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国民生活・経済に関する調査会

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国民生活・経済に関する調査報告(中間報告)(平成11年8月4日)

 我が国経済社会においては、少子・高齢化、情報化、国際化、経済の成熟化や価値観の多様化さらには地球環境問題などの様々な変化が生じている。なかでも、少子化によって、二十一世紀初頭には総人口が減少に転じると予想されており、我が国の経済社会に多大な影響を及ぼすことが懸念されている。

 このような状況の下、本調査会は、昨年十月に今後三年間の調査項目を「次世代の育成と生涯能力発揮社会の形成」と決定した。初年度の調査は、まず、二十一世紀に、特に大きな影響を及ぼすと考えられる少子化の要因と対応について考え方を明らかにするとともに、次世代の健全育成、生涯能力発揮社会の形成等全般にわたって調査することとした。

 当調査会は、以上のような観点に立ち、政府からの説明聴取、参考人からの意見聴取、委員派遣による鹿児島・宮崎両県での実情調査、委員の意見表明等を行ってきた。なお、初年度の調査を行った結果、調査項目について「少子化」との関連をより明確にするため、これを「少子化への対応と生涯能力発揮社会の形成」とした。

 本報告書は、これまでの当調査会が行った活動を中心に整理し、中間的に取りまとめたものである。

 二年度目以降の調査については、本報告で言及した課題についてさらに検討を重ねるとともに、他の課題についても必要に応じて取り上げ、我が国社会が二十一世紀を迎えても引き続き、豊かで活力に満ちた国民生活を維持できる方策を探っていきたい。



目次

少子化への対応と生涯能力発揮社会の形成



I 二十一世紀に向けた我が国社会の課題

一 我が国社会の構造的変化

 もうすぐ二十一世紀を迎えようとしているが、今日の我が国社会は、閉塞感に覆われているといっても過言ではない。これを打破し、豊かでゆとりのある二十一世紀の国民生活を実現するための課題を明らかにすることが、今政治に求められている。

 この閉塞感の理由としては、我が国が、経済成長を遂げる過程で仕事優先、経済的効率性重視等により、国民一人一人が豊かさを必ずしも実感できてこなかったことがある。また、バブル経済の崩壊以降は、長期の景気低迷を脱却できず、自律回復への展望が不透明であり、失業率も上昇の一途をたどっている。さらに、経済社会の急速かつ大幅な変動にこれまでのシステムが対応できないのではないかという懸念、不安が払拭できないでいる。これらのことから、社会全体として次の展望が描けず、この閉塞感は一層高まっている。

 景気・経済に関しては、雇用環境を好転させる対策等を講じつつ、自律的な経済成長軌道に回復するための経済社会の活性化が必要である。

 また、我が国経済社会においては、少子・高齢化、国際化、情報化、経済の成熟化や価値観の多様化さらには地球環境問題などの様々な変動を待ったなしで迎えようとしている。なかでも、少子化によって、二十一世紀の初頭には総人口が減少に転じると予想されており、我が国の経済社会に多大な影響を及ぼすことが懸念されている。すなわち、少子化により子どもの絶対数が減少するのみでなく、生産年齢人口を減少させ、人口に占める若年層が高齢者を下回り、世界に例を見ないスピードで高齢化を推し進める。経済問題と社会問題が一体化している今日、明るく豊かな二十一世紀を迎えるためには、少子・高齢化、国際化、情報化といった変化のスピードと程度に応じた社会システムの構造改革が必要である。

 資源に恵まれない我が国において、勤勉で高い能力を有する国民がこれまでの経済成長を支えてきた。人口減少社会を間近に控え、我が国経済社会を二十一世紀も引き続き活力あるものにするには、まず、少子化そのものにメスを入れ、その対策を立てる必要がある。同時に、少子化の結果が社会に及ぼす影響を放置するわけにはいかず、社会を構成する個々人に着目し、社会の変化に即して従来のシステムを変革していく必要がある。そのためには、個々人が生涯において最大限の能力を発揮でき、国民生活の豊かさを中心に据えた経済社会となるよう、システムの質的転換を図っていくことが重要である。

二 二十一世紀を豊かでゆとりあるものにするための課題

(一) 少子化の要因と対応

 二十一世紀の少子・高齢社会の基本的課題を解決していくためには、「少子化の要因と対応」についての考え方を明らかにしていく必要がある。

 そのためにもまず、少子化及びその対策への基本的考え方を明確にする努力が必要である。少子化が真に国民の選択によるものであれば別であるが、子どもを持ちたくても持てない社会的状況があるなら、それを解決して、国民の選択権が行使できるようにしなければならない。すなわち、少子化の要因とされる晩婚化、晩産化、生涯未婚率の上昇といった現象は、すぐれて個人的な問題である結婚・出産をめぐるものではあるが、国民が必ずしも喜んで希望した結果ではなく、種々の経済的・社会的な阻害要因が存在することによるものである。したがって、少子化の要因を分析し、阻害要因を取り除くことが、重要な政策課題となっている。このような少子化対策は、国民の幸せを求める気持ちに沿ったものであり、政治に課せられた最大の課題の一つであると考えられる。

 この場合、性差や一定の年齢のみによる差別等のないジェンダー・フリー、エイジ・フリー社会の構築も重要であり、この点からも、本調査会提出の高齢社会対策基本法の適切な運用のみならず、男女共同参画社会基本法や議員による少子社会の基本法制整備の動きを注視していく必要がある。

(二) 次世代の健全育成

 次に、次世代の育成を図り、国民一人一人が、その能力を生涯を通じて継続的に高め、これを発揮できる社会システムを構築することが重要となっている。これは、子育てに対する不安や教育の負担が少子化の一因となっているところから、少子化対策という点からも、大切である。

 近年、大きな社会問題となった非行やいじめ、自殺等の深刻化する青少年の問題行動について、家庭、学校、社会における教育の在り方が問われており、そのことは次世代の育成が問われていることでもある。

 そのため、子どもの人格や自主性を尊重する観点に立ち、青少年が心身ともに健やかに成長することができるよう、家庭、学校、地域社会のそれぞれが持つ教育機能の強化や連携について検討する必要がある。また、自立性、創造性を持った、個性豊かな子どもが育ち得る教育の充実や日本文化の継承、あるいは子どもたちが安心して成長できる豊かな地域環境の形成などについて検討する必要がある。

(三) 生涯能力発揮社会の形成

 最後に、年功序列、終身雇用を前提とした従来の雇用慣行の変化、能力主義の浸透や雇用形態の多様化が見られるとともに、多様な価値観を持つ個人で構成される成熟した社会においては、創造性や専門性を有する人材の育成システム、自己研鑽の場の確保とその成果の適正な評価等により、個々人の能力と価値観に応じて多様なライフスタイルを選択できる学習・能力開発のための環境を整える必要がある。

 さらには、その成果を活かすことができ、個々人が生涯を通じて自らの能力を最大限発揮できる雇用・社会参加のための社会システムの形成について検討する必要がある。そのためには、これまで十分な能力発揮の場が与えられていない者への雇用や社会参加のための場の形成やセイフティ・ネットの確立も重要である。また、経済社会に活力を与え、新たな活躍の場や、雇用分野を開拓するベンチャー企業の育成の在り方の検討も重要である。

II 少子化の現状と対応

一 少子化の現状と要因

(一) 少子化の現状と見通し
(1) 少子化の現状

 我が国の出生数は長期にわたり減少してきている。

 我が国の出生数の動向を見ると、年間出生数は、第一次ベビーブーム期(昭和二十二年から二十四年)に二百七十万人のピークを記録した後急激に減少した。その後増加に転じ、第二次ベビーブーム期(昭和四十六年から四十九年)に二百一万人を記録した。しかし、昭和五十年以降は、長期的に減少し続けており、平成九年における出生数は百二十万人と第二次ベビーブームのピーク時に比べ六〇%の水準に落ち込んでいる。

 出生数の動向は母親人口の規模に左右されるが、その影響を除いた出生水準を示す指標として合計特殊出生率がある。我が国の合計特殊出生率の動向を見ると、第一次ベビーブーム時に四・五前後を記録した後急速に低下し、昭和三十年頃から五十年頃まで、二・〇から二・二前後で安定的に推移してきた。その後、昭和四十八年から今日までほぼ一貫して下降し続け、平成九年においては一・三九まで低下している。昭和四十九年に、人口が現状の水準を維持するのに必要な合計特殊出生率(置き換え水準)である二・〇八を割り込んで以来、既に四半世紀を経過している。

 地域別に合計特殊出生率を見ると、沖縄県が一・八一、島根県が一・六七であるのに対し、東京都が一・〇五、京都府が一・二六と、大都市圏における出生率が低い傾向にある。また、市町村レベルで見ると年間の出生数が十人未満である自治体が一〇〇を超え、出生数がゼロという自治体も生じている。

(2) 少子化の見通しー人口減少社会の到来

 我が国の総人口は現在約一億二千六百万人であるが、国立社会保障・人口問題研究所(以下「人口研」という。)が、平成九年に行った中位推計によると、平成十九年(二〇〇七年)に一億二千七百七十八万人でピークに達した後減少に転じ、平成六十二年(二〇五〇年)には一億五十万人に減少するものと予想されている。この場合、出生率は現状よりも高まるものと見込んでいる。

 しかし、出生率の回復が見込めない場合には、平成十六年(二〇〇四年)の一億二千七百万人をピークに、平成六十二年(二〇五〇年)に九千二百万人にまで減少するものと推計される。また、この推計によれば、我が国の人口は、百年で五千万人と大正元年と同水準程度まで減少すると見込まれている。

 仮に、将来合計特殊出生率が置き換え水準を上回ったとしても、人口が反転するには数十年を要するため、来世紀中には人口減少社会の到来が確実視されている。

(3) 急速に進む高齢化

 持続的な出生数の減少は、人口構成に大きな変化をもたらしてきている。年少人口(十五歳未満の人口)の割合は、昭和三十年頃から減少しており平成十一年には一四・九%となっている。逆に、老年人口(六十五歳以上の人口)割合は、昭和四十五年に七・一%であったが、平成七年には一四%を超え、我が国はわずか二十五年で「高齢社会」となった。なお、平成十一年には、一六・五%に達している。

 人口研の中位推計によると、年少人口の割合は、平成四十二年(二〇三〇年)には一二・七%、その後やや上昇し、平成六十二年(二〇五〇年)には一三・一%となる。老年人口の割合は増加し続け、第二次ベビーブーム時に生まれた世代が後期高齢期(七十五歳以上)に入る平成六十二年(二〇五〇年)には三二・三%にまで達し、全国民の三人に一人が高齢者という状況になる。

(二) 少子化の要因と背景
(1) 少子化の要因

 我が国においては、法律的に結婚していないカップルから生まれる子ども(非嫡出子)の数の全出生数に占める割合は、現在まで一%台で推移している。このため、我が国の出生力の動向には、婚姻率と結婚した女性が生む子どもの数の動向が、大きな影響を与えている。

 結婚期間十五から十九年の夫婦完結出生児数(これ以上子どもを生む可能性がほとんどなくなった時点における夫婦の平均出生児数)は、平成九年で二・二一人となっているが、この数値は、昭和四十五年頃からほとんど変化していない。このため、近年の出生率の減少傾向は、有配偶者出生率の変化によるものではなく、晩婚化や非婚化により引き起こされているものと考えられている。

 ア 晩婚化、非婚化の進行

 初婚年齢の上昇いわゆる晩婚化は、出産年齢層の未婚率の上昇をもたらし、生涯において出産する子どもの数を制約することとなる。

 初婚の平均年齢は、夫は昭和五十年に二十七・〇歳であったものが平成九年には二十八・五歳となり、妻はそれぞれ二十四・七歳、二十六・六歳となっている。特に、女性の初婚年齢は上昇傾向が続いている。

 女性の年齢別未婚率を見ると、二十五から三十歳までの未婚率は、昭和五十年には、二〇・九%であったが、平成七年には四八・〇%と大幅に上昇している。また、男性の三十から三十四歳の未婚率についても、昭和五十年の一四・三%から三七・三%に上昇している。

 生涯未婚率(五十歳時の未婚率)の推移を見ると、女性の生涯未婚率は、昭和五十年は四・三二%であったものが、平成七年には五・〇八%に上昇している。男性の未婚率も、二・一二%から八・九二%に大幅に上昇している。

 イ 夫婦の理想子ども数と出生児数との乖離

 平成九年の「出生動向基本調査」によると、最近の夫婦が理想的な条件の下で持ちたい子どもの数(平均理想子ども数)と、見込みとして持つ予定の子どもの数(平均予定子ども数)を比較すると、平均理想子ども数が二・五人であるのに対し平均予定子ども数は二・一人と、後者が下回っており、理想とする子どもと現実に持とうとする子どもの数に乖離が生じている。

 また、これまで安定して推移していた平均理想子ども数に若干の減少傾向が見られ、結婚後十五年未満の夫婦における平均出生児数は減少傾向にある等、近年の夫婦の出生意欲の減退が危惧されている。

(2) 少子化の背景

 ア 結婚・子育てをめぐる意識の変化

(個人の結婚観の変化)

 近年、我が国社会においては、成人すれば皆が結婚するとの皆婚規範や生涯のうちで一定の時期に結婚するのが当然との結婚適齢期規範が薄れてきているといわれる。平成九年の「出生動向基本調査」によれば、「いずれ結婚するつもり」と考えている未婚者は、男性で八六%、女性で九〇%と、多くの未婚者は結婚する意志を持っている。また、「一度は結婚するつもり」と考えている独身者において、理想的な相手が見つかるまでは、結婚しなくてもかまわないと考える者が増加しており、従来の意識にとらわれなくなってきている。

 男女の交際が自由になったといわれるが、異性と交際している未婚者の割合は男性が五割、女性が四割程度にとどまり、結婚相手と知り合う機会については、職場・学校・友人関係といった日常的な場において知り合った夫婦が七割を占め、未婚の理由に「適当な相手と巡り会わない」ことをあげる男女の割合が五割を超えているなど、結婚相手を得にくい状況となっている。

 厚生省の委託研究である「女性の未婚率上昇に関する意識についての調査研究」によると、女性の結婚の条件として、相手の男性に「十分な収入があること」、「理解し合えること」、「家事に協力的であること」を求めている。そして、女性は、結婚相手により自分の人生が大きく変わると考えているため、より結婚に慎重となっている傾向があるとされている。

 さらに、結婚相手に一定の理想のイメージを求めること、結婚生活に対して「夫は仕事、妻は家庭」といった、従来型の固定的なイメージを抱いている若者が多いことが、現実に結婚に踏み切ることを躊躇させ、結婚する意欲はあるものの現実には結婚に踏み切れずに未婚のままでいる傾向を生んでいるともいわれている。

(若者の自立心)

 就業しても親と同居する若者が、女性を中心に増えており、そのうちの多くは、親に生活を支えてもらっている「パラサイト・シングル」とも呼ばれている若者である。こうした若者の自立に対する意識が、非婚化や晩婚化を促す一つの要因ともなっているとの指摘がある。この点に関し、若者の意識が問題ではなく、社会的・経済的要因が自立を妨げているとの意見があった。

(子どもの持つ価値の変化)

 かつて、子どもは、家業の補助労働力であり、将来の家計を支える柱であり、老後の保障であった。しかし、経済が豊かになり、社会保障制度が整備されるにつれ、子どもの持つ価値は、夫婦のかすがい、育児の喜びといった心理的・情緒的なものが中心となりつつある。かつてのように子どもが労働力や老後の保障としての価値を持たなくなった時代においては、結婚や子どもを持つことが、「必要なこと」から「選択の対象」となり、結果として、結婚や出産へと若い世代を向かわせる社会的インセンティブは弱まったといえよう。

 イ 子育ての経済的・心理的負担

 理想の子ども数を持とうとしない理由としては、「子育てにお金がかかる」、「高年齢で産むのはいや」、「教育にお金がかかる」、「仕事との両立が困難だから」、「家が狭い」という理由をあげる人の割合が高い。

 先に述べたような子ども観の変化は、子ども数の減少と相まって、子育てや教育に手間とお金をかけようとする傾向を強めることとなっている。こうしたことが、逆に、受験競争の低年齢化に見られるように、子育てにかかる心理的・経済的負担の増加をもたらし、出生児数を制限する要因となっている。

 また、核家族化・都市化の進展により、育児に家族や近隣の支援を受けにくくなっていること、教育に対して不安があること、地域の人間関係が希薄になっていること等が、母親の孤立感や不安感の増大をもたらし、育児の心理的・肉体的な負担を過重なものにしているとの指摘もある。

 ウ 職場・地域・家庭の状況

 職場優先、男性中心といった雇用慣行、職住分離や遠距離通勤の増加等を背景に、男性雇用者の多くは、家族や地域のために活動する時間もエネルギーも持てなくなってきており、その結果、子育ての負担が母親に集中している状況にあるといわれている。

 エ 女性の社会進出と職場環境

 女性の高学歴化、社会参加意識の高まり等を背景に、女性の社会進出が急速に進むこととなったが、長時間労働、単身赴任等に代表される家庭よりも職場を優先する企業風土や男性の意識は、働く女性に、就業と育児との二重負担をもたらす要因となっていると考えられる。

 また、女性の高学歴化は、就学期間の長期化や職業意識の高まりによる勤続年数の長期化を通じ、初婚年齢の上昇をもたらし、高学歴に伴う高収入は、結婚や出産による退職により失う経済的な利益を大きなものとしている。

二 少子化が経済社会に与える影響

(一) 家庭や社会への影響
(1) 家庭への影響

 少子化は、兄弟間や異年齢間の子どもの交流の減少により、社会性を形成しにくくするなど、子どもの健全な成長に様々な影響を与えるものと考えられている。また、少子化は、核家族化と相まって、世帯主の年齢が高い層で、夫婦のみの世帯や単身世帯の数を増加させている。このため、今後、家族だけで高齢者を介護することは困難となり、介護の社会化の必要性が一層強まることとなろう。また、介護の社会化は、福祉等の分野への女性の就業を高めることを通じ、育児の在り方に影響を与え、男性の育児参加や育児の社会化を進めざるを得なくなると予想されるとの指摘があった。このように、少子化は、これまで家庭が果たしてきた教育機能、老親の扶養機能、育児機能を弱めるものと考えられる。

(2) 地域社会への影響

 少子化による人口の減少は、過疎化が進んでいる特定の地域の問題ではなく全国的なものとなり、また、平成三十七年(二〇二五年)には、約六割の市町村で高齢化率三割を超えるといわれる。このため、現行の地方行政体制のままでは、福祉サービス、医療保険制度の運営といった基本的な社会サービスの提供すら困難になる地域が生じ、全国的に、地方自治体間におけるサービスの格差が拡大するおそれもある。また、地域の伝統的な文化の継承が困難になったり、地域の商店や地場産業の後継者がいなくなるなど地域社会の維持が困難となることも懸念される。

 少子化は、特に都市部において、土地や住宅事情の改善、交通混雑の緩和、一人当たりの社会ストックの増大、環境負荷の低減等をもたらすといわれるが、こうした効果は一時的なものであり、長期的には、日本全体で閉塞感、停滞感が強まるとの指摘がある。

(二) 少子化のマクロ経済への影響
(1) 労働力への影響

 少子化の進行は、労働力人口の減少、貯蓄率の低下、社会保障費等の負担の上昇等を招き、経済成長を阻害する大きな要因になると考えられている。

 労働省の推計によれば、労働力は平成十七年(二〇〇五年)に六千八百七十万人でピークを迎えた後、平成三十七年(二〇二五年)に六千二百六十万人に減少するものと見込まれる。また、労働人口構成も高齢化し、労働力全体に占める六十歳以上の労働者の割合が平成八年に一三・二%であったものが、平成三十七年(二〇二五年)には二一・二%を占めるに至るものと見込まれ、若年層を中心とした労働力の減少は、供給面から、日本経済の制約要因になると予想される。

 こうした状況下においても、我が国が引き続き国民生活の豊かさを維持するためには、労働生産性の向上が不可欠である。一般的には、作業効率や新技術導入等に対する適応力が減少すること、生産性の低い産業から高い産業への労働の移動が困難になること等が生じた場合には、労働生産性にマイナスの影響を与えるものと予想される。

(2) 貯蓄、消費、投資への影響

 現在の我が国の高齢者は、介護や病気の不安から消費を抑制すること、財産を子どもに残したいと考えていること等から、貯蓄を取り崩さない傾向にあり、当面貯蓄の大幅な減少はないと見られている。しかしながら、今後、年金のみを収入源とする高齢者が増加する場合には、社会全体の貯蓄率が減少すると考えられている。

 また、高齢化や女性の社会進出は、シルバー・ビジネスを始めとする高齢者向け市場、家事・育児関連、女性向け商品等の市場を拡大する一方、若年層の減少が耐久消費財や住宅等の市場を縮小させるものと考えられる。いずれにせよ、総人口が長期にわたり減少する局面においては、市場規模の縮小が生じると考えられ、これに対応して投資の減退が生じて、マイナスの影響が生じるといわれている。

(三) 社会保障への影響

 現行の年金制度は、年金の給付に必要な財源の調達を現役世代が主に負担するいわゆる賦課方式の要素が強いものとなっているため、少子・高齢化の進行は、現役世代の負担を高める。

 厚生省の試算によると、現行の給付水準を維持した場合、将来の保険料は、厚生年金が月収の約三五%、国民年金が月額二万六千円程度となるとされている。現役世代の負担については、年金ばかりでなく、医療・介護等の社会保険料負担や税負担についても考慮する必要がある。また、厚生省は、平成三十七年(二〇二五年)における社会保障給付に要する費用を、国民所得の三五・五%に達するものと推計している。租税負担率が現状程度で推移するとすれば、現在の租税負担率約二三%程度を加えた、約六〇%が国民の負担となるものと予想される。また、この負担にそれまでの財政赤字分の負担を加えると、政府の目標である国民の負担率五〇%を大幅に上回ると予想される。

 一方、こうした試算に対し、女性の職場進出等で労働力人口が増えれば、負担は必ずしも増加するとはいえないとの指摘もあった。

三 少子化への対応と課題

(一) 少子化をめぐる施策の現状
(1) 「エンゼルプラン」の策定

 出生率の低下に対する政府の取組は、平成元年のいわゆる「一・五七ショック」を契機として本格化された。平成三年に、政府関係省庁連絡会議の議論を受けて、育児休業法の成立や児童手当法の改正が行われ、平成六年には、厚生・文部・労働・建設の四大臣合意として「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が策定された。その主な内容は、以下の通りである。

(子育てと仕事の両立支援)

 子育てと仕事の両立を図る観点から、育児休業を取得しやすく職場復帰しやすい環境づくりのための措置、育児を行う労働者が働き続けやすい環境づくりのための措置、育児のために退職した者に対する再就職支援のための措置等が実施されている。

(多様な保育サービスの提供)

 エンゼルプランを具体化するものとして、大蔵・厚生・自治の三大臣合意により、低年齢児の受入れ枠の拡大、多機能保育所の整備、一時保育の促進等、平成七年度から平成十一年度までの目標を定めた「緊急保育対策等五カ年事業」が策定されている。

 このほか、入所定員の弾力化、都市型小規模保育所の整備、駅型保育試行事業の拡充等保育システムの多様化・弾力化、産休・育休明け入所予約モデル事業の展開等の低年齢児保育の拡充が図られてきている。また、幼稚園においては、預かり保育が実施されている。なお、いわゆる「三歳児神話」については、厚生省は、合理的根拠がないものとしている。

(子育ての経済的負担の軽減)

 子育てに伴う経済的負担は、子どもの数を制限する大きな要因となっている。そうした経済的負担を軽減するため、第一・二子に月額五千円、第三子以降一人当たり一万円の児童手当が支給されている。

 また、所得税については、十六歳未満の扶養親族一人当たり四十八万円、十六歳以上二十三歳未満の特定扶養親族一人当たり六十三万円が世帯主の所得から控除されている。

(地域での子育て支援)

 保育所においては、育児不安等の相談指導、子育てサークルへの支援、ベビーシッター等に関する情報の提供等を行うことにより、家庭を支援する地域子育て支援センター事業が展開されている。また、幼稚園においては、子育て相談、子育て公開講座等を行うことにより、子育て支援事業を実施している。

(住居及び生活環境の整備)

 良質なファミリー向け住宅の供給を図るため、特定優良住宅の供給、住宅金融公庫融資等によるファミリー向け民間賃貸住宅の供給、社会福祉施設等を合築・併設する市街地再開発事業の推進等が実施されている。

(母子保健医療体制の整備)

 母子保健は、次世代を健やかに生み育てるための基礎であるとの観点から、総合周産期母子医療センターの設置等医療施設・設備を整備することによる周産期・新生児医療の充実、乳幼児等の健康診断、母子健康相談等が図られている。

 なお、乳幼児医療費については、市町村レベルで減免や無料化が図られているところであるが、これを国の制度とするべきであるとの意見があった。

(2) 男女共同参画社会の形成

 政府は、男女共同参画社会基本法を制定することにより、男女共同参画型社会を形成しようとしている。その際、社会における制度又は慣行が、男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立的なものとするよう配慮されなければならないとしている。また、家族を構成する男女が、相互の協力と社会の支援の下に、子どもの養育、家族の介護等の家庭生活における活動について、家族の一員としての役割を円滑に果たすことを旨とすることを求めている。

(二) 少子化に対応するための課題

 大部分の人が結婚を望み、子どもを持つことを望んでいる現状の下において、多くの若者が結婚や出産しないことを選択していることは、社会システムの在り方に、個人の自由な選択を制約するものがあることを示している。既に述べてきたように、少子化の要因と背景の解明に努めてきたが、今後さらに検討を深め、個々人の望む生き方が可能となる社会の形成を目指すことが求められている。

 また、今後の調査を進めるに当たっては、以下に掲げる課題を含め、さらに多角的な議論を行う必要がある。

(1) 少子化に関する国民的コンセンサス形成の必要性

 今後、少子化対策について国民的議論を喚起し、コンセンサスの形成に努めることが必要である。その際は、結婚や出産に関する個人的権利に十分配意し、結婚したくない人、子どもを生みたくない人、生みたくても生めない人を心理的に追いつめることのないようにしなければならない。少子化は、結婚、出産や家庭に関する国民の意識や価値観と深く関わって生じているため、国民のコンセンサスを欠いては、いかなる対策も有効なものとはなり得ない。この点において国民の代表で構成される立法府には、極めて重要な役割が課せられている。

(2) 子育てに喜びを感じられる社会に向けて

 次代を担う子どもを健やかに育てることは、現代を生きる者の責務であり、家庭にとって大きな労力と手間を必要とする営みであるが、それを補って余りあるすばらしい経験である。今日の社会の在り方には、子育てや家庭を営む喜びを経験しにくくする要因が多い。この背景には、男女の役割分担意識、仕事を家庭より重視する意識、物質的欲求の充足優先といった、我が国社会が豊かになる過程で定着した、個人や社会の意識が存在しているといえよう。

 二十一世紀の我が国社会を、結婚や子育てに希望や喜びを感じ、家族がお互いを支え合う社会とする上で、政府、企業、地域、家庭において、それぞれの主体が既述の意識に基づいて構築された様々な社会システムを見直し、その是正に向けて行動することが求められる。

(3) 不妊治療をめぐる課題

 子どもを望みながら子どもを持てない世帯は、相当な数に上るといわれる。こうした子どもを望む人々が、医学技術の進歩の恩恵を受けられるよう援助していく必要がある。

 現在、不妊治療を受けていると推計される人の数は、二十八万五千人といわれる。人工授精を含む不妊治療については、様々な倫理的・社会的・経済的問題や医学的問題を解決しなければならない。しかしながら、不妊に悩む夫婦が不妊治療を希望し、治療を受けている実態を見れば、医療技術の開発、施設のクオリティー・コントロール、患者へのカウンセリングの充実等の適正な治療環境の整備、費用の軽減策及び生まれる子どもの法的地位の確立等が急務である。

(4) 子育てや教育をめぐる課題
(子育てや教育に関する社会的な支援の在り方)

 平成十年度の「国民生活選好度調査」によると約七割が教育費負担を「苦しい」と感じていることが示すように、現行の制度は、子育て・教育費用の軽減としては十分であるとは言い難い。しかしながら、我が国社会が「子どもを育てること」に対して、どれだけ社会的に支援し、公的に関与していくべきかは、子育て観にも関わる重要な問題でもあり、今後国民的な議論をさらに深めていく必要がある。その際は、子どもは、次代の担い手という意味で社会的な存在であること、また、高齢者を公的年金制度、公的介護保険制度により社会的に扶養をしようとしていることを考慮して、議論を深めるべきである。

(多様な保育施設の活用や公的支援の在り方)

 低年齢児を中心とした四万人にも及ぶ待機児童が示すように、ニーズに対応した保育サービスが不足している。しかしながら、認可保育所の約五五%を占める公営保育所の取組は遅れており、一時保育、ゼロ歳児保育等多様な保育サービスを提供しているのは、主に、民営保育所や認可外保育施設である。

 地域の実情にあった多様な保育サービスを提供するためには、公営保育所の取組を促進するとともに、民間の保育資源の有効な活用を図る必要がある。このため、保育所に関する規制の緩和、認可外保育施設についての公的助成の在り方等現行の制度について、再検討する必要があるとの意見があった。また、保育所の最低基準の引き上げなどを求める意見もあった。

(地域の保育資源と教育資源の総合的活用)

 少子化、核家族化の進展により、ほとんどの親が、自分の子以外に、子育て経験を持たないといわれる。また、親族や地域のつながりが希薄になるに伴い、子育ての経験が伝達されにくくなっている。このように子育てを取り巻く環境が変化したことが、育児不安や児童虐待を助長していると考えられる。

 このために、地域の保育所、幼稚園、保育ママ、ベビーシッター、児童館、子育てサークル等地域の保育に係る官・民の保育資源の相互連携を図ることや、高齢者のデイサービス・センターとの併設、子育てボランティアの活用、育児相談事業など、地域の様々な主体が、ネットワークを形成するとともに、それぞれの手法で、子どもの育成に積極的に関わることができるシステムをつくっていくことが必要である。

(子育てしやすい職場環境の形成)

 就業している女性の合計特殊出生率が、専業主婦の出生率より低いとの調査結果も示すように、企業における職場環境の在り方が子育てに対して大きな影響を与える。また、仕事と出産・育児の両立が容易な環境を作ることにより、女性の就業率が上昇しても出生率を低下させずにすむとの経済企画庁の試算や労働力率の高い国はおしなべて出生率が高いとの統計がある。今後、一層進むと予想される女性の社会参加により出生率の低下が進まないようにするため、男女ともに長時間労働の見直し等により、就業と子育てが両立できる職場環境をつくることは重要である。この点で、企業の果たす役割は大きい。

 特に、育児に対して夫婦が協力して参加できるような職場環境を形成することが必要である。このために、女性だけではなく男性の育児休業取得を促進することや、育児休業を柔軟に取得できる制度とすること等が求められている。スウェーデンにおいては、子どもが八歳になるまで両親併せて五百四十日の育児休業を取得でき、そのうち三十日を父親が取らなければならないとされている。ドイツにおいては、子どもが三歳になるまで、父親と母親とが交代で三十六月の育児休業が取得できる。こうした外国の例なども参考にしながら、我が国の育児休業制度を見直していく必要があろう。

(5) 活力ある経済社会を維持するための課題
(経済社会システムの見直し)

 今後、我が国は、資金・労働・技術の生産要素の制約が強まる中で、経済社会の活力を維持・向上させていかなければならない。このため、大量の若年労働者の存在を前提とした雇用慣行、高い貯蓄率を背景としたメイン・バンク・システムといった戦後の経済成長を支えてきたシステムの見直し等構造改革の必要性が指摘されている。

 また、創造性・独創性を持った個人が、生涯にわたり、多様な教育や職業能力開発などを通じ、その潜在的能力を最大限に高め、発揮できるような新しい社会システムを形成していく必要があろう。

 こうした経済社会システムの見直しに当たっては、少子化の動向を視野に入れた総合的な経済計画を策定し、二十一世紀の我が国社会のグランド・デザインを明らかにすることが求められよう。

(現役世代の負担の適正化)

 租税及び社会保険料の国民負担を適正な範囲にとどめることは、活力ある安定した社会を維持するために重要である。このため、現役世代と年金受給世代との間の負担の適正化を図ることは、社会保障制度の安定性を確保することのみならず、経済の動向を左右する大きな課題である。

(外国人労働者受入れの検討)

 人口減少社会において、若年労働者を中心とする労働力の量的な不足を補うため、外国人労働者を受け入れることについては、少子化の影響を補完できるほど大規模な外国人受入れは現実的ではなく、また、長期的には、外国人労働者の定住が進んだ場合に社会的コストが発生する可能性もある。こうしたことがあるため、少子化対策の観点から外国人労働者を受け入れることについては、慎重に検討すべきである。

(6) 総合的な取組の必要性

 少子化は、経済社会のシステムの在り方、ライフスタイルや価値観等多くの要因が深く関連して引き起こされていると考えられている。このため、労働、福祉、保健、医療、社会保険、教育、住宅、税制等多岐にわたる政策を総合的に推進することが必要である。また、施策の策定や実施に当たっては、「子どもの利益が最大限配慮される」という理念が、基本に据えられなければならない。こうした観点から、少子化社会に関する基本法制の検討が求められる。

 さらに、少子化問題に取り組むに当たっては、少子化対策が高齢化対策としての側面を有することから、高齢化対策と一体となった総合的かつ制度横断的な取組が必要とされている。このため、強力な推進母体の設置と十分な財源の確保が課題である。特に、財源の負担の在り方については、国民的な議論を深めることが不可欠である。

◇         ◇           ◇

 以上の通り、まず、少子化の要因と対応について検討してきたが、「少子化の現状と見通し」で明らかのように、四半世紀にわたる少子化現象の結果、来世紀中の人口減少社会の到来は必至である。このような少子化の結果が社会に及ぼす影響に対し、手をこまねいているわけにはいかない。これまでの我が国の経済社会システムは、人口が減少する事態に必ずしも対処できるものとはなっていないので、教育、雇用、社会保障等のシステム全般を早急に改める必要があるとの指摘もある。少子化そのものへの対策と併せて、現実のものとなる人口減少社会への対策について検討することもまた重要な課題である。これらの観点からも、次世代を担う子どもたちの健全育成に対する地域・学校・家庭等が果たすべき役割並びに社会を構成する個々人が、生涯を通じて持てる能力を十分に発揮できる社会の在り方についても、検討する必要がある。

 こうした視点についての初年度の検討は、必ずしも十分でないところから、今後さらに論議を深める必要がある。

III 次世代の健全育成

一 子どもを取り巻く環境の変化と子どもの現状

(一) 我が国の経済社会の変化
(1) 大人社会の変化

 我が国の現状を見ると、経済の成長と成熟化によって生活水準が向上するとともに、急速な少子・高齢化の進展、国民の価値観の多様化、地域における人間関係の希薄化など、経済社会が様々な分野で急速に変化している。また、国際化、情報化、科学技術の高度化等の影響も大きいものがある。

 こうした状況の中で、一般的風潮として、(1)社会全体や他人のことを考えず、専ら自分の利害得失を優先する、(2)他人への責任転嫁など責任感が欠如している、(3)モノ、カネ等の物質的な価値や刹那的な快楽を優先する、(4)夢や目標の実現に向けた努力、特に社会をより良くしていこうとする真摯な努力を軽視する、(5)ゆとりの大切さを忘れ、専ら利便性や効率性を重視する、といった状況が見られると言われている。

(2) 家庭、学校及び地域の変化

家庭、学校及び地域も大きく変化している。

 家庭では、核家族化、少子・高齢化等を背景に、兄弟姉妹同士が切磋琢磨したり、祖父母の存在等を通して得ていた生活体験の機会が減少している。また、父親の仕事中心の生活や母親の社会進出に伴い、親と子の接する時間が減少している。このような状況から、これまで日常の家庭生活の中で行われてきた、子どもへの基本的なしつけ、生活習慣に対する教育も不十分なものとなっている。

 また、学校は、地域における知識、文化、情報等の面における中心的な役割を果たしていたが、最近では、いじめ、校内暴力、不登校、「学級崩壊」等のいわゆる「学校病理」が噴出し、深刻な状況を迎えている。

 地域では、都市化の進展、職住分離の一般化等により、伝統行事の衰退等地縁的な連帯が弱まって人間関係の希薄化が進み、地域の子どもに対する教育力も大幅に低下している。

(二) 子ども・青少年をめぐる問題状況
(1) 子どもの問題行動

 まず、いじめについては、平成九年度の文部省調査によれば、全国の公立小・中・高等学校等で起きた件数は、約四万二千八百件、起きた学校数が約一万千六百校に上っており、その発生件数の半数以上を中学校が占めている。家庭、学校関係者等の解消に向けた真剣な取組もあって、最近、二年度連続で発生件数と校数が減少しているが、依然として憂慮すべき水準にある。

 次に、義務教育段階における不登校児童生徒の問題である。文部省は、「学校ぎらい」の理由により、三十日以上欠席している児童生徒数の調査をしている。それによると、平成九年度においては、小学校で約二万千人、中学校で約八万五千人、全児童生徒数に占める割合は、それぞれ、〇・二六%と一・八九%に上っており、平成三年の調査開始以来、人数、割合とも最多を記録した。

 また、ここ一、二年、社会的に関心を集めている「学級崩壊」についてであるが、現時点では、その定義も明確ではなく、当然、発生件数、崩壊態様等の実態把握がされていない。小学校低学年にも「学級崩壊」現象が見られるため、小学校入学以前の幼稚園や保育所、さらには家庭での子どもに対する基本的な教育やしつけの在り方まで問われる事態になっている。いずれにせよ、一日も早く「学級崩壊」の実態が把握され、その対策を講ずることが急務となっている。

 校内暴力については、ここ数年急激な増加を見せている。文部省の調査によれば、公立の小・中・高等学校の平成九年度における発生件数と校数は、それぞれ、約二万三千六百件、約五千二百校に上っている。そのうち、件数の約七割、校数の約六割を中学校が占めており、全中学校の約三割に発生している。

(2) 青少年非行・犯罪の増加

 平成九年の刑法犯少年の補導人員は、約十五万三千人に達し、そのうち凶悪犯(殺人、強盗、強姦、放火)は、約二千三百人と前年度に比べ五割以上の増加を見、最近十年間では最悪の結果となっている。また、性非行も増加している。

 最近の特徴は、非行による補導歴のない子どもが凶悪・粗暴な非行等を起こすことが多くなってきたことである。このような子どもの特徴として、(1)社会の基本的なルールを遵守しようとする意識がないこと、(2)自己中心的であり、自分の欲望や衝動を抑えることができないこと、(3)言葉によって問題を解決する能力が十分でないこと、(4)自分自身に価値を見出す自尊感情を持つことができないことが指摘されている。

二 子どもの心身の健全育成の在り方

(一) 家庭の現状と課題
(1) 子どものしつけの在り方

 家庭は、子どもの基本的なしつけや善悪の判断力を培うことにも、第一義的な責任を負っていることは言うまでもない。

 しかし、家庭での子どもに対するしつけが十分に行われていないと指摘されている。特に、多くの父親は、仕事中心の生活をしているため、平日子どもと一緒に過ごす時間も短く、家庭での存在感も乏しい。したがって、子育てへの関与が十分でなく、子どもに対し、父親の影響力が低下することにより、人間性の形成に支障が生じているとの指摘もある。こうした現象が家庭の教育力の低下として指摘されており、父親の参加を得ながら、家庭の有するしつけ・道徳教育を行う機能を外部から支援することが課題となっている。

 家庭教育に関する行政側の対応としては、相談体制の整備、テレビ番組の放送等による啓発活動、地域での家庭教育学級・講座の開催、ネットワークづくり等がある。

 今後、行政側が行っている家庭教育に関する事業を、より国民のニーズに沿ったものとすること、労働慣行の見直しや意識改革等により、男性が育児を含めた子どもの家庭教育や節分等の家庭内行事に参加するようにすること等が課題として挙げられる。なお、男性の育児参加は、女性が担ってきた育児負担を軽減し、我が国の少子化傾向を是正することにもつながることに留意すべきである。

(2) 幼稚園・保育所の在り方

 幼稚園には、三歳児の約三割、四歳児の約六割、五歳児の約六割、保育所には三~五歳児のそれぞれ約三割が在籍している(文部省「教育指標の国際比較」平成十年)。このような状況から、幼稚園・保育所は、乳幼児のしつけ・教育の場としても重要である。幼稚園・保育所は、家庭の教育力低下を念頭に置き、子どもの基本的なしつけに関しても教育ノウハウの開発、教員や保育士の資質向上に取り組むことが望まれる。

(3) 子どもの自由時間の確保

 親が学歴偏重の価値観等に流され、子どもを低年齢のときから塾や稽古に長い時間通わせたり、家庭内でも受験勉強に駆り立てたりする風潮がある。

 しかし、過度の塾通い等によって、(1)塾等から夜遅くに帰宅するような生活は子どもの心身の健康を阻害しかねないこと、(2)子どもの自由時間が少なくなり、地域の友だちとの交流、自然との触れ合い等が不足すること等が懸念される。「児童の権利に関する条約」に基づく「児童の権利に関する委員会」も平成十年六月、我が国の子どもは、高度に競争的な教育制度のストレス及びその結果として、余暇、運動及び休息の時間が欠如していることにより、発達障害にさらされているとの懸念を表明している。子どもの年齢に合った良好な生活習慣を重視し、特に、低年齢の子どもにとっては、遊びや自由な時間が豊かな人間性を育む上で、重要であることを理解した対応が望まれる。

(4) 児童虐待への対応

 児童相談所における児童虐待の処理件数は、平成二年には千百一件であったものが、九年には五千三百五十二件と急増している。虐待の形態としては、身体的暴行が約五割で最も多く、保護の怠慢・拒否、心理的虐待等の順になっている。虐待を加えた者としては実母が約五五%、実父が約二七%を占める。虐待を加えた者のうち実母が実父の約二倍に上るのは、母親に子育て等の負担が偏重し、母親の不安や不満が大きいためであるとも指摘されている。

 児童虐待への対応としては、虐待された児童が負う心の傷を考えると、何よりもまず予防策が必要である。夫婦間で子育て責任を適切に分担することや多様な子育て支援の充実などによって、母親の子育て負担の軽減や不安の解消を図ることが必要である。

 また、家庭における児童虐待は、しつけ行為などとの線引きが難しい面がある。しかし、子どもは社会的存在でもあることから、地域住民には、児童虐待を発見した場合、積極的に通告する態度が求められる。

 さらに、発見後の対応に当たっては、必要と判断された場合には早急に親子の分離を図るなど、子どもにとって最善の措置を採り、健全な家庭の再建に向けて、医療機関、児童相談所その他の関係機関の緊密な連携による総合的な対応が図られることが課題である。

(二) 学校をめぐる現状と課題
(1) 「生きる力」の涵養と心の教育

 中央教育審議会は平成十年六月の答申で、社会全体で子どもが「生きる力」を身に付けるための取組を進めていくことの必要性を強調した。「生きる力」とは、自分で課題を見付け、自ら学び、自ら考える力、正義感や倫理観等の豊かな人間性、健康や体力であるとしている。文部省は、この答申を受け、小学校から高等学校に至るまでの学習指導要領を大幅に改訂した。その主な内容は、平成十四年からの学校完全週五日制をにらんだ学習の単位時間と内容の削減、各地域や学校の創意工夫で、横断的・総合的な学習をする「総合的な学習の時間」の設置等である。

 我が国社会は、経済が成熟化し、国民生活が豊かになった反面、その社会で育まれた子どもには、「生きる力」が十分身に付いていないとされている。

 したがって、未来を生きていく子どもには、その人格を尊重し、子どもの視点を大切にする立場に立って、自ら考え、問題を解決する能力と美しさに感動する心、他人を思いやる心、責任感などの豊かな人間性を育む教育が求められている。教科内容を基礎的なものに厳選することで、子どもの家庭や学校生活にゆとりを作り出し、生活・社会・自然体験を豊富にさせること等により、「生きる力」を育むことが課題となっている。

 「総合的な学習の時間」については、教育現場に大幅な裁量権を認めている。しかし、過度の受験競争が是正されないまま実施に移された場合、一部の学校では、受験用の学習時間に使用される等目的に即した活用が図られないのではないかとの懸念も示されている。

(2) 道徳教育、心の教育、学校カウンセリングの在り方

 未来を担う次世代を育成する上で、主要な役割を果たさなければならない学校では、いじめ、校内暴力、不登校、「学級崩壊」等のいわゆる「学校病理」が顕在化している。これらの現象は、大人社会のモラルの低下、物質的豊かさのみの追求等が影響しているとの指摘もあり、大人社会のモラルの確立とともに、学校での道徳教育や心の教育が重要性を増している。

 家事手伝い等の生活体験や動植物に自然の中で接する等の自然体験が豊富な子どもほど、道徳観や正義感を身に付けている傾向のあることが明らかとなっている(文部省「子どもの体験活動等に関するアンケート調査」平成十年度)。今後は、これまでの副読本等による徳目教育だけではなく、実際に悩んだ体験に即した授業、ボランティア活動を通した授業等、道徳教育や心の教育に関しても体験重視の教育をいかに行うかが課題である。

 一方、いじめや不登校の問題に対しては、要因・背景の複雑性を認識し、地域・家庭・学校が連携を密にして対処することが大切である。

 子どもが教員に悩みを相談する割合は小学校の段階から小さく、子どもの悩みに十分対応しきれない実態が指摘されている。今後は、児童相談所等の外部の関係機関や専門家との連携、養護教諭の複数配置による保健室機能の活用やスクールカウンセラー等の増員、教員の研修等による学校全体のカウンセリング能力の向上等を図り、悩みを抱えた子どもが気軽に教員等に相談でき、その解決が図られる体制整備が課題となっている。また、子どもだけでなく、その親に対してカウンセリングを行うことにより、親の変化を促し子どもを良い方向に変えることができるとの指摘もあり、親への学校カウンセリングの在り方を検討することが課題として挙げられる。

(3) 個性、創造性尊重の教育

 中学生と高校生の約六割が「自分の個性、特性を見出し、伸ばす」ことを、八割を超える保護者も「子どもの個性、特性を見出し、伸ばす」ことを学校に対して求めていることが明らかとなっている(文部省「学校教育に関する意識調査」平成十年二月)。

 これからの教育には、全体的に子どもの能力の底上げを図るとともに、教育内容や教員配置にゆとりを持たせ、子ども一人一人の個性を尊重し創造性等を伸ばすことが課題である。

 特に、科学技術の高度化がますます進む世界の中で、引き続き我が国が枢要な地位を占めていくには、独自の科学技術、特に基礎的・創造的な分野の科学技術の開発が求められている。高度の科学技術開発能力を持つ人材の育成には、早い段階から、学年に応じて、個性と創造性を尊重した教育を行うことが課題として挙げられる。

(4) ゆとりある学習

 経済が成長し、生活水準が向上する中で、人々の心から「ゆとり」が失われ、社会全体が慌ただしくなってきたと指摘されている。

 学校も例外ではなく、学習内容が増加・高度化し、子どもに多くの知識や技能を一方的に教え込む教育に陥り、子どもの学校生活にゆとりがなくなる一因となってきた。しかも、学校での授業を半分程度もしくはそれ以下しか理解できない児童生徒の割合は、小学校全体で約三二%、中学校二年生では約五六%、高等学校二年生では約六三%に上るとの調査もある(文部省「学校教育に関する意識調査」平成十年二月)。

 子どもにとって、学校での学習内容が理解できないことは、自己に対する自信を失わせ、さらには、授業や学校に対する嫌悪感を抱かせかねず、子どもの人格形成にも大きな影響を与える。

 文部省は、平成十四年度から実施される学校の完全週五日制を機に、年間授業時間数を小・中・高等学校全体について、現行より七十単位時間(週当たり二単位時間)削減する予定である。また、授業時間数の縮減以上に学習内容を厳選することとしている。

 これらは、子どもの負担を減らし、学校生活にゆとりを持たせることにつながるが、学校週五日制を導入する趣旨を踏まえ、地域、家庭生活も含めた子どもの生活全体にさらなるゆとりを作り出していくことが望まれる。なお、学校にゆとりを持たせるには、教員の業務や心のゆとりも重要である。そのためには、教員の配置数増加や学級定員の削減を図り、教員が一人一人の子どもに余裕を持って対応できるようにすることが課題である。

(5) 開かれた学校の形成

 社会の高度化、価値観の多様化、教員の職住分離等により、学校が自らに対する社会や地域のニーズを把握しきれない状況が生じている。また、いじめや不登校等学校をめぐる病理的現象も顕在化している。

 こうした事態を解決するため、「学校を開く」ことが求められている。「学校を開く」とは、(1)自らの情報(教育の目標・方針・計画・活動等)を公開すること、(2)学校教育に対する地域のニーズ、アイディアを取り入れ、教育活動に活かすこと、(3)地域に存在する人材、施設等の教育資源を活用し、充実した教育を実施すること等を意味する。

 学校が様々な問題に直面している今こそ、子どもの教育は、学校のみで行うものでないことを自覚し、その実現を図らなければならない。

(6) 子どもの居場所づくり

 最近では、地域の人間関係が希薄になるとともに、地域の遊び場や自然環境も少なくなっている。このため、学校の完全週五日制が平成十四年度から実施される予定であることにも対応して、子どもが地域で安心して過ごせる「場」を確保していく必要性が指摘されている。

 遊びは、子どもが同年齢や異年齢の友だちを通じて、社会性、他人を思いやる心など豊かな人間性を身に付ける機会であるとともに、自然と触れ合う機会でもある。このように、遊びは調和のとれた人間性を形成する上で欠かせない役割を果たしているため、遊びの有する優れた教育的意義を再認識することが求められる。

 遊びの場を整備するに当たっては、都市公園、児童館等の拡充のほか、遊具を設置せず、子どもが自由な発想で遊べる広場、自然環境を多く取り入れた広場等の整備を図ることも課題である。

 また、最近の子どもは、家庭、地域、学校等において、学業優先の価値観の下で生活しており、息抜きをする「場」がなくなっているとの指摘もある。これらの点からも子どもの「心の居場所」づくりが重要である。子どもの能力は多面的であり、評価も多面的に行わなければならない。しかし、学業優先の価値観の下では、学業の面が振るわない子どもは、遊びや運動能力等が優れていてもその評価が低く、どこでも自己の存在が周囲に認められないため、自己の存在を自ら肯定し、尊重する感情が持てず、自己の確立も困難になる。周りの大人が価値観を変え、多面的に子どもの優れている面を認めれば、それぞれの子どもが心の居場所を得、自尊感情と自己肯定感を持つことができ、健全な成長が図られるものと思われる。

(三) 地域・社会をめぐる現状と課題
(1) 地域の活性化

 地域は、家庭や学校等とともに、子どもの主要な生活圏の一つであり、遊びや地域住民との交流によって、基本的な社会ルールや他人との付き合い方を学ぶ重要な場である。しかし、都市化や職住分離の一般化、夏祭り等地域行事の衰退化等により、人間関係が希薄になるとともに、テレビゲームの普及、過度の塾通い等によって、子どもが地域住民に接する時間も少なくなっている。さらに、これまで地域社会で、ボーイ・ガールスカウト等の社会教育事業を担ってきた指導者が高齢化し、後継者の確保が困難になるなど社会の教育力低下が指摘されている。

 こうした状況の下で、文部省は、「全国子どもプラン(緊急三カ年戦略計画)」の策定等、子どもたちが地域で活発に活動できるための事業を種々行っている。また、一部の地方公共団体では、地域の年齢の異なる子どもが公民館等で合宿し、協力して食事、洗濯、掃除、ボランティア活動等を体験しながら、通学する「生活体験合宿」、子どもが地域内の商店で仕事を体験する「職業体験」等に取り組んでいる。

 今後、地域が子どもの健全育成上果たすべき役割の重要性を認識し、子どもが主体的に参加できる伝統行事の復活・活性化等を図って、希薄化した人間関係を密にし、子どもが安心して生活できる地域をつくることが課題である。その一環として、子どもが地域内の他の家庭に一定期間、滞在しながら、通学する「地域内ホームステイ」の実施等生活・社会・自然体験の機会を確保することが求められる。

(2) 企業等の自覚ある行動

 企業は、地域の主要な構成主体の一つであり、地域の教育力を担う存在として、子どもの健全育成のために協力することが求められる。

 一部の企業では、スポーツ、文化等に関して特技を有する社員の登録リストを作成し、地域の学校、公民館等に配付するとともに、要請に応じて、講師として派遣している。子どもの職場見学・体験の受入れや運動施設の開放に取り組んでいる企業もある。企業は、また、父親が地域行事に一住民として参加ができるよう、休暇を取りやすい職場環境を整える等の努力をすることが求められる。

(3) 関係諸機関の連携強化

 地域には、子どもが利用できる施設として、児童館や図書館、公民館、博物館等の社会教育施設がある。

 子どもの健全育成のため、これらの施設と学校が日頃から意見や情報を交換することが必要である。特に、各施設が開催する特別行事等は、学校の関連教科の進行状況に合った時期及び内容にし、その行事を学校の授業に取り入れやすくする等、各施設が子どもの教育に協力することが求められる。

 さらに、各施設では、親子が一緒に参加できる行事、触ったり、体験したりできる行事など、子どもが各種行事に参加したくなるような創意工夫が求められる。

 一方、子どもの問題行動については、学校による対応だけでは十分な効果があがらないことが少なくない。このため、学校は児童相談所等と日頃から、学校内外の問題行動に関して連絡を密にし、問題行動の拡散、深刻化を未然に防止する努力が課題として挙げられる。

三 二十一世紀に対応できる学校教育の在り方

(一) 社会の変化に対応した学校教育の在り方
(1) 国際化への対応

 我が国では経済、社会、文化などあらゆる分野での国際交流が進展し、グローバル化している。そこで、他国の歴史や文化、価値観を尊重するとともに、英語を始め、外国語でコミュニケーションできる実用的な語学力の涵養とともに、グローバルな視野から我が国や外国の歴史・文化について理解を深める学習を推進することが課題となっている。

 文部省は、中学校、高等学校においても、選択教科であった外国語を必修教科にするほか、全国で五千余校にネイティブスピーカーを招聘して、各学校で外国語の指導に当たらせるJETプログラム等を実施している。

 今後の課題としては、日本人の外国語担当教員の資質を向上させるため、教員養成課程において国際理解についてのカリキュラムを重視するとともに、海外研修を充実するなどして教員の外国語運用の総合的な能力を高めていくことが必要である。国際理解教育においては、これまで欧米先進諸国に向きがちであった視点を、これからますます関係の深まっていく近隣アジア諸国等に移していくことも求められており、アジア諸国の歴史や文化を学習する機会を増やすなど、そうした観点からの教育を推進していくことも重要である。

(2) 情報化への対応

 情報化の急速な進展に伴い、情報を主体的に選択・処理・分析し、発信できる能力(情報リテラシー)を身に付けることが求められている。また、情報化の進展が人間や社会にもたらすプラス面の他に、人間関係の希薄化や現実感覚の欠如、有害情報への容易な接触などといったマイナス面もあることを理解した上で、情報社会に参画する態度(情報モラル)を身に付けることが重要な課題となっている。

 文部省は、新しい学習指導要領において、小・中・高等学校の各段階を通じて、児童や生徒がコンピュータや情報通信ネットワークを活用できるような学習活動の充実等に努めることとしている。

 今後、各学校においても情報機器やネットワーク環境の整備を始め、施設・設備全体の高機能化・高度化を図り、学校自体を高度情報通信社会に対応する「新しい学校」にしていくことが求められる。これら情報ネットワークの整備・活用により、家庭・学校・地域社会が情報を共有し、連携を深めることでより効果的な教育活動を展開することが期待できる。

(3) 科学技術高度化への対応

 国土が狭く、資源に乏しい我が国は、これまでも科学技術創造立国を目指してきた。二十一世紀を迎えるに当たって、その重要性はますます高まっており、科学技術に関する技術者・研究者の質・量の両面にわたる充実が重要な課題となっている。その一方で、近年、児童・生徒の科学技術を理解することに必要な教科への興味・関心の低下が指摘されている。

 今後、子どもたちが興味を持って学ぶことができるよう、地域の実情に即した教材を用い、日常の社会生活に根ざした理科教育を行っていくことが、科学を身近なものとする上での課題となっている。

(4) 環境問題への対応

 環境問題の深刻化に伴い、我が国の社会経済システムや生活様式を、省資源、省エネルギー、リサイクルなどを行って、環境に対する負荷が少ないものにしていくことが重要な課題となっている。こうした意識を子どもたちに身に付けさせるため、より良い環境を創造するための意欲、態度を培う実践的な環境教育の必要性が高まっている。

 環境教育は独立した教科ではないため、教科横断的に環境教育の視点を盛り込んでいくとともに、家庭・学校・地域が連携し、身近な自然に親しむこと等を通じて日常的に環境教育を行っていくことが必要である。

(5) 少子・高齢化への対応

 少子・高齢化の進展とともに、都市化、核家族化、社会の急激な変化に伴い、異世代間の意識のギャップが生じている。一方で、将来的には、年金、介護、医療などの社会保障において、世代間の依存関係はますます高まっていくものと予想される。こうした中で、世代間の価値観や意識のギャップを解消し、相互理解を深めなければ、これからの我が国の社会制度の円滑な運営が極めて困難になると考えられる。

 そこで、早い段階から、学校において、児童・生徒の福祉施設ボランティアなどを通じた体験学習や、専門知識を有する高齢者を外部講師として招くなどの試みにより、日常的に世代間の交流を図ることが重要となっている。今後は、こうした視点を取り入れた教育を、学校や地域社会において、積極的に展開していくことが課題である。

(二) 中等教育における新たな取組

 平成十年六月に学校教育法等の一部を改正する法律が公布され、中高一貫教育を行う新たな「中等教育学校」が創設された。この中高一貫教育の利点としては、高校入試の影響を受けずに、子どもがゆとりある安定的な学校生活を送ることができ、子どもたちが試行錯誤を繰り返したり、様々な体験を積み重ねることを通じて、個性や創造性を伸ばす機会が与えられる等が挙げられている。しかし、問題点として、受験競争の低年齢化につながるおそれがある等の懸念が指摘されている。

 現在、設置あるいは設置が予定されている公立の中高一貫校は全国で四校にとどまっており、希望する生徒が自由に選択できるようにするためには、十分な数を確保することが課題となっているとの意見があった。  

 なお、高等学校における総合学科の設置、単位制高等学校の設置も行われている。

IV 生涯能力発揮社会の形成

一 多様なライフスタイルを可能とする学習・能力開発の在り方

  経済社会の変化に伴い、年功序列・長期雇用を前提とした従来の雇用慣行の変化、能力主義の浸透や雇用形態の多様化が見られるようになっている。こうした社会の変化に対応して、長寿化した人生を、国民一人一人が自立して豊かに尊厳を持ってゆとりある生活をおくるためには、いつでも・どこでも・だれでも、新しい知識や技術を身に付けることが求められている。社会の側もこうした必要性に応え、知識や技術を習得できるシステムと習得した知識や技術を正しく評価し、それらを活用できる場を整備していかなければならない。

(一) 生涯学習社会の現状と課題
(1) 生涯学習社会構築の必要性

 国際化、情報化、科学技術の高度化、経済構造の変化などに伴い、国民は学業を修了した後も絶えず新しい知識を身に付ける必要に迫られている。社会の変化に対応した教育は学校でも行われているが、知識は時間の経過とともに陳腐化し、学校で習得できる知識は量的にも限界があるため、学校以外でも学習していくことが必要になっている。一方、所得水準の向上、自由時間の増大、高齢化などに伴い、心の豊かさや生きがいを得るための学習需要も増大している。こうした状況から、生涯学習社会の構築が重要となっている。

(2) 多様な学習機会の提供

 こうしたニーズに応え、多様で幅の広い生涯学習を進めるため、生涯学習振興の拠点として、学習情報の提供や学習相談、学習需要の把握、学習プログラムの開発などを行う「生涯学習推進センター」の整備が、都道府県レベルで進められており、平成十年四月現在で三十三都道府県に設置され活動を行っている。

 また、自己研鑽の需要に応えるための学習機会の提供については、社会教育施設、小・中・高等学校、社会通信教育、大学等高等教育機関、放送大学、カルチャーセンターなどで行われ、多様なものとなっている。

(3) 今後の課題ー学習成果の評価と活用

 以上のように、多様な学習機会の提供が図られているが、今後、さらに多くの人が各自のニーズにあわせて学習を行えるよう整備を図っていく必要がある。同時に、学習の開始や継続を促す動機付けのためにも、学習の成果をどのように評価し、活用していくかが課題となる。

 評価については、学校外で学んだことを学校の単位認定に使用すること、学位の授与、称号の付与、技能審査、修了証の授与などがなされている。今後、こうした評価システムを職業能力開発をも包含する総合的な体系にして、学習の成果を職業生活に生かせる等、社会的にも十分評価することが求められる。

 成果の活用については、(1)学習の成果を生かそうとしても、成果を生かせる魅力的な活動の場が少ない、(2)成果を生かせる活動を行いたい人と、それを受け入れる側とを調整する仕組みが不十分である、といった問題点の指摘がなされている。

 これらの問題を解消するために、(1)学習成果の発表の場や成果を生かせる活動の場の開発、(2)学習成果を生かしたい人とそれを受け入れる側双方に関する、情報提供システム及びコーディネイトシステムの整備、などの支援策を講じる必要がある。

(二) 職業能力開発の現状と課題
(1) 能力開発の必要性

 我が国の産業構造の変化、経済のグローバル化の中で、今後とも、個人の職業生活を豊かにしていくとともに、我が国の経済社会が安定的に成長を持続し発展していくためには、製品やサービスの高付加価値化、新規産業分野の展開が必要である。こうしたことを可能にするには、労働者の職業能力の開発・向上が不可欠である。

 また、実力重視の傾向が強まる等、従来の雇用慣行が変化していくと考えられる。この変化に対応し、個々の労働者にとって自己の職業生活を安定させるためには、継続的な職業能力の開発・向上が課題になっている。

 このようなことから、職業能力開発は、労働者の全職業生活期間を通してなされる必要がある。

(2) 企業における能力開発

 職業能力開発は、企業内における教育訓練がまず重要な位置を占める。企業における教育訓練を推進するため、(1)訓練費用等を助成する能力開発給付金による補助、(2)高度な能力を持つ人材の育成費用を助成する人材高度化助成金による補助、(3)ホワイトカラーの段階的・体系的な専門知識・能力の習得を支援するビジネス・キャリア制度の実施、などの施策が行われている。

(3) 個人の自発的な能力開発

 次に、求められる能力が高度化、専門化、多様化していくに従い、能力開発は個別化していく方向にあると考えられる。個別化の方向が進行すれば、企業内の教育訓練ばかりでなく、労働者の自発的な努力による能力開発が課題になってくる。労働者の自発的な能力開発推進のため、(1)労働者が自主的に能力開発を行える環境整備を行った事業主を助成する自主的能力開発環境整備助成金による補助、(2)自ら費用を負担して教育訓練を受ける労働者本人を補助する教育訓練給付金による援助、(3)個々の労働者に公共職業訓練等の紹介・推薦等を行う自己啓発等支援プログラムによる援助、などの施策が講じられている。

(4) 公共職業訓練

 新規学卒者、離転職者、中小企業の在職労働者等を対象に、国、都道府県等が設置する公共職業能力開発施設において、公共職業訓練が実施されている。

 また、民間の教育訓練機関、認定訓練施設、事業主団体が設ける施設等を活用して、国、都道府県が委託する形で公共職業訓練が行われている。

(5) 職業能力の評価・技能振興

 職業能力評価制度の整備は、職業能力開発の目標や労働移動の際の職業能力の客観的な証明になること等から、重要である。現在、評価制度として、技能検定制度(百三十三職種)、技能審査認定制度(二十七職種、二十三団体等)、社内検定認定制度(百三十九職種、三十一事業主等)がある。

 また、ホワイトカラーに対する評価制度として、ビジネス・キャリア制度が実施されている。

 その他、卓越技能者の表彰、技能五輪競技大会・技能グランプリ、アビリンピック等の技能振興策も実施されている。

(6) 今後に向けての課題

 我が国の産業分野における技術革新の速度は速いので、このスピードに対応していける人材が求められる。キャリアアップが図れ、採用される企業において即戦力となり得るよう、教育訓練の内容を常に改善していくことが必要である。特に、ホワイトカラー向けや中高年の年齢に見合った形の教育訓練の充実が望まれる。

 また、公共職業訓練の方法については、現在は指定されていないコースでも、受講者が自己の希望にそってコースを選択できるように、弾力化・多様化していくことが望まれる。期間についても、現在三~六カ月のコースがほとんどであり、もっと長期のコースも組み込むようにすることが望まれる。

 さらに、支援方法についても、現在は事業主に対する助成といった間接的な方法のものが多いが、労働者本人が自発的に受ける訓練を選択できるよう、直接本人を支援する方法のもののウェイトを高めるなどの改善をしていくことが望まれる。

 以上に加え、生涯学習のための諸施策との連携を図り、相互乗入等総合的運用を検討する必要がある。

二 多様な能力を発揮できる社会システムの在り方

(1) 個人のライフスタイルに応じた雇用形態の多様化

 我が国の産業では、サービス経済化の進展や、企業の経営効率化の要請、個人の就業意欲の多様化などから、雇用形態の多様化が進展している。

 労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によれば、昭和六十二年から平成六年の間に、正社員のウェイトが下がり、非正社員のウェイトが上がっている。これは男女ともに共通した現象であるが、女子の方により顕著に現れている。非正社員となった理由(複数回答)としては、「正社員として働ける会社がなかったから」が一五・八%、「簡単に仕事ができ、責任も少ないから」が一四・三%と、消極的な理由がある反面、「自分の都合のよい時間に働けるから」が三七・九%、「勤務時間や日数を短くしたかったから」が一六・三%と、自発的な理由も多い。消極的な理由は男性の方にやや強く、自発的な理由は女性の方に強く現れている。

 しかし、当該調査では既述のような自発的な理由で非正社員を選択したと解釈されるとしても、深い真意について吟味が必要であるとの指摘がある。

 また、右の調査に見られるように雇用形態の多様化が進んでいるが、正社員と非正社員の格差をなくしていくことが課題であるとの指摘があった。

(2) 新しい雇用環境に対応した労働システム

 雇用の安定を図りながら、活力ある経済社会を実現していくには、労働力のミスマッチを解消して、一人でも多くの求職者が速やかに適職に就けるように、公共職業安定所の機能向上等、労働力の需給調整機能の強化が必要である。

 賃金や退職金については、従来のシステムは、長く勤めれば勤めるほど有利になり、転職に不利に働くといわれるシステムであった。このシステムの見直しは労使の自主的な話し合いによるべきものであるが、見直しを行うにしても時間をかけて軟着陸を図るべきだとの指摘があった。また、賃金・退職金制度を変更した場合、所得税の面で、労働者にとって不利益とならないように、税制を検討する必要がある。一方、企業年金についてはポータブル化を図る必要がある。

(3) 高齢者・障害者の雇用・能力活用

 高齢化が急速に進むなかで、高齢者が長年にわたって培ってきた知識や経験を活かして雇用等で社会に参加し、その能力を発揮して社会に貢献していくことは望ましいことである。また、高齢者の多くはそのことを希望している。

 平成十年四月に六十歳定年制が義務化され、六十五歳までの継続雇用が努力義務とされている。六十五歳までの継続雇用を促進するため、事業主に対して継続雇用に関する計画作成指示や適正実施勧告、高年齢雇用継続給付による雇用継続の促進等の施策が実施されている。

 また、シルバー人材センター事業、明るい長寿社会づくり推進事業等、多様な形態による就業・社会参加のための施策が進められている。

 年齢を理由にその能力を発揮する機会を奪うことは、不合理であるばかりでなく、社会的な損失でもある。特に、少子化が進展し若年層が減少していくなかでは、高齢者が社会に支えられる存在ではなく、支える側に回ることが重要である。

同じく、障害者についても、その能力と適性に応じて、雇用等の活躍の機会が確保されなければならない。職業に就くことは、社会参加や自己実現という意味を持ち、生きがいを得ることにつながる。社会は健常者のみで構成されているわけではなく、障害者も社会の構成員であることを認識する必要がある。

(4) 女性が働きやすい職場環境の整備

 年を追うごとに、働く女性は増加している。女性の労働力人口は昭和五十年度は千九百九十四万人であったが平成十年度には二千七百六十二万人に増加し、労働力人口に占める女性の割合は、この間に三二・一%から三九・五%に上昇している。また、女性の労働力率を見ても昭和五十年度は四五・八%であったが平成十年度には五〇・〇%に上昇している。

 女性の労働力率をグラフに描いてみると、二十~二十四歳層と四十五~四十九歳層を左右のピークとし、三十~三十五歳層をボトムとする、いわゆるM字カーブとなっている。このM字カーブは上方にシフトしつつあり、カーブのボトムも浅くなりつつあるが、まだまだ女性が子育てをしながら働き続けることは困難であることを示している。

 こうした状況を踏まえ、今後、仕事と家庭生活の両立が図られ、安心して出産・子育てができる雇用環境の整備が課題となっている。

(5) ベンチャー・ビジネス等新たな活躍の場の形成

 現下の厳しい経済・雇用情勢からの脱却に加え、中長期的にも、我が国経済社会の活力維持や新規産業分野の創出を図るため、ベンチャービジネスに代表される新しい活躍の場、新しい雇用の場の創出が急務となっている。

 しかし、我が国には、(1)国民に同質性指向が強く、突出することや冒険を避けたがる傾向が強い、(2)労働力の流動性が低く、新たに起業しようとする人材が、既存企業に固定され、顕在化しにくい、(3)ベンチャー企業を支援する専門スタッフの層が薄い、といったベンチャー企業が生まれにくい社会経済的風土があるとされている。

 こうした状況を打開し、起業を支援するため、新規事業実施円滑化臨時措置法、中小企業創造活動促進法、中小企業労働力確保法などにより、資金面、人材面、技術面で、公的のみならず民間団体によっても、様々な措置が採られている。しかし、これらの支援策は複数の省庁にまたがって実施されているとともに、類似する内容の支援策が複数の省庁にまたがるなど、利用者側から見ると、わかりにくく利用しにくいものになっている。また、支援制度自体は、一応、計画段階から創業を経て、株式公開に到る企業の成長ステージ全体をカバーしている。しかし、様々な支援策を実際に利用できるのは、ある程度成長を遂げてきた企業に限定されるのが現実である。

 したがって、創業当初の資金手当の多様化(新たに起業しようとする人に投資の形で資金を提供するファンドであるベンチャーキャピタルの育成、同様の個人投資家であるエンジェルの出現を促すことなど)を図る等、計画段階、創業段階における支援をもっと手厚くすることが課題である。特に、来るべき高齢社会の下で、高齢者が経験を活かして生き生きと活躍できる社会を作るには、高齢者の起業意欲を高めるための環境整備を図るべきとの指摘があった。

(6) ボランティア活動の場の形成

 平成七年一月に起こった阪神・淡路大震災を契機として、ボランティア活動の意義が急速に社会に認識されるようになった。ボランティア活動は、雇用の場以外における、自己実現・社会参加・能力発揮の場として、我が国社会で大きなウェイトを占めるようになってきている。

 ボランティア活動を活発にしていくためには、リーダーを生み出すことと、活動に参加する人の裾野を広げることが必要である。そのために、(1)地域の課題を解決するための裁量権を市民・住民に委譲し、責任を分担する体制をつくりあげる、(2)活動内容に関する情報の提供や活動の魅力を伝える広報体制を整備し、活動に参加するきっかけづくりを積極的に行う、などのことが求められる。

 ボランティア活動を活発にしていくことに資するため、特定非営利活動促進法が制定され、平成十年十二月から施行されている。この法律により、一定の要件を満たす非営利の団体は簡易・迅速な方法で法人格が付与されるようになった。平成十一年五月二十一日現在、同法による設立認証申請受理件数は累計で五百九十一件であり、このうち二百五件が認証されている。

 この法律では施行後三年以内に検討を加えることになっているが、その検討に当たっては、制定の際要望の強かった税の優遇措置について結論を得ることが望まれる。また、現在十二に限定されている法人格を与える活動分野を拡充することも検討する必要がある。

 また、今後はNPO(民間非営利団体)が、新しいサービスの提供体としてその役割を高めるとともに、福祉や教育といった分野で新たな雇用を創出することが期待されている。

(7) 自立した消費者

 価値観が多様化しているなかで、個々の取引は市場原理に任せるという改革が進められている。市場原理を尊重するということは、政府の関与をなくして、事業者と消費者が対等の立場に立って自主的に取引を行うことである。その際、消費者の自己責任という問題が重要になってくる。

 消費者が自己責任を負えるようにするには、消費者が自主的・合理的に判断し、行動できる環境を整備することが必要になる。この環境の整備のために、(1)消費者が自発的に意思決定できるよう、事業者から消費者に情報を提供させ、事業者と消費者の間の情報の非対称性を解消すること、(2)消費者の判断能力を超える範囲については、消費者が安心して取引ができるよう、事業者が商品の安全性や取引の適正な内容の確保を図るようにすること、(3)公正な取引を実現させるためのルールを明確にして、事業者・消費者双方の自己責任の範囲を明らかにすることが課題となる。

 以上のことを進めるため、製造物責任法が制定され被害者の立証責任の軽減が図られている。また、現在、政府において消費者契約法(仮称)の検討が行われている。早急に結論を得て、消費者が安心して、公正な取引を実現するためのルールの明確化が課題となっている。

V 今後の調査課題

 今日の我が国は、急速な少子・高齢化が進行しており、その克服が大きな課題となっている。

 高齢化については、本調査会の前身である国民生活・経済調査特別委員会時代から、「高齢化社会」をテーマとする等調査を行ってきた。特に、平成五年設置の調査会では、「本格的高齢化社会への対応」のテーマの下で精力的に調査・検討を行い、それまでの集大成として「高齢社会対策基本法」を取りまとめ、平成七年に調査会提出の法律案として成立している。

 他方、少子化については、深刻な問題として広く耳目を集める契機となった平成元年のいわゆる「一・五七ショック」以前の昭和六十一年において、すでに「出生率の動向と対応」をテーマとして調査を行っている。また、昨年度においても、子育て支援についても調査し、提言が行われたところである。

 昨年八月からの本調査会においては、少子化についても重要な調査事項として取り上げてきた。これまでの調査で明らかになったように、少子化は家庭、地域社会、職場の在り方といった経済社会の様々な面に影響を与えている。

 したがって、今後の本調査会の課題としては、少子化社会に関する基本法制の検討を含め少子化そのものへの対策の検討を深める必要がある。同時に、過去二十数年に及ぶ少子化の結果が社会に及ぼす影響を放置するわけにはいかず、教育、雇用、社会保障等の社会システムの在り方を検討することも必要である。

 少子化に関連する様々な問題は、省庁の枠を超えた総合的な取組を必要としており、中長期的に大局的な見地から、国政の基本的在り方を検討し、その解決方策を見出していく必要がある。こうしたことは、まさに本調査会に課せられた責務であるといえよう。


参考

二、調査会委員名簿

(一)報告書提出日(平一一・八・四)における委員
会長 久保  亘 理事 長峯  基 理事 成瀬 守重
理事 前川 忠夫 理事 山本  保 理事 畑野 君枝
理事 日下部 禧代子 理事 阿曽田 清 理事 松岡 滿壽男
委員 金田 勝年 委員 岸  宏一 委員 斉藤 滋宣
委員 田中 直紀 委員 中原  爽 委員 日出 英輔
委員 松村 龍二 委員 三浦 一水 委員 平田 健二
委員 堀  利和 委員 円 より子 委員 藁科 滿治
委員 沢 たまき 委員 但馬 久美 委員 西山 登紀子
委員 清水 澄子
(二)平一〇・八・三一~一一・八・四までに当調査会に所属したことのある委員((一)の委員を除く)
理事 輿石  東 理事 平田 健二 委員 石川  弘
委員 国井 正幸 委員 小川 敏夫 委員 輿石  東
委員 齋藤  勁 委員 竹村 泰子 委員 前川 忠夫
委員 松 あきら 委員 山下 栄一


三、調査会の活動状況(平一〇・八・三一~一一・八・四)

調査項目・少子化への対応と生涯能力発揮社会の形成

(1) 調査会

第百四十四回国会

○ 平一〇・一二・七

 経済企画庁・厚生省から説明聴取・質疑

(政府委員)

経済企画庁国民生活局長  金子 孝文 君

経済企画庁総合計画局長  中名生 隆 君

厚生大臣官房総務審議官  真野  章 君

厚生省児童家庭局長    横田 吉男 君

第百四十五回国会

○ 平一一・二・三

 総務庁・文部省・厚生省から説明聴取・質疑

 (政府委員)

総務庁長官官房審議官    大坪 正彦 君

文部省生涯学習局長     富岡 賢治 君

文部省初等中等教育局長   辻村 哲夫 君

文部省体育局長       遠藤 昭雄 君

厚生省児童家庭局長     横田 吉男 君

 (説明員)

厚生省児童家庭局企画課長  星野  順 君

○ 平一一・二・一〇

 経済企画庁・文部省・厚生省・労働省から説明聴取・質疑

 (政府委員)

経済企画庁国民生活局長   金子 孝文 君

文部省生涯学習局長     富岡 賢治 君

厚生省老人保健福祉局長  近藤 純五郎 君

労働大臣官房政策調査部長  坂本 哲也 君

労働省職業能力開発局長   日比  徹 君

 (説明員)

厚生大臣官房審議官  堤  修三 君

○ 平一一・二・二四

 参考人から意見聴取・質疑

 (参考人)

  『家庭・社会環境の変化と学校を中心とした教育の現状と課題等』

千葉大学教育学部教授  明石 要一 君

  『現代の子どもの心の変化と健全育成上の課題等』

愛知学院大学情報社会政策学部教授  二宮 克美 君

○ 平一一・三・三

 参考人から意見聴取・質疑

 (参考人)

  『子どもを取り巻く現状及び心の健全育成上の課題等』

 国立精神・神経センター精神保健研究所所長  吉川 武彦 君

全国養護教諭連絡協議会会長・東京都立小平高等学校養護教諭  佐藤 紀久榮 君

  『現代の子どもが置かれた社会的状況と子どもの健全育成を図るための課題等』

ジャーナリスト  西山 明  君

 派遣委員の報告

○ 平一一・四・一六

 参考人から意見聴取・質疑

 (参考人)

  『少子化の進展が経済社会に与える影響と対応策』

中央大学経済学部教授  大淵  寛  君

  『非婚化・晩婚化の経済的、社会的、心理的要因』

東京学芸大学教育学部助教授  山田 昌弘 君

  『家族をめぐる社会環境の変化と少子化対策』

桜美林大学国際学部教授  舩橋 惠子 君

○ 平一一・五・一二

 参考人から意見聴取、参考人及び政府に対する質疑

 (参考人)

  『不妊治療の実態』

昭和大学医学部教授  矢内原 巧 君

 (政府委員)

厚生省児童家庭局長  横田 吉男 君

厚生省保険局長  羽毛田 信 吾 君

 各委員意見表明

  •  長峯  基 君(自由民主党)
  •  円 より子 君(民主党・新緑風会)
  •  山本  保 君(公明党)
  •  畑野 君枝 君(日本共産党)
  •  日下部 禧代子君(社会民主党・護憲連合)
  •  阿曽田 清 君(自由党)
  •  松岡 滿壽男 君(参議院の会)

 委員相互間の意見交換

○ 平一一・六・二

 中間報告書(案)について委員相互間の意見交換

○ 平一一・八・四

 中間報告書の提出を決定



(2) 委員派遣

第百四十五回国会

調査目的―教育、雇用及び福祉等国民生活・経済の諸問題に関する実情調査

派遣委員― 会長 久保  亘 理事 長峯  基 理事 成瀬 守重
理事 前川 忠夫 理事 山本  保 理事 畑野 君枝
理事 日下部 禧代子 理事 阿曽田 清 理事 松岡 滿壽男
委員 松村  龍二 委員 円  より子

派遣地―鹿児島県及び宮崎県

視察先―株式会社鹿児島頭脳センター、鹿児島県工業技術センター、鹿児島大学地域共同研究センター、鹿児島県女性就業援助センター、鹿児島県立霧島自然触れ合いセンター、社会福祉法人光輪会橘保育園及び橘デイサービスセンター(併設施設)、清武町立大久保小学校、宮崎大学地域共同研究センター、宮崎大学生涯学習教育研究センター、宮崎職業能力開発促進センター等

派遣期間―平一一・二・一七~一九