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経済・産業・雇用に関する調査会

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経済・産業・雇用に関する調査報告(中間報告)(平成18年6月2日)

1 調査の経過

 参議院経済・産業・雇用に関する調査会は、経済・産業・雇用に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため、第百六十一回国会の平成十六年十月に設置され、同年十一月に調査項目を「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」と決定し、三年間にわたる調査を開始した。

 初年度は、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」について、全般的に調査を行うとの観点から調査を進め、平成十七年六月十三日、特に緊急を要する若年者の雇用問題についての提言を含む中間報告書を議長に提出した。

 二年目に当たる本年度は、第百六十三回国会において都内視察を行い、第百六十四回国会においては、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、経済及び所得格差問題、日本経済のグローバル化への対応、団塊世代の退職による経済・産業・雇用への影響、高齢者雇用の在り方及び女性雇用をめぐる課題について、それぞれ参考人から意見を聴取し、質疑を行った。その後二年目の中間報告を取りまとめるに当たって、各会派からの意見表明及び委員間の意見交換を行った。また、平成十八年二月十六日及び十七日の両日、経済・産業・雇用に関する実情調査のため、愛知県に委員派遣を行い、派遣委員から三月一日にその報告を聴取した。

 なお、平成十七年十一月二十三日から十二月一日まで、オランダ王国及び英国における経済活性化及び雇用政策に関する実情調査等のため両国を訪れた海外派遣議員から、平成十八年二月八日にその報告を聴取した。


2 調査の概要

一 参考人からの意見聴取及び質疑応答

(一)経済及び所得格差問題について

 平成十八年二月十五日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、経済及び所得格差問題について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(三菱UFJ証券株式会社チーフエコノミスト  水野 和夫 参考人)

 グローバル化が進展し、同時にIT革命が起きるという構造的な変化によって、一九九五年以降格差問題が表面化してきている。日本や先進国の製造業が途上国の近代化と一緒に成長するメカニズムが生じた。今の日本の製造業は、一九六〇年代の高度成長期とほとんど変わらない成長率になってきているが、一方、中国やアメリカの非常に高い成長率に連動することが難しい非製造業は、九〇年以降ほとんどゼロ成長が続いている。

 九五年以降、先進国の投資に対するリターンが非常に低くなり、投資機会を極力途上国に求める動きが先進国で起きた。これによって、一つの景気循環の中で上下しまた元の水準に戻るという傾向が全く見られなくなり、いろいろな指標が上がり続けるという現象が起きた。格差拡大も、自然に元に戻る力は備わっていないと思われ、何らかの政策的な手段を講じないと、ますます広がると思う。

 グローバル化によって格差がどのような形で生じているかということであるが、企業利益と雇用者所得がかなり明暗を分けるようになってきた。両方が増えることが景気回復だったと思うが、最近の景気回復において雇用者報酬はマイナスである。しかし、大企業・製造業はプラスであり、大企業・製造業に従事する六・七%の人々の所得が増えて、それ以外の約九三%の人々は八年間にわたり所得が減少するという傾向が続いている。利益の集中度合いを見ると、全企業部門に占める大企業・製造業のウエイトが上昇しており、いかに今回の景気回復が海外との連動性が高いかを示している。

 都会と地方の格差の問題もある。全国平均を上回って東海地区の生産が増えているが、北海道は減少している。今までは一定の範囲で上下する回帰性があったが、二〇〇〇年以降はそれがなくなった。また、ある地域が好調だとそれが全体に波及するという可能性もなくなりつつある。

 企業間の格差がグローバル化で広がってきており、製造業の大企業と非製造業の中小企業の一人当たり人件費を一九六〇年から比較すると、二・三倍まで拡大した。七一年から九〇年にかけての三倍の速さで今は所得格差が広がっている。非製造業・中小企業の一人当たり人件費は三百七十七万円であり、九四年は四百三十三万円であったので六十万円近くの減であり、貯蓄非保有世帯の上昇テンポと同じような軌跡を描いている。何らかの対策がなければ、二〇一〇年には所得格差が二・八倍まで広がり、貯蓄非保有世帯は三世帯に一世帯に広がってしまう可能性が高くなっている。

 また、児童生徒の就学援助率と算数の平均点の相関関係を見ると、教育の機会均等が少し崩れかけていると思う。人口が増えないときに実質経済成長率を高めるには、全要素生産性、いわゆる技術進歩に頼らざるを得ない。技術進歩は教育で決まる面が多い。今のままだと、技術進歩は中長期的に伸びにくくなってきている。中国で過大とも思える資本投入を行っており、日本は資本投入で成長率を上げるという選択肢は取れない。やはり教育水準をもう一度引き上げることが必要と考える。

(東京学芸大学教育学部教授  山田 昌弘 参考人)

 オールドエコノミーからニューエコノミーへの転換点が一九九〇年代後半に来て、その影響が人々の生活や社会意識に現れ始めたのが九八年ごろからだと考える。ある時点で経済格差があってもいつかは同じ水準に達するという希望を持てる状況であれば、たとえ格差があったとしても人々は希望を持って生活できる。九五年ごろから起こっていることは、量的格差ではなく、質的な問題である。通常の努力では乗り越えられない格差、それは、低成長や不安定化に伴って生じている意識であり、九〇年代以降、先進諸国は同様の問題に直面している。

 具体的には、将来不安を伴う格差拡大が起こっている。将来中流生活から転落してしまうという不安が広がっていることが大きい。中流生活から現実に転落してしまう層が増え始めたのも九〇年代後半であり、普通に生活をしていても何かが起こると自分の生活も転落してしまうという意識が広がれば、それは将来に対する不安となって現れる。

 将来日本社会は経済的にどうなるかということを、東京と青森で若者に調査したところ、今以上に豊かになると答えた者は四%、三人に二人は余り豊かでなくなっていると回答した。自分はどうなるかについては、多少はよくなるという者は増えるが、五人に二人は今より豊かでなくなっていると回答した。

 前近代社会は、宗教やコミュニティーが希望を保証していた。しかし、近代社会になると、現世での経済的報いが社会の希望の原動力になった。日本では高度成長期から九〇年ごろまではほとんどの人が希望を持てる社会であった。賃金格差や生活水準など、到達点に差があったかもしれないが、同じように努力が報われると思えたので、質的には同じだと思えたのだと思う。そして、九八年から社会の不安定化が始まる。原因は、九〇年代後半にニューエコノミー、つまりIT化、グローバル化、サービス産業化、知識産業化、文化産業化が一気に上陸し、職業を不安定化させて生活の将来見通しが立たなくなり、希望を失う人が増えたためと考える。オールドエコノミーは、オン・ザ・ジョブ・トレーニングで仕事に習熟することが可能だが、商品やシステムのコピーが容易なニューエコノミーの下では、商品生産において生産性の高い人と低い人の格差が拡大し、その影響を若者が真っ先に受けた。雇用者所得のジニ係数の推移、特に男性を見ると、昔は、若いころは格差がなく、年を取るに従って格差が付く状況であったが、今は二十代から格差が付いてしまう。そのような状況にあって、能力がある者は希望を持って社会に入り、若くして収入が高くなるという希望を持てるが、そうでない者は自分の人生をギャンブル化してしまう。ニューエコノミーから脱落し、夢を見ながらフリーターとなっている人が増える結果になっている。

(独立行政法人労働政策研究・研修機構労働経済分析研究部門研究員  勇上 和史 参考人)

 所得格差の程度を示す指標であるジニ係数で代表的な所得統計を見ると、一番目立つのが所得再分配調査による所得である。一九九八年から二〇〇一年まで非常に急激なカーブを描いて格差が拡大しているように見える。所得格差の指標が拡大していることについては考慮すべき点が二つある。一つは、人口の高齢化の影響である。同じ年齢の中での格差は年齢が上がるほど拡大する。高齢化で格差の大きなグループが増えると、全体の格差も拡大しているように見える。もう一つは、世帯が小さくなると所得の低い世帯が増えることである。厚生労働省が、全世帯について、世帯の年齢構成、人員構成の変化を取り除いた計算を行っている。その結果、九五年と九八年の比較では、調整を行うと格差の拡大は七%から三・二%に低下する。また、九八年から二〇〇一年については、もう少し細かな調整が行われ、格差は〇・六%の上昇にとどまるとしている。二人以上の世帯に関しては大阪大学の大竹文雄教授の研究があり、二つの影響を排除した結果、九四年までは、格差は縮小若しくは横ばいであったが、九四年から九九年にかけては、二十歳から三十歳の所得格差が拡大している。総務省の全国消費実態調査でも、これに近いような二十代の格差が出ている。

 八六年から九八年までの貧困率を見ると、一番上がっているのが二十代前半、そして最近上がっているのが二十代後半である。若年層では、全世帯の中央値の半分以下の所得しかない世帯が四割程度である。こうした若年層に見られる格差拡大は、正社員と非正社員の就業機会・賃金格差が原因であろう。

 正社員あるいは就職に関して、九〇年代後半以降に格差が広がり、特に、就職も進学もしなかった人の割合は、就職者の半分弱まで上がっている。就業機会が入口で違ってくると、正社員とパートの賃金格差の影響を完全に反映することになる。また、就業機会の格差が拡大すると、失業の不安を感じる人が増える。男女とも、特に若年者で不安意識が広がっている。仕事の満足度では、九九年と比較して二〇〇二年では不満意識が若年層で高まっている。客観的な格差の拡大と主観的な不安意識は、若年層に関してはリンクしたものが見られる。

 正社員になれなかった層、あるいは選ばなかった層も訓練を積まなければ、次に景気がよくなっても簡単には正社員に移行できず、賃金が上昇するカーブに乗ることは非常に難しいため、生涯賃金が全く違ってくる。子どもの教育投資、結婚など、次世代の問題も含めた構造問題への転化が懸念される。そのため、多様な入口を保障する必要がある。非正社員化の波は非常に高いが、一方で正社員にならなかった層、なれなかった層について、戦力化していこうという企業の動きはあり、よい事例を発掘して啓発していくことが必要であろう。また、正社員の仕事が非常にきついということがあるため、正社員の中でいろいろな層をつくる必要があるのではないか。雇用保障が不安定であったり、能力開発の機会が限られているため、非正社員から正社員、あるいはスキルアップに関して、政策的にできることがあるのではないかと考える。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 格差を埋めるための若者に対する教育の観点から、教育制度についての意見及び将来的に取り組むべき具体策を伺いたいとの質疑に対して、学校を卒業してもフリーターになり、その努力が無になるかもしれないという不安が非常に強くなっており、これだけのことを行えばほぼ確実にこういう仕事に就けるという保証をする学校が求められ、また、自分の能力と見合った形でのカウンセリング機能も含めた個別的なキャリア教育が必要になっているとの意見が述べられた。

○ 小規模事業政策、中小企業政策についての意見を伺いたいとの質疑に対して、地方分権を進め、その地域の人たちが自ら考え、自由に活動できる環境を整えることしかないとの意見が述べられた。

○ 心理的格差を希望格差と理解するがいかがか、また、格差の連鎖を断ち切るために最も効果的かつ緊急性がある施策は何かとの質疑に対して、昔は時間とともに徐々に格差が付いていたが、今は若者が社会に出た時点で相当の収入格差があり、かつ将来格差が見える社会になっているため問題が深まっており、どのようなライフコースをたどっても公平になるような社会保障制度を用意することによって、社会的リスクを低減させること、また、若者が自立能力を付けることが必要であり、職業訓練などフリーター、ニートの期間を短くするような方策は現実的かつ緊急性のある課題だと思うとの意見が述べられた。

○ フリーター、ニートを出さないための公的支援策は何かとの質疑に対し、以前は、ワークシェアリング的なものは生産性が上がらないためよくないと思っていたが、これだけ社会問題になってくると、企業の競争力が多少落ちることを覚悟しても、ワークシェアリング的なことを考える段階に来ているとの意見が述べられた。

○ 格差拡大の背景にはIT革命とグローバル化があるとのことであったが、先進国共通の事象としてとらえてよいのかとの質疑に対して、アメリカでも小規模な企業の成長率が相当落ちており、世界的な傾向だと思うが、日本の場合は一億総中流から上下に分かれるため、他国に比べると、より大きな社会問題となるのではないかとの意見が述べられた。

○ 希望格差社会はニューエコノミーが背景であるとのことであったが、そのような文明論的な背景だとすると、人為的な補整には限界があるのではないかとの質疑に対し、小文明転換程度のことは起こっていると思うが、日本が不利な点は一九九〇年代までが余りにもノーリスク社会であり過ぎたため、適応の痛みが起きており、新しい生き方、生活の仕方、希望の持ち方が出ることを期待しているが、適応のための混乱期間はできるだけ短くした方がよいとの意見が述べられた。

○ 格差問題を循環問題から構造問題へ転化させないために、正社員登用制度の奨励、正社員雇用の多様化を提言しているが、今一部の企業はその方向に動きつつあり、このことをどう評価しているかとの質疑に対して、パートタイマー、アルバイトの活用動機は賃金が安いということで、そのこと自体は大きくは変わっていないが、優先的に正社員に登用する大手メーカーもあり、そうした企業が増えているとの認識が示された。

○ 大企業と中小企業、地方と大都市なども含めてあらゆる分野で格差が広がっているが、それを加速させた政策的対応をどう見るかとの質疑に対し、二〇〇〇年以降世界的な変化が起きたために、市場原理主義的な施策を取ること自体はやむを得なかったが、同時に、これだけ格差が広がることをある程度予見して、セーフティーネット等を整備した方がよかったと思うとの意見が述べられた。また、基本的には不況の問題だということで、少しその取組が遅れた感があることや、学校から職業への転換がうまく機能しなくなったことへの対応が、少し遅れたことがあると思うとの意見が述べられた。

○ 希望格差社会と言われる社会には、どのような問題があるのかとの質疑に対して、リスクからの逃走と名付けたが、親との同居で生活ができるから、努力が報われない体験を実社会でしなくてもよいと逃走したり、バーチャルな世界にふける人が増えたり、やけになって幸福な人を道連れにするような形の犯罪が起きたり、将来が不安定でリスクがあるならば結婚したり子どもを持つのを先延ばしにしようとする人が増えて、少子化が起こるという問題があると思っているとの意見が述べられた。

○ ライブドアの堀江氏に対して、若者、特にフリーターが夢を感じて支援を行ったが、今回の事件はそのような若者の意識にどのような変化を与えると考えるかとの質疑に対して、二十歳ぐらいの人は夢には踊らされない人が増えているようであり、もう少し現実的に、ある程度努力が報われ周りから評価されるような場が与えられ、生活ができる見通しを持たせることができたら、若者が元気になってくるのではないかとの意見が述べられた。

○ 地域間の景気の波及性がなぜなくなったのかとの質疑に対して、従来は製造業がよくなると、非製造業、サービス産業もよくなるという波及効果が見られたが、一九九五年ごろからなくなり、二〇〇五年ごろからその特徴が地域間でも出始めてきたと思われ、製造業と非製造業のウエイトの大きさが反映している可能性が高いとの意見が述べられた。

○ 二極化社会をどう理解し対応策を講ずればよいのかとの質疑に対して、社会的に対話ができなくなるということが問題であり、もし生活水準はかかわりなくということであれば、生活水準が高くなくても周りの人から尊敬されるような生き方を奨励していくしかないとの意見が述べられた。

○ フリーターの問題は雇用する側にも問題があるのではないかとの質疑に対し、企業はフリーター経験をよい経験とはとらえていないが、フリーターを既に活用している他企業の実態等を学ぶとともに、学校等でキャリアデザインを行う必要があるとの意見が述べられた。

○ 地方では勉強すればするほど若者は働く場がないため出ていく状況にあるが、対策は何かとの質疑に対し、アメリカ、イギリス、オーストラリアといった国々は物流、流通業の生産性が高く、少ない雇用で生産性を上げることによって、その他狭義のサービス業の雇用が増える仕組みになっており、比較的生産性が低いところをいかにITを使い、少ない人数でよりよいサービスを提供するかが第一段階であるとの意見が述べられた。

○ ニート、フリーターに非物質的価値観を持てと言ってもなかなか難しいが対応策は何かとの質疑に対し、地域から若者が出ていく問題とこの問題はつながっており、価値観は一人で持てるものではなく、それを共有する仲間が一緒につくり出すものであり、それが可能になる魅力あるNPO等の集団を各地に育てて、生産性の高い人が住みやすいところにすることが、一つの方法ではないかとの意見が述べられた。

○ 一九九五年を強調するメルクマールは何かとの質疑に対して、経済が初めてデフレに直面し、さらに、先進国の実物投資のリターンが二%前後へ徐々に低下し始めるとともに、初めてOECD加盟国が自国の貯蓄に関係なく投資ができる状況が生まれるなど、戦後経済のフレームワークが崩れた最初の年だと思うとの説明があった。また、社会意識という側面で見ると九八年が多分転換点であったとの意見が述べられた。

○ 一九九五年以降の特徴の中で景気の回帰性の消滅が挙げられているが、景気が持続したのは、アメリカの住宅バブルと中国の設備投資バブルによるもので、いずれ持続性を失うのではないかとの質疑に対して、一景気循環で元に戻る回帰性が消えたという意味であり、前提条件のアメリカの住宅と中国の投資がもしおかしくなれば、八年分の反対現象が起き、経済的には大変だと思うとの意見が述べられた。

○ ポスト近代経済圏のポストという言葉の意味は何かとの質疑に対して、ポストモダンに本当は行かなければならないサービス産業に全くそれができていないという意味で使いたかったが、ネーミングが悪く変えなければならないとの認識が示された。

○ 理想的には権力、権威、財力は分散していた方がよいと思うがどうかとの質疑に対して、一九八〇年ごろまでは相互に何らかのうらやましさが循環し、地位の非一貫性があったが、今は、こうはなりたくないと思う人とうらやましいと思う人が二極化してきていることが問題であり、フリーター、ニートをうらやましく思えるような仕組みを今後構築していく必要があるとの意見が述べられた。

○ 地域間で失業率等に差があることには、少子化で親子とも地元志向が強いことが影響しており、また、企業の再配置でそれが緩和されると考えるがどうかとの質疑に対し、少子化になればなるほど、ほかの地域で埋め合わせることが事実上できなくなり、一方、企業は効率化したいであろうから分散はなかなか難しいため、ワークシェアリング的なものを考える時期に来ており、中高年の働き過ぎに割増し課徴金を掛け、若者を正社員で雇った方がコストが安いということになれば、うまく歯車が回ると思うとの意見が述べられた。

○ 格差があることに昔は納得していたのに、今はなぜ納得できないのかとの質疑に対し、今はスタートラインから違ってきたため、格差を埋められずに一生続くという不安を持てば納得できなくなり、また、努力をしているのに生活水準が下がっていくということに、納得できないと考える人が多いとの認識が示された。

○ 景気が回復したから減税をやめてもよいという政策をどう見るかとの質疑に対して、特別減税は、一九九九年から二〇〇一年にかけての景気を回復させた理由にはほとんどなっておらず、特別減税が景気対策であったなら元に戻すべきだが、景気が回復しても所得が増えないことを重視するのであれば、分配政策として税率を変更することは非常によいと思うとの意見が述べられた。

○ 必ずしも大きなチャレンジをしたのではなく、与えられた仕事を着実にこなす多数の人が経済発展を支えてきたのであり、勝った人は大変評価されるべきであり、負けた人もチャレンジして負けたのだから評価されるべきという傾向はよくないと思うがどうかとの質疑に対し、チャレンジ、競争は必要だが、最近の競争がバトルロワイヤル化していることは懸念しており、勝っても負けても同じ枠の中にとどまるという形での競争がやる気を引き出すとの意見が述べられた。

○ 欧米はまず均衡処遇の制度があり、その上で多様な働き方だと思うが、事例、意見を伺いたいとの質疑に対し、欧米では、特に若者に関しては、アルバイトが本採用に結び付いており、また、雇用形態の多様化が進むことで、処遇がその仕事の責任、内容、スキルに合ったものでなければならないとなるため、どちらも重要であるが、一方で、非正社員と正社員の厳しい区分は本来の意味の雇用の多様化を保障し得ないため、その是正は同時に進めていかざるを得ないとの意見が述べられた。

○ 若者には勝ち組、負け組という意識はなく、将来設計を立てないだけであり、思うとおりにならないことがおかしいという状況の中でフリーター、ニートの存在があるのではないかとの質疑に対し、希望が甘いということはあるが、それを許さないようになってきていることが、フリーター、ニートなど今までの主要な部分を占めていた層から外れた人たちが出てきた理由と思っているとの意見が述べられた。また、職業について考える訓練を受けておらず、親との同居で低収入でも楽しく生活ができるために脱出意欲が弱いという面もあるが、逆に仕事で活躍できる場がないため親と同居せざるを得なくなり、その結果、別に一生懸命やらなくてもよいとなるロジックの方が強いとの意見が述べられた。社会が豊かになり、所得水準が上がり、もし希望に合わなければ、もう少し待てばよいとなっていると思われるが、昔に戻ることはできないため、若者が希望を持って働けるような社会、雇用の機会をどのようにつくるかであり、入口段階で正社員になれないという状況は望ましくないとの意見も述べられた。

○ 資産格差はどの程度広がっているのか、また、もし格差があるとしたら、税金による再配分機能が重要と考えるがどうかとの質疑に対して、ジニ係数では資産格差の水準は所得格差を上回り、特に若年層で高いのは相続のためと言われており、相続税の強化の問題が出てくるのではないかとの意見が述べられた。

○ 企業、人がボーダーを越えて競争する環境下で一国だけで格差を是正することが可能か、できないとしたら、最終的には税金による所得再配分ということになり、必ずしも小さな政府路線は正しくないのではないかとの質疑に対し、企業はより安い労働力を求めて海外に進出するため、一国だけで格差を是正することは難しく、そうなると税制になるが、格差が広がれば、是正するために税率を上げることは無理な政策ではなく、小さな政府も単に規模を全部金額ベースで縮小していけばよいというものではないとの意見が述べられた。

○ 後ろ向きの生き方をしている若者が非常に多いと思うが、現実を肯定しながら、前向き志向ができるような研究、考え方があれば伺いたいとの質疑に対し、特に若者に関し、人間はどういうときに希望を持てるかという希望学プロジェクトという調査研究が続けられており、フリーター、ニートは余り仲間にも恵まれていないという特徴が明らかになっているとの説明があった。

○ 国際比較から見た日本のジニ係数の実態はどうかとの質疑に対して、若い時期から差が付く今の事態を憂慮しているとの意見が述べられた。また、二〇〇五年のOECDの報告では、日本がアメリカ、イギリスに次いで不平等度が高いが、その人口構成を見ると、日本の順番が激変したということはなく、真ん中辺りを推移しているのではないかとの意見が述べられた。

○ 「技術史上最大のなぞ、中国が十四世紀以降なぜ技術的優位を持続できなくなったのか、中国の王朝支配」という資料の記述は、具体的にはどのようなことかとの質疑に対し、中国の王朝支配のときにはいろいろな技術革新が起きたが、技術を使えるか使えないかは王が判断したため普及しなかったとのことであり、経済・社会制度が全要素生産性を決める例として記載したとの説明があった。


(二)日本経済のグローバル化への対応について

 平成十八年二月二十二日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、日本経済のグローバル化への対応について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(大阪大学社会経済研究所教授  小野 善康 参考人)

 経済のグローバル化は、最近、国際金融の分野でも非常に進んでおり、今までの常識が成立しなくなりつつある。

 グローバル化以前の常識とは、一生懸命貯蓄したお金は低金利で産業界に流れ、企業はその便益を受け大きく成長することだった。貯蓄して企業に提供した資金は、徐々に重化学工業や製造業など資本を使う産業、よりハイテクの産業に流れ、産業構造は変化した。そして、労働移動も旧来の産業から先端の産業にスムーズに動き、旧来の産業は徐々に小さくなった。国民は企業の成長こそ自分の成長、自分の豊かさのシンボルであるととらえた。このような常識は、世界中を自由自在に資金が流れるグローバル化時代では、大きな変更が迫られる。

 その変更の第一の点は、日本人が一生懸命貯蓄して豊かになることと、日本企業が発展することとは全く別であるということである。日本人の貯蓄した資金は、日本企業だけではなく海外にも投資される。

 第二の点は、世界中の資金はもうかるとなれば一気に流入するので、大きな産業構造の激変が起こる可能性があることである。国内産業にほんの少しの生産性の差があるならば、資金は生産性が低い産業から回収され有利な方へ流れ、若干の生産性の差が産業構造に大きな影響を与える可能性がある。また、新たな産業に労働がすぐに適応できるかという問題も出てくる可能性がある。このことは、経済政策を行う上で重要で、経済政策が産業の消滅、発展、さらには海外との産業の役割分担にすら影響する可能性があることを意味する。

 グローバル化の時代では、海外のライバル企業との競争が重要であると強調されるが、実は、グローバル化であればあるほど、為替の調整がうまくいくほど、本当のライバルは国内企業である。例えば、タオル産業とコンピュータ産業だけが日本にあり、タオル産業は世界に比べて倍の効率、コンピュータ産業は三倍の効率を持っているとする。両方とも海外より効率がよいからといって、両方とも世界に勝ち、両産業を握ることにはならない。当然、両産業はコストで勝つが、そのため経常黒字が拡大し、途端に為替調整が起こって円高になる。すると、海外の倍の効率を持っていたタオル産業が負けてしまう。すなわち、より強い産業が残り、相対的に弱い産業がつぶれるということが起こる。

 資金の海外流出や、海外からの資金の流入による買収など様々な心配がされるが、心配するのは各産業、各企業であり、国民生活には直接関係がない。グローバル化の時代に日本人がどこに投資したらよいかというと、国内外を問わず有利なところに投資すればよく、重要なことは、企業を保護するよりも、国民生活、需要側を大切にすることである。グローバル化以前は、日本企業の発展が国民の豊かさのバロメーターであり、日本人が持つ日本企業に資金を投入することが日本人の資産が増えることだった。しかし、グローバル化以降は、日本企業だけに投資する必要はなく世界中に投資し、また、日本にある企業を外国人も保有する時代となっている。そのため、国民生活を豊かにする、我々がたくさん物を買いサービスを十分受ける状況をつくると、経常収支を通して円安を導き日本企業を強くすることになる。

 為替の価値は、その国の経済の強さのバロメーターであり、円高は日本経済買い、円安は日本経済売りと言われるが、実は正反対である。日本が好況であるほど円安、円高になるほど不況という、普通の考えと反対の状況が一九八〇年代の資本自由化完成以降に起こっている事実である。

(株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー  関 志雄 参考人)

 中国は十三億人を抱える大国であり、一九七八年以降一〇%近い高成長を遂げ、昨年のGDP規模は二・二三兆ドルと世界第四位のGDP大国となった。貿易は二〇〇四年以降、世界第三位の地位を占めるに至っている。一方、一人当たりGDPは千七百ドル前後と日本の五%程度で、中国の発展段階は一九六〇年代半ばごろの日本と同様である。最近、中国は世界の工場と呼ばれるが、外資への依存度は非常に高く、しかも加工貿易が中心である。

 日中関係については、競合関係ではなく、当分の間、補完関係にあると見ている。中国の強い分野は日本が弱く、中国の弱い分野は日本が依然として強い。中国の強みは付加価値の低い部分で、付加価値の高い部分は日本など先進国が押さえている。日本と中国との競合部分は、九〇年には、わずか全体の三・二%だったが、二〇〇三年では二一・九%になった。以前より競合度が強まっているが、残りの八〇%はまだ競合していない。

 しかし、日中関係は競合関係にあるという大前提の下でいろいろな議論が展開されており、ここから得られる結論も間違っている。

 一つは、中国発の悪いデフレ論である。中国に合わせて日本企業が産出価格を下げることは、その分利益が少なくなり悪いデフレであるとすることは、部分的分析としては正しい。しかし、多くの日本企業は、中国から部品や中間財を調達しており、輸入価格の低下は、生産コスト低下につながるので利潤が増える。中国と競合関係にある分野では中国発デフレは困るが、補完関係にある分野では、中国発デフレはすばらしい。中国と競合関係にある分野は、日本の産業全体の二割程度であり、全体的に見て中国発デフレは日本経済にとってはむしろよいデフレである。

 中国の影響を考えるときに、インフレ・デフレなどの物価の絶対水準よりも、交易条件で見るべきである。最近、中国が買うものは高くなり、中国が売るものは安くなると言われるが、これは比較優位に沿ったグローバル化の結果として、中国自身の交易条件が悪化していることを意味する。中国の輸出品目と日本の輸入品目とは対応しており、逆もそうである。交易条件の変化によって、中国経済発展の果実は、広く日本を始めとする国々で享受されている。実際、中国に対する日本の交易条件は九八年から約二〇%改善しており、二〇〇五年の数字では、日本にとって約一・六八兆円の外貨の節約に当たる。つまり、中国から毎年日本に一・六八兆円の実質所得の移転が交易条件の変化により発生していることになる。

 中国の台頭に対する日本の対処方法は、補助金や輸入関税を導入して古い産業を保護するのではなく、むしろそれらを積極的に海外に移転し、その代わりに新産業の育成に力を入れることである。この二十年間の中国との競合度の高まりは、日本が止まったままで中国が追い上げた結果でもある。

 古い産業を海外へ移転すると、日本経済の空洞化が心配されるが、二〇〇四年の日本の対中投資は四千九百億円と、日本の対外直接投資の一割強、GDPの〇・〇九%にすぎない。この程度では、日本経済が空洞化する理由にはならず、むしろ衰退産業の順に沿った海外移転は、一種の新陳代謝に例えられ、日本経済にとってよい直接投資である。今、日本に問われているのは、衰退産業を守るべきなのか、それともまだ国際競争力の強い産業を守るのかという点ではないかと思う。

 ビジネスの立場で中国の活力をどういかすべきかは、製品又はサービスの生産優位と市場優位の観点から、中国でつくった方が安く中国で売れるならば、中国での現地生産は正解である。自動車は市場としては中国の方が大きくなるが、現段階では日本で生産した方が品質もよく安い。日本国内の雇用創出も考えると、衰退産業は途上国に譲るべきだが、国際競争力のある分野は国内に残すべきである。それでも、日本の自動車産業が中国で現地生産せざるを得ない理由は、中国の自動車の輸入関税が依然として高いからである。日本と中国の間に自由貿易協定ができれば、ゼロ関税で中国向けに輸出でき、リスクを負ってまで中国で生産せずに日本で生産し、中国向けに年間百万台単位で輸出できる。直接投資よりも自由貿易協定が正解ではないかと思う。

(同志社大学大学院ビジネス研究科教授  浜 矩子 参考人)

 グローバルな世界でどう展開していくかが問われる時代になった。グローバル化の向こう側にどんな地平が見えてきているかを展望したい。

 おおむね姿が見えてきたグローバル時代の特徴は、一に無極化の時代、二に綱引きの時代である。

 まず、無極化の時代だが、グローバル時代とはアメリカ独り勝ちの時代と言われるが、これは誤解で、今のアメリカにこの広いグローバル世界、地球経済のたった一つの軸になる力はない。しかし、アメリカの代わりもない無極時代である。今の世界は、バッテリー依存症候群で、アメリカ、日本、中国、いずれもバッテリーで動くパソコンのように、だれも自分で独自の電源を持たずバッテリーに依存して動いている。アメリカ経済を動かすバッテリーにはメイド・イン・ジャパンと書いてある。今のアメリカ経済を動かす基本的なエネルギーは日本からアメリカへ流れる資金のフローである。そして、日本を動かすバッテリーにはメイド・イン・チャイナと書いてある。中国経済との融合によって日本経済が非常に好調である。また、中国を動かすバッテリーにはメイド・イン世界とある。人、物、金のすべてが中国に吸収され、集中して、中国経済の成長性を支え合っている。グローバル時代は、独自に供給できないものを他国に依存する弱者のもたれ合いのような無極構図である。

 次に、綱引きの時代だが、今のグローバル世界においては様々な形の相異なる力同士が引っ張り合いをしており、四つの綱引きがある。

 第一はデフレ対インフレの綱引きである。今のグローバル世界においてはデフレ的な圧力も強いが、インフレ的な圧力も久々に強まっている。これは、中国が買うものは皆高くなり、中国が売るものは皆安くなっているためである。中国発デフレ要因とインフレ要因のせめぎ合いの中に我々はいる。

 第二と第三は、競争がもたらす平等と格差の綱引き、均一化と多様化の綱引きである。グローバル経済はメガ競争を世界中の人々に強いるが、その結果、平等と格差が綱引きをし、均一化と多様化が綱引きをする。グローバルスタンダードには、世界標準に向かいすべての国々、産業、人々のパフォーマンスが収れんし、均一化していかなければならないということが表れているが、それに反発し多様な独自性を保ちたいという力学も働く。今の日本では、競争の激しさが経済社会の画一化、均一化を促すことになってしまいそうな感じがある。例えば、一定の評価基準に従って人々をランク付けする成果主義で、均一のパターンを企業、組織、教育機関が適用し始めると、優秀だとされる人間、駄目だとされる人間が日本中で皆同じになってしまう。競争が多様性を生むと直観的には思うが、競争が均一化を生みそうな怖い感じがする。

 最後は、融和対排除の綱引きである。融和と排除をせめぎ合わせる要因は融合である。人、物、金が国境に制約されず世界中を飛び回る現象は、融合という現象である。融合と融和は一見似ているが、融合が融和につながるとは限らず、むしろ、融合が排除を生むことが起こる。日中経済はよい補完関係で融合が進んでいくが、政治的に融和をもたらすかは難しい。中国やその他の東アジア経済との融合度の高まりが政治的排除の論理を生まないようにする工夫が問われていく。

 綱引き問題の勘どころは、外に向かっては融和、内に向かっては多様化である。外に向かっての融和は、日本経済のアジア化とも言える。それに対し、内に向かっては多様化である。戦後の日本の経済過程の中で意図的に抑圧していた内なる多様性、地域間及びそれぞれの地域の多様な独自性が前面に出てくるようにすることが大きなキーポイントになる。その意味で、内に向かっての日本経済のローカル化と言い換えてもよい。

 もう一つ重要な課題は、今までの年功序列、終身雇用、護送船団方式、すみ分けなど、官が行うべきことも民が行ってきた面が多い。今や民に官的役割をするゆとりはないので、官の出番が大きい。小さな政府を目指しながら、官的サービスの充実を進めなければならないため、非常に難しい課題である。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 今後の日本の資本市場はどうなるかとの質疑に対して、株式市場がようやく戻りつつあるという視点で見るとますますよくなり、大きな経済循環は大体四十年ぐらいの周期で動いており、経済の循環や資本市場を楽観が支配するかどうかで決まるので、十五年後に日本がまたバブル的な状況になっていても驚かないとの意見が述べられた。

○ 人口減少時代に入っているという認識だが、これから更に加速した場合の市場への影響をどう見るかとの質疑に対して、人口減少は問題だと議論され、政策的にも問題視されているが、個々の国民の福祉や幸せで見ると人口は多過ぎるぐらいで、下がっていく間の調整だけの問題と思われ、年金制度という後付けの制度を維持するためだけに本質的な人口という問題を持ってきただけで本末転倒であるとの意見が述べられた。

○ 市場原理主義が日本に本当になじむのかとの質疑に対して、市場原理主義で構造改革を次々に進めていくことには反対であり、人や企業が本当に働ける場を得たならば、市場ルールの場で十分に戦えるが、一方で、そこからあふれた人たちをどうするかという問題があり、市場原理を徹底する新古典派経済学でも、全員働けるという前提の上で市場原理を遂行するとしており、働ける場をつくって、その後は戦うという市場原理ならば大いに行っていただきたいとの意見が述べられた。

○ 日本の自動車産業の見通しはどうかとの質疑に対して、日本を始め先進国の市場では、人口が増えないという理由で、自動車はこれ以上売れないとの見方だが、世界全体で見ると、中国を始めBRICsと呼ばれる国々が高成長を遂げているので、自動車市場は必ずしも低迷せず、また、日本の自動車メーカーの国際競争力は現段階においては依然として非常に強く、五年、十年のタイムスパンで考えても、中国の自動車産業は日本と競争できないとの意見が述べられた。

○ エネルギー争奪の綱引きをどう考えるかとの質疑に対して、エネルギーの分野はとにかく綱引きを回避し、争奪戦とならないようにすることが重要であり、例えば、欧州連合では、石炭や鉄鋼など資源や基礎資材の共同管理をするところから恒久和平を目指したが、裏を返せば、エネルギーや基礎資材の争奪戦では、容易に戦争になってしまうので、エネルギーの共同管理、共通エネルギー政策のようなものを、東アジア共同体の一つの核にしたらどうかとの意見が述べられた。

○ 基準を決めるための基準をどのように定めるのかとの質疑に対して、グローバル時代は基準を決めるための基準を決められない時代であり、これが統一基準だと自信を持って言える存在がないとの意見が述べられた。

○ 不公平は公平であり、不平等は平等だという認識だが、各企業、産業が今後どのような役割分担をしていくのかとの質疑に対して、これまでの日本の経済社会は、救済を必要とする弱者が出ないように事前に保護の網を掛けるという事前保護であり、民がその役割を行ってきたが、それができなくなって落ちこぼれる者が出てくるときには、事後救済的な役割をきちんとすることで、このような問題を回避する知恵が出てくるとの意見が述べられた。

○ リストラが国際競争力にどのような影響を与えるかとの質疑に対して、リストラは少人数で効率よくつくることなので、同じ交換レートであれば勝つが、そうすると黒字がたまり円高が進行してしまい、せっかくコストを下げたのに、国際マーケットでは同じ値段になり、また、リストラは失業を増やすため、輸入が減少して経常収支黒字が拡大し更に円高が進むとの意見が述べられた。

○ 中国と日本の両国で起きている格差の共通点と違いは何か、また、中国における格差是正が中国経済及び日本との経済関係にどのような影響を及ぼすかとの質疑に対して、中国の一番豊かな上海と一番遅れている貴州省の一人当たりGDPは十対一で、東京と沖縄では二対一であり、中国の方が深刻な問題になっており、また、中国における地域格差是正には三つの政策が重要で、第一は、省間の人、物、金の流れの制約をなくす国内版FTA、第二は、上海でコストがかさむ産業を海外でなく中国の内陸部へ移行する国内版の雁行形態、第三は、日本の地方交付税のような豊かな沿海地域から内陸部へ援助する国内版のODAであり、格差問題がうまく解決できなければ、中国経済、中国社会、中国の政治全体が不安定化するリスクがあり、また、外需依存型成長から内需依存型に切り替えるためには、この地域格差の是正が前提条件になっているとの意見が述べられた。

○ グローバルスタンダードとは何か、また、EUや中国がグローバルスタンダードをどのようにとらえているかとの質疑に対して、グローバル化とはグローバルスタンダードへの収れんであるどころか、むしろ多様化の方向に行くと受け止めることが正統的で、世界統一標準を制するものが存在しないということがグローバル化という言葉の本質的な意味であり、また、ヨーロッパに関しては、足並みや思いが乱れて、グローバルスタンダード至上主義の一派、ユーロピアンスタンダードを構築すべしとする一派、そしてグローバルでもなくヨーロッパでもない、コミュニティースタンダードを大事に抱き留めていこうとする一派の大体三種類のタイプの人々に今は大別されているとの意見が述べられた。また、中国に関しては、現段階では積極的にグローバルスタンダードの戦略を持っているとは言えないとの意見が述べられた。魂という意味でのグローバルスタンダードと規格としてのグローバルスタンダードの二つを完全に区別しなければならず、規格統一の問題では日本が一歩引いても規格統一した方がよく、一方、魂の面では、正しい考え方を発言することがグローバル社会では許され、それがオリジナリティを発揮することだとの意見も述べられた。

○ 投資が主流となって豊かさを求める時代に変化しつつあるが、投資による豊かさは広く国民に行き渡るものではなく、所得や資産の経済的格差を拡大する方向に働くのではないかとの質疑に対して、自分が直接海外へ投資をするか、自分が投資した先が海外に投資するかとは関係なく、収益率の高いところに資金が流れ、それが貯蓄をしている国民すべてに行き渡るので、チャンスが広がるほど国民生活は豊かになるとの意見が述べられた。

○ 大中華圏(グレイターチャイナ)の経済協力は今後どのようになり、我が国にどのような影響があるかとの質疑に対して、中国と周辺の地域、特にグレイターチャイナに関しては、台湾との関係がかぎであり、大陸と台湾の関係は、当分の間、現状のまま維持されると見込まれるが、政治と経済の収れんが実現できれば、台湾との平和統一の可能性があり、その段階では、中国も経済面では資本主義国家となり、政治の面では立派な法治国家、民主国家になれば、統一しても日本の脅威にはならないとの意見が述べられた。

○ 中国に多くの日本企業が進出しており、特に、中小企業の中には思うような結果を得られずに撤退する例も多いと聞いているが、日本の進出企業側、中国の投資環境等、解決すべき点、取り組むべき問題点は何かとの質疑に対して、日本の企業からの苦情には、特に、知的所有権が余り尊重されない、売掛金の回収が困難であるなど、信用にかかわるものが多く、法律の面が執行段階ではまだ不備や不十分な点があるが、信用の問題、法治の問題を改善しなければ外資を誘致できない状況になっているので、少なくとも外資を誘致したいところでは一生懸命にこのようなインフラ整備にも力を入れており、少しずつよい方向に向かっているとの意見が述べられた。

○ グローバル経済下における効果的な需要喚起策は何かとの質疑に対して、多くの企業は負荷になるから嫌がるが、環境規制を行うことによって、新たなマーケットをつくり、円安も生み出し、地球全体のベネフィット及び今世紀の戦略産業にもつながり、また、景気は今よくなっているので、今後、トレンドとして進んでいく円安を邪魔しない政策を行うべきであるとの意見が述べられた。

○ 将来における日本と中国の競合度はどうなるかとの質疑に対して、今までの数字だけを見れば、二〇〇〇年を基準にすると、二〇〇五年には三二%、二〇一〇年には六四%になるが、今までは中国の貿易規模の増大と中国の産業の高度化により、競合度が高まったが、一方で、失われた十年においては、日本がほとんど止まっているということが問題であり、中国がどのくらい頑張るかだけではなく、日本はいつまでも止まったままかどうかにも懸かっているとの意見が述べられた。

○ 中国の一人っ子政策が生産年齢人口の減少や少子高齢化を通じて中国経済に対してどのような影響を及ぼすかとの質疑に対して、中国は一九八〇年ごろから一人っ子政策を徹底させており、およそ二〇二〇年ごろから生産年齢人口が絶対数で減り、労働力減少、貯蓄率低下などにより、潜在成長力は低下し、二十数年間にわたる一〇%近い高成長は恐らく終わると見てよく、また、まだ十五年あるので今後一人っ子政策を緩和すればよいとの議論もあるが、もし緩和すれば、農村部の人口だけ増え、ある程度発達した都市部では余り積極的に子どもをつくらない状況になっているので、数は増えるかもしれないが、労働力の質全体がむしろ落ちてしまうリスクもあるとの意見が述べられた。

○ 外に向かってのアジア化と内に向かってのローカル化という二つの政策をどう共存させるのかとの質疑に対して、基本的にはローカル化なくしてアジア化なしという規定関係があり、内にあって多様な独自性、独創性が前面に出ている状態で外との融合関係を強めていくと非常に発展性のある展開になっていくが、ローカル化が進まない形でアジア化が進むと、特定の地域に痛みが集中する状況をもたらす可能性があるとの意見が述べられた。

○ 終身雇用や年功序列などの日本的雇用慣行についての見解を伺いたいとの質疑に対して、世の中の変化が非常に早いので、労働力も含めて資源の再編はもう少し頻繁に行われなければならないという状況下では、業種によっては余りこだわる必要はないのではないかとの意見が述べられた。また、終身雇用は既に雇われている人の保護にはなっているが、雇われていない人から見ると保護になっておらず、一種の既得権になっているが、競争競争では、非常に短期的な行動をしかねないため、競争を少し押さえて安定をということであれば、年功序列が一概に駄目とは言えないとの意見が述べられた。年功序列、終身雇用は閉鎖経済体系の中でしか成り立たない面が強く、グローバル化時代にはこれを維持していくには限界があるが、例えば地域社会、地域経済がそれぞれ開かれた小宇宙化して妍を競い合うようになると、結果的に雇用も維持され、年功も尊重していく状態ができてくるという面はあると思うとの意見も述べられた。

○ 資料の「中国の躍進と人民元の動向」について伺いたいとの質疑に対して、通貨が安くなることがその国の経済にとって非常によいという典型的な例として中国を挙げたのであって、八〇年代の終わりから九〇年代の初めごろと現在とを比べたら、圧倒的に中国経済は発展し、技術力、品質ともに上がっており、普通の常識ではそういう場合には元は高くなっているはずだが、八〇年代の終わりごろに比べて円に対して元は三分の一近くになっているとの説明があった。

○ 日本は基幹産業を守り、衰退産業を中国に譲るという場合の中国に譲る分野は何かとの質疑に対して、マーケットに任せ、関税など残っているものはすべてなくすべきであるが、残念ながら聖域があり、農業はその一つではないかとの意見が述べられた。

○ 日本経済のローカル化に向けた政策の切り口は何かとの質疑に対して、一に金融、二に通貨であり、金融に関しては、地域金融をいかし、金融のパイプをきちんと確保する政策対応が非常に重要であり、通貨に関しては、地域通貨という概念があり、円という通貨を使わない経済活動のネットワークをつくり、内部循環的な経済の構造をつくり上げることは面白い展開であり、地域通貨的な概念を導入してローカル経済を活性化するという方法があるとの意見が述べられた。


(三)団塊世代の退職による経済・産業・雇用への影響について

 平成十八年三月一日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、団塊世代の退職による経済・産業・雇用への影響について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(シャープ株式会社代表取締役専務取締役人事本部長  熊谷 祥彦 参考人)

 シャープは、オンリーワン経営として、次の四つを軸に、需要創造型の経営を進めている。第一は、オンリーワン技術・オンリーワン商品を軸にして、特徴のある技術と商品によって需要を創造していくことである。第二は、特徴ある技術を創出するため、部品であるデバイスから商品に至るまでの垂直統合型の経営を進めていくことである。第三は、付加価値は製造するところで発生することにかんがみ、国内において、競争力ある製造を実現するということである。第四は、無から有を生むという意味でアイデアがキーワードとなることから、人材育成に力を注いでいくことである。

 人材の育成については、労使で基本認識を一つにして、次の三つの観点で諸施策を展開している。一つは、終身雇用を守っていくことである。ベースに安定した雇用がなければ人材育成型の企業運営もできないことから、労使ともに、人材育成型の雇用が終身雇用であると理解している。二点目は、個人が成長しなければ会社の成長もないことから、労使を挙げて個人の成長を支援していくということである。また、能力を顕在化し、その業績貢献を評価するという意味で、成果主義を進めている。もう一つは、各事業間の人の流動性を高めることである。そのために、人事制度を含め、知識の習得と併せて現場を経験するという計画的なローテーションを実施している。

 二〇〇七年問題については、二つのことを課題として認識している。まず、この六年の間に事業責任者の七割が退職し、組織の長のもう五割が退職することから、早期に人材を育成しなければならないということである。次に、団塊世代の退職を企業活性化の推進を図るためにポジティブな意味でとらえ、国際的な技術競争力の強化と国際的なコスト競争力の強化を進めるということである。国際的な技術競争力の強化とは、団塊世代が退職することから、現在の経営課題に合った形、国際競争力に合った形の採用を行っていきたいということである。国際的なコスト競争力の強化には二つの意味がある。一つは、価格が下落することに伴い、コスト面で対応しなければならないことであり、もう一つは、消費国で商品を組み立てるためにはグローバルに通用する人材が必要であり、それに対応する取組を進めていかなければならないということである。

 具体的な取組事例としては、定年再雇用制度がある。これは、二〇〇一年四月にスタートし、希望者へのあっせんという形で行っている。一般社員については実績として約七〇%、管理職ではなかなかうまくいかず希望者の二〇%という状況であるが、今後、もっと充実していこうと考えている。

 技能の伝承については、エレクトロニクス業界としての基本的な七つの技能について、習熟している者を匠に認定し、若手を育成していこうという、ものづくりの匠制度がある。また、技能伝承のための社内学校や、産学連携によるものづくり後継者の育成も行っている。グローバルな市場で世界の技術者と戦っていこうとする場合、日本国内だけではなく、海外でも研究所、開発拠点を持たなければならない。このような観点から、グローバル採用を強化し、キャリアパス制度を実施している。さらに、経営幹部の育成のため、選抜型の教育制度としてシャープ・リーダーシップ・プログラムを導入している。

 今後の課題としては、特徴ある商品をつくるという組織の伝統を次の世代に伝えること、育成型の制度を取りながらジョブホッピングにも対応すること、ものづくりを支える人材を強化することが挙げられる。

(株式会社ニッセイ基礎研究所経済調査部門シニアエコノミスト  斎藤 太郎 参考人)

 団塊世代は一九四七年から四九年生まれの者を指し、人口で六百八十万人程度である。この世代が二〇〇七年から六十歳の定年年齢を迎え、一斉に退職を始めるとすると、労働力が一気に不足してしまうのではないかという問題があり、これが、いわゆる二〇〇七年問題の一つとして考えられている。

 団塊世代は、二〇〇五年時点では五十六歳から五十八歳であり、その労働力人口は五百十三万人である。このうち、失業者が二十三万人、就業者が四百九十万人程度である。労働力人口全体の約八%の割合を占めており、かなり大きな勢力を保っているということが分かる。

 二〇〇七年以降の問題を考える前に、日本の労働力人口は既に減少が始まっていることを押さえておかなければならない。労働力人口は、九九年以降、六年連続で減少が続いていたが、昨年、七年ぶりに増加に転じた。これは、景気回復が定着し、女性を中心とする労働市場の外にいた人が市場に戻るという動きが出てきたからである。労働力人口の増減の要因を、人口要因、年齢構成要因、労働力率要因の三つに分解すると、人口要因が少しプラスに働いているが、年齢構成要因がマイナスに働いており、二〇〇二年を境に年齢構成要因のマイナスが人口要因のプラスを上回っている。したがって、長期的なトレンドとして見た場合に、既に労働力人口が減り始めていると言える。

 団塊世代の退職動向については、早期退職制度等により九〇年代後半から少しずつ退職が始まっており、二〇〇七年以降も、二〇〇七年が三十一万人、二〇〇八年が三十九万人、二〇〇九年が四十一万人と退職者が増加していく。しかし、団塊世代以外も含めた全退職者数は、二〇〇七年に急に増えるわけではなく、むしろ二〇〇一年、二〇〇二年に比べると水準が低くなっている。

 五十九歳から六十歳になるとき、労働力率がどの程度下がるかを見ると、男性と女性で水準は異なるが、全体としても一〇%以内である。団塊世代が六十歳を迎えて一気に労働力がなくなることにはならないと考えている。ただし、労働力不足の懸念がないわけではなく、労働力人口の減少はこれからもじわじわと進行していくことが実態ではないかと思っている。年齢ごとの労働力率を一定と仮定した場合に労働力人口がどれだけ減るかを試算すると、毎年四十万人程度、十年間で四百万人近く減るということになり、このときの人口全体に占める労働力の割合は四九・六%である。したがって、この問題を放置しておくことはできないと考えられる。

 高年齢者雇用安定法の改正により、本年四月から継続雇用制度が導入されることになっている。実際は、既に多くの企業で実施され七割以上の企業が制度を持っているが、適用の割合は必ずしも高くない。これがどれだけ適用され実効力を持ったものになるかが大きなテーマになると考えている。人口の減少が不可避であることから労働力人口の減少も避けられないが、六十五歳までの継続雇用が定着した場合には、現状維持の場合に比べ、労働力人口の減少幅をかなり抑えることができる。

 団塊世代が退職すると人件費が浮くという楽観的な見方が一部にあると思われるが、高学歴化による賃金水準の高い労働者の割合は、団塊世代退職後に高まっていく。今後の課題としては、年功型の賃金体系を是正することにより賃金上昇圧力を軽減しながら、高齢者の継続雇用を進めていくことであると考えている。

(NPO法人ニッポン・アクティブライフ・クラブ会長  高畑 敬一 参考人)

 団塊世代の定年後の夢や不安、社会参加への意識等について、既に定年退職している六十代、七十代の定年アフター世代と、団塊世代前後の五十代と比較する意味で調査を行った。

 定年延長を望むかどうかについては、定年アフター世代では五割以上が定年延長すべきとしているのに対し、団塊世代では三割であった。また、団塊世代とアフター世代の違いは、団塊世代では年金に対する不安がアフター世代と比べて格段に多いことであり、七〇%が働いて収入を得なければならないと考えている。定年後の生活費や年金などの見通しから、団塊世代では定年後の生活費を不安とするものが五一%に上っており、働きたいが仕事がないという不安も三九%に上っている。

 アフター世代を含めたシニア世代共通の不安は、自分や配偶者の健康である。また、介護保険はあるが、自分が要介護になったときの不安は一七%から三〇%に達している。最も希望する定年後の暮らし方についての団塊世代の特徴は、フルタイムでない仕事、ボランティアによる地域活動、旅行・趣味・健康づくりという三位一体で定年後を暮らしたいとしていることである。

 社会活動への参加については、現在は自治会や町内会への参加が多いが、将来的にはボランティア、NGO、NPOに参加したいとするものが多くなっている。今後は、地域コミュニティーでのボランティア等の活動によって社会を支えていくことが期待できると思われる。定年退職者が、趣味や健康づくりや旅行などで人生を終えるのではなく、社会や人のためにボランティアで働き、生きがいや健康を得るような生き方をすれば、少子高齢化していく日本社会に対しては大きな支えとなり、そのような高齢者が圧倒的に多くなれば、超高齢社会においてもそれほどの心配はないと考えている。

 ボランティア団体は全国で十万以上あるが、ほとんどは一過性型のものであり、アメリカのような継続型の団体は少ない。また、現在のボランティア団体の九七、八%は女性が入っており、女性のみのものも多いが、男性が入りやすいボランティア団体は少ない。男性が参加しやすい男女共同型のボランティア団体をつくっていく必要があるが、継続型ボランティアリーダーの養成、自治体や行政等の援助、税制優遇措置等を行っていく必要があろう。

 団塊世代の生活意識については、自分のためにお金を使いたいとするものが多く、本物志向であることがうかがえる。情報に対する関心度は高く、新聞、行政の広報誌等を読む比率が高い。また、栄養のバランス、適度な運動、定期健康診断等、健康に気を遣っている人が多く、健康状態を良好とする人の割合も高い。

 これからは、フルタイム労働のほか、短時間労働、隔日勤務、SOHO等の多様な働き方を工夫することにより、七十五歳まで働ける社会にすべきではないかと思われる。七十歳以上でも収入があれば年金などの保険料を支払うこととし、女性の就労率を高め、消費税を支払うことによって、年金を維持し、若い世代の負担を和らげることができる。アメリカのような年齢差別禁止法の制定や定年制の廃止のためにも、新しい雇用の在り方を考える必要があり、やはりエイジレス社会の発想が大事ではないかと思われる。

(国際基督教大学教養学部教授  八代 尚宏 参考人)

 一九九〇年代までの日本は、人口の稼働率が非常に高く、少子化に伴う扶養負担の軽減という中で、人口構成上、非常に恵まれた黄金時代であったが、それが今急速に変わってきている。

 当時の状況においては、相対的に他の先進国と比べて税金や社会保険料の負担が小さく、同時に、団塊世代が旺盛な耐久消費財への需要を維持することで、消費を中心とした高い経済成長を牽引し、それに応じて設備投資も増えるという好循環のメカニズムが働いていた。将来については、人口の変化がほとんど決まっていることから、現在余り活用されていない女性や高年齢者の就業率を維持し、ないしは高め、人口の稼働率を更に高めていく必要があろう。

 日本では、高年齢者の就業率が非常に高く、欧州で大きな問題になっている早期退職の気配がほとんど見られない。七十歳に至るまで高い就業率を維持しており、その意味では、団塊世代が引退したからといって就業率が一挙に落ちるわけではない。ただし、働く能力と意欲を持っている高齢者に働く機会がないという機会費用の大きさを考えると、経済的、社会的にかなり大きなロスになるのではないかと思われる。

 高齢者層では所得格差が大きいが、その大きな原因は、働ける高齢者と働けない高齢者との賃金所得の差である。その意味では、雇用機会の年齢による制限をなくし、多様な雇用機会の拡大を通じて高齢者層の所得格差を改善することが、日本全体の所得格差の是正にもつながると思われる。

 流動的な労働市場により、男女、年齢にかかわりなく同一労働同一賃金の原則が達成できれば、定年自体が不要となることから、そのような制度に変えていくことが基本的なポイントとなろう。女性だけではなく、高年齢者をも含めた機会の均等をより徹底していく必要があるのではないかと思われる。

 女性や高年齢者に共通する点は、仕事以外にもしたいことがあるということである。短時間あるいは短期間の働き方を規制するのではなく、できるだけ多様な雇用機会を拡大していくことが、同時に、少子化対策、高齢化対策にもなるのではないかと考えられる。

 今後急速に進む高齢化は、新しい産業や需要の拡大といったプラスの面もある。これからは豊かで健康な高齢者が増えていくため、高齢者市場を活用する企業やNPO等から見れば、需要が拡大する面がある。医療や介護等の分野は、これまでは規制の塊のような分野であった。成長産業を育てるためにも、医療や介護等を公益性の高いサービス産業と定義し、利用者と事業者とが対等な立場で契約をする直接契約や利用者補助のような制度改革が必要ではないかと思われる。

 高齢者の資産の有効活用も重要である。高齢者が労働者として働けなくなったとしても、自らの資産を有効に利用し、資本家として社会に貢献することも重要ではないかと思われる。日本の高齢者の持つ金融資産の大きさは、諸外国と比べてそれほど差がないが、極端に銀行預金等に依存しているため、利回りが非常に低い。また、金融資産に比べて極端に多くの住宅資産を持っているが、住宅資産へのこだわりが非常に強く、住宅を有効活用していない。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ シャープ株式会社の将来に向けた考え方を伺いたいとの質疑に対して、地域と一緒になって事業を拡大していくことが重要であり、また、今後も需要の拡大が見込まれる液晶テレビを主体に事業の拡大を図るとともに、太陽光などの次世代の技術を産学連携で開発中であるとの説明があった。

○ 定年年齢の六十五歳への引上げについての見解を伺いたいとの質疑に対して、年金制度との関係で六十五歳の定年年齢はやむを得ないが、究極的には定年年齢が必要ないような労働市場が望ましいと思っているとの意見が述べられた。

○ 体力があるうちに一度区切りを付けるという四十歳定年説についてはどのように考えるかとの質疑に対して、六十歳で定年という画一的なパターンはある意味では限界が来ていることから、四十歳定年という考え方は非常に興味深いとの意見が述べられた。また、強制的な定年ではなく、四十歳で退職しても不利にならない仕組みをつくっていくことが基本であり、四十歳定年を二十年の有期雇用と考えることができるが、今の労働法では禁止されているので、多様な働き方を重視するため規制改革のようなことも必要ではないかとの意見が述べられた。

○ 高齢になっても元気で過ごしながら一生を全うすることができれば、医療費や福祉、介護に掛かる予算も少なくて済むが、そのためにどのような政策が考えられるかとの質疑に対して、ストレスなしに楽しく過ごす、できるだけ車を使わずにウォーキングをする、定期健康診断を受ける、自分の選択で楽しく働くという方向で啓発や指導をするとよいのではないかとの意見が述べられた。

○ 高齢者が、教育の場で、匠の技のような技術や職業での経験を子どもたちに伝え、人間味豊かな教育をすることも必要ではないかとの質疑に対して、学校教育に参加することも重要であり、社会経験の豊富な高齢者が教師となることや、経験をいかして地域社会が運営する学校の経営をするのはよいことではないかとの意見が述べられた。

○ シャープ株式会社では匠社員を優遇しており、女性も匠社員になっているとのことであるが、それによりどのような効用があったかとの質疑に対して、女性二人がハンダ付けの匠となったが、匠制度への申込者が百二十名前後から二百六十名程度に増加するなど、社員の向上心が大変に高まるという波及効果が出てきており、今後とも地道にこの人たちを育てていきたいとの意見が述べられた。

○ 賃金体系の是正などが人件費の上昇圧力を軽減し、高齢者の継続雇用を進めていく上で大変重要であるということについて詳細な説明を伺いたいとの質疑に対して、年功型賃金体系の維持や労働者の高学歴化により、生産性とは関係なく労働者の平均賃金が上昇することとなるので、この問題を是正していかなければ、実際には継続雇用が進んでいかないのではないかという問題意識を持っているとの意見が述べられた。

○ ボランティアに関する提言の詳細や実際の活動について伺いたいとの質疑に対して、例えば、小学生の登下校時の安全問題が課題となっているため、安全マップをつくり、危険なところに二人ずつ毎日交代で安全を見守っているが、このようなボランティア活動を奨励するために、時間預託制度を採用し、ボランティアをしたときには一時間一点として点数を蓄え、親の介護の際など必要な場合にはそれを引き出して使い、他の人に面倒をみてもらうことができる仕組みをつくっているところであり、また、ボランティアに参加した時間に応じて税金を減額するというボランティア減税を行うならば、ボランティア活動に相当の人が参加するのではないかとの意見が述べられた。

○ アメリカ的なNPO税制の仕組みを日本が取り入れることは可能かとの質疑に対して、日本では、強制的に徴収した税金を官が公共性を判断して配分する仕組みであるが、個人が選択できる公共サービスに対して自ら負担や支出をすることを奨励する必要があり、また、例えば自分の名前を付けた建物を寄附するというような、公共施設や公共サービスに対する強制的でない形での負担を奨励する仕組みをつくっていくことがNPOの税制改革の基本になるとの意見が述べられた。

○ 技術、技能の伝承のための社内学校・塾について、その規模や対象となる年齢層等の詳細を伺いたいとの質疑に対して、新卒採用者はテレビの放送システムや一連の製造工程については疎い点があるので、団塊世代が中心となって、若手技術者百名を対象として累計二か月程度の勉強をさせており、液晶についても、一九九七年五月に液晶パネルの技術者を中心とした液晶学校を開校し、今までの累計で九千七百名が受講しており、その他、冷蔵庫や成形などの小規模な学校もあるとの説明があった。

○ 高齢者継続雇用について、七割の企業が制度を持っているが実際の運用が二割程度であるというギャップの要因と、その改善のための方策は何かとの質疑に対して、日本の場合、若い層では生産性よりも低い賃金水準に抑えられていて、ある程度の年齢を境に生産性を上回る賃金を受け取るという賃金体系になっているので、賃金が生産性を上回る高齢者を更に延長して雇うことは企業にとって非常に厳しく、賃金体系を是正していかなければ実際に高齢者を雇っていくことは難しいとの認識が示された。

○ 団塊世代はNPOやボランティアに関心が高いと言われるが、そのような価値観を持つ背景は何かとの質疑に対して、団塊世代には農村から都会に出てきた人が多いが、その人たちが、地域のコミュニティーや助け合いを都会でもう一度つくり直すことが大事ではないかと考えたこと、知的な欲求の高い人が多く、老後の人生を自分のためだけでなく地域や社会、他人のために使うべきではないかと考え出してきたこと、企業の海外進出に伴い海外で働くことが多かった世代であり、アメリカやイギリスに赴任し、そこでボランティアの有用性に気付いたことの三点が考えられるとの意見が述べられた。

○ 同一労働同一賃金の原則をホワイトカラーの管理職にもうまく適用していくポイントは何かとの質疑に対して、管理職に職種別賃金をどう適用するかは難しいが、管理職のポストに対する需要と供給をマッチさせる程度に管理職の仕事を厳しくし、終身雇用による雇用保障を及ばなくすることで、本当のプロだけが管理職になりたがるような、人を管理する技能職という形に変わらざるを得ないのではないかとの意見が述べられた。

○ 国内生産の空洞化への反省とはどのようなことかとの質疑に対して、海外移転に伴い、商品設計を行っている技術部門と物をつくっている製造現場が離れ、コミュニケーションが取りにくくなったことであるとの説明があった。

○ 技術を受け継ぐためには、匠と言われる人たちを養成するとともに、受け継ぐべき若い人たちをしっかりと雇用していくことが必要であるが、このことと、例えば、シャープ亀山工場の従業員の六割程度が非正規労働者であることとの関係をどう考えるかとの質疑に対して、液晶パネルそのものの生産はシャープの正社員が実施しているが、製造工程の一部については、その部分を専門的に行う協力会社があって、生産性を高めるため同じ工場の構内で作業をしており、派遣、請負社員の大部分はそのような協力会社の社員であるとの説明があった。

○ 団塊世代は消費という意味でも働き方という点でも特別の層としての意味を持っていると論じられることがあるが、団塊世代の退職が質的な意味でどのようなインパクトを与えるのかとの質疑に対して、景気回復が幸いにも長期化してきていることもあり、団塊世代が年齢にかかわりなく働き続けるならば、労働市場においてこれまで固定的に考えられていた年齢概念を打ち破る可能性があり、また、退職後には基本的には余暇時間が増えることから、サービス消費が更に増える可能性が高く、海外旅行に出掛けるなどサービス消費の中身も変わっていくのではないかとの意見が述べられた。

○ ものづくり匠制度を海外でも導入しているのかとの質疑に対して、現在は日本国内においてのみ導入しているとの説明があった。

○ 匠の認定を受けた社員の賃金や格付をどのようにしているのかとの質疑に対して、社員の賃金のうち七〇%が年功型になっているが、残る三〇%は職能資格制度により、それぞれの業績、能力によって判定しているため、匠の認定を受けた社員の場合は年齢とは関係のない部分で上がっていくこととなり、加えて、匠手当という管理職相当の手当を付しているとの説明があった。

○ 定年の定めのない制度を導入しようとしても、現在は導入しにくい状況にあるが、その障害は何かとの質疑に対し、理想的には法律で定年制を禁止する方向に行くべきだと思われるが、年齢によって賃金が決まらない実力主義の賃金体系が定着した上でなければ、実際には定年はなくならないのではないかとの意見が述べられた。また、終身雇用は、既に働いている人にとってはメリットとなり、これから働きたいと思っている人にとっては参入障壁となるものであり、定年という名前の強制解雇をなくすためには流動的な労働市場が必要であるとしても、このような既得権に阻まれて困難なことが、定年制を廃止できない最大の要因ではないかとの意見が述べられた。

○ 定年後は同一の会社で働きたくないと思っている人が多い原因は何かとの質疑に対し、リストラで辞めざるを得なかった人にとっては会社への不信感があること、これまでの延長線上ではなく新しく自分をいかす仕事を探したいということ、もう少し自分らしく生きたいという意識があることの三点であるとの意見が述べられた。


(四)高齢者雇用の在り方について

 平成十八年四月五日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、高齢者雇用の在り方について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(株式会社リクルートワークス研究所所長  大久保 幸夫 参考人)

 二〇〇七年から二〇〇九年にかけて団塊世代の六百六十九万人が定年退職年齢を迎える。このことは二〇〇七年問題と言われ、定年退職後も、もし六十代前半の就業を維持しようとすれば、男性百万人程度、女性六十五万人程度の就業の場が確保されないと、同じ就業率を維持できない。ただし一方では、技術伝承の難しさなどの企業の危機感がある。既に団塊世代の退職を見込んだ若年者の採用が活発化し、企業は採用が難しいということで悲鳴を上げている。就業の場がなくて困ると言われ、一方では抜けた穴が埋まらなくて困ると言われる。このある種矛盾のようなものが高齢者雇用問題の本質ではないかと感じている。

 国際的には日本の高齢者の就業率は高い水準にあるが、六十五歳以上の就業率は、一九五五年の四二%から、二〇〇五年には一九%にまで低下した。六十五歳以上の人口が、二〇〇〇年の一七%から二〇二五年には二八%に高まる中での就業率の低下傾向は大きな問題である。この背景には、日本の就業構造がサラリーマン中心になり、自営業の比率が低下していることがある。

 四月一日施行の改正高年齢者雇用安定法で、定年年齢の引上げ、継続雇用制度の導入、定年制の廃止のいずれかが企業に義務付けられたが、九割以上の企業は、期間を決めた再雇用という形での継続雇用制度を選択している模様である。元々企業の七割程度に継続雇用の慣例があり、制度化は大きな前進であるが、継続雇用制度を持つ千人以上の事業所のうち、継続雇用されない定年退職者の比率は七〇%を超えている。継続雇用制度が活用されない理由は、短時間、短日数、通勤負担のない所で、後輩の指導等のやりがいのある仕事を希望する高齢者と、定年前と同じ職場で同じ仕事を同程度働くこと等を求める企業側との不一致にある。首都圏の高齢世代を対象とする調査では、退職後の継続雇用及び会社からの紹介先への就職が約四割、自力での就職が約三割、残りの約三割が引退となっているが、自力での就職先探しは大変苦労する。高齢者の仕事は、警備員、個人向け営業、清掃関連等が多く、自分のやりたい仕事と実際の求人にギャップがあると感じるのではないか。高齢者の労働市場は整備されていないということであり、継続雇用だけで多くの問題が解決しているというわけではない。

 高齢者がいきいきと働く職場では、二つの共通したことがある。一つは、無理なく働いている状態が担保されていることであり、今一つは、役に立てるという実感が持てる仕事であることである。

 日本の雇用形態は多様化しているが、働き方は多様化していない。パートタイマーが長時間働くなど、短時間働くという働き方がないと危惧しており、本当の意味での多様な働き方が用意されないと高齢者にとってよい社会ではないと感じている。

 団塊世代を対象とした調査で、退職時にNPO等に参加して働きたい人が二四%いるとされており、高齢者が公共サービスの一部を担って活躍していく可能性を示唆するものだと思う。また、LLPという有限責任事業組合のような形の新しい組織こそが高齢者にとっては非常に働きやすい組織であるという考え方もあるかもしれない。私たちの調査でも、高齢者の自営、起業希望が三二%あり、LLPや企業組合、NPO等の構成員を希望する人が一二%あった。正規社員、非正規社員以外のニーズがあるということだと思う。六十代の新規開業件数は、非常に増えており、高齢における創業支援も政策課題であろう。

 高齢者は職業能力が低いわけではない。高齢者の能力についての研究によれば、経験したことを応用していかしていく力である結晶性知能は非常に長く高い水準を保持し続ける。八十歳になった段階でも二十五歳より高い知恵を持っていることを研究成果は示しており、この知恵をどういかしていくかは非常に大きな課題だと思う。

 リーダーシップの発揮、あるいはボランティア、サポート業務は、高齢者の方が職業適性が高まるとも言え、八十歳健康寿命が提唱される中、長いレンジで高齢者の就業を考え、知恵をいかしていくことが必要だと思う。また、EU諸国は、年齢差別禁止法を今年末までに各国が立法化することを決めたが、日本もこの問題に今後長期的にどう対応していくのかを考えなければならない。

(一橋大学大学院経済学研究科教授  大橋 勇雄 参考人)

 五十年前と比べて平均寿命は男子が十五歳、女子が十七歳延びており、一人当たりの老後生活の原資を一定とすると、十年ほど余分に、七十歳ぐらいまで働かなくてはならないが、実際に働けるのかという疑問が出てくる。

 二〇〇四年時点で六十代前半の男性の六九%は働いている。六十代後半になると、男性雇用者は約二〇%減少し、引退者が増えている。就業率は、最近は景気のよさを反映し、六十代前半で少し上がっており、雇用者比率も徐々に上がっている。残念なことに高齢者にとって働きやすい自営業者の比率は下がっている。二〇〇四年の厚生労働省高年齢者就業実態調査によれば、就業希望なのに仕事に就けない理由は、六十代前半、後半ともに適当な仕事がないということが圧倒的に多く、健康上の理由は二〇%から二五%、介護、家事など家族の事情は一五%前後となっている。適当な仕事がない理由を更に見ると、技能・知識がいかせないが六一%、通勤時間あるいは賃金が合わないが各三%となっている。引退した理由は、健康上の理由が三五%を占めており、女子の場合は家事が、男子の場合は趣味・社会活動が比較的多い。

 健康を理由に働いていない高齢者の比率は、引退者については一九八八年から二〇%ほど下がり、就業希望者についても九二年から徐々に下がっており、七十歳ぐらいまで働くことについては、状況は改善してきている。問題は健康上の理由で働けない人で、世帯一人当たりの所得が中位数の五〇%以下の貧困層になる確率は、他に働き手がいない場合一六%、働いていない場合一〇%、病気がちの場合五%それぞれ上昇する。夫婦のどちらかが働いていて、働いていた方が病気で働けなくなると、中位数の四〇%以下の貧困層となる確率が約二〇%高くなる。

 賃金率、労働時間、仕事についての満足度を分析した資料によると、六十代前半層と後半層では大きな差はなく、微妙なところはあるが、賃金以外は普通以上だと満足している。ただし、年金受給額の多い人や他に働き手がある人は、賃金率が低く、労働時間が短く、やりがいが大きい。病気がちの人は、病気で余り働けず賃金率は低く、労働時間は短く、やりがいは小さい。結局、年金を潤沢に受けている人は、ある程度仕事に余裕のある働き方が非常に大事であるが、経済的に苦しい人はやりがい等を言っておれずに一生懸命働くという結果になっている。

 企業側から高齢者雇用が問題となる理由を見ると、専門・技術の場合は能力の低下も大きいが、若年者雇用の減少、人件費の高騰といった要因もあり、サービス、保安、運輸・通信、生産・労務などの現場の人たちの場合は圧倒的に能力の低下が多い。現場でも販売については、業態が不適、人件費が割高といった要因が挙げられている。能力の低下を見ると、現業では作業能率、正確さの低下、管理、事務では新たな知識の吸収、活用、複雑な事柄の理解、判断に問題があるとされている。また、高齢者に対する特別の措置を講じている事業所の割合は極めて低く、多いところで運輸・通信の仕事量の調整二二%であり、まだ大々的に展開されていない。

(株式会社前川製作所取締役会長  島賀 哲夫 参考人)

 当社はものづくりに徹し、特に人の重視を経営の根幹に置いてきた。「マエカワの『定年ゼロ』」と称しているが、六十歳定年制は存在し、継続雇用を行っている。財団法人深川高齢者職業経験活用センターを平成九年に開設し、定年になった前川製作所グループ社員が財団へ登録し、市場別、地域別の企業をつくる独立法人経営ということを行っており、その独立法人と一年契約をしている。毎年誕生日に行うカウンセリングで本人の希望等を聞き、リーダーの座は降りて、得意分野の仕事を六十歳以降行ってもらう。現在、財団に百二十一名が登録し、出向という形で前川グループを主に、一部他企業にも行っており、五年後には三百人ぐらいになる。今年から六十二歳までの継続雇用制を取り入れた。ほとんどが継続雇用を希望するが、給料は平均三割程度ダウンし、六十五歳で年金が出るようになるとまた更に若干ダウンする仕組みとなっている。

 平成十四年にNHKの番組「人間ドキュメント」に当時九十歳で取り上げられた井上和平は、電車通勤し、定年者数人と研究室で電気関係の開発を行っている。工場に出掛けては若い人と交流し、若い人も教えを請いに井上研究室へ行っている。毎年誕生日間際に辞表を提出するが、慰留している。九十四歳は一人だけだが、八十代、七十代もいる。

 社内では、役職名、仕事、給与が分離しており、皆をまとめる力がある人であれば、社内での役職名は課長でも対外的には独立法人の社長を名のるということも行っている。昭和五十一年、当時の社長で現在名誉会長の前川正雄がつくった「マエカワは五五才をこう考える」という、二十代から四十代は力、動、変化、攻、成長、変革があるが、五十代から七十代は技、静、安定、守、成熟、伝統があると図示し、当時の五十五歳定年に対する人間観を示した小冊子が全社員に配られた。この静の立場、動の立場、いわゆる青と壮、今で言えば老も含めての調和が活力になっている。また、前川では、一人でできることには限界があり、異質な人間が集まって独立法人をつくり、全体を分かりながら個を磨くという共創の理念があり、企業に根ざしている。

 二十代にはやりたいことをやらせ、三十代にはどの市場に対してどのような役割を果たすのか志を立てさせ、四十代には仕事の方向性を固めさせ、五十代には志の完成を考えさせ、六十代には原則としてリーダーを降りてもらい、自分の好きな仕事、得意分野の完成度を上げさせる。社員の評価は、全体性、関係性、技能技術の三点を非常に大事に考えており、上司が周りの意見を聴いてスコアを付ける。技能技術にはものづくり以外の技能技術もあり、関係性には異質な知恵を借り、仕事をチームで行っていくこと、全体性は全体を考えながら自分の得意分野を極めることを含んでいる。カウンセリングは、誕生日ごとに財団で行うケースもあり、またリーダーとのカウンセリングは必ず行い、リーダーが「高齢者カウンセリングのポイント」に記入すると同時に本人から希望を聞いている。一般的には定年を機に力が抜ける人もいるが、継続雇用が当たり前という仕組みになっている関係で、それが当社では余り見当たらない。数十年前から、下地をつくり、現在の若返った経営者もそのエキスを受け継ぎ、それが企業体質及び企業文化になっている。

 高齢者はまじめであり、出勤時間も正確で、会社に対する忠誠心も最近の若者とは違う。そうした姿を若者に見せることが企業の活力にもつながる。これまでは部長以上の管理職の定年を五十五歳としている一部上場企業がかなりあったが、そういう人を意図的に受け入れてきており、私たちが持っていない知恵、特殊な分野の知識、技術が、企業のすそ野を広げる一助になっている。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 働き方の多様化の一環として、高齢者雇用と若年者雇用を組み合わせる必要性について伺いたいとの質疑に対して、高齢者が自分の知恵や技術を教えたいと採用時に訴え掛けると多くの若者が集まる、あるいは、北欧の例では、高齢者と若者だけが働くスーパーがあり、荷物の陳列、長時間働く場合は若者が、顧客からの相談、クレームは高齢者が対応するよう役割分担し、高齢者が若者に教える方法に変えた結果、離職率、コストが下がり、顧客の満足度が上がるなど、高齢者と若者の組合せは非常に可能性があると感じているとの意見が述べられた。

○ 高齢者は短時間作業を好む方向に向かっていると思うが、どのような雇用形態に持っていくのがよいのかとの質疑に対して、日本は、すべての人に長時間労働をさせようとするところがあるが、この点こそが多様化しなければならず、定年以降の正規雇用希望が二〇%、非正規雇用希望が四八%との調査に表れているように、高齢者は正社員としての雇用にこだわっていないとの意見が述べられた。

○ 高齢者雇用のために企業がどのような特別措置を講じているかとの質疑に対して、企業は高齢者の活用法として、第一に仕事量の調整、特に労働時間、負荷の軽減、第二に仕事の内容そのものの変更、第三にロボットの導入等の作業改善、第四に教育訓練を行っているが、仕事量の調整では一律賃金の問題、仕事内容の変更では高齢者に回す仕事がないこと、作業改善ではコストが掛かり、会社のトップの認識がないと進展しないこと、教育訓練は投資コストが悪いことなどの問題を抱えており、今後本格的に更に高齢者を活用していく場合、前川製作所のように高齢者専用職場をつくることが一つの方向であるが、もう一つは、規模の小さいところでは、高齢者と若者が一緒に働かなければならず、力勝負の業務などでは、若者は高齢者と一緒に働くことは嫌だという思いが強くなるため、賃金調整、職場の理念が問題解決には必要であるとの意見が述べられた。

○ 高齢者のやりがいについて伺いたいとの質疑に対して、コンピュータで制御できない昔の工作機械の操作、工作機械の修理・是正、コンサルティング等が高齢者に向いている仕事であり、若者の勉強、製品の精度向上につながっており、高齢者が働くことは労働力不足、年金支給開始年齢の引上げへの対策という観点から国のためにもなり、また家庭生活のリズム等の観点から家庭のためにもなると思っているとの意見が述べられた。

○ 本年四月一日から改正高年齢者雇用安定法が施行されたが、将来にわたってこの法律により希望者全員の雇用確保を実現することは可能かとの質疑に対して、今回の法改正は定年延長の問題に取り組んだが、実は定年年齢まで会社に在籍する人は一部で、多くの企業が最近、役職定年制を採用し始めており、もう少し早い段階で様々な選択をしている人が多いので、法改正ではカバーし切れない領域は相当にあるとの意見が述べられた。

○ 我が国の強みである現場力を円滑に継承していくためには、これからを担う若年者を確保した上で、技術、技能を持つ団塊世代の人材を現場に供給し、技術、技能継承を進める必要があると考えるが、そのためにはどのような問題点があり、政府はどのような支援を行う必要があるのかとの質疑に対して、技能継承は高年齢の人口比率が高い製造業の問題であり、以前、大企業の役職定年を迎えた人を中小企業の製造業にトレーナーとして派遣する事業を始め、長い間継続的に働ける仕組みをつくったが、こうした取組は広げることができる可能性があるとの意見が述べられた。また、高齢者が一線の技能、知識を本当に持っているのかは疑問もあるが、特に技術水準の高い大企業で働いていた高齢者は、中小零細企業へ行けば、十分にその知識、ノウハウを活用できるとの意見が述べられた。

○ 高齢者はリストラの対象となり、定年延長や再雇用の対象とならないと厳しい道が待っているのが現実であり、高齢者雇用の分野は格差が拡大しているのではないかとの質疑に対して、高齢者の働く場がなくなっており、家電メーカーで定年を過ぎた人たちが中国企業に再雇用されて日本の技術を移転しているが、このことに対し製造業として非常に危機感を持っており、日本経団連を中心に経営者も危機感を持って高齢者の働く場を考えていかなければならないとの意見が述べられた。

○ 団塊世代が大量に定年を迎えて労働力人口の減少が予想される中で、企業はどのように人材を確保しようとしているのかとの質疑に対して、高齢者は組織への貢献よりも、個人に貢献したいという気持ちが非常に強く、例えば、単に物を売るだけではなくアドバイスをしたり、利益を考えたら割に合わないような問題に丁寧に対応し感謝されるということに価値観を見いだしているため、高齢者の年金プラス賃金でよければ十分に生産性が合う業務もたくさんあり、企業にはこうした対個人サービス事業を開発することに取り組んでほしいとの意見が述べられた。

○ 高齢者雇用の分野において労働組合の機能をより活用できると考えるがいかがかとの質疑に対して、労働組合は、個人が高齢に至るプロセスでキャリアの選び方のバリエーションを整え、また、個人のキャリアカウンセリングを行うなど、多様な選択を支援する役割を担った方がよいとの意見が述べられた。

○ 高齢者が単なる安価な労働力の供給源にならないようにするには何が必要かとの質疑に対して、高齢者の雇用拡大は、労働市場の自律的な調整にゆだねることが基本だと思うが、取りあえず法律で進め、取っ掛かりができれば、日本企業は柔軟に対応する能力があり、また、賃金の決め方を一律処遇ではなく大幅に変えていけば、高齢者の経験、知識を活用して、仕事内容に合わせて雇用を確保できるとの意見が述べられた。

○ 財団法人深川高齢者職業経験活用センターがどのような経過の中で生まれ、どのような運営がされているのかとの質疑に対して、当該財団は事務経費の二分の一の国庫助成を受けて平成九年に設立されたものであり、事業内容としては、高齢者の派遣事業だけではなく、カウンセリング事業も行っているとの説明があった。

○ 継続雇用制度を持つ事業所のうち継続雇用をされない定年退職者の比率は七二・八%にも上っており、その背景として、退職者のニーズと継続雇用のミスマッチがあるとの説明であったが、このミスマッチをどう埋めていくのかとの質疑に対して、第一に、再雇用における労働日数と時間が、もう少し短いものを企業側が用意すること、第二に、高齢者が比較的望まないのは、それまで行っていた仕事を管理職でなく一プレーヤーとして行うことであるため、別の仕事や別の組織で高齢者の力をいかせるような選択ができるようにすること、第三に、高齢者には気の合う仲間たちと数人で独立して会社を運営するという選択を希望する人たちも多いので、そうしたグループでの新規の創業、独立を企業側が支援するような制度をつくることを企業側に働き掛けていく必要があるとの意見が述べられた。

○ 就業希望の男性のうち、適当な仕事がない理由として、「技能、知識がいかせない」を挙げる者が六割もいることから、高齢者の技能、知識をいかすような仕組みが必要であると思うがどうかとの質疑に対して、高齢者だけのグループをつくり、各職場で欠員が出た場合又は有給休暇を取った人が出た場合に、そのグループから高齢者が配置される制度を導入している会社があるが、これは高齢者のやる気を出し、迎える職場も応援で有り難いという事例であるが、このような仕組みがどこまで定着するかは難しいところがあり、また、今の仕事で今の機械で仕事をしたいという人も多く、技能、知識がいかせないという言葉の裏にある現実を読む必要があるとの意見が述べられた。

○ 他の企業で定年ゼロ制度を導入する上での留意点は何かとの質疑に対して、日本のよさは終身雇用制がまだまだ根強いことであり、一度縁があって会社を選んだ以上、本人も働き続けたいと思っており、経験豊富な高齢者のメリットをもっと経営者も認識することが大事であり、前川製作所では個を大事にし、個と全体との融合を図っているとの意見が述べられた。

○ 改正高年齢者雇用安定法の施行は、年金の支給開始年齢を六十五歳に引き上げることが契機になったことを考えると、希望者全員の雇用が法の精神だと思うが、事実上の選別が行われている現状をどのように把握し、改善をすべきと考えるかとの質疑に対して、実際、選別、選抜が行われているが、非常に企業側の悩ましい部分もあり、背景には、企業が六十歳を超えた人をどのような形でいかしていくのか、また、何が高齢者のやりがいとなり、企業への貢献となるのかという方法論が見いだせずに、結果的に、法律で決まったから再雇用の問題をとらえざるを得なくなっている企業が非常に多く、高齢者と企業とがお互いにメリットのある就業関係をつくれない限り、この問題はなかなか前に進まず、また、元々所属していた企業に高齢者雇用の場をすべて求めることの限界もあると感じており、例えば、ジョブシェアリング型の仕組みやベンチャー企業へのアドバイスなど、高齢者の貢献できる様々なパターンをつくっていかなければならないとの意見が述べられた。

○ 高齢者に対する特別の措置がない事業所の割合が四分の三であるがその理由は何か、また、優先的にどこから手を付けるべきかとの質疑に対して、高齢者専用会社をつくる、あるいは作業改善を行っているのは大手企業であり、従業員の高齢者比率が圧倒的に高い小企業では、余り高齢化対策を行っていないと解釈しており、今後どのように進めていくかが大きなテーマになるとの意見が述べられた。

○ 財団法人深川高齢者職業経験活用センターの日常的な運営や人的配置、前川製作所の経営陣との関係はどのようになっているのかとの質疑に対して、前川製作所グループの独立法人が事務経費を負担し、また、財団法人の職員は常務理事一人と女性二人であり、その給与の半分を前川製作所が助成しており、まだPRが足りないのかもしれないが、今後は地域に開かれた形に募集を広げ、グループ外の企業へも派遣し、社外の特殊技能を持った人の登録も受け入れていきたいとの説明があった。

○ 高齢者雇用問題は、団塊世代の対策と一般的な対策とを分け、当面は、団塊世代の対策をどうするかが大事ではないかとの質疑に対して、長い視点で見たときに、高齢化が進み、今の就業率のままだと年金財政ももたず、日本全体の構造が非常にきつくなるため、高齢者雇用の問題は非常に重要であるが、正社員が守られれば守られるほど二極化してしまうような構造があるため、高齢者雇用の仕組みをつくるには相当時間が掛かり、団塊世代というより、もう少し長期的な構造の問題として、高齢者雇用の問題を考えていく必要があるが、当面の団塊世代の問題であれば、今の改正高年齢者雇用安定法は非常に有効な策になるとの意見が述べられた。

○ 高齢者雇用の阻害要因に対してどのような方策を取ればよいのかとの質疑に対して、体力や記憶力の低下が阻害要因になり、これらを阻止するのはかなり難しいと思うが、高齢者の活用方法や作業改善について、厚生労働省が事例集を紹介しており、また、作業改善を行う企業に対して補助金を出す仕組みもあるが、最終的には賃金に手を付けるしかなく、高齢者は人によって大きく違うので、現場に賃金決定をゆだねることが大事ではないかとの意見が述べられた。

○ 「定年ゼロ」である前川製作所において、それでも定年六十歳という区切りをつくっている意味は何かとの質疑に対して、実際は定年六十歳であるが、実質、社員の一人一人は定年はないと感じていることからこの表題にしており、会社の立場としては、協調性がないなどでまれに会社の進めている方向にはなじまないという人に辞めてもらったことがあり、一つの区切りとして定年制度を残しており、また、リーダーとしてではなく、一先輩として経験をいかして働いてもらうことがあり、個人の立場としては、本人にとっても一つの区切りであり、自分の人生設計で六十歳で退職金を受け取り、この定年制によって、様々なことを行うことができるという選択のポイントになるとの意見が述べられた。

○ 高齢者雇用について中小企業の面白い事例があるが、中小企業における高齢者活用の方策と、地方における高齢者雇用について伺いたいとの質疑に対して、高齢者が若い人のために相談に乗るのはよい事例であり、これは大企業に限らず、中小企業でも十分にできると思うので、そうした事例が中小企業にとって参考になると思われ、特に地方圏においては、優れた公共サービスの担い手として高齢者を考えていく必要があるとの意見が述べられた。また、その事例は、大企業又は大学の高い知識、技能を中小企業でいかせた事例であるが、中小企業への移動はできるだけ早い方がよく、タイミングに難しさがあるとの意見が述べられた。大企業の優秀な高齢者を中小企業へ移動させる仕組みがまだ定着しておらず、地方企業に対する高齢者の問題では、農林水産業を含め、地方の活性化、地方企業の活性化を行い、受皿ができることによって大企業からUターンで帰ることもあり、また、大企業の社員は自分が中小企業等に入ったときの心の準備、努力をしておく必要もあるとの意見も述べられた。

○ EU諸国が二〇〇六年末までに年齢差別禁止を法制化するが、今後の日本における取組について意見があるかとの質疑に対して、これまで日本が定年と定年延長を軸にして高齢者雇用の問題を考えてきたことは正しかったが、本当に高齢者比率が高くなったときはこのままではきつく、日本も年齢差別禁止の問題に本気で取り組まざるを得ず、年齢差別禁止に移行するために何を準備したらよいのかということを議論する必要があると思っており、この部分が空白になっていることが問題だと感じているとの意見が述べられた。

○ 狭い意味での雇用を超えた活動の在り方という点で、高齢者自身が主体となってNPOやボランティア活動を行うということは大変重要と思うが、単に生活の糧ではなく、公に資する活動に高齢者が参加することをどのように考えるかとの質疑に対して、定年退職を迎える年齢に達した高齢者のうち、二割弱の人たちは地方に移住し新しい貢献の機会を見付けたいと考えているが、大都市圏にいてそうした地方圏の場を見付けることは非常に難しく、それをつないでいる機関はほとんどないのが現状なので、地域の活性化の視点からも高齢者の力を借りることは大きな可能性があり、また、大都市圏と地方圏の二か所に居住する生活スタイルを志向する人もおり、少しすそを広げるといろいろな可能性があると思っているとの意見が述べられた。

○ 公に資する活動に対する行政の支援としてどのようなことが考えられるかとの質疑に対し、ボランティアを行う人たちは、景気がよくなると雇用者になる可能性もあり、年金の支給開始年齢がずれ込んでいくとボランティアをしていられないということもあり、また、行政が必要なサービスを買うとか、あるいはそのような活動を支援することは十分あり得ると思うが、ボランティアと言ってもいろいろあるため、その判断は非常に難しいとの意見が述べられた。

○ 公共職業訓練施設のあるべき姿を伺いたいとの質疑に対して、職業訓練を更に充実させることは大変結構だと思うので、法的な整備を更に続けていただけるのは大変有り難いとの意見が述べられた。


(五)女性雇用をめぐる課題について

 平成十八年四月十九日に、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、女性雇用をめぐる課題について、参考人から意見を聴いた後、質疑を行った。

 各参考人の意見の概要は、次のとおりである。

(株式会社イー・ウーマン代表取締役社長・株式会社ユニカルインターナショナル代表取締役社長  佐々木 かをり 参考人)

 女性雇用の課題を、制度面、意識面、情報面に大きく分けてみた。

 制度面については、よくなってきていると思うが、例えば、育児休業に関しては、まず取りやすくするべきという視点に立たなくてはならない。今の法律では、男性か女性が別々に取らなくてはならないが、一か月でも二か月でも父親と母親が同時に取れるようにすべきであり、また、専業主婦の場合でも男性が会社を休める制度に変えていく必要がある。

 イー・ウーマンには、親業休暇、進学休暇、ワーク・ライフ・バランス休暇といったユニークな制度がある。親業休暇とは、子どもの異変を感じたときなど、そばにいる時間がもっとあればと思ったときの休暇である。進学休暇とは、小中高校や大学への入学などの、一つ上の段階に行く前後の二年間に追加で休暇が取れるシステムである。ワーク・ライフ・バランス休暇とは、時間外の労働に関して、時間外手当に加え、疲れたときにそれに見合って時間単位で休暇を取れるというものである。資料の「学童などへのボランティア」とは、企業が男性を地域に、教育の現場に行かせる必要があると思っており、例えば、子どもの有無にかかわらず、地元の学童保育の現場で、一年間で三時間でもよいのでボランティアを行うというものである。

 制度面ではもう一つ、昇進に関してはまだ不平等が多く残っており、昇進や研修の制度をきちんと導入していただきたいということがある。

 「ベビーシッター割引券」は従業員に対し十年間で三百六十万円の手当となるが、雇用主になるとこの手当を受けられなくなる。このような制度は従業員に限らなくてもよく、女性の起業家が増えるかもしれないことも考えると、制度面の改革は、弱い女という立場だけでなく、様々な面でカバーされることがよいと思っている。

 第二は意識面である。男性の意識改革と、女性のやる気を起こすという意識改革の両方がある。経営側の立場に立つと、女性をたくさん採用したい気持ちはあっても、残念ながらビジネスとしてチームメートに迎え入れられない人たちが多いことから、男女を問わず、意識の向上が大変重要である。女性の場合は、メンターと言われるような向上心の強い先輩に会えないということで、国際女性ビジネス会議という会議を行っており、やる気のある人たちが全国から集まり、互いに刺激を与え合う。イー・ウーマンのサイトでは、自分を主語にしてインターネット上でディスカッションをすることができるが、これも、意識向上の一つのポイントと考えている。

 経営側の意識改革については、経営あるいはブレーンとして女性を活用する時代になってきており、頭数として女性を数えている企業は、これからは成長し切れないのではないかと思っている。

 第三の情報面については、ネガティブからポジティブへということがある。女性の活用や子育てと仕事というテーマについては、保育園が足りない、お母さんはこんなに大変といったネガティブな情報が多く、よい会社や活躍している女性を紹介する、保育や子育ての楽しさを紹介するといった情報が余りに少ない。イー・ウーマンの調査で、「子どもをもつことが、あなたの仕事に影響を与えましたか。お子さんがいない方は、与えると思いますか。」との質問をすると、子どものいない女性の場合、プラスの影響が三八%、マイナスの影響は五五%であるが、子どものいるワーキングマザーの場合、プラスの影響が五六・二%もあった。つまり、実際に育てている人はプラスの効果を感じているのに、メディアから流れてくる情報にはマイナスが多いということである。こういったことから、もう少しポジティブな情報が出てもよいと思っている。

 男女平等に抵抗を持つ男性や企業には、女性を雇った方がもうかる、女性を上手に企業の経営に参画させた方がよい商品が誕生するなどの、分かりやすいアプローチをすることが重要と思っている。平等という面ではなく、経済の活性化という側面から促していけば雇用が増えていくのではないか。

(昭和女子大学副学長・理事 坂東 眞理子 参考人)

 日本の女性雇用については、M字型雇用という、女性が子育てのために仕事を辞める状況が残っている。育児休業法が一九九一年に制定されてから、二回の改正を経て充実・強化されているにもかかわらず、育児休業を取得している女性雇用者は七〇・六%、男性では〇・五六%という状況である。しかも妊娠や出産の段階で仕事を辞める人も多く、第一子が生まれる際に約三分の二の女性雇用者が仕事を辞めているのが実情である。

 一番末の子どもが三歳未満の場合は女性の七二%が無業であり、子どもが成長するに従って労働市場に戻ってくるが、依然として子育てのための休業は大きな課題である。特に日本の企業は終身雇用、年功的な処遇を基本としており、一時的に働く人たちに対しては十分な人材投資や教育投資をしないので、企業の中で十分に育っていくことができないという特色がある。

 女性の管理職、経営者は増えているが、係長レベルで一一%、課長レベルで五%、部長レベルで二・七%である。一部・二部上場会社の取締役で女性の占める割合は〇・七%であるが、そのうち約三分の一は創業者、オーナーのファミリー、三分の一は社外取締役、プロパーで取締役になっている人は三分の一で、管理職、経営者になっている人はまだ少ないのが現実である。外国と比較すると、アメリカは四五・九%、ヨーロッパの国々は三〇%から三六%ほどの間にある。最近は企業業績が回復し雇用がタイトになってきたことや、均等法二十年の影響もあり、IBM等の外資系の企業だけではなく、日本の製造業の企業でも女性登用への取組が始まっている。

 女性雇用で見逃してはならないのは、非正社員が大変な勢いで増えていることである。女性の中で正規の雇用者は四五%、パート、アルバイトが四一%、嘱託五%、派遣社員四%で、過半数の女性雇用者は非正社員であり、大変労働条件の悪い働き方をしている。派遣で働いている人の手取りと派遣先の企業が払っている金額のギャップは大きいが、その間のコストの格差についての情報が開示されていないという問題もあり、対応を検討願いたい。

 女性の高度専門職は増えたが、まだ十分ではない。弁護士、医師等は今後増えていくと予測されるが、理工系、科学系は十分でなく、才能のある女性が意欲を持って技術系、理科系に進出できるよう奨励することが大事になってくる。日本の女性の教育水準は高く、四八%以上が短大、大学に進学し、八%以上が大学院に進学するが、専攻分野がいまだに人文系、教養系に偏っており、社会で職業に就くために役に立つ分野が少ないことが大きな課題になっている。

 配偶者特別控除、厚生年金の三号被保険者の問題などにより、パートの収入のほとんどは九十万円から百万円の間に集中している。また、派遣で働いている人の年収は二百万円前後である。男性で年収三百万円以下は一八・七%であるのに対し、女性では六五%であり、年収七百万円以上の女性は三・三%にすぎない。

 このような状況を見ると、両立ができない、管理職、経営者が少ない、高度の専門職が少ない、そして非正社員が多いということが、大きな賃金格差、所得格差を生んでいると言わざるを得ない。

 対応策としては、育児休業だけではなく、育児時間の普及が重要である。女性は育休明けや小学校入学時にも辞めると言われており、そうした時期に対応する配慮を願いたい。保育所の充実に関しては待機児童ゼロ作戦等で充実が進んでいるが、いわゆる学童保育は、ニーズが増えているにもかかわらず、厚生労働省と文部科学省の施策のすき間ということもあり、更なる対策が必要とされている。

 ワーク・ライフ・バランスやファミリー・フレンドリーなどが叫ばれているが、現実には正社員の数を減らしてパートに仕事をさせ、残った正社員については週六十時間以上の就業やサービス残業が一般的に行われている。労働基準局が十分にそうした実態をチェックするだけの体制は取られていない。

 事後チェックを含めて、企業のコンプライアンス体制はまだ十分ではなく、パートについても長時間労働が増える中で、処遇だけは低いまま放置されている部分を何とかしなければならないと考える。

 家事・育児サービスの充実や技術革新による負担の軽減などで、経済に期待される分野も大きいが、そのためにも法律、制度としてのしっかりとした枠組みが重要である。

(学習院大学経済学部教授 脇坂 明 参考人)

 女性雇用における重要な四つのポイントは、第一にワーク・ライフ・バランス、仕事と生活の両立、第二に女性の再就職、M字型、再雇用の問題、第三にパート能力開発、第四に職業能力評価制度である。焦点を絞るために第一のワーク・ライフ・バランス施策と企業の生産性や業績との関係について、研究の一環を紹介する。

 ファミリー・フレンドリー企業とは、単に従業員のニーズだけでなく、育児休業や育児短時間勤務を導入することが人材確保や能力発揮につながり、専業主婦を妻に持つ男性だけでなく様々なキャリアを持つ従業員がいる方が企業にとって生産性が上がり、長期的にはもうかるという戦略である。

 なぜファミリー・フレンドリー施策が重要かというと、出産後継続して就業する人の割合は二〇%から二五%とその割合は増えておらず、八割の女性は出産を契機に辞めてしまうからである。しかし、アンケートでは、職場が働きやすく出産しても続けることができれば働き続けたかったという意見が圧倒的に多い。問題は、女性が出産して子どもを持って働き続ける職場で、そういうキャリアを持った女性を多く抱えたときに、企業は本当にもうかり、生産性が上がるかということである。

 男女の均等度が進むこととファミリー・フレンドリーの度合いが進むことは違うと思っているが、均等度とファミリー・フレンドリーの度合いで、四つの象限をつくることができる。均等度は高いがファミリー・フレンドリー度が低い、つまり女性が男性並みに働く第四象限、あるいは男女別々だが女性が育児休業を取って働き続けることのできる第二象限など、それぞれの企業のタイプがある。ニッセイ基礎研究所の調査により、女性管理職の人数など八項目から均等度をつくり、また、女性既婚者比率、出産後継続する人数、様々なファミリー・フレンドリー制度の有無などからファミリー・フレンドリー度をつくった。そして、同業他社に比べ生産性が高いと思っているかどうかなど主観的な業績と、実際の財務データを取った。つまり、女性の活用やファミリー・フレンドリーと会社の業績の関係について調べた。

 結果としては、均等度もファミリー・フレンドリー度も高い企業では、売上げはそれほど変わらないが、経常利益、一人当たり経常利益は、均等度もファミリー・フレンドリー度も高いほど高かった。したがって、均等度やファミリー・フレンドリー度を高めると、コストになり業績や生産性が落ちるとの考え方と、様々なキャリアを持つ有能な女性がいると業績が上がるとの二つの考え方があるが、少なくとも経常利益に関しては、均等度もファミリー・フレンドリー度も高い企業ほど現在でも過去の変化でも伸びており、一人当たりの経常利益変化額でも高い。

 労働組合の効果だが、労働組合はファミリー・フレンドリー度を高めるが、均等度は低める。しかし、ファミリー・フレンドリー度も均等度も高い第一象限にある企業には大体労働組合があり、非常に効果がある。

 ファミリー・フレンドリー施策やワーク・ライフ・バランスを充実させたから業績が上がったのか、業績のよい会社だからワーク・ライフ・バランス施策を充実できるのかの因果関係ははっきりしなかったが、ある企業を十数年追っていくパネルデータで、育児休業制度や育児短時間勤務制度を導入した企業は短期的には売上げなどのパフォーマンスが下がるが、長期的には、経常利益、雇用、売上げが上がることが分かった。

 どうすれば職場で均等施策、ファミリー・フレンドリー施策が有効に根付いていくかというと、基本的なポイントは、育児休業の利用者がいても十分対応できることと、育児短時間勤務を始めとして、短時間勤務の人が増えても十分対応できる道筋を研究しなければならない。男性でも六割ぐらいの人が育児休業を取りたいが、取れない理由は、自分が抜けた後の職場をどうするかということで、代替要員問題というのは非常に重要である。内閣府の管理職への調査で、仕事をだれが引き継いでいるかを見ると、新卒、パート、派遣はそれほど多くなく、職場の複数の正社員が圧倒的に多い。

 代替要員の確保策を分担方式と順送り方式と名付けており、分担方式は一人が休んだ後だれも埋めず周りの人でカバーする方式で、順送り方式はある人が休業を取った後は順番に下の人から埋める方式である。実際は、この分担方式と順送り方式の組合せであり、ある仕事は同じようなレベルの人が担当し、別の仕事は下の人が上がるならば、その人の能力開発にもつながり、職場の生産性の低下を最小限に抑えることができる。

 基本的には、育児休業あるいは育児短時間勤務の人が一人でもいると職場の生産性が落ちると思ってしまうと、育児休業等は取りづらい雰囲気になり、取れるはずがないとなってしまう。これを避ける工夫を積み重ねてきた企業が長期的には経常利益の上昇につながっている。このようなことを啓蒙啓発だけではなく、法律や規制という形で行っていけば日本の競争力はまだ大丈夫だと思っている。

 質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ イー・ウーマンは小規模企業でありながら、育児休暇、親業休暇、進学休暇、ワーク・ライフ・バランス休暇など、非常に先進的な取組を行っているが、代替要員はどうなっているのかとの質疑に対して、休暇取得の際、残りのスタッフが対応する形で皆で助け合っているが、例えば一年間の育児休暇で専門度の高い場合は、外部から専門家を入れており、また、ITの活用も非常に重要で、長期の休暇に入る人には会社からパソコンを貸し出しているとの説明があった。

○ 実際に子育てをした女性はプラスの影響があると感じている人が多いにもかかわらず、未婚の女性では子育てが仕事にマイナスの影響があるとする人が五八%とのことだが、女性に対する意識改革を教育としてもっと行うべきだと思うがどうかとの質疑に対して、報道は弱者の立場に立って問題を伝えるので、どうしても保育や子育てや女性労働の難しさを伝えることが主になってしまうが、よい事例に出会う場をつくることが重要で、また、女性に優しい会社をとよく言われるが、男性が家庭や教育に携わるため早く家に帰れるようにしていかないと、女性だけがマルチタスクを担っていかねばならなくなるので、そうした企業への教育を進めてほしいとの意見が述べられた。

○ 女性は高度専門職が少なく、職種、職域に偏りがあり、その理由は女性が人文系や教養系に進学するためということであるが、これは女性が望んで進んでいるのであり、女性の意識改革、教育をもう少し行うべきということになると思うがどうかとの質疑に対して、確かにそういう傾向もあるが、大学へ入ってからではなく、進学する以前、できれば小学生の段階からできるだけ広い情報を子どもたちに与えることが重要であり、また、一世代前までは、司法試験や国家公務員1種試験などで、たとえ試験に合格しても処遇されないのではないか、上の方へ行くと難しいのではないかというような将来のキャリアパスが見えず、受験し頑張ろうという意欲を持ちにくかったが、今では中央省庁でも女性を登用することをアナウンスすることで受験者が増えるという効果もあるので変わり始めたところであり、民間企業でもそのようなアナウンスをすれば、職業選択、進路選択は大分変わるだろうとの意見が述べられた。

○ ファミリー・フレンドリー度と均等度の両方が高い方が一人当たりの経常利益は高いとのことだが、中小企業でもそうなのかとの質疑に対して、規模別に見ると、一千人以上の企業では、第一子を産んでも働き続ける人は一四%程度だが、十人以下の企業だと約四〇%と、現象面だけ見ると規模の小さい企業ほどファミリー・フレンドリーになっており、制度はないが、実際上、既婚で子どもを産んで働き続ける人が多いということだけは分かっているが、中小企業の企業業績に関するデータは取りにくく、今後も恐らく難しいとの意見が述べられた。

○ 女性雇用については、立法措置によって状況が好転し、問題の解決が図られていくという側面も多く存在すると考えられており、昨今の社会の急激な変化を踏まえるならば、例えば育児休業法や男女雇用機会均等法など女性の雇用に関連する法律はどのくらいの期間で制度の充実を図るための見直しを行えばよいかとの質疑に対して、育児休業法については見直しに今すぐ入ってほしいと思っており、事柄にもよるが、三年、五年で定期的にチェックをし、その一つは、男性と女性が同時に取れるという仕組みで、今一つは、育児休暇を十八年間の中で取得できるように大きく延ばしてほしいことであり、また、労働基準法は古い法律であり、企業と労働者の間の自由な同意の下で雇用の契約ができるようになると、様々な働き方ができるようになり、ワーク・ライフ・バランスにも進んでいくと思われ、また、もう少し現場の声をきちんと吸い上げるパブリックコメントを行わないと、法律ができても少しずれることが多いのではないかとの意見が述べられた。

○ 男女平等、均等処遇が女性の働き方を男性並みに過酷で熾烈なものにすることによって実現するのではなく、男性も女性も職業生活と育児、介護、趣味、ボランティア、地域活動などとの調和が図られていくことが求められると考えるがどうかとの質疑に対し、ワーク・ライフ・バランス、あるいはファミリー・フレンドリーということは、女性雇用者に対してだけではなく男性雇用者に対してこそ今大変必要とされており、女性だけではなく男性も人間的に働くことができ、例えば、サービス残業は犯罪行為だが、法令を守って働くということが重要だという認識を社会全体で共有しなければ、人的資源を枯渇させる方向に行くのではないかとの意見が述べられた。

○ 男女雇用機会均等法改正案に関し、間接差別の禁止は限定列挙、例示列挙のどちらがよいかとの質疑に対して、ある程度範囲を限定することは現実的にはやむを得ないと考えるが、パートタイマーに占める女性の割合が七七%で、パートタイマーの賃金は一般男性労働者の四五%であり、同じ仕事をしていても身分が違うことでこれだけ賃金水準が違う場合、間接差別に当たるということがEUでは一般的であるが、日本ではまだそれは不可能で、立場の違い、採用区分の違いによって処遇がある程度違うのはやむを得ないと認識するが、現在のように余りにも大き過ぎる状況はフェアではないとの意見が述べられた。

○ ファミリー・フレンドリー度あるいは均等度が高まれば高まるほど経常利益が上がるということであったが、賃金はどのような変化をしているのかとの質疑に対して、賃金の問題には、第一に男女の賃金格差、第二にその企業の賃金の絶対的な高低、第三に企業が属する業界の賃金の三つのレベルがあり、第一の男女の賃金格差については、初任給についてはほとんど差がなく、大卒三十五歳の賃金については、約三割が無回答でサンプル数が減るので入れておらず、第二の個別企業の賃金の高低は、様々な要素が入るため、手法がまだ確立されておらず、第三の業界全体については、時系列的に追っているので、産業ダミーなどを入れれば一応コントロールされており、育児休業制度や短時間勤務を早く導入した企業は、最初は売上げが落ちるが、長期的には経常利益など様々なパフォーマンスはよくなり、一応因果関係は証明されたことになっているとの意見が述べられた。

○ 資料にある育児休業の例以外で特にこの十年間に男性が変わるべき点は何かとの質疑に対し、一つは、子どもの有無にかかわらず、地元の保育園や学童でボランティアを行うことも含めて教育や保育の現場を体験することによる意識変化が必要であり、もう一つは、働いている多様な女性に対等な立場で会って会話をしてほしいとの意見が述べられた。

○ 派遣労働者の賃金と企業が支払っている金額との関係について情報開示が十分にされていないとのことだが、実態はどうなのかとの質疑に対し、正確な統計はないが、例えば一般事務、東京の場合、派遣先が二千六百五十円ぐらい払っても手取りは千六百円程度、より高度な仕事の場合、派遣先が四千五百円払っても従業者の賃金は二千二百円程度とも聞いていて、その差額は事務所の維持、情報収集、紹介手数料、教育訓練費用、広告宣伝費用であると言われているが、結果的にこの十年間に人材派遣会社が急成長し、大変収益を上げていることは事実であり、ギャップはかなり大きくなっていると思うとの意見が述べられた。

○ ファミリー・フレンドリー度の中のどの要因が業績に一番効果があり、またどのようなメカニズムで業績を上げるのかとの質疑に対し、個別のファミリー・フレンドリーな制度の導入と経常利益等の関係を計測したが、どの業績指標にも利く施策はなく、他に二つの可能性が学問的にはあり、一つはより洗練された手法を計測に使うとよい結果が出るケース、今一つは個別の効果は余りないが政策の束として効果があるケースがあり、分析中だが、今のところよい結果は出ていないとの説明があった。

○ 実際に育児休業制度などを活用していく上で、男性も含め、制度、働き方でどのような差があり、どのような改善が必要かとの質疑に対し、長い休みの場合は別として、子どもがいることによる休みは突発的なことも多いため、部署内又はチーム内で上手にサポートをし合っている例が一番多く、またうまくいっていると思うが、労働基準法の見直しの中で雇用契約により多様な働き方が自由にできるようになると、代替要員や休みたい人の権利も守られ、また、優良な働きやすい中小企業の情報が出にくいので、企業規模に関係なく、労働者数、男女の割合、役職分布をホームページに発表することを義務付けるとよく、外国の事例については、全体的な背景が異なる中でデータだけを引っ張ってくると、不都合もあるのではないかとの意見が述べられた。

○ 末子年齢と女性の就業率に関してどのような施策が必要かとの質疑に対し、子どもが小中学校の時期に母親の就業が減ることは少ないが、子どもが手を離れ、再就職する場合、年齢制限がいまだに広く行われているため非正社員しかないことが一番大きなネックになっているとの意見が述べられた。

○ 今回の男女雇用機会均等法改正案では、ポジティブアクションについては、企業が取組を開示するときに国がホームページに掲載するという程度の支援にとどまっているが、一定以上の企業に対しては目標や計画の作成及びその実施と報告の義務付けまで踏み込むことが必要ではないかとの質疑に対し、数値目標を示すクオータ制度と混同され、強制されては困ると考えている企業が多いが、そうではなく、自社に女性が何割いる、管理職にこういう人がいる、様々な制度があるという情報を開示する、あるいは女性の能力アップのために研修を行う等の行動をすべてポジティブアクションと言うので、何らかの形でポジティブアクションを行うことを企業への努力義務としてもそれほど大きな負担にはならないのではないかとの意見が述べられた。

○ 代替要員の問題で、外国とはどのような制度的な違いがあるのか、優れた例があれば紹介してもらいたいとの質疑に対し、アメリカでは、課長が育児休業を取ったら、その下の人が順番に上がっていく順送り方式で代替要員を確保しており、また大陸ヨーロッパでは、感触では、三、四か月の場合、代替要員は置かず、担当者がいないということがよくあるとの説明があった。

○ 均等度は労働組合の効果がマイナスになるという指摘の詳細を伺いたいとの質疑に対し、組合がある企業の方がファミリー・フレンドリー度は上がるが、男女の比率、管理職比率などの均等度はむしろ下がることが分かっており、これには、労働組合のリーダーが圧倒的に男性で、男性に有利な施策を行うという説と、組合が男女の賃金格差を縮めることにより相対的に女性の賃金が高くなり、女性採用率が減り、結局全体としての均等度が低くなるという説があるが、女性の専従、女性の執行役員がいる組合とそうでない組合では、圧倒的に女性執行役員等のいる組合の方が均等度もファミリー・フレンドリー度も高いとの結果が出ているとの説明があった。

○ 会社で手厚い様々な保護がされているイー・ウーマンでも、結婚退職か第一子誕生での退職の事例はあったのかとの質疑に対し、退職していないが、今は多分どの企業も結婚退職はかなり少なくなり、第一子で辞める人も少なくなり、第二子、第三子の場合に多くなり、あるいは小中学校の時期になってから辞めてしまうということだと思うが、育児だけでなく、よい事例に触れ、よい先輩に出会う機会が多ければ多いほど、自分にもできるのではないかということになるとの意見が述べられた。

○ 育児、子育てを考える場合、地域で子育て、育児を考えるような環境をつくっていくことが最も大事だと思うがどうかとの質疑に対し、住んでいる場所、地域性、年齢によって地域の見えるものが違うが、独身の時代から、あるいは子どもを育てていない人もかかわれるような仕組みがあるとよく、また、育児支援の中でお金をもらうことがあるが、地域サービスの一つとして継続的に家に人が来て手伝ってくれる方がうれしいとの意見が述べられた。

○ 保育サービスについて、どこが不足し、どこを充実していけば女性が働きやすい環境になっていくのかとの質疑に対し、毎年五万人ずつ保育所の定員を増やしているが、需要が増え、なかなか待機児童は減らないため量的な供給が必要であり、保育士の労働条件等についても配慮しなければならず、また、ワーキングマザーの育児支援だけではなく、専業で子育てをしている母親の閉塞感、負担感のサポートもしなければならず、学童に対するケアのために地域の大人がかかわる必要があるほか、職場の体制が大事で、子どもが病気のときに母親が気兼ねなく休めるようにすることが重要だとの意見が述べられた。

○ 女性の場合、結婚、子育て終了後に再就職する人が多く、その場合は非常に賃金が安く、社内教育も行われず、働く時間は長く、働きにくいが、改善策は何かとの質疑に対し、再就職イコール非正社員という状況が母親の閉塞感、負担感につながっており、再就職しやすい環境、まともな処遇が受けられるような体制をつくる方策の一つとして、年齢制限を課した募集を強力に禁止することが考えられるとの意見が述べられた。

○ 育児休業の代替要員としては、働く側は短期正社員を望んでいると思うが、なぜそのような制度の導入が難しいのかとの質疑に対し、現実には育児休業を取る人は、三十歳前後の管理職一歩手前のリーダー、主任としてかなり高度な仕事を行っており、非正社員のパート、派遣では代替できず複数の正社員となっているが、高度な仕事ができる短時間正社員が一番望ましく、短時間正社員に近い育児短時間勤務の調査結果からは、会社、職場のやる気があれば、ほとんどの職種で短時間勤務は可能だと思うとの意見が述べられた。

○ 男女雇用機会均等法ができて二十年たち、その間法的整備もされ、女性の働く環境はある程度整いつつある過程と思うが、現実には継続就業が減り、出産退職が増えているのは、日本人特有の価値観である、女性は子どもの出産を機に退職し家庭を守る、という意識が根強く残っていることを表していると考えるがどうかとの質疑に対して、出産で辞めた人へのアンケート調査では、大半は、子どもを産んでも続けられる職場ならば働き続けたかったというものであり、いわゆるファミリー・フレンドリーな職場ならば働き続けるであろうとの調査結果であるとの説明があった。また、家庭に入り子育てをしたい人が、そうした生き方を選択することは大変よいが、多数の人はできれば続けたい、あるいは子育て後復帰したいと思っているものの、様々な理由で辞めざるを得ない状況を何とか支えたいと思っており、また、子育てのために家庭に入ると失うものが多過ぎるのが現実であり、心安らかに子育てを選択し、仕事に復帰する際に不利にならないメニューを整える必要があるとの意見が述べられた。調査によると、出産時に仕事を続けたかとの質問に対し、五六・三%が仕事を続けた、四三・七%が一度退職したと回答しているが、一方で、再就職の機会が十分にあれば一度仕事を辞めて育児に専念したいかとの質問に対し、専念したいとの回答が五九・六%であることから、再就職の機会があれば一度会社を辞めたかもしれないとも読めると思われ、また、出産と仕事の継続においては環境が影響するため、情報が流通し考え方の多様性が認められることにより解決することもあるとの意見も述べられた。

○ 四十五歳以上の女性の再就職、再就職援助の在り方について伺いたいとの質疑に対して、社会人としての研修や仕事の場を踏んでおらず、雇用する側としては、会社に貢献する人であれば雇いたいが、その貢献度と希望とがマッチしていないケースが多いと感じており、それは本人の問題というよりも、チャンスを与えられなかったために仕事歴がなく、ブランク明けの再就職が非常に難しいのであり、研修などのウォーミングアップが必要と思われ、また、そういった人を輩出しないよう、新卒の人を含め女性に研修や仕事の場を平等に与えることが必要であるとの意見が述べられた。また、経営者に対して、四十五歳以上の女性にターゲットを当てて求人をするとよい人が集まると言っているが、大企業等ではそのような対応は現実には難しいため、年齢制限をせずに募集することについて法制的に対応してほしいし、もう一度社会へ出るための教育訓練の期間が必要であり、大学が子育てを終わった人の教育をする、あるいは資格を与えるという機能を持たなければならないが、今のところ、大学で資格を取っても、それをいかす場は企業の側から提供されないのが現実なので、ここをスムーズに橋渡しするための制度等を考えてほしいとの意見が述べられた。

○ 高学歴の女性ほど結婚、出産後に再就職しない人が相対的に多いと言われており、その背景には、高度な仕事を求めるため企業のニーズと合わないということがあると思うが見解を伺いたいとの質疑に対して、どの企業も人手不足で、仕事ができる人は欲しいが、学歴が高くとも仕事のできない人もいるため、雇用とミスマッチになっているとの意見が述べられた。また、日本で高学歴の女性の就業率が余り高くないのは、ほかの先進国では高学歴の女性が再就職した場合は収入の多い仕事に就けるが、日本では高学歴の女性の能力を発揮する雇用機会が大企業を中心に非常に少なく、また、本当に能力があれば起業をしたり、フリーランスとして頑張れるが、新卒で働き五年未満で辞めた人の場合は、職場で仕事をする能力が身に付いておらず、労働市場に戻れないとの意見が述べられた。大卒女性が余り再就職をしないことについて分析した結果、その理由はよく分からなかったが、女性の再就職の一番の問題は、家事、育児で中断期間があり、家事、育児で幾ら能力を発揮しても企業は全く評価しないことであるが、家事、育児をできる人は職場でも何かできると思っており、それをいかすには場合によっては、家事、育児能力の検定試験をつくることも考えられるとの意見も述べられた。

○ 国際女性ビジネス会議の意義、概要について伺いたいとの質疑に対して、国際女性ビジネス会議は、今年が第十一回で、過去十年間、何の組織にも声を掛けないで行っているもので、満足度が十回連続九八%を超え、うれしいことではあるが、逆に言えば参加者が職場や日常生活でそれだけの出会いがないということであり、いつの日かこの会議の満足度が落ち、日常生活で前向きな人との出会いや刺激がある社会にならなければならないと思っているとの意見が述べられた。

○ 働く女性を本当に支援したいと思っており、三つ子の魂は保育士でもきちんとみることができると考えるが、見解を伺いたいとの質疑に対して、子どもは母親が一〇〇%完全ではなくとも、多くの人たちの愛情を受けて育つものであり、母親はその与えられた条件の中でベストを尽くすものだと思うが、今後、女性たちが様々な分野で働き、活躍することは不可避であり、また、これからの高齢社会は皆で支え合わなければ維持できないので、子育てが終わった後も女性たちが十分にその能力を社会のために貢献する環境をつくっていかなければならないとの意見が述べられた。

○ 英米と欧州大陸におけるワーク・ライフ・バランスの取組の違いを伺いたいとの質疑に対して、イギリスの変化が非常に大きく、特にブレア政権ではかなり国家が介入するようになったが、イギリスのEU加盟により、EUの大陸ヨーロッパの国もワーク・ライフ・バランスやファミリー・フレンドリーと言うようになってきたので、かなりイギリスの動きに収れんする方向になると考えるが、一方で、アメリカは全く変わっておらず、政府は最小限の介入だが、もしアメリカが変われば、元々日本は中間であったので、今の日本の方向性は大丈夫ではないかとの意見が述べられた。


二 海外派遣議員の報告

 平成十八年二月八日、海外派遣議員の報告が行われた。その概要は次のとおりである。

 オランダ王国及び英国における経済活性化及び雇用政策に関する実情調査並びに両国の政治経済事情等の視察を調査目的とする重要事項調査議員団第二班は、平成十七年十一月二十三日から十二月一日までの九日間、両国を訪問した。

 派遣議員は、団長広中和歌子議員、阿部正俊議員、小野清子議員、木村仁議員、広田一議員、福本潤一議員であった。訪問先での説明、施設等の視察は、いずれも興味深く、示唆に富むものであり、また、派遣議員との間で活発な質疑応答が行われたところである。

 オランダでは、パートタイム労働の実情等に関し、社会・雇用省及びキヤノンヨーロッパを訪問した。オランダにおけるパートタイム労働は短時間勤務の正規雇用であり、賃金、休暇、社会保障などすべての面でフルタイム労働と同じ権利が保障されている。

 社会・雇用省では、「一九八〇年代後半から政府として労働とケアの両立を促進し、女性の労働市場への参入が進んだ。その際、最も大きな影響を与えたのはパートタイム労働である。労働時間調整法によって、雇用者は労働時間を権利として選択できるようになった。現在、雇用者全体の四一%がパートタイムであり、女性では七四%に達する。男性は二二%であり、退職間際の人や学生に多い。子どものいる家庭では、男性はフルタイム、女性はパートタイムという形が多く、女性は第一子が生まれるとパートタイムに移り、子どもが大きくなっても、完全にはフルタイムに戻らないケースも少なくない。パートタイムによって、生活のバランス、家事に対する男女間のバランスが取れるようになり、特に女性にとっては、働きながら、十分に子どものケアのための時間を取ることが可能になった。ヨーロッパにおける調査では、オランダ人の生活の満足度が高かった。パートタイムの短所としては、国として労働力が不足することがある。高齢化が進むとともに、今後オランダでも大量退職が始まるが、社会保障のレベルを保つためには十分な労働力が必要であり、政策により、就労人口を増やすとともに、パートタイムの労働時間も増やすことを奨励していく必要がある。」との説明があった。また、キヤノンヨーロッパでは、企業側から見た実情について説明を受けた。

 地域連携の実情に関し、ランドスタッド地域事務局を訪問した。オランダの行政構造は国・州・市であるが、二〇〇二年に「ランドスタッド地域」という組織が設立された。ヨーロッパにおける競争力を高めると同時に、住みやすい地域をつくることを目的に、国土計画的な分野、経済的な分野について、域内の政策調整を行っており、経済的戦略としては、二〇一五年に地域としてヨーロッパ内の五位に入ることを目標としているとのことであった。

 また、青果物の卸売企業として、ヨーロッパのトップ企業であるグリナリー社、及びグラスハウス農業を行う施設園芸農家を訪問したほか、在オランダ日本商工会議所役員と懇談を行った。

 英国においては、産学連携等に関し、ケンブリッジ大学及びケンブリッジにおける最大規模のサイエンスパークであるセント・ジョーンズ・イノベーション・センターを訪問した。ケンブリッジ大学は、一九七〇年代から産学連携に取り組み、大学の周辺には多くのハイテク企業が立地し、ヨーロッパ最大のバイオテクノロジーのクラスター、企業集積が、また、ITとソフトウエアについても、大規模なクラスターが形成されたとのことであった。

 職業訓練、若年者雇用に関し、ノース・イースト・ロンドン・カレッジを訪問した。同カレッジは、若年者支援の方法として、同年代の学生が学生を指導するメンター制度を取り入れるとともに、知識だけでなく手を使う建築分野に力を入れており、実技と知識を組み合わせて教育を行った場合、ドロップアウトが少ないとのことであった。また、同校において、十三歳から十九歳までの若者を対象に、職業意識を啓発し、社会との関係を維持し、自立した個人を育成しようとするコネクションズの取組について説明を受けた。コネクションズの活動目的はニートの割合を下げることにあり、その際、パーソナル・アドバイザーによる、一人一人の若者に対応したサービスが成果を上げているとのことであった。その後、トッテナム・コネクションズ・センター及びケストン・ロード・コミュニティー・センターを視察した。

 最後に、英国議会を訪れた。同議会においては、八名の上下両院議員と懇談を行い、その後、クエスチョンタイムを傍聴した。クエスチョンタイムでは、ブレア首相と野党党首を始めとする与野党の議員との間で、三十分の間に計二十四回のやり取りが簡潔かつユーモアを交えて行われており、強い印象を受けたところである。

三 派遣委員の報告

 平成十八年三月一日、派遣委員の報告が行われた。その概要は次のとおりである。

 平成十八年二月十六日及び十七日に、愛知県において、経済・産業・雇用に関する実情調査を行った。

 派遣委員は、広中会長、北岡理事、南野理事、松村理事、谷理事、和田理事、浜田理事、佐藤委員、西島委員、野村委員、津田委員、井上委員、渕上委員の十三名であった。

 初めに、愛知県庁において、愛知県の経済、産業及び雇用状況について、説明を聴取した。愛知県は、製造品出荷額で全国第一位を占めているほか、農業産出額においても全国でトップクラスにある。また、中部国際空港開港後には同空港を利用した輸出が増加するなど、諸外国との関係においても活発な経済活動を展開している。雇用状況についても全般的に良好であるが、若年者の完全失業率が高く、ニートやフリーターも相当数に上っていることから、フリーター・ニート対策の強化、小中高校生のキャリア教育の強化等の施策を実施しているとのことであった。派遣委員からは、製造業における派遣労働の状況、企業側が求める人材の育成方法、廃棄物処理やリサイクルへの取組などについて、質疑が行われた。

 次に、産業技術記念館を訪れた。概要説明を聴取した後、豊田佐吉が発明した織機の数々やトヨタ最初の「AA型自動車」等の歴史的な産業技術のほか、高速の「エアジェット織機」、高周波加熱装置による金属加工技術、自動車安全技術などの最新の産業技術を視察した。

 次に、株式会社ノリタケカンパニーリミテド及びノリタケの森を視察した。食器、研削・研磨機械のほか、セラミック等に事業を広げ、海外にも進出する同社の概要とともに、成果主義型の制度に移行しつつ働きやすい職場環境づくりに努める人事制度についての説明を聴取した。派遣委員からは、非正規雇用の割合、育児休業や介護休業の取得状況、育児休業等を取得した従業員の会社復帰後の待遇等について質疑があった。その後、ノリタケの森において、陶磁器製作の実演、ディナーセットや装飾品等の歴史的・芸術的陶磁器作品のほか、様々な用途で使用されているセラミック製品の視察を行った。

 翌十七日は、まず、トヨタ自動車株式会社堤工場を視察した。堤工場では、プリウス、カムリなど七車種を一分間に約二台の割合で生産しており、不良品が出た場合には一時的にラインが停止する仕組みが組み込まれているとのことであった。

 次に、トヨタ会館において、館内の視察を行うとともに、トヨタ自動車の概要と雇用に対する取組についての説明を聴取した。グローバルな競争が一段と激しさを増す中、「クルマづくり」のレベルを更に高めていく必要があり、雇用については、仕事と育児を両立できる環境整備に努めるとともに、社内再雇用制度の見直し・拡充等を行っているとのことであった。派遣委員からは、正社員と嘱託・期間従業員のチームワークの取り方、大企業病の有無等について質疑があった。

 最後に、有松・鳴海絞会館を訪れ、有松・鳴海絞の歴史、製作工程、絞りの技法、今後の課題等の説明を聴取した。歴史的な資料の展示とともに、伝統工芸士による絞りの実演が行われている館内を視察し、派遣委員からは、後継者の育成等についての質疑があった。

四 委員間の意見交換

 平成十八年五月十日、委員間の意見交換が行われた。その概要は、次のとおりである。

(一)意見表明
(自由民主党)

 我が国経済は、バブル経済の崩壊以降、十数年にわたって低迷を続けていたが、ようやくこのような状況を脱し、現在景気は民間主導で着実な回復を続け、日本人は自信と活力を取り戻しつつある。

 景気が回復を続ける一方で、格差が拡大しているのではないかとの指摘があるが、人口の高齢化や世帯規模の縮小が影響しているためで、実際にはそれほど格差は拡大していないとの見方もある。いずれにしても、この問題は政治的に非常に大きな問題であり、今後とも状況を注視していく必要がある。

 若年層の格差拡大については大方の見方が一致しているようである。正規社員として雇用された者と、パート、アルバイト、派遣等の非正規で雇用された者との間の所得の二極化が見られる。若者の自覚と努力はもちろんであるが、景気が回復している今、正規雇用の拡大や非正規雇用から正規雇用への登用制度の整備を図ることが望まれる。

 景気回復が著しい大都市圏と厳しい状況が続いている地域との地域間格差が拡大しているが、各地域が独自性を発揮し、競い合って発展していくことが重要であり、地域金融の確保と資金の循環の仕組みが求められる。

 IT技術の発展とともに経済のグローバル化が急速に進展し、世界規模で人、物、金が動くようになってきている。我が国が将来にわたって競争力を維持、向上させるためには、時代のニーズを取り入れながら教育や職業訓練を更に充実させ、人材育成や技術、技能の向上を図る必要がある。

 我が国の経済、産業、雇用の在り方も、時代の趨勢に合わせて変革していく必要があり、競争原理の導入による社会の活性化は不可避ではないかと考えるが、社会を完全に市場原理にゆだねることは行き過ぎであり、適切なセーフティーネットを形成し、我が国社会の優れた点を十分に伸ばしていく必要がある。

 キーワードは機会の平等と結果の平等であると考える。社会保障などの領域において、一定のラインを決め、そのラインだけは守るという意味での結果の平等が必要なことは言うまでもないが、平等なチャンスが与えられた場合には結果に責任を負うべきであるという意味で、機会の平等が今後重要になる。機会の平等と結果の平等を社会システムの中に適切に位置付けていくことが、これからの社会の在り方の大きな課題である。

 二〇〇七年から団塊世代が大量に定年年齢を迎えるという、いわゆる二〇〇七年問題への対応策としては、技術、技能の伝承を図り、定年延長、継続雇用等によりその影響を抑えるとともに、団塊世代の活力を社会に還元してもらうことが重要であると考える。

 女性の労働については、出産、育児の時期に労働力率が低下するいわゆるM字型カーブ、就業中断後の再就職が課題である。仕事と育児等の両立のための施策を一層推進するとともに、女性の再就職支援等の施策を講じていく必要がある。

 高齢者雇用については、高年齢者雇用安定法の改正により、本年四月から年金支給開始年齢の段階的な引上げに合わせた定年年齢の引上げ、継続雇用制度の導入等が事業主に義務付けられているが、今後の動向を見守るとともに、単に働く場を提供するだけではなく、雇用のミスマッチの解消のため、その内容にも目を向けていく必要がある。

 我が国は今大きな転換点にあり、各般の取組がなされているが、一番必要なのは、一人一人の挑戦してみようという意識改革であり、政治はそれを支援していかなければならない。

(民主党・新緑風会)

 第一に、格差問題であるが、我が国は、社会状況の変化やバブル崩壊後の経済の低迷に加え、構造改革の失政により社会の各方面にわたりゆがみが生じ、これらを背景として、様々な格差問題が発生している。

 まず、経済・所得格差問題であるが、生活保護受給世帯等の急増など各種統計からも格差拡大が明らかになっている。とりわけ問題なのは、若年層において格差が拡大していることであるが、その理由は、正規社員と非正規社員の間に生じる賃金格差であると言われている。バブル崩壊後、各企業は人件費圧縮のため、正規社員の雇用を抑制し、非正規社員の雇用を増加させてきた。そのあおりを受けて、フリーターとなった若者が低賃金に甘んじており、これらの若者は将来に不安を抱え結婚もできないなどの影響も生じている。今後は、多くの若者が正規社員として雇用され、経済・所得格差を縮小していく必要があり、そのためには、行政は若者向け教育訓練の一層の充実を図るとともに、企業は非正規社員を積極的に正規社員に登用することが不可欠と考える。さらに、同一価値労働同一賃金の原則を踏まえ、正規、非正規雇用間の賃金格差の解消を目指すべきである。そのほか、多様な働き方を可能とする短時間正社員制度の普及を図ることも必要と考える。

 次に、教育格差であるが、近年、就学援助受給者数が増加する一方で、多額な教育費を支出する家庭もある。子どもは等しく生まれ、育つべき国の宝であるが、現実には教育の機会の平等が与えられていない。背景には、所得再配分政策がうまく機能していないことがあると思われることから、所得再配分の在り方について検討する必要があり、具体的には、奨学金制度の一層の充実が不可欠だと思う。

 また、地域格差の問題であるが、大都市圏を中心に景気は回復傾向を示しているが、地方では依然として厳しい状況にある。早急に地方経済を活性化させるため、更なる地方分権の推進、税制の在り方について検討する必要がある。

 第二に、二〇〇七年問題と高齢者雇用であるが、まず、団塊世代が六十歳定年を迎えるいわゆる二〇〇七年問題は、団塊世代の退職による欠員を若年層の採用に充てられるといったメリットの方に視点を向け、この問題を前向きにとらえる必要があると思う。次に、高齢者雇用であるが、本年四月より施行された改正高年齢者雇用安定法では、六十五歳までの高齢者雇用を確保するため、事業主は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止のいずれかの措置を講ずることとなったが、大多数の企業は継続雇用制度の導入を選択しているようである。継続雇用を希望する高齢者がすべて雇用されるべく、事業主が恣意的に継続雇用を排除しないよう注視しなければならない。また、我が国が活力を維持し、経済成長を維持するには、高齢者のニーズに即した職務や待遇を企業サイドも用意し、高齢者に働いてもらう必要がある。具体的には、アドバイザー的な職務の創出、短時間勤務の導入などを積極的に進めてほしい。将来的には、高齢者が年齢により差別されず、その能力を十分に発揮して働くことができる社会、エイジフリー社会を目指していく必要があると考える。

 最後に、女性雇用であるが、女性の労働市場への進出は進み、いわゆるM字カーブも以前に比べフラット化が進んでいるが、男女間の賃金格差が依然として大きく、また女性はパートタイム労働者が多い。今般の男女雇用機会均等法改正の趣旨を踏まえつつ、男女間の賃金格差の是正に取り組むべきであると思う。今後は、女性の労働力率を高めつつ女性の雇用状況を改善していかなければならないが、そのためには仕事と家庭の両立を図ることが可能となるよう、育児休業制度、保育所整備などの充実・強化が不可欠である。各企業は、次世代育成支援対策推進法に基づき行動計画を策定し、育児や介護を支援するための制度の導入を進めているが、一層の積極的な取組が期待される。一方で、制度が創設されても十分に活用されなければ意味がない。仕事と家庭の両立を支援する制度を整備すると同時に、男女の役割分担の意識も変えていくことが必要ではないか。

(公明党)

 第一に、経済及び所得格差問題についてであるが、社会の二極化、すなわち格差が広がっているのではないかとの懸念がある。特に近年、二十代、三十代での格差がより顕著であるとのことだが、フリーター等非正規雇用の拡大と関連していると考えられ、今後これらの世代が四十代、五十代と移行するにつれて、ますます格差が拡大するのではないかと懸念される。希望格差社会という言葉で表されているように、将来の格差拡大の懸念が大きいというのがこの問題の本質ではないか。しかも、結婚、子育て、教育など、世代間をまたがる構造問題に転化することが懸念されている。今後、年齢層に応じて所得格差が拡大していかないように、また階層が固定化されないように、三つの点、すなわち、非正規から正規雇用への移行の拡大、パートや短時間正社員等による同一労働同一賃金という均等処遇の実現、一度失敗しても再チャレンジできる社会の仕組みづくりが重要と考える。これらこそ雇用のセーフティーネットであり、今若者が何となく不安に感じる所得格差に対する答えの一つであると考える。

 第二に、日本経済のグローバル化への対応についてであるが、中国経済との関係抜きには議論できない。日本がアジアとの連携を深めるに当たっては、先行して経済のローカル化を進めるべきであり、多様な地域の活力、地域力があって初めて経済のグローバル化、アジア化もうまく回っていくと考える。この点は、今後、FTA、EPA、東アジア共同体構想を進めていく上でもう一度確認すべき点であると思う。

 第三に、団塊世代の退職による経済、産業、雇用への影響についてであるが、団塊世代の技能伝承を円滑に進めるため、従来社内に限って行われてきた匠の制度や社内学校、社内塾を地域社会に開き、高等専門学校や工業高校で団塊世代をボランティア講師として招いて実施していく仕組みを考えることが重要であると思う。

 第四に、高齢者雇用の在り方についてであるが、本年四月から改正高年齢者雇用安定法が本格施行され、六十歳以降の継続雇用等が義務化された。労働力人口が減少する中で、高齢者は貴重な労働力資源であり、高齢者が継続雇用されやすい環境、待遇を企業が工夫することがあって初めて改正高年齢者雇用安定法の本来の趣旨もいかされるものと考える。企業組織全体を高齢者が継続雇用されやすいものへと変更していくことがあらゆる企業で今求められている。

 最後に、女性雇用についてであるが、育児休業等制度面では一定の成果が得られつつあるものの、更なる改善を図るには、男性が家庭でも地域でも職場でもファミリー・フレンドリーであることが求められる。参考人からは、ファミリー・フレンドリーな企業ほど長期に見て業績がよいとの分析結果も示されたが、今後、このような分析を深め、広く認知されるようにしていくことが必要である。

 なお、法制度の改善としては、児童手当の拡充を始めとして、育児の対象年齢の大幅延長、専業主婦の場合や両親がともに取得しようとする場合等の育児休業法の改善、復職や再就職時の教育訓練機会の提供や再雇用制度の充実、女性の雇用が多い人材派遣業における雇用者の手取り単価と受入れ企業の支払単価に関する情報公開の徹底等が今後の検討課題であると考える。

(日本共産党)

 日本社会と経済は今様々な事態に直面しており、その中で、初めての事態として格差の拡大と人口減少の問題がある。

 格差の拡大については、二〇〇二年までの十五年間で、所得の格差の度合いを示すジニ係数が三十代から四十代の男女で最大三〇%上昇したという研究結果が発表された。政府は、実質的な所得格差は統計データからは確認できないとしてきたが、見掛け上だけではなく、現役世代での実質的な所得格差が拡大していることが明らかになった。現役世代での格差の拡大は非正規雇用の増加や成果主義への移行が背景であると分析し、今後も拡大する可能性を指摘している。この五年間で正社員は二百七十万人減少し、派遣やパート、アルバイトなど非正規雇用は二百八十七万人増加している。全労働者の三人に一人、若者や女性では二人に一人が不安定雇用の下に置かれており、多くの場合、非正社員の年収は正社員の半分か三分の一程度で、雇用保険や健康保険にも入れてもらえないなど権利の侵害も横行している。そこには、大企業などが人件費削減で利益の極大化を図る戦略があり、また、政府による労働法制の改悪がこうした事態を加速してきた。

 もう一つの新しい事態は、人口減少社会への突入である。不安定雇用下にある若者が結婚できないことや、子育て支援の遅れの問題など、少子化問題の解決を早急に図る必要がある。同時に、今後、団塊世代が大量に定年期を迎えることと併せ、労働力が減少し技術力の継承が困難になっていることへの対応が必要である。

 以上のような状況下で、今後の日本経済の活性化には、格差を拡大してきた雇用政策の見直しと、高齢者や女性も能力や経験をいかして働き続けることができる社会の実現が必要であり、そのための法整備を含めた働くルールの確立が求められている。

 一つは、人間らしく働くルールの問題である。サービス残業の根絶を含め長時間労働の是正など人間らしい働き方を確立し、同時に、非正社員への差別、格差をなくし、均等待遇のルールを確立することが求められる。OECDの雇用アウトルックでは、日本では正社員と非正社員との間に大きな格差が存在し、有期雇用や派遣労働への規制が過去二十年間徐々に緩められた結果、このような形態の就業への規制がOECD平均をかなり下回っていると指摘されている。フランスやドイツでは派遣労働者の待遇を正社員と同一にするという原則が確立している。我が党は提出したパート・有期労働者雇用待遇法案の中で、賃金、休暇、教育訓練、福利厚生、解雇、退職その他の労働条件で均等待遇を保障することを提案してきた。派遣についても、均等待遇の確保と派遣先企業での正規雇用への道を広げ、違法行為が横行する業務請負を厳しく監督し、均等待遇を図ることが必要である。

 高齢者雇用に関しては、六十五歳までの雇用継続をすべての企業に義務付ける改正高年齢者雇用安定法が施行されたが、これに逆行する五十五歳定年制の導入や、低賃金を押し付けるケースがある。希望者全員の雇用や生計維持という法律の趣旨に背くことがないよう、企業への指導監督の徹底などが必要である。

 女性雇用の問題では、男女雇用機会均等法施行から二十年、働く女性は二千二百万人を超え、全雇用者の四割を占めている。大学新卒者の就職状況も女性が男性を上回り、新入社員で役職に就きたいと考える女性の割合も増えた。子どもができても仕事を続ける方がよいとする女性も増加している。問題は、職場の現実がこのような女性の意欲にこたえるものになっていないことである。女性の賃金は正社員でも男性の六八%、管理職の女性比率も約一割にすぎない。仕事と子育ての両立支援も不十分で、第一子の出産を機に三人に二人が職場を辞めている。また、相次ぐ規制緩和の下で既に女性の半数以上が非正社員となり、賃金や労働条件で深刻な格差が新たに生まれている。男女雇用機会均等法改正案は一定の改善もあるが、雇用管理区分を用いた間接差別が温存され、差別禁止の範囲や対象を限定しており、実効性の点で大変不十分である。均等法の基本理念に仕事と生活の調和を加え、条件を付けない間接差別の禁止の明記、一定規模以上の企業へのポジティブアクションの義務付け、企業に差別の立証責任を負わせることや権限ある救済機関の設置など、差別の禁止、差別の是正を実効あるものにし、女性労働者の均等待遇や平等な雇用をという願いにこたえる法改正が求められる。

(社会民主党・護憲連合)

 小泉内閣が発足し五年を経過したが、各種データを見る限りでは、賃金・資産格差が拡大をしているだけでなく、勝ち組、負け組といった社会構造の二極化が進み、職業選択の自由や教育の機会均等など、これまでの日本社会の発展の基礎となったものが崩れつつあるように見える。

 総務省の労働力調査によると、正社員数は、一九九七年の三千八百十二万人、七六・八%をピークに減少に転じ、二〇〇五年には三千三百七十四万人、六七・四%にまで下がり、パート、派遣、契約社員など非正規労働者は、九七年に千百五十二万人、二三・二%だったものが、二〇〇五年には千六百三十三万人、三二・六%へと急増している。OECDのレポートによると、二〇〇〇年時点の日本の所得格差を示すジニ係数は調査した二十五か国中十番目に高く、日本社会は格差が大きくなっていることを明らかにしている。また、全世帯の平均収入の半分以下しか収入のない世帯の割合は一五・三%と、先進国中三番目に高いという結果が出ている。この影響は教育現場にも現れており、就学援助を受ける児童生徒は、東京、大阪でともに四人に一人の割合となり、全国的に見ても、二〇〇四年度は二〇〇〇年度と比べて四割近く増加をしている。また、貯蓄ゼロ世帯が二〇〇五年には二三・八%になったほか、自殺者はこの数年三万人以上で推移をしている。

 これらは、改革なくして成長なし、民間にできることは民間にの名の下に、経済・金融市場を始め労働分野などの規制緩和を推し進めてきた結果であると言える。ここで幾つかの提言をしたい。

 第一は、男女雇用機会均等法を男女雇用平等法にすることである。一九八六年に施行された男女雇用機会均等法は、九七年の改正、九九年施行後も様々な抜け道があり、実効性に乏しいものになっており、男女雇用平等法に変えていくべきと考える。

 第二は、育児・介護休業法の改正である。すべての労働者、とりわけ現実に重い家族的責任を担いつつ仕事との両立に努力をしている女性労働者の権利保障を更に手厚くするために、同法を改正し、雇用の継続の実効性を確保することが必要と考える。また、家族の看護休暇制度、つわり休暇制度の確立も必要と思われる。

 第三は、パート・派遣労働対策である。雇用構造の変化を踏まえつつ、同一価値労働同一賃金原則を含む均等待遇原則を法に盛り込むべきであり、また、多様な就業形態の存在が労働条件の切下げや権利の劣悪化をもたらすこと等がないように、一定期間を経過した派遣労働者は正社員化すべきと考える。さらに、若年世代のキャリア・スキルアップ支援のため有給のインターンシップ制度なども有効と考える。

 第四は、障害者の就業の機会、就業率の向上である。障害者雇用促進法で法定雇用率が制度化されたにもかかわらず、民間企業の障害者雇用は一向に進んでいない。この状況を改善するために、未達成納付金を大幅に引き上げるなど、民間企業も積極的に障害者を雇用するような施策を講ずるべきだと考える。

 以上提言を行ったが、これらの施策の実行の上からも、年金制度を始めとする社会保障制度の改善が必要と考える。

(二)意見交換
(経済)

○ ここ十年、十五年、冷戦構造の崩壊やIT産業の振興とともに経済の質が大きく変わりつつあり、貿易立国として国際競争に勝っていかなければならない状況の中で問題が表面化してきており、経済環境や国際的な環境変化に対して、政治課題として格差問題、雇用形態の変化、少子化・核家族化の進行などの問題を調査会等で解決をしていかなければならない新たな課題としてとらえるべきではないかとの発言があった。

○ 金融業・金融政策の失敗が大きな力となって製造業を痛め付けたが、今、日本の製造業は製品の高級化・ハイレベル化に進み、成功を収めつつあると聞いており、無資源、貿易立国の根本的なパワーである製造業の持っているパワーは、世界の経済を動かしたグローバリズム、金融のグローバリズムではなく、アメリカンパワーに侵されたということをしっかりととらえていく必要があるのではないかとの発言があった。

○ これからの経済、産業、雇用の問題を考えるときには、今の市場原理で果たしてよいのかを考えていかなければならず、一つの切り口として、進化経済学や地域通貨などの最先端の話を聞いてみる必要があるとの発言があった。

○ 環境は一つの産業だと思っており、環境分野の技術開発をすることが今求められているが、残念ながら掛け声倒れに終わっており、一向にその実効性が上がっておらず、経済、産業、雇用の観点からも、これからしっかり視点を当てていかなければならないとの発言があった。

○ FTAにどう対応するかも直面している課題であるとの発言があった。

(格差問題)

○ 経済・所得格差の問題において、一番大きく深刻な問題は若年層のジニ係数が上昇していることで、これからの少子化にもつながる問題であるが、格差拡大の理由は、正規、非正規の賃金格差を放置したままで雇用の規制緩和をした結果であり、政府が正規社員とパートや派遣社員の賃金格差の是正に早急に取り組むことが、最優先の課題であるとの発言があった。

○ 日本の社会問題で一番大変な格差問題の根幹にあるのが雇用問題であるという認識で一致してきたと思われるので、政治の場で雇用の問題の解決、男女不平等の解決にいち早く取り組み、一般的な努力をすれば生活の安定が得られる社会をかつてのように取り戻す必要があるとともに、これから社会的に一番重要なことは、義理と人情、つまり連帯、助け合い、人間対人間の共感を高めていくことであると思っており、クリントン大統領がやろうとしたができなかった格差是正に一致結束してもらいたいとの発言があった。

(雇用)

○ 企業は人件費の大幅引下げで黒字を出しているが、多くの労働の規制緩和が行われ、特に製造業における派遣労働が認められるようになり、結果的に正規従業員として働きたいが派遣で働くしかない状況の中で、企業が黒字化をしてきたのであり、非正規で働いている多くの人たちは、育児休業、産前産後の休暇が取れず、厚生年金、健康保険、雇用保険もなく、もし保険料を払ったとしても、残りでは生活していけるかどうかという状況のため結婚や子どもをつくる状況にはなく、今後このことに取り組む必要があるとの発言があった。

○ 製造業への派遣が可能となる中で、偽装請負では派遣よりも更に厳しい状況があり、以前厚生労働省に請負で働いている人や会社の数を聞いたところ、把握していなかったが、今やっとそうした把握をしつつあり、昔の女工哀史のような過酷な状況で若者が働かされている状況もしっかりと見て、国として対応していかなければならないとの発言があった。

○ 高齢社会を見た場合、医療雇用の問題があり、また、外国人労働者の課題があり、加えて、罪に手を染めた人々の雇用に光を当てることにより、罪を繰り返すことのない世界をつくっていかなければならないとの発言があった。

○ 職場における働き方を見たときに、自分一人ではなく、連帯、共同作業で仕事をしているので、それを崩すような方向に進められるとすれば余りよい成果を生まず、その意味で、成果主義の賃金体系で個人個人にきちきちとした格差のある評価をしていく職場は成り立たなくなると思うので、もう一度職場における連帯や共同作業の在り方をきちんと見直していかなければならないと痛感しているとの発言があった。

(人材育成等)

○ 高専などを出て就職した場合、同じ技術・能力があっても、大学や大学院を出た人より所得が低いが、きちんと能力で評価してほしく、同時に、教育の複線化を考え、中学、高校、高専を出て社会で働き、更に深く勉強したいなどと思ったときに、大学等で勉強ができるようにしていかなければならず、産学の連携ももっと深くしっかりと結び付いていかなければならないとの発言があった。

○ これから強い日本を目指すために一番大事なのは、日本社会の源である義理、人情、恩返しをしっかり子どもに教育していくことであり、また、お金のやり取りや労働力以前の問題で、人間性で勝負していかないと世界で勝てないと思われ、国民がしっかり働けるような国家観的なものを持てる教育を根本から行っていかなければならないと思うとの発言があった。

○ 二十一世紀は心の時代であり、どのような心で生き、自分の人生をつくり、他者との関係をつくっていくかが一番大きな課題であり、また、少子高齢社会の問題は、家族がどのようなきずなを結んで生きていくのかということになると思うが、今、弱い結び付きになっており、子どもをすてきな大人に育てていく環境をどうとらえるかという中に、経済、産業、雇用の課題が詰まっているとの発言があった。

3 提言

 本調査会は一昨年の十月に設置されて以来、「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」との調査項目の下、鋭意調査を進めてきたところであり、初年度においては、若年者の雇用問題について緊急的な提言を行ったところである。二年目に当たる本年度においては、多様化する雇用への対応について、以下のとおり提言を行うこととする。

 バブル崩壊後の長期にわたる景気低迷を背景とした企業の総人件費抑制策、職業観や就労意識の変化等に伴い、近年就業形態が大きく変化しており、非正規雇用の雇用者全体に占める比率は、昭和五十九年の一五・三%から平成十七年には三二・六%と二倍以上に拡大している。

 これらの非正規雇用と正規雇用との間には、大きな賃金格差が生じており、最近論議が起きている所得格差拡大の一つの要因とも言われている。また、若年層の所得の二極化による晩婚化・非婚化の進行は出生率の更なる低下をもたらす懸念が強い。パート社員もかつては補助的な業務が中心であったが、最近では正社員と同程度の業務を行っている例が少なくなく、非正規雇用の増大、団塊世代の退職等により技術の伝承問題も課題となっている。

 さらに、大都市圏と地方の経済的格差も懸念されている。

 一方、既に人口減少時代に入った我が国においては、将来的に労働力不足を来すことが予想されている。このためにも、高齢者や女性の労働力を活用する必要があるが、高齢者や女性の雇用をめぐっては、様々な問題が生じていることも事実である。とりわけ、高齢者雇用では、年金支給開始年齢の引上げと雇用の継続問題等、また、女性雇用では仕事と家庭・育児の両立、男女間の賃金格差問題等が課題となっている。

 これらの点にかんがみ、政府及び関係者においては、その趣旨を十分に理解され、以下の事項についてその実現が図られるよう要請する。

一、 正規雇用と非正規雇用との格差の実態把握に努めるとともに、多様な働き方を提供し多くの労働者に雇用の機会を与える短時間正社員制度の導入を促進させること。

一、 景気が拡大する中で正規雇用の採用を拡大するとともに、非正規雇用から正規雇用への登用を積極的に行うこと。

一、 「同一価値労働同一賃金」の考え方をも踏まえつつ、正規雇用と非正規雇用の賃金格差等の是正に努めること。

一、 大都市圏と地方の地域間格差から派生する雇用状況等に関する格差を是正するよう努めること。

一、 社会保険料を負担しなければならない事業者が保険料を支払っていない場合には、従来以上に厳しく対応すること。

一、 改正高年齢者雇用安定法の施行に際しては、九割以上の企業が継続雇用制度を導入する予定であるが、高齢者の雇用確保が適切に行われるよう十分に指導・監督すること。また、高齢者に配慮した職場環境の改善を図ること。

一、 だれもが年齢にかかわりなく、能力を発揮して働くことのできる、いわゆるエイジフリー社会を目指すよう努めること。

一、 依然として多くの待機児童を抱えている実態を踏まえ、保育所の整備について一層推進するとともに、放課後児童対策を拡充・強化すること。

一、 仕事と家庭・育児の両立を支援するため、制度・施策の整備・充実を図るとともに、家庭における男女の役割分担を始めとする男性側の理解、協力及び責任が不可欠なことから、そのための一層の啓発を行うこと。

一、 男女雇用機会均等法の基本理念を踏まえつつ、男女間の賃金格差等の是正に努めること。


(参考)

○ 調査会委員

   報告書提出日(平成十八年六月二日)

会長 広中 和歌子 理事 北岡 秀二 理事 南野 知惠子
理事 松村 祥史 理事 谷  博之 理事 和田 ひろ子
理事 浜田 昌良 委員 岩井 國臣 委員 大野 つや子
委員 小池 正勝 委員 小泉 昭男 委員 佐藤 昭郎
委員 西島 英利  委員 野村 哲郎 委員 松山 政司
委員 吉村 剛太郎 委員 伊藤 基隆 委員 池口 修次
委員 大久保 勉 委員 津田 弥太郎 委員 峰崎 直樹
委員 松  あきら 委員 井上 哲士 委員 渕上 貞雄
委員 又市 征治        

○ 主な活動経過

 (一年目)

国会回次及び年月日 事項
第百六十一回国会  
平成十六年十月十二日  本会議において、経済・産業・雇用に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため委員二十五名から成る経済・産業・雇用に関する調査会を設置することに決した。
 調査会長を選任した後、理事を選任した。
十一月十日  調査項目「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」の選定について会長から報告があった。
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、構造改革と経済財政の中期展望について西川内閣府副大臣及び政府参考人から説明を聴き、新産業創造戦略について保坂経済産業副大臣及び政府参考人から説明を聴いた後、政府参考人に対し質疑を行った。
十一月十七日  「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、雇用対策基本計画について藤井厚生労働大臣政務官及び政府参考人から説明を聴き、若年者に対する就業支援について塩谷文部科学副大臣及び政府参考人から説明を聴いた後、藤井厚生労働大臣政務官及び政府参考人に対し質疑を行った。
第百六十二回国会  
平成十七年二月十六日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、成熟社会における経済活性化に向けた方策について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
内閣府経済社会総合研究所長 香西   泰 君
日本労働組合総連合会(連合)副事務局長 久保田 泰雄 君
社団法人日本経済団体連合会専務理事 矢野  弘典 君
二月十七日
~十八日
 経済・産業・雇用に関する実情調査のため、京都府に委員派遣を行った。
二月二十三日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、地域経済の活性化について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
法政大学経済学部教授 黒川 和美 君
社団法人全国地方銀行協会会長
株式会社東邦銀行取締役頭取
瀬谷 俊雄 君
日本政策投資銀行地域企画部参事役 藻谷 浩介 君
三月二日
派遣委員から報告を聴いた。
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、日本経済の国際競争力の強化について参考人から意見を聴いた後、両参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
オリンパス株式会社代表取締役会長 岸本 正壽 君
株式会社三菱総合研究所主任研究員 後藤 康雄 君
四月六日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、多様化する雇用への対応について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
大阪大学社会経済研究所教授 大竹 文雄 君
テンプスタッフ株式会社代表取締役
社団法人日本人材派遣協会会長
篠原 欣子 君
株式会社日本総合研究所調査部主任研究員 山田  久 君
四月二十日
「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、フリーター・ニート等若年者をめぐる雇用問題について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長
工藤  啓 君
東京大学社会科学研究所助教授 玄田 有史 君
兵庫県教育委員会教育次長 杉本 健三 君
千房商事株式会社代表取締役 中井 政嗣 君
五月十一日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、経済社会の変化に対応した人材育成の在り方について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
早稲田大学ビジネススクール経営専門職大学院教授
梅津 祐良 君
ジャーナリスト 多賀 幹子 君
お茶の水女子大学文教育学部教授 耳塚 寛明 君
五月十八日  「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」について委員間の意見交換を行った。
六月十三日  経済・産業・雇用に関する調査報告書(中間報告)を提出することを決定した。
 経済・産業・雇用に関する調査の中間報告を申し出ることを決定した。
六月十五日  本会議において、調査会長が経済・産業・雇用に関する調査の中間報告を行った。
七月十三日  経済・産業・雇用に関する実情調査のため、視察(東京都立六郷工科高等学校及び株式会社成立)を行った。

(二年目)

国会回次及び年月日 事項
第百六十三回国会  
平成十七年十月二十六日  経済・産業・雇用に関する実情調査のため、視察(ハローワーク新宿) を行った。
第百六十四回国会  
平成十八年二月八日  海外派遣議員から報告を聴いた。
二月十五日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、経済及び所得格差問題について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
三菱UFJ証券株式会社チーフエコノミスト
水野 和夫 君
東京学芸大学教育学部教授 山田 昌弘 君
独立行政法人労働政策研究・研修機構
労働経済分析研究部門研究員
勇上 和史 君
二月十六日
~十七日
 経済・産業・雇用に関する実情調査のため、愛知県に委員派遣を行った。
二月二十二日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、日本経済のグローバル化への対応について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
大阪大学社会経済研究所教授 小野 善康 君
株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー
関  志雄 君
同志社大学大学院ビジネス研究科教授 浜  矩子 君
三月一日
 派遣委員から報告を聴いた。
  「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、団塊世代の退職による経済・産業・雇用への影響について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
シャープ株式会社代表取締役専務取締役人事本部長
熊谷 祥彦 君
株式会社ニッセイ基礎研究所経済調査部門
シニアエコノミスト
斎藤 太郎 君
NPO法人ニッポン・アクティブライフ・クラブ会長
高畑 敬一 君
国際基督教大学教養学部教授 八代 尚宏 君
四月五日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、高齢者雇用の在り方について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
株式会社リクルートワークス研究所所長 大久保 幸夫 君
一橋大学大学院経済学研究科教授 大橋  勇雄 君
株式会社前川製作所取締役会長 島賀  哲夫 君
四月十九日
 「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」のうち、女性雇用をめぐる課題について参考人から意見を聴いた後、各参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
株式会社ユニカルインターナショナル代表取締役社長
佐々木 かをり 君
昭和女子大学副学長・理事
坂東  眞理子 君
学習院大学経済学部教授
脇坂    明 君
五月十日  「成熟社会における経済活性化と多様化する雇用への対応」について委員間の意見交換を行った。
六月二日  経済・産業・雇用に関する調査報告書(中間報告)を提出することを決定した。
 経済・産業・雇用に関する調査の中間報告を申し出ることを決定した。