事務局からのお知らせ

参議院60周年記念論文入賞者



私たちが夢見るこれからの日本

東京都 星美学園高等学校 2年
古山 愛子

 最近、従来にも増して陰惨な事件が増えているように思う。
 親が子を殺す、子が親を殺す、妻が夫を殺す、兄が妹を殺すなど何でもありで思い出したくもない事件が多い。
 また、動機も金目当ての強盗殺人や保険金殺人だけではなく、最近はいわゆるキレたというだけの理由で簡単に人を殺すケースも目立つ。
 このようなケースが増えている原因はどこにあるのだろうか。
 日本は戦後の高度成長期やバブル期を終え、その後のバブル崩壊に伴う企業倒産やリストラによる失業の増大を経験して、社会全体が暗くなり閉塞感が増した。
 高度成長期には、良い学校を出てよい会社に就職すれば、終身雇用が保証され、善し悪しはあるものの会社人間として、会社というファミリーの中で人生設計できる面もあった。
 ところが、バブル崩壊以降、企業は学生の新規採用はできるだけ抑えて、実務経験のある即戦力となる中途採用者や賃金の安い派遣社員や海外の安い労働力の比率を高めている。
 このため、努力しても仕方がないと最初から諦めてしまう者や、勝ち組と負け組という言葉が大きくなりすぎて、勝ち組でないと思った者が自暴自棄に走るケースも増えているように思う。
 企業が新卒採用を抑える理由は、企業のトップの考え方だけにあるのではなく、グローバル化というと聞こえは良いが、ある意味では弱肉強食色がより鮮明になった世界経済に組み込まれた日本経済の中で、企業のトップは自らの在任期間中の株主総会を乗り切るがための業績(企業収益)アップに汲々とせざるを得ない状況に追い込まれている。
 このため、目先の利益を得るために、時には粉飾決算に走ったり、最近の不二家のように賞味期限を改ざんするなど様々な法令違反を犯すケースも増えている。
 しかしながら、こういったケースが公けになると、数年前の米国エンロン社だけでなく、日本においても西武鉄道や不二家など、超大企業といえども一瞬にして企業生命を失う、或いは失いかねないケースも多い。
 これらは、当事者や多くの社員には大変不幸な出来事であるが、社会全体から長い目で見ると良いケースに転換させるキッカケにすることが出来るのではないかと思う。
 即ち、手先の器用な日本人が額に汗を流してモノを作るという江戸時代以前から最近では高度成長期頃まで続いた日本人の伝統的良さと強みが、ともすれば若者に軽く見られて、ホリエモンのようなヒルズ族が虚業で華々しく儲けることが持てはやされるという間違った世の中の風潮に一考を促すキッカケになればよいと思う。
 昨今、働き盛りの人の自殺者数が高止まりしているのは、最近の政策「痛みを伴う構造改革」が、企業に比べ社員に強いたリストラが原因のひとつではないかと思う。
 また、子供の学校の給食費やノート代でさえ払えないワーキングプア家庭が増えている。
 更に生活苦からやむにやまれず窃盗などの犯罪に走るケースが増えているとの報道もある。このような格差が拡大する社会が、私たちが夢見るこれからの日本の姿と言えるのであろうか。
 必死に無理を重ねて大企業のトップに上り詰めたあげくに、コンプライアンス違反で失脚したり有罪になる人もいる。
 一方で、たとえ収入は高くなくても、人から感謝されて自らの満足度も高い仕事をしておられる人もいる。
 人生の価値観は決してひとつではないということに気が付くチャンスである。
 目先の利益やホリエモン的価値観ではなく、人が人として尊重され、たとえ会社は潰れても人は潰れない、そういった思いやりのある社会や企業に少しでも近づくきっかけになればよいと思う。
 これまでの高度成長期を支えてこられた世代が引退され、日本は総人口に占める高齢人口(65才以上)の比率が年々高まっており、昭和45年に高齢化社会(高齢化率7%~14%)、平成6年に高齢社会(同14%~21%)、更には平成22年には超高齢社会(同21%~)となる見込みである。
 このため、税収不足、年金問題、医療費や介護費の増大など数多くの課題がある。 ただ幸いなことに、65才以上の高齢者の中には、若者以上にお元気に活躍されている方も多い。最近見たテレビで、聖路加病院の日野原先生が紹介されていた。95才なのに現役の医者であるだけでなく、講演や執筆で土曜日曜もなく毎日なんと18時間も仕事をされているとのことで大変感動した。また、身近なところでは私の祖母も87才なのに田舎で元気に百姓をしたり自転車に乗ったり、時には海外旅行にも行っている。
 高齢者の方にはゲートボールや旅行などの趣味の世界だけではなく、定年延長やボランティア活動などに活躍の場を広げていただければよいと思う。
 人の役に立つという実感こそが生きがいになり、高齢者ご本人だけでなく、日本社会全体のためになると思う。
 国や地方や企業は、このための制度作りや機会を創造すべきと思う。
 また、定年帰農という言葉も流行っているようであるが、食料自給率がますます低下している日本の農業を支えるために、高齢者が農村に向かいやすくするための農地法見直しなどの法整備やいわゆるムラ社会が高齢者を受け入れやすい仕組みも整備すべきであろう。
 高齢者にとって、定年帰農というのは選びやすい選択肢の一つだと思う。
 最近、オーストラリアから農産物貿易自由化の圧力が強まっているため、職業として農業収入で生計を立てるのが難しくなるかもしれないが、引退された世代が趣味と実益を兼ねて副収入を得る程度でも良いということであれば十分太刀打ちできるし、自給率アップにもつながる。
 以上のような日本社会の中で、長い目で見て自分も周りの人も本当に満足できるような思いやりのある社会にするために、果たして自分に何が出来るだろうか。
 目先の利益や安易な風潮に流されるのではないやり方として、将来自分は社会福祉の分野の仕事が出来ればよいと考えている。
 私の母も養護施設で働いており、母から話しを聞いたり、見学に行ったりして、大変良い職業という実感がある。
 人を出し抜いて利益を得るのではなく、人に感謝をされる仕事をして、しかもお金も貰えるような仕事に就ければすばらしいことである。今後ますます高齢化社会になる中で社会福祉分野で活躍できる機会は多いだろう。
 このため、社会福祉の分野を目指して勉強をしたい。
 また、ボランティア活動にも積極的に参加したい。
 養護施設にボランティアに行ったときに、まとわり付いてくる親のない子供たちの笑顔や目の輝きが忘れられない。ボランティア活動として参加したのに、逆に子供たちから元気を貰った。
 自分を必要としている子供たちに少しでも接することができたことは、お金で買えない大きな満足感が得られ、結局は自分のためになったと思う。
 これからの長い人生の中で、本当に大切なものが何か、私が夢見るこれからのより良い日本の姿を、ボランティア活動をしたり、学校の友人と話をしたり、良い本を読んだりして、今後じっくりと考えて行きたい。