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行財政機構及び行政監察に関する調査会

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行財政機構及び行政監察に関する調査報告(最終報告)(平成10年6月3日)

まえがき

 参議院行財政機構及び行政監察に関する調査会は、第百三十三回国会召集日の平成七年八月四日に設置され、「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」をテーマとして、鋭意調査を進めてきた。その結果、平成九年六月九日に、本院にオンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置することを内容とする報告書を議長に提出し、第百四十一回国会における国会法改正案等の成立を経て、第百四十二回国会召集日の平成十年一月十二日から行政監視委員会が設置された。

 三年目の活動については、前記テーマの下で、新たに「政策等の評価制度」について、政府からの説明聴取及び参考人からの意見聴取並びに調査会委員間の自由討議を通じて調査を進めてきた。その結果、今後の政策等の評価の重要性にかんがみ、必要と思われる事項について本調査会として意見を集約し、提言として取りまとめた。

 ここに三年間の調査を終了するに当たり、二年目の中間報告に係る提言が既に実現をみていることから、三年目の調査活動に関する報告をもって最終報告とし、議長に提出するものである。

目次

第1 調査会の調査の経過

 参議院行財政機構及び行政監察に関する調査会は、平成七年六月一日に議長に提出された「参議院改革協議会報告書」の答申に基づき、第百三十三回国会召集日の同年八月四日に設置された。

 三年間の調査テーマは、理事会等で協議を重ねた結果、国民の多様なニーズへの的確な対応を目指した立法府と行政府の新たな関係を模索する必要があるとの観点から、「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」と決定し、鋭意調査を進めてきた。

 一年目は、主として行政監察等に視点を置いた基礎的調査を進め、現行の行政監察制度等の実情と問題点、オンブズマン類似・関連制度等について、総務庁を始めとした関係省庁から説明聴取を行うとともに、学識経験者等からの意見聴取を行った。さらに、一年目の締めくくりとしてそれまでの調査を踏まえ、調査会委員間の自由討議により今後の調査会の方向性と課題について議論を行った。その際、国会と行政は緊張関係を持つべきであり、そのために行政を常時監視する委員会、あるいはオンブズマンを新設すべきであるとの意見が述べられる一方で、新たな機関を設置するよりも、請願処理方法を改善したり、既存の常任委員会等において、政府部内監察の利用及び国政調査権の積極的な活用を図るべきであるとの意見も出された。同時に、議会による行政監視の在り方を検討するに当たっての参考として、諸外国の実態も調査すべきであるとの意見もみられた。

 そのため、二年目の調査は、まず、本調査会長を始めとする五名の調査会委員が参議院の特定事項調査議員団として海外に派遣される機会をとらえ、イギリス、ドイツ及びフランスの三か国において議会によるオンブズマン等行政統制の調査を行った。また、国政調査権及び請願制度について、学識経験者等からの意見聴取を行った。

 他方、本調査会の調査活動は当初は三年間で結論を出す予定で進められていたが、本調査会に対しては、参議院改革における第二種常任委員会の見直しに当たって、実効性のある報告を提出することが期待されていた。また、金融不祥事を始め、本調査会発足後に発覚した薬害エイズ問題や高級官僚の不正な利益取得事件等により、国会が行政に対して監視・監督・統制を強めるべきであるとの世論が強くなってきた。そこで、本調査会は、三年を待たずに早い時期に結論をまとめることとし、これまでの調査を踏まえ、調査会委員間の自由討議を重ねた。

 その結果、一部の調査会委員からは委員会方式では国民の期待にこたえる行政監視ができないとの意見が出されたものの、大方の調査会委員からは、参議院は第二院として行政に対する監視機能をより強く発揮すべきであり、そのためにも議員自らが活動し得る行政監視等のための新たな常任委員会を早期に設置すべきであるとの意見が出された。そこで、この意見に基づいて「行政監視等のための機関についての試案」を作成し、議論を深めた。そして、最終的には、「オンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置する」という調査会長案を取りまとめるとともに、調査会長案の立法化に係る措置について議長に要請した。

 折から、参議院においては委員会再編を中心とした参議院改革の実現に向けての努力が行われていたが、第百四十一回国会において、委員会の再編と本調査会が提言した行政監視のための第二種常任委員会を設置することを内容とする「国会法の一部を改正する法律案」及び「参議院規則の一部を改正する規則案」が提出され、可決、成立した。

 その結果、平成十年一月十二日に召集された第百四十二回国会から参議院に行政監視委員会が設置され、精力的な委員会活動が期待されている。

 調査二年目に一定の結論をまとめたことから、三年目の調査課題について理事会等で協議を行った結果、三年間の調査テーマ「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」のうち、近時注目されている「政策等の評価制度」について調査を進めることとした。

 まず、行政府における評価制度に関する実態を把握するため、平成十年二月二十五日、総務庁から評価の視点に立った行政監察の実施状況について、建設省から公共事業に関する評価の取組状況について、それぞれ説明を聴取した後、質疑を行った。

 次いで、同年三月十一日、岡山大学経済学部助教授山本清氏、東京大学大学院経済学研究科教授金本良嗣氏及び社団法人経済団体連合会常務理事中村芳夫氏の三名の参考人を招き、山本参考人及び金本参考人からは評価制度の意義及び内容並びに評価体制の在り方等について、中村参考人からは同年一月十三日に経団連がまとめた公共事業の構造改革のための評価制度の必要性について、それぞれ意見を聴取し、調査会委員との意見交換を行った。

 参考人からは、情報公開やアカウンタビリティ確保のためにも政策等の評価は重要な要素となること、客観的な評価を確保するために第三者評価機関の設置が必要となること、公共事業適正化の方策としては、審査・優先順位づけ、執行及び評価・見直しのルール化が必要である等の意見が述べられた。

 このような評価制度に対する政府側の取組状況や参考人からの意見を踏まえ、同年五月十一日、最終報告に向けて調査会委員間の自由討議を行った。

 この自由討議では、行政に対する国民の根強い不信を踏まえ、評価は国民一般のために行うものであるということを基本に定めておく必要がある、我が国において政策評価を制度化するに当たっては、評価制度に取り組んできたアメリカにおける進捗状況、評価部門の設置や専門家育成等に伴うコスト増等の問題を考慮に入れて検討する必要がある、国会の行政監視機能の充実のため、現在審議中の「中央省庁等改革基本法案」による行政府の評価結果を参議院行政監視委員会等に報告させることを政府に義務づける制度を設けるべきである、評価スタッフの養成・確保は必ずしも内部スタッフにこだわることなく、民間のシンクタンク等の活用を積極的に図るべきである等の意見が述べられた。

 これらの意見を踏まえ、理事懇談会で協議を行った結果、行政府及び立法府において、政策等の評価に取り組んでいくに当たり必要と思われる事項について、本調査会として意見を集約し、提言として取りまとめた。

 このほか、行政監察の勧告等の措置状況を調査するため、神奈川県及び千葉県において視察を行った。

第2 調査会の調査の概要

一 政策等の評価制度

1. 政府からの説明聴取及び主な質疑

 平成十年二月二十五日、政策等の評価制度のうち、評価の視点に立った行政監察の実施状況について総務庁から、公共事業に関する評価の取組状況について建設省から、それぞれ説明を聴取した。その概要は、次のとおりである。

総務庁

 行政監察においては、合目的性、合規性、経済性・効率性、有効性、公正性、透明性等の具体的視点に立って監察実施計画を策定し、実地調査、民間との比較分析、コスト分析等様々な調査手法、分析評価手法を、問題の内容に応じて適切に組み合わせてデータを収集、分析し、問題点や改善すべき事項を実証的かつ的確に把握することに努めている。このような努力の結果に基づき、改善方策を各省庁に勧告することによって、行政の制度、施策、組織及び運営の全般にわたって改革・改善を推進しているところである。また、勧告後は、その実効性を担保するために、措置状況の報告を受けるとともに、改善措置が不十分な場合は更に改善を促している。

 平成九年十二月の行政改革会議最終報告では、政策の効果について、事前、事後に、厳正かつ客観的な評価を行い、それを政策立案部門の企画立案作業に反映させる仕組みの充実・強化が求められており、そのために、各省における評価機能の強化とともに、全政府レベルの評価機能の充実・強化の必要性が指摘されている。今後は、同報告で示された課題に適切に対応できるように、必要な準備を進めていかなければならないと考えている。

建設省

 公共事業の効率的・効果的実施を図るため、重点化、効率化、計画・実施過程の透明化及び関係省庁との連携のための施策を講じているところである。そのうち公共事業の計画・実施過程の透明化を進める観点から、費用効果分析の実施、事業採択基準の公表、再評価システムの構築等について、積極的に取り組んでいる。

 建設省又は建設省関係公団が実施する大規模公共事業については、新たに計画を策定する場合や計画策定後長期間が経過して社会経済情勢が変化した場合に、ダム・堰事業は、事業ごとに知事が選任する委員で構成される審議委員会を設置し、高規格幹線道路は、知事から意見を聴取し、計画の見直し等に反映させる総合的な評価システムを平成七年度から導入している。

 費用効果分析については、平成九年度の道路事業、流域下水道事業等の主要事業における新規箇所採択に際して費用効果分析を試行し、その他の事業については費用効果分析手法の開発に取り組んだ。今後は、各事業ごとに行っている分析手法に相違があること、貨幣価値で測定し難い環境改善の効果に関する問題、予測の不確実性の問題、分析結果公表の統一指針がないこと等から生ずる混乱を回避し、費用効果分析の信頼性、実施過程の透明性を確保する必要があると考えられる。このため、各事業ごとに費用効果分析を行うに当たっての一般的留意事項、分析手法、分析結果の公表方法、使用する基本的数値等統一的ルールづくりを目的として、平成九年十月に学識経験者を交えた「社会資本整備に関する費用効果分析検討委員会」を省内に設置して検討を行っており、平成十年度中に統一指針の策定を図る予定である。

 事業採択基準については、事業の効率性、必要性等にポイントを置いて、投資効果を最大限発揮させるとともに、より一層の透明性を確保するため、事業採択に係る評価指標(案)を作成・公表することとしている。例えば、道路事業については、平成九年度に引き続き、平成十年度の事業採択について、費用効果分析を含めた「客観的評価指標(案)」を用いた評価を試行的に実施し、この評価結果を踏まえ、平成十年度の予算枠、平成九年度の完成箇所数、地域固有の状況等の諸要素を総合的に考慮して、事業採択を決定する仕組みになっている。

 さらに、平成九年十二月に、橋本内閣総理大臣が公共事業関係大臣に対し公共事業における新たな「再評価システム」の導入を指示したのを受けて、既に実施してきた大規模公共事業に関する総合的な評価システムの実績を踏まえつつ、更に公共事業の透明性等の一層の向上を図る観点から、検討委員会を省内に設置し、平成十年三月末を目途にシステムの構築を図ることとしている。

 こうした政府からの説明を踏まえ、総務庁及び建設省に対し質疑を行った。その概要は、次のとおりである。

  1. 行政分野への評価制度導入が求められている背景としては、これまでの行政が法律の制定や予算獲得等に重点が置かれ、その効果や社会経済情勢の変化に基づき政策を積極的に見直すといった評価機能が軽視されがちであったことが挙げられる。
  2. 行政改革会議最終報告で指摘された評価・監視機能の十全な発揮のために、総務庁はその趣旨実現に向けての対応を考慮すべきである。
  3. 政策評価はある意味では法律評価であり、予算評価である。そのため、行政執行に関する監察を含めた評価を行う場合、政府の一部局ではない独立した行政機関が行う必要があると考えられる。
  4. 公共事業に対する評価は、現状では事業の事前、途中での評価が中心であり、事後の評価は遅れている。次の政策にフィードバックさせるためにも事後評価に積極的に取り組む必要がある。
  5. 公共事業の再評価は国民的立場からの判断が必要であり、そのためにも再評価は第三者機関が行うことが望ましい。
  6. 費用便益分析に当たっては、数値化しやすい項目を中心に便益計算がなされているが、より適正な分析を行うためにも、数値化しにくい項目やマイナスの便益も考慮に入れて算定することを心掛けるべきである。
  7. 行政監察をより評価に近づけるためには、監察の視点について、適法性、合規性よりも効率性、有効性に重点を置いていく必要がある。
  8. 政府部内の自己改善機能としての役割を更に果たすためには、行政監察局の法律的権限の強化を図ることも考えていく必要がある。

2. 参考人からの意見聴取及び主な意見交換

 平成十年三月十一日、政策等の評価制度について、参考人から意見を聴取したが、その概要は、次のとおりである。

岡山大学経済学部助教授  山本 清 氏

 評価とは、ある事象や事物の価値あるいは質を判定することであり、どのような物差しで測定するのかという要素と測定された値をどのような価値基準で判定するのかという要素から成り立っている。したがって、評価を行うに当たっては、基本的に評価者の主観的要素が常に介在せざるを得ないということを認識しておく必要がある。

 最近評価が重視されるようになってきた背景としては、第一に、行政の専門化・複雑化により、行政責任の所在が不透明になってきていることから、アカウンタビリティ連鎖の修復が求められていること、第二に、現在の政府部門におけるマネジメントサイクルにおいて、評価を行うことによりその完結を目指す必要があること、第三に、今後我が国が独自の政策を行う場合、成果の段階で評価を行い政策の効果を検証することにより不確実性への対応を行う必要があることの三点が挙げられる。

 評価の視点としては、公的部門では、経済性(Economy)、効率性(Efficiency)、有効性(Effectiveness)の3Eの視点に加え、公正、信頼・安定といった公共価値を重視する必要がある。また、不確実性の高い政策については、事前に因果関係が不明であり、適応的な政府・学習する政府が必要であることから、診断的(Diagnosis)、システム設計の改訂(Design)、改定案の実施(Development)という3Dの視点が必要になってくる。

 今後の我が国の政策評価制度の在り方について立法府としては、まず行政府による政策評価を法律で義務づけ、政策評価のための一定の予算を確保する必要がある。そして、行政府による政策評価で足りない部分について、立法府、特に参議院は六年間という任期の特性をいかして、再チェックを行うことが重要となる。一方、行政府においては、長期的なトレンドでの政策評価と並行して、毎年度モニタリングを行い、政策効果を監視する手続をとるべきである。そのための前提条件としては、評価マニュアル・審査制度の確立、評価研究の推進、評価スタッフの養成が必要となる。

東京大学大学院経済学研究科教授  金本 良嗣 氏

 評価は、すべての政府活動が対象となるが、当面重要なのは、公共部門の組織形態と制度設計、国民の負担に見合った社会的便益があるかどうかという観点からの公共支出を伴う政策、民間活動の規制政策の三つである。

 評価を行う際の基本理念としては三つある。第一は、政府活動の顧客としての国民の立場に立った便益と費用の総合評価である。第二は、政府における競合・競争関係のチェック・アンド・バランスをどのように機能させるかということであり、評価・監視の在り方としては、総務庁行政監察局、会計検査院、国会のほかに、大学等の第三者機関も含んだ形での複線的な体制が必要である。第三は、透明性の確保である。これは、チェック・アンド・バランスの有効性確保や政策立案機能において競争原理が働くシステムの確立という点からも重要である。

 評価・監視の意義は、政府活動のパフォーマンスを評価するということである。その仕組みを考えるに当たっては、我が国では各省庁の独立性が強いことから、省庁横断的な機能を有する評価に関する一般的なガイドラインを設定する必要がある。また、評価が政策のプロセスの中で行われ、各時点での評価が国民に明らかにされることにより、様々な形で議論がなされることが重要である。そのためには、プロセスにおける評価のタイミングと情報を公開するタイミングをうまく制度設計する必要がある。

 以上のことを実現するためにも、当面は、組織形態と制度設計、公共投資の費用効果分析、規制政策に関する規制インパクト分析について評価のガイドラインを設定し、監視を行う第三者機関を政府部内に設置する必要があると考える。

社団法人経済団体連合会常務理事  中村 芳夫 氏

 現在、政府の債務は五百三十兆円にも上り、財政状況は非常に厳しい状況にある。そのため公共事業については、従来以上に重点化と効率化という構造改革が求められている。

 イギリスでは公共事業に関する新しい基本理念として、PFI(Private Finance Initiative)を導入し、公共事業改革に成功を収めた。その背景には、行財政改革に関する基本理念として市民憲章(Citizen's Charter)を定め、その中で「租税に対して最も価値あるサービスを提供する」(Value for Money)という考え方を明確に打ち出したことがある。我が国においても政府は、まず行財政改革と公共事業改革の基本原則を示すことが不可欠である。

 公共事業の構造改革を進めるためには、費用便益分析等の手法を活用した審査・優先順位づけを行うプロセス、規制緩和を進め徹底した効率化を図っていく執行のプロセス、第三者機関による評価・見直しのプロセスのそれぞれについて、情報公開を通じて透明性を確保する必要がある。

 公共事業改革の具体的な方策としては、第一に、公共事業の中期方針を政府が定め、国会の承認を受けること、第二に、公共事業の評価・監視を行う第三者機関を設置し、費用便益分析に関する統一的なガイドライン、執行を効率的にするための業務・運営方針及びプロジェクト評価についてのガイドラインの策定を行うことである。また、時の経過を踏まえ、施策の必要性や妥当性を再点検・再評価するために「時のアセスメント」を国レベルに導入することも必要である。

 公共事業の評価・監視を行う第三者機関にあっては、基本的には、大規模なプロジェクトを取り上げ、総務庁行政監察局等の協力を得ながら評価を行い、その評価結果を政府に提出するとともに、国民にも公表することとする。

 以上のような公共事業の適正化のプロセスは、その手続を法制化し、法律遵守の監視についても第三者機関が行うことが望ましい。

 こうした参考人の意見を踏まえ、調査会委員と参考人との意見交換を行ったが、その概要は、次のとおりである。

  1. 政策の評価は政府自らがまず行うことが必要である。また、評価基準については国会で決めることが望ましい。
  2. 政策形成や予算編成過程に事前評価をシステム的に組み込むことが望ましい。欧米諸国のように、法律によって義務づけたり、予算査定作業に第三者を関与させたりするシステムが考えられる。
  3. 政策の評価はアカウンタビリティの観点から行われるべきであり、それは単に説明だけで済まされるものではなく、情報提供の内容に誤りがあった場合には責任を伴うという厳しい概念としてとらえる必要がある。
  4. 評価には主観的要素が介在せざるを得ないが、その弊害としては、評価者が政策の受益者をどのようにみなすかによって評価の範囲が変わってしまうこと、費用効果分析においてプラスの成果だけを評価してしまうこと等が挙げられる。
  5. 社会福祉や教育などの数量的評価が困難な政策については、国民を顧客と考えてコスト情報、サービスの質に関する情報を提供して満足度調査を行うことなどにより、客観的で公平な評価方法の確立が可能となる。
  6. 評価のための第三者機関は、すべての分析・評価を行うのではなく、行政庁が行った評価結果のチェックや評価実施に関する整合的なガイドラインを設定する機能を果たすことでもよい。
  7. 立法府として行政統制の役割を果たすために、国民の関心の高い政策についての評価を政府に義務づけ、その評価結果報告について参議院の行政監視委員会等がレビューしていくことも考えられる。
  8. 立法府が行政をチェックし、政策を評価する場合、情報の開示・公開が非常に重要であり、また、その内容について、国民が的確に理解・判断できる評価結果を提供するシステムの確立が必要である。
  9. アメリカのGAOのようなプログラム評価に係る機能を我が国の会計検査院に果たさせるためには、その結果を利用するクライアントが必要であり、国会が会計検査院法第三十条の二によって検査要求を行うことも一つの方法である。
  10. 公共事業のプロジェクト評価は、行政機関の協力を得ながら立法府において行われるべきであり、そのプロセスを法制化することが必要である。
  11. 主要な公共事業について、評価の対象となる効果のプラスマイナスを明確にさせるとともに、事業採択のための費用便益比の水準を行政庁の裁量にゆだねないことが、立法府としての重要な機能である。
  12. 立法府のみならず行政府においても評価スタッフの養成が求められる。その場合、自前でスタッフを養成するほか、中立性を担保するような倫理憲章や倫理規程を備えた専門職団体の養成なども政策的課題となる。

3. 調査会委員間の自由討議

 政府からの説明聴取及び参考人からの意見聴取を踏まえ、最終報告に向けて、政策等の評価制度についての調査会としての意見集約のため、平成十年五月十一日、調査会委員間における自由討議を行った。そこで述べられた意見の概要は、次のとおりである。

  1. 行政に対する国民の根強い不信を踏まえ、評価は国民一般のために行うものであるということを基本に定めておく必要があり、評価手法については、分かりやすく、具体的であるべきである。
  2. 我が国において政策評価を制度化するに当たっては、評価制度に取り組んできたアメリカにおける進捗状況、評価結果が独り歩きするおそれ、評価部門の設置や専門家育成等に伴うコスト増等の問題を考慮に入れ、検討を進めるべきである。
  3. 評価制度に係る基本的な課題としては、民間におけるQC(Quality Control)導入の成果に習い、行政事務においても標準化に取り組むとともに、情報公開制度の推進を図るべきである。
  4. 評価は、まず行政自らが行うべきであり、可能な限り事前、途中、事後の各段階で行われることが必要である。特に事業等の期間が長期にわたる研究開発、大規模公共事業等については、節目節目に適時適切な評価が行われるべきである。
  5. 行政府における内部監査・評価については、その実効性を確保するため、監察・評価に係る評価部門の権限を強化する必要がある。
  6. 政策評価の実施については、会計検査院の検査の実態は経理的な面が中心となっており、また、総務庁行政監察局では行政評価を含めての政策評価は行う立場にないので、立法府及び行政府から独立した新しい機関を設ける必要がある。
  7. 評価のための第三者機関は、現在の会計検査院の在り方、総務庁の行政監察の在り方を見直して、一定の身分保障と権限を持った一個の組織として統合することも考えられる。
  8. 国会の行政監視機能充実のため、現在審議中の「中央省庁等改革基本法案」による行政府の政策評価結果を、参議院行政監視委員会等に対し、報告させることを政府に義務づける制度を設けるべきである。
  9. 議会における政策等の意思決定は、経済的側面、社会福祉的側面及び文化的側面等についてバランスがとれた評価を基に行い、併せて地域の特殊性をも考慮すべきである。
  10. 評価スタッフの養成・確保は、必ずしも内部スタッフにこだわることなく、民間のシンクタンク、コンサルタント等の活用も積極的に図るべきである。
  11. 日本の民間シンクタンクにおいては、財政基盤の観点から独立性が十分に確保されておらず、依頼者等の意向に沿った評価になりがちである。中立的な評価の実施が可能な民間シンクタンクを養成していくために、国会が調査を委託することにより、財政的に支援することも考えられる。

二 行財政機構及び行政監察に関する実情調査

 平成九年十一月六日、行政監察の勧告等の措置状況の調査のため、横浜港及び東京湾横断道路の視察を行った。

 平成六年二月に勧告が行われた「輸入促進基盤の整備等に関する行政監察」では、我が国貿易不均衡の是正が主要な政策課題とされ、輸入促進基盤の整備等を図る観点から、製品輸入促進のためのコンテナバースの整備等の必要性が指摘されており、横浜港南本牧地区で水深十五メートル級のコンテナバースの工事が進行中であったため、その整備の進捗状況を調査した。

 また、東京湾横断道路は、いわゆる民活の第一号事業であり、昭和六十二年に総務庁が「民活事業の実施状況に関する実態調査」を行っているが、供用開始を間近に控え、その状況を調査した。

第3 政策等の評価制度についての提言

 本調査会は、政策等の評価制度についての調査を踏まえ、行政府及び立法府において政策等の評価を行っていく上で必要と思われる事項について、次のとおり提言する。

一 行政府における政策等の評価制度の在り方
1. 効率的かつ効果的な政策等の企画・立案及び執行を確保するため、事前、途中、事後の各段階で分析・評価し、その評価結果を広く国民に提供するシステムの構築を図る必要がある。

 行政府は、その企画・立案し、執行する政策、施策等について、行政活動を負託した国民のため効率的で効果的に行われているのか、絶えず評価を行い、その結果を国民に明らかにする必要がある。しかし、我が国においては公共事業等の一部について評価が行われているだけであり、情報の公開・開示も十分とはいえないのが実情である。
 今後は、省庁横断的な総合的評価を含め、可能な限り全政府部門の活動について、事前、途中、事後の各段階で評価を適切に行い、その内容を国民に公開・開示するシステムの構築を図る必要がある。

2. 評価の客観性を確保するため、政策等の実施主体以外の第三者機関を通じた厳正かつ公正な評価を行うとともに、評価結果の提供に際しては、国民に分かりやすい内容のものであるよう努めなければならない。

 評価は評価者の主観的要素が常に介在せざるを得ないことから、その客観性を確保するために、評価の専門的知識を有する者を含む第三者機関による評価を通じた厳正かつ公正な評価の必要性が求められる。
 また、評価の目的の一つは、国民に対する情報の提供にあり、国民が理解しにくい内容であっては、国民へのアカウンタビリティを果たしたとはいえないことから、国民が的確に判断できるものであることが求められる。

3. 政策等の分析・評価に当たっては、マイナスの効果も考慮するとともに、数量的評価が困難な分野に対応するため、評価手法の調査研究に取り組む必要がある。

 政策等の評価においては、事業実施に伴い発生するプラスの便益のみを評価しがちである。しかし、ある政策を行う場合、プラスの便益だけではなく常にマイナスの便益も生じており、このようなマイナスの便益も考慮に入れて、分析・評価をより適切なものにしていく必要がある。
 また、数量的評価が困難な政策分野等についても、分析・評価が可能となるよう、例えば適切な情報に基づく聴取り調査等の評価手法の調査研究に取り組む必要がある。

一 立法府としての評価制度への関与の在り方
 立法府は、行政統制の役割を果たすため、行政監視委員会等を活用して、行政府が行った評価をチェックするとともに、行政府が評価し難い分野について評価を行っていく必要がある。その際、民間のシンクタンク、コンサルタント等の活用を図る必要がある。

 行政府が行った評価のチェックや政策の見直しなどの分析は、行政統制の役割を持つ立法府において行うべきである。この立法府の役割を果たすため、行政監視に関する事項を所管する行政監視委員会等において政策等の評価に取り組むことにより、議会における審議及び意思決定に役立てる必要がある。
 その際、行政監視委員会等がその役割を十分に発揮するためには、分析・評価に関する専門的知識が不可欠であり、民間のシンクタンク、コンサルタント等の活用について、予算措置を含め、積極的に取り組むことが必要である。
 なお、政府による評価結果等の国会への報告の制度化については、行政改革の進捗状況、評価の実施状況等を踏まえ、法制化の必要性も含め、報告対象となる評価の範囲、手続等について検討する必要がある。



参議院行財政機構及び行政監察に関する調査会委員(平成十年六月三日現在)

会長  井上   孝 (自由民主党)
理事  岡   利定 (自由民主党)
理事  佐々木  満 (自由民主党)
理事  吉川  芳男 (自由民主党)
理事  釘宮   磐 (民主党・新緑風会)
理事  大森  礼子 (公明)
理事  渡辺  四郎 (社会民主党・護憲連合)
理事  山下  芳生 (日本共産党)
理事  高橋  令則 (自由党)
 石渡  清元 (自由民主党)
 加藤  紀文 (自由民主党)
 上吉原 一天 (自由民主党)
 亀谷  博昭 (自由民主党)
 小山  孝雄 (自由民主党)
 武見  敬三 (自由民主党)
 宮澤   弘 (自由民主党)
 守住  有信 (自由民主党)
 小川  勝也 (民主党・新緑風会)
 萱野   茂 (民主党・新緑風会)
 藁科  滿治 (民主党・新緑風会)
 猪熊  重二 (公明)
 志苫   裕 (社会民主党・護憲連合)
 泉   信也 (自由党)
 山田  俊昭 (二院クラブ)
 堂本  暁子 (新党さきがけ)

(参考)

三年間の主な活動経過

 (一年目)

第百三十三回国会
平成七年 八月  四日 行財政機構及び行政監察に関する調査会設置
第百三十四回国会
平成七年十一月一日 当面、行政監察等に視点を置いて調査を行い、必要に応じ行財政機構についても調査を行うこととし、三年間の調査テーマを「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」に決定「現行の行政監察制度の実情と問題点」について、総務庁から説明聴取、質疑
十二月十三日 「行政不服審査等オンブズマン類似・関連制度」について、総務庁、労働省、経済企画庁及び通商産業省から説明聴取、質疑
第百三十六回国会
平成八年二月七日 「行政監察制度・行政相談制度及び類似・関連制度」について、参考人 早稲田大学政治経済学部教授 片岡 寛光氏、広島修道大学法学部教授 山谷 清志氏及び社団法人全国行政相談委員連合協議会会長 鎌田 理次郎氏から意見聴取、質疑
二月十四日 「地方自治体のオンブズマン制度及び監査制度等」について、参考人東海大学政治経済学部長 宇都宮 深志氏、立教大学法学部教授 新藤 宗幸氏及び全都道府県監査委員協議会連合会事務局次長呰上 一三氏から意見聴取、質疑

二月二十六日

       ~二十八日
行財政機構及び行政監察に関する実情調査のため、大阪府、兵庫県及び香川県に委員派遣
四月八日 地方自治体のオンブズマン制度及び監査制度の実情調査(川崎市役所)
五月二十三日 「新たな行政監視制度の法的課題」について、参考人慶應義塾大学法学部教授 小林 節氏、玉川大学文学部教授 川野 秀之氏、関西学院大学法学部教授 平松 毅氏及び東邦大学理学部教授 元山 健氏から意見聴取、質疑
五月三十一日 調査会の調査の方向性及び今後課題とすべき事項について調査会委員間の自由討議
六月十三日 行財政機構及び行政監察に関する調査報告書(中間報告)を議長に提出することを決定

 (二年目)

第百三十六回国会閉会後
平成八年七月十六日
~二十九日
「議会によるオンブズマン等行政統制」についての実情調査のためにイギリス、ドイツ及びフランスに議員派遣
第百三十九回国会
平成八年十二月十二日 「国政調査権及び請願制度」について、参考人 中央大学法学部教授 清水 睦氏、徳山大学学長 浅野 一郎氏、関西大学法学部教授 吉田 栄司氏及び前参議院外務委員会調査室長 辻 啓明氏から意見聴取、質疑
第百四十回国会
平成九年一月二十八日 調査会の今後の進むべき方向性について調査会委員間の自由討議
二月十七日
~十九日
行財政機構及び行政監察に関する実情調査のため、京都府及び奈良県に委員派遣
四月四日 「参議院における行政監視等のための機関についての試案」について調査会委員間の自由討議
五月九日 「参議院における行政監視等のための機関の設置について(案)」を調査会長案として提示、調査会委員間の自由討議を行い、大方の委員が了承
六月九日 行財政機構及び行政監察に関する調査報告書(中間報告)を議長に提出することを決定

 (三年目)

第百四十一回国会閉会後
平成九年十一月六日 行政監察の勧告等の措置状況に関する実情調査(横浜港、東京湾横断道路)
第百四十二回国会
平成十年二月二十五日 「時代の変化に対応した行政の監査の在り方」のうち、三年目の調査テーマを「政策等の評価制度」とすることとし、総務庁及び建設省から説明聴取、質疑
三月十一日 「政策等の評価制度」について、参考人 岡山大学経済学部助教授 山本 清氏、東京大学大学院経済学研究科教授 金本 良嗣氏及び社団法人経済団体連合会常務理事 中村 芳夫氏から意見聴取、質疑
五月十一日 「政策等の評価制度」について、最終報告に向けての調査会委員間の自由討議
六月 三日 行財政機構及び行政監察に関する調査報告書(最終報告)を議長に提出することを決定

行政監視等のための機関の設置についての調査会長案

オンブズマン的機能を備えた行政監視のための第二種常任委員会を設置する。

 新設する委員会は、参議院改革の一環として、参議院に期待される行政監視機能を向上させるためのものである。

 この設置目的を達成するため、委員会自らが積極的に国政調査権を活用する。調査に当たっては、総務庁が行う行政監察等を活用する。また、行政運営の不適切、怠慢などによって生じる苦情を内容とする請願を手掛かりとして調査を行うとともに、これらの請願の有効な処理を行う。

 こうした手段により、行政運営及び行政監察を点検し、その適正化を図る。

 具体的な所掌事項等は、以下のとおりである。

 所掌事項

(一)行政監視のための調査
委員会自らが積極的に国政調査権を活用することにより、行政監視に必要な調査を恒常的に行う。

(二)「行政監察計画」等についての調査
行政監察計画、行政監察の結果報告書・勧告、及び各省庁の内部監査に関し、調査を行う。

(三)苦情請願の審査
不適正行政に対する苦情を内容とする請願(苦情請願)を審査する。その際、委員会の意向を多様に反映させるために意見書を活用することにより、オンブズマン的な苦情救済の機能を発揮する。

(四)提案、勧告等
調査の結果、必要と認める事項について、決議の方式による提案、勧告を行うとともに、政策への反映を図る。

 調査スタッフ

 委員会が行政監視機能を十分に発揮するため、調査スタッフの充実・強化を図る。



参議院行政監視委員会設置に係る国会法、参議院規則改正

◯国会法の一部を改正する法律(平成九年法律第百二十二号)
国会法(昭和二十二年法律第七十九号)の一部を次のように改正する。
 (中略)
第四十一条第三項中第十三号を削り、第十四号を第十三号とし、第十五号を第十四号とし、同号の次に次の一号を加える。
十五 行政監視委員会
 附則
 この法律は、次の常会の召集の日から施行する。
◯参議院規則の一部を改正する規則(平成九年十二月十二日議決)
参議院規則の一部を次のように改正する。
第七十四条各号を次のように改める。
 (中略)
十五 行政監視委員会 三十人
1. 行政監視に関する事項
2. 行政監察に関する事項
3. 行政に対する苦情に関する事項 (以下略)
第七十四条の二中「決算委員」の下に「、行政監視委員」を加える。
 (以下略)
 附則
この規則は、次の常会の召集の日から施行する。
改正後の参議院規則第七十四条の二
議員は、同時に二箇を超える常任委員となることができない。二箇の常任委員となる場合には、その一箇は、国会法第四十二条第三項の場合を除き、予算委員、決算委員、行政監視委員、議院運営委員又は懲罰委員に限る。