟と日本そのものがアジアにとって大変大きなスタビライザーであることを示すことが重要であるとの見解が示された。

 また、日本が東アジア共同体を主導するのであれば、現在の日米関係をより強固にする必要があるとの意見が述べられた。

 東アジア共同体構想は是非進めるべきであるが、米国が黙っていないのではないかとの見方、経済面で具体的に共同体構築を考えていくと、我が国は米国からアジアに若干シフトせざるを得ないのではないかとの見方が示された。

 東アジア共同体構想に関し、仮に米国から圧力を掛けられた場合、地域の安定が世界の安定の一つの足場として有益であること、その実例として、NAFTA及びEUが存在していることを米国に説くべきであるとの見解、米国の主導で日本が計画したアジア通貨基金構想が本格的な検討に至らなかった例を持ち出し、米国に対して「また同じ間違いをするのか」と指摘すればよいとの見解が示された。

(五)FTA交渉体制の一本化等
(FTA交渉体制の一本化)

 日本のFTA交渉体制整備のために、外務省、経済産業省、農林水産省、財務省などが個別に相手国と交渉するのではなく、一本化することによりFTA交渉を迅速に進める体制を整備すべきであり、多くの国が望んでいることであるとの意見、日本のFTA交渉における戦略の保有とリーダーシップの所在の明確化のため、通商交渉担当大臣を任命し、その指揮の下でFTA交渉、WTOを含めた通商交渉を進めていくべきであるとの意見が述べられた。

(共通通貨)

 中国では、アジアの共通通貨としての亜元、すなわちアジアンドルの必要性が広く語られ始めているため、日本は単に中国の人民元を切り上げるべきと主張するが、その分中国人の自信が増すと理解しなくてはならないとの見解、東アジア共同体の将来のビジョンは共通通貨であり、正面から理論的・政策的に詰めていく必要があるが、市場統合を目指すのであれば、長い道のりであっても共通通貨に踏み出してよいのではないかとの見解が示された。

 また、長期的な世界の通貨体制をどのように作るかを考えていかなければならず、円の国際化という戦略を、日本単独ではなく、アジアの国々と作っていく必要があるとの意見が述べられた。一方、東アジア共同体で共通通貨が実現するとしても、かなり先の話であるとの見解が示された。

(提言の実行)

 過去数年の間に日本の出した提言、日本が参加するASEANとの会合で合意された10以上の将来構想の中から、将来の東アジアにとって望ましい環境、関係を具体化していく作業が必要であるとの見解、1999年11月のアジア経済再生ミッション報告書、いわゆる奥田ミッションの結論は、「開国」することであり、中でも人の移動及び農業分野で率先して自由化を進めることは日本だけで実現できるため、それが長期的には東アジア共同体が実現していく上で重要な原動力の一つになるのではないかとの見解が示された。

4 21世紀における日米関係

 日米両国は、150年余にわたり政治、経済、文化等あらゆる分野において緊密な交流を行ってきた。両国は、様々な試練を乗り越え、現在では自由、民主主義、市場経済原理等の価値観を共有し、政治・安全保障、経済、グローバルな協力等幅広い分野における強い相互依存関係・協力関係を有している。

 日米はともにアジア太平洋国家であるが、この地域が依然として不安定性・不確実性を有し、この地域への米国の関与が引き続き重要であることから、我が国は、日米安保条約に基づく日米同盟がアジア太平洋地域の平和と繁栄の基盤であるとの認識の下、多くの価値観と利益を共有する米国との関係をその外交の基軸としている。

 近年、日米関係は極めて良好でかつ同盟関係は非常に深まっており、両国は、日米同盟が真にグローバルな「世界の中の日米同盟」であるとの考え方の下、また、日米同盟が非常に強固であり、世界の平和のために有益であるとの観点から、イラク復興や北朝鮮の核問題等の国際社会が直面する諸課題に、世界の国々と協調しつつ、緊密に連携して取り組んでいる。

 我が国にとり、東アジア共同体構想の検討に向け、かかる日米関係の重要性について再確認することは、東アジア諸国との協力関係を進展させることとともに、重要かつ不可欠な課題となっている。

 調査会においては、これまでの日米関係と今後のあるべき姿、日米交流推進の意義、日米の経済関係等について、幅広い議論が展開された。

(一)これまでの日米関係

 戦後60年を考えると、我が国がここまで経済発展を遂げることができたのは、日米同盟を外交の基軸とした両国関係が存在したからであるとの意見が述べられた。

 この動きの激しい現代において半世紀を超えて日米同盟が十分機能しており、更に半世紀続くと見られるのは驚嘆すべきことであるが、それは、基本的に相互利益を成しているからであり、日本の安全にとって米国の存在は決定的であったからであるとの意見、日本は米国にとって西欧とともにグローバルかつ自由な経済活動、民主主義の重要な拠点であり、重視されているとの意見、米国が日本を極めて重視しているからこそ日米同盟が半世紀続いており、相互利益はかなり具体的に絶えず再定義されているとの意見、米国では、好ましくない事態に反応して多様性のある自由な社会が復元力を働かす、あるいは一定の時間幅を取れば立ち直ることができるという点で、米国は深く信頼できるとの意見が述べられた。

(二)日米関係の将来
(国際環境の変化と日米関係)

 米国に伍するようなパワーが今後20年間現れない場合、大国ゲームにおいては米国の一極構造が続いていくであろうし、そのような場合、内政面も含めて、米国が一国主義的な傾向を引き続き持ち続けるという趨勢が生まれるであろうとの見方、中国の台頭とインドの躍進が既存のステータスクオを変質させることが予想され、国際政治の文脈では多極化という趨勢が強まってくると思われることから、日本の外交政策や対米政策もそのような新たな趨勢の影響を受けざるを得ないとの見方が示された。

(今後の日米関係)

 日本の生存、安全、繁栄は自己完結的ではなく、むしろ、世界との相互依存、相互関係の中で世界第2位の経済大国というたぐいまれな地位を得ており、とりわけ米国との安全保障関係は不可欠であり、ますます重要であるとの意見が述べられた。

 日米同盟が我が国の外交の基軸であることに関しては今後も基本的には変わらないが、我が国の外交の舞台は東アジアに移ると思われ、日米関係、日米同盟を我が国の太いバックボーンとして押さえておきながら、東アジアの隣国に対応していくべきとの意見が述べられた。

 また、二分法で正邪に分けて世界を見るという米国の強引な決め付けとその力が結び付くことは大変危惧されるが、それが第2期のブッシュ政権においてどのような方向性を持つのかが大きな関心であるとの意見、長期的な趨勢として、9・11のトラウマ、グローバリゼーションの中での大量破壊兵器の拡散などの新しい脅威感というものは、必然的に米国の内政に影響を及ぼし、それがさらには外交にも投影されてくるため、世界の国際情勢・環境の変化の中で、日本にとって掛け替えのない同盟国の米国自体が最も激しく揺さぶられていることは、これからの課題であるとの意見が述べられた。

 大変革の中での日米同盟については、(1)自らが自らを守るという意志、精神を強く持つという自立の思想、(2)役割を分担して総和として最も良い結果をもたらすという相互補完、(3)東アジア共同体を日本も一緒になって、あるいは先頭に立って育て上げ、アジアの地域主義を着実に固めていくべきとする地域協力の三つの考え方で多層的に組み立てていくべきであるとの意見、冷戦下、イギリスが米国との特殊な関係を重視しながらソ連との間でもデタントを求め、欧州大陸との協力、西欧の強化に努めたように、日本もアジアにおいて、二者択一ではなく、米国との強い関係を持ちながらアジアとの協力関係を築いていかなければならないとの意見が述べられた。

 日米関係で注意しなければならないのは日中関係の対立であり、米国にとって日本はアジアで最重要の同盟国であるが、中国における利益もまた非常に巨大であり、日本と中国が対決関係になり、どちらを取るかと迫られることが米国の重荷になることは十分に考えられるため、日本は、日米同盟をしっかりと拡充・強化し、その上で中国と協力関係を結んでいくことが非常に重要であるとの意見、米中関係が難しくなったときの日米同盟は実は非常に難しいということを同時に考えておく必要があり、その際、台湾の問題が決定的に重要であることから、台湾を独立させず、中国にも武力行使をさせないということでいく以外にないとの意見が述べられた。

(日米関係と世界の安全保障)

 現在問題になっているのは、9・11などによって世界の安全保障がかつてなく一体化していることであり、このような時代にどのように対処すべきか様々な意見が出されており、世界の安全保障の一体化は非常に大きなジレンマを課しているとの指摘がなされた。

 米国だけが9・11や大量破壊兵器について少し大げさに騒ぎ過ぎた結果、西欧あるいは米国の同盟国の一部との間に脅威ギャップが広がっており、世界の主要な安全保障上の課題や優先順位についてもギャップがあるため、今後の日米関係に生じる環境変化として、同盟経営上のリスクが今までより高まることを覚悟しなければならないとの見方が示された。

 本年2月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同声明を見ると、必ずしも軍事的な話ばかりではなく、様々な相互協力も含めて世界の安全保障に資するといったことがうたわれているが、これからの日米関係を緊密にし、重視していくという視点に立って見たとき、日米同盟が世界的に拡大していくという危惧の念を持つとの見方が示された。

(三)日米間の交流

 世論調査において数字の上で示されている良好な日米関係、相互の信頼感情が、相手国の歴史的・文化的背景、国民性、地政学的利害状況などを含め、相手国に対する十分な理解を基礎とした実態を伴ったものなのかという疑問と、単にイラクの問題を始めとする国際的な対応において我が国政府が米国と共同の歩調を取っているからというナショナリズム的な感覚の反映にすぎないのではないかという危惧とを抱かざるを得ないとの意見が述べられた。これに対し、米国においては、小泉政権が非常に協力しているという全般的なイメージで受け止めているため、米国における日本の信頼はむしろ強くなっており、全般に良いと言える関係であるとの意見が述べられた。

 米国は自らの政策について十分説明責任を果たすべきであり、唯我独尊であってはならないとの意見が述べられた。これに対し、米国が内向きになる可能性、危険性はあり、注意しておかなければならないが、注意するだけでなく、米国と日本とが意見交換し、交流するということも必要との意見、日米関係の担い手を育て、認識や経験を共有して蓄積するため、我が国にアメリカ研究所が必要であるとの意見、現在は日米間のチャンネルが非常に大きくなっているため、それを更に強化し、日米関係の信頼性を生かして、日本は友人として米国に助言を与えることが重要であるとの意見が述べられた。

 また、日米関係は成熟し、安定期に入っているが、米国の日本専門家の層の薄さを考えると、仮に何かが起きたときに、彼らがリスクを吸収できるショックアブゾーバーとしての役割を果たせるのかという危惧があるとの指摘がなされた。

 日米両国に限らず、市民レベル、民間レベルで相互に相手国の歴史や文化、思考様式などを知り、理解することは、国家間の信頼関係を多少のことでは揺るがない確かなものにしていくための基本的な条件であり、それでこそ両国の信頼関係が真に安定したものとなり、日本外交の選択肢も広がっていくのではないかとの見解が示された。

(四)国連をめぐる日米関係

 米国は、イラク戦争開戦前に感じた国連安保理の機能の限界と、そして現在、世界の平和確保のための国連の重要性、安保理の重要性とを同時に感じているのではないかとの意見が述べられた。

 日本にとって日米関係は非常に重要であるが、米国が強引な政策に傾くことは、東アジアにとってもグローバルな政策にとっても決して望ましいものではないため、日本は、米国が国連を通じた正当性付与機能を上手に生かすように促し、助言していくことが望ましいとの意見が述べられた。

 日本の常任理事国入りについては、日本が常任理事国になったときに何をし、何ができるのかについて、綿密に定義し、正確にするため、米国と政策協議を行っていくことが必要であるとの意見が述べられた。

(五)日米の経済関係
(ドル債)

 欧州や中国がドル債の購入を控え始めている中で、日本だけが大量に購入している問題は、日米の経済面での異常な結び付きであり、いずれ表面化すれば大きな問題になるのではないかとの指摘、日本が非常に巨額の米国債を保有している中で、米国の金利が上がると、日本国債の金利にも影響を与える可能性があるとの指摘がなされた。

 これに対して、ドル債については、日本が一方的に購入を停止すると、長期金利が上昇し、債券相場が暴落するということにもなりかねず、ドル急落のおそれもあるため、どちらのリスク、コストをより重視するかということになったとき、やはり現在のように買い増していくこと以外に通貨当局としても手段がないのであろうとの意見が述べられた。

(日米FTA)

 日米間には、乳製品や小麦など日本国内で非常に抵抗が強い分野があるため簡単ではないが、戦略的には日中FTAと同時に日米FTAを考えるべきであるとの意見が述べられた。

 現在のFTAよりも踏み出した次世代のスーパー・フリー・トレード・アグリーメントを日米間で結ぶことは可能ではないかとの指摘がなされた。また、日米安保という安全保障の軸があり、その中で経済、文化、その他の協力関係も定義されているため、十分蓄積があるが、世界の中で同質性を持った友好国同士がFTAのような関係を持つことが一つの時代潮流であるのであれば、新たな装いを持って日米間の緊密な関係を再定義することを検討してもよいのではないかとの意見が述べられた。

5 拡大するEUの現状と今後の方向

 EUは、2004年5月に10か国が加盟し、25か国、人口4.6億人、日本の約2倍の国内総生産(GDP)を擁する存在となった。統合の深化と拡大に向けて大きく進展しているEUは、グローバルな諸課題の山積する国際社会において、一層そのプレゼンスを高めている。

 我が国が、東アジア諸国との連携を強化し、ひいては東アジア共同体を検討していく上で、悲惨な戦争と過去の対立を乗り越えて平和と発展を実現したEUから、その経験と教訓を得ることは、非常に意義深い。

 調査会においては、EUの拡大、日・EU関係の在り方、EUに学ぶべき教訓等、幅広い議論が展開された。

(一)EUの発展と現状
(EUの発展)

 欧州ではプラグマティックな部分と理想主義が結び付いており、単に平和だけではなく、平和と経済発展を結び付けるため、平和主義者だけではなく経済発展を望む企業家や市民、投資家もこれに連動して入っているとの意見、欧州は、危機の中から新しい解決を発見してきており、欧州のプラグマティズムと理想主義の結合は、日本としても学ぶところが極めて大きいとの意見が述べられた。

 関税統合を終えた欧州は、一時期ユーロペシミズムに陥るが、各国が一国経済ではうまく機能しないということで、国境を越えた協力の必要性を認識したのが80年代半ば以降であり、その後欧州の統合の深化・拡大は一層進んだとの意見が述べられた。

 EUの歴史の出発点は、人間を資産として位置付けて人間を大事にするような経済発展であったことが、米国などのように経済効率一辺倒とは少し違うところであるとの指摘がなされた。

(EUの現状)

 2004年5月1日、EUは第5次の拡大を遂げ、25か国の大欧州が実現したが、新加盟国を含む新しい欧州委員会は、(1)2010年までに世界で最も競争力のある経済圏になること、(2)外交政策を強化すること、(3)市民への広報戦略を活発化することの3点を大きな目標としながら船出を始めているとの見方が示された。

 EU憲法条約は、各国の制度改革をプッシュするような推進力を精神面でも制度面でも確認し、あるいは新たに自らコンセンサスを作るものであるとの見方が示された。

 一方、エリートたちは統合を進めるべきであるとするが、苦境にある人たちは、安価な労働力の流入や企業の特定地域への集中を懸念しており、今日でも、例えばフランスの極右政党や共産党といった勢力は、EU統合については非常に慎重又は反対であるとの意見が述べられた。

(二)EUの拡大
(拡大の方向性)

 欧州がEUの拡大を目指しているのは、国際政治の分野で冷戦の終えん、9・11のテロ、イラク戦争という三つの大きな変化があり、単に欧州の一つの地域機構というだけではなく、新たな世界秩序というものを打ち出してリーダーシップを取るという方向を目指しつつあるからであり、その意味では、拡大欧州は地域の統合から世界のEUへという変化を遂げつつあるとの見方が示された。

 また、2000年前後より、ヨーロッパ・エスノセントリズムと言われる他者の排除に結び付くような問題が急速に起きたため、欧州は多元的価値を積極的に打ち出し、対話と多様性をもって他者を寛容に受け入れ、欧州のアイデンティティーを変えていく作業を現在進行させつつあるとの見方が示された。

 さらに、安全保障の面では、9・11テロ以降、欧州は大きく安全保障観を変容させ、旧来の安全保障政策の見直しを始めているが、軍事化かソフトパワーかという二者択一ではなく、ソフトパワーをメーンにしながら紛争防止に積極的にかかわっていくという欧州の安全保障の見直しと軍事力の再編を行っているとの見方が示された。

(拡大EUの課題)

 EUは2010年までに最大の経済圏を目指しているが、これは中国の急速な追い上げにより、幾ら統合してもアジアに抜かれるという危機感によるものであるとの見方が示される一方、言語や通貨が様々であるEU加盟国が2010年までに連帯できるのか疑問であるとの見方が示された。

 また、我々日本人は独仏を中心に考えるかもしれないが、EUが15か国から25か国になった今、独仏以外の国々が何を考えているかについても見ていく必要があるとの意見、イラク戦争が一つの象徴であるが、我々がこれまで知らなかった国々が対米関係においてどのような行動を取っているかを一つ一つ見ていかないと、EUを誤って解釈してしまうおそれがあるとの意見が述べられた。

 さらに、EUの世界秩序の戦略は大きな共感を集めることができると考えているが、魅了する何かがあるからこそ進んでいるとの意見、拡大欧州が米国に並ぶ新しい世界秩序のリーダーとなるか、また、そのようなEUと日本はどのように向き合っていくのかは非常に重要な課題であるとの意見が述べられた。

(三)日・EU関係

 日本にとってEUは遠い存在であるが、経済的に見れば今や輸出入だけ見ても米国と日本との関係に比肩するほどの関係があり、また、日本が常任理事国入りを果たせば、常任理事国を2か国有するEUの存在は、日本外交にとって欠かすことのできない大きな存在であるとの意見が述べられた。

 日本とEUとの関係については、日本が将来の国の形成の在り方についてどのように考えるかによって全くアプローチが異なり、日・EUの直接的な緊密化を図るのであれば日々努力する以外になく、できる限りのことを行うことが望ましいとの意見が述べられた。

 我々は、日米関係を軸として、どのようなタイミングで欧州をサポートするか、あるいは米欧の協調に手をかすか、そのタイミングが非常に重要であり、それは単なる技術的なものではなく、世界における日本の見識を示すものであるとの意見、日・EU、日米、米欧が別々に存在し、日本と米欧との関係がまた別に存在するということではなく、米欧関係の中に日本がビルトインされている状態でいかに発言していくかが重要であるとの意見、国際的に問題となるのは、日本は米欧の意見が一致しているときはスムーズに入っていけるが、対立していたり次元が違っていたりすると、どのようなスタンスを取ってよいか分からないということであるとの意見が述べられた。

 また、日本が今後、東アジアや欧州との関係で米国とのスタンスを考える上での一つの手本は、EUの主流派とは異なる独自の動きを取るイギリスのような立場であり、中国や韓国など大陸の国々とは異なった国益ないし国民の意識を踏まえた上での政策決定が極めて重要であるとの見方が示された。

(四)EUに学ぶべき教訓

 ドイツとフランスとの間の憎しみは消えたわけではなく、事あるごとに握手し合っているが、このことはその後の様々な経済関係、政治関係を発展させていく上で極めて重要であり、日本も中国も、EU並みの度量の大きさや外交のうまさを学ぶべきであるとの意見、長期的な展望として中国とどのように付き合うかについては、歴史的な対立国とどのように関係を結ぶかというEUの政策に学びながら、共同歩調を探していくべきであるとの意見が述べられた。

 石油や原子力を共同で管理することによってともに発展しようというEUのプラグマティズムは注目すべきであり、例えば今後、石油の共同管理について日中だけでなく中東にも応用したり、北朝鮮の核を平和利用するために日本も中国もかかわるなど、プラグマティズムと理想主義を結び付けて関与することによって自らにも利益をもたらすといった点は正に学ぶべきとの認識が示された。

 東アジアが緊張関係にあるからこそ、米国、欧州に次ぐ第三の極として結束すべきであり、EUに学びながら日本がEUと結束し、東アジアの国々と友好関係を作り、ともに経済発展を重ねていくことは極めて重要であるとの意見が述べられた。

6 今後の外交課題

 今日の世界情勢は、米国一極という基本構造を持ちながら、EUの拡大、中国の驚異的な経済成長、インド、ブラジルの順調な経済成長、ロシアの復調、そしてASEANプラス3を中心とした東アジア共同体構想の登場という局面を迎えている。また、米国同時多発テロ以後、アフガン戦争、イラク戦争という形で、宗教・宗派、民族・部族の対立という状況に加え、テロとの闘いが表面化している。正に、グローバリゼーション、多極化、多層化が同時進行していると言えよう。

 こうした中、我が国は、非核三原則、武器輸出三原則、PKO参加五原則など、海外において武力行使は行わないという原則を守りつつ、国際的な軍縮・不拡散を維持・強化する努力を払ってきた。また、本年2月の京都議定書の発効に見られるように、地球環境問題の解決に向けた努力に加え、ODAとPKOを通じた国際社会の安定と発展、紛争の起きた地域における平和の定着などに努力を払ってきた。

 特に、日本の安全と繁栄に重要なアジア諸国に対しては、よりきめの細かい援助に努め、相手国の経済・社会の開発と発展に貢献している。加えて、環境汚染、国際組織犯罪、テロ、災害問題などの非伝統的な脅威への対応においても、ソフトパワーに基づく外交政策を展開している。

 調査会においては、アジア外交に関し、我が国外交の基本戦略の必要性、地球環境・エネルギー問題、議員外交の重要性などの幅広い議論が展開された。

(一)我が国の外交の在り方
(多極化、多層化する世界と日本外交)

 かつては日米欧の三極構造を中心に国際関係をとらえていればよかったが、近年の状況は新たな国々の経済発展が特徴となり、中国、インド、ロシア、ブラジル等を加えて日本の将来構想を立てなくてはならないとの意見が述べられた。

 国家間の利害関係が緊密化してくると、国家の次元を超えたテロ、麻薬、海賊、大量破壊兵器の拡散などの非伝統的脅威に加え、経済、エネルギー、環境、災害などにどのように対応していくかという共通の利益の実現が緊急の課題として扱われるべきであるとの意見が述べられた。

 また、日本の国民が現在享受している生活水準を維持していくためには、グローバルに安定し開かれた世界が維持されること、東アジアが世界で最も重要な成長センターとして安定して発展することという二つの条件が必要となり、これらが日本の国益に資することになるとの見解、外交における能動的取組の必要性について、日本的価値体系の上に立った外交であるべきであり、米国の要求するトランスフォーメーションをそのまま受け入れて、欧州におけるイギリスと同じ役割を極東で演じることではないとの見解が示された。

 さらに、我が国は、非核三原則、武器輸出三原則、PKO参加五原則など、武力の行使に関して厳しい制限を付けていることから先進的な試みを進めており、今後も不戦の制度化に最大限の努力を払い、イニシアチブを発揮すべきであるとの意見、現在、ラテンアメリカ核兵器禁止条約、南太平洋非核地帯条約、南極条約等があるが、日本は非核地帯の更なる拡大に寄与すべきであるとの意見が述べられた。

 また、米国、イギリス、フランス、ロシア及びインドの首脳補佐官は常時Eメールと電話でつながって目に見えないG5というものができ上がっているが、日本と中国がこれに入っていないといったことを含めて、日本の外交政策決定プロセス、外交体制は今のままでよいのかとの見解が示された。

(アジア外交の在り方)

 これからのアジア外交は、対中、対韓に偏るのではなく、東南アジアを重視し、ロシア、インドさらにはアラブ諸国との交流を強化することにより、裾野の広い足腰のしっかりした展開をしていく必要があるとの意見が述べられた。

 また、アジア外交における日本の積極的なイニシアチブを新たに展開しなければならないが、同時に従来から努力しているアジア地域における信頼醸成のアプローチを効果的に組み立てていくことが必要であり、日本としては、再び軍事国家にはならないこと、軍事的脅威を与えないことという基本的枠組みが重要であるとの意見が述べられた。

 さらに、日本の東アジア外交は、米国との関係を抜きには考えられないのであり、その場合、米国の東アジアにおけるファーストプライオリティは何かということが最も重要であるとの意見が述べられた。

 また、最近の日本の外交姿勢について、中国がASEANに積極的に乗り出したのを見て慌てて出ていくという後手後手の状況であり、米国の動向を見ながら中国にイニシアチブを取られないように動くという場当たり的な外交が進められているのは、アジア外交全体の戦略が欠けているからであるとの意見が述べられた。

 加えて、安全保障の面では、中国の軍事力の拡充・強化が日米安全保障協力と対立する面があるので、様々なレベルで日中間の安全保障論議を盛んにしていく必要があるとの指摘、東北アジアの安全保障に関し、将来は中国を含めた信頼醸成のメカニズムを作る必要があるとの指摘がなされた。

(我が国の国際貢献)

 国際社会において日本が努力すべきは社会の再建、安定であり、日本の得意とする平和構築を着実に行い、ODAやPKOで地域社会の安定化に貢献すべきであるとの見解、日本は自ら近代化、工業化を遂げた経験を持ち、経済インフラの重要性を理解しているため、日本だけが経済インフラ支援を愚直に続けてきたが、世界銀行、アジア開発銀行などの国際機関を除けば日本が圧倒的に貢献しており、これは誇るべきことであるとの見解が示された。

 また、日本はASEANに対して、現地のNGOがイニシアチブを取る形で草の根・人間の安全保障無償資金協力を行っており、政府間の視点よりはるかに住民あるいは地域社会に根付いた視点で日本とアジア諸国の関係が緊密になっているとの見解、ASEAN域内の格差是正に向けた支援、すなわち民主化支援、キャパシティビルディング支援、東部ASEANとメコン河流域の開発支援、東南アジア島嶼部における海上保安、海賊対策、麻薬取引防止、人身売買防止、マネーロンダリング対策、国際テロリスト対策等が必要であるとの見解が示された。

(国連への対応)

 中国、韓国が日本の安保理常任理事国入りに反対しているが、反対の投票権を行使しにくくなるほど多くの国からの支持が得られるような体制作りが必要であるとの意見が述べられた。

 また、仮に常任理事国になったとしても、従来のようなその場しのぎの場当たり的外交では通用しないので、あいまいな態度ではなく立場を明確にした、国際関係を律する普遍的な外交理念が求められているとの意見が述べられた。

 これに関連して、国連の本質であるソフトパワーが最も発揮されるのは地球的な問題に取り組むための規範作りと予防のための協力体制作りにあるとの意見、世界秩序の構築は地球社会の共通の利益に帰着するものであり、すなわち、環境上の脅威、非伝統的な脅威、経済的不平等を解消させる方向付けをすることであるとの意見が述べられた。

(ソフトパワーの重要性)

 ハーバード大学ジョセフ・ナイ教授の「ソフトパワーは自国が望むものを他国も望むものにする力、無理やり従わせるのではなく味方にする力である」との主張は、あくまで国益を確保するために外交上どのような手段を重視すべきかという観点から述べたものであり、21世紀を戦争のない世紀にしていくために、ソフトパワーに基づく外交政策を重視すべきとの主張に全面的に賛同するとの意見が述べられた。

 また、テロ、海賊問題、環境汚染、災害問題などの非伝統的な脅威に対処するためにどのように貢献するかという体制をこれまで以上に明確に示す必要があり、同時に、対話と協調の積み重ねにより対決を回避するという方向性を探しつつ、我が国のハードパワーとしての経済力とソフトパワーを相補的に用いることを行動原理とし、ソフトパワーの有用性を十分駆使して、粘り強い合意形成を進めていくことが大切であるとの意見が述べられた。

 さらに、文化・芸術という分野における民間交流が国際社会における相互理解のために不可欠であるとの意見、ソフトパワーは結局は日本の魅力であり、例えばJETプログラムによる親日派の増加も成功例であるとの意見が述べられた。

(戦略を研究するシンクタンクの必要性)

 本格的な外交戦略研究所が不可欠であり、社会科学的な意思決定を支える土台となる情報と方式を持たなければ、科学技術を高めて絶対値を大きくすることができても何もならないとの見解、日本は戦略的な研究活動、政策研究が不可欠であるにもかかわらず、独自の戦略を打ち立てるための条件を備えていないとの見解が示された。

 また、日本の外交戦略が後手後手に回る原因について、米国のハドソン研究所、マサチューセッツ工科大学CIS、ジョンズホプキンス大学SAISのような外交戦略を研究する機関が存在しないからであり、アメリカ研究所さえもないという状況であるとの意見、英米の大学は、ケンブリッジ大学とマサチューセッツ工科大学が、オックスフォード大学とプリンストン大学が組んでおり、アイデアと政策研究の段階から共同研究を行っている点で優れているが、そこに日本の大学が入れないのは非常に問題であるとの意見が述べられた。

(二)地球環境問題

 地球環境問題は巨大な地球的規模の脅威となっているため、これに対処することは明確な共通利益であり、京都メカニズムの積極的活用等を含めて、環境規制などの環境外交を展開すべきであり、我が国は、アジアの環境ガバナンスを強める枠組みの形成を進めていくことがアジア外交の観点から極めて重要であるとの意見が述べられた。

 また、日本はまず京都議定書のCO等の6%削減という義務の達成を実現することが世界での発言力を確保するために必要であり、同時に、中国、インドを始めとする発展途上国の環境意識の向上を図り、世界共通のルール作りにリーダーシップを発揮すべきであるとの意見、本年2月16日に京都議定書が発効したことにより、ポスト京都議定書の新しい枠組みを作る上で、発展途上国も排出量の削減という応分の責任を負わなければならないとの意見、今後CO排出量の取引市場が形成されるが、こうしたメカニズムを積極的に利用していくことが非常に重要であるとの意見が述べられた。

 さらに、日本企業が環境分野で国際競争力を持つためには、研究開発で後れを取らないよう、政策面でのバックアップも必要であるとの意見、地球環境問題を解決していくには、アクターの一つとしてNGOの参加は極めて重要であるとの意見が述べられた。

(三)エネルギー問題

 世界の成長センターである東アジアで日本がリーダーシップを取れるのは、例えば石油の共同備蓄、環境技術の活用といった分野が考えられ、日本としてはアジアの需給動向も踏まえた総合的なエネルギー戦略を構築すべきであるとの意見が述べられた。

 また、日中がともに必要とするエネルギーを取り合うのではなく、協力関係を組み立てていく以外にないのであり、対立関係にあってもそれを緻密につなぎ合わせて共同利益を再定義していくことが重要であるとの見解が示された。

 これに対し、中国の経済調整や石油を始めとする天然資源に対する需要が全く予測できない状態であるので、エネルギー協力の基盤というものは現実にはないとの見解、液化天然ガスの開発は非常に加速しており、分布も原油より広く、需要と供給は一対一の関係であることから、エネルギー協力という話にはならないとの見解が示された。

(四)議員外交の重要性と本調査会の役割
(議員外交の重要性)

 外交を外務省だけに任せるのではなく、我々政治家が中国などに出掛けて事実を伝え、彼らが何を考えているかを聞いてくるという役割があるとの意見、日中・日韓・日朝間の問題の解決、常任理事国入り問題は我が国外交に大きな意義を持つものであり、政府とともに我々議員がどのような役割を果たせるかを考えていくべきであるとの意見、若い世代の一部には日本の進んでいる方向があいまいであるという見方があるので、我々がリーダーシップを取って方向性を示す必要があり、若い世代の心に炎をともせるようなものを提示すべきであるとの意見が述べられた。

 また、国民を代表する国会、内閣が真に日本の国益と世界平和を希求し、これを実現していくという心構えを持って活動しているか、我々は常に反省材料とすべきであり、日本は過去の反省、清算を行った上で十分な貢献をしているということを堂々と述べていける政治を行う責任があるとの意見、欧州の中にいて日本を見ていると、政治家の訪問や発言が少ないため、日本の政治は非常に遠くに見え、他方、中国は政治家、旅行者ともに非常に多く訪問するので、世界の中で中国の言うことが受け入れられ、日本が本来言わなければならないことが世界の国々に届かないという状況が生じており、大変憂慮されるとの意見が述べられた。

(本調査会の役割)

 エネルギー、食料、環境問題に関して日中間で協調した政策を策定する必要があり、FTA戦略など重要な問題について、6年という任期の長い参議院の本調査会で議論すべきであるとの意見、本調査会の議論の中で東アジアの経済統合に向けて日本がリード役を担うべきという点で共通認識がある程度形成されているとの意見が述べられた。

 また、3年間同じメンバーで継続性を持つテーマを議論する中で、議員外交の意義付けが重要であり、日本外交の中で議員外交というものがどのようにあるべきか、具体的に何をすべきかを検討していきたいとの意見、アジアにおける日本の主張と立場について本調査会で是非議論していくべきであるとの意見が述べられた。

あとがき

 今期の国際問題に関する調査会は、3年間にわたる調査活動のテーマを、「多極化時代における新たな日本外交」と定めた。

 21世紀に入り、世界ではグローバリゼーションが進展する中、米国が唯一の超大国として、世界の政治、経済及び安全保障の分野において主要な役割を果たしている。他方、EUの深化と拡大、東アジアの目覚ましい経済発展、インド、ブラジルの順調な経済成長、ロシアの復調など、世界では多極化に向けた動きも進んでいる。

 東アジアにおいても、朝鮮半島の緊張や中台関係など種々の不安定要因が依然存在する中、中国の持続的な高度成長、ASEANなどを通じた様々な分野における地域協力の進展及び地域としての東アジアの台頭などに見られるように、我が国を取り巻く国際環境は大きく変化を遂げつつある。

 我が国が、このような世界及び東アジア情勢の変化にいかに対応し、またどのような外交を展開すべきなのかという問題意識の下、今期調査会の1年目は、「日本のアジア外交」に焦点を当て、日中外交の回顧と今後の課題、東アジア共同体構築に向けた課題などについて重点的に調査を行うとともに、我が国のアジア外交との関連において、日米関係及びEU情勢についても調査を行った。

 調査会においては、中国の持続的な高度経済成長などを背景に、日中両国の相互依存関係はかつてないほど深まっている一方で、両国間には種々の課題が存在すること、また東アジアの平和と安定のため、我が国が関係各国と協力・連携を図りつつ、共同体構築に向けた外交を進めることが重要であることなどが指摘された。

 2年目においては、1年目の調査を踏まえ、多極化時代における我が国外交の在り方について、更に調査を進めていく予定である。