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参議院60周年記念論文入賞者



OVER THE TOP
(今ある壁を乗り越えよう)

愛知県 愛知教育大学附属岡崎中学校 3年
山崎 悠

 15年という短い生涯で僕は素晴らしい一つのスポーツと出会った。ラグビーだ。このスポーツは人間の人生、良心、協力、勇気、精神力、判断力など多くのことを映し出していると感じる。
 僕の心に残っている出来事を二つ書きたいと思う。まず僕の体験したことだ。関西大会を懸けた静岡県スクール選抜との東海大会決勝戦。この試合に愛知県スクール選抜の選手として出場し、リードしていた時、相手がラインに展開し、フォローにはいっていた僕に突進してきた。もちろん僕はタックルにいく。相手がパスした後、まだ足にしがみついていた僕を彼は投げ飛ばしたのだ。僕がいつまでもしがみついていたのには訳があった。僕がしがみついて倒れなければレフリーが僕のタックルを成立したと見てくれない。ラグビーではタックルの成立と不成立には大きな違いがある。タックルが成立し、ディフェンス(このときの僕)とオフェンスの両方のプレイヤーが地面に膝を着いた時点でディフェンスは素早くプレーに戻らなければならない。そしてオフェンスはワンアクションを許される(ワンアクションとは味方にボールをパスするなど)。しかし不成立の場合、相手はボールを持ったままプレーを続行できてしまう。僕はレフリーへアピールしたのだ。少ししつこかったと思っている。勘違いされてもしょうがなかった。案の定相手が勘違いをし、熱くなり投げ飛ばしたのだろう。彼とはもちろん初対面。東海地区代表決定戦ということもあって相手も僕も熱くなっていた。この試合は僕達が勝ち、静岡は涙を呑んだ。ノーサイド(試合終了)の笛が鳴り、挨拶が終わった後、突然彼が僕に握手を求めに来た。
「すいませんでした。熱くなっていました。怪我は無いですか?関西、頑張ってください。」
「お互い熱くなれて良かったです。関西でも全力出します。良い突破力ですね。ありがとう。」
「まだまだです。そちらも良いタックルでした。ありがとう。」
 これが彼と話したことだ。なぜ試合中に敵だったのに相手と快く話ができたのか。それは僕と彼がラグビー精神を忘れていなかったからだろう。ラグビー精神とは何か。「ノーサイドの笛が鳴れば今まで戦っていた者が共にラグビーを愛する仲間になる」というものだ。これがもし別の競技であれば僕達二人は敵同士であり続け、憎みあったかもしれない。この体験で素晴らしい仲間が増え、大切な事を改めてラグビーに教えてもらった。
 「僕が夢見るこれからの日本」とはいじめの無い学校だ。いじめとは自分より弱いものにたいして、身体や心を攻撃する。誰もがいやなのに平成12年度、小学校では3531件、中学校では4606件のいじめが報告されている。高校や特殊教育諸学校を含めると9345件にも上る。これは年間の交通事故死にも匹敵する数だ。忘れてならないのは報告されないいじめが多くあるということだ。一説には10倍にも上ると言われる。約10万件だ。いじめを無くすにはぶつかることを恐れないことだと僕は思う。心と身体を、ラグビーをとおして鍛えてはどうだろう。
 多くのスポーツが危険を恐れて接触プレーを禁じているのに、ラグビーはぶつかり合いから始まる。激しいタックルを受けたりラックの中で相手に踏まれたりと痛さを我慢することばかりだ。こんなに痛いスポーツは無いだろう。練習で基礎を身につけた僕たちでさえ、全国大会ともなると捻挫や打撲は言うに及ばず骨折する仲間も出たほどだ。僕自身も顔を負傷して左目は青白く腫れ上がり、脳波の検査をしたほどだ。「危険で苦しいラグビーなんて止めたら。」と時々言われることもある。でもそれは違う。苦しいから楽しいのだ。楽しさだけが空中にプカプカ浮いていることはない。危険はトレーニングで鍛え体力と技術を身につければ軽減できる。なにより痛みを体験することで本当に人に優しくなれるものだ。もちろん大切な立ち向かう勇気が育つ。
 次は僕の仲間のことだ。僕達は中学校生活の最後を飾って、夏の関西大会出場の続き、冬の全国大会に出場した。舞台は高校生ラガーマンの夢の舞台である花園ラグビー場だ。僕は前の試合で目の横を打撲。そのうえ以前から痛めていた腰の具合もさらに悪くなったため、最後の試合はベンチ待機となった。僕の分まで暴れてくれ。仲間に伝えた。僕達は前半、風下だったせいかキックに伸びが無く、ほとんど自陣で試合を展開していた。2トライ2ゴール14点の差で前半を折り返した。僕の中では3トライ2ゴール19点を取って逆転となっていた。しかし風上でのミスキックが目立ち、相手にもトライを奪われた。結局この全国大会では勝ち星が無いまま終わってしまった。その試合の後、泣きながら帰ってきたキャプテンは僕に、
「今までありがとう。」
と泣きながら抱きついて来た。僕は何もプレーしていないのに…。試合後、1週間ほどして監督のホームページを見ると、みんながいっぱい全国大会の感想や仲間への感謝の気持ちを書き込んでいた。その後僕達の試合が記録されたCDが贈られてきた。今そのCDは僕の机の上にある。いつまでも色あせない僕たちの思い出として。
 僕の夢見るいじめの無い日本にするためには実は一つ条件がある。それは日本中の小中学校の校庭を天然芝で覆うことだ。人工芝はとても硬い。倒れると擦り傷、切り傷だけでなく、捻挫、脱臼などの大怪我も伴う。一方天然芝は柔らかく擦り傷、切り傷で大怪我もしにくい。文科省によると全国の体育施設は23万9660箇所。その21%が小中のグラウンド(多目的運動広場)だ。
 青々とした天然芝の上で僕達は全国大会出場を目指して、仲間と走り、転がり、ぶつかり合った。ラグビーでなくても良い。サッカーでも野球でもテニスでも、縄跳びでも鬼ごっこでも、缶けりでも…。木陰で本を読むだけでも良い。いじめの無い爽やかな空の下で柔らかな芝の上に腰を下ろして。