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共生社会に関する調査会

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共生社会に関する調査報告(中間報告)(平成11年6月30日)

第I 調査会の調査の経過

 参議院共生社会に関する調査会は、平成十年六月十六日に議長に提出された「参議院制度改革検討会報告書」の答申に基づき、第百四十三回国会の八月三十一日に設置された。

 今日、国民の価値観の多様化、女性の社会参画、社会の国際化、さらには少子・高齢社会の到来等、我が国を取り巻く社会的環境は大きく変化しており、男性と女性、健常者と障害者、日本人と外国人、現役世代と年金世代など、社会を構成している様々な人々が、互いにその存在を認め合い、共生していく社会が求められている。本調査会は、このような共生社会についての的確な対応を目指し、我が国の社会における人と人との新しい関係を模索すべく新たに設けられたものである。

 本調査会は、設置以来理事会等で調査課題について協議を重ねてきたが、まずは男女の共生を中心として調査を進めることとし、「男女等共生社会の構築に向けて」を当面の調査テーマとすることに決定した。

 調査を進めるに当たっては、共生社会に関する調査が広範囲にわたること、共生社会に対する調査会委員のイメージも多様であることから、まず平成十年十月一日の第一回の調査では、男女共同参画社会の現状について政府から説明を聴取した後、各委員が抱く共生社会に対する考え方について委員間の自由討議を行った。そこでは、男女共同参画が進まない背景を社会的、文化的、歴史的観点からアプローチする必要がある、少子・高齢社会の観点から男女共生に取り組むべきである、社会保障制度や税制等を世帯単位から個人単位へ見直す必要がある、男女の共生を妨げるドメスティック・バイオレンス(夫(恋人)からの暴力)やセクシュアル・ハラスメントの問題に取り組むべきである、等の調査課題に関する意見とともに、政府が準備を進める男女共同参画社会基本法の法案化作業(注・第百四十五回国会で法律案成立)を視野に入れながら調査を進めていく必要がある、他の委員会で取り上げないような調査課題を選定する必要がある、等の調査会運営に関する意見も出された。これらの意見を整理し、理事懇談会で協議を行い、「女性に対する暴力」と「女性の政策決定過程への参画」を具体的テーマとして取り上げ、まずは「女性に対する暴力」から調査を行うこととした。

 女性に対する暴力についての第一回の調査は、この問題に取り組んでいる学識経験者から現状と課題について意見を聴取することとし、平成十年十一月二十六日、お茶の水女子大学ジェンダー研究センター長・教授、男女共同参画審議会委員原ひろ子氏及び東邦学園短期大学教授戒能民江氏に参考人として出席を求めた。原参考人からは、女性に対する暴力の実態把握、警察・厚生等の各省庁間の連携、社会意識啓発及び被害予防対策が必要である、戒能参考人からは我が国の女性に対する暴力の社会的、法的対応が不備であり、ドメスティック・バイオレンスに関する特別法の制定が必要である、等の意見が述べられ、委員との意見交換を行った。

 第二回の調査は、女性に対する暴力について現場で取り組んでいる有識者からの意見を聴取することとし、平成十一年二月三日、弁護士渡辺智子氏、東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授小西聖子氏及びアディクション問題を考える会代表米山奈奈子氏の三名を参考人として出席を求めた。渡辺参考人からは性暴力に関して裁判官・検察官等の研修、強姦罪等の告訴期間の撤廃、訴訟以外の救済システムの創設等が必要である、小西参考人からは強姦被害は最も高率にPTSD(外傷後ストレス障害)を発生させる犯罪であるが、我が国では性犯罪被害者相談活動は極めて不十分で、この分野の専門家も少数である、米山参考人からは暴力被害女性の駆け込み寺的存在である民間シェルターに対する公的助成やシェルタースタッフの安全確保が必要である、等の意見がそれぞれ述べられ、委員との意見交換を行った。

 二度にわたる参考人からの意見聴取を踏まえ、女性に対する暴力についての現状及び取組状況について、政府等から説明を聴取する必要があることから、第三回の調査は警察庁、法務省及び最高裁判所から、第四回の調査は文部省、厚生省及び労働省からそれぞれ説明を聴取することとした。

 第三回の調査は、平成十一年二月十日、警察庁から性犯罪の発生状況や性犯罪被害者対策の概要等について、法務省からは女性に対する暴力についての刑事法上の取扱い、法律扶助制度の概要及び人権擁護機関の活動状況等について、最高裁判所からは家庭裁判所の調停に現れる夫婦間の暴力の実情について、それぞれ説明を聴取し、質疑を行った。

 第四回の調査は、平成十一年四月十九日、文部省からジェンダーに関する教育及び学校におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための取組状況等について、厚生省から婦人保護事業の概要及び母子家庭福祉対策等について、労働省から母子家庭の母親に対する就労面での支援対策及び職場におけるセクシュアル・ハラスメントについて、それぞれ説明を聴取し、質疑を行った。

 このような女性に対する暴力についての参考人からの意見や政府等の取組状況を踏まえ、平成十一年五月十二日、この問題に対する調査会委員の認識や今後の取組の方向性を見いだすために、委員間の自由討議を行った。

 この自由討議においては、女性に対する暴力は世界共通の問題であり、我が国において地域的偏りがあるとすれば、それは潜在化しているにすぎない、法的整備をする場合、その目的を明確にし、立法事実を明らかにしていく必要がある、女性に対する暴力の基本法を制定すれば、現行制度の下での対応が取りやすくなるとともに、夫婦間暴力が犯罪であることの明確化により抑止効果が期待できる、女性に対する暴力については、現行法で対応できるもの、法改正が必要なもの、新規立法が必要なものに区分して議論を進めていく必要がある、等の意見が述べられた。

 以上のような議論を踏まえ、女性に対する暴力についての課題を整理し、理事懇談会で協議を行った結果、法的対応策については今後の検討課題とし、当面する課題について意見を集約、提言として取りまとめることとした。

 この他、地方における男女共同参画及び女性に対する暴力についての取組状況を調査するため、平成十一年二月十六日から十八日の三日間、徳島県及び兵庫県において委員派遣を行った。

第II 調査会の調査の概要

一 共生社会に関する自由討議

 平成十年十月一日、共生社会に関する委員間の自由討議において述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(調査課題)

(1)実のある提言を行うためにも、男女共同参画が進まない背景について社会的、文化的、歴史的観点からアプローチしていくことが必要である。

(2)少子・高齢社会における雇用、社会保障負担の在り方等の観点から男女共生に取り組むべきである。

(3)共生社会を実現するためには、保育所の充実整備、育児休業取得の促進、家事分担の在り方等、ハード、ソフト両面からの環境を整備していく必要がある。

(4)女性が自立し、努力に見合った老後を迎えるためにも、社会保障制度や税制等を世帯単位から個人単位へと見直すことが求められる。

(5)真の男女平等を実現するためにも、まず労働の場における男女差別について議論を深める必要がある。

(6)立法過程に女性の意見が反映されることが男女共生社会の実現に不可欠であることから、女性の政治参加という課題に取り組む必要がある。

(7)女性の人権を軽視し、男女の共生を妨げる男性から女性への暴力、セクシュアル・ハラスメントについて取り組むべきである。

(運営その他)

(1)共生に関する各委員の認識は様々であるが、具体的に調査テーマを絞って調査を進める必要がある。

(2)政府が提出を予定している「男女共同参画社会基本法」の法案化作業を視野に入れながら調査を進める必要がある。

(3)調査会の性格上、他の委員会が取り上げないような、また政府の取組が遅れているような調査課題を選定することに意義がある。



二 女性に対する暴力の現状と課題

1 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 平成十年十一月二十六日及び十一年二月三日、女性に対する暴力の現状と課題について、それぞれ参考人から意見を聴取し、意見交換を行った。その概要は、次のとおりである。

(平成十年十一月二十六日)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター長・教授、男女共同参画審議会委員  原 ひろ子 氏

 国連における女性に対する暴力の概念は、身体的、性的若しくは心理的な危害又は苦痛となる行為、さらにはそうなるおそれがある行為、というように非常に幅広くとらえられている。

 日本における暴力の形態は、売買春、性犯罪、ドメスティック・バイオレンス、セクシュアル・ハラスメント等非常に広いもので、女性の人権を軽視して侵害する行為である。また、加害者にその認識がないことも大きな問題である。

 女性に対する暴力は、各国とも潜在化しがちであり、日本においては平成九年に東京都が調査を行っているが、全国的な調査はまだ行われていない。

 女性に対する暴力の課題としては、(1)実態把握のための調査を行うこと、(2)諸外国の現状調査も必要であること、(3)警察庁、厚生省、労働省、裁判所等の連携とともに、医療機関、弁護士等の間でのネットワークを確立していくこと、(4)社会意識啓発と被害予防対策に加え、女性が自ら力を付けていくことが必要であること、等である。

東邦学園短期大学教授  戒能 民江 氏

 女性に対する暴力は、国際的には一九七九年に国連で女子差別撤廃条約が採択されたことを契機に、潜在化していた暴力の実態が明らかになってきた。その後、九三年のウィーン世界人権会議で採択された行動計画において、暴力が女性の人権問題と位置付けられたこと、公私を問わず、すべての女性に対する暴力撤廃がうたわれたことは画期的なことである。さらに同年、国連において女性に対する暴力撤廃宣言が採択され、こうした流れが九五年の北京世界女性会議へとつながっている。

 我が国においては、男女共同参画二〇〇〇年プランで、女性に対する暴力は人権の問題として位置付けられてはいるが、その実態は潜在化しており、社会的、法的対応が不備である。その結果として被害が放置され、更に潜在化するという構造になっている。

 女性に対する暴力については、ジェンダーに配慮した包括的な法的枠組みを開発することが国際社会ではそれぞれの国に要請されている。

 アメリカでは九四年に女性に対する暴力防止法ができたが、加害者訴追プログラムを伴った新たな強力な制裁と被害者支援を結合した画期的な立法であり、警察・検察・裁判所の対応改善、被害者の権利強化、シェルターへの財政補助の強化等が特徴的である。

 我が国においては、ドメスティック・バイオレンスについての特別法の制定が必要であり、現状の問題点としては、(1)ドメスティック・バイオレンスが犯罪として位置付けられていないこと、(2)被害女性が逃げ込むシェルター的役割を果たしている婦人相談所は現行法の下では限界があること、(3)縦割り行政の中で総合的な窓口になる専門機関がないこと、(4)被害女性に対するセカンドステップのサポートがほとんどないこと、(5)被害者のメンタルケアがほとんどないこと、(6)加害者が放置されていること、(7)ドメスティック・バイオレンスに精通している専門家が養成されていないこと、等がある。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)女性に対する暴力は女性の人権侵害と位置付けられているが、人権が軽視される背景には、女性が自己主張や自己決定することを許さない日本社会の風潮があると思われる。

(2)女性に対する暴力が潜在化する要因としては、加害者ではなく被害者が社会的に責められること、加害者からの仕返しに対する恐怖感等が挙げられる。

(3)メディアは女性に対する暴力を助長している面もあるが、逆にメディアを利用することによって啓発を行っていくことも必要である。

(4)警察は民事不介入の原則に基づいて家庭内暴力への介入に消極的である。しかし、警察が何らかの介入をすることによって暴力を抑止する効果が生まれてくる。

(5)夫婦が継続的な夫婦関係を求める場合に、夫の暴力を刑罰権行使の対象とすることが妥当であるかの議論はあるが、家庭内の問題に現行刑法がほとんど適用されないことが問題である。

(6)強姦罪等については、女性がどれだけ抵抗したかではなく、性的自由が侵害されたことが女性の人権侵害であるという観点に立って、裁判例が積み重ねられていくことが必要である。

(7)公平公正な判断を下すためにも、警察官、家庭裁判所調停委員、裁判官、検察官等司法に携わる専門家にジェンダー的視点に立った研修や教育を行っていくことは急務である。

(8)現存の婦人相談所の法的整備を進めることによって、被害女性が逃げ込む公的シェルターとして活用していく必要がある。

(9)ドメスティック・バイオレンスに対する立法化の必要性を裏付けるためにも、国として実態把握のための調査を毎年行っていく必要がある。

(10)ドメスティック・バイオレンス特別法の立法を検討するに際しては、差別という精神的苦痛が暴力となるのかなど、その対象となる女性に対する暴力の範囲を議論していく必要がある。

(11)ドメスティック・バイオレンスに対する立法に際しては、暴力加害者に対する教育やカウンセリングのプログラムが不可欠の要素であり、諸外国でも立法例が多く見られる。また、NGOと司法、行政及び立法の各機関がダイナミックに連携していくことも必要である。

(12)ドメスティック・バイオレンス特別法に盛り込むべき内容としては、目的、定義、対象となる関係、調停前置主義の例外、被害女性のための総合窓口、保護命令、公的機関と民間とのネットワークの構築等が考えられる。

(13)ドメスティック・バイオレンスに関しては、保証金の撤廃等、民事差止命令が使いやすくなるような法的整備が求められる。

(14)大学でのセクシュアル・ハラスメント防止のためには、ガイドラインの作成や公正中立な機構における問題解決への取組が必要である。

(平成十一年二月三日)
弁護士  渡辺 智子 氏

 性暴力の被害者に不当な非難が向けられる根底には、性暴力に関して女性だけに課せられる規範、すなわち性のダブルスタンダードが存在している。性暴力の被害に遭った女性は必死で逃げるのが通例というような強姦神話を裁判所は全く無批判に受け入れて、事実認定の判断基準、経験則として取り入れてしまうことが多いので注意が必要である。

 ドメスティック・バイオレンスは社会構造上の問題であり、女性に従属を押し付けてコントロールしようとすることの表現が身体的・非身体的暴力であり、真に夫の暴力は許されないということを明確にする必要がある。

 このような観点から、性暴力に関しては、裁判官、検察官、弁護士等の研修、告訴期間の撤廃、法律扶助の充実、訴訟以外の救済システムの創設等が必要であり、ドメスティック・バイオレンスに関しては、公的シェルターの拡充、民間シェルターへの補助の増額、司法関係者への研修、調停委員の選考基準の明確化等が望まれる。

東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授  小西 聖子 氏

 犯罪被害者相談を始めてから六年になるが、その中では、性暴力被害者が一番多く、殺人事件の遺族、児童虐待、家庭内暴力がそれに続いており、最近では家庭内暴力の被害者が増えている。また、相談者の八割以上が女性である。

 強姦被害者の多くは警察に届け出ておらず、犯罪白書の件数は氷山の一角にすぎない。被害者が司法や精神医療の現場に現れないのは適当なサービスを受けられないのみならず、二次的被害を恐れるからである。精神医学的には強姦被害は最も高率にPTSD(外傷後ストレス障害)を発生させる犯罪であり、その症状は、事件に関するイメージの侵入、不眠や感情の消失、事件に関する記憶の喪失、過剰な緊張状態など様々であり、その結果、被害者の生活は脅かされ、仕事を失う人も少なくない。

 被害者に対するカウンセリングで一番大事なことは、ただ症状を治療するのではなく、生活全体が元気になり、新しい生活に踏み出せるようなパワーを持たせることである。しかしながら、我が国では性犯罪被害者に対する相談活動は極めて少なく、専門家レベルの受け皿も育ってはいない。

アディクション問題を考える会(AKK)代表  米山 奈奈子 氏

 民間シェルターの運営は、そのほとんどを寄附で賄っていることから、経済的にも厳しい状況にあり、新たなスタッフの確保も困難になっている。シェルターの所在は明らかにしていないが、スタッフの安全が脅かされることもあり、それに対処する法律や施策はない。

 被害者への対応としては、事実上公的シェルターとして機能している婦人相談所の利用期間は原則二週間であり、それでは不十分であることから、当シェルターでは三か月としている。シェルター利用者に対する相談支援等の専門機関は少なく、また、児童扶養手当は別居後一年以上でないと支給されないなど、子供連れの被害女性に対する経済的保障がなされていない。

 民間のシェルターの経済的基盤やマンパワーはその規模等により格差があり、シェルターの実情に合わせたネットワーキングを進めることにより情報交換を行っている。

 今後の課題としては、ドメスティック・バイオレンスに対する法的整備、民間シェルターに対する公的資金の助成、保健・医療専門職、福祉職員、学校職員等に対する研修・育成である。

 このような参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)性暴力被害者に対する不当な非難の要因となる、女は「こうあるべきもの」という固定観念の根底には、女性を産む性としてとらえる家父長制があると考えられる。

(2)性暴力の被害に遭った女性は、殺されるかもしれないという恐怖から感情が麻痺したり、現実感がなくなったりするため、まず抵抗するはずだとの考え方は非現実的である。

(3)被害者の安全確保のために、面会禁止等の仮処分に反する行為に対し、刑事罰を適用するような法的措置が求められる。

(4)暴力加害者の継続的カウンセリングがドメスティック・バイオレンス防止に必要であるが、我が国ではその取組がほとんどなされていない。また、アメリカでもカウンセリングを受けたがらない重度の加害行為者にいかに参加を強制させるかが課題とされている。

(5)強姦被害女性のPTSDの発生率が極限状態にある戦争体験者のそれよりも高いのは、生命の危険を感じ、性的統合性が根幹から侵されるという心理状態、さらには二次的被害を受けやすいことなどに起因すると考えられる。

(6)性暴力被害者が電話一本で適切な相談、指示が受けられるホットラインが設けられるべきであるが、その前提として被害者支援の受け皿が確立されていることが必要である。

(7)性暴力被害を受けた女性が心を落ち着け、加害者を告発する心理状態になるまでの時間を考えると、刑事訴訟法の告訴期間六か月を撤廃する必要がある。

(8)強姦被害者の救済として、犯罪被害者等給付金支給法と類似の法律制度を考える場合には、税金で賄われている給付金財源についての妥当性をも検討する必要がある。

(9)被害女性に安心感を与えるという意味では、被害者に応対する捜査官や司法関係者さらには医療関係者が同性であることが望ましい。

(10)司法関係者に対するジェンダー教育に当たっては、まず司法修習生を対象に行うことが現実的である。

(11)犯罪被害者心理の研修は、警察が最も進んでおり、裁判所は遅れていると思われる。

(12)公的機関での相談体制拡充のためには、相談員のジェンダーの視点の十分な理解、シェルター滞在期間の延長、民間シェルターとの連携などが求められる。

(13)時代に適応していない婦人補導院などの施設を公的シェルターなどに転用することを検討すべきである。

(14)民間のシェルターが力を付けていくためには、家賃補助や人件費に対する公的助成制度の確立などが必要である。

(15)シェルターの保護機能を法的に整備するに際しては、夫等の加害者から人身保護請求が出された場合でも被害者の意思が尊重され、暴力から逃れる権利があるということを盛り込む必要がある。

(16)諸外国では、性暴力に対する長年の取組や被害実態調査の実施の上に、ドメスティック・バイオレンスに対する法的整備がなされていることを我が国としても学ぶ必要がある。

2 政府等からの説明聴取及び主な質疑

 女性に対する暴力の現状と課題について、平成十一年二月十日に警察庁、法務省及び最高裁判所から、また、四月十九日に文部省、厚生省及び労働省からそれぞれ説明を聴取し、質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

(平成十一年二月十日)
警察庁

 平成十年中の性犯罪(強姦、強制わいせつ)は、認知件数六千百二十四件、検挙件数五千百五十件、検挙人員三千四百二人であり、平成七年に比べ、認知件数で一九・一%、検挙件数で一〇・九%、検挙人員で二九・六%増であり、平成八年二月に被害者対策要綱を制定し、組織を挙げた性犯罪被害者対策を開始して以降、諸対策の成果が現れている。

 性犯罪被害者対策としては、性犯罪捜査指導官や女性警察官を含む性犯罪捜査指導係の配置等による性犯罪捜査体制の整備充実、被害者の精神的負担緩和のための事情聴取体制の整備、専門の女性警察官やカウンセリングのスキルを有する女性職員等が相談に応じる相談受理体制の整備、証拠採取に際しての被害者の精神的負担軽減のための性犯罪捜査用資器材の整備、産婦人科医師会等とのネットワークの構築、等を実施している。

 警察官に対するジェンダーの視点からの研修体制については、採用時や昇任時における教養の実施、幹部の指導等による教育、さらには各種研修会等による教養を通じて、その整備に努めている。

 平成十年中の夫から妻への犯罪の検挙件数は五百十三件であり、今後も被害の状況等を客観的かつ正確に把握し、被害者の意思を十分尊重して厳正に事件捜査に当たっていく。

法務省

 女性の性的自由を侵害する行為については、刑法第百七十六条以下に強制わいせつ罪、強姦罪、強制わいせつ等致死傷罪等が設けられており、刑法第百七十七条の強姦罪の構成要件としては、十三歳以上の女子については暴行又は脅迫を用いて姦淫した場合に成立することとされているが、ここでの暴行、脅迫とは被害者の反抗を抑圧する程度のものであることは必要なく、被害者の反抗を著しく困難にする程度のもので足りると解されている。また、強姦罪及び強制わいせつ罪は親告罪とされ、被害者からの告訴がなければ起訴できないが、複数の者が犯行現場で共同して強姦等を行った場合には親告罪ではない。

 強姦や強制わいせつについては近年増加傾向にある。また、一審で有罪判決を受けた者のうち、強姦罪では六〇%ないし七〇%の者が、強姦致死傷罪では六八%ないし七五%の者が、強盗強姦罪ではほぼ一〇〇%の者が実刑判決を受けており、刑事事件の一審での有罪判決を受けた者の実刑率約三七%に比べれば実刑率は高いと言える。

 検察官に対するジェンダーの視点からの研修については、新任検事実務教育や任官後おおむね三年前後に行われる検事一般研修などその経験年数に応じて実施している。また、事情聴取に当たっては被害女性の精神状態等に格別の配慮を払うこと、公判においては証人となった被害女性保護の観点から公判の停止、特定傍聴人及び被告人の退廷、不適切な質問に対する異議申立て等の活用についての指導を行っている。

 法律扶助制度は、民事紛争の当事者が経済的理由により一時に訴訟費用や弁護士費用が払えない場合であっても、弁護士による援助を得て民事裁判などにおいて自己の正当な権利の実現を図るための制度である。平成九年度の扶助事件数は八千百七十二件、うち離婚事件は千八百二十九件であり、サンプル調査では離婚に関する扶助事件の中では夫の暴力を原因としたものが相当数を占めている。

 法務省の人権擁護機関は、啓発活動、人権相談及び人権侵犯事件の調査処理を行っている。また、全国約一万四千人の人権擁護委員が法務大臣から委嘱されているが、その約二八%が女性である。

最高裁判所

 平成九年の家庭裁判所における婚姻関係事件のうち、妻からの申立動機として、夫が暴力を振るうことを理由としている事件は、三つまでの複数回答ではあるが、三〇・九%を占めており、年齢区分では五十歳代以上の中高年グループにウエイトがかかっている。

 暴力を振るう夫は、総じて、虚勢を張って強がりを言う反面、小心で寂しがり屋で内心の不安が強いというような特性が事例からはうかがえる。一方、妻の側が夫の暴力から逃げ出さなかった理由としては、自分で責めを負い込んでしまう、子供がいるから別れられない、報復を恐れて被害を訴えられない、経済的に夫に依存している、等が挙げられる。

 調停は、まず話合いによる解決を図ることに眼目があり、妻への対応としては妻の気持ちをよく聞き、受容的に受け止めて情緒の安定を図ることに努めている。妻が離婚の意思を固めて円満調整の余地がないときは、子供を引き取る場合の受入態勢等、離婚後の生活設計を具体的に考えてもらうよう働き掛けを行っている。暴力を振るった夫の側は、往々にして調停に出て来ないことから、まず出頭を促すことに注力しており、その上で妻が暴力によってどのように傷つき悩んでいるかを理解させる働き掛けを強くしている。

 調停の成立率は全体で四五・二%であるのに対し、暴力を理由に挙げている事件の場合の成立率は三七・二%と低いが、これは夫自身の生育環境や、人格的な根深い問題を抱えた当事者も少なくないことから調停が難航すること等の背景があると思われる。調停での事故防止のため、申立てを行った妻の要請に応じて夫に住所を教えない、危険を感じる事案の場合は事前に家裁調査官が夫に会って気分を冷静にさせておく、調停室を分けて当事者を会わせない、職員を配置して不測の事態に備える、等の配慮をしている。

 家裁の裁判官は日々の事件処理が研修の場そのものであるが、司法研修所における研修の機会にジェンダーの視点についての周知を図っており、調停委員についても研修の機会等に暴力の事例を含んだ事例研究を行うことなどにより、ジェンダー意識の高揚を図っている。

 このような政府等からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)女性に対する暴力の実態調査を、警察庁も含め政府が行っていく必要がある。

(2)警察は何もしてくれないとの批判にこたえるためにも、家庭内暴力については、プライバシーにも配慮しつつ、適宜適切に介入していくことを検討していく必要がある。

(3)ドメスティック・バイオレンスに際して、警察官が家庭内に介入できるようなミニマムスタンダード的な指導指針を作成しておくことが必要である。

(4)性犯罪の被害者の相談に当たる女性警察官の割合を積極的に増やしていく必要がある。

(5)性犯罪の被害者が警察での取調等により二次的被害を受けないような配慮を行うなど、被害女性が訴えやすい環境をつくっていくことが犯罪の潜在化を防止することにもなる。

(6)暴力を振るう加害者から逃れた女性が様々な相談を統一的にできるよう、各交番が総合的窓口の役割を果たす必要がある。

(7)性非行の低年齢化に対処するための教育や性犯罪被害者のリハビリ等の対策を国家的危機意識を持って行うためにも、警察庁が中心となって文部省や厚生省等に積極的に働き掛けていくことが求められる。

(8)強姦等の被害者に対し、治療費やカウンセリングに要する経費を始め、シェルター施設の全国的な整備、救済に当たる者の配置、さらにはシェルター入所者の負担軽減等の措置を国家的に検討していくことが考えられる。

(9)通り魔的な強姦等については、犯行の前後等の状況を勘案することなく、直ちに実刑を科すことが女性に対する性暴力の抑止力となる。

(10)強姦罪の量刑の下限が強盗罪の下限よりも低いのは、女性の人権に対する罪という位置付けがなされていないためとも考えられるので、その引上げを図るべきである。

(11)性暴力被害女性の精神的な立ち直りの期間を参酌し、強姦罪の告訴期間六か月を無期限とすることも検討していく必要がある。

(12)被害者への接近を禁止する等の差止命令の違反に対し罰則のある制度が米国でも有効であることから、我が国でも加害者の行動を規制する立法措置を検討する必要がある。

(13)被害女性の尊厳を傷つけないためには、ジェンダーの視点に立った研修を警察官、検察官さらには人権擁護委員、家事調停委員等に絶えず繰り返して行っていく必要がある。

(14)女性問題に十分な理解を持っている家事調停委員の選任ができるよう、調停委員の制度について処遇を含めて見直していく必要がある。

(平成十一年四月十九日)
文部省

 ジェンダーに関する教育については、まず、初等中等教育において児童生徒の発達段階に応じ、社会科、家庭科、道徳及び特別活動等を通じて男女平等に関する教育を適切に指導し、性に関する科学的知識を理解させるとともに、児童生徒が健全な異性観を持ちこれに基づいた行動ができるように指導している。次に、大学において女性学及びジェンダー研究に関する教育研究体制の整備がなされており、女性学関連の授業科目等を開設している大学は平成九年度の調査では国立三十九校、公立十二校、私立百十八校、合計百六十九校である。さらに、社会教育において女性が学習成果をいかし、社会のあらゆる分野での活躍を促進するための学習機会の充実、社会参加の促進、婦人教育施設の充実、男女平等を推進する教育・学習活動の充実を図るとともに、父親の家庭教育への参加支援の視点を踏まえた「家庭教育手帳」等の作成・配布、男女共同参画学習促進事業等を行っている。また、地方公共団体が実施している女性の生涯学習促進総合事業等に対する補助等を行っている。

 学校におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための取組状況について平成九年度に各都道府県教育委員会及び大学等を調査した。その結果、大半の教育委員会において一般的な研修で服務規律、生活指導等を扱う中でセクシュアル・ハラスメントの問題を取り上げている。また、すべての教育委員会においてセクシュアル・ハラスメントの問題を含む様々な相談に対応する体制を整えている。大学については全学的な調査・対策機関を設置しているのは三十九校にすぎず、まだ十分ではない。

 平成十一年三月三十日に文部省の全職員を対象にしたセクシュアル・ハラスメント防止等に関する規程を制定し、周知徹底を図るため通知した。セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除並びにセクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合の対応に関して必要な事項を定めている。今後とも積極的に対応していきたい。

厚生省

 婦人保護事業では、婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設が中心になって売春防止法第四章に基づく要保護女子の保護更生と売春の未然防止に関する業務を実施しており、関係予算額は約二十億円である。広報活動については創意工夫をいかして積極的に行うよう指導している。

 婦人相談所は各都道府県に一か所設置されているが、必ずしも売春を行うおそれがない者を含め、日常生活を営む上で何らかの問題を有する女子について広く相談に応じ、保護、援助を行っている。実際に、「夫の暴力・酒乱」が相談内容の一〇%を占めている。婦人保護事業関係職員に対する研修については、夫の暴力等に対するテーマにも重点を置き、厚生省が婦人相談所長、婦人相談員、心理判定員等を対象に毎年行っているほか、都道府県も積極的に行っている。

 婦人相談所等においては暴力被害者に対して精神保健・ケア対策、医療福祉対策について保健所、福祉事務所等関係機関と連携を図りながら実施している。婦人相談所には医学的な判定や心理的な判定の専門家を配置している。また、被害者等に危険が及ぶ場合は警察に通報している。さらに、民間シェルターから婦人相談所に暴力被害者に対する対応の依頼等が行われるケースもある。

 母子家庭等福祉対策には、母子家庭等の経済的自立と生活意欲の助長を図るため、修学資金、就学支度資金等を貸し付けることを内容とする母子寡婦福祉資金の貸付と訪問介護員等養成講習会の開催等を内容とする自立促進策、児童扶養手当の支給等がある。

 母子生活支援施設が全国に三百か所あり、母子家庭、離婚等にまで至っていない母子、又は夫の暴力等から逃げて住所を離れてしまった女子等を対象とし、これを保護し、自立の促進と生活の支援を図っている。同施設には児童が満二十歳に達するまで在所させることができる。また、平成十一年度から夫の暴力等のために住所地から避難し、保護を必要とする母子を受け入れるために必要な経費を支弁する「広域入所促進事業」を創設した。

労働省

 労働省では母子家庭の母親に対し就労面での援助を行っている。公共職業安定所では寡婦等職業相談員の配置、都道府県に設置されている女性就業援助施設では、特に技術講習の優先的受講とともに受講旅費の支給等も行っている。職業訓練については、公共職業能力開発施設における職業訓練及び事業所内で行われる職場適応訓練を受けることができ、ともに訓練期間中には平均月額十三万九千七百七十円の訓練手当が支給される。

 平成十一年四月一日施行の改正男女雇用機会均等法では、初めてセクシュアル・ハラスメントに関する規定が設けられた。これは、セクシュアル・ハラスメントが女性労働者の尊厳を不当に傷つけ、その能力の発揮を阻害するのみならず、企業にとっても円滑な業務の遂行を阻害するとともに、社会的評価に影響する問題であるからである。労働省では、セクシュアル・ハラスメント防止について指針を定めるとともに、都道府県女性少年室における行政指導、女性労働者からの相談への対応、関係団体等を通じての実践的な講習会等を行っており、さらに平成十一年度からは、女性少年室にセクシュアル・ハラスメントカウンセラーを配置することとしている。

 女性少年室が対応したセクシュアル・ハラスメントに関する相談件数は、平成八年度千六百十五件、九年度二千五百三十四件、十年度は約七千件の見込みであり、特に十年度後半は企業からの相談が増えている。相談内容は、企業からは防止対策への取組方法、女性労働者からはセクシュアル・ハラスメントのために退職に追い込まれたこと、精神的なダメージを受けどう対処したらよいか分からないといったことが多い。

 このような政府からの説明を踏まえ、質疑を行ったが、その概要は、次のとおりである。

(1)婦人相談所がドメスティック・バイオレンス被害女性を受け入れることになったのは、適切な施設が他にないことから、目の前のニーズにこたえなければならないという事情があったためと思われる。

(2)ドメスティック・バイオレンス被害女性の婦人相談所での受入れに当たっては、通達に基づくのではなく、法律に根拠を求めていくことが望まれる。

(3)婦人相談所本来の役割が低下していることから、婦人相談所を売春防止法とは切り離して、公的シェルターとして位置付けていくことを検討すべきである。

(4)公的シェルターの役割を果たしている婦人相談所や婦人保護施設の絶対数が不足していることから、民間シェルターとの連携を図るとともに、公的施設への入所を後回しにされやすい高齢者や知的障害を持つ女性を民間が受け入れていることから、民間シェルターへの財政的助成を行っていく必要がある。

(5)ドメスティック・バイオレンス被害女性の婦人相談所での受入れに際しては、被害女性の気持ちを十分理解できるような専門的知識を有する職員が必要となることから、その研修体制の整備を図るべきである。

(6)ドメスティック・バイオレンス被害女性の精神面のケアの重要性からも、婦人保護施設に配置されている精神科医や心理判定員の配置基準を見直していく必要がある。

(7)超過滞在の外国人の施設受入れに際して、入国管理局への通報を義務付ける通達によって外国人女性が施設への入所をためらうことから、通達の見直しを検討するべきである。

(8)夫からの暴力から逃げ出した女性が子供を同伴して婦人保護施設に入所する場合、同伴する子供の年齢にかかわらず母親と同居できるような柔軟な対応が求められる。

(9)夫からの暴力から逃れて生活する女性の子供について、住民票がなくても就学が可能となるような対応を徹底していくとともに、児童扶養手当の支給要件を見直していく必要がある。

(10)母子家庭の母親に対する公共職業訓練の利用を促進させるために、制度の周知徹底を図る必要がある。

(11)全国の県・市の教育センターに開設されている教員から生徒へのセクシュアル・ハラスメント相談窓口については、生徒が訴えやすい環境を作るとともに、その周知徹底を図る必要がある。

(12)男女共同参画社会を形成していくためにも、各学校等に運用が任されている男女混合名簿について、文部省として積極的に推進、指導していく必要がある。

(13)セクシュアル・ハラスメントに対する女性労働者の相談体制を充実するため、各企業に専門のカウンセラーを設置するよう労働省として指導していく必要がある。

(14)真の男女平等を追求し、ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメントが起こる背景にある男性優位の社会を崩していくためにも、男女の肉体的、精神的な能力の違いや男女別学制の教育的効果等について、科学的に研究を行っていく必要がある。

3 調査会委員間の自由討議

 参考人からの意見及び政府等からの説明聴取を踏まえ、女性に対する暴力についての調査会委員の認識や今後の取組の方向性を見いだすため、平成十一年五月十二日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は、次のとおりである。

(1)女性に対する暴力の発生は、民族的、地域的に濃淡があることから、安易に外国との比較や一律的な規制を行うことは避けるべきである。

(2)女性に対する暴力は世界共通の問題であり、我が国において地域的偏りがあるとすれば、それはむしろ潜在化しているにすぎない。

(3)ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメントが発生する原因を究明することが、その対応策を考える上でも重要である。

(4)ドメスティック・バイオレンスは、これまでの男性優位の社会や個人主義の台頭あるいはコンプレックスの現れ等から生じると考えられるが、原因を特定することは困難である。

(5)ドメスティック・バイオレンスへの対応策なり立法化に必要な社会事実の明確化のためにも、実態を把握するための調査を行うべきである。

(6)女性に対する暴力の実態調査や発生原因の究明も必要であるが、この問題の緊急性から、被害女性に対する現行法での対応や新たな法的枠組みの検討を行うべきである。

(7)ドメスティック・バイオレンスを根本的に解決していくためには、長期的には学校教育において性差別的な意識を改革し、一人の人間としてその価値を認めていく啓発がなければならない。

(8)ドメスティック・バイオレンスに対する行政の対応には、自らの業務の一つであるとの認識が薄いことから、立法府として行政府に対し、その対処に向けての強い勧告を行うことも考えられる。

(9)現在の行政の体系からは、ドメスティック・バイオレンスの被害者支援のための責任の所在が明らかでない。そのため、むしろNPOのような民間が主体的に行い、行政は財政的援助を行っていくような対応も考えられる。

(10)ドメスティック・バイオレンス撲滅の道筋を付ける一つの方法として、暴力は女性の人権侵害であるということをマスコミ等を通じて周知させる必要がある。

(11)ドメスティック・バイオレンスに対する法的整備は、我が国を除いた先進諸国では進んでおり、本調査会として実効ある成果を得るためにも、諸外国の現状や法的整備の状況について更に調査を進めていく必要がある。

(12)ドメスティック・バイオレンスを女性に対する一般的な暴力と同様に法律で律していくことが望ましいのか、十分検討する必要がある。

(13)ドメスティック・バイオレンスの立法化は、いたずらに罪人をつくりあげるためのものではなく、真に男女が共生していくためのものである。

(14)女性に対する暴力の基本法を制定する場合には、その目的を明確にし、立法事実を明らかにするとともに、この法律によってどのような社会が構築できるのかを示していく必要がある。

(15)個別法の裏付けのない基本法の制定は無意味であり、法律を制定すれば行政が対応すると考えることは安易である。

(16)女性に対する暴力の基本法を制定すれば、現行制度の下での対応が取りやすくなるとともに、夫婦間暴力が犯罪であることの法的な明確化によって、抑止効果が期待できる。

(17)ドメスティック・バイオレンスの被害者に対応するのは現場の地方公共団体であり、地方の行政が対応できるような法律を制定することが求められる。

(18)女性に対する暴力については、その課題を、現行法で対応できるもの、法改正が必要なもの、新規立法が必要なものにそれぞれ区分して、対応に向けての議論を進めていくことが必要である。

(19)被害者を含めた多くの人達が、本調査会でのこの問題の成り行きを注目しており、法整備の問題を含めて引き続き調査を進めていくことが望まれる。

(20)女性に対する暴力に関しての調査を引き続き行う場合には、「女性に対する暴力の後は女性の政策決定過程への参画について調査を進める」とした各会派間の合意を再度協議する必要がある。


三 男女等共生社会に関する実情調査

 平成十一年二月十六日から十八日までの三日間、徳島県及び兵庫県において、男女等共生社会に関する実情調査を行った。今回の委員派遣では、徳島県においては男女共同参画に対する取組状況を、兵庫県においては女性に対する暴力の取組状況をそれぞれ中心に調査を行った。

 徳島県では、昭和五十九年に「徳島県婦人対策総合計画」を、また、平成三年には「徳島県女性対策総合計画」を策定、それに基づいて女性の政策決定の場への参画を主要課題と位置付け、平成十年七月には「女性による県議会」を開催、県議会議員定数と同じ四十二人の女性議員が、「教育・人権」などの委員会に分かれて意見を交わしている。調査会委員と県担当者との間では、「女性による県議会」の提言の県政への反映状況、県職員の女性割合と管理職の登用状況等について質疑がなされた。

 兵庫県では、男女共生社会実現のための県の施策について、県当局との意見交換を行うとともに、女性に対する暴力に関し、神戸市に事務局を置く女性救済のための民間組織である日本DV防止・情報センター関係者及び兵庫県警察本部と、それぞれ意見交換を行った。日本DV防止・情報センター関係者との間では、カウンセラー、弁護士、民間シェルター、報道の各方面で問題に取り組んでいる方々から、ドメスティック・バイオレンスが犯罪となりにくい状況、暴力家庭での世代間連鎖、民間シェルターの運営実態、アメリカの法制度と関連機関のネットワーク体制等について説明を聴取し、DV被害者の保護救済策、男性が暴力を振るう理由とアメリカの再教育プログラム等について意見交換を行った。また、兵庫県警察との間では、警察における被害者対策の概要について説明を聴取し、警察官に対するジェンダーの視点からの研修、女性に対する暴力についての現場警察官の対応等について質疑を行った。

第III 女性に対する暴力についての提言

 本調査会がこれまで取り組んできたドメスティック・バイオレンス(夫(恋人)からの暴力)を中心とした女性に対する暴力の問題については、本報告書の調査の概要でも明らかなように、女性に対する暴力についての認識から法的対応の在り方まで、広範な論議が行われ、問題点についても明らかになった。

 このうち、我が国においていまだ行われていない全国的な実態調査の必要性、被害女性に対する支援体制、被害女性が暴力から逃げ込むシェルターの充実、女性に対する暴力を根絶するための予防・啓発活動の充実、さらにはドメスティック・バイオレンスについての警察の適切な対応等については、各委員の認識が共通するところとなった。

 他方、ドメスティック・バイオレンス対策特別法等の制定、地域において実際の問題解決に当たる地方自治体の視点を踏まえた個別法の整備等の法的対応策等については、その前提として、女性に対する暴力の課題を、現行法で対応できるもの、法改正が必要なもの、新規の立法が必要なものにそれぞれ区分して、対応に向けての議論を進めるべきであるとの指摘もなされていることから、今後の検討課題とすることとした。

 こうした取組を経て、今回、本調査会として当面する課題について、次のとおり提言する。

 なお、提言のうち、緊急を要する事項で予算措置が必要なものについては、関係省庁等において早急に検討を行い、概算要求に反映させていくべきである。

一 女性に対する暴力についての調査・研究

 女性に対する暴力の実態調査については、速やかにこれを実施し、その結果を広く公表するとともに、特に緊急性を有する被害女性の保護、精神的ケア対策等については、早期に有効、適切な措置を講ずるべきである。

 さらに、定期的な実態調査や暴力の発生原因の究明等を行い、暴力への対応策を総合的、継続的に検討していく必要がある。

二 暴力被害者に対する支援体制

 1 暴力被害者対策は、その所管が各省にまたがることから、関係省庁等が十分連携し問題解決に当たるとともに、地域においても、医療機関、弁護士会、民間支援団体等をも含めたネットワークの確立が必要である。

 2 女性に対する暴力に関し、専門的な知識と経験を有する者から成る総合相談窓口の設置や精神的ケア・サポート体制を充実するとともに、その周知を図る必要がある。

三 暴力被害者のためのシェルターの在り方

 被害女性の相談や保護のための公的な事業は、主に売春防止法上の婦人相談所において通達に基づき行われているが、法の目的と現状が著しく乖離し対応にも限界がみられることから、被害女性の保護施策の在り方について法改正を含め抜本的に検討する必要がある。さらに、時代に適応していない婦人補導院についても、シェルターへの転用等その在り方に関して検討する必要がある。

 また、民間シェルターは、被害女性支援に重要な役割を果たしていながら、厳しい運営を強いられていることから、財政的な支援策等について検討する必要がある。

四 女性に対する暴力についての関係職員の研修

 個々のケースに対応する、警察、司法、医療、福祉等の関係職員が、女性に対する暴力の問題を正しく認識し、公平、公正な判断が行えるよう、ジェンダーの視点に立った研修の充実を急ぐべきである。

五 女性に対する暴力についての予防、啓発

 女性の人権が尊重され、暴力のない社会を実現するためには、学校教育・社会教育等の場における教育・啓発活動の充実を始め、様々な媒体を利用した広報活動の充実、女性のエンパワーメントのための施策の推進により、性差別意識の改革や女性の自立を図る必要がある。

 また、加害者に対するカウンセリングや教育プログラムなどの検討も必要である。

六 ドメスティック・バイオレンスについての対応

1 警察の対応

 ドメスティック・バイオレンスの抑止のためには、家庭内の問題であっても法に触れるような場合は、被害の状況を客観的、正確に把握した上で、警察として適切な対応をする必要がある。その際、一線の警察官が適切な状況判断ができるよう、ミニマムスタンダードのような指導指針を作成し、その徹底を図る必要がある。

2 接近禁止等の仮処分命令

 被害女性が裁判所に申し立てる加害者の接近禁止等の仮処分命令については、迅速性や保証金の要否の点で、暴力から逃れた女性の要請にこたえきれていないことから、被害女性が利用しやすいものとなるよう検討する必要がある。

3 経済的自立支援策

 被害女性の経済的自立支援のためには、問題の本質を十分認識した上で、関連する就労、母子福祉等の施策の連携と充実を図る必要がある。