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国民生活・経済に関する調査会

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国民生活・経済に関する調査報告(最終報告)(平成13年6月20日)

目次

I 調査の経過

 平成十年八月に設置された今期の国民生活・経済に関する調査会は二十一世紀初頭にも予想される人口減少社会の到来を前に、我が国社会を引き続き豊かで活力あるものにするには、次世代の育成を図るとともに、国民一人一人がその能力を生涯を通じて発揮していくことが必要であるとの認識から、今期のテーマを「次世代の育成と生涯能力発揮社会の形成」と決定し調査を開始した。

 初年度はテーマ全般について調査を行うこととし、少子化の要因と対応、子どもの心身の健全育成、高齢者の能力開発・社会参加の条件、学校教育の現状と課題、非婚化・晩婚化の要因、不妊治療の実態等について、政府・参考人から説明・意見を聴取し、質疑を行い、その後、委員間の意見表明及び自由討議を行った。また、平成十一年二月には教育、雇用及び福祉等国民生活・経済の諸問題に関する実情調査のため鹿児島、宮崎両県に委員派遣を行った。

 質疑では、少子化の経済的影響に対する歯止め、若者の自立支援、産前産後の母性保護、道徳教育の問題点、社会の子育て支援、学校教育の課題、教育改革の在り方、パラサイトシングルの実態、少子化対策としての不妊治療、高齢者の知識や経験の活用、人材バンクの創設等の問題が取り上げられた。意見表明・自由討議では、少子化は個人の自由な選択の結果であり社会が強制するものではないが、次世代を担う子どもを安心して生み育てられる社会を形成することが必要、そのためには家庭と仕事が両立できる職場環境づくり、保育サービスの充実、乳幼児医療費の助成、育児不安の除去等の課題に取り組むべきとの意見、次世代の健全育成については、少子化は次世代を担う子どもの健全育成に大きな影響を与えている、子どもの成長と発達を中心においた学校教育の抜本的改革、子どもが安心して生活できる地域社会の形成が必要である等の意見、生涯能力発揮社会の形成について、二十一世紀の社会がそれぞれの個人の能力に応じ、その役割を果たせる社会であるためには、生涯にわたり学習や能力開発ができる環境の整備、高齢者、女性、障害者がその能力を発揮できる職場環境の改善が必要であるとの意見等が述べられた。

 こうした初年度の調査の結果、少子化の進展がもたらす我が国経済社会への影響がより深刻であるとの認識が深まり、「少子化」との関連を一層明確にするため調査項目を「少子化への対応と生涯能力発揮社会の形成」に改め、平成十一年八月に中間報告書を議長に提出した。

 なお、閉会中の平成十一年九月、本院から、ドイツ、スウェーデン及びフランスにおける少子化対策と人材育成等の調査のため久保会長を団長として海外派遣が行われた。

 二年度は、少子化問題を中心に調査を行うこととし、外国における少子化問題の取組、少子化への対応、少子化の進展と社会保障負担の在り方、政府の少子化対策推進基本方針及び新エンゼルプラン、育児支援、育児の経済的負担軽減の在り方、経済界並びに労働界の少子化問題に対する考え方等について政府・参考人から説明・意見を聴取し、質疑を行い、その後、委員間の意見表明及び自由討議を行った。また、平成十二年二月、少子化の現状と対策等に関する実情調査のため、山口、広島両県に委員派遣を行った。

 質疑では、男女共同参画社会の成熟と出生率の関係、労働時間の短縮、育児休業制度の充実、子ども看護休暇制度の創設など育児と仕事の両立のための労働環境の整備、待機児童の解消や保育サービスの充実など保育環境の整備、国の乳幼児医療制度の助成、児童手当制度や奨学金制度の拡充など子育てに対する公的支援の在り方、少子化の進行と社会保障の担い手問題、外国人労働者導入の必要性等が取り上げられた。意見表明・自由討議では、女性の出産・育児と社会参画が矛盾しない政策を採れば出生率は回復するので、男女共同参画社会の実現を図る必要があるとの意見、少子化対策は長期的かつ大胆に取り組むべき課題であり、そのためには基本法の制定を急ぐべきとの意見、少子化対策の基本は「産めよ殖やせよ」政策ではなく、安心して子育てできる社会をつくることであり、そのために子どもの人権の確立と女性の性と生殖に関する自己決定権を保障することが大前提であるとの意見、子育て支援は家族、地域社会、行政一体として取り組まねばならず、短期的課題として特に、保育サービスの整備や育児休業制度の改善、子ども看護休暇制度の創設等は緊急を要するとの意見等が述べられた。

 こうした調査を踏まえ、平成十二年五月、特に重要であり、早急な取組が求められる「出産・育児にかかる経済的負担の軽減」、「保育所等の整備」、「育児と仕事の両立」、「子どもの看護休暇」、「男女共同参画社会の形成」、「外国人労働者問題の検討」の六項目の提言を含む中間報告書を議長に提出した。

 最終年度は、引き続き少子化問題を中心に過去二年間で未調査の分野の調査を行うこととし、少子化に対する地方自治体の取組、若者の結婚に対する意識、育児と仕事の両立支援に関する企業の取組、少子化を視野に入れた生涯能力発揮社会の形成及び少子化問題の政策的対応、少子化対策関連予算、二年度の当調査会の提言の実施状況等について政府・参考人から説明・意見を聴取し、質疑を行い、その後、委員間の意見表明及び自由討議を行った。

 質疑では、未婚・晩婚化傾向是正の可能性、未婚の母・婚外子に対する差別の撤廃、雇用環境の改善と企業の役割、生涯能力発揮社会の形成と少子化との関係、エージフリー社会への変革のための課題、雇用の流動化と税制・年金等社会制度の在り方、高齢者による子育て支援の可能性、不妊治療と出生率の関係、社会保障の財源調達の在り方、仕事と家庭の両立と景気の関係等が取り上げられた。

 そして、三年間の調査の総括として行った各会派意見表明及び委員相互間の意見交換では、少子化を改善するには夫婦で理想とする子どもの数を持てるような環境を整備すべきであるとの意見、少子化対策に当たっての基本的考えとしては、男女共同参画社会の構築や社会全体で子育てを行える仕組みづくりが重要であるとの意見、仕事と育児の両立支援のためには男女差別のない雇用、職場環境の改善や保育施設等サービスの充実が必要であるとの意見、子育て世帯への経済的負担の軽減策の推進を図るべきとの意見、少子化問題は高齢社会と裏腹の問題であり、国家の意思を明確に示すことが大事であるとの意見等が述べられた。

 また、今期の調査会の調査を踏まえ、本会議での会長による最終報告に引き続き、本会議決議を行うべく、当調査会委員の発議による「少子化対策推進に関する決議案」を提出することとした。

 本報告書は、最終年度の調査の概要を紹介するとともに、過去三年間の調査会で論議が交わされた課題を整理し、重要であり速やかな取組が求められる事項について十二項目の政策提言を取りまとめたものである。

II 調査の概要

一 参考人からの意見聴取及び主な質疑応答

(一)地方自治体における少子化対策について(平成十二年十一月八日)

 地方自治体における少子化対策を概観するため、積極的な取組を行っている岩手県及び横浜市の担当者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(岩手県保健福祉部長  関山 昌人 参考人)

 岩手県の人口は、現在約百四十万人で、若年層の流出等により減少している。合計特殊出生率は平成十一年に一・五二、出生数は一万二千人余となっている。

 県内在住の六千人の男女を対象とした意識調査によると、出生率低下の原因として、高い子育てコスト、仕事と子育ての両立の困難さ、結婚観の変化、仕事優先の雇用慣行等があげられ、理想とする子どもの数を持たない原因は、子育てコスト、母親にかかる心理的負担、仕事への影響、教育に対する不安等がある。

 このため、少子化対策に当たっては、子育てコストの軽減、子どもの教育・進路の不安の解消、仕事と子育ての両立が求められる。特に、核家族や女性の社会参加が進む中、家族の養育機能は低下し、女性の子育て負担は増しており、子育てを外部化できる受皿の整備、子育ての夫との共同化、育児と就業の両立できる状態をつくることが必要である。

 このような課題に対処するため、「いわて子どもプラン」を策定中である。計画は、中長期的展望にたって少子化対策を総合的、計画的に推進するための基本方策と施策の具体的方向を示しており、平成十二年度から二十二年度までの十一か年計画となっている。

 本計画の特徴は、これまでの保育、就学前児童中心の対策から、小学生から中学生も含めた総合的対策であること、県計画の外に地方振興局別に目標を掲げた地域計画を策定することである。計画では、社会の視点、親の視点、子どもの視点を基本的な柱として、施策の基本方向として八つの基本方針を掲げており、また、地域の問題を地域で解決できる総合的取組体制を整備することとしている。

 少子化対策は、将来の社会づくりに向けた先行投資となる重要な施策であるとの認識から、所要の施策を積極的に進める必要があり、国、県、市町村一体となった取組が大切である

(横浜市児童福祉部長  合田 加奈子 参考人)

 横浜市の保育施設の状況は、公立で百二十五施設、民間で百十一施設、認可外保育施設二百九十七施設、家庭保育福祉員が四十人、ベビーホテルが二十一である。認可外保育施設は増加傾向にあるが、その背景としては、待機児童が多いこと、保育ニーズの多様化していることがある。九年度からの五か年の緊急保育計画においては、認可保育所、横浜保育室各々三千人の定員増を行うこととしている。また、市有地の無償貸付けにより保育所の整備を促進しており、現在十か所で貸付けを行っている。

 横浜保育室は、保育料、保育環境、保育時間等に基準を設け、これを満たす認可外保育施設に、市が独自に助成を行う制度である。現在百八室あるが、夜九時以降運営している施設が十五か所ある等、認可保育所に比べ長時間の対応をしている。

 基本助成費は一人月額八万二千四百円であり、その他、障害児、乳児、多子家庭について加算助成を行うとともに、延長保育、一時保育、休日保育に助成を行っている。その他、月額二十五万円を限度に家賃の二分の一を補助、必要に応じ年間百五十万円を限度に施設の整備への補助を行っている。百八室の設置者のうち、個人によるもの四十八、株式会社等が三十二、任意団体が二十六、その他が二となっている。当該事業に対して、平成十二年度、市単独で約三十七億円の予算措置をしている。

 十一年度までに認可保育所と横浜保育室で四千六百八十三人の定員増を行ったが、待機児童は十二年四月現在千五百三十五人であり、保育施設は引き続き整備の必要がある。このための予算措置、事業実施に伴う人員配置等市の負担は大きい。

 専業主婦となった場合の経済的負担や子育ての悩み、仕事を続ける場合の育児と仕事の両立といった結婚前後の大きなギャップを考慮していかなければ少子化に歯止めをかけることは難しい。特に、都市部では母親が孤立しがちな状況にあるので、保育所が家庭の母親を支援していくことで子育てを楽しむゆとりも生まれてくる。また、子育ては楽しくて魅力的で自らも成長できる貴重な機会であるという考えが共感できる社会をつくっていくことが必要である。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 認可保育所に係る規制緩和だけでは大都市での対応策としては不十分であることについては、認可保育所の運営費に家賃補助が含まれていないことが問題であり、また、都市部の認可外保育施設は何らかの助成がなければ認可基準を満たすことは難しいとの説明があった。

○ 乳幼児医療費の無料化等経済的負担の軽減策については、乳幼児医療費補助については、出生率への影響以外に乳幼児死亡率への影響、医療機関へのアクセスの改善等の乳幼児死亡率への影響等を勘案する必要があるとの説明があった。

○ 地域の育児環境と合計特殊出生率との関係については、出生率、出生数を兼ね合わせながら地域の実情を把握していくのがよいのではないかとの説明があった。

○ 県と市町村との役割分担については、市町村で権限を有しているのが教育、保健福祉であり、女性の就業条件の問題は、国の事務であるので、各県の労働局と市町村が一体となった取組が必要不可欠であるとの説明があった。

○ 認可外保育施設が増加傾向にある理由については、保護者のニーズの多様化、認可保育所の量的な不足、保育所の新設が保護者のニーズを喚起することがあるが、この背景には、保育所に預けられるなら働きたいという女性が多いことがあるのではないかとの説明があった。

○ 保育所の設置主体に関する規制緩和にもかかわらず民間の参入が少ない理由については、株式会社は利益を目指すが、保育所の運営費は必要な経費を賄うものであり収益がでる性格のものではない点が、参入意欲をそぐのではないかとの説明があった。

○ 仕事と育児の両立を図る上での雇用面の課題については、長時間保育の要望が強い背景には長時間働かざるを得ない状況があるが、長時間保育には費用がかかり、親や子どもにとっても好ましいか疑問であるため、子育て中の父親や母親の働く時間にもう少し温かい環境があれば望ましいとの意見があった。

○ 過疎地域における保育園と学童保育についての取組については、岩手県では、十人以上の学童保育を行っている市町村等に対して県単独で助成を講じているが、過疎が進んでいるので、この基準でも良いのかという疑問は感じている、また、一時保育は一日一人から、休日保育は三人以上であれば県独自の助成対象にするなどの取組を行っており、国も、特別保育の人数要件については、実態をさらに考慮してほしいとの説明があった。

○ 応益負担や応能負担といった保育の費用負担の在り方については、保育料が高いとの声が強く応益負担により保育料の上限をあげることには取り組みにくいが、将来の問題としては検討しなければならないとの意見、認可外保育施設も保育サービスの事業形態の一つとして認容し、サービスの質と供給量を確保する中で、サービスとコストの向上を目指しながら検討すれば、負担の問題は自ずと定まってくるとの意見があった。

○ 幼保一元化の問題については、預かり保育の実施に伴う幼稚園の負担も大きく、一気には進みにくい状況にあるが、将来的課題として検討してゆきたいとの意見、少子化が進み、個々の幼稚園、保育所の利用者が減っている地域では切実な問題となってきているとの意見があった。

○ 保育所におけるボランティアの活用の実態については、保育所でのボランティア活動はまだまだ少なく、その背景には、子どもを責任持って預からなければならない保育所として、資格のない人にどういうことをやってもらったらいいかの見極めがつかない面もあり、保育所の中のボランティア活動はこれからの課題であるとの説明があった。

○ 横浜市の要望に係る国の援助については、横浜保育室で三十七億、保育所の運営費で三百四十億円程度、保育所の整備に四十二億、合計で四百億超の予算を投入しており、こうした自治体の負担を軽減する意味で、国の補助金を増額してほしいとの意見があった。

(二)未婚化、晩婚化が進む中での若者の結婚に対する意識について(平成十二年十一月十五日)

 少子化の最大の要因として、未婚化・晩婚化の進展が指摘されていることから、若者の結婚観に詳しい有識者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(愛知淑徳大学文化創造学部教授  小倉 千加子 参考人)

 現在、我が国で進行している少子化の原因は晩婚化にある。我が国は先進国の中で有数の婚外子出生率の低い国であり、結婚率が上昇しなければ子どもの数は増えない。女子の平均初婚年齢は年々上昇しており、この晩婚化を担っているのは、二十五歳から三十四歳までの妊孕性のある女性の人口集団であると考えられる。

 二十代から三十代の女性五十二人を対象に行った面接調査では、専業主婦願望がありながら、なお晩婚化が進んでいるのが現状であり、平均初婚年齢は学歴が高くなるにつれて高くなることが判明した。また、短大卒の女性が結婚相手に求める条件は、自分を専業主婦にし、子どもを産み、子育てをするときにゆとりのある子育てができる金持ちの男性である。一方、四大卒の女性については、そのうち企業の総合職、医師、弁護士、公認会計士、公務員などを勝ち組とし、それ以外の一般企業のOLを負け組とすれば、負け組の結婚観は短大卒女性の結婚観と変わらない。勝ち組の女性は、仕事を続けていくことを尊重し、家事を完全に分担し、自分を尊重してくれる適当な相手がいないと考えている。高卒、短大卒、四大卒の人たちの結婚は、それぞれ生存の結婚、依存の結婚、保存の結婚と位置付けられ、その要因が違うにもかかわらず一様に晩婚化は進行している。

 短大卒及び四大卒の負け組の女性の結婚相手に求める条件は「三C」、つまり、コンフォータブル(十分な給料)、コミュニケーティブ(家事に協力的な)、コーポラティブ(子育てに責任を負う)に要約できる。一方、男性が女性に求める条件は、かわいい、賢い、家庭的、(体重が)軽いの四Kであり、三Cと四Kのミスマッチが起こり続けている以上、若年層は結婚しない。学歴面で自分より劣る人や貧乏な人は女性にとって恋愛対象から外れることになる。四十歳を超えた女性は職業もライフスタイルも友達関係も確立している非婚確信犯である。現在、五十歳時の未婚率は女性で五・一%だが、間もなく一〇%に突入する。

 今の若い女性は、将来結婚はするつもりだが、結婚相手としては、一緒にいて楽な人と暮らしたいという。今は、結婚している人は二人以上子どもを産んでいるが、彼女らはもはや、一生懸命働いたり、子育てをするということはできず、本当の少子化が始まる。未婚女性は保育所が足りないから結婚をためらっているということはない。彼女たちは、子どもを保育所に預けたら子どもがかわいそうという保育所べっ視の気分が非常に強く、専業主婦になっていわゆるカリスマ主婦的な自分の理想の生活をしたいという自己本位な欲望を持っている。

 少子化についての有効な手だてというのは、既婚者に対してではなく、未婚女性の労働状況や、上昇婚が当たり前だとしてきた結婚幻想、あるいはそういった結婚幻想を振りまく様々なメディアにある。

(財団法人日本青年館結婚相談所所長  板本 洋子 参考人)

 結婚相談所の仕事を二十年間してきた体験から話をすると、結婚相談所では男性の相談が圧倒的に多い。女性は相手がいなければすぐにあきらめるが、男性の場合は、女性に会う前に女性とのかかわりをどうすれば良いかを相談する。また、十年前から運営してきた花婿学校での六十人の男性に対する面接結果から、男性の恋愛する力が落ちていると思われ、違った者が一緒に人生を見つめるときにうまく折り合いをつけるための調整力が低下していると感じられた。

 面接で、三十代の男性の恋愛や結婚についての不安や不満を聴取したところ四つのジャンルが現れた。交際術、コミュニケーションスキルに対しての戸惑い、女性のことがわからない、結婚する意味がわからない、性の問題に対する戸惑いである。

 一方、農村では、結婚相談員がマンツーマンで相手を探すことについては改善の余地がなく、男女の交流会もマクロ的には閉塞状況だが、交流会のイベントに農業体験を盛り込んだり、男性のためコミュニケーションスキルを促す講座や、インターネットを使った自由な出会いの機会を提供する事業など多様な動きが出ている。しかし、農村の結婚対策は背後に過疎問題や農業自体の問題も絡み、かなり行き詰まっている。新潟県の農業会議が平成十年に調べたところ、結婚相談員やイベント、学習講座など県内の市町村が行っている直接的な結婚対策費用の総額は一億二千万円だが、参加者の一割も結婚したら大変な成果という現状である。

 国際結婚も増えてきているが、外国人花嫁の経済的自立の保障が究極的な問題となっている。外国人妻への支援体制の先進地と言われている山形県最上広域市町村圏事務組合の調査によると、山形県内では、千六百人以上の花嫁が来ているが、その三分の一は破綻していると言われている。農村の結婚対策は、農村の活性化という観点も合わせて、女性の受入れについて考えていくことが重要である。

 昨年度、三十代の未婚男性の結婚意識と生活に関する調査を行った。調査対象である都内の二百二十名の男性の七五%が結婚を「急がない」「しなくてもよい」「したくない」と考えている。残業が多く、仕事の責任が重いことも社会的な面で結婚に対する障害となっている。自己意識としての障害は、経済的な問題や親との関係が挙げられる。親への責任、長男の意識、コミュニケーションスキルや自己イメージの低さが、恋愛力の低下と関係している。

 多様な出会いづくりや配偶者対策の在り方の検討を具体的に進める必要がある。また、他世代交流や異業種交流を行うとともに、成人式などの場で、親になる、家庭をつくる、子育てをすることの不安を取り除く研修システムをつくる必要がある。さらに、多様な結婚の形があるというモデルを示していくことも必要である。

 委員と参考人との質疑応答の概要は次のとおりである。

○ 結婚に関する伝統的観念の下に女性が育てられている現状の打開策については、昔の恋愛結婚は相手の人となりに引かれた純愛であり、愛のもとで家族に献身する近代結婚イデオロギーであったが、もはや近代結婚イデオロギーを若い女性は信じていない。一九八五年ごろから、恋愛と結婚は別と考える学生が九〇%を超え、今はセクシュアリティーと結婚は別であると打算的に考えているとの説明があった。

○ 女性の男性観については、多くの女性が物足りなさを感じているのは事実である。男は経済力を持って義務を果たすべきという規範を持っており、その規範を持ちすぎると女性は決められた形の中に押し込まれる結婚をイメージしてしまうとの意見があった。

○ 夫婦別姓を選択制で取り入れることによる婚外子問題の解決については、夫婦別姓にすると結婚する人が増えるかは不明であるが、たとえ増えたとしてもそのことと子どもが増えるかどうかは無関係である。また、夫婦別姓については、女性解放の立場からも必ずしも賛成ではない。婚姻制度の見直しは考えているが、別姓にしてまで結婚する人を増やす政策は感心しないとの見解が示された。

○ インターネットを利用した恋人づくりなどの結婚促進に対する効果については、インターネットを利用する人が増えているが、それにより結婚が増えるとは思わない。出会った人同士が関係をつくることが重要であり、直接生身の人間に出会う訓練がないと、匿名性の中で言いたいことを言っても受け入れることができないのではないかとの意見が述べられた。

○ 結婚幻想をふりまくマスメディアの問題と、教育が女性の結婚観に対して与える影響については、結婚して専業主婦になることが女性の幸せであるという言説を振りまいているのはメディアの男性関係者である。また、上昇婚の目安が偏差値に置かれている以上、偏差値教育を打破しない限り、上昇婚はなくならないと考えるとの認識が示された。

○ コミュニケーションスキルを育成する上で必要な教育課程については、他世代とのかかわりが全く薄いことが問題であり、高齢者を活用し、地域の人、家族、また子どもの先輩後輩がかかわるということをしないと、コミュニケーションスキルは一方通行であったり、技術的になり、応用が利かなくなるとの説明があった。

○ 人を愛するとか生きるということを社会・家庭・教育の中で体験しないできた状況下での未婚化、晩婚化の回復については、現在は強者には幾らでも女性が寄ってくるが、弱者には女性が寄っていかないむき出しの競争社会になっている。競争や自己責任というイデオロギーが浸透する中で、女性が相手の年収や学歴を問わずについていくことは今後あり得ず、晩婚化、少子化は相当程度続くだろうとの見解が示された。また、結婚は、男性にとっては性別役割分業がなくなったことにより合理性がなくなり、女性にとってはすべてを失うことの方が多いという意味でリスキーなものになっている。合理性がなくリスクであると考えたときに、目に見えない信頼や愛をどのように作り上げるかが必要との認識が示された。

○ 社会として未婚の母を認めていく必要性については、婚外子差別を撤廃していくのは非常に重要である。日本でも様々なマイノリティーに対する差別を撤廃することにより、十分に自己実現できるようにして新しい出会いを見つけていくことが最善である。古い男らしさの概念に縛り付けられた男性の結婚難を解消するためにも意識改革を行っていかない限り、晩婚化、少子化は止まらないとの認識が示された。

(三)少子化を視野に入れた生涯能力発揮社会の形成について(平成十三年二月十四日)

 少子高齢化社会において男女を問わず、働く意欲のある者が生涯にわたり能力を発揮できる社会の仕組みはどうあるべきかについて参考人を招致し、意見を聴取するとともに、質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(慶應義塾大学商学部教授  清家 篤 参考人)

 日本の高齢化は、高齢者比率の高さと高齢化のスピードにおいて世界に類を見ない。それだけに、人口構造の変化に合わせて社会の仕組み、雇用の仕組みといったようなものを速やかに、ドラスチックに変えていかなければならない。

 人口の高齢化をもたらしたものは長寿化と出生率の低下である。経済成長の結果、所得が上昇し国民の生活水準が上がり、乳児死亡率が改善され、手厚い医療や介護により寿命が延びた結果、長寿化は進んだ。また、乳児死亡率が下がると子どもを多く産まなくても皆大人になるまで育ち、子どもをつくることが必ずしも親にとって必需的なことではなくなることから、所得の上昇に伴い子どもの数はだんだん減ってくる。

 一方、日独伊のように男女の伝統的役割分業観が残っている社会では、経済が発展し、女性の社会進出が進むと女性が結婚・出産によって失うものが多いことから、女性の婚姻率、出生率が下がるという現象が見られる。このことから社会構造を相当変えていかないと出生率は回復しない。人口の高齢化は政策的には簡単に元に戻せないことを前提に、社会の仕組みの方を人口構造の変化に合わせ変えていく必要がある。

 社会の仕組みで、少子高齢化の影響を最も受けるのは社会保障制度であるが、働く意思と能力のある高齢者の就労を進め、働き続けられる環境をつくることは、社会保障負担の裾野を広げ、少子高齢化の中で制度を維持するためにも必要となる。

 日本には、高齢者、特に六十代の人の就労意欲が先進国の中でも非常に高いという有利な条件があるが、その就労を制度的に一番阻害しているのが定年制である。定年退職制度は、年功的な賃金、処遇の下、定年でやめてもらって、より若い人を処遇するようにすることや、企業が整理解雇等を行うことが非常に難しい状況の中で、従業員を退職させることができる貴重な機会となっている点で今のところ企業にも有用である。しかし、定年制は単に勤労意欲を減退させるだけではなく、働き続ける場合にもその人本来の能力発揮を妨げる作用があり、廃止する方向に行く必要がある。

 年功的な賃金・処遇制度を見直し、その結果、賃金が年齢を基準としない、その時々の能力に見合ったものとなり、真の能力・成果主義の賃金、専門能力本位の組織になれば定年は必要なくなる。また、定年制に代わる雇用調整手段の工夫については、企業が定年以外の方法で雇用調整をできないと雇用の柔軟性を確保できないことになるので、労使が雇用調整の在り方について工夫する必要がある。

 また、中高年の再就職を阻んでいる年齢制限の問題がある。日本では、企業が年齢制限をつけて採用することが法的に認められているため、中高年の、特に失業者の再就職を妨げている。アメリカでは、年齢差別禁止法で四十歳以上の労働者について年齢を理由にした雇用上の差別を禁止しており、アメリカの企業は、定年なし、求人についての年齢制限なしで問題なくビジネスを行っている。定年制も含め年齢制限について抜本的に見直していくためには、日本でもこのような法律が長期的には必要となろう。

(株式会社キャリアネットワーク代表取締役社長  河野 真理子 参考人)

 寿命は百年で四十歳伸び人口構造も変化したが、雇用の現場は対応しきれていない。企業は景気低迷の中で定年を延長する余裕はなく、また、労働者個人は雇用、経済、老後の様々な不安を抱えている。一方、労働市場では変化がおき、雇用の流動化、雇用形態及び就業コースの多様化がこれからのベースとなる。企業と社員の関係も大きく変わり、それに伴い採用や雇用期間にも変化がでてくる。個人はこうした変化を理解した上で自分のプランニングをしなければならない。この変化を企業が責任をもって個人に伝え、行政が意識改革のサポートを行うことが必要であり、その後具体的なプランニングを手伝うことが重要である。

 また、企業が消費者ニーズに対応するため激変している中で個人が六十又は六十五歳まで求められる人材であり続けることは非常に難しい。このため、企業に継続して雇用される能力が必要となる。企業に求められる人材であり続けるためには、はりつき型で仕事をするアウトプットだけでなく、勉強をしてインプットもする必要を個人は意識しなければいけない。さらに、企業は教育研修費をカットし、社員教育をしなくなっているので自己責任でキャリア開発を行う時代である。その際、行政のサポートも求められる。

 キャリア開発は社会人になってからでは遅い。幼少期の体験などから職業観は培われる。また、中高教育あたりでの人生設計プログラムの展開や大学等最終学歴あたりで就業のコースについて様々なことを現実的に考えさせる機会は重要である。

 キャリアプランの課題は年齢層によって異なる。(1)ホワイトカラーの三十代四十代は、いつ企業を代わっても自分が外でも通用するかということなどがキャリア開発のテーマとなる。(2)専業主婦の三十代四十代は生きがいよりも経済的な理由で再就職を望むが、ブランクがある人を企業は雇用できないので、意識・スキルの両面で再就職教育を行政主導で行い、パート又は契約社員から正社員になるという形が重要である。(3)リストラクチャリングの対象となり、課題となっている四十代五十代のホワイトカラーの場合、再就職を望むなら若年層とともに仕事をするスキルを磨くことが重要である。(4)六十代七十代の人は社会貢献を望む者が多く、現役世代をバックアップをすることが求められる。

 生涯現役・活躍社会形成のための企業と行政によるサポートとして、企業は、個人がキャリア形成を行う際に、情報提供と同時にキャリア開発の重要性を認識する場を提供することが重要であり、個々人の個別の課題に対応するためのキャリアアドバイザーの設置も有効である。企業が経済的に余裕がない中、行政にもキャリアサポートが求められる。例えば、仕事をするのに必要な能力開発がどこで学べるかといった具体的なキャリアプランを組むための情報の提供が考えられる。また、ライフ面、キャリア面の両方についてのアドバイザーを企業や労政事務所に派遣することも重要である。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 生涯能力発揮社会の形成と少子化の進展との関係については、一般的に女性の就労が進んだ国の方が出生率が高い傾向にある、生涯キャリアを進めることと出生率の回復とは矛盾するものではなく、女性が就労又は再就職しやすくすることによって女性の就労促進と出生率の回復が同時に進むことの方があり得るとの見解が述べられた。

○ 雇用の流動化が進む中での税制等の社会制度の在り方については、労働市場を通じ雇用を保障していくことが必要になるので、雇用政策を、労働市場の機能を充実させる点に重点を置く形に変えていく必要がある、具体的には、(1)公的職業情報サービスの充実と、民間の職業紹介サービス等がもっと自由に活動できるような環境整備、(2)労働市場での能力評価が問題になるので、行政、産業別組合等による一定の能力評価、(3)途中で企業を変わる場合の最大のネックである採用時の年齢差別禁止ルールの早急な検討、(4)雇用の流動化を促進させる税制は必要ではないが、流動化を阻害している場合は中立に戻すこと、であるとの見解が示された。また、個人が気になるのは生涯手取り賃金であるので、税制を整備し生涯の手取り額が明確になるようにすべきとの意見が述べられた。

○ 長寿社会の中で六十五歳以上を高齢者とすることの是非については、年齢を基準に人を区分けしていることに問題がある、人の能力を推し量る上で年齢は余り関係ないはずであり社会制度の様々な基準から年齢をできるだけ排除することが大切である、また、六十五歳というのは国連等が定めた便宜的な年齢であり、国内で様々な政策を進める上では別の年齢基準が設けられてしかるべきであるとの意見が述べられた。

○ 子育ての機会費用を社会全体で分担することの可能性については、現在の男女役割分業体制を前提にすると女性に主として機会費用が発生するのだから、政策によっては機会費用を下げていくことができる、女性だけが負担している機会費用を男女間でならしていくことは可能であるとの見解が述べられた。

○ エージレス社会における定年制に代わる有効な雇用調整機能については、解雇が行われる場合のルールについてあらかじめ法律等に基本的なことを決め、具体的なことは個別の労使が企業・産業内で決めていく必要があり、年齢や性別等を解雇の基準として禁止することの明記も必要となるとの見解が示された。

○ 賃金のフラット化が少子化対策にもたらす影響については、賃金のフラット化は三十代ぐらいの賃金が底上げされ四十、五十代の賃金がそんなに上がらない形なので少子化対策や育児と賃金体系のフラット化が矛盾するものではないとの見解が示された。

○ 学校教育におけるキャリア開発の是非については、学校教育の中で実体験をすることが重要であり、理論として話すのではなく、様々な体験をする中で職業の適性を考える場としての学校教育が重要との認識が示された。

○ 若い時期の働き方・ライフプランと高齢期の能力発揮の関連性については、働いている者が専業主婦や高齢在宅者とのネットワークをしっかりしておき、生活環境、育児環境、教育環境を整備しておくことがのちのち個人が仕事に邁進できるための環境づくりとなるとの認識が示された。

(四)育児と仕事の両立支援に関する企業の取組について(平成十三年二月二十一日)

 少子化の主因の一つとして、育児と仕事の両立が困難であることが挙げられているため、育児と仕事の両立支援に関する企業の取組について参考人を招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(セイコーエプソン株式会社人事部長  中條 利治 参考人)

 当社の育児支援等についての考え方は、第一に、仕事と育児等を両立しようとする人を対象とすること、第二に、自助努力と公的制度を補完すること、第三に、制度の拡充は現行制度では救えない人を最優先すること、第四に、勤務形態、資格、勤務地等にかかわらず、すべての人が制度の前に公平であること、第五に、権利意識で制度を利用することのないよう、また、職場に残る人の負担感が増すことも踏まえて、バランスのとれた制度設計を心がけることである。

 育児休業制度のことを当社では育児休職制度と呼んでいる。期間は原則一歳の誕生日までであるが、保育所への入所が四月一日からの自治体もあるので、一歳の誕生日後の三月末まで延長を可能としており、元職場復帰を原則としている。ただ、一歳の誕生日以降については法律どおり、育児休業給付及び社会保険料免除はない。育児のための短時間勤務制度は、満三歳到達後の三月末まで一日二時間を限度として取得が可能である。

 育児休職制度の利用者数は創設以来過去十年間で合計八百四十一名、復帰率九三%、年平均で八十名以上である。取得期間については、制度発足の当初は、制度上は一年間取得できたが、半年間というケースが多かった。最近ではほとんどが一年間になっており、一歳の誕生日後の三月末までというケースも出てきている。現在の課題は取得期間中の代替要員の確保である。

 ファミリー・フレンドリー的な取組は現在いる優秀な人材、従業員を確保するために有効であることからスタートすべきである。今後は法定を上回る部分について必ずしも公平、平等を意識しなければいけないのか疑問である。例えば専門職だけしか認めない場合や、会社として選別、区別する場合もあり得る。

 育児、介護等の特定期間だけの扱いで結構なので、短時間勤務でも社会保険の適用を認めていただきたい。また、パートタイマーの法定福利費についても時間比例を検討していただきたい。勤務を継続しながら育児も行う際に、短時間勤務やパートといった働き方があれば、企業としての柔軟性、働く側の多様性もできてくるであろう。

(男も女も育児時間を!連絡会世話人  田尻 研治 参考人)

 男性として育児を体験して痛切に思うことは、企業からいかに育児や生活に時間を取り戻すかに尽きる。育児の時間が社会的にも保障されれば、多くの男女が無理なく仕事と育児を両立できようになるであろう。

 私の場合、長女を保育所に預けるのは早くても午前八時が限度で、会社に着くのは九時頃になり、八時半始業の会社には毎日三十分か一時間遅刻するということになった。この遅刻について会社に説明し、育児時間制度を認めるよう求めた。会社は理解を示してくれたが、時期尚早ということで認めてはくれなかったので、労働組合の支援のもとに、育児時間制度を認めることを要求して、毎日三十分か一時間ストライキという形で賃金カットされながら保育所の送り迎えをした。

 企業は変えていくという発想に立たないと変わらない。一番大事なのはトップを含めて理解してもらうことである。少子化の中で男女共同参画社会を日本はつくろうとしており、企業にはこの分野に取り組んでほしいという国の意思を企業に伝えることが大事である。育児休業法では、育児のための短時間勤務制度を子どもが小学校に上がるまで義務化することが必要である。

 ファミリー・フレンドリー企業表彰をもっと広げ、社会の様々な分野で貢献している企業に対して例えば税制上配慮する、国や地方自治体の仕事を発注するなど、ポジティブアクション的な優遇措置を行うことが必要である。

 オランダ形式は仕事と育児の両立支援策として、いいモデルである。夫婦が共働きをして二倍の収入は必要ではなく、一・五倍でいいから、かわりに時間が欲しい。育児休業法をパート労働者にも適用することが必要である。

 国の機関の中に男女共同参画局がつくられており、また、スウェーデンで訪問した会社では男女共同参画推進部署があった。企業の中に男女共同参画推進部署がつくられるように指導すべきである。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 田尻参考人が育児時間をとろうとした動機については、夜、妻自身が風邪でがたがた震えているのに赤ん坊に乳を飲ませてやっている姿を見て、自分にできることがあったら何でもやろうと思ったことと、バックアップしてくれる組合があったことが挙げられた。

○ 行政に対する要望として、地方公共団体で保育所への補助、未満児保育の時間等にばらつきがあるので、一律にする必要はないが、いい方向にプラスしていただきたいとの発言があった。

○ 夫婦ともに同社の社員である場合の育児休職については、お互いが分担して不在期間を少なくすることは会社や職場から見てメリットがあるとの見解が示された。

○ 日本の男性の育児休業取得を奨励する方策について、ノルウェーでは育児休業の所得補てんが八割であり、しかも、パパクオータ制が実施されており、男性は育児休業をとる意欲が強いとの意見が述べられた。

○ 同社が仕事と子育ての両立支援策を拡充してきた動機とメリットについては、企業として利潤を目的にいろいろやっても結果としてうまくいかず、いかに人を中心に伸ばしていくかという結果が企業としての拡大につながってきた。経験を持っている従業員がやめるよりは育児休職をとって戻ってくる方が会社にとってメリットがあるとの見解が示された。

○ 田尻参考人が主張する国の意思の範囲については、企業関係に限定するわけではなく、夫婦で子ども二人を育てながら共働きを続けても、生活しにくいということがない社会をつくることである。国の意思が最も届いていない部分が企業であり、総合的に国全体を自由競争で強い者勝ちのアメリカ型社会としない処方が必要であるとの見解が示された。

○ 参考人の会社はハイテク産業であるので高度な技術が大事であるが、育児休職に対応するため、人材派遣業を使っているか、それによるメリットはあるかとの問いに対しては、人員を潤沢に投入をしてきていないので人材派遣等で対応せざるを得ない。ただ、職種・職場によっては人材派遣対応が難しいので、ほかの職場からローテーションをする場合や、みんなで分担する場合もあるとの答えがあった。

○ 子どもを持っている人が有給で育児休業や育児時間を多くとるようになると、子どもを持っていない人と持っている人との間に格差ができてしまい、昇給等が問題になるのではないかとの問いに対しては、子どもは子どもがいない人にも納税や社会の活性化で影響を及ぼすのであり、子どもを社会で育てるという観点の理解を求めていくといいとの意見が述べられた。

○ 育児休業や育児時間をとる上で、日本では男女の賃金格差があり共働き夫婦の場合に男性がとると経済的に損をすることや、将来的に昇進に差がつくことについて、当社の場合は男女差を制度上は持っていないので、夫婦ともに同じ資格であれば、賃金は家族手当を除けば同額であり、また、不在でアウトプットがなかった分は評価に反映されるが、短期的な能力やアウトプットの反映である賞与は昇格、格付に反映させないのが原則であるとの説明と、男女の賃金格差をもっと埋めていくことや、育児休業に関して企業だけの論理でなく国の意思を入れていくことが必要であるとの意見があった。

(五)少子化問題の政策的対応の在り方について(平成十三年二月二十八日)

 我が国の少子化問題への政策的な対応の在り方を検討するため、積極的な政策提言を行っている学識経験者を参考人として招致し、意見を聴取するとともに質疑を行った。

 両参考人の意見陳述の主な内容は以下のとおりである。

(日本大学経済学部教授・同人口研究所次長  小川 直宏 参考人)

 日本の合計特殊出生率は九九年に一・三四となっているが、既婚女性の約二七%が理想の子ども数を持っていない現状を希望するだけ産めるようにすれば、出生率は問題ない水準まで回復しよう。しかし、理想とする子ども数が減少し始めており、この動向が対策を立てる上で重要である。また、最近、三~四人の子どもを持つ人と子どもを持たない人とに別れる傾向にあるので、たくさん産む人を補助するという政策も必要である。

 一方、バブル崩壊やリストラの影響により出生間隔が伸び出生率が低下している。安定した社会展望を与え安心感を持って産めるようにすることにより、出生の遅れを取り戻せば、出生率は一・五三まで回復できよう。また、出産期間を長くする政策が必要であり、不妊治療対策もこうした観点から必要である。

 晩婚化も重要な少子化要因であるが、晩婚化の要因は高学歴化である。また、四〇%以上の大卒女性は生涯働きたいという希望を持っており、こうした人を支援していくことが重要である。一方、女性の社会進出とともに離婚率が上昇してきており、結婚や出生にも影響がでてこよう。さらに女性の結婚志向は、女性の幼児期において、父親がどれくらい育児や家事に参加したかによって大きく左右される。

 就業を希望する女性が多いので保育施設の整備は重要であるが、七割の母親は自分で子どもを育てたいと希望していることも考慮する必要がある。また、保育のコストを軽減すれば仕事と子育ての両立の可能性は高まろう。なお、保育施設の整備については、こうした需要には一過性があり、人口の変化にハードが追いつかないことが対応を難しくしている。

 少子化へ対応するには、二十五~三十四歳の女性が六百万人を超えるこの五年間が最後のチャンスである。その際、少子化対策は国がどこまで踏み込めるかということから議論する必要があろう。最後に、少子化、高齢化を乗り切るためには、政治的なリーダーシップが必要である。

(社団法人日本経済研究センター理事長・上智大学国際関係研究所教授  八代 尚宏 参考人)

 少子化対策の重要性が指摘されているにもかかわらず効果があがっていないのは、少子化対策のもたらすコストや社会的利害の衝突により総論賛成各論反対となってしまうためである。少子化は、女性が子育てにより就業機会が制限されることによって失われる生涯所得が出産や結婚を抑制していることにより生じている。このため、如何にして子育てと仕事を両立させ、子育ての機会費用を軽減するかが最大の少子化対策である。今日、仕事と育児が両立できない状況は働き方の問題と保育サービスの貧困から生じている。

 女性が家事・育児を行い男性が仕事を負うことを前提としている日本的雇用慣行においては、フルタイムで働く女性は仕事か育児かの選択を迫られる。女性が高学歴化しホワイトカラー化してくると、子どもをあきらめて働き続けることが合理的となる。しかし、女性が働き続けても出生率を上げることは可能である。このためには、年功賃金や終身雇用を改め、子育てを終了した女性が良い条件で復職できるような選択肢の多いシステムに変えることが必要である。しかし、この点について経営者団体も組合も否定的場合が多い。この労働者間の利害の対立が少子化対策に対する最大の障害である。

 現在の公的部門主体の保育制度については、保育所への需要が減ってもやめられないこと、認可と補助が一体となっており認可保育所を利用できる人とできない人の格差が大きいこと、夜間保育や休日保育に対応できていないこと等の問題がある。仕事と育児の両立のためには、より弾力的な保育サービスが認められる必要がある。すなわち、保育所の認可基準を弾力化し、できるだけ多くの保育施設に公的な資金が投入される仕組みが必要である。できれば、施設に補助するのではなく、保育切符を母親に給付し自由に保育所を選べるようにし、保育所間の競争を促進し、サービスの良い保育所を利用できるようにする必要があろう。

 その他にも子育てと仕事の両立を妨げている制約がある。例えば、郊外一戸建ての持家に対する支援、通勤手当や通勤手当に対する優遇税制、税制の配偶者控除、社会保険における第三号被保険者、夫婦別姓問題である。総論だけではなく、こうした各論においてできることから実行していくということが少子化対策である。

 委員と参考人との質疑応答の概要は、次のとおりである。

○ 男女間の就業率の格差と出生率との関係については、女性が働きやすく、男性と女性が平等な国ほど出生率が高いと言え、また、働き方の選択肢を広げられるような弾力的な雇用慣行が出生率と因果関係になるのではないかとの意見が述べられた。

○ 保育切符制度と幼稚園との関係については、幼稚園は基本的に民営であり、保育所は公立と社会福祉法人主体であるが、年功賃金の公務員による公立や社会福祉法人主体の保育所は維持するのが難しく、また、規制緩和で企業が保育に参入してくると事後規制が必要とされるので、保育園で働く公務員には事後チェックを担ってもらうことが相応しいとの意見が述べられた。

○ 開発途上国において出生率を平準化するための方策については、開発途上国は習慣とか制度により女性が家族計画を選択できる状況ではないが、リプロダクティブライツの考えが世界に広まり実現されれば、長期的には出生率は下がってくるのではないかとの意見が述べられた。

○ 結婚・出産による退職の機会費用の増減に関する今後の見通しについては、女性の賃金が上昇すれば機会費用は高まり、逆に、働き方の多様化、中途採用機会の拡大、賃金格差の縮小など働き方について多様な選択肢があれば機会費用を下げることは可能であるとの意見が述べられた。

○ 労働時間の短縮や出産や育児による不利益の禁止の制度化、出産・育児期間の生活保障、賃金保障などを制度として確立することについては、子育て期間中企業に賃金保障を強いるのは、コストの高い女性労働者を企業が忌避することになるので、むしろ子育て終了後に働こうとしたときの不利な条件を減らすことの方が重要であるとの意見が述べられた。

○ 不妊治療と夫婦が出産適齢期に生む子どもの数の上昇との関係については、医療保険はもともと健康保険であるので、不妊治療のようなポジティブな意味の治療にも対象を拡大するのが本来の思想であるとの見解、一〇%程度の夫婦に不妊症の傾向が認められ、そういう人が希望どおりに生めれば一〇%出生率が上昇する、また、技術進歩を見込めばかなり有効な手段となるが、問題はコストで、これを国が認めるかどうか決断がせまられようとの見解が示された。

○ 年金においても二十歳以上のすべての国民に保険料を負担してもらうことについては、高齢者の扶養負担が膨らむとき、年金制度や医療保険制度を安定させるためには、高齢者でも収入のある人等できるだけ多くの人に負担してもらうことは大事であり、年金課税、年金所得の総合課税といった豊かな高齢者が貧しい高齢者を扶養する仕組みが必要であるとの意見、現在の高齢者割合である、人口の一七%だけを高齢者とするように老人の定義を変えるといった発想の転換や、年齢だけではなく健康といった指標により本当に必要な人にだけ社会保障を与えていくような社会をつくる必要があるとの意見が述べられた。

○ 一極集中の是正がうまくいかなかった理由については、高度成長期のように、社会資本を整備すれば、それに誘致され民間投資が全国に広がる時代もあったが、現在は、逆に都市の集積メリットが魅力となってきている、今後の高齢化社会においては、社会資本の集積には限界があるので、社会資本の整備されたところに住んでいかざるを得ないとの見解、今後人口が社会資本があるところに集中してくると考えられるが、残った地域の使われない施設を、どのように利用するのかという問題が生じるとの見解が示された。

○ 少子化の問題特に仕事と家庭の両立と景気回復との関係については、少子化の要因は一つは結婚と出産に関する価値観の変化であり、一つは景気の先が見通せないことであるので、政策により国民が安定した社会が築けることを認識できれば、出産タイミングの遅れは取り戻せ、少子化の歯止めとなろうとの意見、女性の就労が当たり前となり、それが標準的な世帯であり、安定した社会でもあるとの認識を持つことが重要であり、また、短期的には、財政赤字が景気の不安要因であるので、女性と高齢者が働いて税を払うことが重要であるので、政府も企業も、女性が働きやすい社会にしていかなければならないという認識が重要であるとの意見が述べられた。

二 政府の説明聴取及び質疑応答

 当調査会は、昨年の中間報告の際に、特に重要で早急に取組が求められるものとして六項目からなる提言を行った。また、平成十三年度は、「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について(新エンゼルプラン)」の二年度目に当たるとともに、本年一月に省庁再編が行われ、内閣府に男女共同参画局が設置されたり、厚生労働省が発足し、同省に雇用均等・児童家庭局が設置され総合的な少子化対策の推進のための新体制ができてから、初めて迎える年度である。そこで、「当調査会の提言の実施状況」及び「平成十三年度少子化対策関連予算等」の内閣府、厚生労働省、文部科学省、並びに国土交通省の所管部分について、平成十三年二月二十三日に説明を聴取し、質疑を行った。

 その質疑の概要は次のとおりである。

○ 少子化対策推進基本方針の政策評価の在り方については、政策評価については、平成十三年度の実施に向けて現在準備をしているところである。具体的な分野については特別な評価システムを検討しており、保育所の使いやすさを第三者が評価するシステムについても検討中であるとの答弁があった。

○ 少子化対策について、出生率の回復・向上を目指すといった定量的な目標が明確でないとの指摘に対しては、結婚・出産は、あくまでも個人の自由な選択にゆだねられるべきもので、政府の役割は、仕事と子育ての両立や子育ての負担感を除去する環境づくりであり、出生率の目標をつくるのは難しいとの答弁であった。

○ 外国人労働者の受入れについては、第九次雇用基本計画等で、専門的、技術的分野の外国人労働者の受入れを積極的に推進することにしているが、一般的に単純労働者といわれる労働者については、慎重に全体を見回しながら問題が起きない方向で検討していきたいとの答弁があった。

○ 不妊専門相談センターの整備計画については、不妊に悩んでいる夫婦が気軽に相談でき、治療法についてのアドバイスを受けられる相談センターを平成十六年度までに全都道府県につくっていく予定であるとの答弁があった。

○ 若者の自立を促す奨学金制度の整備・拡充と成績優秀者の免除措置や時代にそぐわない基本理念についての育英会法改正の指摘については、奨学金は、学力、家計の基準を緩和し、希望するすべての学生に貸与する方向で拡充をしている。指摘の点は、今後、奨学金制度全体の見直しの中で考えていきたいとの答弁があった。

○ 賃貸住宅としての良質なファミリー向け住宅の供給促進については、平成十三年度予算で公団の賃貸住宅を一万二千五百戸程度の供給を計画している。また、民間の事業主体が良質なファミリー向け賃貸住宅を供給するときに国が建設費や家賃の補助等を行う特定優良賃貸住宅も三万戸予定しているとの答弁があった。

○ 短時間勤務者の厚生年金適用に際して、通常の勤務者のおおむね四分の三以上の勤務が必要とされる、いわゆる四分の三ルールの拡大については、常用的な雇用者は厚生年金の被保険者にするとの考えで検討したいが、労働者本人と事業主双方の保険料負担が増えることになり合意が得られるかとの問題がある。雇用形態が多様化する中での、厚生年金の適用者の在り方について検討を進めていきたいとの答弁があった。

○ 小児救急医療体制の整備促進については、小児救急医療支援事業は、平成十二年度で十八都道府県の五十一地区であるが、平成十三年度に三百六十地区としている新エンゼルプランの目標値からは乖離があり、目標達成が困難になっている。平成十三年度は、補助単価の増額や、地域の関係者が小児救急医療の確保、調整、検討等を行うための予算も計上しているが、今後も、各都道府県の取組強化、事業推進上の問題点の把握・研究をしながら円滑な事業推進に努めていきたいとの答弁があった。

○ 子育て支援策は、子どもを生むことを目的とするより、女性の就労構造をヨーロッパ型にし、社会保障の負担構造を変えることに重点があると、国民に明確に打ち出すべきとの指摘に対して、雇用の場における男女の均等確保を進め、仕事と育児の両立支援策に積極的に取り組み、それらの政策を推進しながら女性労働力のM字カーブのボトムアップが進むという考え方を持っているとの答弁があった。

○ 新エンゼルプランの最終(平成十六)年度の整備目標数である百八十か所を平成十三年度予算で達成するファミリー・サポート・センターの今後の拡充については、平成十三年度は利用対象者を雇用労働者のみでなく、専業主婦等にも拡大し、設置箇所も八十二か所から百八十か所に大幅に拡充する。今後は実施状況を踏まえ、地域のニーズも勘案しながら対処していきたい。また、人口五万人以上という設置基準も地域のニーズが見込まれる場合は、弾力的に運用していきたいとの答弁があった。

○ ベビーシッター利用者への補助制度を専業主婦等へ適用拡大することについては、制度は児童手当特別勘定で事業主負担の保険料のみで賄っており、働く女性を対象とした事業だが、専業主婦への拡大が可能か今後検討したいとの答弁があった。

○ 今後は、人生の中で何度も自分の能力を発揮する社会にすべきであり、そのための中小企業等に勤務する社会人の学習機会確保の方策については、国立大学等で中小企業勤務者を含めた当該地域社会のニーズに対応する社会人受入れを進めたい。インターネットを活用した遠隔教育等を含め社会人の学習機会を増やす必要があるとの答弁であった。

○ ベビーホテルでの児童虐待死亡事故の再発防止策については、「よりよい保育施設を選ぶための十か条」を公表するとともに、都道府県の認可外保育施設に対する監督指導の指針をつくり、指針に基づく監督指導を実施していただく。さらに、保護者に認可保育園の良質な保育サービスを体験してもらう事業の創設、認可外施設の保育従事者への研修等の対策を行う。いずれにせよ良質なサービスを安定的に供給するのが大事であり、当面は新エンゼルプランの推進が大切との答弁があった。

○ 待機児童解消に向けた取組については、平成十一年に各自治体に待機児童の状況、解消計画などをまとめていただいた。平成十三年度は待機児童の多い自治体から直接、待機解消計画の実績及び今後の方針についてヒアリングをする予定であり、各自治体が待機児童の早急な解消に向け取り組んでいただきたいとの答弁があった。

○ 学童保育について、児童数二十人以下の地域にも国の補助を行ってほしい、障害児への対応を拡充してほしいとの要望について、平成十三年度から児童数が少ない過疎地域などは十人まとまれば補助の対象とする予定。また、障害児を受け入れる児童クラブには手厚く補助金額を加算する措置を行いたいとの答弁があった。

○ 乳幼児医療に対して国が助成を行う場合の必要予算額については、仮に自己負担額の二分の一を国庫で負担すると、対象が一歳未満であれば百七十億円、三歳未満で五百十億円、六歳未満ならば千二十億円になるとの答弁があった。

○ 当調査会提案による高齢社会対策基本法の省庁再編後の執行体制については、再編後は高齢社会対策会議を内閣府に設置しており、その庶務も内閣総理大臣及び内閣官房長官の直接の指揮のもと処理している。具体的には、内閣府政策統括官総合企画調整担当のもとに参事官を置き、七名の定員で業務を行っている。従前の定員十五名から減少しているが、新体制は大変弾力のある組織となっており、その特性を使いながら重要性を増す高齢社会対策に全力で当たっていきたい旨の答弁があった。

○ 幼保の一元化については、施設の共用・合築、幼稚園教育要領と保育所保育指針の整合性の確保、幼稚園教諭と保育士の合同研修を行うなど幼稚園と保育園の連携強化を図っている。両者にはそれぞれの設置目的や役割があり今日まで運営してきており、一元化するにはまだ時間がかかるとの答弁があった。

○ 国際競争が激しい中で家族手当の廃止を検討している企業があることについては、家族手当は賃金制度であり、労使が話し合って決めるもので国が何か言うものではない。しかし、妻の無業や一定水準以下の収入を条件に支給する企業が多く、そのために妻の就業を調整するなど女性が働くことにマイナスの効果になる側面もあり、こういう問題の存在も提起していきたいとの答弁があった。

○ 少子化対策基本法の必要性については、平成十一年第百四十六回国会に中山太郎君外六名から衆議院に提出された「少子化社会対策基本法案」が廃案になったことは残念であるとの意見、法案については今後の議論を見守りたいが、国を挙げて、国民各層の理解と協力を得ながら少子化対策を進めることは重要で意義があるとの答弁や、基本法を制定することは、総合的な少子化対策を展開していく上で必要であるとの答弁があった。

○ 豊かになると少子化が進むと言われるが、ノルウェーでは豊かな生活を送りながらも人口が増えている。これは男性も献身的に家事を行うという社会全体の意識があるためであり、日本も若い世代の意識改革がない限りは少子化は避けられないとの意見については、働く場所、うちの在り方、親子の関係等が変わるという前提で、ここ数年のうちに経済を含め我が国のすべてを洗い直す方が良いとの答弁があった。

○ 日本は家庭の団らんが少ない。これは労働時間が長いことに原因があり、このことが少子化にも相当な影響を与えているとの意見については、子育てを行う労働者が年間百五十時間を超える時間外労働の免除を請求できる制度の創設等を内容とする育児・介護休業法の改正案を国会に提出している。また、労使の協力で二週間程度の長期休暇をとれるよう普及啓発に取り組んでいる。家庭の団らんが少ないのは、企業優先の風土が残る労使の意識に原因があり、その是正のためには意識の啓発事業から始めなければいけないとの答弁があった。

三 各会派の意見表明・委員間意見交換(平成十三年四月十八日)

(一)各会派意見表明(全文は参考に後掲)
(自由民主党・保守党)

 夫婦は二人以上の子どもを持ちたいと希望しているが、一九九七年の合計特殊出生率は一・三九であり、夫婦が持ちたい理想の子ども数と合計特殊出生率とに乖離がある。二十一世紀には現在の総人口一億二千六百万人余を維持する必要はないかもしれないが、高齢化に伴う年金、医療、介護の問題に対処するためには、経済社会構造がどう変わろうとも少子化のままでよいはずがない。

 少子化を改善するため、出生率の増加を図ることになる。出生対応可能という意味では夫婦単位についてどう考えるかである。妻が理想の数だけ子どもを持てない理由として、経済的な負担、教育費の負担、仕事と育児の両立の困難、住宅問題、不妊の問題、子育ての精神的・心理的な負担が挙げられている。

 経済的な負担と教育費の負担は、いずれも仕事と育児が両立できる状態が維持されれば解決される。夫婦としてそれぞれの職業能力が発揮できる雇用慣行が必要である。特に子育てにかかわると考えられる三十歳から四十歳の女性の労働力確保と子育ての両立が実現したときに、夫婦が第二子、第三子を産みたいという家庭状況が出てくることが理想的な形につながる。住宅問題については、適宜な家賃で良質な家族向け賃貸住宅の提供を早急に図るべきであるとの意見も出ている。不妊の問題については、治療の結果、約六十一万人も子どもが生まれたということであれば、医療保険とのかかわりや不妊専門相談事業等をさらに推進することが必要ではないか。

 申し上げた内容をまとめると、少子高齢社会対策について、出生率の回復を図る際に、まず夫婦単位について二人以上の子どもを持ちたいという希望を達成させることを第一義的に考えてはどうかということである。

(民主党・新緑風会)

 少子化の原因には二つあり、一つは経済発展に伴う「自然な少子化」、もう一つは産みたいのに産めないという「社会的な要因による少子化」である。「自然な少子化」に対しては、自然体で受けとめ、社会制度を早急に再構築する一方、「社会的な要因による少子化」については、具体的で責任ある対策を講ずる必要がある。

 対策の大前提は三つある。一つ目は結婚や出産は個人の自由な選択にゆだねられるべきものであること、二つ目は子どもを持たない人や持てない人への十分な配慮が必要であること、三つ目は子育ての大変さや重要さについて十分な理解を示すことである。対策を具体的に立案していくに当たって、男女共同参画社会の構築と、子育てを一個人に押しつけるのではなく社会全体で支え合う仕組みづくりが必要である。

 具体的な対策の一つは子育てに対する資金的な支援である。九八年の社会保障費のうち、高齢者向けは六六・三%、児童及びその家族向けはわずか三・三%という実態から、少子化に対する国の取組の程度がうかがえる。小児医療の完全無料化と、健康保険の子どもに係る負担軽減も検討に値する。もう一つは小児救急医療体制である。小児科を持つ病院数が年々減っており、特に夜間の救急体制に支障が生じ始めている。しかし、新エンゼルプランでは目標と実績が乖離しており、必要ならば財政的な措置も講じながら二十四時間小児救急医療体制の早急な確立を図っていかなければならない。

 最後に、賛否両論のある不妊治療に対する健康保険の適用である。治療中の人は肉体的、精神的に大変な苦痛を受け、かつ金銭的な負担も重い。女性に対する圧力とならぬよう十分に配慮することを前提としながら、不妊治療に対する健康保険の適用についても検討を深めていくべきである。

(公明党)

 真の少子化対策は、人口増や出生率を上げようという国家による人口管理政策ではなく、生まれてきてよかったと子どもが感じ、親が生き生きと子育てに携われる社会をつくることである。そのため、公明党は四つの柱からなる二十一の提言をまとめた。

 第一は、地域における子育て支援の推進のための、集いの広場事業、子育て支援ルーム事業の創設、子育て関係のNPOの支援、幼稚園の活用の充実である。第二に、子育てと仕事の両立を進めるための環境づくりを更に進めるため、保育所、ファミリー・サポート・センター、保育サービスの提供体制の早急な実施や、育児休業法案に盛り込まれた子の看護のための休暇を努力義務化し、さらには介護・子ども看護特別休暇制度の創設を目指している。第三は、子育てに悩む親たちの孤独感や悩みを軽減することを目的とする、子どもと家庭のためのセーフティーネットの確立と強化である。そのため、児童相談所、児童家庭センター、里親制度、児童委員の拡充を図り、また、里親制度とファミリー・サポート・センターとの総合的運用など利用者本位の子育てネットワークづくりを進める。第四は、健やかな子育てを支援する医療体制の充実である。小児科医療については、医師不足や緊急体制の未整備の指摘や医療費の負担軽減を求める声が多い。このため現在、各自治体任せの乳幼児医療費の軽減措置を国の責任で進めるため、六歳までの乳幼児医療無料化を実現する。また、小児科医療体制の着実な整備や小児科専門医の養成などいつでも安心して医療を受けられる体制の整備を進めなくてはならない。

 子どもは社会にとっても宝であり、社会全体で育てることが少子化を迎えた日本の最も重要な政策の一つであるが、少子化対策は現在余りにも貧弱である。自助、共助、公助のバランスをとり少子化対策を一層充実させ、皆が生まれてきて、また育ててよかったと感じられる社会をつくれるよう訴えていきたい。

(日本共産党)

 「少子化」が、日本社会に問うているのは仕事と育児の両立できる社会づくりができるかということであり、そのため職場の労働条件を改善することが急務である。以下、昨年の中間報告を踏まえ、幾つかの点について申し上げる。

 第一に、男女ともに労働時間の短縮を進め、変則勤務や夜間労働、家族と離れて生活する配置転換などがないよう、条件を整備すること。また、育児・介護休業中の所得保障の引上げ、短時間勤務の創設、家族休暇制度の創設、育児休業期間の延長、時間外・休日労働の免除請求権、パート労働者への適用等育児・介護休業制度の抜本的な改善を行うことが求められている。

 第二に、男女の賃金格差の是正、女性差別解消を進めることである。男女の就業機会の平等な国ほど出生率が高く、女性の能力を生かせない企業の在り方と社会を変えることなしに、少子化問題の解決も社会の発展もあり得ない。

 第三に、保育サービスの充実、待機児童の解消が切実に求められている。ベビーホテルで痛ましい事故が起きており、安心して預けられる保育所建設は緊急の課題である。保育所整備計画の抜本的拡充、保育士配置基準の大幅改善、保育所運営のための国庫補助率を八割に戻すこと等を軸に延長保育、一時保育や病児保育などの充実を法的責任で明確にすべき。また、学童保育への十分な予算措置を行うべき。

 第四に、子育て世帯への経済的負担の軽減策を進めることである。当調査会の中間報告で乳幼児医療の負担軽減を提言しており、政府は乳幼児医療無料化に踏み出すべきである。一方で、増税とセットで児童手当が拡充されたが、社会保障制度としての展望を持たずに見直すことへの危惧や、税金での財源捻出では財源確保の方法が確立されていないとの指摘がある。高すぎる教育費や住宅事情の悪さの解決、子どもの権利条約の完全実施、児童虐待防止、バリアフリー、環境保全等安心して子育てが楽しめる環境整備が必要である。

 社会保障中心の予算や労働条件の改善による人間らしい労働と生活こそ、仕事と家庭を両立できる社会をつくることであり、少子化問題解決のかなめである。

(社会民主党・護憲連合)

 女性も男性も生き生きと暮らせる社会の実現のためには、男女共同参画社会基本法を実効性あるものとしなければならない。そのためには、固定的性別役割分業を前提とした各法律、雇用制度、社会保障制度を見直す必要がある。

 急速な少子高齢社会に対応する雇用システムの構築のためにも、育児、介護など家族責任と仕事の両立に向けた支援策を講じ、子育てと両立した就業形態、給与体系とともに、労働時間の短縮、ワークシェアリング効果を通じた雇用創出にも積極的に取り組む必要がある。そのため、看護休暇の新設、家族的責任を有する男性への強制的な育児休業制度の導入等を内容とする社民党提案の法律の制定、育児・介護休業の休業手当の六〇%への引上げ、時間外労働の実効ある規制が必要であり、また、パート労働にフルタイム労働との均等待遇を確立し、フルタイム労働とパート労働との双方向転換制度の定着を進めることも必要である。さらに、育児、介護、家事などを無償労働として評価するために年金保険料の免除、加入期間への加算なども急務である。

 女性の職場からの離脱を阻止し、社会参画を促すとともに、男性の無理のない育児、家事への参加のためには、子育ての総合的な支援システムの構築が不可欠である。そのため、保育所の新設・拡充を進め、必要な保育士、指導員等の身分保障と雇用機会の拡充や新エンゼルプランの前倒し実施とともに、目標を大幅に引き上げたスーパーエンゼルプランともいうべき計画を策定し、保育所などの基盤整備を大胆に進めることが重要である。また、育児不安についての相談、助言、支援を行う地域子育てセンター及び複雑化する子どもの問題に対応する児童相談所、児童家庭支援センターの拡充が必要である。さらに、各地に子供病院を国の責任で整備するなど縮小傾向にある小児救急医療体制の維持、拡充も急務であり、子ども手当の創設も必要である。憲法、教育基本法、子どもの権利条約を貫く子どもの最善の利益を保障するとともに、女性の性と生殖に関する自己決定権を保障することを社民党はあらゆる政策の基本に据えている。

(無所属の会)

 長期にわたって政策立案、立法化していくことが参議院の大事な部分であり、この調査会でも法案について意見を申し上げたが、結果として決議という形で三年間の実績を実らさざるを得ないのは残念である。

 少子化問題は高齢社会の裏腹の問題であり、もっと早く対応すべきであった。一種の先進国病であり、非常に難しい問題だと認識している。各党の意見陳述で挙げられた具体的な提案についてはもちろん賛成であるが、まずは国家の意思を明確に示すことが大事である。政治、行政、外交、社会、経済が不協和音を奏でてしまっている現在、日本の国の形がどうなっていくのか、先がみえない状態で具体的な手だてだけするのでは少子化対策はできない。

 諸外国に比して、日本は就職後独立せずに両親と同居する例(「パラサイトシングル」)が多くみられる点については、具体的な対応策を考えるべきである。

 結婚しても子どもを産むことができる状況づくりとしては、夫の育児休暇取得の問題は大きい。また、二、三歳くらいから幼保一元化を行い、数少なく生まれてきた子どもたちをいかに立派に育てるか、ということに社会の子という一つの方向性を位置づけるべきである。

 また、参考人の意見にもあったように、例えば夫婦二人で半日程度働き子どもを養えるような仕組みに勇気を持って取り組んでいくことが必要である。

 国会で様々な法案をつくり、決議をして、それらの方向に向けて我が国のために頑張っていこうという環境整備を政治の場でまず作っていくことが、少子高齢化社会に対応する我々の責任である。

(自由党)

 少子化問題について、様々な環境整備は非常に大切であると認識しているが、それらの政策では人口維持までに至らないであろう。そもそも、日本の国土での適正人口についての議論が日本の中でほとんど存在していない。

 人口の減少傾向には、就業体制、特に労働時間の問題が大きく影響を与えてきた。諸外国では、時間外労働に対して禁止税的な課税を行っている例もある。そこまで考慮しなければ家庭で過ごす時間は持てないであろう。

 戦後、経済は右肩上がりに成長し、政治は成功しているという認識を我々は持ったが、現実に国民一人一人の生活レベルがどうなったか、についての分析は十分になされていない。人口の増減は調節可能な問題ではなく、少子化自身も少子化対策も大人のエゴではないかという思いが深い。少子化によって何が問題となるのか。社会保障負担の問題など、現実的な問題のみでの議論が多すぎる。これからの家庭生活、コミュニティーをどう形成していくかを考えた場合、住宅問題を考えても、日本は北欧に比してはるかに劣っており、こうした点も少子化の大きな要因の一つとなっている。

 いくら条件を整えても少子化は防げないときにきている。今後根本的に何を考えなければならないかということについて我々はまだ回答を持っていないのではないか。

(二)委員間意見交換

○ 妻が理想の数だけ子どもを持てない要因のうち、経済的な負担、教育費の負担、住宅問題は経済的な問題であり、幾つかの手が打たれ、状況も変わりつつある。不妊の問題は、慎重にしっかり取り組むべきである。
仕事と育児の両立の困難、子育ての精神的負担に関して、自助、共助、公助からアプローチすると、自助は、男女が共に家庭をつくる、家事や育児を行うという意識改革と実践活動が大事である。公助は、制度の改革、特に、育児休業の充実、延長保育、学童保育が重要である。共助は、多世代住宅を近隣につくることで、長寿者も孫を育てる生きがいができ、親も安心して仕事ができる。廃校となった小学校に長寿者の憩いの場と保育所を併設し、多世代の触れ合い、助け合いができるコミュニティープラザをつくることも考えられる。

○ 女性側だけに目を向けていては少子化は解決せず、男性も女性も、子育ては一緒にできるということを前提にすることが必要である。
高齢者や外国人の就職に優しくない社会、女性だけに子育てを負わせようとする社会は、決して豊かな社会とは言えない。婚外子や一人親家庭の子どもへの差別もある。少子化は悪だという考え方をまず撤廃することである。固定化された性別役割分担を前提としていないか考え直すことが必要である。子どもを将来の労働力として見ている部分がある。

○ 家庭と仕事の両立が少子化対策のかぎを握っており、働くことと出産・育児を両立できない日本の雇用と労働の異常な状態にメスを入れるべき。具体的には、男性の働き方を変えて育児に参加できるようにすべき。育児のための短時間勤務制度の義務化、男性の育児参加に向けての国の意思、男女の賃金格差を埋めることが必要との参考人の意見を真摯に受け止めたい。また、女性の機会費用は、家族を育てることも労働力の再生産費用として企業が負わなければならないと考える。
 なお、乳幼児医療の助成について、政府が、窓口で無料にしている自治体に対し国庫補助減額のペナルティーをかけていることは、本調査会の提言に対して余りにひどい対応であり、改めていただきたい。

○ 小児救急医療の充実といわれても、現実には不可能に近い。例えば、小児救急病棟をつくるためには、二十四時間救急に備えて小児科専門医が三人必要である。また、小児の場合にはばい菌に対する抵抗が弱いので、専門病棟が必要であり、資本投下が大変である。

○ 現在は人口置換水準を計算しているが、この数字に意味があるのかどうか。少子高齢化が続くとき、総人口を含めて社会構造をどう変えていくかという逆の調査も必要ではないかと思う。

III 課題

 今期の三年間にわたる議論・活動において表明された意見や見解をもとに、主要な論点と思われる事項について取りまとめると、以下のようになる。

一 未婚・晩婚化の背景

(若年世代の自立支援)

 我が国では、結婚した夫婦からの出生数は、平均二・二人前後で安定しており、未婚・晩婚化の進展が、近年の出生率の低下傾向に大きな影響を与えている。

 現在の若年世代は、就業しても親と同居し、生活の基本的な部分を親に依存している「パラサイト・シングル」にみられるように、独身生活を維持することを優先し、結婚や出産というライフスタイルの選択をためらう傾向がある、と指摘されている。結婚や出産は当事者の自由な選択に委ねられるものであるため、出生率の回復を図る上で、結婚や子育てに夢や希望を持てる社会を構築することが重要である。このため、結婚が自己実現を図る上での障害とならないよう、企業の家族手当や社会保険、税制などの配偶者対策についても検討していくなど、結婚、出産、育児といったライフスタイルの選択を魅力あるものにしていくことが重要である。

 また、若年世代の自立を支援するとともに、これら若年世代に対し家庭を持ち子育てをする喜びが持てるよう、社会全体で子育てを支援していこうというメッセージを伝えていく必要がある。

(若者の出会いの支援)

 若者の出会いの多くが職場であることから、性別によって固定化されがちな職場を開かれたものにし、男女が共に働くことのできるような社会を構築していくことは、出会いの機会を増やしていくことにもなる。また、職場優先の企業風土を改善し、長時間職場に拘束され、自由時間がないという現状を改めていくことが必要である。

 地方自治体が、住民の理解を得て、独自に行っている出会いの機会を提供する企画などについては、過疎化対策としての意義も有し、肯定的に捉える必要がある。また、農村部については、過疎問題や農業自体の問題も絡んでいるため、農村の活性化という観点も合わせて考えていくことが重要であるとの意見があった。

二 働きながら子育てしやすい雇用環境の整備

(男性の育児休業取得の促進)

 育児休業制度の普及・充実は、働く男女にとって仕事と育児の両立を図る上で不可欠であるだけでなく、経験ある優秀な人材を確保するという観点から、企業にとってもメリットがあり、制度の更なる充実が求められている。現在の女性の育児休業取得率が五六・四%であるのに比較して、男性の育児休業取得率は〇・四二%と極めて低く(平成十一年度女性雇用管理基本調査)、父親の育児休業取得の促進が求められる。このため、男女の賃金格差を是正するとともに、ノルウェー、スウェーデン等の北欧諸国で行われているパパクオータ制など、男性の取得を義務付けるポジティブアクションの導入の検討が求められる。また、生み育てるプロセスも男女共通の課題であるとの観点から、父親の出産休暇制度についても検討すべきである。

(育児休業期間中の所得保障水準の引上げ)

 男性の育児休業取得を促進するためには、育児休業中の所得保障の引上げにより、休業期間中の生活保障を充実させることが必要である。また、女性の社会進出や高学歴化による賃金の上昇に伴い、出産・育児による就業の中断に伴う機会費用も上昇しており、失われる生涯所得は四千四百万円に上るとされている(平成九年版国民生活白書)。子育てにかかる機会費用については、社会全体で分担していくことが重要であり、こうした観点からも、現在四割とされている育児休業中の所得保障の更なる充実が望まれる。また、働き方の多様化、中途採用の機会の拡大、雇用形態による賃金格差の縮小によっても機会費用の軽減は可能である。

(育児休業制度の充実)

 育児休業期間の延長及び育児期間中の短時間勤務制度の普及を図るとともに、休業取得者が不利益を受けることのないよう昇進、昇格などで配慮していく必要がある。育児休業制度を利用しなかった者で、育児休業を取得しなかった理由として挙げる最も多い理由が、「職場の雰囲気」である(平成十二年育児・介護を行う労働者の生活と就業の実態等に関する調査)。出産・育児により職場や労働市場から一時的に退出をしても、心理的な負担を感じることなく職場復帰することができるよう、休業期間中の代替要員の確保や、制度を利用しやすい職場の雰囲気づくりを進めていくことが必要である。また、一歳以上であっても養子縁組に対しては、早期に親子関係をつくることができるよう、育児休業を取得できるようにすべきであるとの意見があった。

(看護休暇制度の創設)

 子どもの看護等のため、母親、父親双方の年休取得と欠勤日数の合計は年一四・九日に上る、との調査結果がある。一方で、民間事業所での子どもの看護休暇制度の普及率は平成十一年で八・〇%にとどまっており、子どもが病気になった場合、祖父母などに頼っているケースが多いと考えられる。労働者からの要望が多い看護休暇制度の早急な法制化が求められる。

(労働時間の短縮)

 育児と仕事を無理なく両立させ、家庭において子どもと触れあう十分な時間を確保するには、従来の男性中心の雇用管理に基づいた職場優先の働き方を変えることが必要である。このため、社会全体のワークシェアリングを推進し、時間外労働の削減や年次有給休暇の完全取得、短時間勤務制度の充実といった方策により、労働時間の短縮を図っていくことが重要である。いわゆるサービス残業の解消も求められる。

 このため、情報技術などの導入によって業務の効率化を図るなど、生産性の向上を図ることが必要であるとともに、現在の長時間労働を生み出している要因ともなっている、労働時間や勤続年数による評価システムから、労働時間にとらわれず、成果・業績を重視する評価システムに移行していくことも必要であるとの意見があった。

 さらに、在宅勤務やSOHO、パートタイム就労など、ライフスタイルに応じて、勤務形態を自由に選択できるような環境を整備するとともに、男女共に雇用と生活の保障を前提とした労働関係を構築することも課題となっている。労働時間を減らし自分たちの時間を多く取ることができるよう夫婦二人で一・五人分稼ぐオランダのような働き方や、職住近接した町づくりをしていくべきである、との意見があった。

(多様な働き方)

 自己のライフスタイルに応じた柔軟な働き方を自由に選択できる雇用環境を整備するという観点から、パート労働者や派遣労働者も、育児休業制度を取得できるようにするとともに、社会福祉等において正規労働者と同等の権利を付与することにより、雇用形態の差異に起因する待遇格差を解消していくべきであるとの意見があった。

(企業の役割)

 厚生労働省は仕事と育児・介護の両立に積極的な取組を行っている企業を対象として、ファミリー・フレンドリー企業表彰を実施している。こうした制度が企業にとっても優秀な人材を確保するために有効となるよう、表彰企業のPRを積極的に行い、その普及を図るほか、税制上の優遇措置等についても検討すべきであるとの意見があった。また、個別の企業において、男女共同参画推進部署の設置を促進するとともに、転勤や配属・異動などについても、本人の意向や家族事情に十分配慮することが求められる。さらに、職場優先の企業風土を改め、仕事と育児を両立しやすい労働慣行の形成や職場づくりを促すため、国が教育・啓発活動を促進し、経営幹部を始め、管理職、一般社員の意識改革を図るとともに、企業の育児についての社会的責任に対する自覚を促していくことが必要である。

三 安心して子育てできる環境づくり

(保育所待機児童の解消)

 待機児童は平成十二年四月一日現在で、全国で約三万三千人に上っている。都市部では、特に低年齢児の保育所が不足しており、これらの待機児童の早急な解消を図っていくことが必要である。このため、保育所整備計画を明確にするなど目標の前倒しなども含めた新エンゼルプランの着実な実施が求められる。

(多様な保育サービスの提供)

 保育ニーズは多様であるが、ゼロ歳児保育や病児保育、障害児保育、また休日保育など、現在の保育所等では十分に対応できていないものがある。専業主婦が、冠婚葬祭時や、育児ストレスからの解放が必要なときには、そうしたニーズに対応できる一時保育なども必要である。また、保育の終了時間に仕事が終わっていない場合などは、母親の働き方に合わせて柔軟に保育時間を選択できる延長保育等、多様な保育ニーズにきめ細かく対応できる保育環境の整備が求められる。認可外保育所の認可保育所への移行の促進や、保育内容の向上のための支援強化も求められている。さらに、大都市地域では、通勤途中で子どもを預けることができるような駅型保育所や駅前保育ステーションの整備が必要との意見もあった。

(保育サービスの質的充実)

 都市化・核家族化や地域社会における人間関係の希薄化により、子育て期の母親が孤立しがちな状況にある。また、女性が生活のためだけでなく、自己実現を図るために仕事を続けていくとともに、余裕を持って子育てを楽しむことができる社会を構築することが必要である。このため、保育所については、育児相談やカウンセリング・ルーム等の、母親向けの育児に関するサポートシステムを整備・充実させることにより、地域の子育て支援の中核としての機能も合わせて果たしていくことが求められる。また、遊びを通して自発性・自立性や社会性を育み、乳幼児期に将来の基本的な人間関係が結べるよう配慮された保育内容の充実が求められる。このため、保育士や指導員等の子育てマンパワーについても、増大するニーズに対応できるよう十分な数を確保するとともに、養成の場や研修制度の充実等により、質量両面からの充実を図ることが必要である。

(幼稚園と保育所の連携)

 幼稚園と保育所については、施設の共用化が進められ、幼稚園教諭と保育士の合同研修のほか、子育て支援事業の連携が図られている。両者は、それぞれ教育と保育という異なった目的と役割を有するが、しつけ等の就学前教育及び幼稚園での預かり保育の充実が求められるとともに、保育と幼児教育の分野が一貫性、整合性を持って行われる必要があることから、一層の効果的な連携強化が求められる。

(放課後児童クラブ)

 保護者が労働等により昼間家庭にいない、小学校低学年児童の放課後対策である放課後児童クラブ(学童保育)は、新エンゼルプランにおいて平成十六年度までに全国一万千五百か所に増やすよう努力目標を掲げている。育児と仕事の両立を支援し、児童の安全・利便を図るため、専用のスペース、専任の指導員の配置、指導員の待遇改善など公的助成の充実を図るとともに、新エンゼルプランの着実な実行による事業の更なる推進を図っていく必要がある。また、開設時間の延長や対象児童の年齢の引上げが課題となっている。

(地域社会における子育て支援)

 子どもの健全な育成を図る上で、祖父母など豊かな社会経験を持った高齢者や地域社会における様々な世代との交流の果たす役割は大きい。高齢社会が進展していく中で、高齢者が地域の子どもたちと接することは、高齢者にとっても生きがいを得ることにつながり、地域文化の伝承なども促されるため、地域で高齢者が子育てに参加することができるようにすることが必要である。保育士以外の幼稚園教諭や小学校教諭等の資格を持った高齢者が、保育所等において、子育てボランティア活動を行うことができるような体制の整備が求められる、との意見があった。また、高齢者のデイサービス・センターと保育所の併設等により、世代間交流を促すことも求められる。

 また、地域におけるNPO活動が子育て支援に貢献できるような体制を整えることも必要である。さらに、子育て中の親子が交流し集うための場を提供したり、育児経験のある母親も加わった子育てに関する情報のネットワークを形成し、その経験を活用していくことが求められる。

(ファミリー・サポート・センター事業)

 ファミリー・サポート・センター事業については、その補助基準を人口五万人以上の市町村と設定している。小規模の都市においても、近隣の市町村が共同で当該事業を実施したり、地域互助制度としてのニーズが見込まれる場合における、補助基準の弾力的な適用が求められるとともに、事業の更なる拡充が求められる。また、就学前の子どもだけでなく、小学校における放課後の子育て支援についての利用の普及が求められる。

(三歳児神話)

 女性が出産後も仕事を継続するためには、一日中家にいて子どもを育てるのではなく、保育所等の保育サービスを利用することが不可欠となる。少なくとも三歳までは母親自身で子どもを育てるべきであるという、いわゆる「三歳児神話」により、保育所等に預けて育てることに不安を抱く人も少なくない。平成十年版厚生白書では、三歳児神話について「少なくとも合理的な根拠はない」としており、本調査会においても、母親の子育ては接触の時間よりも接触の質が重要であり、三歳児神話は少子化を促進する方向に働くとの意見もあった。乳幼児期は特定の養育者との関係を通じて、人間に対する基本的信頼関係を形成する重要な時期であり、保育士の担当制を取り入れたり、カリキュラムにも工夫をするなど、保育施設におけるきめ細かな配慮をすることで、働きながら預けて育てている母親の不安を取り除くことが求められる。

(児童虐待)

 近年増加を続け、社会問題ともなっている児童虐待については、都市化、核家族化の進む中で孤独な母親が、育児負担を一人で背負い込み、子育てに強い不安を感じていることが、その要因として指摘されている。このため、地域社会における子育てを支援するため、子どもを社会全体で育てる体制を早急に整備するとともに、児童相談所の児童福祉司の定員の増員、虐待を受けた子どもに個別に対応できる職員や心理的な療法ができる専門職の設置など、十分な対応が求められる。また、児童家庭支援センター、里親制度、児童委員の充実を図り、地域における子育てネットワークの整備の推進が必要である。また、一部のベビーホテルで起きた児童虐待の再発防止については、その実態の把握に努め、調査・指導を着実に行うとともに、保育従事者に対する研修の充実等により、保育サービスの質的向上を確保する必要がある。

(婚外子差別の撤廃)

 我が国においては、正式な婚姻をしていない夫婦から生まれた婚外子は、全体の出生数の一・五%である。これに比較して、スウェーデン、フランス等では、婚外子の割合は四〇~五〇%に上り、我が国の出生動向においては婚外子の割合が極めて低いことが特徴付けられる。婚外子の出生率が低い我が国で、相続等における婚外子に対する差別の撤廃や、夫婦別姓を選択制で取り入れることによって、嫡出子と非嫡出子との区別をなくしたり、嫡出子との格差を是正することが課題である。

(子育てしやすい生活環境)

 子育て中の世帯の住環境については、子育てのしやすい広さで、適当な家賃のファミリー向けの賃貸住宅が不足している。ファミリー向け賃貸住宅の供給の促進を図るとともに、子どもの成長に合わせて間仕切り等を容易に変えることができたり、家族構成に合わせた住み替えができる、家族の団らんや語らいといった相互のコミュニケーションに役立つ良質な子育て支援住宅の整備が求められる。また、子どもを持つ家庭への住宅補助を図り、職住近接したゆとりある住生活を実現することが必要である。

 また、子育て中の家族でも移動を容易にするため、公共施設のバリアフリー化等を進めるとともに、住宅と医療施設や保育施設が一体的に整備された子育てタウンづくりを進める必要がある。

四 出産・育児等にかかる経済的な支援

(乳幼児医療・妊産婦健康診査)

 乳幼児医療費については、現在、地方自治体が単独事業として独自に助成を行っており、平成十一年四月一日から一年の間に、助成対象となる児童の年齢の引上げなどを行った自治体は、都道府県で十道県、市区町村では千六十八市区町村に上っている。このように、各自治体において助成の拡充が図られているが、これに要する自治体の財源の確保が課題となっている。また、自治体によって差のある医療費助成制度について、国としてより充実した制度の在り方を検討することが求められる。また、妊娠から出産までにかかる費用の軽減について、平成九年から市町村が主体となって実施している妊産婦健康診査の公費負担を更に充実させることが求められる。

(出産・育児をめぐる給付の拡充)

 出産育児一時手当金、育児休業手当、児童手当等の出産・育児をめぐる給付の実施は、単に育児にかかる経済的負担を軽減するにとどまらず、子どもを生み育てることに社会全体が敬意を払い感謝するというシンボリックな意味を有するとの指摘がなされた。

 児童手当については、少子化対策としての効果への疑問について意見も述べられたが、児童の養育費を軽減する観点から、その充実を求める意見も強い。児童手当の支給年齢、支給額、財源構成、所得制限等について抜本的な検討を行い、支給対象年齢の大幅な引上げや支給額の増額を図るべきであるとの意見が述べられており、制度充実に向けた検討を速やかに開始する必要がある。

 また、年金制度の中に出生給付を創設する一方で、児童手当も年金制度の一給付に改め、年金制度に対する若者の理解を深めるべきであるとの意見、さらに、育児にかかるコストを社会的に再配分するため、総合的な育児保険制度の創設について検討すべきであるとの意見があった。

(保育バウチャーの支給)

 保育施設の保育料やベビーシッター代として利用できる保育バウチャー(保育切符)を、直接利用者個人に対して給付することにより、保育費用の負担を軽減するとともに、保育所間の競争を促進し保育サービスの向上を図る必要があるとの意見があった。また、ベビーシッターへの補助制度については、育児ストレスからの解放や、子どもの病気、冠婚葬祭時等に専業主婦も同サービスを利用できるよう検討すべきである。

(奨学金制度の拡充)

 子どもが成人するまでの子育てに要する費用のうち、特に多額の費用を要するとされる、大学教育を中心とした高等教育費の負担を軽減するため、奨学金制度の貸与に関する基準や家計基準の緩和を図るとともに、貸与額の増額を図る必要がある。また、国立大学、国立研究所就職者のみを対象とした奨学金の返還義務の免除制度について見直すべきである、高校レベル以上の教育補助金を、原則として全額奨学金化することを検討すべきである、との意見があった。また、授業料の負担軽減も必要である。奨学金制度の充実は、パラサイトシングルの増加など少子化の要因の一つとも指摘される若い世代の自立心の欠如を克服し、早期自立を促す効果があるとの意見があった。

五 出産・育児等にかかる医療体制の整備

(不妊治療)

 子どもを望みながら子どもを持てない夫婦は相当数に上り、一般には夫婦の十組に一組が不妊の傾向があるとされるが、自費診療となるケースが多く、その費用負担の大きさが問題となっている。このため、生みたい人が希望どおり子どもを持つことができるよう、不妊治療に対する医療保険の適用の拡大が求められる。その際、これらの措置が女性に対する圧力とならぬよう十分配慮する必要がある。また、不妊治療については、社会的・倫理的・法的な問題と安全性などの医学的な問題を解決していかなければならない。このため、医療技術の開発、施設のクオリティ・コントロール、患者のカウンセリングの充実等の適正な治療環境の整備を図っていく必要がある。また、不妊治療が商業化していくことも問題点として指摘された。

(小児救急医療体制)

 子どもが急病になった経験を持つ保護者の中で、医師の不在等により診療を受けられなかった経験を持つものが約二割あり、現在の小児救急医療体制に不安・やや不安と答えた者の割合は六〇%となっている、との調査もある。このため、二十四時間対応できる小児医療体制の早急な整備が必要である。また、新エンゼルプランに基づき、平成十一年度から始まった小児救急医療支援事業の目標値の達成のために、一層の努力が求められる。小児医療をめぐる環境改善を図るため、十分な小児科専門医の確保に努めるべきである。

六 人口減少下の社会保障制度と労働力確保

(社会保障制度の在り方)

 少子・高齢化が進展していく中で、社会保障給付が増大し、現役世代が社会保障のすべての負担を担うことは困難となっており、世代間の負担公平を図っていく必要がある。また、高齢者対策に比重が置かれている社会保障給付を児童・家族向けにも比重を置いていくことが求められるとの意見があった。一方、社会保障への国庫支出の割合を増やし、社会保障を予算の中心へと切り替えていくべきとの意見があった。

 少子化が進み、総人口が減少する状況の下で、将来の社会保障制度の担い手を増やすためには、女性や高齢者の社会参画を進めることが不可欠である。このため、女性や高齢者が社会で無理なくその能力を発揮していくことのできる、ジェンダーフリー社会、エージフリー社会を実現し、少子・高齢化に適切に対応できる社会保障制度を構築していくことが課題である。

(労働力人口の減少への対応)

 少子化の進行に伴い、近い将来、若年層を中心とした労働力人口の減少は確実であり、我が国が経済活力を維持するには、個人が生涯を通じてその能力を発揮できる社会システムを早急に整備するとともに、新しい技術の導入や民間活力の活用、労働力の質的向上により、生産性を高めていくことが必要である。

 また、将来、介護など需要が増大する分野で、労働力の供給不足が生じる可能性が指摘されている。これらの労働力不足を補うため、女性や高齢者の労働参加を促すとともに、外国人労働者の導入についても検討する必要がある。外国人労働者の受入れについては、異質の文化や多元主義を社会に受け入れる観点から、単に人口や社会保障財政の視点からのみ議論するのではなく、政治・経済・文化・教育等、様々な社会的影響及び外国人労働者側の国の事情等に配慮し、幅広い観点から検討する必要がある。

七 国・地方自治体における少子化対策の推進

(総合的な少子化対策の推進)

 少子化対策の推進に当たっては、まず、安定した経済成長を実現し、雇用の安定を図ることにより、社会の将来展望に対する安心感を生み出していくことが重要である。また、国民各層の理解と協力を得て、少子化対策を実行していくことが求められる。このため、少子化関係施策の支柱として、強力な推進体制を整備するため、総合的な少子化対策を調整する機関の設置が求められる。

(地域の特性に応じた少子化対策)

 少子化対策において、地方自治体が果たすべき役割は大きく、それぞれの地域の特性をいかした施策を積極的に展開していくことが求められる。その際、国と地方自治体が一体となった取組が重要である。こうした観点から、地方自治体の行う施策に対する国の財政支援の強化や、国の施策に呼応した自治体の策定計画の目標達成に向けた支援、また過疎地域等における少子化の実情を勘案した弾力的な補助基準や要件の設定等が必要である。

八 男女共同参画社会の形成

(M字型カーブの是正)

 女性の社会参加や核家族化が進展する中で、家族の養育機能は低下し、子育てに係る女性の負担は増大している。このため、結婚・出産を機に仕事を中断する女性が多く、年齢別の女性の就業率においては、我が国では他の先進諸国に比べ、二十五~三十五歳層の女性の就業率が低下する顕著なM字型カーブが見られる。また、仕事と育児を両立させ、機会費用を軽減させるためにも、女性が自由に自己実現を図り、社会に参画することができる環境整備を行い、M字型カーブの解消を図っていくことが課題となっている。

 政府においても、男女共同参画社会基本法に基づき、基本計画を策定し、各種の施策を推進しているところであるが、男女が共に家庭や地域社会において果たすべき責任と仕事を両立でき、多様な働き方、生き方を可能とするジェンダーフリー社会を構築することが求められる。

(男性の育児参加)

 女性に偏重している子育てにかかる負担を、男性や社会も分かち合い、共に支えていくことで、子どもを安心して生み育てることのできる環境を整備することが必要である。男性の家事や育児への参加は、父親としての家族責任を積極的に果たすことで、その自覚を促すとともに、ややもすれば孤立しがちな子育て中の母親の心理的・肉体的負担感を軽減し、母親自身もまた成長できるような育児を可能にすることにもなる。また、男性の育児参加は、子どもの健全な成長のためにも重要であり、父親がどの程度、育児や家事に参加したかが育てられた女性の結婚志向の強弱に影響を与えるとの意見があった。

(女性が就業を継続できる環境の整備)

 欧米諸国の傾向を見れば、一般的に女性の労働力率が高まれば、出生率も高まる傾向が見られる。デンマークやスウェーデンなど女性の社会参加が進んでいる北欧諸国では、低年齢児に対する保育サービスの充実、育児休業給付の充実などとともに、税制や社会保障制度等の社会システムの個人単位化、女性の社会参画と出産・育児などの家族責任を両立できるような施策の推進により、少子化への対応を図り、出生率が比較的高い水準にある。我が国でも国立社会保障・人口問題研究所の試算によれば、就労と育児の両立支援策の推進により、合計特殊出生率は一・三八から一・七八まで回復すると指摘されている。

 こうした観点から、出産後も育児をしながら就業を継続できる環境を整備し、固定的な性別役割分業を前提とした慣習、雇用制度等を見直すことが重要である。税制、社会保障制度等を、男女が共に働くことを前提として、世帯単位から個人単位とするものに改めていくことも求められるとの指摘もあった。男女が共に、そのライフスタイルに応じて、自己の能力を十分に発揮できる男女共同参画社会を構築することにより、結婚、出産、育児に夢や希望を持てる社会を形成することが求められる。

九 次世代の健全育成

(子どもの健全育成に果たす地域社会の役割)

 少子化の進展に伴い、子どもたちの間で切磋琢磨する機会が失われるとともに、都市化の進行に伴って自然体験や生活体験をする機会が失われている。社会生活の中で、相手との調和を考え、自らの力を自制し、また発揮する方法は、小さな子どもと付き合うことによって育まれていくものであり、異年齢集団の中で、小さな子どもとつきあう機会が減少することにより、本来学ぶべき自制心が育たなくなっていることが懸念されている。

 子どもが社会の中で、生き生きと生活することができる「生きる力」を育むため、人間関係が希薄化している地域社会において、多くの知人との関係性をつくることが重要である。このため、地域の特色を踏まえた「地域内交換留学」や、商店街でのアルバイト体験などを通して、多くの人々との関わり合いの中で、人との関係性、つき合い方、自分の意見の出し方を学び、健全に成長していくことが求められるとの意見があった。また、学校の施設や人的資源も活用しながら、地域全体で子どもを育てていくという視点が必要である。子どもの権利条約の精神をいかし、地域社会や教育を通して、国民全体で次世代を育成していこうという意識を高めていくことにより、安心して子どもを生み育てることができ、それが幸せにつながる社会を形成していくことが求められる。

(親の果たすべき役割)

 子育てにおいて両親の果たす役割が何にも増して重要であることは言うまでもない。このため、新しく家族を形成する人については、子どもを生み育てることについての責任を自覚し、夫婦共通の課題として真剣に考えることが必要である。さらに、「育ち」の機能を発揮する場である「家族の団らん」を持つことで、親と子どものコミュニケーションを緊密にしていくことが必要である。

 また、成長期の過度の干渉などから、子育てに自信を持てない親の増加も指摘された。こうした子育てに悩む親を対象としたカウンセリングを充実させる必要があり、公的な支援が必要である。

十 生涯能力発揮社会の形成

(能力開発に対する支援)

 将来的な労働力の減少に適切に対応し、経済的な活力を維持するためには、個人の能力を高め、生産性の向上を図ることが必要である。労働力の質的向上を図るためには、教育水準を向上させるとともに、労働者個人が自発的に行う自己啓発や能力開発に対しても、国や企業が積極的に支援していく体制の整備が必要である。また、仕事を続けながら職業能力を高めていくことのできる職場環境の形成が重要である。

 このため、企業においては、労働者が企業内において自主的にキャリア形成を進めることができるよう、人員配置等において本人の意向を考慮するほか、教育訓練休暇制度の充実や能力開発ローン制度等の自己啓発の支援などが必要である。あわせて、大学や大学院においても社会人の受入れを進めるほか、インターネットを活用した遠隔授業など、多様な教育機会を提供していくことにより、企業外での自主的な能力開発を支援していくことも必要である。また、こうした取組を支援する事業主に対する助成を拡充することが求められる。

(労働力の流動化と雇用の安定)

 生涯を通じて個人の能力を継続的に向上させ、その能力を発揮することができるよう、労働者の能力や成果を公正に評価するシステムを確立するとともに、能力を発揮する場である労働市場を整備するため、近年の労働力の流動化に適切に対応するとともに、労働条件の悪化が行われないよう雇用の安定を図る必要がある。

 このため、公的職業情報サービスの一層の充実とともに、雇用調整に関するルールづくりが求められる。また、退職金に手厚くなっている税制の見直しや年金のポータブル化の検討についての意見もあった。

(生涯を通じたキャリア形成)

 労働市場の変化に備え、一人一人の存在価値を高め、生涯にわたって職業能力を発揮するためには、早期に職業観を培いキャリア開発を支援する必要があり、中等教育段階において人生について考えさせる機会を設けたり、大学等においてライフプラン、キャリアプランを考え、将来の就業コースについて現実的に考える機会を設ける必要がある。個人のライフプランをもとに、キャリア形成を行うに際しては、企業においてキャリアプランについての情報提供と同時に、キャリア開発の重要性を認識する場を提供することが重要であり、個人の個別の課題に対応するためのキャリア・アドバイザーの設置が必要である。

(生涯現役社会の構築)

 我が国では、働く意欲のある高齢者の割合が多く、年齢にかかわらず個人の能力に応じた働き方を選択することができる雇用環境の形成が求められている。また、中高年の転職や再就職の障壁ともなっている採用時の年齢差別や、定年制の在り方についても見直し、エージフリー社会を実現することが必要である。また、高齢者の再就職を円滑にするよう、就職情報の提供や職業紹介機能の充実など、高齢者雇用対策の充実が求められる。これらにより、働く意欲と能力のある高齢者が、生きがいを持ってその能力を発揮できる生涯現役社会を構築することが重要である。

IV 提言

 我が国においては、急速に進行している少子化により、次代を担う子どもの健全な成長、地域社会、社会保障制度等に深刻な影響を与えることが、危惧されている。

 いうまでもなく結婚や出産は個人の自由な選択に委ねられるものである。しかし、我が国において生じている少子化は、女性の社会進出、核家族化等の社会の変化に、制度や慣行が適応していないことにより、若者が仕事と子育ての両立や育児に負担を感じるようになっている社会の在り方に深くかかわって生じている。また、「パラサイトシングル」といわれる若者に代表されるように、若い男女が親から自立して家庭を築くことをためらう心理的な要因とも関連している。

 こうした社会制度や慣行、さらにはその背後にある意識を見直し、家庭や子育てに夢を持ち、理想とするだけの子どもを生み、次代の社会を担う子どもを安心して生み育てることのできる社会を構築することにより、急激な少子化の進行を防ぐことが求められている。

 同時に、人口が減少する中においても、豊かさと活力を維持できる社会としていくことが、喫緊の課題となっている。こうした取組に当たっては、男女共同参画社会や年齢や性別に関係なく能力を生涯にわたり発揮できる社会を実現することが必要である。

 このような観点から、三年間の調査のまとめとして、重要であり速やかな取組が求められる事項について以下のとおり提言を行う。特に、次代を担う子どもを、生み、養育することは、二十一世紀の我が国のあり様を決定する重要な営みであるため、出産や子育てを支援する施策を飛躍的に強化するとともに、所要の財政的措置を講ずるべきである。

 政府並びに関係方面におかれては、その主旨を理解され、実現に努められるよう要請するものである。

(男女共同参画社会の形成)

 我が国社会における、固定的な男女の性別役割分業意識や職場優先の企業風土の存在は、結婚、出産、育児に際して女性に大きな負担を感じさせ、就業の継続を困難にする等女性が能力を発揮することや女性の社会参画の機会を制約している。このような社会の在り方が、女性に結婚や出産をためらわせている。さらに、再就職する際に良好な雇用機会が少ないことが、女性の出産・育児に伴う機会費用を大きなものとしている。このため、こうした社会の在り方を改め、男女が共に育児と仕事に喜びや生きがいを感じ、家庭、職場、地域で様々な責任を果たし、自己実現を図ることのできる社会を形成すべきである。

(仕事と育児の両立を可能とする雇用・職場環境の形成)

 育児をはじめとした家庭責任は男女を問わず担うものであり、家族の一員として役割と仕事を両立できるような職場環境を形成することが求められる。また、仕事と育児の両立は、保育所等の保育環境の整備だけで解決できるものではなく、企業の積極的な取組が不可欠である。

 仕事と育児が両立しやすい労働環境を整備するには、育児休業取得者に対する不利益な取扱いの禁止など育児休業の取得や職場復帰がしやすい職場環境の形成、再就職しやすい雇用環境の形成、固定的な性別役割分業意識や職場優先の企業風土の是正、ワークシェアリング、フレックスタイム制、在宅勤務等の柔軟な働き方の普及が図られるべきである。

 特に、労働時間の短縮については、男女が家庭生活や地域生活へ参加するための条件を整える観点からも重要であり、労使をあげた取組を行うべきである。その際、長時間の拘束時間、サービス残業等にみられる、男性を中心とした職場優先の働き方を見直すことが求められる。

 また、こうした取組を進めるため、労働者が家庭責任を果たしやすい就業環境を形成している、「ファミリー・フレンドリー」な企業に対して、支援を行っていくべきである。

(育児休業制度の拡充等)

 育児・介護休業法改正案において、事業主は、子どもの看護のための休暇制度を導入するよう努めることを義務づけているところであるが、子どもの病気やけがにより年間相当日数の年次休暇を費やす現状においては、早期に当該制度の導入・定着が図られるよう積極的な取組を進めるべきである。

 さらに、父親の育児参加を勧める観点から、父親の育児休業の取得促進に向けた取組を行うべきである。また、育児休業期間中の所得保障については、雇用保険の育児休業給付の給付率を休業前賃金の二五%から四〇%に引き上げたところであるが、その活用を図り、安心して子育てができるよう育児環境の経済的基盤の充実に努めるべきである。

 また、家族ができるだけ多くの時間を共有し、家庭責任を協力して負担することができれば、仕事と育児の両立を図ることが容易となる。こうした観点から、男女が日常的に育児のための時間が確保できるよう、子育てを行う労働者のための短時間勤務制の導入を促進するとともに、短時間勤務の正社員制度を導入することについて検討すべきである。

(パートタイム労働等の就労環境整備)

 仕事と育児を両立できるよう、多様で柔軟な就業形態の就労機会が提供されることは重要である。近年、多様な就業形態へのニーズの増大や企業側のコスト意識の高まりを背景に、女性労働者のうちパートタイム労働等の非正規労働者の数は増加傾向にある。こうした状況において、パートタイム労働者等の非正規労働者と正規労働者との間に処遇や就業条件に大きな格差が生じることは、女性に対する差別に繋がり、また、再就職を希望する女性の就業意欲を阻害することとなる。このため、処遇や賃金面において正規労働者と非正規労働者との均衡を考慮した雇用管理の改善を促進する等、非正規労働が良好な就業機会となるよう積極的な取組を行うべきである。

(保育所の待機児童の早期解消等)

 大都市を中心として存在する多数の待機児童の解消は喫緊の課題である。このため、入所待機児童の実態を把握するとともに、認可保育所による受入れの大幅な拡大が図られるべきである。また、地方公共団体が十分な取組を行えるよう、運営費等適切な財源措置が講ぜられるべきである。さらに、働く女性の多様な保育ニーズに対応できるよう延長保育、休日保育や幼稚園における預かり保育等の多様な保育サービスの拡充を図るべきである。

(良質な保育サービスの確保)

 保育サービスの供給を拡大する観点から、保育所の運営主体、建物の所有等に関し認可基準の緩和が行われているところであるが、依然として、大都市部においては高い地代や家賃により施設を用意できないことが、認可保育所の増加に対する制約となっている。こうした現状に鑑み、分園制度の推進等を通じ認可保育所の増加を図るとともに、認可外保育施設の認可保育所への移行促進を図ることにより、良質な保育サービスの供給の確保を図るべきである。なお、基準の緩和や弾力的な運営が行われる場合においては、地域の実情に十分配慮するとともに、保育される子どもの立場に立ち、保育サービスの質の低下が生じないよう留意すべきである。あわせて、報告徴収の徹底、立入検査の強化、施設に関する情報の公開等を通じ、認可外保育施設の安全や保育の質を担保すべきである。

(放課後児童健全育成事業の拡充)

 女性の就労機会が増大し、共働き家庭が一般化する中で、放課後保護者が家庭にいない子どもが、身近な地域において安心して生活する場を確保することができるよう、放課後児童クラブの早急な普及を図るべきである。このため、補助内容の改善や補助基準の弾力的な運用により地域の実情に即した取組を行いやすいものとすべきである。また、開設時間の延長、事業内容や施設の充実、指導員の資質の向上に努めるべきである。

(地域における子育て環境の整備)

 核家族化、地域社会の子育て環境の変化が進む中で、出産や育児に、不安やストレスを感じる母親が増加してきている。このような状況が児童虐待急増の原因ともなっている。こうした母親の孤独感や悩みを軽減するため、社会全体で子育てを支えていく取組が求められている。このため、児童相談所や児童家庭支援センター等の専門機関の人員を含めた拡充、地域子育て支援センター事業の拡充、子育て支援ネットワーク事業の充実、幼稚園における子育て支援活動の充実等を図ることにより、保育関係者、保健医療関係者、教育関係者等、地域において子どもの健全育成にかかわる者の有機的な連携を強化し、身近な地域で、日常的に、子育てに関する悩みが解決できるようすべきである。

 さらに、家庭による自助、国や地方公共団体による公助に加え、地域の高齢者、主婦、NPO等様々な主体が子育てにかかわる共助を通じ、社会的広がりの中で子育てを支援していく取組を促進すべきである。

 また、子育てや地域での社会参加をしやすい職住接近した良質の賃貸住宅の供給等居住環境の整備、子どもが安心して外出でき、遊ぶことのできる生活環境の整備、高齢者と子どもが触れ合う空間のある街づくり等子どもが健やかに育つことのできる地域社会づくりを推進すべきである。

(乳幼児医療費の軽減等)

 妊娠・出産を安心して迎え、出産した子どもが健やかに成長することができる環境を整備することが極めて重要である。

 乳幼児医療については、医療費の自己負担分を公費で助成する措置が地方公共団体により実施されているところであるが、当該事業の定着度、自治体間での取扱いの相違がもたらす負担の不平等、財源の枠組み等を考慮して、国による負担あるいは医療保険の自己負担割合の軽減等の措置を検討すべきである。

 また、妊産婦・乳幼児健康診査費用の一般財源化により健康診査の質の低下を来さないよう周知を図るべきである。

(小児医療提供体制の整備)

 少子化が進む中、小児科医は、疾患の治療以外にも、発育・発達の評価、育児上の相談等広範囲にわたる活動を担ってきている。安心して子どもを養育できる環境を形成するためには、身近な地域において小児医療を受けることができるよう、小児医療の提供体制を整備することが重要である。特に、共働き夫婦や核家族家庭が増加している今日、家庭において子どもの異常に気づくのが遅い時間となるケースが多くなっており、夜間や早朝においても受診可能な小児救急医療体制の整備は、喫緊の課題である。

 しかし、小児医療の不採算性等から、小児病棟が閉鎖され、また、小児科を標榜する病院が減少し、小児医療の提供に支障がでることが危惧されている。こうした状況を打開するため、診療報酬の改善を含め小児科医の確保に向けた取組が求められる。また、小児救急医療体制の整備については、地域における関係機関の連携促進、財政的支援の充実等、行政機関と医療機関が一体となった総合的な取組を一層推進すべきである。

(不妊治療への支援)

 「十組に一組の夫婦は不妊に悩んでいる」ともいわれるように、不妊に悩む夫婦は少なくない。旧厚生省研究班の調査によると、不妊治療を受けた経験のある者はのべ二百五万人に達すると推定される。こうした子を持ちたいという希望を実現するため、適正な技術が望ましい医療環境の中で広く適用され、できるだけ多くの不妊で悩む夫婦が生殖医療の進歩の成果を享受できるようになることが望まれる。特に、不妊治療は心理的な負担が大きいことから、不妊相談やカウンセリング体制を整備すべきである。さらに、医療施設のクオリティーに関する情報公開、不妊治療に伴う倫理的問題の解決、法制度の整備等不妊治療をめぐる社会環境を早急に整備すべきである。

 また、子を望む夫婦が、経済的理由により、生殖医療の恩恵に浴することが制約されることのないよう、有効性、安全性、普及性等を有する生殖補助医療について医療保険の対象とする等経済的支援を講ずるべきである。

(生涯能力発揮社会の形成)

 少子高齢社会においても、我が国が引き続き豊かさを維持していくためには、国民一人一人がその能力を高め、その能力を発揮できる社会をつくることが重要である。こうした観点から、女性や高齢者が働く意欲を持ちながらも、社会的な様々な制約要因により働くことを断念している現状を是正していくことが求められる。少子化対策としての仕事と育児の両立を支援するための施策は、このような観点からも重要である。また、高齢者がその培った能力を生涯にわたり発揮できる雇用機会を提供することは、社会保障の担い手を増やすとの観点からも望ましいといえる。

 こうした社会を実現するためには、労働者が、自らの能力を自らの希望に従って不断に高めることができるよう、時代の変化に対応したリカレント教育や職業再訓練が提供される必要がある。このため、大学院をはじめとした高等教育機関における職業教育や公共職業訓練の充実が図られるべきである。あわせて、労働時間の短縮や、教育研修のための休暇制度の定着を図る等、労働者が就業を継続しながら自己の職業能力の向上のための時間を確保できる労働環境を整備すべきである。また、パートタイム労働者や子育てを終えた女性が職業能力の向上を図れるよう、関連情報の提供や奨学金の貸与等により自己啓発の環境を整備すべきである。

 開発した能力を生涯にわたり発揮するには、年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けての環境整備を図ることや性による差別が実質的に取り払われることが必要である。さらに、取得した資格や技能が、職場や労働市場における適正な評価に結びつくよう、実効性のある仕組みを整備すべきである。