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共生社会に関する調査会

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共生社会に関する調査報告(最終報告)(平成13年6月20日)



第I 調査会の調査の経過

 参議院共生社会に関する調査会は、平成十年六月十六日に議長に提出された「参議院制度改革検討会報告書」の答申に基づき、第百四十三回国会の八月三十一日に設置された。

 今日、我が国を取り巻く社会的環境は大きく変化しており、男性と女性、健常者と障害者、日本人と外国人、現役世代と年金世代など、社会を構成している様々な人々が、互いにその存在を認め合い、共生していく社会が求められている。本調査会は、このような共生社会についての的確な対応を目指し、我が国の社会における人と人との新しい関係を模索すべく新たに設けられたものである。

 本調査会においては、まず、男女の共生を中心として調査を進めることとし、「男女等共生社会の構築に向けて」を当面の調査テーマと定め、さらに「女性に対する暴力」と「女性の政策決定過程への参画」を具体的テーマとして取り上げ、一年目は「女性に対する暴力」について調査を行い、第百四十五回国会の平成十一年六月三十日、「女性に対する暴力についての調査・研究」を始め六項目の提言を含む中間報告を議長に提出した。

 二年目は、「女性の政策決定過程への参画」について調査を行うとともに、一年目の中間報告についてのフォローアップ調査、第四回世界女性会議行動綱領への対応等についても調査を行い、第百四十七回国会の平成十二年五月二十五日、「女性のエンパワーメントのための環境整備」を始め七項目の提言を含む中間報告を議長に提出した。

 調査の最終年となる三年目は、二年目の提言の中から「女性の自立のための環境整備」を取り上げ、これをさらに「生涯にわたる女性の健康支援」及び「女性の経済・社会的自立支援」とに分けて具体的な調査を行うとともに、平成十二年十二月に策定された「男女共同参画基本計画」について、また、三年間の調査を締めくくるため「男女等共生社会の構築に向けて」についてそれぞれ政府質疑を行った。また、一年目の提言において検討課題とされた女性に対する暴力に関する法的対応策については、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案」として取りまとめ、その成立に至ることができた。

 第百五十回国会においては、まず、「女性の自立のための環境整備」のうちの「生涯にわたる女性の健康支援」について調査を行い、平成十二年十一月一日、芦野由利子氏(社団法人日本家族計画連盟事務局次長)、金城清子氏(津田塾大学学芸学部国際関係学科教授)及び森恵美氏(千葉大学看護学部母子看護学講座教授)を参考人として招き、それぞれ意見を聴取した後、各参考人に対し質疑を行った。

 次いで、十一月八日、中原総理府政務次官、松村文部政務次官、福島厚生政務次官及び政府参考人から政府の取組の現状について説明を聴取した後、中原総理府政務次官、松村文部政務次官、福島厚生政務次官及び政府参考人に対し質疑を行った。

 さらに、十一月十五日、これまでの参考人からの意見聴取及び政府からの説明聴取を踏まえ、「生涯にわたる女性の健康支援」についての意見を整理するため、委員間の自由討議を行った。

 第百五十一回国会においては、「女性の自立のための環境整備」のうちの「女性の経済・社会的自立支援」について調査を行い、平成十三年二月十四日、雇用関係について、大沢真知子氏(日本女子大学人間社会学部教授)、矢野弘典氏(日本経営者団体連盟常務理事)及び北川美千代氏(株式会社ベネッセコーポレーション人財組織部人事サービス課セクションチーフ)を参考人として招き、それぞれ意見を聴取した後、各参考人に対し質疑を行った。

 次いで、二月十九日、若林財務副大臣及び増田厚生労働副大臣から女性の経済・社会的自立支援についての政府の取組の現状について説明を聴取した後、若林財務副大臣、増田厚生労働副大臣、桝屋厚生労働副大臣及び政府参考人に対し質疑を行った。

 次いで、二月二十一日、税制・社会保障制度について、都村敦子氏(中京大学経済学部教授)及び永瀬伸子氏(お茶の水女子大学生活科学部助教授)を参考人として招き、それぞれ意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

 また、四月二日、現場の実情に精通した有識者として、前田正子氏(株式会社ライフデザイン研究所研究開発部主任研究員)、普光院亜紀氏(保育園を考える親の会代表)、松岡俊彦氏(渕野辺保育園園長)及び松井香氏(イエルネット株式会社取締役アドミニストレーショングループジェネラルマネージャー)を参考人として招き、それぞれ意見を聴取した後、各参考人に対し質疑を行った。

 さらに、五月十四日、これまでの参考人からの意見聴取及び政府からの説明聴取を踏まえ、「女性の経済・社会的自立支援」についての意見を整理するため、委員間の自由討議を行った。

 以上のような女性の自立のための環境整備についての論議を踏まえ、理事懇談会で協議を行った結果、「女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを視座に入れた総合的な施策の充実」を始め七項目の提言を取りまとめた。

 また、平成十三年二月二十一日、男女共同参画社会基本法に基づいて策定された「男女共同参画基本計画」について、坂井内閣府副大臣から説明を聴取した後、同副大臣及び政府参考人に対し質疑を行った。

 さらに、本調査会が「男女等共生社会の構築に向けて」のテーマの下、三年間にわたって進めてきた調査を締めくくる観点から、平成十三年六月四日、男女共同参画担当大臣である福田内閣官房長官、松下内閣府副大臣、南野厚生労働副大臣及び政府参考人に対し質疑を行った。

 他方、女性に対する暴力に関する法的対応策について検討するため、平成十二年四月二十六日に理事会の下に各会派の調査会メンバーを主たる構成員とするプロジェクトチームを設置した。プロジェクトチームは、設置以来三十回にわたり討議を重ねてきた。平成十三年一月三十一日に、調査会においてプロジェクトチームの検討経過に関して中間報告を行うとともに、三月二十八日には草案の起草にこぎつけた。これを受け、四月二日、調査会において「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案」の草案の趣旨について提案者南野知惠子君から説明を聴取し、また、国会法第五十四条の四において準用する第五十七条の三の規定(予算を伴う法律案についての内閣の意見の聴取)により内閣の意見を聴取した後、調査会として本法律案の提出を決定した。

 本法律案は、四月四日の参議院本会議において全会一致をもって可決された後、四月六日の衆議院法務委員会の審査を経て、同日の衆議院本会議において全会一致をもって可決、成立した。

 以上のほか、第百四十九回国会閉会後の平成十二年九月十二日から十四日までの三日間、男女等共生社会に関する実情調査のため、北海道に委員を派遣し、十一月一日、調査会においてその報告を聴取した。

第II 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律

一 提出の背景

 近年我が国を取り巻く社会的環境は大きく変化しており、とりわけ男女が互いにその存在を認め合い、共生していく男女共同参画社会の構築はまさに二十一世紀の最重要課題であると言われている。日本国憲法の個人の尊重、法の下の平等の理念にもかかわらず、社会においてはなお女性の人権が軽視されるという実態が存在し、その一つが女性に対する暴力である。

 女性に対する暴力については、国際的にも重要な課題として取り上げられてきており、一九八五年七月の「『国連婦人の十年』ナイロビ世界会議」以降、一九九三年七月の「ウイーン世界人権会議」、同年十二月の「第四十八回国連総会」、一九九五年九月の「第四回世界女性会議」、さらには二〇〇〇年六月の「女性二〇〇〇年会議」などにおいて、女性に対する暴力の撤廃に向けての宣言や行動が打ち出されてきた。とりわけ、「女性二〇〇〇年会議」で採択された「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ」においては、各国がとるべき行動の一つとして、あらゆる形態のドメスティック・バイオレンスに関する犯罪に対処するための法律の制定等が規定されているところである。

 このような国際的動向もあり、国内的には、平成八年十二月に策定された「男女共同参画二〇〇〇年プラン」において、女性に対する暴力は人権問題と位置付けられ、また、平成十二年十二月に策定された「男女共同参画基本計画」においては、女性に対する暴力のうちの夫・パートナーからの暴力(ドメスティック・バイオレンス)について、「各種施策の充実や既存の法制度の的確な実施や一層の活用を行うとともに、それらの状況も踏まえつつ、新たな法制度や方策などを含め、幅広く検討する」という施策の基本的方向が示された。

 しかしながら、ドメスティック・バイオレンスを始めとする女性に対する暴力の実態は潜在化しており、平成十一年九月に国として初めての実態調査が実施されたことにも見られるように、我が国においては、諸外国に比べ、社会的にも法制的にもこの問題に対する取組は十分とは言えなかった。その結果として、被害が放置され、更に潜在化するという実態にあった。

 このような状況の下、平成十年八月に設置された参議院共生社会に関する調査会は、その一年目の調査において「女性に対する暴力」をテーマとして取り上げ、平成十一年六月の中間報告で「女性に対する暴力」について提言を行うとともに、その法的対応策については今後の検討課題とした。

二 提出に至る経緯及び審議の経過

 一年目の中間報告で、女性に対する暴力の法的対応策は今後の検討課題としたが、平成十一年九月のイタリア、イギリス及びノルウェーへの実情調査のための海外派遣、さらには二〇〇〇年六月のニューヨークでの「女性二〇〇〇年会議」もあって、各会派から立法化の声が高まった。

 本調査会は、平成十二年四月二十六日に理事会の下に「女性に対する暴力に関するプロジェクトチーム」を設置し、座長に南野知惠子君、副座長に小宮山洋子君を選任し、合計三十回にわたる調査、検討を行った。

 プロジェクトチームは、シェルター関係者、婦人相談所関係者、弁護士、学識経験者等からそれぞれ意見聴取を行い、また、総理府、警察庁、法務省及び厚生省から説明聴取を行った。

 その後、新規立法のたたき台作成及び骨子作成のための討議を経て、平成十三年一月三十一日に、調査会において南野座長からプロジェクトチームの協議の経過等について中間報告を行い、二月二十三日、法律案の骨子の概要をもとに、プロジェクトチームと学識経験者、弁護士、NGO等の間で意見交換を行った。

 三月二十八日、法律案について討議の後、プロジェクトチームとしての合意を得、同三十日の理事懇談会において、調査会として法律案を提出することで合意した。

 四月二日、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案」は全会一致で共生社会に関する調査会提出案として参議院に提出され、同四日の参議院本会議で全会一致をもって可決し、衆議院に提出された。衆議院においては、法務委員会に付託され、同六日委員会審査の後、全会一致で可決され、衆議院本会議に緊急上程の後、全会一致をもって可決成立した。

 四月十三日、本法律は公布された。

 なお、この法律は、本調査会の下、超党派の女性議員が中心になって、議論を積み重ねながら立法化し、議員立法として出来上がったものである。本院の調査会に求められている、国政の基本的事項に関する長期的かつ総合的調査の成果として立法化できたことは、調査会の目的に沿ったものと言える。

三 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律

 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律 (平成十三年四月十三日法律第三十一号)

目次
前文
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 配偶者暴力相談支援センター等(第三条―第五条)
第三章 被害者の保護(第六条―第九条)
第四章 保護命令(第十条―第二十二条)
第五章 雑則(第二十三条―第二十八条)
第六章 罰則(第二十九条・第三十条)
附則
 我が国においては、日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等がうたわれ、人権の擁護と男女平等の実現に向けた取組が行われている。
 ところが、配偶者からの暴力は、犯罪となる行為であるにもかかわらず、被害者の救済が必ずしも十分に行われてこなかった。また、配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であり、経済的自立が困難である女性に対して配偶者が暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を行うことは、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっている。
 このような状況を改善し、人権の擁護と男女平等の実現を図るためには、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するための施策を講ずることが必要である。このことは、女性に対する暴力を根絶しようと努めている国際社会における取組にも沿うものである。
 ここに、配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備することにより、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、この法律を制定する。
   第一章 総則
 (定義)
第一条 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)からの身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。
2 この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者(配偶者からの暴力を受けた後婚姻を解消した者であって、当該配偶者であった者から引き続き生命又は身体に危害を受けるおそれがあるものを含む。)をいう。
 (国及び地方公共団体の責務)
第二条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護する責務を有する。
   第二章 配偶者暴力相談支援センター等
 (配偶者暴力相談支援センター)
第三条 都道府県は、当該都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとする。
2 配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者(被害者に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けた者を含む。以下この章及び第七条において同じ。)の保護のため、次に掲げる業務を行うものとする。
一 被害者に関する各般の問題について、相談に応ずること又は婦人相談員若しくは相談を行う機関を紹介すること。
二 被害者の心身の健康を回復させるため、医学的又は心理学的な指導その他の必要な指導を行うこと。
三 被害者(被害者がその家族を同伴する場合にあっては、被害者及びその同伴する家族。次号、第六号及び第五条において同じ。)の一時保護を行うこと。
四 被害者が自立して生活することを促進するため、情報の提供その他の援助を行うこと。
五 第四章に定める保護命令の制度の利用について、情報の提供その他の援助を行うこと。
六 被害者を居住させ保護する施設の利用について、情報の提供その他の援助を行うこと。
3 前項第三号の一時保護は、婦人相談所が、自ら行い、又は厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行うものとする。
 (婦人相談員による相談等)
第四条 婦人相談員は、被害者の相談に応じ、必要な指導を行うことができる。
 (婦人保護施設における保護)
第五条 都道府県は、婦人保護施設において被害者の保護を行うことができる。
   第三章 被害者の保護
 (配偶者からの暴力の発見者による通報等)
第六条 配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない。
2 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報することができる。この場合において、その者の意思を尊重するよう努めるものとする。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定により通報することを妨げるものと解釈してはならない。
4 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければならない。
 (配偶者暴力相談支援センターによる保護についての説明等)
第七条 配偶者暴力相談支援センターは、被害者に関する通報又は相談を受けた場合には、必要に応じ、被害者に対し、第三条第二項の規定により配偶者暴力相談支援センターが行う業務の内容について説明及び助言を行うとともに、必要な保護を受けることを勧奨するものとする。
 (警察官による被害の防止)
第八条 警察官は、通報等により配偶者からの暴力が行われていると認めるときは、警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)、警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)その他の法令の定めるところにより、暴力の制止、被害者の保護その他の配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 (被害者の保護のための関係機関の連携協力)
第九条 配偶者暴力相談支援センター、都道府県警察、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所等の関係機関は、被害者の保護を行うに当たっては、その適切な保護が行われるよう、相互に連携を図りながら協力するよう努めるものとする。
   第四章 保護命令
 (保護命令)
第十条 被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。
一 命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいすることを禁止すること。
二 命令の効力が生じた日から起算して二週間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること。
 (管轄裁判所)
第十一条 前条の規定による命令(以下「保護命令」という。)の申立てに係る事件(以下「保護命令事件」という。)は、相手方の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
2 保護命令の申立ては、次の各号に掲げる地を管轄する地方裁判所にもすることができる。
一 申立人の住所又は居所の所在地
二 当該申立てに係る配偶者からの暴力が行われた地
 (保護命令の申立て)
第十二条 保護命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。
一 配偶者からの暴力を受けた状況
二 更なる配偶者からの暴力により生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる事情
三 配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に対し、配偶者からの暴力に関して相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実の有無及びその事実があるときは、次に掲げる事項
イ 当該配偶者暴力相談支援センター又は当該警察職員の所属官署の名称
ロ 相談し、又は援助若しくは保護を求めた日時及び場所
ハ 相談又は求めた援助若しくは保護の内容
ニ 相談又は申立人の求めに対して執られた措置の内容
2 前項の書面(以下「申立書」という。)に同項第三号イからニまでに掲げる事項の記載がない場合には、申立書には、同項第一号及び第二号に掲げる事項についての申立人の供述を記載した書面で公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第五十八条ノ二第一項の認証を受けたものを添付しなければならない。
 (迅速な裁判)
第十三条 裁判所は、保護命令事件については、速やかに裁判をするものとする。
 (保護命令事件の審理の方法)
第十四条 保護命令は、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより保護命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
2 申立書に第十二条第一項第三号イからニまでに掲げる事項の記載がある場合には、裁判所は、当該配偶者暴力相談支援センター又は当該所属官署の長に対し、申立人が相談し又は援助若しくは保護を求めた際の状況及びこれに対して執られた措置の内容を記載した書面の提出を求めるものとする。この場合において、当該配偶者暴力相談支援センター又は当該所属官署の長は、これに速やかに応ずるものとする。
3 裁判所は、必要があると認める場合には、前項の配偶者暴力相談支援センター若しくは所属官署の長又は申立人から相談を受け、若しくは援助若しくは保護を求められた職員に対し、同項の規定により書面の提出を求めた事項に関して更に説明を求めることができる。
 (保護命令の申立てについての決定等)
第十五条 保護命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。
2 保護命令は、相手方に対する決定書の送達又は相手方が出頭した口頭弁論若しくは審尋の期日における言渡しによって、その効力を生ずる。
3 保護命令を発したときは、裁判所書記官は、速やかにその旨及びその内容を申立人の住所又は居所を管轄する警視総監又は道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長)に通知するものとする。
4 保護命令は、執行力を有しない。
 (即時抗告)
第十六条 保護命令の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
2 前項の即時抗告は、保護命令の効力に影響を及ぼさない。
3 即時抗告があった場合において、保護命令の取消しの原因となることが明らかな事情があることにつき疎明があったときに限り、抗告裁判所は、申立てにより、即時抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、保護命令の効力の停止を命ずることができる。事件の記録が原裁判所に存する間は、原裁判所も、この処分を命ずることができる。
4 前項の規定による裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
5 前条第三項の規定は、第三項の場合及び抗告裁判所が保護命令を取り消した場合について準用する。
 (保護命令の取消し)
第十七条 保護命令を発した裁判所は、第十条第一号に掲げる事項に係る保護命令の申立てをした者の申立てがあった場合には、当該保護命令を取り消さなければならない。同号に掲げる事項に係る保護命令が効力を生じた日から起算して三月が経過した場合において、当該保護命令を受けた者が申し立て、当該裁判所が当該保護命令の申立てをした者に異議がないことを確認したときも、同様とする。
2 第十五条第三項の規定は、前項の場合について準用する。
 (保護命令の再度の申立て)
第十八条 保護命令が発せられた場合には、当該保護命令の申立ての理由となった配偶者からの暴力と同一の事実を理由とする再度の申立ては、第十条第一号に掲げる事項に係る保護命令に限り、することができる。
2 再度の申立てをする場合においては、申立書には、当該申立てをする時における第十二条第一項第二号の事情に関する申立人の供述を記載した書面で公証人法第五十八条ノ二第一項の認証を受けたものを添付しなければならない。
 (事件の記録の閲覧等)
第十九条 保護命令に関する手続について、当事者は、裁判所書記官に対し、事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。ただし、相手方にあっては、保護命令の申立てに関し口頭弁論若しくは相手方を呼び出す審尋の期日の指定があり、又は相手方に対する保護命令の送達があるまでの間は、この限りでない。
 (法務事務官による宣誓認証)
第二十条 法務局若しくは地方法務局又はその支局の管轄区域内に公証人がいない場合又は公証人がその職務を行うことができない場合には、法務大臣は、当該法務局若しくは地方法務局又はその支局に勤務する法務事務官に第十二条第二項及び第十八条第二項の認証を行わせることができる。
 (民事訴訟法の準用)
第二十一条 この法律に特別の定めがある場合を除き、保護命令に関する手続に関しては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定を準用する。
 (最高裁判所規則)
第二十二条 この法律に定めるもののほか、保護命令に関する手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
   第五章 雑則
 (職務関係者による配慮等)
第二十三条 配偶者からの暴力に係る被害者の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない。
2 国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、被害者の人権、配偶者からの暴力の特性等に関する理解を深めるために必要な研修及び啓発を行うものとする。
 (教育及び啓発)
第二十四条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。この場合において、配偶者からの心身に有害な影響を及ぼす言動が、配偶者からの暴力と同様に許されないものであることについても理解を深めるよう配慮するものとする。
 (調査研究の推進等)
第二十五条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に資するため、加害者の更生のための指導の方法、被害者の心身の健康を回復させるための方法等に関する調査研究の推進並びに被害者の保護に係る人材の養成及び資質の向上に努めるものとする。
 (民間の団体に対する援助)
第二十六条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体に対し、必要な援助を行うよう努めるものとする。
 (都道府県及び市の支弁)
第二十七条 都道府県は、次の各号に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第三条第二項の規定に基づき同項に掲げる業務を行う婦人相談所の運営に要する費用(次号に掲げる費用を除く。)
二 第三条第二項第三号の規定に基づき婦人相談所が行う一時保護(同条第三項に規定する厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行う場合を含む。)に要する費用
三 第四条の規定に基づき都道府県知事の委嘱する婦人相談員が行う業務に要する費用
四 第五条の規定に基づき都道府県が行う保護(市町村、社会福祉法人その他適当と認める者に委託して行う場合を含む。)及びこれに伴い必要な事務に要する費用
2 市は、第四条の規定に基づきその長の委嘱する婦人相談員が行う業務に要する費用を支弁しなければならない。
 (国の負担及び補助)
第二十八条 国は、政令の定めるところにより、都道府県が前条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第一号及び第二号に掲げるものについては、その十分の五を負担するものとする。
2 国は、予算の範囲内において、次の各号に掲げる費用の十分の五以内を補助することができる。
一 都道府県が前条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第三号及び第四号に掲げるもの
二 市が前条第二項の規定により支弁した費用
   第六章 罰則
第二十九条 保護命令に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第三十条 第十二条第一項の規定により記載すべき事項について虚偽の記載のある申立書により保護命令の申立てをした者は、十万円以下の過料に処する。
   附則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。ただし、第二章、第六条(配偶者暴力相談支援センターに係る部分に限る。)、第七条、第九条(配偶者暴力相談支援センターに係る部分に限る。)、第二十七条及び第二十八条の規定は、平成十四年四月一日から施行する。
 (経過措置)
第二条 平成十四年三月三十一日までに婦人相談所に対し被害者が配偶者からの暴力に関して相談し、又は援助若しくは保護を求めた場合における当該被害者からの申立てに係る保護命令事件に関する第十二条第一項第三号並びに第十四条第二項及び第三項の規定の適用については、これらの規定中「配偶者暴力相談支援センター」とあるのは、「婦人相談所」とする。
 (検討)
第三条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
 (民事訴訟費用等に関する法律の一部改正)
第四条 民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)の一部を次のように改正する。
  別表第一の一六の項中「非訟事件手続法の規定により裁判を求める申立て」の下に「、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成十三年法律三十一号)第十条の規定による申立て」を加え、同表の一七の項ホ中「第二十七条第八項の規定による申立て」の下に「、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律第十六条第三項若しくは第十七条第一項の規定による申立て」を加える。

四 参議院本会議における趣旨説明(平成十三年四月四日)

 ただいま議題となりました配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案につきまして、共生社会に関する調査会を代表いたしまして、その提案の趣旨及び主な内容について御説明申し上げます。

 本法律案は、三年間にわたって本調査会が進めてまいりました「男女等共生社会の構築に向けて」のテーマのうち「女性に対する暴力」について、各会派の調査会メンバーを主たる構成員とするプロジェクトチームで立法化に向けて協議を重ねた結果を踏まえ、四月二日、各会派の総意をもちまして起草、提出したものであります。

 今日、我が国を取り巻く社会的環境は大きく変化しておりますが、とりわけ男女が互いにその存在を認め合い、共生していく男女共同参画社会の構築はまさに二十一世紀の最重要課題であります。

 日本国憲法には個人の尊重と法の下の平等が規定されておりますが、社会においてはなお女性の人権が軽視されるという実態が存在しており、その一つが女性に対する暴力であります。

 女性に対する暴力については、平成十二年十二月に策定された男女共同参画基本計画において、新たな法制度や方策などを含め、幅広い検討が求められております。

 また、昨年六月にニューヨークで行われた女性二〇〇〇年会議では、各国がとるべき行動として、夫やパートナーからの暴力であるドメスティック・バイオレンスに対処するための法的措置が求められております。

 特に、女性に対する暴力のうち、ドメスティック・バイオレンスは、犯罪となる行為であるにもかかわらず、外部から発見しにくく、被害者である多くの女性が暴力を忍受せざるを得ない状況にあります。

 本法律案は、このようなドメスティック・バイオレンスの状況を改善し、人権の擁護と男女平等の実現を図るため、配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者を保護するための施策を講じようとするものであります。

 次に、本法律案の主な内容について御説明申し上げます。

 第一は、前文についてであります。

 この法律案におきましては、特に前文を設け、本法制定の趣旨を明らかにしております。

 第二は、国及び地方公共団体の責務について定めております。

 第三は、配偶者暴力相談支援センターについてであります。

 都道府県は、婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとしております。同センターでは、被害者に対し、相談、カウンセリング、一時保護等を行うものとしております。

 第四は、被害者の保護についてであります。

 配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めるものとし、医師その他の医療関係者については別途守秘義務が課されていることから、配偶者からの暴力による傷病者を発見した場合には、被害者本人の意思を尊重しつつ通報できるものとしております。

 第五は、保護命令についてであります。

 被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、当該配偶者に対し、六か月間の被害者への接近禁止又は二週間の住居からの退去の一方又は両方を命ずるものとしております。

 その申立ては、一定の事項を記載した申立書を、被害者又は配偶者の住所等を管轄する地方裁判所に提出して行い、裁判所は、申立てがあった場合には速やかに裁判をするものとしております。保護命令に違反した者は一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処するものとしております。

 これらのほか、国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体に対する必要な援助、加害者に対する更生指導の方法等に関しての調査研究の推進等に努めるとともに、職務関係者に対し、被害者の人権、配偶者からの暴力の特性等に関する理解を深めるために必要な研修等を行うこととしております。

 なお、本法律につきましては、法施行後三年を目途にその施行状況等を勘案し、検討する旨の規定を設けております。

 以上が、この法律案の提案の趣旨及び主な内容でございます。

 何とぞ、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。

五 衆議院法務委員会における審査(平成十三年四月六日)

 石井道子会長から法律案の提案理由の説明の後、南野知惠子君、福島瑞穂君、林紀子君、小宮山洋子君及び大森礼子君並びに政府参考人及び最高裁判所当局が質疑に対する答弁を行い、採決の結果、全会一致をもって可決された。

 主な質疑の概要は次のとおりである。

1 総論

(1) 内閣府は、法律の運用に当たって総合調整を行うとともに、配偶者からの暴力の防止の研究、検討については、関係省庁との調整の下で中心になってこれを行う。

(2) 刑法上の傷害罪に含まれるPTSD(心的外傷後ストレス傷害)を受けた場合には「配偶者からの暴力」に当たる。

2 配偶者暴力相談支援センター

(1) 「婦人相談所その他の適切な施設」としては、男女共同参画社会の形成の促進を目的とする事業を行うために各都道府県が設置しているいわゆる「女性センター」等が考えられる。

(2) 配偶者暴力相談支援センターが二十四時間対応するかについては、各都道府県の運用次第であるが、二十四時間対応が望ましいと考えており、都道府県に対し、周知徹底されるものと期待している。

(3) 本法において、センターの保護の対象者について、国籍要件はなく外国人も対象となる。また、現在の婦人相談所においては、外国人婦女子のうち、出入国管理及び難民認定法の違反者について、事前に入国管理局に連絡した上、放置すると危害が加えられるおそれがあり、また、他に適当な援助施設が存在しないときは、入国管理局への送致までの間、一時的に保護している。

3 保護命令

(1) ストーカー行為等の規制等に関する法律があるにもかかわらず、保護命令制度を創設する理由は、家庭内で配偶者という特段の関係にある者から振るわれる暴力である上、配偶者からの暴力は、被害者と加害者が生活の本拠を共にしていることが多く、ストーカー行為等の規制等に関する法律の禁止命令とは異なり、場合によっては、加害者をその住居から退去させることを内容とする退去命令を発する必要があることである。

(2) 裁判所は、保護命令として、「六月間のつきまとい又ははいかいの禁止」及び「二週間の住居からの退去」を、併せて命ずることができる。

(3) 保護命令の申立書に宣誓供述書の添付を必要とする理由は、被害者が配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に保護等を求めた事実がない場合、客観的、定型的な信用力のある証拠であることが制度上担保されている宣誓供述書を、添付すべきこととして、迅速な保護命令を発することを可能とする条件を整えることとした。

(4) 「速やかに裁判をする」こととしたのは、裁判所は、保護命令事件では、被害者の保護のためできるだけ迅速に保護命令を発しなければならない場合が多いからである。
 また、保護命令を発するまでの期間は、相手方の対応振り等の問題もあり、事件により区々であるが、申立てのときに必要な資料等が提出され、また、相手方への期日の呼出等が円滑に行われるような場合であれば、可及的速やかに発せられることを期待している。

(5) 公証人役場における宣誓供述書の手数料は、手数料を支払う資力のない被害者については、その証明を受けると支払いの全部又は一部を猶予する制度が活用できる。

(6) 保護命令の申立ては、口頭又はファクシミリによりすることはできない。

4 雑則

(1) 法第二十三条において、職務関係者は、被害者の人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならないこととしたのは、被害者が配偶者からの暴力により、心身ともに傷ついており、保護、捜査、裁判等の過程における職務関係者の言動で、更に傷つくことがあること及びこれらの過程で、加害者から報復される危険性が指摘されていることによる。

(2) 配偶者からの暴力の問題は、公的機関と民間団体とが緊密に連携を取りながら、被害者の多様な要望に応えていくことが望ましい。こうした重要な役割を担っている民間団体に対しては、公的な援助を行うことが必要であると考える。

(3) この法律において必要とされる費用に対する国の補助金は、売春防止法上の補助金とともに、将来減額されることのない制度的補助金とすることとする。

六 今後の課題

 本法律は、平成十三年十月十三日に施行される(配偶者暴力相談支援センター等に係る規定は平成十四年四月一日)が、今後の課題として、円滑な施行のため、職務関係者に対する研修・教育体制の整備、配偶者暴力相談支援センターにおける被害者が自立して生活するための支援策の検討及びセンターの機能強化、配偶者暴力相談支援センター又は警察における申立書の書面の定式化等を検討する必要がある。

 また、三年後の見直しに向けての検討課題として、保護命令の申立てにおける公証人の宣誓供述書の在り方、被害者のみならず子ども等の被害家族への接近を禁止することの必要性、加害者更生のための指導の方法に関する調査推進の具体的内容、民間団体に対する援助の在り方等があるが、これらの課題の解決のためには関係する府省庁及び男女共同参画会議での十分な検討が望まれる。

第III 調査会の調査の概要

一 女性の自立のための環境整備

1 生涯にわたる女性の健康支援

イ 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 平成十二年十一月一日、女性の自立のための環境整備に関する件のうち、生涯にわたる女性の健康支援について、それぞれ参考人から意見を聴取し、意見交換を行った。その概要は、次のとおりである。

社団法人日本家族計画連盟事務局次長  芦野 由利子 氏

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツは一九九四年にカイロで行われた国際人口・開発会議で提唱され、翌年北京で行われた第四回世界女性会議で重要な女性の人権の一つであると確認された。これは一般に性と生殖に関する健康及び性と生殖に関する権利と訳されるが、性に関すること、産む、産まないに関することを人口政策や道徳ではなく、女性の健康と権利という視点からとらえようとする考え方である。

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツは男女双方にかかわりのあることであるが、女性にとっての重要性はより大きい。その理由は以下の二つである。

 妊娠、出産あるいは中絶するのは女性だけであり、国連の統計によれば世界で妊娠、出産が原因で年間五十八万人の女性が死亡している。また、社会的、文化的につくられた性差、すなわちジェンダーによって女性が社会的弱者、男性が強者であるとの力関係が構造的に社会に組み込まれており、例えば女性の賃金が男性の六割しかないということもその例として挙げられる。

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、出産とその調整手段である避妊や中絶、月経や子宮がんのような女性特有の身体の変化や疾病、不妊や思春期の問題、長寿による老年期の性と健康の問題、性にかかわる問題としては性感染症やエイズ、性暴力、買売春なども含まれる概念である。

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障するため、(1)省庁の再編成に当たってリプロダクティブ・ヘルス/ライツの担当部局を設置すること、(2)不妊相談だけでなく避妊相談事業についても予算面の拡大を行うこと、(3)保健・医療従事者等専門家の養成カリキュラムを見直すこと、(4)避妊具、避妊薬及び中絶手術に健康保険を適用すること、(5)堕胎罪と母体保護法という二重構造の中絶に関する法制度を廃止し、新たに女性の自己決定権を尊重した法律を制定することの五項目について、提言したい。

津田塾大学学芸学部国際関係学科教授  金城 清子 氏

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツは国際社会の中で人権として認められているが、我が国の法制を見るとこれと相反するものがいくつもあり、法律の改正ないし新しい法律の制定が必要と思われるので指摘したい。

 第一に、一年以下の懲役を伴う自己堕胎罪を廃止すべきである。これは国際的に見ても我が国の責務と言えるものである。

 第二に、避妊と中絶に関する新たな法律の制定が必要である。現行の母体保護法は母体の保護だけを強調しており、生涯にわたる健康を支援していく必要性から考えれば極めて限定的である。新法案にはまず、望まない妊娠の予防に関する規定を設け、学校教育、社会教育を通じて避妊に関する情報の正しい提供を行うことが必要である。次に、人工妊娠中絶の合法化である。これはあくまでも胎児が母体外で生存できない期間を基準として十週までは女性の請求で認めるとともに十一週から二十二週までは母体の精神的、肉体的健康を害する場合にのみ認めることが適当である。また、夫の同意については国際的な動向からしても削除するのが妥当である。なお、不妊手術に関する規定も削除する必要があると思われる。

 第三に、不妊治療に関する法律の制定が必要であると考える。生殖医療が可能になってくる中で、少子化という傾向もあいまって不妊の夫婦に対して子どもを産めという圧力が強まってくることが考えられる。そこでこの法律により、不妊治療を受ける女性やカップルの自己決定権をきちんと保障していく仕組みをつくることが重要である。また、クローン技術の規制という意味で不妊治療を実施する医療機関はこの法律により許可制にする必要があると考える。

千葉大学看護学部母子看護学講座教授  森 恵美 氏

 現在の我が国におけるリプロダクティブ・ヘルス/ライツの課題として、四つ挙げることができる。

 第一に、望まない妊娠が多く、十代ではそれが非常に増えているということである。望まない妊娠の割合は諸外国に比べて非常に高く、その結果、妊娠した人の四分の一は中絶に至っている。女性の望んだ妊娠は三分の一にすぎない。

 第二に、不妊夫婦が増加していることである。不妊原因となる性感染症、ストレスによる機能障害、拒食症による月経障害等が増加し、これらが不妊の原因となっている。また、我が国では女性が子どもを産んで当たり前という社会風潮があるが、このために不妊夫婦は生殖医療に頼って不妊治療をするケースが増えていくことが考えられる。

 第三に、子を産み、育てることの困難性の増大である。高齢出産が増えているほか、生殖補助医療技術の発達による多胎妊娠のため低出生体重児の出産が増えており、妊産婦、赤ちゃんとも濃密な医療とケアを必要とする場合が多くなっている。

 第四にリプロダクティブ・ヘルスの健康障害の拡大と連鎖である。性感染症の増加のほか、薬物やアルコールなどによる先天異常の増加が危惧される。女性の健康という面では、乳がん等の婦人病が増加しているほか、骨粗鬆症によって骨折しやすくなり、寝たきりの状態になったときには健やかな老後は望みにくくなる。

 こうしたことからリプロダクティブ・ヘルス・ケアが十分に準備され、機能することが重要である。ヘルス・ケアの課題としては、まず、生涯を通じた全人格的かつ系統的な性教育の場の必要性が挙げられる。すなわち、避妊法の正確な情報が必ずしも提供されておらず、自分にとって必要な情報を取捨選択して活用することが重要である。また、学校教育の中で全人教育、命の教育、性教育が系統的に行われる必要がある。さらに、各世代、各年代の女性にとってリプロダクティブ・ヘルスに関連したトータルな健診、健康教育機能を中心にしたケアの場が必要である。このために、女性の生涯にわたっての健康を診てくれるホームドクターの存在などが必要である。

 また、リプロダクティブ・ヘルス・ケアを行う助産婦などの専門家が不足しており、これらの専門家を増やしていくための対策が必要である。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1) 我が国では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの意味するところは、妊娠、出産、母性保護という域から出ておらず、女性の生涯にわたる問題でありかつ男性とは無関係ではないことを積極的に啓蒙していくことが必要である。

(2) リプロダクティブ・ヘルス/ライツを守るために、リプロ教育を行う者の養成が重要な課題である。

(3) 妊娠については、学校教育以外にもあらゆる方法で望まない妊娠を防ぐための情報提供を行うべきである。

(4) 現在でも具体的に性教育に取り組んでいる学校が見られるが、こうした学校における実践的な性教育は、今後は極めて重要である。

(5) 子どもを産みたくても産めない夫婦のために、生殖医療を更に進める必要がある。

(6) 不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、不妊治療に対する医療保険の適用あるいは医療費控除制度の創設が必要である。

(7) 不妊相談においても、女性の自己決定権を基本とし、子どもを持たないで生きることも選択肢とし得るような、柔軟なカウンセリングを行っていく必要がある。

(8) 男性の方から産んでほしいという要望がある場合、女性の権利のほかに男性の権利も保障する対策が望まれる。

(9) 刑法の堕胎罪と母体保護法を廃止し、女性の健康と権利を守るために避妊・中絶等を規定した新しい法律を制定する必要がある。

(10) 人工妊娠中絶を減らしていくために行政の責任が重要である。例えば、今後十年間に中絶を二分の一に減らすという目標が掲げられているが、女性の自己決定権を重視しつつ、男性も視野に入れてその目標を達成していくことが必要である。

(11) 多くの中絶が行われる理由は、男性と女性が本当に平等な関係になっていないからだと考えられる。このため、男女の対等な人間関係をつくっていくことが非常に大切である。

(12) 少子化対策は基本的には人口政策であり、リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは別の問題である。また、男女共同参画審議会の報告書もリプロダクティブ・ライツのところがトーンダウンしている。

(13) 平成十二年六月にILOは母性保護条約・勧告を拡充し、すべての雇用されている女性への産前産後休暇の適用、休暇中の所得保障の充実、休暇の長期化等を求めている。我が国でもこうした国際条約の実行が必要である。

(14) カイロ会議から六年たつが、その成果が我が国の場合は行政のシステムや政策、法律に十分に反映されないできてしまった。このため、今後は国際的な合意が国内政策に反映されるよう努力すべきである。

ロ 政府からの説明聴取及び主な質疑

 平成十二年十一月八日、女性の自立のための環境整備に関する件のうち、生涯にわたる女性の健康支援について、中原総理府政務次官、松村文部政務次官、福島厚生政務次官及び政府参考人から説明を聴取し、質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

総理府

 生涯にわたる女性の健康支援については、昭和五十二年一月に「婦人問題企画推進本部」が決定した「国内行動計画」の中で、「母性の尊重及び健康の擁護」として位置付けられた。平成八年十二月に「男女共同参画推進本部」が策定した「男女共同参画二〇〇〇年プラン」は、「第四回世界女性会議」の成果を踏まえ、それまでの「母性保護対策」中心から、「生涯を通じた女性の健康支援」という施策に変化している。また、基本的方向として、(1)リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識の浸透、(2)生涯を通じた女性の健康の保持増進対策の推進、(3)女性の健康を脅かす問題についての対策の推進を掲げ、それぞれに対応した具体的施策を盛り込んでいる。現在、政府はこのプランに沿って総合的な施策の推進を行っている。

 平成十二年六月にニューヨークで開催された国連特別総会「女性二〇〇〇年会議」において、「政治宣言」と「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ」いわゆる「成果文書」が採択された。成果文書では、健康に関する取組として、HIV/エイズその他疾病を含む健康上の問題へのジェンダー視点に立った政策の実施及び患者の差別からの保護、思春期女性に対する健康教育や情報提供・サービス等の必要性等が強調された。

 平成十二年九月に提出された、男女共同参画審議会答申は、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの今後の取組」の中で、生涯にわたる女性の健康支援について提言している。同答申は、女性の健康を支援するための総合的な対策の推進等を図る必要性を指摘するとともに、具体的な取組として、(1)性教育や健康教育の一層の充実、(2)摂食障害、喫煙等による生殖障害等の健康被害に関する正確な情報提供、(3)不妊に関する多面的な相談体制の整備、(4)HIV/エイズや性感染症対策の推進、(5)女性が主体的に避妊するための支援策等十一項目を提言している。

 政府は、生涯にわたる女性の健康支援という課題の重要性を考慮しつつ、平成十二年中に「男女共同参画基本計画」を策定し、それに基づき施策の推進を進めることとしている。

文部省

 学校における性教育については、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点に立ち、児童生徒の発達段階に応じた性に関する科学的知識や、生命尊重・人間尊重・男女平等の精神に基づく異性観、自ら考え判断する意思決定の能力を身に付け、望ましい行動をとれるようにするため、学校教育活動全体を通じて指導することとしている。

 学校における喫煙・飲酒・薬物乱用防止教育等その他の健康教育については、児童生徒が健康の大切さを認識できるようにするとともに、生涯を通じ自らの健康を適切に管理し改善していく資質や能力の基礎を培い、実践力を育成することを目的として、学校教育活動全体を通じて指導することとしている。

 社会教育においては、性や健康に関する学習機会の充実を図るとともに、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する知識の普及に努めている。特に婦人教育施策としては、女性団体・グループが男女共同参画の視点から地域社会づくりに参画し、女性のエンパワーメントに資する事業を行っているが、その中でリプロダクティブ・ヘルス/ライツについても事業テーマとしている。また、国立婦人教育会館において、婦人教育、家庭教育に関する各種の研修、交流、調査研究、情報事業を実施し、女性に対する各種の学習機会の充実等に努めている。

 家庭における教育を支援するため、家庭教育手帳・家庭教育ノートを作成し、乳幼児や小中学生を持つ親に配布しているが、この中で薬物乱用や援助交際の違法性、危険性について紹介するなど、家庭における性教育、健康教育の重要性を親に訴えている。

 地方公共団体における取組を支援するため、女性に対する高度な学習機会を提供するためのウイメンズライフロングカレッジを開設し、性に関する学習等を実施している。また、市町村における地域社会教育活動総合事業においても、女性の生活上の課題や女性問題学習などを行う婦人学級を開設して、性や健康に関する学習機会の提供に努めている。

厚生省

 女性特有の健康上の問題の重要性について、男性を含め広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組が行われるよう気運の醸成を図る必要があることから、平成十二年三月、生活習慣の改善及び健康づくりに必要な環境整備の推進を目的とした、「健康日本21」を策定した。この一環として、女性の健康問題への取組を含めた二十一世紀に向けた母子保健の国民運動計画「健やか親子21」の検討を進めている。同計画においては、妊娠、出産に関する安全性と快適さの確保が主要な柱の一つになっている。

 また、「生涯にわたる女性の健康支援事業」として、保健所等において保健婦等による健康教室等の開催により、地域に住む女性に対し生涯を通じた健康の自己管理教育、不妊に悩む夫婦に対する医学的な相談の実施や不妊治療の実施状況に関しての情報提供などを行っている。

 医師、保健婦、助産婦及び保健所等の母子保健を担当する職員に対しては、従来からリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研修等を行う母子保健要員研修等事業を実施しているが、平成十二年度から、保健、福祉、医療等の総合的な視点に立ち、保健所に勤務する保健婦、助産婦を対象に母子保健事業やリプロダクティブ・ヘルス/ライツ等のより専門的、技術的研修に取り組んでいる。

 妊娠、出産の安全性や快適さを確保するための母子保健医療施策としては、小児医療、母性医療、父性医療に関する高度な医療を行うとともに、周産期、小児期、成人期と一環した最先端の医療を行う国立成育医療センターを平成十三年度に開院し、当該センターを中心とした成育医療の機能を有する国立病院・療養所による全国的な成育医療ネットワークの構築を考えている。また、地域において救急医療を必要とする未熟児等に対応するため、一般の産科院などから高度な医療機関に母胎や出生児を搬送し、適切な医療を提供する周産期医療ネットワークの整備を考えている。

 女性の主体的な避妊に関しては、低容量ピルや女性用コンドームの承認、思春期の男女を対象として性や避妊に関する知識の普及や人工妊娠中絶の影響などについての相談・指導を行う健全母性育成事業の実施、性教育や避妊、人工妊娠中絶の影響などについて保健所の保健婦や受胎調節実地指導員等による指導や情報提供などの施策を実施している。

労働省

 女性の職場進出が進み、妊娠中又は出産後も働き続ける女性が増加している中で、職場において女性が母性を尊重され、働きながら安心して子どもを産むことができる条件の整備は重要な課題となっている。このため、労働基準法では、産前産後休暇等女性労働者の妊娠、出産に関する最低基準を定めている。また、男女雇用機会均等法では、医師等の指導に基づいて母性健康管理の措置を講じること等事業主の措置義務が規定されている。特に均等法の改正において、従来、事業主の努力義務であった母性健康管理に関する規定が強化され、保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保と指導事項を守ることができるようにするための措置が定められた。事業主が講ずべき措置に関して具体的指針が定められ、その中で、女性労働者が医師から受けた指導を的確に事業主に伝えることができるように、「母性健康管理指導事項連絡カード」の様式が定められた。

 具体的対策としては、「母性健康管理指導事項連絡カード」については、厚生省と連携しつつ、各都道府県労働局雇用均等室、市町村母子保健担当窓口等において周知を図るとともに、活用方法に係るマニュアルを作成し、労使、医療機関等に配布しており、八七%の女性がカードの指示内容どおりの措置を実施されたと評価している。

 さらに、事業主に対する均等法の集団説明会を開催するとともに、法律及び指針に基づいた措置を講じていない事業主等に対する指導等を実施している。あわせて、企業における母性健康管理体制の整備に対する支援を行い、事業所内の母性健康管理に携わる産業医、看護婦等に対する研修の実施、妊産婦が働きやすい職場環境づくり等を職務とする機会均等推進責任者に対する情報提供等も行っている。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 中絶については胎児という一個の生命体が既に存在しているために、一部の識者の言うような完全な形の中絶を認めることにはためらいを感じる。女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツは無制限に認められるべきではなく他の権利や利益との調和の下に認められるべきである。

(2) 胎児は民法上、相続、遺贈、損害賠償請求の三つについて権利能力を認められている。女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点から、堕胎罪を廃止し、母体保護法の見直しを行った場合、胎児の生命のみならず、民法が胎児に認めた正当な権利を侵害する結果となる。

(3) 中絶における配偶者の同意の削除論については、男性側の権利と利益にも配慮が必要となる。

(4) 学校における性教育の中で人工妊娠中絶については、暴力行為や売買春などと並列に扱うのではなく、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点から教えるべきである。

(5) 学校及び学校以外の場における、女性の自己決定権などを含めた性に関する問題について、専門家への相談体制を量的・質的に充実するとともに、その周知を図るべきである。

(6) 学校における性教育については、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点からは不十分である。性の多様化、多様性の問題に関して、ホモセクシュアルや性同一性障害についても差別や偏見を持たないような教育が必要である。

(7) 乳がんの早期発見・早期治療に有効なマンモグラフィーによる検診体制の確立及び乳がん摘出後の女性の精神的・肉体的ストレスの解消策の充実が必要である。

(8) 妊産婦の健診について三回目以降についても何らかの財政的支援措置が必要である。また、乳幼児の一歳半及び三歳の健診や予防接種の際の親の休暇に対して何らかの支援を検討すべきである。

(9) 女性の体の不調は婦人科系器官で起こりやすいので、女性特有の病気についても企業の健康診断等に位置付ける必要がある。

(10) 中小零細企業の事業主あるいは家族として働く女性の健康問題は、極めて深刻となっており、関係省庁で連携して対策に取り組む必要がある。

(11) 母性健康管理指導事項連絡カードは良い制度であるが、事業主及び労働者に対する男女雇用機会均等法の周知徹底とともに、経営者の女性労働に対する意識改革についても推進すべきである。

(12) リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは女性が産む産まないについて自身で判断し、またそれについて最高の健康を享受する権利を持つことである。この点に関し、我が国においては中絶に関して対立があるため、自己決定のところでとどまっており、公共的なヘルス・ケアの部分が軽視されていることは問題である。

ハ 調査会委員間の自由討議

 参考人からの意見及び政府からの説明聴取を踏まえ、女性の自立のための環境整備に関する件のうち、生涯にわたる女性の健康支援について最終報告に向けての意見を整理するため、平成十二年十一月十五日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(1) リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、一九九四年の国際人口・開発会議において提唱され、女性が子どもを持つかどうか、又は何人出産するかということは、人口問題とは別に女性自身の健康上の個人的権利として確立されるべきものとされた。このためには男性の理解と協力が不可欠であり、女性を産む性としか見てこなかった社会の意識や男性の生活スタイルを変える必要がある。

(2) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの確立のためには不妊相談事業の人材確保と医療保険の適用、不妊治療への保険適用と親子関係確定のための法整備、児童手当の拡充等による安心して子どもを産み育てられる環境の整備、性教育及び女性特有の疾病対策の充実が必要である。

(3) 少子化は日本社会にとって大きな課題であるが、出産を女性自身の固有の健康上の権利としてとらえ、働きながら子どもを産み育てる環境や女性の生涯にわたる健康を支援する体制の構築のため、人材の確保、不妊治療の経済的支援などが必要である。

(4) 女性は妊娠、出産及びその準備という性差があることを男性は常に考慮しなければならない。最終的に産む産まないを女性が決定する権利を確立するために、女性にだけ責任を負わせる堕胎罪の早急な見直しとともに、女性が安心して子どもを産み育てる環境をつくることが必要である。そのためには保育所の充実や小中高の性教育や健康教育を専門家を含めた体制で充実させていくことが求められている。

(5) 自己堕胎罪については他の法律で守られていない胎児の生命が保護法益となっている。したがって、堕胎罪すべてを削除するときは胎児の生命は保護法益として認めないということを確定させる必要がある。また、自己堕胎罪のみを削除するときは、不同意堕胎罪において胎児の生命を保護法益として認めることになり、胎児の生命は母親に処分権があることを宣言することになる。この点に決着をつけなければ、堕胎罪の廃止の議論は先に進めないと考える。

(6) 女性にだけ罪を与える堕胎罪は廃止し、母体保護法を見直すとともに、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを守る新しい法律をつくるべきである。また、自己決定するためには情報や判断力がなければならないが、当該法律に情報提供、相談体制、教育なども含めていくことが必要である。

(7) 堕胎罪の存在によって妊娠中絶に対する罪悪感が生み出され、妊娠中絶の機会を失わせる原因となっている。したがって、男女平等という観点からも刑法を改正すべきである。

(8) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの教育・研修は幅広い国民を対象とすべきである。特に性行動が若年化している現在、若い人が正確な情報を得ることができる体制の構築が必要である。

(9) 社会における性に関する間違った情報の洪水に対応するため、性の問題を心と体の問題として幅広く教えていく必要があり、そのためには養護教諭の体制整備が必要である。

(10) 有害図書のはんらんは問題であるが、現代の子どもはそのような刺激に対して強いと考えている。性行為は愛が基本であり、その愛の延長上に出産があるということを基本にした教育を行う必要がある。

(11) リプロダクティブ・ヘルス/ライツと関連した重要な概念として、セクシュアルライツがあるが、これは人間が持っている生まれながらの自由、尊厳、平等に基づく普遍的な人権であり、モラルだけで考えるべきではない。したがって、愛の延長上に出産があるということだけではなく、もっと幅の広い自由な性的関係の権利として性を教育していく必要がある。

(12) 女性の自己決定権の理解を深めるためには、学校以外での教育も重要である。さらに、雇用主に対する政府の指導と法律による女性だけでなく男性をも含めた労働時間の短縮が必要である。

(13) 避妊、不妊及び中絶の相談・情報窓口を増設するとともに、女性の自己決定権を基本とした両性の平等な関係を構築するため、社会教育、情報メディアの自主規制の徹底等が必要である。刑法の堕胎罪は廃止されるべきであり、またILO母性保護条約は早期に批准すべきである。

(14) 我が国においては、女性が一生を通じて健康に過ごすという権利が一貫して保障されていない。行政がこのような観点での対応をしていないことが、女性の健康や子どもを産む意欲を損なっている。

(15) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの精神が政府の予算配分に生かされていない。母性の保護を前提にして、長時間労働や深夜労働規制を強化し、働く女性の母性と健康を守ることが大事である。また、更年期以降の健康支援も大事な課題である。

(16) 我が国の政策は、性教育から更年期まで全体的に見た女性の健康支援という視点がなく、母子保健や不妊治療という部分的なものにとどまっている。

(17) 女性の方が長生きであるし、医学的にはリプロダクションの能力がなくなれば男女の差は小さくなるので、女性の高齢期だけ特別に面倒を見るというのは合理的ではないと考える。

2 女性の経済・社会的自立支援

イ 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 平成十三年二月十四日、二月二十一日及び四月二日、女性の自立のための環境整備に関する件のうち、女性の経済・社会的自立支援について、それぞれ参考人から意見を聴取し、意見交換を行った。その概要は、次のとおりである。

(平成十三年二月十四日)
日本女子大学人間社会学部教授  大沢 真知子 氏

 キャリア形成の特徴を国際的に比較してみると、アメリカでは、一九九八年には一歳未満の子どもを持つ女性の五九%が働いており、一九七六年の約二倍となっている。我が国では、大学卒の女性がキャリアを積み上げているが、出産による退職が多く、大学卒の女性の再就職の割合は高校卒の女性より低い。

 我が国において雇用就業している女性の割合は、結婚前が八八%、結婚後が五八%であり、結婚による退職はそれほど一般的ではないが、第一子出産後は二三%となり、第二子、第三子出産により更に低下していく。

 我が国の大学卒の女性の継続就労や再就職が少ない理由としては、保育所の数が少ないことや労働時間の長いことが挙げられる。また、我が国の労働環境が専業主婦の存在を前提としており、子どもを育てながら働く女性は職場と家庭で二重に働かなければならないということもある。

 我が国では、報酬は高いが時間の柔軟性のない仕事と、時間の柔軟性はあるが報酬の低い仕事の二種類しかない。時間の柔軟度がありかつ正社員と同じ待遇の仕事が生み出されていけば、高学歴女性の能力を活用できるのであり、このような仕事を生み出す仕組みについて検討すべきである。

 国際的に見て、我が国の女性のパートの賃金は非常に低く、パートタイム労働者は安い労働力としてしか使われておらず、その能力が開発されていない。パートの賃金の上昇を抑制している税制・社会保障制度などを見直すことが望まれる。

 このほか、ファミリー・フレンドリーな制度を導入している企業への助成や、父親の育児休業取得を進める政策を検討すべきである。

日本経営者団体連盟常務理事  矢野 弘典 氏

 女性を積極的に活用するためには、まず社会全体での男女共同参画社会の理念の徹底と実践が求められ、社会全体での意識改革、意識高揚が必要となる。企業においては、経営トップ層から管理職層、一般職層まですべての層での意識改革が必要である。

 女性が活躍するためには、仕事と家庭生活の両立支援が不可欠となる。両立支援については、第一に、保育サービスの拡充を急ぐことであり、延長保育、一時保育等、利用ニーズに対応したサービスの提供や保育所設置基準の緩和などが必要であると考える。第二に、職場における取組が求められ、企業は働き方の多様な選択肢を増やしていかなければならない。

 日経連は、平成十年の「少子化問題についての提言」の中で、人材確保と活用のために企業が考えていくべきこととして、出産退職を少なくするための雇用環境の整備、男性の家事・育児参加に資する勤務・処遇形態の見直し、異動・転勤制度の運用に際しての家庭事情への配慮を挙げている。このような対策が、M字型と呼ばれる女性の働き方の改善につながると考える。

 税制については、女性の就労機会の拡大を促す方向への改革が必要であり、社会保障制度も含めた多様な検討が必要になる。

 年功ではなく業務遂行に応じて評価する成果主義と業務遂行の手段や時間配分を労働者にゆだねる裁量労働制が浸透すれば、企業における女性の活用が進むと考える。

株式会社ベネッセコーポレーション人財組織部人事サービス課セクションチーフ  北川 美千代 氏

 ベネッセコーポレーションは、平成十一年度「ファミリー・フレンドリー」企業表彰において労働大臣優良賞を受賞したが、これは、育児休業・介護休業等の制度が単にあるだけでなく、これら制度の利用者が多く、管理職や男性も利用した実績があったことによる。

 従業員の六割が女性であるが、雇用政策上、女性優遇の特別な対応をとっているわけではない。当社では、良い人材を獲得するため男女均等待遇で男女を分けずに採用を行った結果、大卒女性が多く入社することとなったが、以前は、結婚・出産により、入社して三年から五年で退職する社員が多かった。しかし、入社して三年目以降の女性は貴重な戦力であるので、結婚・出産後も仕事を続けるための制度として、昭和六十一年から再雇用制度を開始し、その後、育児休職制度の充実を進めている。現在では、出産を理由とする退職の事例はほとんどなくなった。

 人事制度の基本的考え方として、性差よりも個人差を重視し、成果主義を採用している。育児や介護というライフサイクル上の一時的な生活と仕事の両立困難には、積極的に支援するという考え方をとっており、育児・介護の休職・時短制度を拡充してきている。

 現在、女性社員の一割程度が育児中であり、復職後のキャリアアップをどのように考えていくかということ、仕事をどのように自分で深めていくかということが課題となっている。また、当初はゼロ歳児保育の要望が多かったが、現在は学童保育に対するニーズが高くなっており、子どもの成長に合わせた配慮が必要になっていく。今後は介護も課題となると思われる。

 両立を支援する環境的な部分で求められるのは、まず託児所であり、以前と比べると充足してきてはいるが自治体によって差が非常に大きい。また、育児と仕事を両立させるためには夫の理解と協力が必要であり、男性の育児参画・家庭参画がポイントになってくる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1) これからの女性のキャリア形成の在り方としては、女性自身が自由に選択していき、その選択に責任を持って生きる社会を想起する。そのためには、女性の再就職の機会を開くべきである。

(2) 女性の雇用機会を増やすためには、雇用され得る能力(エンプロイヤビリティ)を高めていく必要があり、そこでは企業が大きな役割を果たすべきである。

(3) 出産後復帰した女性の仕事を評価するに当たって、復職後すぐの段階での勤務が不安定なことや、成果がなかなか発揮できないことを追及することは、不利益な取扱いに当たると考えられる。

(4) 企業が、仕事と家庭を両立するための支援制度を導入することは、顧客である女性への認知度を高め、商品ブランドのイメージアップにつながる。

(5) 男女雇用機会均等の理念の浸透は、中小企業では難しい面があると思われるが、政府、地方公共団体、関連団体等が周知、PRを図っていくことが重要である。

(6) 時間の柔軟度が高い仕事を管理職に導入するのはなかなか難しいが、各個人の仕事内容や責任度が明確になれば、ワークシェアリングのような考え方を導入することも可能になっていく。

(7) オランダでは時間差差別禁止法が成立しているが、我が国でも正社員か否かにかかわらず同じ職務に同じ賃金が支払われる労働市場がつくられれば、女性の働く選択肢が広がることになる。

(8) 子育て支援策として、三歳児健診等のために休暇面で配慮することも必要である。

(9) 男女賃金格差の是正のためには、正社員とパートタイム労働者との賃金格差の問題や、職場の中核への女性の進出が遅れている問題を解決していくことが必要となる。

(10) 男女とも労働者が仕事と家庭生活・個人生活を両立して享受できるためには、男性の長時間労働の慣行を是正する必要があり、企業に課せられる責務も大きい。

(11) ファミリー・フレンドリー企業は、我が国では女性の育児・介護を支援するものと受け止められているが、米国では優秀な人材を引き留めるためにファミリー・フレンドリーな企業であることを社会的にイメージ付ける必要があってその政策がとられている。

(12) 成果主義に基づく人事管理をとる場合、家庭責任を担っている労働者について考慮する必要があり、さらに、成果重視の考え方を核に置きつつ同一価値労働同一賃金の考え方をどう具体化できるか検討する必要もある。

(13) これからの社会は、雇用の柔軟化が機会の多様化につながると同時に、生活者である我々がそのメリットを享受できる仕組みを考えていくべきである。

(平成十三年二月二十一日)
中京大学経済学部教授  都村 敦子 氏

 女性が経済・社会に十分参加することを阻害する主たる要因の第一は、税制・社会保障制度等における配偶者の位置付けである。我が国の税制、社会保障、配偶者手当の制度は、伝統的な男女の役割を前提とした世帯単位の考え方を取り入れている。妻が夫の被扶養者の範囲内で働く世帯を優遇しているため、女性の就労に対し抑制的に働き、またパートタイム労働者の処遇・労働条件の改善にも抑制的に働く。阻害要因の第二は、女性の職業と家庭の両立が困難であることである。女性有業者の離職理由は、二十五歳~三十四歳層では「育児のため」が約三割を占め、子育て後の再就職の障害としては七七%の者が「家庭との両立」を挙げている。阻害要因の第三は、社会における慣行及び男女の意識であり、男性優位の考え方や慣行が根強いこと、家庭や地域活動よりも職場を優先させる意識が強いこと等が、女性の自立を妨げている。

 女性の経済・社会的自立支援改革の方向としては、第一に、税制・社会保障制度における配偶者の取扱いを見直すことであり、世帯単位から個人単位へ組み替える必要がある。第二に、就労と育児・介護との両立支援を拡充することであり、具体的には、労働時間へのフレキシビリティの導入、育児休業・介護休業・家族看護休暇等の定着・普及促進、育児・介護サポート・システムの整備を図ることが求められる。第三に、子育て家庭・介護家庭に対する経済的支援の改革であり、支援策としては税制上の控除ではなく社会保障を通じた現金給付等が望ましい。第四に、男女共同参画の考え方を国民に広く浸透させることが必要である。

 高齢者への社会的支出の比率は、国際比較では我が国が最も高い。現役世代の労働市場の改善や所得の保障に、今後一層の努力を傾けるべきである。

お茶の水女子大学生活科学部助教授  永瀬 伸子 氏

 最近の女性の就業と子どもの養育の現状を見ると、若い世代で第一子出産後の専業主婦比率の上昇と、結婚遅延傾向が目立っており、都市部ほどそれが顕著である。育児休業の取得率は増えているものの、取得者総数は出産者全体の一割以下にすぎず、職場復帰しても大きなストレスに悩まされ、仕事と家庭の両立は三世代同居家庭でない限り困難な状況である。また、専業主婦中心の育児は、密室育児での過剰な保護や虐待、育児不安や閉塞感が指摘されている。

 いったん離職した女性はパートタイム労働者として雇用市場に復帰することが多いが、正社員との賃金・昇進ルートに大きな格差があることは問題である。また、保育所も都市部において不足している。

 出産・子どもの養育と就業とを国がどのように社会保障の中で位置付けるかに関しては、(1)世帯の主な稼ぎ手への所得保障を通じて、ケア活動を行う妻に保障する、(2)ケア活動に対して社会保障制度による有償化を行う、(3)男女の雇用を前提とした上で保育や介護施策を充実させ、ケア活動の社会化を図る、という三つの類型が考えられる。我が国は現在(1)型であるが、まず(2)型に移行し、今後の少子高齢化社会を前提とすると最終的には(3)型に移行しなければ社会がもたないと考えられる。

 これからの方向性については、配偶者控除、配偶者特別控除、第三号被保険者制度の妻優遇制度を「ケア活動をしている者」に対する恩典へ組み替えること、多様な児童ケア施設の供給体制の整備・助成を拡大すること、主婦層を短時間公務員として採用するなど女性の視点を行政にいかす施策を行うことが考えられる。「働いていない者から保険料は取れない」という議論に対しては、時間・労務の提供で対応することも考えられる。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1) 税制の配偶者控除、配偶者特別控除は、女性が活動することについての価値観が変化した現代では、廃止の方向の検討もなされるべきである。夫の所得が高い層に専業主婦が多いので、配偶者控除がなくなっても生活維持が困難になることはないと思われる。

(2) 百三万円の壁での就労調整の問題を解決するためには、壁を取り払うと同時に、パートタイム労働者と正社員の均等な待遇、年齢制限のない採用等を実現させる施策を行う必要がある。

(3) 扶養控除は所得の高い層が大きな利益を受ける逆進性が強い制度であり、公平性の点から問題がある。扶養控除を廃止してすべての子どもに社会保障を通じて給付をすることが望ましい。

(4) 年金制度を個人単位へ組み替えるには、育児期間や介護期間を年金制度の中で評価すること、夫の年金を婚姻期間に応じて妻に平等に分割すること等の部分的な改正を検討することから始める方法も考えられる。

(5) 配偶者控除や配偶者特別控除は、妻を夫の被扶養者として位置付けて伝統的な男女の役割を前提としている制度であり、見直すべきである。税制の人的控除の簡素化は、早急な検討課題である。

(6) 子育て家庭への援助の国際比較では、我が国は先進諸国中、最下位である。子育て世代への援助は社会保障の重要な課題であり、拡充していく必要がある。

(7) 男性の性別役割分業意識を変えるためには、長期的な視点に立って小・中学校の学校教育の中での意識啓発に力を入れることが大切である。

(8) 男女共同参画社会は本来男性にも住みやすい社会になるはずであり、その実現のためにはパパクォータ制度の導入により男性の育児休業取得を義務付ける等のショック療法も必要である。

(9) 我が国の育児休業給付額の対GDP比は〇・〇〇五%であり、フィンランドやスウェーデンの二百分の一という相対的に低い水準となっている。これは、我が国の育児休業の取得率や給付率が低いことに起因している。

(10) 育児休業制度については、数回に分けての取得や短時間勤務への振替による期間延長、保育所入所との連携などの点で改善が必要である。

(11) 男女の賃金格差は、交通事故などの損害賠償における逸失利益の算出や、高齢期の老齢年金の額に反映されるなど別の側面でも女性に不利な影響を及ぼすことになる。

(12) 地域社会での両立支援のための保育政策としては、保母が、蓄積された保育の経験をいかして地域の育児支援センターの核になり、家庭で子どもを預かる主婦の研修・ネットワーク化を図る試みが考えられる。

(平成十三年四月二日)
株式会社ライフデザイン研究所研究開発部主任研究員  前田 正子 氏

 仕事と家庭の両立の困難さについては、保育改革だけではなく働き方の改革との両輪で解決すべきである。

 まず保育の現状については、平成七年のエンゼルプラン以降、認可保育園の定員拡大にもかかわらず待機児童の問題は解決していない。この背景には、育児休業制度の普及により出産後も継続就労する女性の増大、不況による女性の求職意欲の増大、保育園に対する偏見の減少等がある。自治体による保育園整備は、首長や議会の意識によりその格差が大きく、劣悪だと分かっている無認可保育園に子どもを預けざるを得ないという地域もある。

 一方、働く女性の実態は、「恵まれた職場で育児休業制度などを利用しながら働き続けることが可能な女性」と「制度を利用できない厳しい職場や非正規労働の女性」という二極分化が起こっている。前者は経済的にも安定しており、通常の認可保育園に加えてベビーシッターを雇うことで両立が可能であるが、後者は労働時間も長く経済的にも不安定である上、二重保育の費用も払えないことから無認可保育園を選びがちである。経済的に苦しく長時間保育が必要で、むしろ良質な保育が必要な子どもほど無認可に流れているという状況がある。これは、認可保育園による長時間保育といった保育の問題に見えがちであるが、実は女性と仕事の問題である。一度家庭に入った女性は再就職が難しく、経済的に自立できる仕事が少ないことから低賃金のパートタイム労働者として長時間働かざるを得ない。これが子どもの状況を悪化させており、短期的には保育サービスの拡大が必要であるが、長期的には女性が自立できる良質な雇用の確保が一番の問題解決策である。

 我が国の場合、様々な問題はあっても保育園制度は諸外国と比べ充実している。問題は保育園の供給量が少ないことに加え、子どもを持つ親の労働時間が長過ぎることであり、欧米のような労働時間短縮や育児休業復帰後の短時間勤務が必要である。さらに、母親の精神的ゆとりを増大させるためには、子どもの看護休暇や父親の家事・育児参加が非常に重要であり、子育ては母親だけではなく父親もかかわった家庭内での問題であるという理解が必要である。

保育園を考える親の会代表  普光院 亜紀 氏

 仕事と子育ての両立を成功させるためには、第一に地域に安心して子どもを預けられる保育園があること、第二に男女の役割分担にこだわらず夫婦で家事・育児を分担できること、第三に職場で産休や育休等が取りやすく、上司や周囲の理解が得られること、が必要である。

 保育園を考える親の会会員によるアンケート結果によれば、両立支援策のうち緊急に改善を求めることとして、第一に認可保育園の拡充、第二に社会全体の労働時間の短縮、第三に病児保育の実施、第四に認可保育園の保育時間の延長、第五に勤務時間の短縮制度の充実と、保育制度と労働制度が交互に出てきており、両方から板挟みになって苦労している親たちの姿がかいま見られる。

 学童保育については平成十年に児童福祉法の改正で法制化されたが、何の基準もなく助成金も少ない中で自治体任せで行われていることからその充実が望まれる。また、先のアンケートでも、勤務時間の短縮制度については小学校低学年まで非常に強い要望がある。保育園で幾ら延長保育等長時間保育を保障しても、小学校入学と同時に学童保育は保育時間が非常に短くなる。子どもは小学校生活に慣れ、学童保育生活に慣れ、学童保育後の家庭での留守番に慣れなくてはならず、子どもも親も非常に緊張しストレスがたまる。

 共生社会を目指すのであれば、子どもの視点から見た望ましい共生社会を考えなくてはならない。そのためには、必要な人には長時間保育を保障すると同時に、家庭での時間を尊重する施策や子育て観が、特に企業等の場で必要であり、一定以上の保育水準を備えた保育園がどの子どもにも保障される社会でなくてはならない。

渕野辺保育園園長  松岡 俊彦 氏

 現在の保育の課題は、第一に待機児童の解消という量的確保、第二に延長保育、休日保育、夜間保育等の多様な保育サービスの拡大、第三に利用者等の評価により担保される保育の質の保障である。

 夜間保育等については、夜間や休日に働いている人たちがいるから私たちは安心して生活できるのであり、これらの人たちにも子どもを産んで育てる権利を保障しなければならない。そのためにはこうした時間に子どもを預けて働くべきではないという非社会的な子育て観や三歳児神話の払拭が必要である。なぜなら現在は保育制度の改善により、保育園が母親の代わりを行うことができ、愛着の基地となっているからである。さらに、保育施策を実施する地方自治体の構造や財政状況の改善、保育士養成カリキュラムも必要である。

 次に、学童保育については、改正児童福祉法により位置付けられた放課後児童クラブは児童館等で不特定多数を対象に行われる健全育成事業であるので、暮らしの領域として担当保育者を決めるなど一人一人を大切にする生活支援事業としていくことが必要である。

 このほか、保育と看護を一体化させる領域として病後児保育等が課題となってきている。

 また、児童虐待問題については、児童虐待防止法で児童福祉司の権限が強化されているが、踏み込みが弱い。一方保育園では、着替え等を通じての発見・通報の場であり、子どもの心の傷をいやし、安定感を与え、罪障感を取り除くなど事後のフォローの場でもある。さらに、子どもに対処の仕方を教えると同時に、一時保育などを活用して親の不安定な心情をしっかり受け止めることで予防の場にもなる。

 保育園は、専門性を持って様々な役割を果たし、地域社会の保育者として期待にこたえてくれる存在である。

イエルネット株式会社取締役アドミニストレーショングループジェネラルマネージャー  松井 香 氏

 私は結婚を機に退職し一度は家庭に入ったが、三十五歳までの復職を念頭に出産・育児を行うとともに、簿記等の勉強を続けていた。その後現在の会社にパートタイム労働者として再就職したが、それは育児について三歳児神話にとらわれていたこと、百三万円の壁で損をするのであれば勉強の場と割り切ってパートタイム労働者として働くことが得であるという考え方からである。現在は取締役として仕事と育児で睡眠時間三~四時間の生活であるが、やり甲斐や生きているという実感があるので勤務状態についての問題意識は感じていない。しかし、家庭という基盤を大切にしつつ自分の力を十分にいかし社会で自立していく、というなりたかった自分と比べると、これだけ時間を惜しんでやっても何か足りない気はしている。

 女性は社会の含み資産であると言われているが、これは教育を受けながらもその能力が活用されずに生きている女性が多いということである。その視点で見ると女性は、(1)望んで専業主婦をし子育てや家事を楽しんでいる女性、(2)保育園に子どもを預けて大企業で自分の力をいかしている女性、(3)希望するのに働く環境が整わない女性、(4)自分の時間を削ることでしか働くことができない女性に分けられ、社会で資産としていかされているのは(1)と(2)である。

 再就職の壁として、三十五歳の壁ということが言われるが、実はそれほど難しくない。能力ややる気があり、積極的に動けるのであれば比較的簡単にすり抜ける方法はある。反対に百三万円の壁は非常に引きずられるものが大きく、安い賃金で短時間働いて、会社にうまく利用されている人たちが多い。さらに、PTAなど他の母親とのかかわりの中では「好きで働いているのでしょう」という厳しい同性の目がある。そして最大の壁は子どもである。「あなたが働いているから、目が届かないから子どもが悪くなる」という無言の圧力が大きく、どうしてもそれにとらわれてしまう。個人的な問題と言われればそうかもしれないが、自分で覚悟を決めるしか走れない状況があり、非常に高いハードルである。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1) 女性の自立を支援し住みやすい社会とするためには、長時間労働を改善し、男性も含め多様な働き方ができるようにするなど働き方の改革が必要であるが、正規雇用に短時間就労の選択肢を用意したオランダなど諸外国の例に学ぶことも必要である。

(2) 育児を行う労働者を特別に配慮することにより企業が女性を雇用しなくなるという懸念もあるので、すべての労働者に対して個人生活と就労が両立できるように労働時間を短縮した上で、子ども看護休暇や育児休業があるという姿が望ましい。

(3) 男女の所得格差は家庭の中にも大きな影響を及ぼしており、子どもが病気のときはパートタイム労働者である妻が休むなど夫に迷惑をかけない働き方に拘束されがちであり、パートタイム労働者以上のキャリアに進んでいくことは難しい。

(4) 多くの女性のパートタイム労働者は正社員になることをためらうが、その理由は百三万円の壁があることや歯止めのない長時間労働に巻き込まれて時間の自由度がなくなることである。

(5) 保育園で子どもを長時間預かり、待機児童の解消のために定員以上の子どもを預かることは短期的には女性の就労を支援する上で有効であるが、子どもへの影響も懸念される上、保育所はあくまでも子育ての補完的存在にすぎないことも考えると、余裕を持って働きながら家庭生活を楽しめるような状況をつくることが一番大切である。

(6) 子どもと高齢者の交流については、イベントとしてその場限りで終わるのではなく、日常的に個別関係を築けるような交流を行うことが重要で、その拠点として保育園が理想的である。

(7) 大都市圏での待機児童の問題も深刻であるが、逆に子どもが少ない農村部では、保育園が子ども同士の交流の場としての存在意義を有するほか、過疎対策や町づくりの拠点としての役割も担っている。

(8) 核家族化の進展、少子高齢化に伴う若年労働力の減少の下で、育児も介護も行わなくてはならない世代にとって、その負担は重くのしかかってきており、それらの世代の負担を社会全体でどのように支えていくのか、企業における転勤や単身赴任等の在り方を含めて考えていくことが必要である。

(9) 待機児童数が依然として減らないことは問題であるが、ただ単に定員を拡大すれば良いというものではなく、子どもにとってどのような保育が一番良いのかを中心に据えながら解決していくことが必要である。

(10) 認可保育園の新設は財政的に厳しいが、余剰の公共施設を整備したり、庭付き一軒家を買取り小規模保育室とするなど即効性のある形で量的拡大をすることが大切である。また、分園政策を進め、夜間保育や病後児保育など本園以外の保育サービスを行うこと、保育ママを活用することも有効である。

(11) 認可保育園の設置主体の規制緩和による保育の質の低下が懸念されるが、設置主体が何であれ一定の基準を満たす認可保育園が増えることは良いことである。その際、企業の参入を増やすために最低基準を下げることは避けなければならない。

(12) 地域の子育て支援については幼保一元化ということが言われているが、単に施設の一元化の問題ではなく、幼稚園、保育園が一緒にその役割を担っていくことが求められている。

(13) 親のハードな働き方を反映して保育園では親の負担を軽減するために行事や保護者会が減らされる傾向にあるので、親が保育園で地域のネットワークに参加できるような工夫も必要である。

ロ 政府からの説明聴取及び主な質疑

 平成十三年二月十九日、女性の自立のための環境整備に関する件のうち、女性の経済・社会的自立支援について、若林財務副大臣及び増田厚生労働副大臣から説明を聴取し、若林財務副大臣、増田厚生労働副大臣、桝屋厚生労働副大臣及び政府参考人に対し質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

財務省

 男女共同参画の実現に関しては、税制面についても、就業や婚姻など個人のライフスタイルの選択に対して公平性、中立性を損なうことがないよう、その在り方を検討していく必要がある。

 まず課税単位の問題であるが、我が国では世界的にも主流となっている個人単位課税をとっている。婚姻や配偶者の就業に対して相対的に中立であることから、引き続き個人単位課税をとることが適当であると考える。

 次に、配偶者に係る控除制度についての問題であるが、我が国の場合、個人単位課税を採用しつつ配偶者控除や扶養控除が設けられている。これらは所得がない、あるいは所得が少ない配偶者や親族を有する場合には、納税者自身の担税力が減殺されるという点に着目し、これをしんしゃくする趣旨で設けられている。

 配偶者控除については、昭和三十六年に扶養控除とは独立した控除として創設された経緯があり、配偶者特別控除は、昭和六十二年・六十三年の抜本的税制改革の際に創設された。これは、納税者本人の所得の稼得に対する配偶者の貢献に配慮し税負担の調整を図る観点や、いわゆるパート問題への対応の観点などから創設されたものであり、控除額を段階的に減少させる消失控除の仕組みをとっている。この仕組みによりパートをめぐる手取り逆転現象の問題は少なくとも税制上は解消されたが、社会保険制度の被扶養者や企業の配偶者手当等が密接にかかわっていることからパートタイム労働者の労働調整が行われていることに留意する必要がある。

 配偶者控除等は現実に多くの世帯に適用されているなど一定の定着をみているが、女性の社会進出、男女共同参画社会の進展などを踏まえ、税負担能力の減殺を調整する所得控除の趣旨や他の基礎的な人的控除とのバランス等の観点から検討を加える必要があると考えている。平成十二年七月の政府税制調査会の中期答申においても検討の必要性は指摘されており、今後、国民的な議論が必要であると考えている。

厚生労働省

 女性の自立のための環境整備に関する厚生労働省の取組として、第一に、雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の確保への取組についてであるが、男女雇用機会均等法において、雇用の全ステージにおける女性に対する差別の禁止、ポジティブアクションを講ずる事業主への援助、セクシュアル・ハラスメントの防止、女性労働者の健康管理などが規定されており、これに基づき各種施策が講じられている。

 第二に、仕事と家庭の両立支援策への取組についてであるが、就労環境の整備等として、育児・介護休業制度の利用促進を図るため、育児・介護休業取得者に対し休業期間中は休業開始前賃金の四〇%に相当する額を支給するほか、職場復帰プログラムや代替要員の確保等を行った事業主に対しては助成金を支給している。さらに、今国会では育児休業等の申し出や取得を理由とする不利益取扱いを禁止するなど六項目を内容とする育児・介護休業法改正案の提出を予定している。このほか、ファミリー・サポート・センターの抜本的改編、ファミリー・フレンドリー企業の普及促進事業、労働時間の短縮や弾力的な労働時間制度の普及促進、再就職支援等にも努めている。

 子育て支援策としては、平成十一年十二月に策定された新エンゼルプランに基づき、低年齢児保育所受入枠の拡大、延長保育等多様な保育サービスの整備、地域子育て支援センターの拡充等に取り組んでいるが、特に、平成十二年四月現在、約三万三千人の保育所待機児童については、新エンゼルプランを推進するとともに、保育所定員の弾力化や設置主体制限の撤廃などを通じてその解消に努めている。

 介護支援策については、平成十二年四月の介護保険制度の施行後、ショートステイを利用しやすくするための支給限度額の一本化などの必要な改善措置を講ずるなど制度の定着を図っている。

 最後に、男女共同参画の視点に立った社会保障制度の見直しについてであるが、就労等個人の選択に中立的な制度の構築が求められており、特に年金制度に関しては、女性のライフスタイルの変化等を踏まえた制度の在り方について検討会を開催し平成十三年末を目途に意見を取りまとめたいと考えている。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は次のとおりである。

(1) 終身雇用制と年功序列型賃金体系が定着している我が国の雇用環境においては、出産と育児により長期間の継続的勤務が難しい女性は責任ある立場に立ちにくく、女性の自立や社会進出、地位の向上が妨げられている。

(2) 配偶者控除を廃止することは、実質的な増税となり国民に新たな負担を課することになるので、基礎控除額の引上げなど何らかの代替措置を講ずる必要がある。

(3) 配偶者特別控除は、パート問題における逆転現象をなくすものではあるが、創設時に内助の功に報いるためとの国会答弁もなされている。男女共同参画社会の形成は二十一世紀の最重要課題であることからも、配偶者特別控除は廃止すべきである。また、配偶者控除についても段階的に廃止する方法を考えるべきである。

(4) 我が国の所得税は個人単位課税を原則としているにもかかわらず、配偶者控除など様々な人的控除が世帯単位の要素を持っており、片働き世帯、共働き世帯、単身世帯の間でバランスが取れなくなっている。

(5) 税制については控除を簡素化し、その分を児童手当あるいは保育や介護の基盤整備に使うという考え方もある。

(6) 最低賃金と同程度のパートタイム労働者の賃金では、たとえ千八百時間働いたとしても自立した生活はできないので、最低賃金の底上げを図り、「人たるに値する生活」ができる全国一律の最低賃金制を確立すべきである。

(7) パート労働法施行後、パートタイム労働者も基幹的、恒常的業務に携わっているので、本来であれば賃金格差は縮小されていなくてはならないが、女性について拡大しているのは、国連の女子差別撤廃委員会も指摘しているように、女性差別や間接差別の表れである。

(8) 我が国の賃金体系は、配偶者手当や家族手当を含む世帯単位的なものとなっているが、世帯主は男性であるという社会通念から女性が世帯主であっても世帯主としての扱いを受けられない場合があるなど、女性に対して不利益な取扱いを行っている例がある。

(9) 育児・介護休業法の見直しについては、今国会提出予定の改正案にとどまらず、ILO百五十六号条約の精神にのっとり、パパクォータ制度による男性の育児休業取得の促進など、仕事と家庭との両立について幅広く抜本的な取組を行うべきである。

(10) 本来教育機関である幼稚園は設立目的が保育園と異なり、二歳以下の低年齢児を預かるノウハウがないなどの批判的意見もあるが、三割以上の幼稚園が預かり保育を行っており、幼稚園の保育園化が進んでいることや、保育園不足に対応するためにも、両者の連携について考える必要がある。

(11) 家庭内での自立を阻害するドメスティック・バイオレンスについては、シェルターの配置や保護命令による被害者救済も必要であるが、カウンセリングなどの心理的ケアがより重要である。そのためには、専門的知識を有する人材を配置するとともに、加害者プログラムについても研究すべきである。

ハ 調査会委員間の自由討議

 参考人からの意見及び政府からの説明聴取を踏まえ、女性の自立のための環境整備に関する件のうち、女性の経済・社会的自立支援について最終報告に向けての意見を整理するため、平成十三年五月十四日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(1) 雇用については、男性を含めた働き方の見直しを行い、男女とも仕事と家庭のバランスを取れるようにすべきである。そのためには、育児休業を父親も取れるようなパパクォータ制度を導入するなど、仕事と家庭の両立支援の見直しが必要である。

(2) 研究者、教師などの分野ではかなり女性が活躍しているが、それは、育児休業を取得しても、また元の研究生活、教育生活に復帰することが容易なためである。女性の自立を図るためには、育児休業取得後の就業継続が困難である実態を改善し、社会全体で女性の職場復帰を支援することが重要である。

(3) 仕事と育児・介護との両立を図るために、長時間過密労働や男女賃金格差の是正を前提として、育児休業給付の六割程度への引上げ、代替要員確保の困難な中小企業に対する助成額の引上げなど育児休業制度の改善が必要である。

(4) 保育施策については、多様な働き方に合わせた保育の充実が必要であるが、その場合には子どもを中心に置いて取り組まなければならない。また、認可保育所と無認可保育所との格差是正のため、無認可保育所に関する届出制度を創設するとともに、学齢前の子どもへの社会的支援という視点から、保育所と幼稚園の連携を考えるべきである。

(5) 子どもの養育問題は、税制・社会保障制度以上に女性の社会進出の障害となっており、保育期間だけでなく学童期も含めて安心して子どもを預けることができる仕組みが必要である。

(6) 女性の社会的自立支援については、女性と男性が共に社会的に十分活躍できる仕組みをつくっていく必要がある。そのためには、指導的地位につく女性の割合を三〇%まで増やすという国連経済社会理事会の目標の早期達成、ジェンダーフリー社会を目指した広報・啓発等の活発化及び個人の選択に対する中立性の観点からの選択的夫婦別氏制度の導入を図る必要がある。

(7) 女性の経済的自立のための社会制度はいまだ不十分であり、早期にその改善を図るべきである。具体的には、雇用における男女差別の実質的撤廃、個人単位の年金制度設計、離婚に伴う女性の不利益の改善及び仕事と子育てを両立できる社会の実現が必要である。

(8) 現在、女性の自由意思による多様な働き方の選択が可能であるとは言えず、低賃金で不安定な雇用を選択せざるを得ないという状況がある。こうした状況を改善するため、労働基準法に雇用形態による差別の禁止を明記すべきである。

(9) 女性の国家公務員の採用、昇格については、他の模範となるように審議会並みの目標数値を設定したポジティブアクションで早急に男女格差の是正を図り、国際水準に引き上げるべきである。

(10) 男女共同参画基本計画では、二〇〇〇年プランには含まれていた賃金格差解消に向けた取組という項目や、審議会答申に盛り込まれていた一日当たりの実労働時間の短縮、仕事中心の男性の働き方の見直し、男女の経済力の格差是正、訴訟における使用者側の反証責任の検討、女子差別撤廃条約の選択議定書の批准等の記述が落ちているので、これらの追加を提言・勧告すべきである。

(11) 政府の審議会に女性委員を入れることは当然であり、特に、福祉・教育関連の審議会においては、構成員の半分を女性にすべきである。

(12) 厚生労働省は、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」を設置して平成十三年末までに意見の取りまとめを図るとしているが、男女賃金格差是正の問題や、老後も自立して暮らせる年金額の保障などの問題を中心にした検討がなされるように、調査会で提言すべきである。

(13) パートタイム労働については、待遇、社会保障等に関する差別を禁止するパートタイム均等待遇法を制定すべきであり、差別禁止の実効性を上げるためには強制的な調査権限とそれを判定する機能を持つ機関を設置すべきである。

(14) パートタイム労働者として働いている女性の多くは、百三万円の壁があるため、好きな時間だけ働いて後は自分の時間にしておきたいと考えている。パートタイム労働を希望する人もいることから、一律に配偶者控除等を廃止する方向で税制等を取り決めてよいのかという懸念がある。

(15) 女性と男性がそれぞれ人間らしい、そしてその人らしい生き方をするために、性に中立的に働くよう税制や社会保障制度を組み立てる必要がある。また、選択的夫婦別氏制度を含む民法の問題は、女性が一人の人間として社会で生きていく上で重要な問題であり、積極的な議論を進めていくべきである。

(16) 農業等自営業者の妻は働いた報酬が賃金として支払われないことなどから、税制・社会保障制度を論ずる場合に必ずしも議論に上らないが、その取扱いについても検討する必要がある。

(17) ドイツでは育児という賃金の支払われない労働を年金の上乗せという形で評価している。我が国においても、アンペイドワークを統計という目に見える形で表し、社会政策にいかせるよう更に調査研究すべきである。

(18) 男女共同参画社会の実現のためには、男性の意識を変えることが先決であり、種として女性は劣るもの、男性は勝るものという潜在的な優劣の意識を払拭する必要がある。

(19) 男女共同参画社会実現のためには法制度の改革も必要であるが、小中学校又は家庭教育の中における男女の区別のない教育により、意識改革を行うことが最も重要である。

(20) 保育環境と雇用環境の整備というときに、地域社会が再生されているということが大変重要である。例えば、六十歳代前後の女性たちが保育ママとして、働く女性たちへの支援を始めた町もあるなど、男女共同参画社会基本法の成立は様々な意味で大きな影響があると考える。

二 男女共同参画基本計画

 平成十三年二月二十一日、同十二年十二月に閣議決定された男女共同参画基本計画について坂井内閣府副大臣から説明を聴取し、質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

内閣府

 平成十二年十二月十二日に閣議決定された男女共同参画基本計画は、平成八年十二月に男女共同参画推進本部で決定された国内行動計画「男女共同参画二〇〇〇年プラン」の内容を基礎とし、男女共同参画審議会からの答申「男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的考え方」等を受け、さらには国連特別総会「女性二〇〇〇年会議」の成果及び国民からの意見をも踏まえて策定した。

 第一部は基本計画の基本的考え方、第二部は男女共同参画社会の形成に当たっての十一の重点目標を掲げ、それぞれについて、施策の基本的方向及び平成十七年度末までに実施する具体的な施策に関して記述するとともに、第三部は男女共同参画会議の機能発揮、地方公共団体やNGOへの支援等、施策の総合的かつ効果的な推進のための体制の整備強化に関して記述した。

 十一の重点目標は、(1)政策・方針決定過程への女性の参画の拡大、(2)男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革、(3)雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保、(4)農山漁村における男女共同参画の確立、(5)男女の職業生活と家庭・地域生活の両立の支援、(6)高齢者等が安心して暮らせる条件の整備、(7)女性に対するあらゆる暴力の根絶、(8)生涯を通じた女性の健康支援、(9)メディアにおける女性の人権の尊重、(10)男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実、(11)地球社会の「平等・開発・平和」への貢献である。

 男女共同参画社会の実現は二十一世紀の我が国社会にとっての最重要課題の一つであり、政府は基本計画に基づき、社会のあらゆる分野に男女共同参画の視点を反映させ、男女共同参画社会の形成を総合的・計画的に図っていく。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1) 真の男女共同参画社会を形成するためには、女性の持てる能力を活用し、社会への女性の参加を更に活発化して、経済的、社会的に活力ある社会をつくり上げていくことを基本理念とすべきである。

(2) 男女共同参画社会への転換を図っていくためには、男女共同参画の実現の度合いを分かりやすく示す指標を持つべきである。例えば、女性の就業率、育児に関する男女の役割分担の度合いなどについて実体的な指標を設定し、その目標管理を行っていく必要がある。

(3) 男女共同参画社会の形成に当たっては、例えば、税制、年金、保育政策、雇用政策等について明白な方向性が示されるべきである。

(4) 男女共同参画基本計画においては、男女共同参画にかかわる情報の収集・整備・提供に関し、政策・方針決定過程の透明性の確保も含めて全府省で取り組むこととされているので、積極的に努力すべきである。

(5) 非嫡出子問題については、平等の原則と、子どもの利益を主として考慮するという子どもの権利条約の観点から取り組む必要があり、相続における差別は解消すべきである。

(6) 選択的夫婦別氏制度については、選択的な制度であっても反対する合理的な理由があるのか考えるべきであり、これまでの世論調査、社会の様々な動きを見ると、実現すべき時期に来ていると考える。

(7) 選択的夫婦別氏制度に関しては、働き続けてきた女性が結婚によって姓が変わり、その後の活動・業績について別人であるかのような印象を与えてしまうなど、結婚の前後で姓が同一でないために様々な不利益を受けることがあるということを基本に考えるべきである。

(8) ドメスティック・バイオレンス対策に関しては、民間シェルターに対して財政支援を含めた様々な支援を行うとともに、民間シェルターなどのノウハウを大いに活用するために、これらの組織と婦人相談所などの公的な機関との連携強化を図るべきである。

(9) 一九九五年の女子差別撤廃委員会の報告書において、日本政府は我が国の女性が企業の中で直面している賃金、昇進に関する間接差別について的確に対処すべきであると述べられている。男女共同参画社会基本法の理念にのっとり、間接差別の問題について政府一体となって取り組むべきである。

(10) 男女別の雇用管理を総合職と一般職というコース別管理に置き換えたように、企業は依然として労働基準法や男女雇用機会均等法をすり抜けて性別による差別的取扱いをしているという実態がある。企業に対する行政指導の状況や企業の実態について調査し、適切な対応を行うべきである。

(11) 雇用の場における性別による差別的取扱い等について違反企業名を公表するとともに、差別の有無を争う裁判においては、申立て側の立証責任を軽減し、企業側の反証責任を重くしていくような方法についても広く検討する必要がある。

(12) 雇用上の均等待遇で最も重要な課題は、男女の賃金格差の是正である。我が国は昭和四十二年に男女同一価値労働同一賃金の原則に関するILOの百号条約を批准しているにもかかわらず、男女の賃金格差は拡大しており、この実態を重く受け止めるべきである。

(13) 男女の賃金格差を是正するためには、男女雇用均等対策、仕事と家庭との両立支援対策及び多くの女性がパートなどの非正規労働に就労せざるを得ない状況の改善が必要である。

(14) 今国会に提出予定である育児・介護休業法の一部改正案に子どもの看護休暇制度の導入についての努力義務が盛り込まれたが、特に中小企業における同制度の普及について国が支援を行っていく必要がある。

三 男女等共生社会の構築に向けて

 平成十三年六月四日、本調査会が「男女等共生社会の構築に向けて」のテーマの下、三年間にわたって進めてきた調査を締めくくる観点から、男女共同参画担当大臣である福田内閣官房長官、松下内閣府副大臣、南野厚生労働副大臣及び政府参考人に対し質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

(1) 政府は、男女共同参画型社会の形成を構造改革の一つと位置付けたが、男女共同参画基本計画に基づいた政策方針決定過程への女性の参画の拡大、女性に対する暴力の根絶に向けた取組及び広報啓発活動等、幅広い取組を総合的に推進すべきである。

(2) 男女共同参画社会基本法は女子差別撤廃条約の理念に基づくものである。性差別の撤廃のためには個人の性別役割分担意識をなくしていくという意識改革が必要であり、これは社会構造システムを変えるという大きな政治課題でもある。

(3) 構造改革の議論が実効性を持つためには性別役割分担意識に基づく制度の改革が必要となるので、政府の経済財政諮問会議においても男女共同参画の視点が重要である。

(4) 仕事と子育ての両立支援のためには、政府の専門調査会で検討されている、保育所待機児童の解消に向けた施策、保育の質を確保するための方策、無認可保育所への公的補助及び保育所整備の地域間格差の是正について真剣に取り組むべきである。

(5) 男女雇用機会均等の実現のためには男女が共に家族的責任を果たす必要があるが、そのための手段としてノルウェー等で実施されているパパクォータ制度の導入を検討すべきである。

(6) 交通事故などで子どもが死亡した場合、いわゆる逸失利益について性差による命の値段の格差を見直す判決が相次いでいるが、本来は、就労後の男女賃金格差をなくすことにより解消すべきである。

(7) 二〇〇〇年プランには含まれていた男女賃金格差解消に向けた取組という項目が、男女共同参画基本計画においては明文化されていないが、雇用の場における男女平等を実現するため、基本計画の下でも賃金格差解消に向けた積極的な取組を行う必要がある。

(8) 女性労働者が結婚、産前・産後休暇、育児時間取得などを理由に不利益な取扱いを受ける事例があるが、これは労働基準法や男女雇用機会均等法に反することである。男女共同参画基本法において企業も男女共同参画社会の実現の責務があり、その役割を果たすべきである。また、男女雇用機会均等法で法違反に対して厳しく対処する罰則が必要であり、差別を迅速に是正できる救済機関を強化すべきである。

(9) 男女共生社会の実現のためには、社会保障制度の個人単位化、税制の控除の簡素化、保育の質・量の充実等が必要であるとともに、選択的夫婦別氏制度に関する世論調査については、中立的な項目による調査の実施が求められる。

(10) 夫婦別氏の韓国人夫婦が我が国に帰化する場合に、夫婦同氏を強制するのは合理的でない。また、夫婦別氏が可能になるまで結婚を待っている人たちも多い。選択的夫婦別氏制度は早期に実現すべきである。

(11) 夫婦が同姓を名乗ることを法律で強制すべきではなく、そのためにも選択的夫婦別氏制度を導入すべきである。

(12) 配偶者からの暴力防止法は本調査会三年間の最大の成果であるが、その運用・見直しにおける内閣府の役割は大きい。加害者の更生プログラム等残された問題点については、「女性に対する暴力に関する専門調査会」において今後の検討が必要である。

(13) 婦人補導院は平成三年から十二年までの入所者がわずか三名にすぎないので、公的シェルターや女性の人権センターなどの施設に転換できるように法改正を含めた検討を急ぐべきである。



四 派遣委員の報告

 平成十二年九月十二日から十四日までの三日間、北海道において、男女等共生社会に関する実情調査を行った。

 北海道では、女性行政を総合的に推進するため、知事を本部長とする「北海道男女共同参画推進本部」を設置するとともに、民間有識者委員及び公募委員から構成される「北海道男女共同参画懇話会」を設置し、男女共同参画について総合的な協議を行っている。また、平成十二年度「北海道男女共同参画プラン」においては、学校における男女平等教育の推進、女性への暴力根絶についての認識の浸透、審議会等への女性の登用の促進、農林水産業等における男女共同参画の促進、生涯学習の推進等が重点事項とされている。このほか、家庭内暴力被害者に対する支援として、被害者の相談及び保護活動を実施している民間団体への助成措置等を行うとともに、家庭内暴力被害実態の調査のため、本年アンケート調査、被害体験者面接調査及び関係機関ヒアリングを実施している。説明聴取の後、調査会委員と道担当者との間では、推進本部副本部長に北海道警察本部長を充てる理由、民間シェルターへの財政的補助に際しての制限の有無等家庭内暴力対策を中心に質疑が行われた。

 このほか、女性の職域拡大に取り組んでいる札幌信用金庫から同金庫における女性の職域拡大の実績について説明を聴取し、質疑を行うとともに、男女共生社会の形成に向けて各種活動を行っている道内の女性団体から、その活動概況等について説明を聴取した後、男女共同参画と女性団体の役割、農村地域における女性の地位向上、家庭内暴力とマスメディアの影響等について意見交換を行った。

 札幌市では、平成六年に「男女の共同参画型社会を目指すさっぽろ計画」を策定し、あらゆる分野への男女共同参画の促進等を推進している。また、札幌市男女共同参画サポーター事業を実施し、一般公募及び市の選定する十八歳以上の男女市民にサポーターを委嘱し、各種活動を行っている。家庭内暴力については、女性への暴力対策関係機関会議を設置し、被害女性の一時保護、自立支援策の検討のため、それぞれワーキンググループを設置して検討を行っている。説明聴取の後、派遣委員から、サポーター事業の内容、家庭内暴力に関する北海道庁との連携等について質疑が行われた。

 このほか、女性の能力活用のための取組を進めている北海道ガス株式会社を視察し、女性の業務拡大の内容について説明を聴取した。委員からは、男女の給与面の格差、職域拡大と今後の方向性、女性活用方針の決定過程等について、質疑が行われた。また、女性の多様な職業訓練ニーズに対応するため開校した職業訓練校である北海道立札幌女子高等技術専門学院を視察し、組織、就職状況等の説明を聴取した。委員からは、最近の就職率低下の原因とその対応策、学生の学力低下の実情、最近の学生の気質等に関して質疑が行われた。

 石狩市は、平成十二年三月に「いしかり男女共同参画プラン」を策定し、その推進のため石狩市男女共同参画行政推進会議等を設置するなど積極的に男女の共生に取り組んでいる。同市の女性議員比率は一八・五%、女性審議会委員の比率は三七・二%といずれも北海道全域の数字より高く、また、女性管理職を全国から公募し採用するという試みを行うなど、女性の参画に関して先進的な取組を行っている。説明聴取の後、派遣委員から、公募採用を行った理由、女性比率を高める際の男性の理解と協力の状況、今後の女性の職域拡大の方向性等について質疑が行われた。

第IV 女性の自立のための環境整備についての提言

 男女等共生社会は、女性も男性も性別にかかわりなく、すべての個人の人権が尊重され、その個性と能力を十分に発揮した多様な生き方を可能とする社会であり、その構築は二十一世紀の最重要課題である。今後は、男女共同参画社会基本法の理念に基づき、男女共同参画基本計画を着実に実施していくとともに、社会経済システムのあらゆる分野において、男女共生の視点に立った施策の検討が求められている。

 特に、女性が的確な自己決定に基づき、生涯を通じて健康を享受し、経済的にも社会的にも自立していくための環境整備は、真に男女が共生する社会の構築のための重要な要件となるものである。しかし、我が国においてはなお、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの理念の浸透が十分ではなく、男女の多様な生き方に中立的でない社会制度の存在も指摘されているほか、女性は雇用面においても、仕事と育児・介護との両立支援の面においても、十分な環境の下に置かれているとは言い難い。

 こうした観点から、本調査会は女性の自立のための環境整備について、広範な論議を行い、問題点の発掘やとるべき対策について理解を深めてきた。

 これらの取組を経て、本調査会として当面する課題について、次のとおり提言する。

一 女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを視座に入れた総合的な施策の充実

1 妊娠、出産等に対する女性の自己決定権を確立するため、避妊・不妊等に係る相談・情報窓口の増設を図るとともに、堕胎罪を始め、女性の健康に関する法制度について、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障する観点から新たな法整備を含め幅広い検討を行う必要がある。

2 働きながら子どもを産み育てることのできる環境や、女性の生涯にわたる健康を支援する体制を構築するため、リプロダクティブ・ヘルス・ケアを行う専門家の増加と質の向上、養成プログラムの見直し、女性特有の疾病対策、女性労働者の健康対策、更年期以降の健康支援等の施策を充実させる必要がある。

3 リプロダクティブ・ヘルス/ライツを推進するため、学校及び社会における科学的で公正な情報の提供、ジェンダーによる差別の解消及び性の多様性の尊重を重視した適切な性教育の実施が必要である。また、十代の望まない妊娠を防ぐため、学校及び地域において避妊に関する情報提供やプライバシーに配慮した身近な相談体制の確立等適切な対応を行う必要がある。

二 雇用の分野における男女差別の解消

 雇用の分野における実質的な男女平等を実現するために、同一労働同一賃金を前提とした男女間の賃金格差の解消、昇給差別の禁止、間接差別の禁止、グラス・シーリングの解消等のための施策を強力に推進すべきである。また、パートタイム均等待遇の確立を始めとして、社会保険や育児・介護休業法の適用等非正規雇用者と正規雇用者との均等待遇を図る必要がある。

三 家庭との両立を可能とする多様な働き方の実現

1 労働者全体の労働時間の短縮を促進するとともに、育児・介護を行う労働者に対しては、不利益取扱いがないような短縮勤務の選択、時間外労働の免除、フレックスタイムの活用等柔軟な労働時間の選択が可能となるような施策を推進するほか、権利として取得できる看護休暇及び学校行事等への参加のための家族休暇制度の新設についても検討する必要がある。

2 我が国社会にいまだ根強く残る性別役割分担意識を改革し、男性の家事や子育てへの一層の参加を促進するため、パパクォータ制度の導入の検討など男性が育児・介護休業や出産休暇を取得しやすい環境整備を進めるべきである。

四 女性の経済・社会的自立の支援のための保育施策等の充実

1 多様化する女性の働き方に合わせた保育の充実及び待機児童の解消が急務となっていることから、これらに対する公的助成の一層の拡大とゼロ歳児・低年齢児保育や延長・休日・夜間保育等多様なニーズに対応したきめ細かな保育サービスの拡充を図る必要がある。また、待機児童ゼロ作戦の達成に向け、実効ある施策を早急に具体化し、推進するとともに、保育の質を確保する必要がある。

2 放課後児童健全育成事業の充実等、学童のための保育の拡充を図る必要がある。

3 児童虐待の解消や子どもの健全な発達のためにも、保育所等を開放し育児相談や情報交換を行う場とする地域子育て支援事業の拡充、一時保育の充実、地域子育て支援センターにおける相談支援の充実、地域社会における子育てネットワークの構築等、地域における子育ての支援体制を拡充すべきである。

五 女性の生き方・働き方の選択に中立となるような税制・社会保障制度の改革

1 配偶者控除・配偶者特別控除制度は、女性の就労に対して中立性を阻害する要因ともなっており、男女共同参画社会の実現や制度の簡明性の観点に立って見直していくことが必要である。

2 男女平等及び個人の生き方に中立的な立場から、世帯単位から個人単位への切替え等社会保障制度全般について検討を行うべきである。特に、年金制度は、被扶養配偶者に対する第三号被保険者制度が設けられていることなど、伝統的な女性の役割を反映した世帯単位の考え方を基本としており、女性の生き方や働き方に必ずしも中立的ではないので、個人単位の制度設計に改める必要がある。

3 育児や介護等に係る所得保障については、扶養控除や児童手当等税制・社会保障の両面から行われ、相互に密接にかかわっていることから、税制及び社会保障制度全般にわたり総合的に検討することが必要である。

六 選択的夫婦別氏制度の導入

 個人の選択に対する中立性を確保し、性別による偏りのない社会システムを構築するためにも、選択的夫婦別氏制度の早期実現に向けて努力すべきである。

七 無償労働の社会的評価の在り方に関する検討

 育児、家事、介護等の無償労働の社会的評価の在り方について検討を行う必要がある。


男女等共生社会の実現を目指して

 本調査会は、平成十年八月に設置されて以来、三年間にわたり、社会を構成する男女が互いの人権を尊重しつつ、共生していく社会の構築を目指して調査に取り組んできた。

 この取組の中で、一年目の調査テーマであった「女性に対する暴力」に関し、三年間の調査会活動の集大成として、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案」を提出し、成立させた。今後はその法律の円滑な実施と三年を目途とした法律の見直しに向けての対応が望まれるところである。また、二年目の調査テーマであった「女性の政策決定過程への参画」に関しては、国の審議会等における女性委員の割合について、政府が当面の目標としてきた平成十二年度末二〇%の数値が一年早く達成(平成十一年度末二〇・四%)されたことにより、本調査会が提言した今後の国際的目標値三〇%の早期実現と更なる女性委員の参画が望まれるところである。さらに、平成十二年七月の衆議院議員総選挙において史上二番目となる女性の大量当選、本年四月に発足した小泉内閣における女性閣僚五名の起用、地方における三名の女性知事の誕生など、この三年の間に政策決定過程への女性の参画拡大のための環境整備が徐々にではあるが図られつつあると言えよう。また、三年目の調査テーマであった「女性の自立のための環境整備」に関しては、本報告書において七項目の提言をまとめたところである。

 本調査会が調査を進めていたこの間、政府は、平成十一年六月に施行された男女共同参画社会基本法に基づいて、平成十二年十二月に「男女共同参画基本計画」を策定し、これによって今後の男女共同参画社会の形成に向けた具体的な道筋が示された。また、平成十三年一月からの中央省庁再編等の改革においては、これまでの男女共同参画室が男女共同参画局へと格上げされるとともに、男女共同参画会議が設置され、男女共同参画社会の形成の促進に関する諸課題について、専門調査会を活用して検討を進めるなど、男女共同参画社会を推進する体制の整備も図られてきている。

 しかしながら、男女が共生する社会の形成を更に推進していくためには、まだまだ解決すべき課題は多い。雇用の分野においては男女雇用機会均等法の改正等によって、法的、制度的には男女平等が実現しているものの、現実には採用面、賃金面さらには処遇面においてなお女性が差別を受けているという実態が存在している。また、生涯を通じた女性の健康支援に関しては、リプロダクティブ・ヘルス/ライツが意味する女性が生涯を通じて健康に過ごすという権利が一貫して保障されているとは言い難い状況にある。さらに、社会のみならず家庭においてもいまだなお男女の役割分担意識が存在し、その解消のためには男性の意識を変えていくことが必要となる。この他、女性のライフスタイルの選択に中立な税制・社会保障制度の改革、性別による偏りのない社会システムの構築に資するための選択的夫婦別氏制度の実現等への努力も強く求められるところである。

 言うまでもなく、男女共同参画社会の実現は二十一世紀の最重要課題であるが、三年間にわたる本調査会の調査結果を踏まえた提言や男女共同参画基本計画の着実な実施によって、真の男女共生社会が実現するよう期待するところである。



○参議院共生社会に関する調査会委員(平成十三年六月二十日現在)

会長 石井 道子 (自由民主党・保守党) 理事 有馬 朗人 (自由民主党・保守党)
理事 橋本 聖子 (自由民主党・保守党) 理事 小宮山 洋子 (民主党・新緑風会)
理事 大森 礼子 (公明党) 理事 林  紀子 (日本共産党)
理事 清水 澄子 (社会民主党・護憲連合) 阿部 正俊 (自由民主党・保守党)
岩崎 純三 (自由民主党・保守党) 大島 慶久 (自由民主党・保守党)
末広 まきこ (自由民主党・保守党) 竹山 裕 (自由民主党・保守党)
鶴保 庸介 (自由民主党・保守党) 仲道 俊哉 (自由民主党・保守党)
南野 知惠子 (自由民主党・保守党) 森下 博之 (自由民主党・保守党)
岡崎 トミ子 (民主党・新緑風会) 郡司  彰 (民主党・新緑風会)
高橋 千秋 (民主党・新緑風会) 谷林 正昭 (民主党・新緑風会)
千葉 景子 (民主党・新緑風会) 渡辺 孝男 (公明党)
小池  晃 (日本共産党) 八田 ひろ子 (日本共産党)
高橋 紀世子 (無所属の会)